Category Archives: 解雇

解雇283 配転命令の有効性の判断方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、試用期間の再延長が否定され、配転命令拒否等による解雇が有効とされた裁判例を見てみましょう。

F社事件(神戸地裁平成30年7月20日・労経速2359号16頁)

【事案の概要】

本件は、原告が本件解雇は無効であると主張して地位確認等を求めるとともに、Y社による本件自宅勤務命令、徳島本社への配転命令、本件解雇はいずれも違法であると主張して不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは平成28年2月25日からY社において勤務を始め、徳島本社で研修を受けた後、4月14日から関西支社勤務となり、資産形成事業部関西営業課に配属されたが、5月13日に本件自宅勤務命令を受け、以後その状態が続いていた。そして調査の結果、関西営業課において業務に従事していた際のXの営業活動に業務フロー違反があったことが発覚しており、また、Cと結託してE取締役の意向に沿わない営業活動を行っていたことも疑われる状況にあった。Y社は、延長された試用期間の満了にあわせて本件自宅勤務命令を解除することとしたが、このような状況で、8月25日以降、Xをもとの関西営業課で勤務させることはできないと判断し、用地仕入業務に従事させることとするとともに、徳島本社において改めて研修を受けさせることにしたというのである。
認定事実によれば、このY社の判断を基礎づける事実が実際にあったから、本件配転命令には必要性があったといえるし、不当な動機・目的によって行われたものともいえない。これによってXが特に不利益を被るという事情も認められない。したがって本件配転命令が業務命令権の濫用とされることはなく、有効である。

2 本件配転命令は有効であるからXは平成28年8月25日以降徳島本社で勤務する義務を負ったが、本件解雇のあった9月5日まで1日も出勤しなかった。・・・しかもXは8月28日、「(本件配転命令によって)労働契約は終了ということになる、解雇になったと認識していいか」などのメッセージをD取締役に送信している。このことからすると、Xは遅くとも9月2日までに、本件配転命令を拒否する意思を明確にY社に表明したと認められる。
指定された勤務場所で勤務する意思がないことを従業員が表明するということは、就労の意思を放棄するにも等しいことであり、労働契約上の義務の重大な違反である。Y社の就業規則においても配転命令は「重要な職務命令」と位置づけられている(就業規則71条1項16号)。一方、本件配転命令に従わないことについて正当な理由は認められないし、特に酌むべき事情も認められない。
このように重大な義務違反である本件配転命令の拒否があったことに加え、秘密漏洩行為、業務フロー違反行為もあったのであるから、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないということはできない。本件解雇に権利の濫用はなく、有効である。

配転命令について不当な動機目的(例えば、退職に追い込むためなど)に基づくものではないということをいかに立証するかがポイントとなります。

上記判例のポイント1のような流れが裏づけとともに主張できると有効と判断してもらえます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇282 唯一の事業の廃止に伴う整理解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、唯一の事業の廃止に伴う整理解雇が有効とされた事案を見てみましょう。

新井鉄工所事件(東京地裁平成30年3月29日・労経速2357号22頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXらが、Y社の主要な事業である油井管製造事業の廃止に伴って解雇されたことが解雇権の濫用に当たり労働契約法16条により無効であるとして、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、解雇後の賃金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 まず、解雇回避努力義務として、配転の余地があったかについてみるに、Y社は、Y3等の所有不動産の管理について専門の不動産管理会社に委託しており、Y社内部では経理担当の1名がその関連事業に従事しているのみであって、もともとY社において何らの部門もそれに従事する人員も存しなかったものであるから、Y社において、不動産の賃貸をその事業として行っていたといえるにしても、これについて更に人員を配置する余地はなかったというべきであるし、専門の業者に対する不動産管理業務の委託を止め、不動産の管理を行う部門を創設するなどして、Xらを配転する義務を負っていたともいえないというべきである。
また、Y社の関連会社についても、同様に不動産事業部門に配置する余地はない上、油井管製造事業からの撤退により、同事業に従事させる可能性も失われたものであるから、Xらを転籍等させる余地はなかったというべきである。

2 被解雇者の選定については、事業撤退の判断が経営判断として合理的であり、他の事業部門等への配転可能性がない以上、油井管製造事業に従事していた従業員全員のうち希望退職に応じない者全てがその対象となるのは当然であるから、この点は本件解雇の効力を左右しない。

