Category Archives: 解雇

解雇413 日本語能力の欠如等を理由とする外国人労働者の試用期間中の留保解約権行使を無効とした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、日本語能力の欠如等を理由とする外国人労働者の試用期間中の留保解約権行使を無効とした事案を見ていきましょう。

R&L事件(東京地裁令和5年12月1日・労経速2556号23頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのある雇用契約を締結していたXが、Y社のXに対する解雇が無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、660万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効
Y社はXに対し、587万7144円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件雇用契約時にXの日本語能力は「中級」であることが前提とされていたが、「中級」の基準が明確に定まっていたとまではいえない。ただし、Y社のX採用に至るまでの経緯に照らせば、「中級」とは、少なくとも採用面接時にXがY社と日本語でやり取りした程度の日本語能力をいい、これを前提に本件雇用契約が締結されたと認めるのが相当である。したがって、Xが妻の名前を漢字で書くことができなかった点や、Xの兄が死亡した際にY社従業員の「葬式はどこでやるのか。」という質問の意図が理解できなかったこと等をもって、Xが「中級」程度の日本語能力を欠くとまでは認められない。

2 本件雇用契約には3か月の試用期間が設けられており、仮にXの日本語能力に十分でない部分があったとしても、Xが、日本語教育研究所の評価する日本語能力を有し、かつ、Y社の提供する週1回の日本語教室に通うなどの意欲を示していたことからすれば、上記試用期間3か月のうち約1か月しか経過していない11月25日の時点で、試用期間が満了する令和4年1月24日の時点においても本件雇用契約で前提とされていた「中級」の日本語能力を有さないことが見込まれる状態にあったとは認められない。

能力不足を理由とする解雇の場合、上記判例のポイント2のように判断されることがありますので、注意が必要です。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

解雇412 試用期間中に逮捕勾留された旨を連絡せず、5日半欠勤した従業員の解雇を認めた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、試用期間中に逮捕勾留された旨を連絡せず、5日半欠勤した従業員の解雇を認めた事案を見てきましょう。

シービーアールイーCMソリューションズ事件(東京地裁令和5年11月16日・労経速2555号35頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結しY社において勤務していたXが、Y社から試用期間中に留保された解約権を行使されたことについて、本件解雇が無効である旨主張して、Y社に対し、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②令和4年12月支払分の賃金45万9346円及び遅延損害金の支払、③令和5年1月支払分から本判決確定の日までの賃金毎月月額116万6667円+遅延損害金の支払、④不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料200万円と弁護士費用相当額20万円の合計220万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 5日半の欠勤については、労働者の労働契約における最も基本的かつ重要な義務である就労義務を放棄したものとしてそれ自体重大な違反であるといえる。Xは、5日半の欠勤に先立ち有給休暇及び振替休日を取得しているものの、本件逮捕勾留という事の性質上、引継ぎ等がされたとは考え難いから、これらを含めれば、Y社において、Xが突然長期間不在になったことによって多大な迷惑を被りその穴を埋めるために対応を余儀なくされたことは明らかである。また、Xは、Y社から欠勤について事情の説明を求められても、Y社に対し、個人的事情によるものとしか説明していない。犯罪による身柄拘束といった高度にプライバシーに関わる事項であるものの、それを知らないY社から欠勤について事情の説明を求められるのは当然である。Xは、本件解雇後、Y社に対し、欠勤の理由が本件逮捕勾留であることを伝えているものの、それであれば、欠勤する際に伝えるべきであり、本件逮捕勾留についてY社に対し一切伝えないといった当時の対応は不適切であったといえる。Xは、Y社において勤務を開始したばかりでY社との間の信頼関係を徐々に構築していく段階であったところ、Y社に対し、欠勤の理由について個人的事情によるものとしか回答しない状態であったから、Y社からすれば、Xの就労意思すら不明であるし、Xについて仮に本採用をしても理由を明らかにしないで突然長期間の欠勤をする可能性がある無責任な人物と考えるのは当然である。
これらによれば、Xの上記対応によって、XとY社との間の労働契約の基礎となるべき信頼関係は毀損されたといえる。なお、Xの欠勤が逮捕勾留によるものといった当時判明していなかった事実を考慮しても、不起訴処分後に起訴することは妨げられないこと、犯罪の内容等によっては逮捕勾留の事実も社会的に半ば有罪と同視されてマスコミ報道等で取り上げられY社の社会的評価が毀損されることもあり得ることによれば、Xを本採用することは、Y社においてなおさらリスクが高かったといえる。
これらについては、Y社において、本件労働契約締結当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実であるといえるし、Y社において引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することが相当であるともいえる。
したがって、Xは、試用期間中の解雇事由について定めた就業規則における「正当な理由のない無断欠勤が3日以上に及んだ場合」(8条1項2号)に該当するといえるし、欠勤すること自体の連絡があったことから「無断欠勤」とはいえないと解する余地があったとしても、少なくとも「社員としての本採用が不適当と認められた場合」(本条柱書)及び「その他前各号に準ずる程度の事由がある場合」(同条1項11号)に該当するといえる。

