Category Archives: 解雇

解雇313 HIV感染不告知を理由とする採用内定取消し(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

90日目の栗坊トマト。3か月でこんな感じです。

今日は、HIV感染不告知を理由とする採用内定取消しと当該情報の目的外使用の違法性に関する裁判例を見てみましょう。

北海道社会事業協会事件(札幌地裁令和元年9月17日・ジュリ1538号4頁)

【事案の概要】

本件はヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染しているXが、北海道内において病院を経営するY社の求人に応募し内定を得たものの、その後Y社から内定を取り消されたことをめぐり、①この内定取消しは違法である、②Y社が上記病院の保有していたXに関する医療情報を目的外利用したことはプライバシー侵害に当たると主張して、不法行為に基づき、330万円の損害賠償+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、165万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 HIVに感染しているという情報は、極めて秘密性が高く、その取扱いには極めて慎重な配慮が必要であるのに対し、HIV感染者の就労による他者への感染の危険性は、ほぼ皆無といってよい。そうすると、そもそも事業者が採用に当たって応募者に無断でHIV検査をすることはもちろんのこと、応募者に対しHIV感染の有無を確認することですら、HIV抗体検査陰性証明が必要な外国での勤務が予定されているなど特段の事情のない限り、許されないというべきである。
本件では、上記特段の事情は認められないのであって、Y社病院がXにHIV感染の有無を確認することは、本来許されないものであった。そうだとすると、Xが平成30年1月12日にY社病院総務課職員から持病について質問された際にHIV感染の事実を否定したとしても、それは自らの身を守るためにやむを得ず虚偽の発言に及んだものとみるべきであって、今もなおHIV感染者に対する差別や偏見が解消されていない我が国の社会状況をも併せ考慮すると、これをもってXを非難することはできない

2 確かに、本件ガイドラインにおいても、通常の勤務において業務上血液等に接触する危険性が高い医療機関においては、別途配慮が必要であるとされているところである。
しかしながら、HIV感染の事実は取扱いに極めて慎重な配慮を要する情報であるから、そのような医療機関においても、HIV感染の有無に関する無差別的な情報の取得が許容されるものではない。そして、医療機関においては、血液を介した感染の予防対策を取るべき病原体はHIVに限られないのであるから、Y社病院においてもHIVを含めた感染一般に対する対策を講じる必要があり、かつ、それで足りるというべきである。
現に、医療機関の参考のために作成された本件手引きにおいても、HIV感染について他の感染症とは異なる特別な対応をすべきことが提唱されているわけではなく、「職業感染対策」として、B型肝炎、C型肝炎等の感染症と並んでHIV感染対策に特化した記述がわずかに存するのみである。そうすると、医療機関といえども、殊更従業員のHIV感染の有無を確認する必要はないばかりか、そのような確認を行うことは、前記特段の事情のない限り、許されないというべきである。
ましてや、Xは、社会福祉士として稼働することが予定されていたのであって、医師や看護師と比較すれば血液を介して他者にHIVが感染する危険性は圧倒的に低いと考えられるし、Xが患者等から暴力を受けたとしても、Xが大量出血しその血液が周囲の者の創傷等を通じて体内に偶然に入り込むなどといった極めて例外的な場合でもない限り、これが原因で他者にHIVが感染することは想定し難いというべきである。
したがって、上記主張はいずれも失当である。そして、Y社病院に前記特段の事情があったとは認められないから、Y社病院が医療機関であることをもって、Xに対しHIV感染の有無を確認することが正当化されるものではない。

センシティブ情報に関する取扱いについて参考になる裁判例ですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇312 うつ病の業務起因性の判断方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

