Category Archives: 解雇

解雇253 起訴休職期間満了を理由とする解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、起訴休職期間の満了を理由とする解雇が有効された裁判例を見てみましょう。

国立大学法人O大学事件(大阪地裁平成29年9月25日・労経速2327号3頁)

【事案の概要】

国立大学法人であるY社の歯学研究科の助教として勤務していたXは、平成24年4月5日、傷害致死の公訴事実により起訴されたことで、Y社の定める起訴休職制度に基づき休職処分を受け、その後、2年の休職期間が満了したことを理由に、平成26年5月2日付けで分限解雇となった。

本件は、Xが、①主位的には、上記解雇は無効であると主張して、Y社との間の雇用契約に基づき、同契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、身柄拘束を解かれた後である平成27年4月から本判決確定の日までの賃金+遅延損害金の支払を求め、②予備的に、Y社との間でXを再雇用させる旨の合意が成立していたのにこれに違反したと主張し、債務不履行に基づく損害賠償として、。平成27年4月から17か月分の賃金相当額+遅延損害金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 一般に労働者が起訴された場合、勾留等の事情により、当該労働者が物理的に労務の継続的給付ができなくなる場合があるほか、勾留されなかった場合でも、犯罪の嫌疑が客観化した当該労働者を業務に従事させることにより、使用者の対外的信用が失墜し、職場秩序の維持に障害が生じるおそれがある場合には、事実上、労務提供をさせることができなくなる。起訴休職制度は、このように、自己都合によって、物理的又は事実上労務の提供ができない状態に至った労働者につき、短期間でその状態が解消される可能性もあることから、直ちに労働契約を終了させるのではなくm、一定期間、休職とすることで使用者の上記不利益を回避しつつ、解雇を猶予して労働者を保護することを目的とするものであると解される。
以上のような起訴休職制度の趣旨に鑑みれば、使用者は、労務の提供ができない状態が短期間で解消されない場合についてまで、当該労働者との労働契約の継続を余儀なくされるべき理由はないから、不当に短い期間でない限り、就業規則において、起訴休職期間に上限を設けることができると解するのが相当である。
・・・以上の点に鑑みれば、起訴休職期間の上限を2年間とする本件上限規定は、合理的な内容(労契法7条所定の「合理的な労働条件」に該当するもの)であると認められる。

2 Xは、平成24年4月5日に傷害致死という重大な犯罪の嫌疑により、起訴され、勾留された状態が継続し、平成26年2月7日に保釈許可決定が出されて、一時、釈放されたものの、同月20日の一審判決の結果、再び勾留され、休職期間満了時も勾留されていたのであって、Y社に対する労務の提供ができない状態が継続していたこと、懲役8年の一審判決が出されたことにより、休職期間満了時以降も、少なくとも相当期間勾留が継続し、労務の提供ができない状態が継続することが見込まれていたこと、以上の点が認められ、これらの点に鑑みれば、以上のようなY社に対する労務の提供ができないXについて、降任、降格又は降給にとどめる余地がなかったことは明らかであって、Xについては、本件解雇時点において、Y社との「雇用関係を維持しがたい場合」にあったと認めるのが相当である。

3 Xは、本件解雇時において、実母に対する傷害致死の容疑で勾留され、Y社に対して労務の提供ができない状態が継続しており、一審において懲役8年の有罪判決を受けたことにより、その後も相当程度の期間、勾留が継続し、Y社に対する労務の提供ができないということが見込まれる状態にあったと認められる。また、本件解雇は、平成26年2月20日に宣告された懲役8年の一審判決から約2か月半後にされたものであるところ、その間に、控訴審の審理が行われるなどして、一審判決が破棄されることをうかがわせる新たな事情が生じたことを認めるに足りる的確な証拠はなく、Y社が同破棄を予見することができたとは認められない

