Category Archives: 解雇

解雇323 就業規則が存在しない場合でも懲戒解雇できる?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、懲戒解雇と就業規則の存在に関する裁判例を見てみましょう。

JFS事件(大阪地裁令和元年10月15日・労判ジャーナル95号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社と雇用契約を締結し稼働していたところ、Y社から懲戒解雇されたが、同解雇は無効であるとして、地位確認、未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 本件契約の性質について、c専務が、Y社の規程として研修期間があるので、役員の場合は給料が45万円だがそれより5万円アップの50万円で、3か月だけは様子は見よう、それでだめなときは契約しませんよという話をXにしたこと等から、「3か月」というのは、試用期間であり、Y社代表者が、平成29年12月28日に、Y社訴訟代理人に対し、Xに対する解雇通知を出してほしいと相談し、その意を受けて、Y社訴訟代理人が、Xに対し、「誓約書(入社時)」に違反したことを理由とする懲戒解雇の意思表示として本件内容証明郵便1を送付したこと、以上の点を併せみれば、Y社代表者自身の認識及び行動に基づいてみても、XとY社との間の本件契約は、試用期間付き雇用契約であるとみるほかない

2 使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要するところ、Y社が、Xに対し、懲戒解雇の意思表示をした当時、Y社に就業規則が存在しなかったことについては当事者間に争いがないから、Y社のXに対する平成29年12月28日付け及び平成30年2月9日付けの懲戒解雇の意思表示は、いずれも懲戒権の根拠を欠き、無効というべきであるから、Xの地位確認請求は理由がある。

前記判例のポイント2は、初歩中の初歩のレベルの話です。

しっかり、顧問弁護士・顧問社労士の指導の下で労務管理をしましょう。

解雇322 中途採用従業員の本採用拒否の適法性判断方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、中途採用のアナリストに対する本採用拒否の適法性に関する裁判例を見てみましょう。

ゴールドマン・サックス・ジャパン・ホールディングス事件(東京地裁平成31年2月25日・労判1212号69頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのない労働契約を締結してその労働に従事していた労働者であるXが、使用者であるY社がXを解雇したこと(主位的には試用期間の満了に伴う普通解雇であり、予備的には事業の縮小等に伴う普通解雇である。)について、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に当たり、無効である旨を主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位に在ることの確認並びに当該解雇の後に生ずるバックペイとしての未払賃金+遅延損害金の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、いわゆる大学新卒者の新規採用等とは異なり、その職務経験歴等を生かした業務の遂行が期待され、Y社の求める人材の要件を満たす経験者として、いわば即戦力として採用されたものと認めるのが相当であり、かつ、Xもその採用の趣旨を理解していたものというべきである。

2 解約権の行使の効力を考えるに当たっては、上記のようなXに係る採用の趣旨を前提とした上で、当該観察等によってY社が知悉した事実に照らしてXを引き続き雇用しておくことが適当でないと判断することがこの最終決定権の留保の趣旨に徴して客観的に合理的理由を欠くものかどうか、社会通念上相当であると認められないものかどうかを検討すべきである。

3 BVPがCリーダーやD代理に対して平成27年8月19日からXの業務遂行の状況やミスの発生の状況等を記録して組織的に共有するように指示をしているところ、毎営業日についてその記録が取られており、少なくとも同日以後は、毎営業日についてXが少なくない数の業務遂行上のミスをしているものである。また、同日より前の時期についても、詳細かつ具体的な記録が取られていたわけではないものの、BVPは、その陳述書及び証人尋問において、Xの業務遂行の状況等の記録を取り始めるように指示をした契機について、Xの仕事上のミスが多く、このままでは業務に支障が生ずる旨の報告をA氏から受けたことにある旨を陳述しているところ、この陳述の内容は、客観的な経緯に整合するものとして採用することができるから、同日より前の時期についても、上記に認定した同日以降の状況と同様に、Xが業務遂行上のミスを少なからずしていたものと推認するのが相当である。

