Category Archives: 競業避止義務

競業避止義務25 退職後の競業避止に関する誓約書の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

66日目の栗坊トマト。見えます?実がついているの!

今日は、退職後の一定期間における競業事業者への就職等の禁止を定める誓約書の効力を一部無効とした裁判例を見てみましょう。

アクトプラス事件(東京地裁平成31年3月25日・労経速2388号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が雇用していたX1及びX2がY社の就業規則の規定又はY社とX2が取り交わした誓約書における約定に反して、A社の業務執行社員に就任するとともに、Y社の登録派遣社員を引き抜き、Y社の顧客に派遣して顧客を奪ったなどと主張して、X1及びX2に対し、債務不履行、不法行為及び会社法597条に基づき、A社に対し、X1及びX2との共同不法行為に基づき、連帯して、逸失利益1385万7186円及び弁護士費用相当損害金138万5719円の合計1524万2905円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件誓約書6条は、X2に対し、Y社退職後1年間、事前の許可なく、一都三県においてY社と競業関係にある事業者に就職等をすることを禁止しているところ、かかる制限はX2の職業選択の自由を制限するものである上、Y社との間で有期労働契約を締結し、主として登録派遣社員の募集や管理等を行っていたにすぎないX2について、制限の期間や範囲は限定的であるものの、Y社の秘密情報の開示・漏洩・利用の禁止や、従業員の引き抜き行為等の禁止をする以上の制限を課すべき具体的必要性が明らかでなく、かかる制限に対する特段の代償措置も設けられていないことなどを考慮すると、本件誓約書6条は公序良俗に反し無効である。

2 派遣社員募集にWeChatを利用することは、Y社独自のノウハウということはできない上、A1グループやA2グループに登録されたメンバーの情報についても、その全てがY社の業務上形成されたものとはいえず、Y社入社前から上記情報を形成してきたX2との間で上記情報に関する権利関係も明確でない以上、X1及びX2がA社において上記情報を利用することが直ちに違法になると解することはできない
また、X2は、Y社退職の際、後任者であるDに対してA1に対する人材派遣についての引継ぎを行っており、A1から発注があれば、Dにおいて派遣社員の募集をすることが可能であったものの、Y社はX2退職後、A1から発注を断られたことが認められるところ、X2がA1のY社への発注を妨げたと認めるに足りる証拠はない。むしろ、A1からY社への発注がなくなったのは、FのY社顧問退任とA社顧問就任による影響や、A1とX1及びX2の信頼関係によるものと推認することができ、X1及びX2がY社退任後にA社においてA1グループやA社グループを利用して人材募集をしたことが理由でA1からY社への発注がなくなったと認めることもできない。
なお、Y社のA2からの人材派遣の受注がX1及びX2のA社への入社後に減少したと認めるに足りる証拠はなく、むしろ増加しているものとうかがえる。
以上によれば、X1及びX2が違法に本件引き抜き行為等を行ったことを前提とするY社のX1及びX2に対する損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

いつもながら競業避止義務や引抜き行為に関する事案は、原告側に厳しい判断が多いですね。

上記判例のポイント1のような考慮要素は理解しておく必要があります。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務24 競業・引抜き行為に基づく損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

58日目の栗坊トマト。さほど変化は見られませんが、もう少しで実がなりそうです!

今日は、競業及び引抜き行為等に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

ムーセン事件(東京地裁平成31年3月25日・労判ジャーナル90号50頁)

【事案の概要】

本件は、A社が雇用していたX1及びX2がA社の就業規則の規定又はA社とX1が取り交わした誓約書における約定に反して、Y社の業務執行社員に就任するとともに、A社の登録派遣社員を引き抜き、A社の顧客に派遣して顧客を奪ったなどと主張して、X1及びX2に対し、債務不履行、不法行為及び会社法597条に基づき、Y社に対し、X1及びX2との共同不法行為に基づき、連帯して、逸失利益約1386万円等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件就業規則及び本件誓約書の効力について、本件就業規則は周知等がされておらず、X1及びX2に対して効力が及ばず、また、X1の本件誓約書については、本件誓約書6条は、X1に対し、A社退職後1年間、事前の許可なく、一都三県においてA社と競業関係にある事業者に就職等をすることを禁止しているところ、かかる制限はX1の職業選択の自由を制限するものである上、A社との間で有期労働契約を締結し、主として登録派遣社員の募集や管理等を行っていたにすぎないX1について、制限の期間や範囲は限定的であるものの、A社の秘密情報の開示・漏洩・利用の禁止や、従業員の引き抜き行為等の禁止をする以上の制限を課すべき具体的必要性が明らかでなく、かかる制限に対する特段の代償措置も設けられていないことなどを考慮すると、本件誓約書6条は公序良俗に反し無効であるから、X1及びX2に対しては本件就業規則の効力が及ばず、X1に対しては本件誓約書のうち6条1号の効力が及ばないから、これらの効力が及ぶことを前提とするA社のX1及びX2に対する損害賠償請求は、理由がない。