逮捕勾留されたことを素直に会社に伝えられない気持ちはよくわかります。

伝えたら伝えたで難しい状況になりますので。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

 

解雇411 外資系企業に中途採用された従業員への職務遂行能力不足を理由とした解雇の有効性を否定した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、外資系企業に中途採用された従業員への職務遂行能力不足を理由とした解雇の有効性を否定した事案を見ていきましょう。

PAGインベストメント・マネジメント事件(東京地裁令和5年10月27日・労経速2555号21頁)

【事案の概要】

本件は、世界中の機関投資家から預託された資産を基に投資運用を行う会社の日本法人であるY社に勤務していたXが、(1)業績評価が不良であることなどを理由に令和3年6月30日付けで解雇されたことについて、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、無効であると主張して、Y社に対し、①労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、②同年7月分の未払賃金15万9356円+遅延損害金、③同年8月分から本判決確定の日まで毎月25日限り月額82万1000円の割合による金員+遅延損害金の各支払を求めるとともに、(2)Xの上司がXに対する退職勧奨に関する情報等が記載されたメールを、当該情報を知らない同僚らを宛先に含めて送信したことにより、Xの社会的評価が低下し、精神的苦痛を被ったなどと主張して、使用者責任による損害賠償請求権(民法709条、715条)に基づき、慰謝料100万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 解雇無効→バックペイ
2 Y社はXに対し、15万9356円+遅延損害金を支払え
3 Xのその余の請求を棄却する

【判例のポイント】

1 Xが所属する部署は、投資家やY社の経営陣向けにPAGが運用するファンドに関する各種データを提供する部署であって、令和3年7月当時、同部署のメンバーはXを含めて6名と少数であったこと、Xは年俸900万円という相当程度の労働条件で中途採用され、その職務内容としては投資家向けの四半期レポートの作成等とされていたことが認められる。そして、これらの事情に加え、世界有数の投資運用会社であるPAGの日本法人であるY社が投資家の信頼するファンドに関する最新の情報を迅速かつ正確に提供することが重要であることからすれば、Xが同部署で2番目に低いアソシエイトの職位であることを考慮しても、本件労働契約上、課せられた期限内に、担当分野についての正確な内容の資料を作成する能力が相当程度高い水準で求められていたというべきである。

2 Xは、正確性及び迅速性に関する職務遂行能力に問題があり、その業績評価は不良であったものの、本件解雇当時においては、「会社の人的資源を開発する絶え間ない努力、十分な個人指導、カウンセリング、及び警告を与えてもなお」、是正し難い程度であったとまでは直ちに認められず、Xにつき、解雇事由に該当する事実は認められない。したがって、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから(労働契約法16条)、無効である。

能力不足を理由とする解雇については、その判断基準が曖昧なため、使用者側は、訴訟での立証に工夫が必要です。

多くの裁判例で、上記判例のポイント2のような判断がされていることを留意する必要があります。

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解雇410 海外勤務者の退職・解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、海外勤務者の退職・解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

アイウエア事件(東京高裁令和4年1月26日・労判1310号131頁)