ちなみに、Xは、刑事事件の控訴審において、平成27年3月11日、暴行罪により、罰金20万円の判決が言い渡され、釈放されています。

それゆえ起訴休職期間が争点となることは理解できますが、2年間という相当長期にわたる起訴休職の期間に合理性が認められることは争いがないのではないでしょうか。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇252 パソコンの故意による破損と懲戒解雇の相当性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、パソコン破損等に基づく懲戒解雇等無効地位確認請求に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人朝日新聞厚生文化事業団事件(東京高裁平成29年9月13日・労判ジャーナル69号38頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXがY社から本件懲戒処分を受け、平成28年3月2日付けで退職したことについて、本件懲戒処分は無効であると主張し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、解雇の日の翌日以降の賃金及び賞与の支払いを求めたところ、原判決は、平成28年3月分給与の支払請求の一部を棄却したほかは、全部認容したことから、Y社が控訴した事案である。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 本件行為は、故意に本件パソコンの液晶画面を破損したものであるから、本件就業規則72条1項2号、8号、11号及び13号に該当するものであり、また、XはAに対し、Aが本件行為の際に本件事務所にいなかったことにすること等を提案し、Aの了承の下で、Y社による事情聴取や本件顛末書において、上記提案のとおり虚偽の説明を行っていたのであるから、かかる虚偽説明は、本件就業規則72条1項6号に該当するが、本件行為によって、本件パソコンのデータを破損するまでには至っておらず、Y社の経済的な損害は大きなものとまではいえず、金銭的な賠償によって償うことが可能なものであり、また、X及びAによる上記虚偽説明は、本件行為以外の他の非違行為を隠蔽するような性質のものではなく、Xが本件懲戒処分より前に懲戒処分を受けたことがないことを考慮すると、Xが本件就業規則72条に基づく何らかの懲戒処分を受けることは免れないとしても、懲戒解雇という労働契約上の地位を失う最も重大な懲戒処分は重きに失するものであり、社会通念上相当であるということはできないから、本件懲戒処分は、Y社がその権利を濫用したものとして、労働契約法15条により無効である。

パソコンの液晶画面を故意に破損させただけでは懲戒解雇は重すぎるというわけです。

結果、パソコンのデータまで破損されたとなると結論は変わり得ると思います。

破損されたデータの量、内容、復元可能性等が考慮されるとは思いますが。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇251 解雇が有効な場合の社宅の明渡しと使用料相当損害金の支払い(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、解雇無効地位確認等請求と社宅明渡等請求に関する裁判例を見てみましょう。

日経大阪中央販売事件(大阪地裁平成29年7月7日・労判ジャーナル67号14頁)

【事案の概要】

本件は、新聞配達業等を営むY社の元従業員Xが、Y社から解雇の意思表示を受けたが当該解雇は無効であるとして、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認とそれを前提とした賃金の支払いを請求(本訴)し、Y社は、Xに社宅を貸与していたが、解雇による労働契約の終了によってXは社宅の使用権限を失ったとして、Xに対し、社宅の明渡しと使用料相当損害金の支払いを請求(反訴)した事案である。

【裁判所の判断】

本訴請求は棄却

反訴請求は認容

【判例のポイント】

1 XとY社間の労働契約では、新聞配達が業務の内容とされており、即売用の新聞を他の営業所に届ける業務も当然に含まれると解されるうえ、その区域についても限定がないから、使用者が合理的な範囲で設定できるものと考えられるところ、同一の業務命令(ホテル等への即売分を毎日新聞堂島販売K営業所に配達するようにとの指示等)が繰り返されていたにもかかわらず、Xは従わない旨を明確にしていること、Xが今後において業務命令に従う見込みがあるとは言えず、解雇等の手段を執らなければ、Y社において継続的に業務命令違反が繰り返されることとなるが、それ自体、秩序維持の観点から相当とはいえず、Y社の企業秩序の維持のためにもXを企業外に排除すべき必要性は否定し難いこと、より軽微な懲戒処分が先行する等の段階は踏まれていないものの、業務命令が繰り返され、労働者において是正再考する機会が十分に与えられていること等も総合すれば、本件の懲戒解雇が客観的合理的理由を欠くとか、社会通念上の相当性を欠くとまではいえない。

2 本件居室の使用は、使用貸借契約にあたると解されるところ、Xは、従業員宿舎使用誓約書を差し入れたから、従業員宿舎使用規則等が使用貸借契約の内容となったものと認められ、また、Xは、○階×号室の使用に関して従業員宿舎使用誓約書を差し入れ、本件居室に転居し、Y社もそれに異を唱えた様子はないから、当該使用貸借契約の目的物は本件居室に変更されたと認められ、そして、従業員宿舎使用規則は、解雇された従業員は、ただちに宿舎をY社に明け渡さなければならない旨を定めており、従業員の身分を失ったことを使用貸借契約の終了事由と定めているといえるところ、本件で解雇が有効であるから、Xは解雇によって従業員の身分を失い、本件居室に関する使用貸借契約は終了したものと認められるから、Xは、本件居室の明渡義務を負う