2 X1は、A社退職の際、後任者であるEに対してK社に対する人材派遣についての引継ぎを行っており、K社から発注があれば、Eにおいて派遣社員の募集をすることが可能であったものの、A社はX1退職後、K社から発注を断られたことが認められるところ、X1がK社のA社への発注を妨げたと認めるに足りる証拠はなく、むしろ、K社からA社への発注がなくなったのは、FのA社顧問退任とD社顧問就任による影響や、K社とX1の信頼関係によるものと推認することができ、X1及びX2がA社退職後にY社においてK社グループやY社グループを利用して人材募集をしたことが理由でK社からA社への発注がなくなったと認めることもできないこと等から、X1及びX2が違法に本件引き抜き行為等を行ったことを前提とするA社のX1及びX2に対する損害賠償請求は、理由がない。

競業避止に関する裁判例の多くは、原告会社側に厳しい判断がされています。

また、仮に責任が認められても、認容される金額は、請求金額から大幅に減額されることがよくあります。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務23 退職後の競業行為に基づく損害賠償請求が棄却された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、元社員に対する競業行為に基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本圧着端子製造事件(大阪地裁平成29年11月15日・労判ジャーナル73号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社でコネクタの開発等に従事していた元従業員Xが、退職金約555万円を受給してY社を退職した後、コネクタの製造販売等を業とする別会社に就職したため、Y社が、Xに対し、主位的に、競業行為をした場合に退職金相当額を支払う旨の合意に違反したと主張して、賠償額の予定に基づく損害賠償として約555万円等の支払を求め、予備的に、競業会社に就職した場合に退職金を支給しない旨の退職金規定により、Xの退職金の受給が不当利得に当たると主張して、不当利得返還請求権に基づき、約555万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社及びA社は、いずれも自動車用のコネクタの製造及び販売を業とする点で共通するところ、自動車用のコネクタの中でも主として取り扱う部品に差異があるとしても、いずれも自動車の動力用装置に使用されるカードエッジコネクタの開発を行っていたことが認められ、少なくともこの点において、両者の業務は競業していると認めるのが相当である。そうすると、競業の程度はともかく、Xが、Y社を退職した日の翌日にA社に就職したことは、本件不支給規定における「2年以内に競業会社に就職し、もしくは競業業務に従事した」場合に当たると認めるのが相当である。

2 使用者が、退職金を不支給又は減額するには、当該退職者について、それまでの勤続の功労を抹消ないし減殺する程度の背信的行為があることを要すると解するのが相当であるところ、Xが、A社において、Y社在籍中に知り得たカードエッジコネクタの製品仕様を利用してカードエッジコネクタの開発に従事したとまでは認められず、また、Xは、A社入社後、営業担当者を同行して、B社及びC社を訪問した事実が認められるが、仮に上記訪問の際、Xが営業活動を行った可能性があるとしても、それは単に従前の取引関係により構築されたコネクションを利用してなされたものとうかがわれるのであって、Y社の取引先を奪取する意図で行われたものであるとまでは認められず、さらに、Xが、十分な引継ぎをしないまま退職したとまで認めることはできず、そして、Xが、Y社の従業員2名を引き抜いてA社に転職させたことを認めるに足りる的確な証拠は認められないこと等から、Y社主張に係るXの功労末梢行為があるとは認められない。

退職後の競業避止義務違反はいたるところで頻発しています。

一言で言えば「やりすぎ注意」ということなのですが、その線引きが問題となります。

もっとも、多くの事例では、会社側に厳しい判断がなされていますので気をつけましょう。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務22 元従業員に対する競業禁止の合意に基づく損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は元従業員に対する競業禁止の合意等に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