79日目の栗坊トマト。実の数がどんどん増えてきました。

今日は、うつ病の業務起因性と解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

トヨタカローラ南海事件(大阪地裁令和元年6月4日・労判ジャーナル91号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結し、Y社の店舗に勤務していたXが、Y社から解雇されたが、同解雇は労働基準法19条に違反し無効であるなどとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、賃金及び賞与の支払等を求め、また、本件店舗の店長であったAからセクシャルハラスメント行為又はパワーハラスメント行為を受けてうつ病に罹患し、その後Y社担当者の不適切な行為によりうつ病が悪化したとして、Y社及びAに対し、連帯して、不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償等の支払を、それぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ①Aが、本件店舗の店長として着任後、時期は不明であるが、Xに対し、数回、彼氏との性的行為があったのかどうかといった性的な発言を行ったこと、②AとB係長は、X以外の人物について、「病んでるらしいで」などと発言し、笑ったことが認められるが、①の発言の時期は不明であること、①は、身体への直接の接触を伴うような性的行為を受けたという性質のものではなく、またその回数も数回に止まること、Xは、休職より前に、Y社に対し、セクハラ行為の相談をしていないこと、②の行為は、X以外の人物に関する発言であることから、①については、厚生労働省労働基準局長発出の「心理的負荷による精神的障害の認定基準について」別表1の「〔6〕セクシュアルハラスメント」「セクシュアルハラスメントを受けた」の中の、「強」の例示に該当する程度のものとはいえず、強くても「中」程度のものと評価され、②については「弱」の例示に該当する程度のものと評価され、これらを総合的に評価しても、「強」程度の心理的負荷を有するものと認めることはできないから、Aの行為により、Xが、うつ病と診断され、出勤が困難になり、休職した旨のXの主張は採用できない

2 Xは、Xのうつ病が業務起因性を有するから、本件解雇は労働基準法19条1項に違反する旨主張するが、Xのうつ病の発病ないし悪化が、業務に起因したものとは認められず、また、復職後のXの勤怠状況は、週4日以上のペースで欠勤を続け、頻繁に早退を重ね、平成28年8月14日以降は一切出勤しておらず、また、Xの欠勤理由は、Xや子どもの体調不良のみならず、子どものキャンプあるいはキャンプに備えて休むといった用事、猫の葬儀等、理由としてやむを得ないものと判断しかねる理由も見受けられ、遅くとも同年7月後半以降、Xは、Y社に対し、労務を提供する意思と能力を欠く状況にあったことは明らかといえ、そして、Y社が、Xの復職に際して、主治医の診断書の内容を踏まえ、本社の保険業務課に配属し、始業時刻を午前10時とする特例措置を行っていることをも併せ鑑みれば、Xの勤怠状況は、解雇事由である就業規則所定の「精神又は身体の障害によって業務に耐えられないと認められ、かつ、他部署への配置転換が困難な著しく正常でない場合」に該当するとともに、Y社が、Xに対し、本件解雇を行うことは、労働契約法17条の「やむを得ない事由」があるといえるから、本件解雇は有効である。

ハラスメントが原因で休職した場合でも、その程度によっては本件のような判断がされることがあります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇311 降格減給の有効性の判断方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

68日目の栗坊トマト。前回よりも実がやや大きくなりました!

今日は、業務遂行能力不足等を理由とする降格減給及び解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

末日聖徒イエス・キリスト協会事件(東京地裁平成31年3月25日・労判ジャーナル90号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、平成28年12月21日付けで降格され、平成29年1月から賃金を減額されたことは人事権の濫用に当たり、その後更に同年6月12日付けで解雇されたことは解雇権の濫用に当たりいずれも無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件減給前の賃金との差額賃金、本件解雇後の未払賃金及び本件解雇までの一連の不法行為による慰謝料200万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、およそエリア・リアル・エステート・マネージャーとしての責務を果たしていない状態であったことが認められ、Y社の業務に支障を生じさせていることは、外部業者からも看取できるほどであったこと、Xの平成25年以降の人事評価は極めて低評価であったことが認められ、Y社は、Xに対し、自己都合退職するか降格減給を受け入れるかの選択肢を示し、Xの意向も踏まえて本件降格減給を行ったところ、減給は約1割に留めるものであって、本件降格減給は、Xの勤務成績や業務遂行能力、勤務態度の問題を理由に、業務遂行能力改善のため種々の方策を施した上で行われたものであって、Xを退職させようとする不当な目的に基づくものと認めることはできず、本件降格減給は、人事権の行使としてやむを得ず行われたものであり、人事権の濫用に当たらないから、Xの同意の有無について検討するまでもなく有効である。

