Category Archives: 解雇

解雇293 積極性の欠如を理由とする普通解雇が有効と判断された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、積極性の欠如等を理由とする普通解雇が有効とされた裁判例を見てみましょう。

アクセンチュア事件(東京地裁平成30年9月27日・労経速2367号30頁)

【事案の概要】

本件は、コンピュータ・ソフトウェアの設計、開発、制作、販売、リース、賃貸及び輸出入等を目的とする株式会社であるY社に雇用されたXが、Y社によって行われた解雇が無効かつ違法であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認とともに、同契約に基づく上記解雇後の賃金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ・・・そのように業務に臨む基本的かつ根本的な姿勢の問題をXは入社当初からY社によって繰り返し指摘されていたにもかかわらず、結局のところXは、自身の問題点を、そもそも自身が得意とする仕事を割り当てない会社側の問題点であるとすり替えて、自らの意識や仕事ぶりを全く顧省みることなく、これによって他のメンバーとの協働に支障を来していることにも思慮が至らないのであるから、Xについては、少なくとも就業規則54条2号に定める解雇事由があり、本件解雇には客観的に合理的な理由があるといえる。

2 そして、Xの解雇事由がそのような業務に臨む基本的かつ根本的な姿勢の問題であり、これを長年にわたって繰り返されたフィードバック等による私的によって容易に認識し得たにもかかわらずPIPで改善すべき点を示されるまで全く明らかにされてこなかったなどとしてそもそもの認識すら欠如していたこと、仕事の姿勢に対する基本的かつ根本的なY社の考えを明らかにされてもなお「積極性」の意味を手前勝手に解釈してこれに反する考えを一切受け容れないこと、そのようなXに対してY社において普通解雇の可能性を示唆しつつPIPを実施したことや退職勧奨を試みたこと等を併せて鑑みれば、本件解雇は社会通念上相当なものであるといえる。

3 これに対し、Xは、Y社のアサイン制度が解雇権濫用法理との関係ではらむ問題点等を主張するが、それは単に一般的抽象的な懸念にすぎず、Xの主張を採用することはできないし、Xの技術力が一定程度評価されていたことや職位を落とすことによってアサイン継続の可能性が検討された事実があったことといったXに有利な事情を全て踏まえても、前記認定・説示に係る具体的なXの勤務態様及び業務に臨む基本的かつ根本的な姿勢の問題に照らして、解雇の有効性に係る上記判断が覆るものではない。
したがって、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当であって、有効である。

一般には、積極性の欠如等を理由に解雇することはとてもハードルが高いです。

本件でも、会社はいきなり解雇したわけではなく、根気強く指導・教育をしています。

多くの場合、会社がそこまで忍耐強く指導できないために、相当額の解決金を支払って和解しているわけです。

また、今回は結果として解雇が有効になっていますが、仮に相当性の要件で解雇が無効となれば、バックペイの金額がかなり高額になるというリスクを会社側は負うことになります。

リスクヘッジの意味でも、ある程度の解決金を支払うという判断がなされることは十分にあり得ることです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇292 職場内での録音禁止命令への違反と普通解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、職場内での録音禁止命令への違反等を理由とする普通解雇に関する裁判例を見てみましょう。

甲社事件(東京地裁立川支部平成30年3月28日・労経速2363号9頁)

【事案の概要】

1 本訴請求

本訴請求事件は、Y社に期間の定めなく雇用されたXが、Y社に対し、Xに対する平成28年6月27日付け普通解雇は無効であると主張して、Xが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、平成28年7月分以降の賃金+遅延損害金の支払を求めた事案である。

2 反訴請求

反訴請求事件は、別紙物件目録記載の建物(A寮)を所有するY社が、Xに対し、Xが本件普通解雇によりY社の従業員たる地位を失ったことを前提に、社宅使用契約の終了に基づき、A寮の一室で社宅である別紙物件目録記載の建物部分(本件社宅)の明渡しを求めるとともに、明渡期限の翌日である平成28年7月12日から本件社宅の明渡済みまで1か月9500円の割合による使用料相当損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