3 Y社は、油井管製造事業から撤退することを決定した後、平成27年12月11日から21回にわたってXらの所属する組合と団体交渉を行い、事業撤退に至る経緯について、組合の求める資料の開示に応じながら説明を重ねてきたものであり、交渉経過をみてもその交渉態度に不誠実な点は見当たらず、Y社が全従業員に対する希望退職募集を開始した時期も含めて、Xらに対する説明等が不相当であったことを基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はない。

4 以上によれば、Y社が油井管製造事業からの撤退を決断したことはやむを得なかったというべきであって、これに伴う人員削減の必要性は高度なものであり、解雇回避努力義務という面でも、Xらについて配転可能性等他業務に従事させる余地はなく、特別退職金の支給や就職支援サービスの利用など、解雇によりXらに与える不利益を緩和する措置も採られており、被解雇者選定の面での問題もない上、Y社が組合に対し資料を開示して上記事業撤退の経緯、必要性を説明するとともに、退職に伴う条件提示を行ってきたものであるから、手続面でも問題は認められない。したがって、本件解雇は、客観的に合理的理由があり、かつ社会通念上も相当と認められるものであって有効であるから、それが無効であることを前提とするXらの請求はいずれも理由がない。

唯一の事業を廃止するときであっても、上記判例のポイントのとおり、手続をしっかり踏むことが求められます。

拙速な対応をしてしまうと、整理解雇が無効と判断されることもありますのでご注意ください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇281 酒気帯び運転に基づく懲戒免職処分(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、酒気帯び運転等に基づく懲戒免職処分取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

鳥取県・鳥取県警察本部長ほか事件(広島高裁松江支部平成30年3月26日・労判ジャーナル78号42頁)

【事案の概要】

本件は、鳥取県警察本部の事務吏員であったXが、職務外で酒気帯び運転及び当て逃げをしたこと等を理由として、鳥取県警察本部長から懲戒免職処分を受けたこと、同処分を受けたことを理由として、同本部長から一般退職手当等の全部を支給しない旨の処分を受けたこと、酒気帯び運転及び安全運転義務違反を理由として、鳥取県公安委員会から運転免許取消処分を受けたことについて、いずれの処分にも鳥取県警察本部長の裁量権の範囲を逸脱し又は濫用した違法があると主張して、鳥取苑に対し、上記各処分の取消しを求めた事案である。

原判決は、Xの上記請求をいずれも認容したため、鳥取県がこれを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

運転免許取消処分取消請求は認容

懲戒免職処分等取消請求は棄却

【判例のポイント】

1 飲酒運転が死亡事故等の重大な結果を引き起こしかねない、それ自体危険かつ悪質な行為であること、飲酒運転に起因する事故は後を絶たず、飲酒運転撲滅に向けた社会的要請が高まっていること、本件運転についても、その動機や経緯に特に酌むべき点は全くないこと、本件事故を引き起こし、その後も本件バンパー脱落時には別の箇所で縁石に接触しそうになるなどその走行方法は危険であり、走行距離も短くはなかったこと、Xは、警察組織の一員として、飲酒運転防止に向けた指導及び注意喚起を再三、しかも本件運転の直前の会議でも受けていた中で飲酒運転に及んだものであり、本件運転が他の警察組織職員に心理的な悪影響を与え、警察組織に対する信頼を大きく損ない、社会的な影響も大きいとみられ、本件運転について強く非難されるべきであること等から、本件懲戒免職処分は、鳥取県警察本部長が有する裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したものとして違法であるということはできない

2 Xは、交通違反や交通事故さえしなければ飲酒運転は発覚しないものと考え、安易に飲酒運転に及び、本件事故を引き起こすなど危険な状態で約8.3キロメートルも本件車両を走行させ、本件事故後に事故現場を走り去っていること等に照らすと、Xには本件懲戒免職処分以前に前歴や処分歴はなく、勤務成績もおおむね良好であったこと、Xがデリニエーターの被害を弁償したこと等を考慮しても、本件退職手当支給制限処分は、懲戒免職処分の場合に全部不支給を原則とし、一部の支給を制限する場合の検討事項を定めた本件支給基準に反するとはいえないし、鳥取県警察本部長が有する裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したものとして違法であるということはできないこと等から、本件退職手当支給制限処分の取消しを求める元職員の請求は、理由がない