2 本件降格減給、本件解雇は有効であり、Xを嫌悪したり、Y社から排除するために行われたものとは認め難く、また、本件アンケートは、Xについて、監査指摘事項の是正訓練を受けたFMやその他の関係職員を対象としたアンケートを実施し、本件異動後の評価資料を得ることを目的としたものであって、嫌がらせのためX自身にアンケートの文案を作成させたとまでは認め難く、さらに、部長がXに対して自身の市場価値を調べるため本件調査を指示したことは、その必要性に疑問が残るものの、宗教法人という特殊な団体における職員の評価に関して、当該職員において自身の客観的な市場価値を認識することを促したものと理解することができ、これが嫌がらせであるとか違法であるとまでは評価することができないこと等から、XのY社に対する慰謝料請求にも理由がない

降格減給も解雇同様、合理性が立証できるかが鍵となります。

また減給幅が大きくなりすぎないようにすることも有効に降格減給するために必要な視点となります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇310 解雇の相当性の判断方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

64日目の栗坊トマト。写真だとわかりにくいですが、ちっちゃい実がなりましたー!

今日は、退職勧奨を拒否し、配置転換された後の人事評価が不当とされた解雇が無効等と判断された裁判例を見てみしょう。

フジクラ事件(東京地裁平成31年3月28日・労経速2388号3頁)

【事案の概要】

本件は、Xを労働者とし、Y社を使用者とする期間の定めのない労働契約をY社との間で締結したXが、Y社に対し、Y社がした人事評価に基づくものとする月例賃金(加給)及び賞与の各減額が無効である旨を主張して、平成26年4月から平成28年3月までの期間に係る各減額分並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまでに生ずる商事法定利率の割合による遅延損害金の支払を求め、さらに、Y社がXに対してした同月31日付けの配転命令、同年6月1日付けの出向命令、平成29年9月22日付けの戒告及び同年12月13日付けの普通解雇がいずれも無効である旨を主張して、配転先及び出向先において勤務する労働契約上の各義務が存在しないこと、当該戒告が無効であること並びに労働契約上の権利を有する地位に在ることの各確認を求めるとともに、当該解雇の後に生ずべきバックペイとしての月例賃金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 回答書の受取の拒絶が問題となるところ、確かに、この行為が懲戒事由に該当する余地のない問題のない行為であるとは解し難い。もっとも、これによって重大な影響がY社ないしX2に生ずるといった事情は考え難いから、このことのみをもって直ちに解雇を基礎付けるようなものということはできない。また、この行為を含めたXの行為について本件戒告処分が行われたとしても、その後に同種の行為が繰り返されたということを認めるに足りる証拠もないから、結局、当該回答書の受取の拒絶をもってXの解雇の客観的な合理的理由とみることは困難である。