本訴請求はいずれも棄却

Xは、Y社に対し、本件社宅を明け渡せ。

Xは、Y社に対し、平成28年7月12日から前項の明渡済みまで、1か月9500円の割合による金員を支払え。

【判例のポイント】

1 企業にとって納期の遵守が信用の確保などの点で重要であることは、社会通念上明らかであり、被用者は、納期に終了していない業務があるのであれば、定時に帰宅する場合であっても、少なくとも、定時前ないし帰宅前に上司等にその旨を報告し、必要な引継ぎを行うべき雇用契約上の義務を負うものと解される。
しかし、Xは、納期が翌日の業務があるにもかかわらず、それを自分で完成させることも、必要な報告・引継ぎを行おうとすることもなかったばかりか、指導係からの注意にも何ら応答せずに帰宅しているのであって、従業員としてなすべき基本的な義務を怠り、これについての注意や指導を受け入れない姿勢が顕著で、改善の見込みもないといわざるを得ない。このことは、Xが本人尋問において、納期が明朝朝一番に迫っていても残業命令がない限りは定時に帰り、命令がない限りはその旨を報告する必要もないと明言していることからも顕著であり、Y社がこのようなXに任せられる仕事はないなどと判断したのも、やむを得ないものである。

2 Xは、Y社において、就業規則その他の規定上、従業員に録音を禁止する根拠がないなどと主張する。しかし、雇用者であり、かつ、本社及び東京工場の管理運営者であるY社は、労働契約上の指揮命令権及び施設管理権に基づき、被用者であるXに対し、職場の施設内での録音を禁止する権限があるというべきである。このことは、就業規則にこれに関する明文があるか否かによって左右されるものではない
また、Xは、録音による職場環境の悪化について、具体的な立証がないなどと主張する。しかし、被用者が無断で職場での録音を行っているような状況であれば、他の従業員がそれを嫌忌して自由な発言ができなくなって職場環境が悪化したり、営業上の秘密が漏洩する危険が大きくなったりするのであって、職場での無断録音が実害を有することは明らかであるから、Xに対する録音禁止の指示は、十分に必要性の認められる正当なものであったというべきである。
さらに、Xは、Y社において秘密管理がなされていなかったとして、録音を禁止する必要性がなかったなどと主張する。しかし、Y社が秘密情報の持ち出しを放任しておらず、その漏洩を禁じていたことは明らかであり(就業規則7条)、Xが主張するような一般的な措置を取っているか否かは、情報漏洩等を防ぐために個別の録音の禁止を命じることの妨げになるものではないし、そもそも録音禁止の業務命令は、上記によれば、秘密漏洩の防止のみならず、職場環境の悪化を防ぎ職場の秩序を維持するためにも必要であったと認められるのであって、Xの主張は、採用することができない。

3 以上を総合すれば、Xは、もともと正当性のない居眠りの頻発や業務スキル不足などが指摘され、日常の業務においても、従業員としてなすべき基本的な義務を怠り、適切な労務提供を期待できず、私傷病休職からの復職手続においても、目標管理シート等の提出においても、録音禁止命令への違反においても、自己の主張に固執し、これを一方的に述べ続けるのみで、会社の規則に従わず、会社の指示も注意・指導も受け入れない姿勢が顕著で、他の従業員との関係も悪く、将来の改善も見込めない状況であったというべきである。
これによれば、Y社が「著しく仕事の能率が劣り、勤務成績不良のとき」及び「その他前各号に準ずる程度のやむを得ない事由があるとき」(就業規則79条4号、9号)に該当するとして行った本件普通解雇は、客観的に合理的な理由を欠くとも、社会通念上相当でないとも認められない。したがって、本件普通解雇は、解雇権を濫用したものとはいえないから、有効というべきである。

録音禁止命令については特段の事情がない限り、使用者が業務命令として行うことが認められます。

また、解雇事件において、労働者が社宅に居住し続けながら訴訟を行う場合、本件のように反訴を提起されます。解雇が有効となった場合には、遡及して賃料支払義務を負いますので注意が必要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇291 教員の教育的指導という名の体罰は許されるか?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、教員の体罰等を理由とする懲戒免職処分取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

宮崎県・宮崎県教育委員会事件(福岡高裁宮崎支部平成30年6月29日・労判ジャーナル81号44頁)