高裁で結論が変更された事案です。

職務外とはいえ、警察組織職員ということもあり、厳しい判断となったものです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇280 懲戒(降格)処分と相当性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、懲戒(降格)処分無効と支店長の地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

大東建託事件(東京地裁平成30年4月26日・労判ジャーナル78号32頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員Xが、平成28年9月30日付けのA支店支店長から担当へ降格する旨の懲戒処分は無効であると主張して、Y社に対し、平成30年3月31日まで同支店長の地位にあることの確認を求め、同処分以降に係る同処分前の賃金との差額、平成28年10月分から同年12月分までの約199万円、平成29年1月分から同年6月分までの約419万円、同年7月分から同年10月分までの約304万円、同年11月分から平成30年3月分までの約521万円等の支払を求めるとともに、Y社の従業員からパワハラを受けたとして、民法715条の使用者責任に基づき、慰謝料500万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒処分(降格)は有効

損害賠償請求も棄却

【判例のポイント】

1 Y社において、本件通知が平成27年4月1日に発出されており、立地・家賃審査依頼書や家賃審査書において事故歴の有無を確認する欄が設けられたことに鑑みても、Xは、支店長として当然にその内容を把握し、支店内で同通知を周知徹底すべき立場にあったものであるから、本件事故歴が発覚した時点で、本件通知の内容に従って本社に一般申請すべきであったにもかかわらず、本社に報告等をしないで本件売買契約を締結したものであり、その結果、Y社は、本件土地の入居者募集等のやり直しなどを余儀なくされたことからすれば、Xの行為は、Y社の定める規程及び指示に違反し、Y社の信用等を損なう行為であるといえること等から、Xの上記各行為は、Y社の懲戒規程所定の懲戒事由に該当する

2 Xは、支店長という立場にありながら、部下であるB課長及びC課長に対し、本件通知に反する行為を指示したものであり、その結果、Y社は、組織としての本件火災死亡事故の報告を受けて認識していた状態にあったにもかかわらず、Xの通知違反の指示により、火災死亡事故の告知をせずに本件土地上のアパートの入居者を募集するに至ったものであり、入居者に対する告知義務違反ともなり得る重大な法令遵守(コンプライアンス)上の問題を生じさせた行為である上、Y社が大東建物管理の損害を補填するなど一定の実損害も発生していること等から、Xの上記各行為による責任は、相当に重いといわざるを得ず、本件懲戒降格処分によりXの基本給等が大幅に減額されたことなどXの不利益を考慮しても、本件懲戒降格処分が重すぎるものとして社会通念上相当性を欠くということはできないというべきである。

この事案で懲戒解雇までしてしまうと相当性が認められない可能性も出てくるところです。

降格処分により、大幅な賃金の減額が生じたとしても、事案の重大性からすれば相当であるという判断です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇279 産業医意見の信用性が否定される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、産業医意見の信用性が否定され休職期間満了に伴う退職扱いが無効とされた裁判例を見てみましょう。

神奈川SR経営労務センター事件(横浜地裁平成30年5月10日・労経速2352号29頁)

【事案の概要】

本件は、労働保険事務組合であるY社の従業員であったXらが、X1はうつ状態を、X2は適応障害を発症してそれぞれ休職したところ、休職期間満了日の時点で復職不可と判断され自然退職の扱いとされたことについて、主位的には、Xらは復職可能であったことから本件各退職扱いはY社の就業規則の要件を満たさず無効であるとして、予備的には、仮にXらが復職可能でなかったとしても、XらとY社との間の従前の経緯に照らし本件各退職扱いは信義則に反し無効であるとして、Y社に対し、X1は、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②給与等の支払をそれぞれ求め、X2は、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②給与等の支払をそれぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

