Category Archives: 解雇

解雇263 虚偽報告等に基づく懲戒解雇と相当性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、虚偽報告等に基づく懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

アストラゼネカ事件(東京地裁平成29年10月27日・労判ジャーナル72号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員が、Y社の行った懲戒解雇が無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成27年12月以降本判決が確定するまでの間、毎月25日限り、賃金月額約64万円等及び平成28年3月分の賞与約267万円の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

未払賞与等支払請求は一部認容

【判例のポイント】

1 シンポジウムの虚偽報告については、Xの出欠確認方法が不適切であったことに起因するもので、それは注意することにより今後同様の誤りを生じないと期待することができるものであり、また、Xの営業活動の虚偽報告については、Y社自身MRに対して、データ入力の有無について注意喚起をすることがなかったことの影響も考えられ、今後、Xがデータの入力を正確にすると期待することができ、そして、虚偽内容のメールや必要のないメールの発信行為については、Xの問題意識や苦しい思いをその解決に必要な範囲を超えて周囲に流布するものであるが、外部に流布したのではなく、Y社の中の一部の者に流布したに止まっており、いずれの行為についても懲戒処分を検討するに当たって考慮すべき事情等があり、個別の注意、指導といった機会もなかったのであるから、これらの行為全てを総合考慮しても、懲戒解雇と、その前提である諭旨解雇という極めて重い処分が社会通念上相当であると認めるには足りないというべきであり、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認めることができず、懲戒権を濫用したものとして、無効である。

2 Xは、Y社との間の労働契約において、賞与として年267万2235円を支給するものとされていた旨を主張するが、平成28年の賞与額は基本給3か月分の固定分と平成27年7月から12月の評価変動部分に分かれていること、評価変動分の標準評価が基本給1.5か月分であること、評価変動賞与は、基本給1.5か月分の0%から200%の範囲で、各人の業務目標の達成如何で金額が決定されること、Xの平成27年1月から6月までの評価変動の賞与は1.03か月分であったことが認められ、Y社において、賞与のうち評価変動賞与は、Y社が裁量によってその都度決定する金額が支払われるものであって、あらかじめ定まった金額が支払われるものではないことがうかがわれるから、XとY社との間の労働契約において、Xが解雇されなかったならば確実に評価変動賞与として基本給1.5か月分の支払がされるとは認められず、XのY社に対する平成28年の賞与の支払請求は、固定分である基本給3か月分の178万1490円に限られ、その余の請求は理由がない。

相当性がないということで懲戒解雇が無効と判断されています。

相当性判断を事前に適切に行うことはとても難しいですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇262 勤務態度不良を理由とする解雇と相当性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、降格前の地位確認及び解雇無効地位確認請求に関する裁判例を見てみましょう。

ドラッグマガジン事件(東京地裁平成29年10月11日・労判ジャーナル72号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのない雇用契約を締結して就労していた元従業員Xが、Y社のした降格及び解雇が無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、降格前の職制等級に基づく雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、解雇後本判決確定の日までの未払賃金等の支払、平成28年4月以降毎年年7月及び12月の賞与等の支払を求めるとともに、上司による違法なパワーハラスメントがあったと主張して、民法715条又は安全配慮義務違反による不法行為に基づき、慰謝料等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

降格前の職制等級に基づく雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認請求は棄却

解雇無効地位確認請求は認容

損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xには上司の指導や指示に素直に従わないこと、同僚との協調性が乏しいなどの業務上の問題点が認められ、Xに対し上司が問題点の改善を求めて指導したにもかかわらず、Xの勤務態度に変化が見られなかったこと、本件降格処分による賃金の減額は5000円と比較的少額であることなどを踏まえると、本件降格処分は客観的に合理的な理由があり、相当というべきであるから、人事権の範囲内の措置として有効である。