【事案の概要】

本件は、宮崎県教育委員会が、本件高校の元教員Xに対し、Xが顧問を務めていた本件柔道部の生徒に対する体罰等を理由として、地方公務員法29条1項1号、3号により、懲戒処分として免職する旨の本件処分を行ったため、Xが本件処分は裁量権を逸脱、濫用したものであるなどと主張して、県教委に対し、本件処分の取消しを求めたところ、元判決がXの請求を棄却したため、Xが原判決を不服として本件控訴を提起した事案である。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xが行った行為は、本件柔道部の複数の部員に対し、長期間にわたり、その都度、複数回、平手で叩いたり、足で蹴ったりする激しい暴行を加えたというものであり、Xのこれらの行為は、その態様や程度等に鑑みると、指導と呼べるようなものではなく、単に部員に対して恐怖心を植え付けるものであり、これらの行為が15歳から18歳までの女子に対して向けられたものであることをも併せ考えると、Xの上記体罰は、部員に対し、身体的苦痛のみならず、極めて深刻な精神的苦痛を与えるものであったといわざるを得ず、著しく悪質で、重大な結果を招くものであったというべきであり、Xは、教職員として、生徒を指導し教育する立場にありながら、その生徒に対して、長期間にわたり、繰り返し、極めて悪質で、かつ、重大な結果をもたらす行為に及んでいることなどからすると、県教委がXに対して懲戒処分のうち免職を選択して本件処分を行ったことは、社会観念上著しく妥当を欠くとはいえず、裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したものということはできない。

昔は公然と行われていたこのような「指導」は、今の時代はもはや指導とは評価されません。

自分が学生時代に受けた指導を、現在、指導者として行うことは許されません。

「自分たちのときはこのくらい当たり前だった」という認識を取り除くことが求められます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇290 教諭の未成年者との性交渉を理由とする解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、元教諭の未成年者との性交渉等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人日本体育大学事件(東京地裁平成30年6月19日・労判ジャーナル81号48頁)

【事案の概要】

本件は、平成25年4月1日、Y社が、期間1年の常勤講師として雇用し、その期間満了後の平成26年4月1日、期間の定めのない専任教諭として雇用した元教諭Xを、未成年者との性交渉をもつ行為等、Y社との間の信頼関係を破壊する事項があったとして平成27年3月31日限り、Xを解雇したため、Xが、Y社に対し、上記解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものであり、権利を濫用したものとして無効であると主張して、労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、上記解雇の翌月である平成27年4月から本判決確定の日まで弁済期である毎月20日限り賃金1か月約38万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xには、Y社から雇用されるに先立ち、現職の教員であったのに、街中でたまたま見かけた約20歳年下の未成年の女性に声を掛け、その3日後には同女性と性交渉を持つに至ったという、Y社がその教員としての適性を疑ってしかるべき行為があり、その後、そのような事実がY社の知るところとなり、本事件は、報道機関により広く報道され、インターネット上の掲示板においては、本事件に関してXの実名も掲載されており、Xは、Y社に雇用されるに当たって提出した本件志望書中において、Y社がXの採否を判断するに当たり関心を持ってしかるべきW高校の退職事由につき、解雇されたとの事実を隠したのみならず、自発的な辞職であったと積極的な偽りを故意に記載し、その後の別件訴訟の結果等について、真実に反する自己に有利な内容虚偽の説明をしたものであり、Y社はこれらの事情を踏まえてXを解雇したものであるから、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠くものとはいえず、社会通念上相当であると認められないものともいえないのであって、権利を濫用したものとして無効であると解することはできない。

特に異論のない結果ではないでしょうか。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇289 幹部社員の試用期間中の解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、幹部社員の試用期間中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ラフマ・ミレー事件(東京地裁平成30年6月20日・労判ジャーナル81号2頁)

【事案の概要】

本件は、Y社のジェネラルマネージャー(GM)兼コマーシャルディレクターとして雇用されたXが、試用期間中に解雇されたことについて、同解雇は客観的合理的理由を欠き社会通念上も相当と認められず無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の地位確認を求めるとともに、雇用契約による賃金請求権に基づき、解雇後の賃金+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件雇用契約において、中長期的な業務計画及び財務の予算管理、損益に対する全責任を含むY社の運営管理、卸売(ホールセール)及び小売(リテール)の両業務において、年間の業務目標、予算、課題を準備、実行及び達成することなどがXの職責とされていたことに照らすと、Xの一連の行動については、明らかに不十分なものであって、Y社のGMとしての職責を果たしていないというべきであり、かつ、GMとしての職責を果たす上で資質、能力に欠けていると評価されてもやむを得ないというべきである。