被解雇者が解雇後も従業員寮を使用している場合、仮に解雇が有効と判断されると賃料相当損害金を支払わなければなりません。

そのあたりのリスクを十分に念頭に置いて訴訟をすべきです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇250 非違行為と退職手当返還請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、元教諭のわいせつ行為に基づく退職手当返還処分取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

鹿児島県・鹿児島県教育委員会事件(鹿児島地裁平成29年5月31日・労判ジャーナル67号26頁)

【事案の概要】

本件は、鹿児島県教育委員会が、鹿児島県公立中学校教員として在職していた元教諭Xに対し、XがA中学校校長として勤務中に、教え子である同中学校在学の女性生徒に対しわいせつ行為をしたことが、鹿児島県職員退職手当支給条例14条1項3号「在職期間中に懲戒免職等処分を受けるべき行為」に該当することを理由に、Xに対し支給済みの退職手当2778万8006円のうち失業者退職手当額を除く2677万1456円全額を返納するよう命じたことから、Xが、本件処分は、真実はXがわいせつ行為をしていないにもかかわらずされたものであることなどから違法であると主張して、本件処分の取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、本件ドライブの際、本件生徒に対して、本件自動車を運転しながら、左手で本件生徒の右手を握り、また、右太ももを触り、そして、本件路上に停車した本件自動車内において、覆い被さるように本件生徒を抱き寄せ、本件生徒の左頬と唇に口付けをするというわいせつ行為をしたものと認められる。

2 Xは、①本件わいせつ行為が1回限りのものであること、②本件わいせつ行為の態様が軽微であること、③本件わいせつ行為によって本件生徒が受けた衝撃は小さいと考えられることから、本件わいせつ行為は「懲戒免職等処分を受けるべき行為」には当たらない旨主張するが、鹿児島県においては、これまでも、生徒に対してわいせつ行為を行った職員については、免職処分としたことが認められ、そして、本件生徒が、本件わいせつ行為によって精神的苦痛を被り、長期間にわたる入通院を余儀なくされたこと、Xの職責と非違行為との関係、Xの行為が社会に与える影響なども考慮すれば、本件わいせつ行為が1回限りのものであることや、その態様を考慮しても、本件わいせつ行為に対して本件指針における標準量定よりも下位の量定とすべき事情があるということはできないから、Xの本件わいせつ行為は「懲戒免職等処分を受けるべき行為」に当たると認められる。

3 Xが行った行為は重大な非違行為に当たるというべきであるから、同行為は、その永年勤続の功を抹消して余りあるものと評価せざるを得ず、Xに対し退職処分等のほぼ全額の返納を命じる本件処分が、裁量権の範囲を逸脱し又は濫用するものとは認められない

前回の事案とは異なり、本事案では、退職金のほぼ全額の返還が認められています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇249 懲戒解雇が有効な場合の退職金の減免の程度(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、有罪判決等に基づく懲戒解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

西日本鉄道事件(福岡地裁平成29年3月29日・労判ジャーナル65号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していた元従業員Xが、Y社に対し、主位的、Y社がXに対してした懲戒解雇は懲戒事由がない上、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められるものではないため無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに本件懲戒解雇後の各賃金等の支払を求め、予備的に、仮に本件懲戒解雇が有効であるとすれば、Xは上記労働契約に基づく退職金請求権を有すると主張して、退職金720万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

退職金支払請求については一部認容

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則60条12号にいう「有罪の確定判決を言い渡され」たときには、略式命令を受け、それが確定した場合も当然含まれると解されるから、本件懲戒解雇事由1は、この場合に該当し、Xの「その後の就業が不適当と認められたとき」に当たるというべきであるから、本件懲戒解雇事由1は、就業規則上の懲戒事由に該当し、そして、本件事故やその後のXの行動は、Y社の企業秩序に直接関連し、また、Y社に対する社会的評価の低下毀損につながるおそれが客観的に認められるものといえ、その意味で、社員の品位を乱し、会社の名誉を汚すような行為であって、その情状が重いものに当たるといえるから、本件懲戒解雇事由2も、就業規則上の懲戒事由に該当するところ、本件懲戒解雇について、Y社の社内において異論がなく、労働組合からも異論が出されなかったこと、本件懲戒解雇の手続が適正でなかったことをうかがわせる事情はないこと等から、本件懲戒解雇は、社会通念上相当なものであると認められ、懲戒権を濫用したものとはいえず、無効となるものではない。