リンクスタッフ元従業員事件(大阪地裁平成28年7月14日・労判1157号85頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が元従業員であったXに対し、Y社・X間では退職後一定期間は同業他社に就職しないこと等を内容とする競業禁止の合意があったにもかかわらずXはこれに違反した、Xは他の退職従業員と共謀してY社の事業の妨害を図ったなどとして、債務不履行ないし不法行為に基づき、損害賠償を請求する事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 退職後の競業禁止の合意は、労働者の職業選択の自由を制約するから、その制限が必要かつ合理的な範囲を超える場合は公序良俗に反し、無効である。
本件についてみると、Xはいわゆる平社員にすぎないうえ、Y社への在籍期間も約1年にすぎない。他方、競業禁止義務を負う範囲は、退職の日から3年にわたって競業関係に立つ事業者への就職等を禁止するというものであり、何らの地域制限も付されていないから、相当程度に広範といわざるを得ない。
Y社は、業務手当の中には、みなし代償措置である2200円が含まれているとも主張するが、Xは、業務手当の中には、みなし代償措置が含まれているとの説明を受けたことはないと供述しているうえ、仮にこれが代償措置として設けられているとしても、その額は、Xの在籍期間全部を通じても総額で3万円ほどにすぎず、上記のような広範な競業禁止の範囲を正当化するものとは到底言えない。
そうすると、本件誓約書による競業禁止の範囲は合理的な範囲にとどまるものとはいえないから、公序良俗に反し無効であり、競業禁止の合意に基づく請求は理由がない。

このような事情であれば、訴訟を起こす前から結論は目に見えています。

訴訟をやるだけ時間とお金の無駄です。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務21 競業避止合意に基づく競業行為差止請求が棄却された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、競業避止合意に基づく競業行為差止等請求に関する裁判例を見てみましょう。

デジタルパワーステーション事件(東京地裁平成28年12月19日・労判ジャーナル61号21頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、元従業員Xらとの間の競業避止合意に基づき、同人らに対し、A社において使用人として稼働することの禁止を求めるとともに、上記合意における競業避止義務の不履行に基づき損害金約141万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、アダルトゲームのパッケージやキャラクターグッズの企画・製造・販売業という特殊な業界において、顧客であるゲームソフト会社との間で、受注生産しているところ、退職者に競業避止義務を負わせることにより、顧客や取引先、各種商品の仕様や製造単価などの内部情報の無断利用ないし流出を防ぎ、既存顧客を維持するなどの利益確保の必要性は認めることができ、また、Xらと顧客らとの間には強固な人的関係があり、Xらが退職後に競業行為を行うことにより、Y社に不利益が生じるおそれも大きいものと窺えるが、本件合意は、Xらに対し、退職後3年間という比較的長期にわたり、地域的な制限もなく、競合企業に雇用されたり、競合事業を起業したり、競業行為を行うこと、Y社の顧客と交渉したり、受注することを広範囲に禁止するものであり、Xらの職業選択又は営業の自由に対する制約が大きいにもかかわらず、これに対する代替措置は何ら講じられていないこと等から、本件合意は、合理的な制限の範囲を超えるものであり、Xらの職業選択又は営業の自由を不当に侵害するものであるから、公序良俗に反し無効である。

よく見かける競業避止に関する裁判例です。

この分野の裁判は、多くの場合、会社側に不利な結論で終わります。

納得はしづらいと思いますが、これが現実です。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務20 競業禁止合意に基づく損害賠償請求が棄却された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、競業禁止合意に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