2 Aの指導を経た後も、本件解雇時点におけるXの商品発注に関する理解は著しく不十分であり、Xは、商品の発注に関して、その職責を果たしておらず、かつ、Y社のGMとしての職責を果たす上で資質ないし能力に欠けていると評価されてもやむを得ないというべきである。

3 Xは、9月23日、FC2を作成する責任の所在をめぐって、Aの態度を強く非難する感情的な内容のメールを送信しているところ、Xには、Y社のGMとしてFC2を作成してフランス親会社の承認を得る責任があると認められることからすると、上記Aに対するメールにおける同人に対する非難は、合理的な理由のないものといわざるを得ない。したがって、上記メールにおけるXの態度は、感情的で自己抑制を欠いた態度と評価する他はない

どんな場合でもそうですが、資質・能力が欠けていることを示す証拠をどれだけ揃えられるかがカギです。

しっかり準備をしてから解雇をしないと厳しい戦いが待っています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇288 退職の意思表示の有効性の判断方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、女性歯科衛生士に対する産休後退職扱いの有効性等に関する裁判例を見てみましょう。

医療法人社団充友会事件(東京地裁平成29年12月22日・労判1188号56頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、雇用主であるY社に対し、出産のため休業中、自己都合退職の事実がないのに退職したものと扱われた上、育児休業給付金及び賞与の受給も妨げられたと主張して、労働契約上の権利を有する地位の確認に加え、次の各金員の支払を求める事案である。

1 毎月の賃金及びこれに代わる育児休業給付金相当額等の損害賠償金

2 賞与

3 慰謝料及び弁護士費用

【裁判所の判断】

退職扱いは無効

【判例のポイント】

1 退職の意思表示は、退職(労働契約関係の解消)という法律効果を目指す効果意思たる退職の意思を確定的に表明するものと認められるものであることを要し、将来の不確定な見込みの言及では足りない。退職の意思表示は、労働者にとって生活の原資となる賃金の源たる職を失うという重大な効果をもたらす重要な意思表示であり、取り分け口頭又はこれに準じる挙動による場合は、その性質上、その存在や内容、意味、趣旨が多義的な曖昧なものになりがちであるから、退職の意思を確定的に表明する意思表示があったと認めることには慎重を期する必要がある
・・・このような慣行等に照らしても、書面によらない退職の意思表示の認定には慎重を期する必要がある。むしろ、辞表、退職届、退職願又はこれに類する書面を提出されていない事実は、退職の意思表示を示す直接証拠が存在しないというだけではなく、具体的な事情によっては、退職の意思表示がなかったことを推測しうる事実というべきである

2 ・・・以上のよれば、平成27年12月支給の賞与が具体的な請求権として発生するための要件が具備されたと認めることはできないから、Xの賞与支払請求には理由がない。
ただし、賞与の支給及び算定が、使用者の査定その他の決定に委ねられていても、使用者は、その決定権限を公正に行使すべきで、裁量権を濫用することは許されず、使用者が公正に決定権限を行使することに対する労働者の期待は法的に保護されるべきであるから、使用者が正当な理由なく査定その他の決定を怠り、又は裁量権を濫用して労働者に不利な査定その他の決定をしたときには、労働者の期待権を違法に侵害するものとして不法行為が成立し、労働者は損害賠償請求ができるというべきである(土田道夫「労働契約法第2版274頁参照)。