2 ・・・今後の企業秩序の維持の観点から、本件不支給規定により、Xが退職金請求権の大半を失うことはやむを得ないといえるが、他方、上記行為は業務外のものであること、Xが本件懲戒解雇以前に懲戒処分を受けたことがないこと、上記飲酒運転撲滅の取組が始まってから本件懲戒解雇までの期間は約9年間であることを考慮すると、これらのXの行為は、21年間という長年の勤続の功労を全て抹消してしまうほど信義に反する行為であったとまではいい難いこと等から、Xは、本件不支給規定にもかかわらず、退職金請求権の一部を失わないというべきである。

懲戒解雇の場合、どの程度、退職金を減額するかについては判断が非常に難しいです。

過去の裁判例は参考にはなりますが、全く同じ事案ではないことからあくまでも「参考」になるだけです。

いずれにせよ顧問弁護士と相談の上で判断すべき内容です。

解雇248 普通解雇の予備的主張とバックペイ(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、隠蔽工作等に基づく解雇無効地位確認等請求に関する事案を見てみましょう。

ミツモリ事件(大阪地裁平成29年3月28日・労判ジャーナル66号60頁)

【事案の概要】

本件は、第1事件において、Y社の元従業員Xが、解雇が無効であるとして、雇用契約上の地位確認を求めるとともに、解雇後の賃金の支払を求め、第2事件において、Y社が、Xが赤字受注及び隠蔽工作を行ったことで損害を被った、XとZ社に勤務していたAが共同して架空請求取引を行ったとして、X及びAに対する不法行為又は債務不履行に基づき、損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

第1事件:懲戒解雇は無効、普通解雇は有効

第2事件:損害賠償請求を一部認容

【判例のポイント】

1 使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則あるいは雇用契約において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要し、そして、就業規則は、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知しなければならず(労働基準法106条1項)、周知性が欠ける場合には、拘束力が生じないところ、Y社は、就業規則を作成し、Xが勤務していたB営業所には就業規則を備え付けていなかったことを自認しており、そして、XとY社との間の雇用契約において、懲戒解雇に関する条件等が定められていたことを認めるに足りる証拠もないから、X営業所に勤務していたXとの関係において、Y社の就業規則の周知性は欠けていた

2 B営業所には就業規則が備え付けられていなかったため、懲戒権を欠くことになるから、懲戒解雇を行うことはできないが、懲戒解雇を相当とする懲戒事由があれば、そのことを理由として普通解雇を行うことは可能であるところ、・・・本件普通解雇が解雇権の濫用に当たるということはできない。

3 本件懲戒解雇は懲戒権を欠くものとして無効であるところ、Y社は、平成28年1月20日に陳述した準備書面において、予備的に平成26年7月28日付けでの解雇予告による解雇ないし同日付けでの解雇の意思表示をしているが、解雇の意思表示は、当該意思表示がなされた時点において効力を生じるものであり、日付を遡及して解雇することはできないから、本件普通解雇は上記準備書面が陳述された平成28年1月20日付けの普通解雇となり、Xは、平成28年2月19日までは、Y社の労働者としての地位を有していたことになるから、Y社は、Xに対し、同日までの賃金の支払義務を負うことになる。

上記判例のポイント3は理解しておきましょう。

訴訟の中で懲戒解雇の有効性があやしくなってくると、予備的に普通解雇の意思表示をすることはよくあります。

その場合には、仮に普通解雇が有効と判断された場合でも、無効と判断された懲戒解雇日から普通解雇の意思表示をした日までは雇用契約は継続していたことになりますので、その間の賃金は発生していることになるので注意しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇247 リハビリ出勤の実施方法と留意点(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、テスト出局開始から解職までの復職可能性と解職の有効性等に関する裁判例を見てみましょう。

