Category Archives: 解雇

解雇303 わいせつ行為に関する使用者責任と求償の割合(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、わいせつ行為を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ヤマト運輸事件(大阪地裁平成31年2月7日・労判ジャーナル88号44頁)

【事案の概要】

本件は、本訴請求において、Y社の元従業員が同人に対する懲戒解雇処分が無効であることを理由として、労働契約上の地位確認を求めるとともに、民法536条2項に基づき、平成27年12月25日から本判決確定日までの間、毎月25日に支払われるべき賃金等の支払を求め、反訴請求において、Y社が、上記懲戒解雇処分の理由である、Xの就業時間中における女性に対するわいせつ行為によって、使用者として示談金の支払を余儀なくされたとして、民法715条3項に基づき、示談金相当額の求償を求めるとともに、同わいせつ行為によって、社会的信用が著しく毀損されたことを理由として、民法709条に基づき、損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

示談金相当額の求償は認容

社会的信用が毀損されたことを理由とする損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 Xは、集荷業務中に集荷先企業の女性従業員Aに対し、その意に反して身体を抱きしめ、左胸を触る行為をしたものであり、かかる行為は、会社就業規則の42条9号、同条4号、同条14号及び同条15条に該当するということができ、そして、同行為の性質や内容に照らすと、本件懲戒解雇が不当に重いものとはいえないから、同処分が権利濫用に該当し無効であるとはいえないから、本件懲戒解雇が無効であることを前提とする本訴請求は、いずれも理由がない。

2 XのAに対する行為は、就業時間中になされたものであり、Y社の事業の執行につきなされたものであるといえるから、Y社はAに対し、民法715条1項による損害賠償責任を負い、その損害賠償責任を果たしたY社は、Xに対し、民法715条3項による求償を請求することができ、そして、XがAに対して故意にわいせつ行為に及んだものであること、Xの行為がY社就業規則のうち特に42条9号に違反するものであること、Xが以前にも女性に対する性的な行為を原因としてY社から懲戒処分を受けていたことに照らすと、業務上生じた損害の公平な分担の見地に照らしても、Y社のXに対する求償権を制限するのが相当であるとはいえないが、他方、Y社においては、XのAに対する行為によって、Aに対する示談金の支払を余儀なくされた以上に、社会的信用が毀損され損害が生じたと認めるに足りる的確な証拠はないから、民法709条に基づき、社会的信用を毀損されたことに対する損害賠償の支払いを求める部分は理由がないものというべきであり、XはY社に対し、民法715条3項に基づき、120万8026円等を支払う義務がある。

事案によっては、求償権を制限される事案もありますので注意が必要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇302 パワハラによる精神疾患罹患と診断書の評価(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、勤務成績不良等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ピーエーピースタジオトリア事件(東京地裁平成30年12月26日・労判ジャーナル87号89頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結して就労していたXが、Y社から解雇されたことについて、同解雇は客観的合理的理由を欠き社会通念上も相当と認められず解雇権の濫用に当たり無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の地位確認を求めるとともに、雇用契約による賃金請求権に基づき、解雇後の賃金等の支払並びに会社代表者による暴言、執拗な退職勧奨、上記解雇等がXに対する不法行為に当たるとして、同不法行為によって被った精神的苦痛に対する慰謝料として200万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

慰謝料20万円認容

【判例のポイント】

1 Y社は、年2回各従業員に対し改定の理由を説明して納得してもらった上で給与額を増減しているもので、Xに対しても、アミューズメント事業の売上が上がっていないこと等の理由を説明して、納得を得た上で減額したものであるとし、本件給与減額1については、Xの同意があるものであって有効である旨主張するが、Y社代表者は、電話によるXへの叱責の後、同意書等も取り付けることなく翌月からXの給与額を減額したものであって、この間に、Xの真意に基づく給与減額に対する同意があったことをうかがわせる事情は認められないから、本件給与減額1は無効というべきである。

2 本件雇用契約締結後のXの業績が、会社就業規則20条1項(1)所定の解雇事由に当たるといえるほど不良であったということはできず、また、勤務態度等について検討するに、Xにつき会社就業規則20条1項(2)の解雇事由に当たるということはできないこと等から、本件解雇については、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上も相当と認められないものであって、解雇権の濫用に当たるというべきであり、労働契約法16条により無効と認められる。