2 Y社は、障碍者の雇用義務を果たすためにX2を設立したものであり、このようなX2の業務は、障碍者がその能力に適合する職業に就くこと等を通じてその職業生活において自立することを促進し、もって障碍者の職業の安定を図るという障碍者雇用促進法の目的にかなう重要なものであったということができる。そして、本件出向命令が発令された旨、その設立後間もないX2では、従業員の増員や事業の拡大が予定されており、早急に取り組む必要はないとしても、社印の管理、経理・購買等の様々な分野にわたる各種の規程等を整備するなどして会社としての基盤を整備し、かつ、事業の拡大について順次検討を進めていくことが求められる状況にあったと推認することができる。そうすると、本件出向命令が発令された当時、総務・経理について相当程度の知識を有し、新規事業の立ち上げへの力の発発揮を期待することができる従業員をX2に配置する業務上の必要性があったことは否定し難いところ、XがX2について求められる知識、経験及び能力を備える者に合致した者であったと評することができる。そして、本件出向命令が発令された当時、Xがうつ病や本件通勤災害のためにその健康に大きな不安を抱えていたことから、Y社において、業務量やこれに従事する時間を調整しやすい部署にXを配置する必要性が高かったと考えられる上、Y社及びY社グループ会社の中でも、X2は、その業務量等を調整しやすい部署であったと認めることができる。したがって、本件出向命令については、業務上の必要性があり、合理的な人選が行われたということができる
また、本件出向命令が減給を必ず伴うものであったものと認めることができる証拠はなく、XがX2への勤務に伴って転居したという事実もないから、本件出向命令によってXが大きな不利益を受けたということもできない
以上によれば、本件出向命令が権利の濫用したものであるとは認めることができないから、本件出向命令は、有効であるというべきである。

解雇をする際は、行為の悪質性とともにその行為によって会社に対していかなる影響が出たのかを冷静に検討する必要があります。

また段階を踏んでいくという忍耐力を要するプロセスを十分理解しておく必要があります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇309 私用・不適切メールを理由とする解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

62日目の栗坊トマト。2か月経ってここまで大きくなりましたー!

今日は、私用・不適切メール等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日東精機事件(大阪地裁令和元年5月21日・労判ジャーナル90号32頁)

【事案の概要】

本件は、Y社において勤務していたXが、Y社から普通解雇されたが、同解雇は無効であるなどとして、地位確認並びに賃金(未払分及び将来分)等の支払を、同僚からいじめを受け、これをY社の元代表者を報告したにも関わらず、Y社は、何らの対応を取らずに放置し、これによって、Xは精神疾患を発病して休職を余儀なくされたとして、不法行為に基づく損害賠償等の支払を、それぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 Xの解雇事由に該当し得る事実は別紙1の番号13(Xが、インターネット上に「無能上司」等の表現を含む会社や上司に関する不満を書き込んだ)、14(Xは取引先従業員、会社従業員らに関する不満を述べるメールを送信した)、16(Xは、取引先従業員らに対し、就業時間中に不動産や年賀はがき関係等の私的な内容を含むメールを送信した)となるところ、Y社の事務所の他の社員も、就業時間中に、画像を添付したメールを送信していることが認められ、上司等に対する不満を抱いてあだ名をつけたり、就業時間中に業務と直接関係ないメールを送信したりすることは会社の企業全体の体質としての問題とも言い得ること、Y社が、Xに対し、別紙1の番号13、14、16の事実について指摘した上で、注意を与えたが、Xの行状が改善しなかったといった事情を認めるに足りる的確な証拠も認め難いことからいえば、本件解雇に客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるとは認め難いから、本件解雇は無効である。

2 XとY社との間に、黙示的にせよ退職合意が成立したと認める余地はなく、また、Xが解雇予告手当を返金しているのは、解雇を拒絶していると解するのが合理的であり、当該事実や、その後3年間、雇用継続の有無を確認する措置を講じなかったことをもって、XとY社との間で黙示の退職合意があったと認めることもできない。

3 Y社が、Xの休職までの間に、X主張の他の従業員らの行為について調査をしなかったとしても、それが直ちにY社のXに対する不法行為を構成するとまではいえないし、Y社が何の対策も取らなかったため、Xが休職するに至ったとも認められず、また、Xと、他の従業員4名との間に、高さ約180㎝のパーティションが設置されたことが認められるが、当該パーティションの設置によって、Xが精神疾患を発病したと認めることはできないこと等から、XのY社に対する不法行為に基づく損害賠償請求には理由がない。

いろいろと問題があったことが推測できますが、解雇の手順としては不十分と言わざるを得ません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇308 職場の秩序を乱したことを理由とする解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

56日目の栗坊トマト。花が咲きそうになっています!