NHK(名古屋放送局)事件(名古屋地裁平成29年3月28日・労判1161号46頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の職員(従業員)であったXが、精神疾患による傷病休職の期間が満了したことにより、同期間満了前に精神疾患が治癒していたと主張して、解職が無効であり、Y社との間の労働契約が存続しているとして、労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、傷病休職中に行ったY社のテスト出局(一般に、試し出勤、リハビリ出勤などと称され、心の健康の問題ないしメンタルヘルス不調により、療養のため長期間職場を離れている職員が、職場復帰前に、元の職場などに一定期間継続して試験的に出勤をすることにより、労働契約上の債務の本旨に従った労務の提供を命じられ、実際に労務の提供を行ったが、テスト出局期間途中でテスト出局が中止され、それにより労務の提供をしなくなったのはY社の帰責事由によるものであるとして、テスト出局開始以後の賃金+遅延損害金を請求するほか、テスト出局の中止や解職に至ったことに違法性があると主張し、不法行為に基づく損害賠償金+遅延損害金を請求する事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社の職員が、傷病休職中にもかかわらず、労働基準法上の労働を行ったと認められる場合には、最低賃金法の適用があることになるから、本件にはおいては、結局のところ、本件テスト出局中にXの行った作業が労働基準法上の労働といえるかどうか、すなわち、XがY社の指揮命令下に置かれていたかどうかの判断によることになり、具体的には、Y社のテスト出局が、傷病休職中にもかかわらず、職員に労働契約上の労務の提供を義務付け又は余儀なくするようなものであり、実際にも本件テスト出局中にXが行った作業が労働契約上の労務の提供といえるかどうかを検討すべきことになると考えられる(最判平成12年3月9日等参照)。

2 …特に、テスト出局が、傷病休職中の職員に対する職場復帰援助措置義務を背景としていることを踏まえると、その内容として、労働契約上の労務の提供と同水準又はそれに近い水準の労務の提供を求めることは制度上予定されていないと解される。
また、テスト出局は、職場復帰のためのリハビリであり、復職の可否の判断材料を得るためのものであるとはいえ、疾病の治療自体は主として主治医が担当すべきものであり、職員からの復職の申出を受けた後、合理的な期間を超えて、職員を解雇猶予措置である傷病休職の不安定な地位にとどめおくことはかえって健康配慮義務の考え方にもとることになる。そこで、テスト出局はあくまで円滑な職場復帰及び産業医等の復職の可否の判断に必要な合理的期間内で実施されるのが相当であり、休職事由が消滅した職員について、産業医等の復職の可否の判断に必要と考えられる合理的期間を超えてテスト出局を実施し、復職を命じないときは、債務の本旨に従った労務の提供の受領を遅滞するものとして、その時点からY社が賃金支払義務を免れないというべきである。

とても重要な裁判例です。

いわゆるリハビリ出勤の問題ですが、リハビリ出勤時にどの程度の業務をさせればいいのか、また、その際の賃金は通常通り支払わなければならないのかについて考えるヒントを与えてくれています。

休職制度の運用、復職の可否の判断等については必ず顧問弁護士に相談の上、近時の裁判例の動向を踏まえて慎重に対応することを強くおすすめします。

解雇246 定年延長後の地位確認を定年前に求める訴えに確認の利益は認められるか?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、定年延長後の地位確認を定年前に求める訴えに確認の利益はないとされた裁判例を見てみましょう。

学校法人X事件(大阪高裁平成29年4月14日・労経速2316号26頁)

【事案の概要】

Xは、Y社との間で労働契約を締結し、Y社の設置、運営するA大学人文科学研究所において教授として研究教育活動に従事する者であり、満65歳に達した年度の3月31日は平成30年3月31日であるところ、本件は、Xが、Y社の就業規則附則1項に規定する「大学院に関係する教授」(大学院教授)と同様に70歳まで定年延長を受ける権利があるなどと主張して、Y社に対し、平成30年4月1日から平成35年3月31日まで労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 将来の法律関係の確認を求めることは、不確定な法律関係の確認を求めるものであって、現在における紛争解決の方法としては原則として不適切と考えられる。しかし、将来の法律関係であっても、権利侵害の発生が確実視できる程度に現実化し、かつ、侵害の具体的発生を待っていては回復困難な不利益をもたらすような場合には、当該法律関係の確認を求めることが紛争の予防・解決に最も適切であるから、これを確認の対象として許容する余地があるものと解される。