3 Y社代表者が面談の際に激昂してXに対してした各発言はXに対する不法行為に該当するものであって、Y社は、会社法350条、民法709条により上記不法行為によりXに生じた損害につき賠償すべき責任を負うところ、Xの損害についてみるに、Xは、診断書及び診療録を根拠に、Y社代表者の発言により適応障害に罹患した旨主張するが、X主張に係るY社代表者の言動には違法とまではいえないものや、その言動自体が証拠上認めるに足りないものも多く含まれていることからすれば、同診断書及び診療録の記載をもって、Y社代表者の不法行為となる言動によってXが適応障害に罹患したとは直ちに認めることはできないが、他方、Y社代表者の同発言内容に照らすと、これにより、Xが相応の精神的苦痛を被ったことは否定できないところであるから、Xの精神的苦痛に対する慰謝料としては20万円と認めるのが相当である。

上記判例のポイント1のようなケースでは、同意が真意に基づくものか否かが判断の対象となります。

また、判例のポイント3のように診断書が提出されているとしても、客観的事情と合致しない場合には、裁判所は診断書記載のとおりには認定しないことを押さえておきましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇301 賃金減額合意の有効性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、能率低下等を理由とする解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ネクスト・イット事件(東京地裁平成30年12月5日・労判ジャーナル86号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、平成27年4月の賃金減額及び平成28年4月の解雇は、いずれも理由がなく無効であるとして、雇用契約に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、解雇後の賃金として、雇用契約に基づき、平成28年6月から本判決確定の日まで、毎月末日限り、賃金減額前3か月間の平均である月額約32万円等の支払、Y社による解雇は不法行為にも当たるとして、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料100万円等の支払並びに同意なく減額された平成27年4月分から平成28年4月分までの賃金の差額分として、雇用契約に基づき、約114万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

賃金減額は無効

【判例のポイント】

1 本件給与体系変更に対するXの同意は、賃金の減額に対する同意であり、賃金債権の一部放棄に対する同意と同視できるから、Xの同意が、自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときに有効となるところ、Xは、Y社従業員から本件給与体系の変更を告げられた際、給与の減額になることを明確に認識したうえで、入社前に聞いていないなどとして受け入れない意思を表明し、その後総務部長から送信されてきた給与についての確認書には、職を失わないために渋々署名押印したことなどを踏まえると、Xの本件給与体系変更に対する同意が自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとは認められないこと等から、本件給与体系変更による賃金の減額は無効であり、Xは、Y社に対し、減額された賃金分の支払請求権を有する。

2 本件解雇は、Xが、誠実に営業活動を行わなかったことにより営業成績が悪かったことを理由とするもので、Y社の就業規則所定の解雇事由である「能率が著しく低下し、または向上の見込みがないと認めたとき」に該当し、実体面での理由は十分に存在すること、XのY社に対するスケジュールの報告に虚偽が相当数含まれており、訪問していないにもかかわらず交通費の精算を行ったものもあることを考慮すると、XとY社との信頼関係は破壊されているといわざるを得ないこと、解雇に向けた具体的な指導や警告が存在しない手続上の問題は、Y社の営業社員が全員経験豊富な中途採用社員であり、毎週営業会議を行っていたという状況の下では、Xの営業活動に対する不誠実さや営業成績の悪さを凌ぐものとはいえないというべきであることを踏まえると、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である。

上記判例のポイント1については、特に注意が必要ですね。

とりあえず同意さえとれば何でも有効と考えるのはやめましょう。実務ではそういう取扱いはしていません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇300 長期欠勤を理由とする解雇が無効と判断された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