今日は、職場の秩序を乱したことを理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

協同組合つばさ事件(東京高裁令和元年5月8日・労判ジャーナル90号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間の雇用契約によりY社の被用者として稼働していた元職員Xが、Y社から解雇の意思表示を受けたところ、この解雇が無効であるとして、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び賃金の支払いを求めたところ、原判決が、Xの請求をいずれも棄却したため、Xが控訴した事案である。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xの警察への通報(警察に対し、自らがY社の職員であることを説明せず、女性の技能実習生が男に拉致されそうだという虚偽の通報をしたもの)は、Y社の信用を毀損し、又はその業務を妨害するもので、Xが監査結果報告書(入国管理局に提出するもの)を持ち出したことはY社の業務を妨害するものであり、さらに、Xは明示の職務命令に反して外出した上、Y社に敵対的な感情を明らかにし、Y社の職場の秩序を乱したものであって、その内容に照らせば、いずれもその程度は強いものというべきであるから、解雇をするについての客観的に合理的な理由があると認められ、そして、Y社の業務を妨害し、その信用を毀損する警察への通報を繰り返したこと、監査結果報告書を持ち出してY社の業務を妨害したこと、明示の職務命令に反して外出し、Y社に敵対的な感情を明らかにし、Y社の職場の秩序を乱したことによれば、これらの言動によってY社とXとの信頼関係は完全に失われていたといわざるを得ず、個別的な指導等によってもXがY社の職務に戻ることについては社会通念上相当なものと認められるから、解雇権を濫用したものとはいえず、本件解雇は有効である。

大切なのは、このような行為をいかに立証するかということです。

日ごろから記録を残すことを意識することがポイントです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇307 即戦力採用の管理職に対する本採用拒否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

49日目の栗坊トマト。そろそろ花が咲きそうな感じです!

今日は、即戦力採用の管理職に対する本採用拒否の適法性について判断した裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人どろんこ会事件(東京地裁平成31年1月11日・労判1204号62頁)

【事案の概要】

本件は、Y社により発達支援事業部長として採用されたXが、Y社から平成29年1月31日限りで解雇されたところ、同解雇は無効であると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、同年3月25日以降本判決確定の日に至るまで、支払期日又は支払期日後の日である毎月25日限り、同年2月分以降の月例賃金月額83万4000円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、その履歴書における経歴から、発達支援事業部部長として、さらにはY社グループ全体の事業推進を期待されるY社の幹部職員として、Y社においては高額な賃金待遇の下、即戦力の管理職として中途採用された者であったものであり、職員管理を含め、Y社において高いマネジメント能力を発揮することが期待されていたものである。

2 ・・・これらの点からすると、Xの業務運営の手法は、少なくとも施設長らとの円滑な意思疎通が重要となるY社の発達支援事業部部長としては、高圧的・威圧的で協調性を欠き、適合的でなかったと評価せざるを得ない。

3 結局、以上の点に照らすと、上記のように高いマネジメント能力が期待されて管理職として中途採用されたXにつき、少なくとも、本件就業規則14条1項6号、29条5号、11号及び同就業規則14条1項1号に規定するように、他の職員の業務遂行に悪影響を及ぼし、協調性を欠くなどの言動のほか、履歴書に記載された点に事実に著しく反する不適切な記載があったことが認められるところであり、本件本採用拒否による契約解消は、解約権留保の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当なものと認められる。