退職扱いは無効

【判例のポイント】

1 X1が本件退職扱いAの時点で従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたことの証拠としては、うつ状態の病状改善により復職可能とのG医師の診断書(平成27年5月21日付け)があるところ、①X1は、本件休職命令Aの際には、不安、気分の落ち込み、眠れない、食欲不振、考えがまとまらない、死にたいと思う精神状態で、投薬も受けていたが、本件退職扱いAの当時は、睡眠がとれるようになり、食欲も出て、投薬も終わっており、気分の落ち込み、考えがまとまらない、死にたいと思う精神状態も認められなかったこと、②本件面談Aにおいても、X1は、体調がよく、復職の意欲があることを話し、何ら不自然不合理な点は認められず、精神障害が疑われる事情は何らうかがわれなかったこと、③X1は、平成26年10月17日、平成27年1月30日、同年5月11日に行われた第2訴訟の各期日に、何ら問題なく出廷できていることからすれば、上記診断書は、信用できる。
そして、X1は労働保険事務組合関係業務、庶務関係業務等、具体的には、窓口業務、電話対応、書類整理に従事していたところ、これらの業務の内容からすれば、X1は、同年6月7日の本件退職扱いAの当時、従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していたものと認められる。

2 H医師は、Xらについて、①自分の行動分析も含めて客観的な振り返りができず、冷静に内省できているとは言い難い、②再発予防対策として必須の、組織の一員としての倫理観、周囲との融和意識に乏しい、③自分の症状発現には、組織の対応及び周囲の職員の言動が一義的原因であるとして一貫して組織及び職員を誹謗するに終始したと判断している。
しかしながら、上記判断は、一定の基準ないし価値判断、すなわちXら自身が、Y社や他の職員とのトラブルの原因であるとの見解を前提としたものと解されるところ、第1訴訟が本件和解条項を含む和解で終了していること、第2訴訟もX1の主張が認められ、請求認容判決が宣告され、これが確定していることからすれば、その見解には疑問がある上、本件面談A及び本件面談Bにおいて、XらにH医師の上記評価の根拠となり得るような発言があったとの事情も窺われないことからすれば、H医師の上記評価は、採用できない
H医師は、本件各退職扱いの時点において、X1については、人格障害、適応障害であり、統合失調症の症状も診られると指摘し、X2については、自閉症スペクトラム障害、うつ状態、不安症状、自律神経失調症状があり、依存性の性格傾向があると指摘する。
しかしながら、H医師自身も、上記精神障害の指摘は診断ではなく判断であると述べており、Xらは医学的には病気ではなかったと認めていること、さらに、精神科医であるJ医師が、X1について統合失調症、人格障害であることを否定し、同じく精神科医であるI医師も、X2について自閉症スペクトラム障害、人格障害であることを否定していること、そもそも本件面談Aは1回約40分、本件面談Bは3回で、各回約30分から約40分にとどまり、このような限られた時間での面談により、上記のような判断が可能であるかについても疑問が残ることからすれば、H医師の前記各指摘は、合理的根拠に基づくものであるとは認められず、採用できない
以上によると、Xらが本件各退職扱いの時点で復職不可の状態であったとするH医師の意見書及び証言は、到底信用できない。

休職期間満了時に、主治医意見と産業医意見が相反する場合に会社としてはどのように判断すべきかという問題は、判断がとても難しいですが、よく発生する問題です。

裁判所の考え方を踏まえて、慎重に対応しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇278 事前承認のない休日出勤中の事故後の解雇と解雇制限の適用の是非(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、事前承認のない休日出勤中の事故後の解雇と労基法19条1項に関する裁判例を見てみましょう。

日本マイクロソフト事件(東京地裁平成29年12月15日・労判1182号54頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結したXが、Y社に対し、平成25年6月29日付け解雇は無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 AがXに対して同月9日の休日出勤を指示したとはいえないものの、事前承認を得ずに勤務することの多いXが同月9日から同月11日までの間に宿題提出のために作業すること、すなわち休日出勤をすることは想像に難くなく、許容していたといえる。そうすると、Xは、業務遂行のためY社の支配下にある事業場で本件事故に遭ったと認められ、業務起因性があるといえる。

2 本件事故があったとされる平成25年2月9日からY社が本件解雇を通知し以後の就労を免除した同年5月29日までの間において、Xは、午前休や全休を取得したと主張するが、Xの主張する日は、所定休日あるいは、所定労働日に所定労働時間7.5時間以上の勤務実績がある日であり、休業の事実が認められない。
したがって、労働基準法19条1項の解雇制限の適用はない