2 仮に、Xに認められる問題点(上司の指導・指示に素直に従う姿勢が乏しいこと、同僚との協調性が乏しいこと)がいずれかの解雇理由に該当するとしても、入社後1年余りの間はXの業務態度がさほどY社の社内で問題になることはなかったこと、Xには上司の指導や指示に素直に従わない面が認められるとはいえ、その態様は悪質なものとまではいえないこと、Xは関心のある分野については積極的に取材や執筆業務を行っていたこと等の事情を総合考慮すると、Xが前職で5年のキャリアを有することや、Y社が比較的小規模な組織であること等の事情を勘案しても、本件解雇は、いまだ社会通念上相当であるとは認められないというべきである。

3 Y社において本件解雇後のXの賞与の支給の実施及び具体的な支給額又は算定方法についての決定がされたとは認められず、また、これについての労使間の合意や労使慣行が存在したとは認められないから、Xの具体的な賞与請求権が発生したとはいえず、賞与に関するXの請求には理由がない。

解雇については相当性の判断で救われています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇261 休職期間満了時における復職の可否に関する判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、休職期間満了時の職務に耐えられないことを理由とする解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

エミレーツ航空会社事件(東京地裁平成29年3月28日・労判ジャーナル72号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社のA支社総務経理部に所属していた元従業員Xが、同部署の職場環境に起因して心因反応を発症し、これにより休職した後、復職に際してY社に安全配慮義務違反があり、また、Y社での職務に耐えられないことを理由として行われた解雇が無効であるなどと主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、Y社のA支社総務経理部における就労義務がないことの確認、雇用契約に基づく賃金・賞与の支払、安全配慮義務違反(債務不履行)による賃金等相当損害金や慰謝料等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

A支社総務経理部就労義務不存在確認は却下

解雇無効地位確認等請求及び損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xの心因反応の発症原因がY社の職場環境にあったとは認められず、他方で、X・Y社間の本件雇用契約について、Xの職種を経理職に限定する旨の合意があったことを前提に、Y社は、業務負担の軽減に係る提案、レポーティングラインの変更による心理的負担の軽減に係る提案、他部署への異動等、Xの復職に関して考え得る手立てを相当程度講じたが、それにもかかわらず、Xが総務経理部に復職する見込みが全く立たない状況にあったことを踏まえると、Xのこの状況は、就業規則所定の「社員の精神的または肉体的状態が与えられた職務に耐えられないと判断された場合」に該当するといわざるを得ないから、本件解雇は、客観的合理性及び社会通念上の相当性があり、有効であると認められるから、XがY社に対して雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める請求は、理由がない。

2 Xの就労不能につきY社に帰責事由があるとは認められず、また、Y社のXに対する安全配慮義務違反があるとも認められないから、XのY社に対する賃金及び賞与請求並びに損害賠償請求は、いずれも理由がない。

心因反応が業務に起因すると言えないと戦いとしては厳しくなります。

本件のような休職期間満了による退職処分の場合、休職の原因が私傷病か労災なのか勝敗を決することになります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇260 酒気帯び運転と懲戒免職処分の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、市元職員の酒気帯び運転と懲戒免職処分等取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

名古屋上下水道局長(懲戒免職処分取消請求)事件(名古屋高裁平成29年10月20日・労判ジャーナル71号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元職員Xが、酒気帯び運転で検挙されたことを理由として、Y社から受けた懲戒免職処分及び退職手当支給制限処分はいずれも裁量権を逸脱又は濫用した違法なものであると主張して、名古屋市に対し、本件各処分の取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒免職処分取消請求は棄却