上記判例のポイント3の流れは、労務管理上、大変参考になります。

訴訟に発展することを想定して準備をすることが大切です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇321 商品持ち帰り行為を理由とする懲戒解雇が無効とされた事例(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、商品持ち帰りを理由とする懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ロピア事件(横浜地裁令和元年10月10日・労判ジャーナル94号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が経営するスーパーマーケットで勤務していたXが、商品を会計せずに持ち帰ったことを理由になされた懲戒解雇について、これが無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、懲戒解雇後の平成30年8月分の未払賃金として約31万円、同年9月以降の未払賃金として月額約36万円、未払賞与として約40万円の支払を求めるとともに、Y社が経営する店舗において、Xの氏名を明記して上記懲戒解雇の事実を公表したことが名誉毀損の不法行為に該当すると主張し、慰謝料等330万円の支払いを求め、さらに就労期間中の未払残業代合計約186万円等、付加金約96万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇無効

損害賠償請求一部認容

未払賃金等支払請求一部認容

付加金等支払請求認容

【判例のポイント】

1 本件で懲戒事由の対象となった客観的行為は、Xが精肉商品を精算しないまま持ち帰ったことであり、Xが本件持ち帰り行為を行ったこと自体について、当事者間に争いはないが、Y社は本件持ち帰り行為が故意の窃盗行為であることを前提に、就業規則67条1項12号又は13号の懲戒事由に該当すると主張するが、本件持ち帰り行為は、Xが、精肉商品を精算未了のまま店外へ持ち出した一回の行為であり、その外形自体、精算を失念して商品を持ち出してしまったとのXの説明と矛盾するものではなく、本件持ち帰り行為そのものが、Xに窃盗の故意があったことを積極的に裏付けるとはいえず、また、Y社は本件持ち帰り行為が買い物ルールに違反するとして、予備的に就業規則67条1項5号、6号又は18号に該当すると主張するが、対象行為が上記各号に該当するかは疑問があり、少なくとも、故意による窃盗行為よりも比較的軽微な違反行為に対し、不相当に重い処分がなされたものといえるから、本件懲戒解雇及び本件予備的解雇意思表示は、いずれも、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、無効である。

2 Xは、本件掲示がXの社会的評価を低下させる名誉毀損に当たり、不法行為が成立すると主張するが、本件掲示は、本件持ち帰り行為についてXの実名を挙げて「窃盗事案が起きました」「計画性が高く、情状酌量の余地も認められない」「本事案は刑事事件になります」などと記載し、全体として見ると、Xが故意に商品を精算せず持ち帰り、窃盗行為をしたとの事実を摘示するものであること等から、本件掲示は、Xの社会的評価を低下させる事実を摘示するものであり、不法行為に該当する。

客観的に見ると、窃盗という犯罪行為のため、懲戒解雇をしたくなる気持ちは理解できます。

しかし、本件のような判断があり得ることを十分理解しなければなりません。

また、上記判例のポイント2のような掲示行為については名誉毀損と判断され、損害賠償請求をされますので注意が必要です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇320 能力不足を理由とする解雇と訴訟における立証方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、能力を著しく欠くことを理由とする解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

豊田中央研究所事件(名古屋地裁令和元年9月27日・労判ジャーナル94号64頁)