リンクスタッフ事件(大阪地裁平成28年7月14日・労判ジャーナル56号31頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が元従業員に対し、両者間では退職後一定期間は同業他社に就職しないこと等を内容とする競業禁止の合意があったにもかかわらず元従業員はこれに違反した、元従業員は他の退職従業員と共謀してY社の事業の妨害を図ったなどとして、債務不履行ないし不法行為に基づき、損害賠償を請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 退職後の競業禁止の合意は、労働者の職業選択の自由を制約するから、その制限が必要かつ合理的な範囲を超える場合は公序良俗に反し、無効であるところ、元従業員はいわゆる平社員にすぎないうえ、Y社への在籍期間も約1年にすぎず、他方、競業禁止義務を負う範囲は、退職の日から3年にわたって競業関係に立つ事業者への就職等を禁止するというものであり、何らの地域制限も付されていないから、相当程度に広範といわざるを得ず、Y社は、業務手当の中には、みなし代償措置である2200円が含まれているとも主張するが、元従業員は、業務手当の中には、みなし代償措置が含まれているとの説明を受けたことはないと供述しているうえ、仮にこれが代償措置として設けられているとしても、その額は、元従業員の在籍期間全部を通じても総額で3万円ほどにすぎず、上記のような広範な競業禁止の範囲を正当化するものとは到底言えず、本件誓約書による競業禁止の範囲は合理的な範囲にとどまるものとはいえないから、公序良俗に反し無効であり、競業禁止の合意に基づく請求は理由がない。

競業避止義務についての判断としてはスタンダードなものです。

この分野の裁判は、会社側に分が悪いですね。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務19(第一紙業事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、競業避止義務違反を理由とする元従業員への損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

第一紙業事件(東京地裁平成28年1月15日・労経速2276号12頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、Y社の従業員であるAにおいて、Y社が実施した早期退職制度に応募して退職した後に、在職中及び退職後の競業避止義務に違反して競業行為を行ったことが発覚したと主張し、Aが在職中に競業行為を行い、あるいは退職後に競業行為を行う意図があることをY社に秘匿して退職給付を受けたことが不法行為に当たると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、退職給付相当額及び弁護士費用の損害金+遅延損害金の支払を求めるとともに、選択的に、Aが在職中及び退職後に競業行為を行うという早期退職制度の適用除外事由又はY社の退職金規程上の不支給事由があるにもかかわらず退職給付を受けたことが不当利得に当たると主張して、不当利得に基づく利得金返還請求権に基づき、退職給付相当額等の利得金及び利息の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

AはY社に対し、1157万1805円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社就業規則18条9号のうち在職中の競業避止義務を定める部分は、雇用契約に付随する義務としてその合理性が認められるから有効である。・・・他方で、Y社就業規則18条9号のうち退職後の競業避止義務を定める部分及び本件競業避止義務条項の効力を判断するに際しては、①使用者の利益(競業制限の目的)、②退職者の従前の地位、③競業制限範囲の妥当性、④代償措置の有無、内容から検討すべきである。

2 ・・・Y社は、本件商品に関する技術上の秘密、ノウハウ等を維持することを目的として、Aに対して退職後の競業避止義務を課したものと認められ、そのようなY社の利益(競業制限の目的)は、保護されるべきものであるといえる(①)。
また、AがY社における特命担当として、本件商品の開発に従事し、本件商品に関する技術上の秘密、ノウハウ等を最もよく知る立場にあり、相応の営業能力を備えていたことが認められることからすると、上記のY社の利益を保護するために、Aに対し退職後の競業避止義務を課す必要が高いものであったというべきである(②)。
そして、同条項において、競業行為が「機密情報や業務上知り得た特別な知識を利用した競業的行為」と一応限定されていることが認められ、その他の範囲についても合理的に限定し得るものであり(③)、本件早期退職制度の適用を受けたAに対し、同制度に基づき、通常退職金に加えて、割増退職金の支払等3000万円余りの優遇措置が付与されたことが認められ、Aに付与された優遇措置には、退職後の競業制限に対する代償措置の性格が含まれているものと評価することができる。

3 本件早期退職制度において、Y社が本件早期退職制度の応募者に適用除外事由がないものと信頼しているか否かは措くとして、本件早期退職制度における適用除外事由が背信的行為を行った応募者に対し、同制度上の優遇措置を享受させるべきでないとの趣旨から定められており、そのような趣旨からすると、本件早期退職制度の適用決定がされた応募者について、背信的行為が発覚した場合に、Y社がその適用を撤回することも制度上予定されているものと解されることを勘案すると、応募者の適用除外事由の有無は、Y社が調査すべきものであると解するのが相当である。加えて、応募者に適用除外事由の自己申告を期待することは不可能である。
そうすると、本件の事実関係において、本件早期退職制度の応募者が、自らに適用除外事由がある場合に、信義則上、Y社に対し、その旨を告知すべき義務を負っていると認めることはできないというべきである。