3 Xは、本判決を債務名義としてY社の診療報酬債権を差し押さえて債権の満足を図る方法が想定されたところ、Y社は、和解協議を通じて、敗訴を予想するや、その事業をA理事長の個人経営に承継させることで、自らに診療報酬債権が発生せず、A理事長に診療報酬債権が発生する状態を作出し、その事実を当裁判所及びXに速やかに通知せず、人証調べ実施の直前に通知するという不意打ちをしている。Xは、その権利の実現のため、今後、A理事長等に対し、法人格避妊の法理、事業譲渡等による労働契約関係その他債務の承継、不法行為、医療法48条1項等に基づく損害賠償責任などを主張する別訴の提起を強いられると見込まれる。別訴では本件訴訟と重複する争点については効率的な審理が可能であるが、独自の争点もあるから審理に相当期間を要することが見込まれ、争点が継続してXの精神的損害はさらに拡大していくことが推認される。
他方、Y社との間の紛争の発生に関し、Xに何らかの落ち度があったことは認められない。
さらに妊娠を理由とする均等法9条3項違反の不利益取扱いとして有効な承諾なく平成20年に降格させ、その後、労働者が退職を選択した事案につき、不法行為に基づき慰謝料100万円を認容した裁判例(広島高判平成27年11月17日)があるところ、Y社は職そのものを直接的に奪っていること、Xには退職の意思表示とみられる余地のある言動はなかったこと、A理事長に故意又はこれに準じる著しい重大な過失が認められること、判決確定後も専ら使用者側の都合による被害拡大が見込まれることなどに照らして、上記裁判例の事案よりも違法性及び権利侵害の程度が明らかに強いといえる。いわゆるマタニティ・ハラスメントが社会問題となり、これを根絶すべき社会的要請も平成20年以降も年々高まっていることは公知であることにもかんがみると、Xの精神的苦痛を慰謝するための慰謝料には金200万円を要するというべきである。

この裁判例はとても重要です。

上記判例のポイント1の退職の意思表示の有無についての判断方法は是非、参考にしてください。

また、判例のポイント3では、本件事案の特殊性及びマタハラに関する社会的要請等から、かなり高額な慰謝料が認められています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇287 復職の可否判断における主治医と産業医の見解の相違(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、休職期間満了後の退職扱いに関する裁判例を見てみましょう。

菱江ロジスティクス事件(大阪地裁平成30年6月19日・労判ジャーナル79号10頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、平成28年1月16日付けで休職期間満了前に治癒していたなどとして労働契約上の地位確認並びに未払い賃金等の支払を求め、また、Y社のa支店運輸部製品管理課への配転が無効であるとして同課に勤務すべき労働契約上の義務がないことの確認を求め、さらに、上司からのパワーハラスメントにより精神的苦痛を受けたとして使用者責任に基づく損害賠償等の支払及び復帰プログラムの実施により人格権を侵害されたとして職場環境調整義務の債務不履行に基づく損害賠償等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、休職期間満了前の平成28年1月13日、同月7日より復職可能である旨の本件診断書を提出し、復職を申し出ていたから、Xは、休職期間満了前に労務の提供が可能な状態に回復していた旨主張するが、確かに、医師が同月6日付けで作成した本件診断書には、「H281月7日より復職可能と思われる」旨記載されていることが認められるが、本件診断書は、心療内科の医師が作成したものと認められるところ、医師が、Xの会社における職務内容を詳細に把握して本件診断書を作成したか否かは不明であり、本件診断書をもって直ちに、XがY社に対する労務の提供が可能な状態に回復していたと認めることはできず、また、Xは、同月13日、Y社に対し、本件診断書をファクシミリで送信すると共に、明日にも復帰可能である旨連絡したものの、結局、同月14日及び15日は体調不良を理由に出社せず、同月18日、19日及び20日も、Y社への連絡なく出社していないこと等から、Xが、休職期間満了日である同月16日の前に、Y社に対する労務の提供が可能な状態に回復し、休職事由が消滅したとまでは認められない。

2 Y社は、遅くとも休職期間満了の5か月程度前からXへの連絡を試み、3か月前にはXの自宅に赴いて連絡を取ろうとし、その後は、書面を送付して連絡を求めたり、休職事由が消滅しない状況が継続すれば就業規則の所定の手続により退職となる旨警告したりしており、Xが、休職期間満了3日前になって、出社する旨連絡した際も、Xの元上司であるg部長がa支店に赴いて待機するなどしているのであって、休職期間中であるXへの対応として不誠実な点は見当たらず、一方、Xは、平成27年10月2日付け診断書に記載された「2か月」が過ぎても、Y社に対し、休職事由の消滅や復職について前向きな連絡を行わず、平成28年1月13日(就職期間満了3日前)になって、Y社に対し、その1週間前の日付けで「復職可能と思われる」と記載された診断書をファクシミリで送信し、翌14日に出社する旨述べたものの、結局、同日及び同月15日は出社せず、同月18日ないし同月20日も、連絡なく出社しておらず、以上の経過を併せ鑑みれば、Y社が、就業規則に基づき、Xが、同月16日の休職期間満了により自然退職した旨の主張をすることが、信義則に違反するということはできない