退職手当支給制限処分取消請求も棄却

【判例のポイント】

1 Xは、本件酒気帯び運転に係る車の走行時間及び走行距離が短く、検挙時のアルコール濃度も、懲戒免職処分が違法であるとされた類似事案の裁判例よりも低いから、本件酒気帯び運転の性質・態様は極めて悪質とまではいえず、むしろ比較的軽微との評価もあり得る旨を主張するが、Xの検挙時のアルコール濃度、Xが本件酒気帯び運転に至った上記経緯に照らすと、本件酒気帯び運転の性質及び態様が極めて悪質なものであることは明らかというべきであって、本件酒気帯び運転に係る車の走行時間及び走行距離、Xが指摘する他の裁判例の存在はいずれも上記判断を左右せず、また、市及びY社が、飲酒運転に対して厳しい姿勢で対処すべきであるという社会的要請の高まりを踏まえて旧取扱方針及び現取扱方針を制定するなどし、職員の飲酒運転の撲滅に向けて取り組んできており、そうした取組に反して、Y社の職員であるXが本件酒気帯び運転をしたことによる市政等に対する市民からの信用失墜の程度が低いものであったなどということはできないこと等から、Xの懲戒免職処分取消請求は理由がない

2 Xに有利に勘案されるべき事情(人的・物的被害が発生したことはうかがわれず、本件酒気帯び運転を隠蔽する行動はとっていないこと等)も存するとはいえ、特に、本件酒気帯び運転の態様が極めて悪質で、Xの責任は重大というべきものであることに加えて、退職手当が勤続報償的な性格を基本とするものであることを併せて考慮するときには、もはやXの過去の功績は没却されて、報償を与えるには値せず、退職手当の他の側面である生活保障的性格及び賃金後払い的性格が奪われることになってもやむを得ないものと認めるのが相当であって、退職手当支給制限処分が社会観念上著しく妥当を欠き、退職手当管理機関である処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したとは認められず、退職手当支給制限処分は適法であるから、退職手当支給制限処分の取消しを求めるXの請求は、理由がない。

Xに有利な事情を考慮してもなお、懲戒免職処分は有効であり、かつ、退職手当支給制限処分も有効と判断されています。

酒気帯び運転の危険性からすればやむを得ないのかもしれませんが、担当裁判官によって結論は異なりうるように思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇259 整理解雇が有効と判断されるために必要なこととは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、社会福祉法人解散による元職員らの解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会事件(東京地裁平成29年8月10日・労判ジャーナル71号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していた元職員らA、Bが、Y社のした解雇が無効である旨をそれぞれ主張して、Y社に対し、Aらそれぞれが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び民法536条2項に基づき本件各解雇後の賃金の支払をそれぞれ求めるとともに、本件各解雇が無効であることを前提に、Y社と全国手をつなぐ育成会連合会とは実質的に同一である旨を主張して、法人格否認の法理により、連合会に対し、上記と同様の請求をし、あわせて、Aらは、Y社及び連合会が共謀して不当な本件各解雇を行い、もって、Aらそれぞれに対する不法行為を行った旨を主張して、Y社及び連合会に対し、共同不法行為に基づき、精神的損害の賠償等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1  Y社が本来確保しておくべきことが公的に要請されている基本財産の取崩しが恒常化している中で、近い将来にY社の経営が困難となると判断したことは、客観的な根拠に裏付けられたものということができ、Y社には、Y社を解散することに伴い、人員削減の必要性があったものというべきであり、Y社は、希望退職の募集を行い、応募した者には退職金を増額しこれに加えて100万円を支給することとし、これを受け、上記募集を受けた職員ら合計6名のうち、Aらを除く4名は、上記希望退職の募集に応じたというのであるから、Y社は、Y社が当時行い得たAらの解雇を回避するための措置及びこれに代わり得るAらの負担の軽減のための合理的な措置を、相応に行っていたものというべきであり、さらに、Aらを含むY社の全職員がY社を退職したことが認められる事実に照らせば、本件各解雇に係る人選の合理性に欠けるところはないものというべきであり、そして、Y社は、訴外組合に対し、団体交渉に応じる意向を示し、Aらに対し、相応の説明をしていることをも踏まえると、本件各解雇の手続の相当性に殊更問題があったということはできないことから、本件各解雇は客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当なものとして、有効というべきである。