本件においては、裁判所はAの行為は不法行為に該当しないと判断しています(不当利得返還請求を認めた)。

競業避止義務をめぐる訴訟では、会社側の主張を認めてもらうのはとても大変ですが、本件では請求内容が割増退職金の返還ということもあり、一部認容してくれました。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務18(甲社事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、転職に関し競業避止義務違反は生じないとされた裁判例を見てみましょう。

甲社事件(東京地裁平成27年10月30日・労経速2268号20頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、元従業員であったY社に対し、X・Y社間の雇用契約上の競業避止義務違反又は不法行為に基づき損害賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 一般に、会社の従業員は、元来、職業選択の自由を保障され、退職後は競業避止義務を負わないのが原則である。したがって、退職後の転職を禁ずる本件競業避止規定は、その目的、在職中のXの地位、転職が禁止される範囲、代償措置の有無等に照らし、転職を禁止することに合理性があると認められないときは、公序良俗に反するものとして有効性が否定されるというべきである。

2 確かに、Y社の主張する、労働者派遣事業を行うためにY社が負担する顧客開拓・維持の費用あるいは業務拡大の期待利益については一応保護に値する利益と考えられるが、1年勤務したに過ぎないXに対する職業選択の自由の制約として見た場合、本件競業避止規定がそれぞれ定める要件は抽象的な内容であって、幅広い企業への転職が禁止される禁止されることになる。また、禁止される期間も、3年間の競業避止期間はXの勤続期間1年と比較して非常に長いと考えられるし、本件誓約書及び本件覚書については期間の限定が全くないことから、いずれも過度の制約をXに強いているものと評価せざるを得ない

3 これに対して、Xは、休日出勤手当や残業手当の支払がなく、賞与の支給もなかった。また、Y社に内定後入社までの研修期間中にもXは業務に従事しているが、事前に聞かされていたアルバイト料の支払をなかったことからすれば、Xは、Y社から本来受けるべき対価としての賃金を十分に受け取っていないものと認められる。そればかりか、Xが転職活動をするにしても、Xが希望する積算業務の求人が非常に少なく、応募が困難な中でようやくZ社への転職が決まったという事情もあった

4 そうすると、本件競業避止規定によってXの転職を禁止することに合理性があるとは到底認められないことから、公序良俗に反するものとして有効性が否定されるというべきである。

競業避止義務に関する考え方を知るにはよい裁判例です。

上記判例のポイント1や2の考え方を理解し、それを踏まえた労務管理を行う必要があります。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務17(関東工業事件)

おはようございます

さて、今日は、退職後の秘密保持義務、競業避止義務に関する裁判例を見てみましょう。

関東工業事件(東京地裁平成24年3月13日・労経速2144号23頁)

【事案の概要】

X社は、主に廃プラスチックのリサイクルを業とする会社であり、仕入先から廃プラスチック等を仕入れ、これを工場で粉砕するなどした上で、海外に輸出するのを業としていた。

Bらは、X社との間で雇用契約を締結し、営業職として勤務していた。

Y社は、平成22年3月設立された会社であり、X社と同じく廃プラスチックのリサイクルを業としている。Y社の代表取締役はBである。

X社は、Bらに対し、秘密保持義務違反、競業避止義務違反等を理由として、不法行為ないし債務不履行に基づく損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

請求棄却
→秘密保持義務違反、競業避止義務違反にはあたらない。

【判例のポイント】

1 使用者は、労働者に対し、就業規則ないし個別合意等により業務上の秘密の不正利用を禁ずることができるが、このような条項には多かれ少なかれ労働者の自由な行動を制約する側面があり、しかも本来、雇用契約上の拘束を受けないはずである退職後の行動を制約することからすれば、何をもって秘密事項というかについては、本来、就業規則ないし個別合意等により明確に定められることが望ましいというべきであるし、かつ、労働者の行為(とりわけ退職後の行為)を不当に制約することのないよう、その秘密事項の内容も、過度に広汎にわたらない合理的なものであることが求められるというべきである