3 Xは、形式的に休業していなかったとしても、身体的状態として本来欠勤して療養すべき健康状態にあった以上、労働基準法19条第1項の解雇規制が直接適用ないし類推適用されるべきであると主張する。
しかし、労働基準法19条1項はあくまで業務上の傷病の「療養のために休業する期間」の解雇の意思表示を禁止している規定であることは文理上明らかであるから、Xの上記主張は採用しない。

労基法19条1項の解雇制限は、あくまでも「療養のために休業する期間」についてのものなので、休業していない場合には同条の適用はありません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇277 適格性欠如を理由とする解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、有期歯科医長に対する適格性欠如を理由とする期間途中の解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

国立研究開発法人国立A医療研究センター(病院)事件(東京地裁平成29年2月23日・労判1180号99頁)

【事案の概要】

本件は、5年の期間の定めのある労働契約(以下「本件労働契約」という。)に基づきY社の運営する病院(以下「被告病院」という。)の歯科医長を務めていたXが、歯科医療に適格性を欠く行為があり、部下職員を指導監督する役割を果たしていないなどとして、期間途中に普通解雇(以下「本件解雇」という。)をされたが、やむを得ない事由はなく、本件解雇は無効であるとして、労働契約上の権利を有することの地位の確認を求めるとともに、未払賃金、賞与及び慰謝料並びにこれらに対する遅延損害金の支払を請求する事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効
Y社は、Xに対し、平成26年5月以降、本判決確定の日まで、毎月16日限り、93万1055円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、491万6000円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y病院は専門性・先進性を備えた医療行為を行うことを標榜しており、歯科の診療内容をみても、一般の歯科医院からの紹介患者を広く受け入れるなどして、治療困難な患者や症例等に積極的に対応して高度な治療行為を行っているほか、Y病院の他部門と連携を取りつつ入院患者や手術予定患者の口腔管理を行っているというのであるから、Y病院で歯科医療に携わる場合には、一般的な歯科医療機関に従事する以上に歯科医療に係る高度な知識や技術、他部門と連携して医療行為を行うための協調性やコミュニケーション能力が必要とされており、取り分け歯科医長の地位に就く者については、自身がこうした資質を備えるほか、こうした資質を備えた他の歯科医師その他のスタッフを指導し、統率する能力が求められているということができる。Y社が歯科医長を募集した際に掲げた上記の要件等や相応に高額の給与等が保障されていることにも、これらの点が反映されているものとみることができる。
他方で、歯科医療行為に係る知識や技術については、それ自体高度な専門性を有する事柄であり、当該患者の身体の状況について実際に得られた具体的な情報を基に、当該患者の意思・希望や、治療行為を行う際の人的・物的態勢等を踏まえつつ、その都度適切な治療行為を選択して実施すべきことからして、その治療行為の選択には担当する歯科医師に相当広範な裁量が認められることも論をまたないところである。Y社は、本件解雇の理由として、Xのした多数の治療行為について医療安全上の問題があったことを指摘するが、上でみたような医療行為の特性を踏まえるならば、治療行為が解雇の理由として考慮に値するようなものに当たるか否かは、当該治療行為が相当な医学的根拠を欠いたものか、実際に当該治療行為が行われた患者の身体の安全等に具体的な危険を及ぼしたか、治療行為に際して認められる裁量を考慮しても合理性を欠いた許容できないものといえるかといった観点からの検討が不可欠なものということができる

2 本件解雇に至る経緯は前記のとおりであり、本件解雇理由については解雇理由書でその内容をある程度明らかにしているとはいえ、事前にはその内容の開示に応じていないし、そもそも本件問題行為については解雇時に考慮された事情として明らかにされていない。本件解雇理由や本件問題行為がXのした医療行為としての相当性を問題にしていることからすれば、当事者であるXに具体的事実を示さず、弁明の機会を一切与えていない点は、手続面で本件解雇の相当性を大きく減殺させる事情といわなければならない
本件解雇理由及び本件問題行為はY社主張の事実自体認められないものが多くを占め、一部認められるもの(本件解雇理由21及び本件問題行為(14))もあるが、定められた期間途中での解雇を可能とする、やむを得ない事由に該当するとはいい難く、さらに、上記でみた事情も勘案するならば、本件解雇は無効という評価を免れ難いものというべきである。
したがって、Xは、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあり、賃金請求権を有すると認められる。