今日は、長期欠勤を理由とする解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

計機健康保険組合事件(東京地裁平成30年9月26日・労判ジャーナル83号56頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのない雇用契約を締結して就労していたXが、海外にあるF国において買春を理由に逮捕起訴され帰国できなかったため欠勤したところ、Y社が、「自己の都合により欠勤30日を超え、その事由が正当と認め難い」とする就業規則所定の解雇事由に該当するとして、Xを解雇したため、Xが解雇が無効であると主張して、労働契約上の地位を有することの確認を求めるとともに、上記解雇後本判決確定の日までの未払賃金及び賞与等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 本件解雇理由は、「平成29年7月25日から、自己の都合により欠勤30日を超え、その事由が正当と認め難いため」であり、本件就業規則所定の解雇理由に該当するというものであるが、本件就業規則にいう「欠勤」については、所定休日ないし有給休暇における不就労は含まれないと解するのが相当であるところ、Xは、Xの妻及び弟を介してY社に対し、平成29年7月25日以降の欠勤について有給休暇の申請をしていることが明らかであり、Xによる上記有給休暇の申請は有効というべきであり、そして、平成29年7月25日の時点におけるXの有給休暇の残日数は19日であるから、これを全てXの欠勤日に充当すると、本件解雇の瑕疵が治癒されたとY社が主張する同年9月5日の時点では、いまだ欠勤日は11日にすぎないから、「引き続き欠勤30日を超え」に該当しないことが明らかであること等から、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、解雇権を乱用したものとして無効である。

防ぐことができた争いですね。

事前に顧問弁護士等に相談をして冷静に対応していれば起こらなかった紛争かと思います。

解雇299 休職期間満了に伴う自然退職(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、休職期間満了による解雇無効地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

Y社事件(大阪地裁平成30年10月30日・労判ジャーナル83号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社で勤務していたXが、Y社から解雇されたが、同解雇は無効であるなどとして、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件の争点は、Xの退職理由が解雇か自然退職か及び当該退職理由によりXを退職扱いとすることの有効性であるところ、Y社は、平成28年1月11日、Xに、Y社の就業規則所定の休職事由に該当する事由があったため、Xに対し、同号に基づき、Xを休職させる旨の意思表示をしたところ、Y社の就業規則は、社員が休職期間満了のときに復職できなかった場合には、別途解雇等の意思表示を要せず、休業期間満了の日を退職の日として社員の資格を失う旨規定しているところ、Y社の就業規則上、就業3年未満の社員の休職期間は6か月であるから、Xは、休職期間(6か月)が満了する平成28年7月10日の経過をもって、Y社を自然退職したものとみるのが相当であり、また、Xは、別件判決で認定されたとおり、不当に賃金が引き下げられたため、Y社に復帰できなかった旨主張するが、Xが、賃金を不当に減額されたとして未払賃金の支払いを求めた別件訴訟の判決において、Y社は、Xに対し、給与制度改定に基づき、各種手当を適正に支給していることが認められるなどとして、Xの請求が棄却されたことが認められるから、Xの主張は採用できない

この手の訴訟は、争点が複雑化しますが、本件はそこまで複雑ではないように感じます。

復職時の対応については、極めて専門的な判断が求められますので、弁護士にしっかり相談して進めましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇298 業務削減を理由とする出向帰任者の整理解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、業務削減を理由とする出向帰任者の整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

マイラン製薬事件(東京地裁平成30年10月31日・労経速2373号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結し、医療情報担当者(MR)として勤務していたXが、平成28年5月31日付けでされた解雇が無効であるとして、Y社に対し、①ⅰ)労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、ⅱ)平成28年6月分から平成29年3月分までの賃金合計506万2910円並びに同年4月分以降の賃金として毎月25日限り50万6291円+遅延損害金の支払を求め、これに対し、Y社が、主位的には本件解雇により、予備的には期間満了によりXとの間の社宅使用契約が終了したとして、②ⅰ)建物の明渡し及びⅱ)賃料相当損害金ないし未払社宅使用料の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 解雇は有効(Xの請求はいずれも棄却)

2 Xは、Y社に対し、建物を明け渡せ。

3 Xは、Y社に対し、平成28年8月1日から明渡済みまで1か月6万7000円の割合による金員を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、全従業員数の4割を超える大規模な余剰人員が生じたという非常事態下において、その人事制度の仕組みや配転が困難であるという制約の枠内で、なし得る限りの有意な解雇回避措置を複数採っているということができる。それにもかかわらず、Xは、解雇回避措置を真摯に検討しなかったばかりか、Y社からの協議の申入れについて取り合わなかったのであって、Xの協力が得られない以上、Y社が上記各措置以上の解雇回避措置を採ることも困難であるから、人員削減の必要性が経営政策上の必要性にとどまることを踏まえても、Y社は、相応の解雇回避措置を講じ、解雇回避努力を尽くしたとみることができる。