2 Y社が解散し、事務局を廃止してY社の職員を全員解雇するとのY社の判断が合理的なものであること、Y社は上記廃止に際してAらのみならずY社が当時雇用していた全従業員との雇用契約を終了させたことから、Y社に不当な目的があったとは認め難いものというべきであり、本件各解雇は有効であるから、AらのY社に対する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認の請求及び民法536条2項に基づく本件各解雇後の賃金の支払の請求には、いずれも理由がなく、また、Aらの連合会に対する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認の請求及び民法536条2項に基づく本件各解雇後の賃金の支払の請求は、本件各解雇が無効であることの前提とするものであるから、同様にいずれも理由がない。

上記判例のポイント1のようにしっかり手続きを進めていけば問題ありません。

慌てず、やるべきことをやることがとても大切です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇258 解雇が有効と判断されるために準備すべきこととは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、採用ポストに対する職務能力欠如に基づく解雇に関する裁判例を見てみましょう。

アスリーエイチ事件(東京地裁平成29年8月30日・労判ジャーナル71号29頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社による解雇の意思表示は違法無効なものであるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、不法行為に基づき、違法な解雇による損害(逸失利益として6か月分の給与合計330万円及び慰謝料165万円)の賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、会社代表者の次の地位に当たる総合管理職兼営業部長として採用された者であり、その業務内容として、従業員の管理のほか、営業部長として新規取引先の開拓も含まれていたにもかかわらず、在籍した3か月間、新規取引先を1件も開拓しなかったことが認められること等から、就業規則所定の解雇事由は存在し、本件解雇には客観的に合理的な理由があると認められ、また、総合管理職としての業務をみても、会社代表者の許可を得ることなく、部下の就労を違法就労と決めつけ、その労働時間の短縮を指示したほか、会社代表者の許可を得ることなく、本件経費精算手続を大幅に変更した結果、3か月後に従前の経費精算手続に戻す事態になるなど、社内に混乱を生じさせており、さらに、X自らが、部下に対し、作成を指示していた出張報告書を自分の出張に関しては作成していなかった結果、Y社の税理士から、Xの経費精算について、疑問を呈されるなど、総合管理職に求められる資質に問題があると言わざるを得ないから、本件解雇は、社会通念上相当であると認められる。

解雇事由の存在を裏付けるエビデンスを用意すること、会社の業務にいかなる支障が生じたのかについて具体的に主張立証することがとても大切です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇257 育休取得後の解雇は有効?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は育児休暇取得後の解雇が無効とされた裁判例を見てみましょう。

シュプリンガー・ジャパン事件(東京地裁平成29年7月3日・労経速2332号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、産前産後休暇及び育児休業を取得した後にY社がした解雇が男女雇用機会均等法9条3項及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律10条に違反し無効であるなどとして、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、解雇された後の平成27年12月分以降の賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、Y社がXの育児休業後の復職の申出を拒んで退職を強要し、解雇を強行したことは、均等法9条3項及び育休法10条に違反し、不法行為を構成するとし、損害賠償金200万円及び弁護士費用20条+遅延損害金の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

Y社はXに対し、55万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 結論において、事業主の主張する解雇理由が不十分であって、当該解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められなかった場合であっても、妊娠等と近接して行われたという一事をもって、当該解雇が妊娠等を理由として行われたものとみなしたり、そのように推認したりして、均等法及び育休法違反に当たるものとするのは相当とはいえない

2 このようにみてくると、事業主において、外形上、妊娠等以外の解雇事由を主張しているが、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないことを認識しており、あるいは、これを当然に認識すべき場合において、妊娠等と近接して解雇が行われたときは、均等法9条3項及び育休法10条と実質的に同一の規範に違反したものとみることができるから、このような解雇は、これらの各規定に反しており、少なくともその趣旨に反した違法なものと解するのが相当である。