2 本件において、何をもって業務上の秘密とするかについて、就業規則上も本件通知上も具体的に定めた規定は見当たらないところ、不正競争防止法上の「営業秘密」については、いわゆる(1)当該情報が秘密として管理されていること(秘密管理性)、(2)事業活動に有用な技術的又は営業上の情報であること(有用性)及び(3)公然と知られていないこと(非公知性)という3つの要件が必要であるとされている(同法2条6項)。就業規則や個別合意による企業秘密の不正利用の防止が、不正競争防止法とは関係なく、あるいは、同法による規制に上乗せしてなされるものであることにかんがみると、これらにより保護されるべき秘密情報については、必ずしも不正競争防止法上の「営業秘密」と同義に解する必要はないというべきである。しかし、他方で、当該規制により、労働者の行動を萎縮させるなどその正当な行為まで不当に制約することのないようにするには、その秘密情報の内容が客観的に明確にされている必要があり、この点で、当該情報が、当該企業において明確な形で秘密として管理されていることが最低限必要というべきであるし、また、「秘密」の本来的な語義からしても、未だ公然と知られていない情報であることは不可欠な要素であると考えられる。このような点からすれば、就業規則ないし個別合意により漏洩等が禁じられる秘密事項についても、少なくとも、上記秘密管理性及び非公知性の要件は必要であると解するのが相当である

3 これを本件についてみるに、X社が業務上の秘密として主張する廃プラスチックの仕入先に関する情報については、「秘」の印が押されたりして管理されるわけでもなく、当該情報にアクセスすることができる者が限定されているわけでもなく、従業員であれば誰でも閲覧できる状態にあったことは、当事者間に争いがない。したがって、X社において、これらの情報が秘密として管理されていなかったことは明白である。また、本件訴訟におけるX社の主張をみても、当初訴状の段階では単に「顧客情報」と主張していたのに対し、その後「客先ごとの取引の種類、仕入量、価格といった営業上の重要な情報」(第1準備書面)、「具体的な値決めについてのノウハウ、取引先の存在、取引先がどのような品を欲しがるか、取引の可能となる価格」(第2準備書面)とその内容は必ずしも一定せず、このような主張内容が変転すること自体、X社においても、これらの情報の範囲を客観的に明らかな形で定義できていないことを示すものであって、これらが秘密として管理されていないことを示すということができる。
このように、X社主張にかかる情報は、秘密管理性の要件を充たさないものであるから、これが就業規則及び本件機密保持契約で保護されるべき秘密情報に当たると解する余地はないというべきである。

4 X社は、Bらが、X社を退職した後直ちにY社を設立ないし入社しているもので、就業規則59条2項に反する旨主張する。
このような就業規則や労使間の個別合意により、雇用契約関係終了後の労働者の職業選択の自由を制約できるかについては疑義もあるところであるが、労働者は、使用者の有する営業機密を使用してその業務を遂行したり、業務遂行の過程で営業機密を知ることもあるから、そのような場合には一定の範囲、期間内において退職後の労働者の競業を禁止することが正当化される場合もあり得る。しかし、他方で、労働者の立場からすれば、本来、退職後の職業選択に関し制約を受けるべき理由がないにもかかわらず、
使用者の利益確保のためにこれを制約されることを意味するものであるから、上記のような就業規則の競業避止条項や合意による競業避止特約が有効と認められるためには、使用者が確保しようとする利益に照らして、競業禁止の内容が必要最小限度に止まっており、かつ、十分な代償措置が施されることが必要であると解される。そして、そのような条件を満たさない場合には、上記条項ないし制約は、労働者の権利を一方的かつ不当に制約するもので公序良俗に反するとして、民法90条により無効となると解される

5 本件においては、Bらは、X社での業務遂行過程において、業務上の秘密を使用する立場にあったわけではないから、そもそも競業を禁ずべき前提条件を欠くものであるし、X社は、Bらに対し、何らの代償措置も講じていないのであるから、上記競業避止条項ないし特約は、民法90条により無効と認めざるを得ない。
したがって、Bらの競業避止義務違反をいうX社の主張については理由がない。

非常に参考になる裁判例ですね。

この分野は、原告側の会社は結構ハードルが高いので、注意が必要です。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。

競業避止義務16(山口工業事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職した支社長の未払賃金請求と背任行為への損害賠償に関する裁判例を見てみましょう。

山口工業事件(東京地裁平成23年12月27日・労判1045号25頁)