主治医と産業医の見解が相違する場合、裁判所がどのような点に着目して判断するかを事前に理解しておくことは、このような事案を取り扱う上で、極めて重要です。

必ず顧問弁護士のレクチャーを受けてから対応しましょう。

解雇286 非違行為後の反省と解雇の相当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、論文盗用等を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

国立大学法人滋賀医科大学事件(大阪地裁平成30年5月16日・労判ジャーナル79号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y大学が、大学の医学部看護学科の元教授Xに対し、Xが、自ら指導していた大学院生の修士論文を盗用及び改ざんし、大学の名誉及び信用を傷つけたとして、平成28年1月28日付けで懲戒解雇したため、Xが、大学に対し、本件解雇が違法無効である旨主張して、労働契約上の地位の確認並びに本件解雇後の賃金(賞与を含む)等の支払を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料100万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件非違行為は、盗用が1件にすぎないことを考慮しても、もとより大学の名誉及び信用を著しく害する重大なものであるところ、Xから真摯な反省の態度が窺われず、Xの規範意識の低さが顕著であることをも併せ考慮すると、雇用関係を維持しがたいほどに重大であるといわざるを得ないが、他方において、Xは、約15年弱にわたり大学に勤務し、その間、学科長や学長補佐等の要職を務めるなど大学に貢献したこと、Xには、本件解雇以前に処分歴がないことが認められ、これらの点はXのために酌むべき事情ではあるが、上記非違行為の重大性に鑑みると、Xについて情状酌量の余地がないものとして、Xを懲戒解雇とすることが、懲戒処分としての相当性を欠き懲戒権の濫用に当たると認めることはできないこと等から、本件解雇は有効であるから、これが無効であることを前提とするXの地位確認請求及び賃金請求は、いずれも理由がない。

2 本件解雇は有効であり、違法な点は認められないから、Xの損害賠償請求は理由がない。

当該行為発生後の本人の反省の態度についても処分の相当性を判断する上で考慮されますので、注意が必要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇285 解雇の有効性と社宅の賃料請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、単身赴任手当の不正受給等を理由とした懲戒解雇処分につき有効性を認めた裁判例を見てみましょう。

KDDI事件(東京地裁平成30年5月30日・労経速2360号3頁)

【事案の概要】

本件本訴は、Y社と期間の定めのない雇用契約を締結し、Y社の借上社宅に居住していたXが、平成27年11月18日に単身赴任手当等の不正受給や社宅使用料等の支払を不正に免れたこと等を理由として懲戒解雇され、Y社の退職金不支給規定に基づき退職金の支払を受けられなかったことについて、①主位的には、本件懲戒解雇は、Y社が指摘する各懲戒事由が存在せず、また、相当性も認められないことから懲戒権を濫用したものとして無効であると主張して、Y社に対し、本件雇用契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件懲戒解雇後、本判決確定の日までの賃金の支払を求め、②予備的には、仮に本件懲戒解雇が有効であるとしても、Y社が指摘する退職金不支給事由はXのそれまでの勤続の功を抹消又は減殺するほどの著しい背任行為であるとはいえず、Xに本件不支給規定を適用することは許されないと主張して、Y社の退職金規程上の退職金支払請求権に基づき、退職金の支払を求める事案である。

本件反訴は、Y社が、Xは単身赴任手当等の各種手当を不正に受給したほか、入居資格を有していないにもかかわらずY社の借上社宅に居住し続けるなどし、本来Xが負担すべき債務をY社に負担させて同債務の支払を免れたなどと主張して、Xに対し、不当利得に基づき、Xの利得額及びこれに対する各利得日の翌日から支払済みまで年5分の割合による法定利息の返還を求めるとともに、Y社の社宅規程上の社宅返還義務に基づき、上記社宅の明渡しと同義務が生じた後の日である平成28年4月1日から明渡し済みまでの賃料相当損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、126万0246円+遅延損害金を支払え。