4 以上に対し、Xは、採用に際して「経営陣との軋轢を恐れない」ことが条件とされており、大胆な意見具申と改革提案が期待されていたなどと主張する。確かに、募集要項にそのような記載はあり、外部の人材であったXに意見具申と改革提案が期待されたとはいえるが、現実に軋轢を生じては企業活動が進まないことは自明であって上記募集要項の記載もそのような気概で募集に応じてくれる者を求めた程度の趣旨にすぎない。以上のとおり、上記記載と実際に職員と軋轢を生じることとは別であり、その記載からXの所為が正当化されるものではない。

上記判例のポイント1のような事情がある場合には、通常の本採用拒否ないし解雇の場合よりも判断が緩やかになる傾向があります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇306 上司の指示命令に従わないことを理由とする解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

15日目の栗坊トマト。順調に育っております。

今日は、上司の指示命令に従わないこと等を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人三宅島あじさいの会事件(東京地裁平成31年3月7日・労判ジャーナル89号42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社を普通解雇された元職員Xが、本件解雇は無効であるとして、Y社との間で雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、Y社に対し、本件解雇後の未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Xの行為のうち、解雇理由1ないし5については、上司の職務上の指示命令に従うことを求めた就業規則26条2項、職員間で相互に協調することを求めた同規則27条1号、職務上の権限を越えた専断的行為を禁じた同規則29条1項5号に反するものであり、同規則22条11号(就業規則等の定めに反したとき)に該当し、また、解雇理由2ないし6のとおり、Xの介護技術や同僚職員との連携に不十分な点があったにもかかわらず、Xが上司及び同僚職員の指示や指導を聞き入れようとせず、本件けん責処分を受けながらなお真摯な反省の態度を示すことがなかったXの姿勢は、Y社においてXを指導し、介護技術や職員間の連携等など、介護の職務遂行上必要な能力を向上させることをおよそ困難とする事情であり、同条3号(勤務成績が著しく不良又は上司の指示を守れず早期に改善の見込みがないとき)、同条4号(職務遂行能力が劣り、一定期間の改善指導を行っても職務遂行上必要な水準まで上達する見込みがないとき)及び同条12号(前各号の他、解雇に該当する合理的事由があるとき)に該当し、本件解雇には、就業規則上定められ、合理的と認められる解雇の理由が存する。

2 Xの解雇理由に共通するのは、Xが自己の判断で独善的かつ専断的に業務を遂行するという点であり、Xには、上司の指示に従い他の職員と協同して業務を遂行するという、組織の中で職務を遂行するに当たり求められる基本的な姿勢が欠けているといわざるを得ず、また、Xが、上司や同僚職員からの指導に対して真摯に耳を傾ける姿勢を欠き、本件けん責処分により改善の機会が付与されたにもかかわらず、その後も自己の勤務態度を改めることがなかった経緯も踏まえると、Xの勤務態度について、指導等による改善が見込めるものでもないから、Xに対し解雇をもって臨むことはやむを得ず、本件解雇の手続にも特段不適切な点は認められないことなどを踏まえると、本件解雇は社会通念上相当として是認することができること等から、本件解雇に解雇権を濫用した違法があるとはいえず、本件解雇は有効である。

このような事案の場合、使用者側もしびれを切らしてすぐに解雇してしまう例がありますが、それではいけません。

指導・教育・改善の機会を与えたにもかかわらず改善しなかったという一連の流れについてエビデンスを残す意識を持つことが大切です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇305 整理解雇が無効と判断される理由とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

7日目の栗坊トマト。どんどん成長しています!