2 Xは、その直近3年間の成績評価が本件選定基準に達しなかったため、Aへの出向者の選定から除外されているが、Aへの出向を実現し、一人でも多く解雇を回避するためには、同社が求める優秀な人材を選抜することが必要であったのであるから、その直近3年間の成績を基礎とした本件選定基準を設定することもまたその合理性を肯認することができる。
また、本件選定基準の対象となる成績評価は、毎年1回定期的に実施されているものであり、少なくとも、平成25年度分及び平成26年度分の成績結果は本人に対してフィードバックされていることからすれば、指標としての客観性は担保されているといえ、Y社の恣意的な操作が介在するおそれは少ない。
以上からすれば、Xが本件選定基準によってAへの出向対象者から除外されて、雇用契約解消の対象となることもやむを得ないといわざるを得ない。

3 Y社は、本件解雇に先立って、全体ミーティング、電子メール、書面による連絡を通じて、本件業務提携契約の内容、本件解除合意に至った経緯、判断過程の要旨、MR業務の消滅、本件解除合意の内容、Aへの出向に関する本件選定基準や選定の判断過程、退職パッケージの内容、社内公募の案内等について、自らの了知し得る情報について可能な範囲で繰り返し説明した上で、今後のXの処遇について相談にも乗っており、更なる協議も試みているのであって、十分な説明や協議を尽くしているとみることができる
Xは、Y社から、退職勧奨時には退職パッケージを提示されたが、本件解雇時には何らの不利益緩和措置を受けていない旨主張する。
しかしながら、Y社は、Xに対し、本件解雇直前まで継続的に、特別退職金等約867万円(月額賃金の約17か月分相当額)及び他社の再就職支援サービスからなる退職パッケージを繰り返し提示していたのであって、かかる不利益緩和措置を拒絶したのは他ならぬXである
以上によれば、本件解雇に先立って履践された手続きは不相当であるとはいえず、むしろ、具体的な事実経過に照らして十分な手続や協議がされたとみることができるのであって、手続の相当性を肯認することができる。

リストラ時にここまでの準備ができるといいのですが、多くの場合、このような余裕がないので、拙速なのはわかりつつ、手続きを進めざるを得ないことがあります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇297 復職の可否の判断における主治医の診断書の信用性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、パワハラの存否と休職期間満了自然退職扱いの有効性等に関する裁判例を見てみましょう。

コンチネンタル・オートモーティブ事件(東京高裁平成29年11月15日・労判1196号63頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、①XがY社から長時間残業による過重労働を強いられたこと、上司から名誉毀損又は侮辱を受けたり、恫喝して責められたりするなどのパワーハラスメントを受けたことなどによって適応障害を発症した旨を主張して、民法709条又は同法715条1項に基づき、121万円(慰謝料110万円と弁護士費用11万円の合計額)+遅延損害金の支払を求め、また、②平成24年4月分から同年7月分までの未払残業代として70万8643円+遅延損害金の支払を求め、さらに、③Y社が休職期間満了によりXを自然退職としたのは無効である旨を主張して、Y社に対する労働契約上の地位の確認並びに平成26年11月から本判決確定に至るまで、賃金として毎月25日限り月額36万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、Xの上記①及び同③に係る各請求をいずれも棄却し、上記②に係る請求のうち、Y社に対して、4万0184円+遅延損害金の限度で認容し、その余の請求をいずれも棄却したところ、これを不服とするXが本件控訴を提起し、Y社が本件附帯控訴を提起した。

【裁判所の判断】

本件控訴を棄却する。
本件附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
Y社は、Xに対し、2万6160円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、休職期間満了による自然退職が、労働者の地位を脅かすものであり、Xが復職可能な寛解状態にある旨の診断書が存在する以上、Y社は、それを否定する積極的で客観的な立証をすべきであるにもかかわらず、それがないのであるから、Xの復職は認められるべきである旨を主張する。
しかしながら、復職の要件である「休職事由が消滅したこと」、すなわち、Xの負傷疾病が寛解し、XがY社において従前どおりの業務遂行をすることができる身体状態に復したこと(就業規則49条1項、47条1項1号)については、Xが主張立証しなければならない事項であるところ、前記のとおり、平成26年10月29日の時点において、XがY社における就労が可能な身体状態を回復したと認めるに足りる証拠はないのであるから、Y社が、Xの休職事由が消滅しておらず、Xの復職は困難であると判断したことは、やむを得ないものといわざるを得ない。
そうすると、Xの上記主張は理由がなく、その余の主張するところも理由がなく、いずれも採用することができない。