【事案の概要】

本件は、元研究員Xが、Y社に対し、普通解雇が無効であるとして、地位確認を求め、本件解雇後の賃金及び慰謝料等を請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社より、本件出勤停止処分を重く受け止め、反省し、今後は職務に専念することを求める旨、Y社が指示している業務は「中研におけるCAE・シミュレーション研究の業務報告書調査」であるから指示された業務への従事を求める旨の指導を受け、その後も、複数回、同様の指導を受け、執務室で業務を実施するよう指示を受けたが、本件解雇に至るまで、指示された業務を実施する職場環境にない、職場環境を改善する必要があるので指示された業務を実施する時間はない等との独自の見解により、指示された業務を全く行わなかったものであり、かかるXの態度は、自らの独自の見解に固執し、Y社の指示、指導を受け入れないもので、将来の改善も見込めない状態であったといえ、他の部署に異動した場合に改善が見込まれるとも考えにくく、また、他の部署に異動した場合の改善の余地もないというべきであるから、Y社が、就業規則41条1号(研究所員としての能力を著しく欠くとき)に該当するとして行った本件解雇は、客観的に合理的な理由が認められ、社会通念上相当であり、解雇権濫用には当たらないから、有効である。

このような一連の流れについて、訴訟になった際に、立証できるように準備しておくことが極めて重要です。

口頭だけでの注意・指導では、いざというときに立証ができません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇319 定年後再雇用の期待権侵害と損害賠償額(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、事業所廃止に伴う解雇の有効性と定年後再雇用契約の成否等に関する裁判例を見てみましょう。

尾崎織マーク事件(京都地裁平成30年4月13日・労判1210号66頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、①平成28年3月15日に「同年4月16日をもって解雇する。」旨の解雇通知が解雇権の濫用(具体的には整理解雇の要件を充足していない)から無効であるとして、定年(平成28年8月3日)までの未払賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、②上記①記載の解雇が無効であれば、当然に定年後は再雇用されることが予定されていたとして、再雇用後の労働契約上の地位の確認と、それを前提にした未払賃金+遅延損害金の支払を、それぞれ求めている事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、11万0810円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、137万1447円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、401万0423円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Aセンター閉鎖が決定されたことに伴うXの処遇が平成27年9月から平成28年3月にかけて重要な課題であったところ、その最中にY社東京支店において営業担当社員の新規採用が行われていた事実が認められる。そうすると、経費削減の一環として本件解雇がなされた一方で、Y社東京支店に所属する営業担当社員を2名新規採用するといった対応は、一貫性を欠くものと評価されてもやむを得ない少なくともX側に対して東京支店への配転の打診は行うべきであったといえるところ、それをした形跡も窺われないから、解雇回避のための努力を尽くしたと評価するには至らない。

2 定年後の再雇用(雇用継続)について、再雇用を希望する者全員との間で新たに労働契約を締結する状況が事実上続いていたとしても、労働契約が締結されたと認定・評価するには、強行法規が存在していれば格別、そうでない場合には、賃金額を含めた核心的な労働条件に関する合意の存在が不可欠である。したがって、本件において、XとY社の間で嘱託社員としての再雇用契約締結に関する合意は全く存在しない以上、その契約上の地位にあることも認められない
ただし、Xが、定年後に嘱託社員としてY社に再雇用(継続雇用)されることを期待していたことは明らかであり、Y社において労働者が再雇用を希望した場合に再雇用されなかった例は記憶にないとのY社代表者の供述も勘案すると、Y社は、前記のとおり、違法無効な整理解雇通知をしたものであり、これによってXの雇用継続の期待権を侵害した不法行為責任を負うと言わなければならない。
・・・また、損害発生期間については、定年退職後の再雇用規程の第1条によると、最大で満65歳に達するまで再雇用(継続雇用)されることが期待できるものの、Xの健康状態が5年間維持されるとは必ずしも断定できないことから、控えめに見て少なくとも3年間の更新は期待できるものとして、期待権侵害による損害賠償額は3年分相当額(ただし、3年に対応する中間利息はライプニッツ方式により控除するのが相当である。)と認めるのが相当である。

上記判例のポイント2は十分に気を付けなければいけません。

3年分相当額の賠償額というとかなりの金額になりますので、注意しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇318 解雇無効でバックペイに加えて慰謝料が認められる場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、職場の風紀を著しく乱す行為に基づく懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