3 解雇や退職勧奨を受けた事実が周囲に知られた場合に通常は不名誉を感じることを否定できないとしても、解雇された労働者が被る精神的苦痛は、当該解雇が無効であることが確認され、その間の賃金が支払われることにより慰謝されるのが通常であり、これによってもなお償うことのできない精神的苦痛を生ずる事実があったときに慰謝料請求が認められると解するのが相当である。
Xは、A病院長が退職勧奨の事実を言いふらし、歯科スタッフを通じてその事実がY社病院外へも流布されたと主張し、これに沿う供述をするが、情報がY社病院外に拡散した経過は定かではない上、XがY社から解雇を受けたことが公にされた場合に通常生ずる以上の精神的苦痛を被ったとまではにわかに認め難い
よって,XのY社に対する慰謝料請求は理由がない。

上記判例のポイント1のとおり、歯科医師の専門性の高さから、解雇事由の判断について労働者に広い裁量を認めています。

このような規範からすると、よほどの重大な治療行為の瑕疵が認められない限り解雇は有効とはなりません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇276 不正行為を理由とする懲戒解雇と事前調査の相当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、不正行為等に基づく懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

埼玉県森林組合連合会事件(さいたま地裁平成30年4月20日・労判ジャーナル77号30頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、Y社がした懲戒解雇及び普通解雇は無効であるとして、雇用契約上の地位の確認並びに未払賃金及び未払賞与等の支払及び、Y社の理事を務める理事らが、一体となって本件解雇を画策し、極めて悪性の強いパワーハラスメントを行い、Y社をして、本件解雇を行わせたとして、連帯して、慰謝料等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇及び普通解雇は無効

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 Y社が主張する事由のうち、西川広域森林組合への発注、公印の無断使用(農協分受託契約)及び扶養手当の受給に関しては、Xの行為は、「職務上の義務に違反し、又は職務を怠ったとき」に当たり、Xに懲戒の事由があると認めることができるものの、西川広域森林組合への発注については、Y社に実損害を生じさせたと認めることはできず、また、公印の無断使用(農協分受託契約)については、3件中2件につき事後の決裁が得られており、扶養手当の受給についても、Xはその過誤を認め返納を申し出ているから、これらを懲戒解雇を相当とするほどの事由であると認めることはできず、Xには一定の懲戒事由がある上、代理人弁護士による相当の弁明の機会も行われているが、その前提となる調査委員会の調査は十分なものでなく、前記懲戒事由が、それ自体で懲戒解雇を相当とするほどの事由であるとは解されないことからすれば、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、懲戒権の濫用に当たるから、労働契約法15条に反し、無効である。

2 Xは、理事らは、何らの解雇理由もないのに、一体となってXを解雇しようと画策し、極めて悪性の強いパワーハラスメントを行って、結論ありきで解雇の手続を推し進め、Xを不当解雇したと主張するが、Xには一定の懲戒事由があることからすれば、理事らが何らの事由もなく一体となってXを解雇しようと画策したなどと認めることはできないこと等から、Y社のXに対する本件解雇は違法であるものの、理事らのXに対する不法行為の存在は認められず、そして、Y社がした本件解雇が違法であるとしても、Xには一定の懲戒事由の存在が認められることからすれば、本件解雇により賃金及びその遅延損害金の支払によってまかなわれない精神的損害を生じたと認めることはできないから、Xの不法行為に基づく慰謝料請求には理由がない。

相当性の要件の判断を使用者自ら適切に行うことは本当に難しいです。

顧問弁護士の客観的な判断を参考にして判断するというのが現実的だと思います。

解雇275 解雇のハードルの高さがよくわかる事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、介護職員の業務命令違反等に基づく解雇に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人蓬莱の会事件(東京高裁平成30年1月25日・労判ジャーナル75号44頁)