今日は、学部廃止を理由とする大学教員らの整理解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人大乗淑徳学園事件(東京地裁令和元年5月23日・労判ジャーナル89号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない労働契約を締結し、Y社の設置する大学に勤務していた元教員らが、Y社が元教員らの所属していた学部の廃止を理由としてした解雇が無効であると主張して、Y社に対し、労働契約に基づき、それぞれ労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、解雇後の月例賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 Y社が国際コミュニケーション学部の廃止を決定したこと自体を不合理ということはできないものの、Y社の財務状況が相当に良好であったことや、同学部の廃止と同時期に人文学部の新設が決定され元教員らの担当可能な授業科目が多数新設されたことによれば、国際コミュニケーション学部の廃止に伴う人員削減の必要性が高度であったとはいえないというべきであり、それにもかかわらず、Y社は、人文学部への応募の機会を与えず、個別に相談したいなどと述べて、本件各労働契約の存続に期待を言動に出て、結果的に解雇回避の機会を喪失させたばかりか、元教員らを学部に所属させずに他学部の授業科目を担当させるなどの解雇回避努力を尽くすこともなく、元教員らに対する説明や元教員らとの協議を真摯に行うこともしなかったことなどの諸事情を総合考慮すれば、本件解雇は、解雇権を濫用したものであり、社会的相当性を欠くものとして無効である。

上記のような事情があるとすれば、解雇回避努力を尽くしたとはいえないため、整理解雇は無効となるでしょうね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇304 弁明の機会を与えなくても解雇は有効?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、代表取締役に対する暴行等と退職慰労金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

トーア事件(大阪地裁平成31年3月7日・労判ジャーナル88号35頁)

【事案の概要】

本件は、本訴において、Y社の元従業員Xが、①Y社並びにY社の代表取締役であったC及びBが、長年にわたってXに過重労働を強いたため、Xがうつ病に罹患し、精神的苦痛を被ったとして、Y社らに対し、安全配慮義務違反(債務不履行)ないしは不法行為に基づき、慰謝料800万円等の支払、②XがY社を退職したとして、Y社に対し、雇用契約に基づき、退職慰労金約478万円等の支払を求め、反訴において、Bが、Xに対し、①平成24年3月以降平成27年11月まで計約1227万円を支払わせた、②脅迫して計250万円を支払わせた、③Bの顔面を殴打するなどの暴行を加えて傷害を負わせた、④上記平成22年以降の言動に加え、Bの体を縄で縛って写真を撮影するなどしてBの人格権を侵害し、精神的苦痛を被らせたとして、Xに対し、各不法行為に基づき計約1969万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払賃金等支払請求棄却

損害賠償等請求一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、平成9年以降、Y社から、退職するまでの間、深夜までの残業を強いられ、土日も休むことができなかった旨主張するが、具体的な各日の労働時間の主張・供述がない上、タイムカードのデータを見ても、そのような深夜までの残業を行っていたことは窺われず、そのほかXが残業を行っていたことを裏付けるに足りる証拠はなく、Xが平成9年以降過重労働を行っていたことを認めるに足りる証拠はないから、Y社らの過失によるXの法益侵害ないしY社の安全配慮義務違反Xの主張は、その前提を欠く。

2 Bが、共謀したXらから暴行を受け傷害を負ったと認められ、また、Xによる脅迫等の事実が認められ、これらの認定事実は、少なくとも就業規則懲戒事由に該当すると認められ、さらに、上記各事実について、Y社の代表者に対するものであること、多数回にわたり暴行に及んでいること、肋骨骨折等その結果の重大性、執拗な脅迫の態様、支払わせた金額が大きいこと等に照らせば、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会的に相当であると認められるところ、Xは、懲戒解雇が弁明の機会も付与することなく行われており、適正手続も欠くと主張するが、上記のとおり、懲戒事由の内容がY社の代表者であるBに対する暴行・傷害であり、脅迫であることに鑑みれば、Y社がXに弁明の機会を付与しなかったからといって、上記相当性を失わせるものではなく、Xの行為は、これまでの勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為であるといえるから、Xの退職慰労金請求には理由がない。

上記判例のポイント2は押さえておきましょう。

弁明の機会を与えなかった場合、手続的要件を欠くと争われますが、懲戒事由が重い場合、手続的要件を欠いたとしても、それだけで相当性要件を否定されるわけではありません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。