【事案の概要】

本件は、A塾という名称で学習塾を運営するY社に平成25年6月1日付けで入社し、同月13日から中華人民共和国(中国)内に所在するA塾A1校において講師として勤務していたXが、同年9月末日を退職日とする同月1日付け退職願に署名押印したものの、退職の意思表示は不存在であり、又は仮に存在していたとしても心裡留保若しくは虚偽表示により無効であって、同年10月1日以降もY社との雇用関係が継続していたとした上、平成28年12月27日にY社によってされた解雇は解雇権の濫用に当たり無効であるとともに、Xに対する不法行為に該当するなどと主張して、Y社に対し、①労働基準法37条1項に基づき、平成27年11月1日から平成29年1月26日までの未払割増賃金合計167万7307円+遅延損害金の、②労働基準法114条に基づき、付加金167万7307円+遅延損害金、③民法536条2項に基づき、Y社が再就職した平成29年4月1日の前日までの間の未払基本賃金50万4460円+遅延損害金、④民法709条に基づき、損害金143万2832円+遅延損害金の各支払を求める事案である。

原審は、Xの上記各請求について、①未払割増賃金合計126万7361円+遅延損害金、②付加金126万7361円+遅延損害金、③未払基本賃金44万8360円+遅延損害金、④損害金49万5000円+遅延損害金の各支払を求める限度でこれらを認容し、その余をいずれも棄却した。

【裁判所の判断】

1 原判決主文2項を取り消す。

2 上記取消部分に係るXの請求を棄却する。

3 その余の本件控訴を棄却する。

【判例のポイント】

1 少なくともXにおいては、Y社とXとの雇用契約が、就労ビザ取得までの短期間で終了する前提で締結されたなどとは認識していなかったものとみるのが相当であるとともに、Y社から、転籍出向後もY社の海外赴任規定の適用を前提とした手当の支給等が行われることや、転籍出向後もY社への帰任が前提となっているかのような説明を受けていたXにおいて、転籍後もY社との雇用契約が存続するとの認識を有していたとしても不自然ではなかったものと認めることができる。
そうすると、Y社における「転籍」が一般に「それまで在籍していた会社を退職して別の会社に属すること」を意味し、Xが「転籍出向」を自ら選択して本件退職願を提出したとの事実が存したとしても、本件における上記の事実関係の下においては、Xにおいて、上記のような意味での「転籍」を自ら選択し、Y社との雇用契約を終了させる意思に基づいて本件退職願を提出したものとは認められないものというべきである。

2 Y社は、原判決言渡し後である令和3年11月12日、前記第2の2(5)のとおり、Xに対し、原判決主文1項で認容された未払割増賃金及び遅延損害金を含む合計286万2783円を支払ったものであるところ、原判決主文1項には仮執行宣言が付されており、Y社は当審においてもXの未払割増賃金請求を争っているものの、上記の支払については、原判決主文1項が維持されることを前提とした、留保付きの弁済とみることができるから、その限度で弁済の効力を有するものと解するのが相当である。したがって、本件においては、裁判所が付加金の支払を命ずるまでに使用者が未払割増賃金の支払を完了したものとして、Y社に対し付加金の請求を命じないこととする。

第一審で付加金の支払を命じられた場合の対抗策としては、控訴し、判決が確定する前に遅延損害金を含め全額支払うということですが、仮執行宣言が付されている場合(通常付されています)、上記判例のポイント2のような別の論点が出てきます。

この点は少しマニアックではありますが、弁済をしても付加金が認められてしまうか否かに関連する重要な論点ですので、是非、押さえておきましょう。

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解雇409 コロナ禍での整理解雇につき、解雇回避努力が不十分とはいえないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、コロナ禍での整理解雇につき、解雇回避努力が不十分とはいえないとされた事案を見ていきましょう。

カーニバル・ジャパン事件(東京地裁令和5年5月29日・労経速2545号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結していたXが、①Y社がXに対してした解雇は無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに解雇後である令和2年7月分以降の賃金として同月から毎月末日限り38万5783円+遅延損害金の支払を求め、②Y社の代表取締役であるBに対し、違法な解雇をしたことを理由とする不法行為又は会社法429条1項に基づく損害賠償金110万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