Xは、Y社に対し、537万4904円+遅延損害金を支払え。

Xは、Y社に対し、平成28年4月1日から平成29年3月29日まで、毎月末日限り、月額8万6000円の割合による金員+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の就業規則上の懲戒解雇事由に該当する各行為を行ったものであるところ、その具体的な内容をみても、3年以上の期間において、Y社に対し、本来行うべき申請を行わなかったというにとどまらず、積極的に虚偽の事実を申告して各種手当を不正に受給したり、本来支払うべき債務の支払を不正に免れたりするなど、XとY社が雇用関係を継続する前提となる信頼関係を回復困難な程に毀損する背信行為を複数回にわたり行い、Y社に400万円を超える損害を生じさせたものである。
これらの事情に加え、前記のとおり、Xは、その後、Y社から弁明の機会を付与された際にも、前記のXの主張とほぼ同様の主張を行うにとどまり、本件懲戒解雇がされるまで、Y社に対して明確な謝罪や被害弁償を行うこともなかったことや、前記のとおりの本件懲戒解雇に至る経緯に照らして、同解雇の効力に疑義を生じさせるような手続上の瑕疵も認められないことからすると、Xが30年以上にわたりY社に勤務していたこと(なお、本件各証拠によっても、Xに顕著な功績があったとまでは認められない一方で、Xは、その経緯には争いがあるものの、前件懲戒処分の理由となった各行為も行っていたものである。)といったXが指摘する諸事情を考慮しても、本件懲戒解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものということはできない。

2 Xは、3年以上の期間において、XとY社が雇用関係が継続していく前提となる信頼関係を回復困難な程に毀損する背信行為を複数回にわたり行い、Y社に400万円を超える損害を生じさせるなどしてものであって、Xの同各行為は、上記のとおり将来にわたるXとY社の信頼関係を回復困難な程に毀損するのみならず、それまでのXの長年の勤続の功のうち、KDDにおける長年の勤続の功についても、相当大きく減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為に当たるといわざるを得ないものの、Xの上記各行為の時期、期間及び内容に照らして、その功を完全に抹消したり、その殆どを減殺したりするものとまではいえず、②一時金(加算金)315万0615縁については、本件不支給規定の適用も、その6割である189万0369円を不支給とする限度でのみ合理性を有すると解するのが相当である。

結果としては、本訴原告が本訴被告に支払うべき金額のほうがはるかに大きくなりました。

それはさておき、本裁判例からわかるとおり、懲戒解雇の有効性と退職金不支給は当然には連動しません。

とはいえ、この点を事前に把握することは現実的には極めて困難です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇284 飲酒運転を理由とする懲戒免職と相当性の要件(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、市職員の飲酒運転を理由とする懲戒免職に関する裁判例を見てみましょう。

茨城県市町村総合事務組合事件(水戸地裁平成30年7月20日・労判ジャーナル80号42頁)

【事案の概要】

本件は、茨城県下妻市の元職員Xが、飲酒運転による物損事故を起こして懲戒免職処分を受けたことに伴い組合長から一般の退職手当の全部を支給しないとの退職手当支給制限処分を受けたため、茨城県市町村総合事務組合に対し、同処分が違法であるとして、その取消しを求めるとともに、市町村職員退職手当条例に基づき、組合に対し、一般の退職手当等約2261万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒免職処分は無効

【判例のポイント】

1 下妻市の幹部職員であるXが飲酒運転をして物損事故を起こしたという本件非違行為の内容からすれば、公務に対する住民の信頼が一定程度失われたことは疑いようがなく、これによりXの退職手当の受給権が相当程度制限されること自体はやむを得ないといえるが、Xのこれまでの公務に対する貢献や、本件事故による被害の内容等をみると、本件非違行為は、Xのこれまでの公務に対する貢献が無に帰するほどの重大なものであると評価することは困難であり、本件制限処分によるXの経済的な不利益の程度等を併せ考慮すれば、本件非違行為の内容及び程度と不利益処分の重大性とが均衡を欠き、退職手当の全部の支給を制限することは衡平を欠き、重きに失するといわざるを得ないから、本件制限処分は、社会通念上著しく妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとして違法であり、本件制限処分の取消しを求めるXの請求は理由がある。

相当性の要件で救済されました。

飲酒運転事案の裁判例は常に一定数ありますが、判断がまちまちで、結果の予測可能性はそれほど高くありません。

悩ましい判断が求められますが、過去の裁判例を参考に判断するほかありません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。