2(一審判断)産業医であるI医師も、患者の強い意向により復職可能とする診断書を書く場合がある旨述べており、主治医であるJも、本件診断1から本件診断2への診断の転換について、Xが解雇を通告されて復職の希望を示したことを理由に挙げていることからすれば、本件診断1から本件診断2への転換は、Y社を退職となることを避けたいというXの意向が強く影響しているといえる
また、Jは、本件診断2の当時、医師としては通常勤務ではなく制限勤務とすべきと考えていた旨述べること、Xが抗うつ剤や比較的強い睡眠導入剤の処方を受けていたこと、Xの通院の頻度も通常の患者よりも高いものであったことなどに照らせば、Xの病状が、同月31日まで自宅療養を要するとされた本件診断1の状態から軽快しておらず、本件診断2において通常勤務可能とされた理由は、もっぱらY社を退職となることを避けたいというXの希望にあったというべきである。
以上によれば、休職開始から1年の期間が満了する平成26年10月29日の時点において、Xの体調は、上記就労不可とする本件診断1のとおり就労に耐え得るものではなく、上記時点において復職を不可としたY社の判断は正当というべきであるから、休職期間の満了により、Xを退職扱いにしたことは有効であり、Xの主張は採用できない。

上記判例のポイント2は非常に重要な視点です。

休職期間満了時に起こりうる典型的な問題ですので、どのように対応すべきかを予め知っておきましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇296 懲戒解雇の有効性判断における考慮要素とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、懲戒解雇等無効に基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

関東食研事件(東京地裁平成30年8月15日・労判ジャーナル85号58頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、Y社がXにした懲戒解雇が解雇権の濫用に当たり無効であり、Xに対する不法行為に当たる、Y社在籍中にY社代表者から日常的にパワーハラスメント又は嫌がらせを受け、これらがXに対する不法行為に当たると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、逸失利益約499万円及び慰謝料100万円等の支払を求めるとともに、Y社がXに対して2回にわたって行った賃金の減額が無効であるなどと主張して、XとY社との間の労働契約上の賃金請求権に基づき、未払月例給与及び未払賞与の合計約130万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

賃金減額は無効

損害賠償請求は一部認容

【判例のポイント】

1 懲戒事由に当たる事情(独断で受発注書類の一部を破棄したこと、顧客からの問合せに対し、わからないと答えたこと、取引先に送付する書類を他の取引先に誤送付したこと、配送漏れがあったこと、勉強会に参加しなかったこと、来週月曜日から出社しないと発言したこと、J社の向上からの発注を拒んだこと)については、いずれもY社又はJ社に大きな損害又は業務上の支障を与えるようなものではなく、Xにはこれまで懲戒処分歴が全くなく、本件解雇に当たっては、Xに事情を聴取するなどの手続もなく、上司から会社代表者への電話による一方的な訴えを契機として、突如Xに対し、当該通話の中で通告されたこと、本件解雇によるXの経済的不利益なども考慮すると、上記懲戒事由について、Y社が本件就業規則に定める4段階の懲戒処分の中でも最も重い懲戒処分を選択したことは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない場合に当たるというべきであるから、懲戒解雇として行われた本件解雇は、労働契約法15条の規定により、懲戒権を濫用したものとして、無効となる。

2 本件解雇は、著しく社会的相当性を欠く性急かつ拙速なものであるところ、Xは、違法な本件解雇により、約11年間続いていた本件労働契約が突如終了し、会社からの収入を絶たれた上、その年齢から見れば、本件労働契約と同一の条件での再就職は困難な状況に置かれたというのが相当であるが、他方で、Xは、本件解雇後直ちに会社への復帰を断念し、解雇予告手当を請求した上で、就職活動を開始し、パートタイム労働者として新たな勤務先と労働契約を締結していること等の事情も考慮し、本件解雇時のXの月例給与額の6か月分である127万5000円をもって、Y社による違法な本件解雇との相当因果関係がある損害と解するのが相当であり、また、Xは、会社代表者から、業務中に注意を受けた際に、後頭部を叩かれ、他の従業員の前で、寄生虫と同視するような発言を受けたところ、これらによってXが受けた身体的、精神的な苦痛に鑑み、慰謝料として、10万円をもって相当と認める。