本判決確定日の翌日以降を支払日とする賃金+遅延損害金の支払を求める部分は却下

その余は請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、本件解雇を行うに当たり、経費削減のために、月額約2300万円であった販売費を月額200万円~400万円に大幅に削減したほか、月額300万円の出張旅費・交際費を全額削減し、大阪営業所を閉鎖した。年間約6000万円の負担を生じる事務所の賃料についてはY社は、一部区画を解除しようと貸主と交渉したが、貸主が解約を拒んだため解約はできなかった。
人件費の削減についても、4名いた派遣社員の契約を全て契約期間満了により終了させているほか、解雇に先立ち、人員削減の対象者23名に対し、特別退職金(Xについては月給の約4.7箇月分)の支払及び年次有給休暇の買取りの提案を伴う退職勧奨を実施しており、退職勧奨の対象とならなかった従業員及び役員については、その給与(報酬)を令和2年7月から同年11月まで20%削減した。
以上のとおり、Y社は、解雇回避のため、一定の経費削減を行ったものと評価できる。

2 Y社は、希望退職者募集を実施しなかったが、Y社の正社員の従業員は約67名であり、これが5部門に分かれ、その部門内でもそれぞれ役割が細分化されていたところ、希望退職者を募集すると、上記各部門で枢要な役割を果たしている従業員が、希望退職者募集に応じて退職するおそれがあり、そうなると業務に支障が生じ、組織が存続できなくなる可能性が高かったと認められる。
仮に、応募した者のうちY社が承認した者のみに早期退職を認めるという方法をとったとしても、いったん希望退職者募集に応じた者の帰属意識及び勤労意欲の低下は避けられず、組織の存続が困難になることに変わりはない
そして、整理解雇は、事業組織の存続のために行われるものであるから、事業組織の存続という目標が達成できる範囲で、客観的に実行可能な解雇回避措置をとれば足りるもので、上記事情の下で、Y社において希望退職者募集をしなかったことをもって、解雇回避努力が不十分であったということはできない

3 上記内容の雇用調整助成金では、一日当たり8330円までしか支給されないことから、賃金の全額を支払った場合には、人件費を50%削減したこととならないし、賃金を減じた場合には、休業を命じているといっても、賃金を減じられたことに不満を感じる従業員がY社を退職することは予想されるから、Y社の組織の存続が困難となる。また、受給期間が令和2年7月1日から100日分に限られており、最も楽観的な運航再開見込み時期であった令和3年4月までであっても、雇用を維持することはできない見通しであった。
したがって、令和2年6月4日の時点において、Y社が雇用調整助成金を受給することによって、人件費を50%削減しつつ事業再開時に通常営業ができるような組織を維持することは困難であり、Y社が、同日の時点で、雇用調整助成金を受給することなく、従業員23名に対し退職勧奨をしたことはやむを得ないというべきである。

4 Y社は、人員削減の対象者に対し、個別に面談して、特別退職金の支払及び年次有給休暇の買取り等を提示した上で、退職勧奨を行い、回答期限こそ面談の4日後であったが、従業員の要望を踏まえ、同年6月15日付けとされていた退職日を同月30日付けに変更する旨の提案を行った。また、本件解雇前に実施された団体交渉においては、説明資料を交付してY社の財務状況を説明し、本件3名の質問を受けて、Xを人員削減の対象者として選定した理由、雇用調整助成金の利用しなかった理由及び希望退職者の募集を行わない理由について、それぞれ回答しており、Y社の応対には虚偽はなく、妥当なものと認められる。

上記判例のポイント2、3によれば、一部、手続について不十分と評価され得る事情もありますが、裁判所は上記理由を示して救済してくれています。

全体的な事情からして、整理解雇はやむを得ない状況であったと考えたのでしょう。

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解雇408 懲戒処分当時に使用者が認識していなかった非違行為に基づく懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、懲戒処分当時に使用者が認識していなかった非違行為に基づく懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