マルハン事件(東京地裁令和元年6月26日・労経速2406号10頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない労働契約を締結していたXが、Y社により平成29年11月4日付けで懲戒解雇されたこと(Y社は、仮に本件懲戒解雇が無効であると判断された場合には、予備的に同日付けでXを普通解雇したと主張するとともに、更に仮に当該普通解雇も無効であると判断された場合には、予備的には平成31年2月25日付けでXを普通解雇したと主張する)について、本件各解雇が無効である旨等を主張して、Y社に対し、本件労働契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件懲戒解雇の後に生ずるバックペイとしての月額給与及び賞与等の支払を求めるほか、不法行為に基づき、慰謝料等500万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 本件懲戒処分が有効かどうかについて、Y社が主張する事実を認めるに足りる客観的かつ的確な証拠はなく、Y社が主張する懲戒解雇事由をもってXを懲戒解雇することには無理があるといわざるを得ず、さらに、本件懲戒解雇に至る手続をみても、Y社の従業員らからのヒアリング結果の報告書をそのままY社の懲戒委員会に提出したという以外に、Xからの異議申立てに対する対応を含めて、Y社の懲戒委員会においてどのような審議がされ、どのような判断の下に懲戒解雇処分を行うに至ったのかも明らかではなくXによる反論の機会が実質的に保証されていたのか、また、Y社において、Xによる反論等を踏まえ、慎重な検討、判断を経て懲戒解雇処分を行うに至ったのか疑問があること等から、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に当たるというべきであり、労働契約法15条の規定により、懲戒権を濫用したものとして、無効となる。

2 本件懲戒解雇によりXは、相応の精神的苦痛を被ったものと認められるが、他方で、これまで店長として、従業員間の不倫関係や男女関係のトラブル等の職場内の風紀秩序を乱す行為について指導する立場にあり、現に指導を行ってきたにもかかわらず、Aと不倫関係にあったり、Bと一泊二日の温泉旅行に出かけたりするなど、懲戒解雇事由に当たるとはいえないにしても、一定程度、職場内の風紀秩序を乱す行為を行っていたことに加え、本件懲戒解雇後間もなく同業他社に再就職し、Y社における従前の待遇を上回るものとまではいえないものの、相当高額な賃金を得ており、本判決において、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認とともに、本件懲戒解雇の後に生ずるバックペイとしての月例給与として平均賃金額の6割に相当する額の請求が認められることにより、賞与の点を踏まえても本件懲戒解雇による経済的な損失はほぼ填補されることになることを考慮すると、本件懲戒解雇によるXの精神的苦痛を慰謝するための金額として、50万円を認めるのが相当である。

上記判例のポイント2のような事情があるにもかかわらず、バックペイとは別に慰謝料が認められています。

それほど懲戒解雇の根拠や手続が不十分であったということでしょうか。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇317 解雇を有効に行うために必要なプロセスとは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、解雇無効地位確認と不就労期間の未払賃金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

えびす自動車事件(東京地裁令和元年7月3日・労判ジャーナル93号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に就労を拒否され、その後、Y社から違法に解雇されたと主張して、労働契約に基づき、Y社に対し、労働契約上の地位の確認を求めるとともに、就労が拒否された後である平成28年5月29日から平成30年4月15日までの賃金約589万円及び平成30年5月から本判決確定の日まで毎月25日限り賃金26万0673円の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 平成29年5月18日にXがY社を退職したかについて、Xは、平成29年5月18日、Y社に対し退職届を提出しており、これにより辞職の意思表示をしたといえることから、Xは、同日、Y社を退職したと認められるから、本件請求のうち、労働契約上の地位の確認を求める部分及び平成29年5月18日以降本判決確定の日までの賃金の支払いを求める部分は理由がない。