2 ・・・仮にA大学の「大学院教授」がかかる権利を有しているとしても、当審の口頭弁論終結日である平成29年3月1日からXの定年時点である平成30年3月31日までには1年余りの期間があり、その間、XとY社との間の労働契約関係・契約内容に変更が生じる可能性やA大学における定年の制度に変更が生じる可能性がないとはいえないから、Xが「大学院教授」と同等に定年延長を受けられるか否かを判断するにはなお不確定要素が多いといわざるを得ない。
・・・そうすると、いまだ、Xの将来の労働契約上の権利に対する侵害発生が確実視できる程度に具体化しているとはいえないから、本件訴えは、不確定な法律関係の確認を求めるものとして不適法というべきである。

先回りして紛争を未然に防ぎたいという気持ちはわかりますが、上記判例のポイント1の規範のとおり、将来の法律関係の確認は要件が厳しいため、原則的には紛争が起きた後に提訴することになります

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇245 職種限定合意と合併に伴う配転命令(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、職種限定合意の有無と合併に伴う配転・諭旨解雇の有効性等に関する裁判例を見てみましょう。

ジブラルタ生命(旧エジソン生命)事件(名古屋高裁平成29年3月9日・労判1159号16頁)

【事案の概要】

本件は、平成22年8月1日にAIGエジソン生命保険株式会社に入社し、平成24年1月1日にY社がエジソン生命を吸収合併する前は同社のソリューションプロバイダーリーダー(SPL)であり、同合併後は、Y社のライフプランコンサルタント(LC)(通常の営業社員)としての扱いを受けていたXが、Y社から同年6月20日付けで懲戒解雇されたことについて、本件懲戒解雇は無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに平成24年7月以降判決確定の日まで毎月25日限り賃金50万円+遅延損害金の支払いを求めるとともに、本件懲戒解雇は不法行為に該当すると主張して、慰謝料100万円及び弁護士費用50万円の合計150万円+遅延損害金の支払いを求めている事案である。

原判決は、Xの請求をいずれも棄却したところ、Xが控訴した。

【裁判所の判断】

原判決を取り消す。

懲戒解雇は無効

Y社はXに対し、150万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 エジソン生命及びY社としては、上記4職種を提示しただけでこれに異を唱えずに応じる者についてはともかく、Xのようにこれに応じられない者に対しては、まずASP事業部の廃止が避けられない事情を十分に説明し、更にチーフトレーナー又は営業所長への移行とせめてA近辺(愛知、岐阜、三重など)の範囲に限った異動の可能性を提示するなど、4職種のうちの一部の労働条件を変容させたり、あるいは、営業部門以外の部署(例えば、人事部門、総務部門など)への配置換えを選択肢として示し又は勧めたりするように柔軟かつきめ細かな対応をすることは、その企業規模からして十分可能であったというべきであるにもかかわらず、少なくともXに対してはそのような応対は一切していない。
・・・以上述べたところによれば、Y社は、職種及び職場限定の合意があって、上記①ないし③の職種への移行に応じられず、応じないことが許容されるXに対し、その他の選択肢を一切示さないまま、Xをしてその最も意に沿わない職種であって、かつ、待遇面でも明らかに不利益となることが明白な④のLCとして取り扱ったことは、正当な理由のない配転命令がなされたものというべきであって、しかも、管理職から一般社員への懲罰的な降格人事とも解されるから、人事権の濫用として無効であるといわざるを得ない。

2 Y社は、合理的な理由のない本件懲戒解雇により、Xに対し、精神的苦痛を与えたものであるから、Xに対し民法709条、710条の不法行為責任を負うものと認められ、Xが営業社員であるSPの採用育成等に職種限定して合併前のエジソン生命に入社し、そのような業務を遂行していたにもかかわらず、営業職員にのみ適用され、Xには提出義務のないサクセスプランナーや直帰届の提出を強要するなどした上、人事権を濫用してXを合理的理由なくLCに配転する命令をし、理由のない厳重注意書や業務命令書の交付等を立て続けに行うなどした挙げ句、本件懲戒解雇に及んだという一連の経緯その他本件に顕れた一切の事情を総合考慮すれば、Xの精神的苦痛に対する慰謝料額としては、Xの請求額である100万円を下ることはなく、また、本件訴訟を遂行するに当たっては相当と認められる弁護士費用額も、Xの請求額である50万円を下ることはない。