富士通商事件(東京地裁令和5年7月12日・労判ジャーナル144号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社が行った解雇は無効である等と主張して、Y社に対して、解雇無効地位確認及び未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 Y社はXに対して懲戒解雇の意思表示をしており、懲戒処分当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情がない限り、その存在をもって当該懲戒処分の有効性を根拠付けることはできないものというべきであるところ、Y社の主張する事情は、解雇理由証明書に記載されておらず懲戒当時にY社代表者が認識していなかったと認められるから、これらの事情があったとしても、本件懲戒解雇の有効性を根拠づけることはできず、その他、本件では、Y社の主張する懲戒事由が認められないことから、本件懲戒解雇は無効であるから、Xは、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあるとともに、Xが令和3年7月7日以降に労務を提供していないのは、Y社の責めに帰すべき事由によるものといえるから、Y社は、56万3721円の支払義務を負う。

上記太字部分の事情からすれば解雇事由とするのはなかなか難しいですね。

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解雇407 頻繁に傷害事件を起こした従業員の解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、頻繁に傷害事件を起こした従業員の解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

建設会社S事件(大阪地裁令和5年10月27日・労判ジャーナル144号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結し、勤務していたXが、Y社による解雇が無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、平成30年4月3日にY社の従業員に対する傷害事件を起こした後、令和2年3月6日及び同月9日に立て続けにY社の協力業者に対する傷害事件を起こし、いずれもY社の業務遂行中に起こしたものであり、Y社の企業秩序を害したものというべきであるし、特に、同月9日のGに対する傷害事件は、手術を要するものであり、結果が重大であり、Xは、Y社代表者からF及びGに対する謝罪を求められたにもかかわらず、同人らに対し、一切謝罪をせず、損害賠償についても、Y社が行い、Xは何ら対応しないなど、態度を改めることがなかったところ、Y社は、Xを直ちに解雇せず、現場作業員から営業職への配置転換を行ったものであり、これは解雇回避措置と評価できるものであるが、Xは、F及びGに対する傷害事件の約1年5か月後に実父に対する傷害事件を起こし、逮捕、勾留、起訴及び公判を経て、執行猶予付き有罪判決を言い渡されたものであるから、Xの粗暴傾向は、非常に根深く、もはや改善の余地はないと評価し得る状況であったと認められ、Y社は、保釈前にXを直ちに解雇することなく、保釈後にXと面談し、事情を聴取した上で、退職勧奨をし、Xがこれに応じなかったことから、最終的に本件解雇の意思表示をしたものであることに照らせば、本件解雇は、客観的に合理的な理由が認められ、社会通念上相当として是認できる場合に当たると認められる。

丁寧に丁寧に手続きを進めたということがよくわかります。

民事事件でありながら刑事事件の判決を見ているようです。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

 

解雇406 業務によって貯まったポイントの私的費消を理由とする解雇が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、業務によって貯まったポイントの私的費消を理由とする解雇が有効とされた事案を見ていきましょう。

中央建物事件(大阪地裁令和5年10月19日・労判ジャーナル143号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結して就労していたXが、Y社による解雇は無効であるとして、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、解雇後の未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、総務部における勤務中、上司から、担当業務であった酒類購入によって貯まった本件ポイントを当該酒類の購入に充てるように指示があったにもかかわらず、Xは、酒類購入業務によって貯まった本件ポイントを私的に費消しているところ、その使途が美容用品や家電製品等の多岐にわたることに照らすと、本件ポイントには、現金に類似する通用性・利便性があったと考えられ、本件ポイント費消は、Y社に対し、Xが業務上委ねられていた現預金を私的に利用することと同等の経済的損害を与えるものであって、これと同様の信頼関係の破壊をもたらすものであったといわざるを得ないから、本件ポイント費消の性質及び経緯、費消額及び用途並びに回数及び期間に照らすと、本件ポイント費消は、XのY社従業員としての職務上の義務に反するものであり、本件解雇についての客観的に合理的な理由に当たるものと認められる。

魔が差したというか出来心というか・・・とはいえ、ポイントの私的利用は、上記のとおり、現預金の私的流用に類似することから考えれば、懲戒解雇を選択することもやむを得ないと思います。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

解雇405 普通解雇及び懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、普通解雇及び懲戒解雇の有効性が争点となった事案を見ていきましょう。