2 平成28年5月29日から平成29年5月までの間、Y社の責めに帰すべき事由によって労務を提供することができなくなったかについて、Y社は、度重なる指導にもかかわらず重大な事故を繰り返し発生させ反省する様子を見せないXを、このままタクシー運転手として勤務させ続けることは危険であるとしてその就労を拒否し、事務職への転換を提案したX所長の判断は、安全性を最も重視すべきタクシー会社として合理的理由に基づく相当なものであったというべきであり、本件免許停止処分の期間が満了した後も、Xが事故防止に向けた具体的取組をY社に説明することはおろか、タクシー運転手として勤務を希望する旨を申し出ることすら一度もなかったことをも踏まえると、Y社が本件免許停止処分以降、約1年間にわたってXの就労を拒否し続け、Xが労務を提供することができなかったことについて、Y社の責めに帰すべき事由があると認めることはできないから、本件請求のうち、平成28年5月29日から平成29年5月18日までの賃金の支払を求める部分は理由がない。

上記判例のポイント2のようなプロセスをしっかり踏むこととそれをエビデンスとして残すことがとっても大切です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇316 解雇後の再就職と復職の意思の判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、退職合意と解雇の有効性を否定したが、再就職から半年乃至1年後に黙示の退職合意の成立が認められた裁判例を見てみましょう。

新日本建設運輸事件(東京地裁平成31年4月25日・労経速2393号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない労働契約を締結していたXらが、Y社により平成28年6月25日付けで普通解雇されたが、本件各解雇は無効である旨を主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件各解雇の後に生ずるバックペイとしての月例給与+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はX1に対し、389万9974円+遅延損害金を支払え

Y社はX2に対し、270万3331円+遅延損害金を支払え

Y社はX3に対し、274万0225円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xらは、本件各解雇からほとんど間を置かずに、同業他社に就職するなどしてトラック運転手として稼働することにより、月によって変動はあるものの、概ね本件各解雇前にY社において得ていた賃金と同水準ないしより高い水準の賃金を得ていたものである。これらの事情に加え、上記のとおり、本件各解雇に至る経緯を考慮すると、X1については、遅くともLに再就職した後約半年が経過し、本件各解雇から1年半弱が経過した平成29年11月21日の時点で、X2及びX3については、遅くとも本件各解雇がされ再就職した後約1年が経過した同年6月21日の時点で、いずれも客観的にみてY社における就労意思を喪失するとともに、Y社との間でXらがY社を退職することについて黙示の合意が成立したと認めるのが相当である。

2 ・・・もっとも、使用者の責めに帰すべき事由によって解雇された労働者が解雇期間中に他の職に就いて収入等の中間利益を得たときは、使用者は、当該労働者に解雇期間中の賃金を支払うに当たり中間利益の額を賃金額から控除することができるが、上記賃金額のうち労働基準法12条1項所定の平均賃金の6割に達するまでの部分については利益控除の対象とすることが禁止されているものと解すべきであるから、使用者が労働者に対して負う解雇期間中の賃金支払債務の額のうち平均賃金額の6割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することは許されるものと解するのが相当である。

解雇後、他社に就職し、正社員として就労していると、本件のように、就労(復職)の意思が喪失したと判断されることがあります。

もっとも、今回の裁判例は、他社に就職した時点ではなく、そこから相当期間経過した時点をもって就労(復職)の意思が喪失したと認定しています。

労使ともに参考になる裁判例だと思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇315  配転命令拒否と懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、配転命令拒否と懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