3 Y社では、Xの問題行動に苦慮し、これへの対応として弁護士、社会保険労務士及び産業医に相談し、助言を受けていたというのであるが、助言の内容は、要するに、今後の原告の問題行動に対して、段階を踏んで注意を与え、軽い懲戒処分を重ねるなどして、Xの態度が改まらないときに初めて退職勧奨や解雇等に及ぶべきであるとするものであるが、第2回休業までの経過及びその後の経過をみる限り、こうした手順がふまれていたとは到底いえないところである。そして、その助言の内容に照らせば、Y社(その担当者)にあっては、第2回休業の終了後において直ちに、すなわち、復職を受け入れた上、その後の業務の遂行状況や勤務態度等を確認し、不良な点があれば注意・指導、場合によっては解雇以外の処分を行うなどして、改善の機会を与えることのないまま、解雇を敢行する場合、法律上の根拠を欠いたものとなることを十分に認識することができたものとみざるを得ない。

4 解雇が違法・無効な場合であっても、一般的には、地位確認請求と解雇時以降の賃金支払請求が認容され、その地位に基づく経済的損失が補てんされることにより、解雇に伴って通常生じる精神的苦痛は相当程度慰謝され、これとは別に精神的苦痛やその他無形の損害についての補てんを要する場合は少ないものと解される。
もっとも、本件においては、Xが第2回休業後の復職について協議を申し入れたところ、本来であれば、育休法や就業規則の定めに従い、Y社において、復職が円滑に行われるよう必要な措置を講じ、原則として、元の部署・職務に復帰させる責務を負っており、Xもそうした対応を合理的に期待すべき状況にありながら、Xは、特段の予告もないまま、およそ受け入れ難いような部署・職務を提示しつつ退職勧奨を受けており、Y社は、Xがこれに応じないことを受け、紛争調整委員会の勧告にも応じないまま、均等法及び育休法の規定にも反する解雇を敢行したという経過をたどっている。こうした経過に鑑みると、Xがその過程で大きな精神的苦痛を被ったことが見て取れ、賃金支払等によって精神的苦痛がおおむね慰謝されたものとみるのは相当でない

上記判例のポイント1、2は理解しておきましょう。

いずれもせよ、労働契約法16条の要件を満たすか否かが主戦場であることに変わりはありません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇256 業務命令違反に基づく解雇が有効と判断されるためには?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、業務命令違反に基づく解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

シリコンパワージャパン事件(東京地裁平成29年7月18日・労判ジャーナル70号29頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社との間で労働契約を締結し、その後、Xを解雇したが、この解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものであり、権利を濫用したものとして無効であると主張して、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の業務に関連する電子メールにつき、平成27年7月頃から、CCに部長のメールアドレスを入れないようになり、代表取締役から指示を受けても従わず、同年11月9日、重ねてP3から電子メールのCCに必ず部長のメールアドレスを入れるよう指示を受けた後も、これを改めず、同月11日、代表取締役から全ての電子メールのCCに必ず部長のメールアドレスを入れるよう明確に命じられた後も、その日のうちに、これに反し、あえて同じ行為を繰り返したものであり、Xが業務に関連する電子メールのCCに部長のメールアドレスを入れなかったことにより、Y社においては、現に、部長がXが既に対応していた業務を二重に行うこととなったり、Y社として対処するべき問題につき部長として営業部門とマーケティング部門を統括する立場にあった部長の耳に入るのが遅れたりするなど、その業務遂行に不利益が生じたことが認められるから、このようなXに対してY社が解雇に及んだのにはもっともな理由があったものと認められ、本件解雇に客観的に合理的な理由がないとは認められない。

再三にわたり注意指導したにもかかわらず・・・という事実を立証できるように準備することが使用者には求められています。

解雇の合理性の立証責任は使用者側にあることを忘れずに準備をしましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇255 母が原告の帰宅時間を記録したメモに基づき残業時間を認定した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、休職満了後の退職扱い無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