【事案の概要】

本件は、特別養護老人ホームや老人デイサービスセンターの経営等を目的とする社会福祉法人であるY社との間で労働契約を締結して、特別養護老人ホームに勤務していたXが、Y社から解雇されたことについて、①上記解雇は、客観的に合理的な理由及び社会通念上の相当性を欠き、解雇権を濫用した違法無効なものであると主張して、Y社との間において労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②Y社に対し、労働契約に基づき、解雇の日の後である平成27年12月1日から本判決確定の日までの賃金+遅延損害金、平成27年12月期の期末手当として47万5326円+遅延損害金並びに平成28年3月から本判決確定の日まで毎年3月末日限り11万8832円、毎年6月及び12月の各末日限り各47万5326円の期末手当の支払を求め、併せて、③上記解雇並びにこれに先立ち被控訴人法人及び社会保険労務士であるY2が共同して行った退職勧奨が不法行為(違法な退職強要)に当たると主張して、Y社らに対し、共同不法行為に基づき、損害賠償金330万円(慰謝料300万円、弁護士費用30万円の合計額)+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原判決は、Xの各請求をいずれも棄却し、Xがこれを不服として控訴をした。

【裁判所の判断】

解雇無効

賃金等支払請求は一部認容

損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 解雇は継続的契約関係を将来に向かって一方的に解消させるものであるから、仮に解雇事由が存在しても、将来これが解消する可能性があると認められるのであれば、労働契約の継続に支障はなく、解雇するまでの必要はないというべきところ、Xは、本件解雇通知を受けるに先立ち、平成27年には同僚のE看護師からB主任に関する発言について厳しく注意されたにもかかわらず、態度を改めようとはせず、同年4月、8月及び9月の3回にわたりA施設長から呼出しを受け、勤務態度や他の職員との協調性の欠如について問題点を指摘されながら、何ら顧みるところはなく、女性職員が多い職場特有の問題であるなどとして責任を転嫁し、問題の解決をはぐらかそうとする態度に終始したことなど、服務規律違反が改善される見通しがあったとは認められず、Xについて、将来、解雇事由解消の具体的な可能性があるとまでは認めることができない

2 以上のとおり、Xの債務不履行(服務規律違反)は就業規則所定の解雇事由(適格性の欠如)に該当し、将来解消される見通しがあったとはいえないところである。
しかしながら、解雇が労働者にもたらす結果の重大性に鑑み、使用者において解雇回避努力(解雇回避措置)を尽くさない限り、解雇について客観的に合理的な理由があるとはいえないと解するのが相当である。
これを本件についてみると、Xによる服務規律違反は、主として年下の女性上司であるB主任に対する反感及び認知症の進んだ重症度の高い施設利用者を介護対象とする介護課2階の労働環境に起因すると認められ、介護課2階に異動するまでの1年余はさしたる問題行動は見られなかったことにも照らせば、Xを他の部署に配置転換し、他の上司の下で稼働させることを検討すべきであったと解されるところ、A施設長は、平成27年4月ころ、Xに対してデイサービス部門への配置転換を打診したにとどまり、これを超える解雇回避の措置を検討したことを認めるに足りる証拠はなく、介護課2階のほかにXを配置できる部署がなかったと認めるに足りる証拠もない
そうすると、Y社による解雇回避努力(解雇回避措置)が十分に尽くされたとはいえず、本件解雇に先立つ弁明の機会の付与などその余の点につき判断するまでもなく、本件解雇について、客観的に合理的な理由があったと認めることはできない。

3 この点につき、Y社は、業務指導、自宅待機、退職勧奨という一連の手続を経ても、Xは業務改善の要請に応じようとせず、Xを職場に戻すことで職場の秩序が乱れ、他の職員も業務上の指示命令に応じなくなり、介護課2階の責任者であるB主任も退職してしまうなど、本件施設の業務に重大な支障が生じるため、本件解雇はやむを得なかったと主張する。
しかしながら、この主張は、Xをそのまま介護課2階に配置することを前提としたものであり、前示のとおり他の部署へ配置転換することで解雇を回避できる可能性を否定できない以上、採用することができない。

4 Xは、Y社らによるXに対する退職強要及び不当解雇が不法行為に該当すると主張し、本件解雇及びこれに先立つ退職勧奨により精神的苦痛を受けたことによる損害賠償として慰謝料及びこれに関する弁護士費用の支払を求める。
そこで判断するに、本件解雇は前記のとおり無効であるが、これによる損害は、Xが復職し、それまでの未払賃金が支払われることで回復されるものと認められ、これを超えて本件解雇により慰謝料請求権が発生するものとすべき特段の事情があると認めるに足りる証拠はない。
加えて、本件においては、解雇事由の存在を否定できず、Xによる服務規律違反の状態が改善する見通しがあったとはいえないのであるから、Y社において、本件施設の秩序維持及び業務遂行の必要から、Xに退職勧奨をし、最終的に普通解雇を選択したこと自体は理解できるところであり、その過程におけるY社らの行為に違法とすべき点はなく、解雇回避努力(解雇回避措置)を尽くさなかったことから直ちに控訴人に慰謝料請求権を認めるべき共同不法行為が行われたものともいい難い。