上記判例のポイント1のように、会社とすれば、これ以上雇用を継続できない事情があったとしても、解雇をする前に必要なプロセスを経ることがとても重要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇295 能力不足を理由とする解雇を有効に行うためのプロセス(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、能力欠如等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

シンボリックシティ事件(東京地裁平成30年9月13日・労判ジャーナル84号50頁)

【事案の概要】

本件は、シェアハウス等の経営・運営・管理、不動産の所有・売買・仲介・賃貸・管理・あっせん並びにコンサルティング業務等を目的とするY社に雇用されたXが、Y社によって行われた解雇が無効かつ違法であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認とともに、同契約に基づく上記解雇後の賃金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 Y社は、Xが退職することに応じた旨を主張するところ、本件雇用契約においては、Y社がXに対して解雇通知書を発出して明確に「解雇」の意思表示をしていること、また、その後に解雇理由証明書も発出されて、同書面に解雇理由が列記されていること、さらに、Y社が債権者に宛てて発出した自身の経営状況を知らせる通知においても従業員を解雇するに至った旨が明記されていること、これに加えて、Xが退職勧奨に合意をしていない旨を明らかにしていることからすると、Y社がXを解雇したことが明らかに認められ、これに照らすと、解雇理由証明書においてXの退職合意に関する記載をY社が一方的にしているからといって、これによって、そのような退職合意の事実があったことを推認することはできないから、Xが退職することを合意したとのY社の主張は理由がない。

2 Xは、Y社に入社した当初頃の平成28年11月分の基本給が25万円であったところ、その後に稼働を続けて、本件解雇当時である平成29年12月までには、基本給28万円及び資格手当3万円の月額合計31万円に昇給したばかりでなく、時には報奨金やインセンティブの支払を受けていたことが認められ、これらの事実からすると、Xは、Y社において特段の落ち度なく勤務してきたものと推認されるが、これに対し、Y社は、Xの職務遂行能力が欠如している等の解雇理由を様々に主張するが、そのような事実を客観的に的確に認めるに足りる証拠は一切ないから、本件解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから、解雇権を濫用したものとして無効である。

能力不足を理由として解雇する場合には、しっかり証拠を揃えなければ認定してもらえません。

事前準備なく解雇をしてしまうと訴訟になってからが大変です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇294 即戦力としての中途入社従業員に対する試用期間中の解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、試用期間中になされた解雇に関する裁判例を見てみましょう。

Ascent Business Consulting事件(東京地裁平成30年9月26日・労判ジャーナル84号44頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に中途採用されたXが、その試用期間中に本採用拒否(解雇)されたところ、同解雇が客観的合理的理由を欠き、社会通念上も相当でないとして無効であると主張し、労働契約上の地位確認を求めるとともに、同解雇後の賃金請求権に基づき、54万3750円等並びに平成28年4月から毎月25日限り100万円等の支払をそれぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇有効

【判例のポイント】

1 Xは、会社が自ら6か月間という試用期間を設定し、それが本件雇用契約の内容となっている以上、その期間経過を経ずに雇用を打ち切るとの判断を正当化するだけの高度の合理性、相当性が求められるとして、そのような高度の合理性、相当性が認められない本件解雇は無効である旨主張するが、Xはその年齢、経験等に照らして一定程度の分別を求められてしかるべき立場にあり、かつ、一定程度の能力を有することを前提とし、高額の報酬をもって即戦力として会社に迎え入れられたものであることに照らすと、その改善可能性を過度に重視することは相当でないというべきであるから、このような労働者について、雇用契約の内容に見合うだけの資質、能力を有しないことが合理的な根拠をもって裏付けられた場合にまで、試用期間の満了を待たなければ本採用拒否ができないと解することは相当ではなく、加えて、Xの言動により会社内に著しい迷惑をかけ、混乱を生じさせているのは明らかである以上、試用期間の中途であっても解雇の意思表示をすることが許されないとする合理的な理由はないというべきである。

本件のように、即戦力として中途入社した場合にはこのような判断をよく見かけます。

なお、一般的に、試用期間中だからといって、解雇が容易にできるわけではありませんので誤解しないようにしましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。