エターナルキャスト事件(東京地裁平成29年3月13日・労判ジャーナル70号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に正社員として雇用され、経理業務等を行っていたXが、Y社の代表取締役であるA、同社の従業員であるD及びEから違法な退職強要、配転命令及び雇用条件変更命令を受けたため、うつ病を発症し、休職を余儀なくされたと主張して、本件雇用契約に基づき、Y社に対し、Y社C営業所において清掃スタッフとして勤務する雇用契約上の義務のないことの確認、平成26年8月27日から本判決確定の日までの賃金月額23万円等の支払を求めるとともに、Y社及びAに対し、不法行為に基づく損害賠償として、各自慰謝料300万円等の支払、将来の退職強要行為の差止めを求めるほか、Y社に対し、同年1月9日から同年5月19日までの間の未払割増賃金合計約32万円等の支払、並びに労働基準法114条に基づく付加金約32万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

雇用契約上の義務のないことの確認請求は却下

雇用契約上の権利を有する地位確認は認容

未払賃金等支払請求、慰謝料請求は一部認容

未払割増賃金及び付加金請求は認容

【判例のポイント】

1 Xは、業務上の事由による傷病により就業できなくなったものであり、就業規則所定の「業務外の傷病」には当たらない上、労働基準法19条1項の趣旨に照らすと、休職期間満了に伴い当然退職扱いは許されないから、Y社のXに対する本件雇用条件変更命令の発令は認められないものの、Y社は、Xが休職期間満了に伴い退職したとして、本件雇用契約の終了を主張していることからすれば、XのY社に対する地位確認請求は、Xが、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める限度で理由があり、Xは、本件退職強要行為2ないし4により、うつ病が重篤化して就労ができなくなったのであり、本件休職期間中の労務提供の不履行は、使用者であるY社の責に帰すべき事由によるものであるから、Xは、民法536条2項に基づき、Y社に対する賃金請求権を有する。

2 Y社は、Xが時間外労働をしていることについて認識しながら、特段これを禁止することなく、黙認しているような状況であったことからすれば、Y社のXに対する黙示の業務命令があったものと認められ、Xは、Y社に対し、業務に従事した時間について、時間外、休日及び深夜の割増賃金の請求をすることができ、また、残業時間一覧表は、Xの母がXからの帰宅の連絡を記録したメモを基にして作成されたものであり、入退館一覧表と必ずしも一致するものではないが、矛盾するところもなく十分に信用することができること等から、未払割増賃金は、合計約32万円となる。

上記判例のポイント2では、使用者の黙示の業務命令を認定した上で、残業時間について、Xの母がXからの帰宅の連絡を記録したメモに基づき認定しています。

使用者側で労働時間の管理をしっかりしていない場合には労働者側の何らかの記録に基づき認定されることがありますので注意しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇254 訴訟における主張内容も踏まえて解雇の有効性を判断した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、就業態度・能率不良に基づく解雇無効地位確認請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本コクレア事件(東京地裁平成29年4月19日・労判ジャーナル70号38頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社から解雇されたところ、当該解雇は無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、当該解雇日以降の賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xは、使用者が従業員に対して通常求める姿勢である、上司の指示、指導等に素直に耳を傾け、上司の意見を取り入れながら円滑な職場環境の醸成に努力するなどといった点に欠ける面が顕著であるといえ、再三のY社からの指示、指導及び警告にかかわらず一向に改善の意欲も認められないことからすれば、XとY社との労働契約における信頼関係は、本件解雇時点においてもはや回復困難な程度に破壊されていると評価せざるを得ず、Y社としては、職場全体の秩序、人間関係への悪影響等に鑑み、職場内の規律維持等の観点から対応せざるを得なかったといえ、本件訴訟においても、Xは、自己の考え方に固執し続けており、このことは、本件解雇以前から職制を踏まえた行動をする意思がなかったことを推認させ、Xの処遇の困難性を示していること等から、Xについては就業規則所定の解雇事由「従業員の就業態度もしくは能率が、会社にとって著しく不適当であると認められた場合」に該当するものと認められ、本件解雇は、その権利を濫用したものとして無効であるとはいえない。

よく解雇事案で、上記判例のポイントのように訴訟中の主張を取り上げて、それも考慮要素とすることがありますので、留意しましょう。

あまりに突拍子もない主張を展開すると判決理由で使われてしまいます・・・。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。