上記判例のポイント1の判断は重要ですので参考にしてください。

職種や職場限定の合意がある場合、当然に配置転換ができません。

本人の同意が得られない場合、強引なやり方をすると今回のような結果になります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇244 業務消滅を理由とする整理解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、業務消滅を理由とする整理解雇を有効と認めた裁判例を見てみましょう。

H協同組合事件(大阪高裁平成29年2月3日・労経速2316号3頁)

【事案の概要】

本件の本訴は、Y社の従業員であったが、平成26年3月20日に解雇されたXが、解雇は無効であるとして、①労働契約上の地位の確認と、②平成26年2月21日から判決確定まで(将来分を含む)毎月15万円の賃金+遅延損害金の支払を請求する事案であり、

反訴は、Y社が、Xに対し、Xは、平成23年7月から平成26年1月まで、労働契約に含まれていないと知りながら、通勤費等の名目で毎月5万円を利得したとして、不当利得返還請求権及び悪意の受益者に対する利息請求権(民法704条)により、155万円+遅延損害金の支払を請求する事案である。

原判決は、Xの請求の一部を認容し、Y社の請求を棄却したので、Y社が控訴をした。

【裁判所の判断】

原判決を以下のとおり変更する。

Xの請求をいずれも棄却する。

Y社の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件労働契約は、Y社にはXに従事させる業務が存在しないことを前提に、Xを協同組合員の工場に派遣し、協同組合員のミキサー車乗務や車両誘導等の現場立会業務に従事させ、協同組合員が支払う対価を賃金に充てることを内容とするものであるところ、平成25年には協同組合員からの派遣依頼がほぼなくなり、将来的にも派遣依頼を受けることは期待できない状況に陥っていたのであるから、本件解雇には客観的合理的理由があるといえる

2 Y社は、建交労と、Xの「職員の身分・処遇に影響を及ぼす恐れのある場合」には建交労と事前に協議するとの協定を結んでいるところ、本件解雇予告にあたり建交労と事前に協議をしていないし、少なくとも平成26年1月18日以降は、建交労からの団体交渉の申入れを正当な理由なく拒否し、ようやくもたれた同年2月28日の団体交渉においても、Y社は、整理解雇ではなく労働契約の解約であるとして、実質的な協議をしないまま解雇している
しかし、建交労は、Xが平成17年1月に甲社に雇用される時からこれに関与し、XがY社の専務理事を退任した際には、Y社が、Xに従事させる業務が存在しないことや経済的逼迫を理由に、再雇用を拒否していたにもかかわらず、Y社に強く働きかけ、協同組合員に派遣させてでもXを雇用させたものである。そして、建交労は、Y社が平成25年4月に解雇予告通知を行った際には、団体交渉によりこれを撤回させるなどしており、前回の解雇予告の撤回後のY社及びXの状況に変化がないことも理解していたはずである
建交労は、Xの雇用から本件解雇予告に至る経緯や、解雇の必要性、合理性、解雇回避努力、人選の相当性等についてY社が一貫して主張する内容等、すなわち、Y社との協議(団体交渉)においてY社が説明するであろう内容を知悉しており、これに対する建交労の主張も前回の解雇撤回時の団体交渉における説明と同様になったことからすれば、Xもその内容を承知していたことが推認できる。そして、前回、解雇を撤回したにもかかわらず、改めて本件解雇予告をしたことは、Y社において、今回は解雇予告を撤回する意思がないことを示しているものであり、他方、建交労も、本件解雇予告の撤回以外の円満解決に向けた具体的方策を提示していない
これらの事情を総合すると、Xとの協議や交渉は、平成26年2月28日の団体交渉で行き詰まり、進展の見込みがなかったといえるから、Y社は、本件解雇予告前に建交労と事前に協議をせず、その後も、必ずしも誠実に協議をしたとはいえないものの、この点を考慮しても、本件解雇は社会通念上相当なものではない(解雇権を濫用したもの)とまではいえない

一審と控訴審で判断が分かれているとおり、ぎりぎりの判断です。

特に上記判例のポイント2の判断は、担当裁判官の考え方1つで変わり得るところなので、この裁判例を実務に活かすということはなかなか難しいです。

こういう判断もありうるよ、という程度ですかね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。