ネットスパイス事件(大阪地裁令和5年8月24日・労判ジャーナル141号22頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない労働契約を締結していたXが、Y社に対し、XがY社からされた令和3年1月14日付けでの解雇が無効である旨主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求をするとともに、労働契約に基づき、本件解雇の翌月から毎月の賃金支払日である10日限り41万円の賃金+遅延損害金の支払請求をする事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 本件解雇の際に交付した労働契約終了通知書には、解雇理由として、アドテクノロジー製品開発の進捗が停滞しており、開発体制を再検討する旨が記載されているのみであり、Xの能力不足や経歴詐称を指摘する文言はないし、懲戒解雇に係る就業規則の条文の摘示もない
また、本件解雇の約2週間後に交付された解雇理由証明書には、「解雇理由は、新製品開発の停滞により会社業績が悪化し、人員削減が必要になったため」と冒頭に記載した上で、その後の箇所で具体的な理由として、令和2年9月期において赤字決算となり、翌年9月期決算では会社業績がさらに大幅に悪化することが確実な状況であること、経費の大半が人件費であることを指摘した上で、Xが人員削減の対象となった理由として、本件製品専任であったこととプログラミングの基礎の習得が十分でないことが記載されており、以上の記載内容は本件解雇が整理解雇であることを強くうかがわせるものであるといえる。
以上のとおり、本件解雇に伴ってY社からXに対して交付された文書からは、Xに対して企業秩序違反を指摘する記載が全くなく、かえって、整理解雇であることを強くうかがわせる記載があることからすると、本件解雇は普通解雇と解するほかなく、懲戒解雇の意思表示を含むものとは認められない

2 Xの行った作業からプログラマーとしての能力が欠如しているとは認められず、Xに対して業務上の注意及び指導がされていたともいえないから、本件解雇は普通解雇として客観的合理的理由があり、社会通念上相当であるとはいえない。

普通解雇と懲戒解雇は、「解雇」という点では共通していますが、法的性質が異なるため、解雇の意思表示をする際は、どちらの解雇をするのかを意識する必要があります。

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解雇404 解雇の意思表示の存否及び離職証明書の不実記載(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、解雇の意思表示の存否及び離職証明書の不実記載に関する裁判例を見ていきましょう。

ビッグモーター事件(水戸地裁令和5年2月8日・労判ジャーナル140号2頁)

【事案の概要】

本件は、自動車及び自動車部品販売業並びに自動車修理、解体業及びレッカー作業等を目的とするY社に雇用されていたXが、Y社から解雇されたが、本件解雇は違法であり、また、Y社が離職票に不実の記載をしたことにより国民健康保険税の軽減を受けることができなかったとして、Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、損害金合計452万5959円等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求一部認容(Xの請求額452万5959円を認容)

【判例のポイント】

1 Y社は、解雇の意思表示について否認しており、本件解雇に客観的合理的理由があり、社会通念上相当であることについての具体的主張をしていない。そして、Xが、他の従業員に自分の業務を手伝わせたり、車検の台数制限などを行ったりしていたという問題のある言動があったとは認められず、XとY社との間の雇用契約を直ちに一方的に解消し得る解雇事由があるとは認められないこと、Dエリアマネージャーは、Xについて解雇が認められるとは思っていなかったことに照らせば、本件解雇は、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、違法である。

2 Xは、本件解雇により離職したものであり、「非自発的理由による失業」であり、Xは、Y社に対して、解雇されたとの認識を明示していたにもかかわらず、Xに、離職証明書に記載する離職理由について何ら確認することなく、本件離職証明書に「労働者の個人的な事情による離職」であり、「離職理由に異議」がないとの虚偽の記載をしたものと認められる。
事業主が離職証明書について虚偽の記載をした場合について、罰則が設けられているものであること(雇用保険法83条1項1号)に照らしても、上記のY社による虚偽記載が、Xに対する違法な行為であると認められることは明らかであり、Y社に上記記載が違法であることについての認識があったものと認められる
したがって、Y社による本件離職証明書の不実記載は、Xに対する不法行為に当たる。

上記判例のポイント2については注意が必要です。

このような事態にならないように慎重に手続きを進めることが求められます。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。