解雇のハードルの高さを感じずにはいられませんね。

上記判例のポイント1を読むと、会社側の苦労がよくわかります。

会社とすれば、配置転換しても解決しないと考えるでしょうね・・・。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇274 休職期間満了時の復職の可否の判断方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、休職期間満了後の退職扱いに関する裁判例を見てみましょう。

名港陸運事件(名古屋地裁平成30年1月31日・労判ジャーナル74号62頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、業務外の傷病を理由にY社から休職命令を受けていたところ、休職期間の満了に当たり、傷病から治癒し休職事由が消滅したことを理由に復職の申出をしたにもかかわらず、Y社がXの復職を認めずXを休職期間満了により退職扱いとしたことは違法無効であると主張して、XがY社に対し労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、休職期間満了日の翌日からの未払賃金の支払等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

退職扱いは無効→地位確認認容

【判例のポイント】

1 Xが復職を希望した平成27年9月から10月当時のXの健康状態については、徐々に快方に向かっていて、遅くとも同年9月末頃の時点では、服薬をせずとも症状は落ち着いており、日常生活には支障のない健康状態にあったということができること等から、Xの健康状態については、本件診断書のみならず、休職事由となった私傷病の内容や症状・治療の経過、Xの業務内容やその負担の程度、Xの担当医やY社の産業医の意見等を総合的に斟酌し客観的に判断すれば、遅くとも休職期間の満了日である同年10月20日の時点では、日常生活に支障がないというにとどまらず職務遂行の可能性という観点からも、1日8時間の所定労働時間内に限ってではあるが、私傷病から「治癒」すなわち「従来の業務を健康時と同様に通常業務遂行できる程度に回復」しており、本件休職命令における休職事由は消滅していたものと認めるのが相当である。

2 確かに、本件においては、R病院の診療録中の医師の記載内容や産業医の意見等からすれば、Xが、胃の全摘出手術後、医師の専門的見地から客観的に見れば、必要以上に長期間にわたってR病院に入院及び再入院してきたとうかがわれなくもないが、本件休職命令における休職事由は「胃癌術後状態の療養及び治療への専念」であって、入院治療に限られるわけではなく自宅療養も含むものといえ、そして、Xがあえて事実と異なる症状を申告するなどして意図的に入院治療や自宅療養を引き延ばして欠勤してきたとまでは認め難く、Xが休職期間の満了直前になって復職を申し出たことが信義則に反し許されないものと解すべき事情があるということはできないから、Xの復職の申出が本件就業規則所定の要件を満たしていることを理由とするXの地位確認の請求は理由がある。

3 Y社は、Xからの復職の申出を踏まえて、平成27年9月14日に取締役や社労士らがXと面談した際には、少なくともXの段階的な復職を認める方向の発言をしていたものであるが、その後、産業医や医師から、Xの復職申出の時期に疑問を呈する内容の意見を聴取するや、改めてXと面談したり、就業規則に従ってY社の指定する医師への受診をXに命じることもなく、また、Xの復職時期等についての名古屋ふれあいユニオンからの説明要求にも応じないうちに、Xにとってみればおそらく唐突に、同年10月20日をもってXを退職扱いとしたものであるということができ、Y社の対応は、Xの復職に関する判断を誤ったというにとどまらず、手続的な相当性にも著しく欠けるものであって、その限度において、不法行為に当たるものといわざるを得ず、その慰謝料額としては、Y社がXの復職を拒否したことを無効と認めてXが労働契約上の権利を有する地位にあることを確認し、未就労の期間の賃金の支払を命ずることによって、Xの経済的損失はおおむねてん補されるといえること等の事情も考慮すれば、30万円が相当である。

上記判例のポイント3は参考にしてください。

このような事例で、手続的な相当性を著しく欠いているという理由から慰謝料が認められる例は珍しいです。

対応方法については顧問弁護士に相談をして決定しましょう。