共栄セキュリティーサービス事件(東京地裁令和元年5月28日・労判ジャーナル92号44頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Xが配転命令に従わなかったことなどを理由として、Xを懲戒解雇したため、Xが、Y社に対し、上記懲戒解雇は無効であると主張して、雇用契約に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、上記配転命令も無効であると主張して、雇用契約に基づき、雇用契約上の勤務場所以外で労働する義務がないことの確認を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、JR警乗の業務関連先でするべき行動につき、合理的な理由なくY社の指示に反抗したものであって、ひとたびこのような業務上の指示に反する行為をしたXをJR警乗の注文者でありY社の取引先であるJR東日本との関係を考慮して他の業務に配転する本件配転命令には、Y社の就業規則中の配転事由に係る規定(社員の適性を勘案し、適材適所に配置転換する場合、及び、経営上の判断により必要と認められる事由がある場合)に照らしても、業務上の必要があったものと優に認められ、また、Y社がXに対して本件配転命令後の労働条件として提示した賃金額はXがJR警乗に従事していた際の賃金と同額の1か月19万円とされていたことが認められ、本件配転命令後のその他の労働条件も客観的に見てそれより前の労働条件と比較して客観的に不利益なものではなかったことが認められることに照らせば、本件配転命令が不当な動機・目的をもってなされたとか、労働者に対し通常甘受するべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであったとの事情は認められないから、本件配転命令が無効であるとは認められない

2 Xは、Y社の業務上の命令・指示に対する不服従をかたくなに繰り返し、また、本件懲戒解雇を受けるまで3か月以上の長期にわたりY社での就労拒否を継続したものであって、これをやむを得ない行為であったと解するべき事情は特に認められないから、本件懲戒解雇が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められないものとはいえない

配置転換については比較的使用者に広範な裁量が認められていますが、不当な動機目的が認定される場合等には無効となります。

今回の事案のように、業務上の必要が認められ、かつ、賃金の減少がないといった場合には特に問題なく有効とされます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇314 試用期間中の解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は試用期間中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ナカムラ・マネージメントオフィス事件(大阪地裁令和元年6月18日・労判ジャーナル92号30頁)

【事案の概要】

本件は、Y社で勤務していたXが、Y社から解雇されたが、同解雇は無効であるなどと主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、賃金及び賞与等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 Y社は、オーク会の理事長及びC事務長が、平成30年1月31日、Xと面談して解雇を通告したが、Xは、「はい」とだけ述べ、Y社との間の雇用契約の終了自体について異議を述べていなかったから、Xは、同日をもってY社を合意退職した旨主張するが、Xは、平成30年1月19日、C事務長から退職勧奨を受け、同月30日、C事務長に対し、賞与の支払がない限り退職勧奨を受け入れない旨伝えたが、オーク会の理事長は、同月31日の面談の際、賞与の支払について、これを拒否していること、同面談において、オーク会の理事長は、C事務長に対し、解雇の手続を取ること、Xに内容証明を送ること、解雇を行う際は録音を取ること等を指示し、実際に、Xは、C事務長から、同日解雇通知書を受け取ったこと、XはY社から、同年2月1日、郵送で同内容の書面を受け取り、同月6日には、解雇理由通知書の送付まで受けていること等の事実を併せ鑑みると、Y社は、Xを解雇したものと認めるほかなく、同年1月31日のやり取り全体を踏まえても、Xが、Y社を合意退職したものと認めることはできない

2 平成30年1月19日付け又は平成30年1月31日付け解雇予告による解雇の有効性について、Y社によるXの試用期間中の解雇、すなわち、留保した解約権の行使に客観的合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められるか否かについて検討するところ、「コミュニケーション能力の欠如」に関しては、直接体験した者の供述等これらを認めるに足りる的確な証拠がなく、また、「業務遂行能力の欠如」に関しては、Xが、Y社の注意にもかかわらずXがミスを繰り返したといった事情も認め難いこと等から、留保解約権の行使においては、通常の雇用契約における解雇の場合よりもより広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきであることを踏まえても、本件雇用契約に基づく労務の提供に不足があるとしてXを解雇すること(留保した解約権を行使すること)に、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるとは認められないから、Y社によるXの解雇(留保解約権の行使)は、無効であり、また、Xは、Y社から就労を拒否されている状況にあるから、解雇日以降も、Y社に対し、賃金の支払を求める権利を有する。

コミュニケーション能力の欠如や業務遂行能力の欠如といった理由で解雇する場合には、それを裏付ける事実を立証することが大変です。

事前の準備なく解雇をしてしまうとこのような結果となってしまうので注意してください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。