【事案の概要】

Y社は、建築工事業、とび・土木工事業等を業とする会社である。

Xは、Y社の東京支社長の地位にあった者である。

Xは、Y社と取引関係にあるA社の東京支店長という肩書の名刺を作成し、A社から業務を受託して月額10万円(合計350万円)の金員を受け取っていた。

Xは、名刺の作成については、業務委託先の名刺を作成しておけば円滑に業務が進む旨を述べてY社社長の承諾を得ていたが、金員の受け取りについては、Y社社長に報告していなかった。

その後、Xは、Y社を退職した。Y社社長は、Xの退職に不明朗な点を感じ、東京支社の調査を行ったところ、上記状況が判明した。

Y社社長は、東京支社の収支に関してXに問い合わせたが、Xへの電話で感情的になって「お前は1000万円の使い込みをしたんだ。告訴する。警察にも言っている。お前の家族をがたがたにしてやる。出て来い。こら。」などと怒鳴った。

またXの仕事上の知人への電話で「Xについては在籍中、横領の事実が明らかになったため解雇した。横領金額は1700万円である。警察に告訴する。このような人とは一緒に仕事はしない方がよい。」などとXを非難する発言をした。

Xは、Y社に対して、同社を退職後に、未払いとなっていた平成21年3月分の給与を求めるとともに、Y社社長に対して、同人から脅迫的言動を受けたり、名誉を毀損する発言をされたなどとして、不法行為に基づく損害賠償を請求した。

これに対し、Y社は、Xに対し、在職中の背任行為について、不法行為に基づく損害賠償請求をする反訴を提起した。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、給与の支払うように命じた。

Y社社長はXに対し、慰謝料として20万円を支払うように命じた。

XはY社に対し、約435万円を支払うように命じた。

【判例のポイント】

1 ・・・Xは、上記金員については、Y社との間の業務委託契約以外の業務を行ったことに対するアルバイト料であると主張するが、何らの客観的な裏付けもなく、その内容も不自然というほかないものであって、信用することはできない。したがって、これは、Y社とA社との間の業務委託契約に関連して受け取ったものであると推認すべきものであるが、本来、Y社の東京支社長としてY社の利益を最大限に図るべき立場にあるXが、単に形式的、対外的な意味で他社の名刺を所持するというだけでなく、業務委託契約の相手方である業者から定期的に定額の報酬を受け取り、実質的にも当該業者の利益のために行動するというのは、明らかにY社との関係で利益相反行為であるというべきであって、背任行為に当たるというべきである

2 また、XはA社以外の取引先業者からも金員を受領しているところ、これらも、XがY社社長に秘してY社の売上の一部を自らに還元させていたと認められるもので、このような点からも、Xが背信的な意図の下に行動していたことが窺われるところである。さらに言えば、Xの退職に当たっての行動も、明らかにY社の取引先業者を、自らが立ち上げる新規事業の取引先として丸ごと奪う意図に出た行動と理解するほかはなく、この点も、XのY社に対する背信的意図を基礎付けるものである
以上のように、XがA社から月額10万円の金員を受け取っていた行為は、Y社に対する背信行為であって、不法行為に当たると認められるところ、これらの金員については、Xが、Y社とA社との間の業務委託契約の趣旨に従い、A社の在日米軍関係の入札関連業務を誠実に履行し、Y社の利益を最大限図るべく行動していれば、Y社に帰属したはずの利益であると推認するのが相当であるから、その全額がY社の損害に当たるというべきである

3 XがY社に対し背信行為を行っており、Xがそれに関してY社社長に真摯に説明しようとしなかったことは、その限度において事実ではあるものの、X及びその家族にことさら恐怖感を与える言動をすることは許されるべきではないし、仕事上の知人に対し、Xの経済的信用を損なうことを意図して、Y社の金員を横領した旨流布することは社会通念上その相当性を逸脱した行為というべきであって、Xに対する不法行為に当たるというべきである。
Y社社長の上記言動によりXが精神的苦痛を被ったことが認められるところ、その言動の態様、それに対応するXの対応、それまでのXの行状、言動が流布した範囲等を総合考慮すれば、上記精神的苦痛に対する慰謝料としては、20万円を相当と認める。

Xが訴訟を提起したわけですが、結果として、XがY社に支払う金額のほうが大きくなってしまいました。

会社に無断で取引先から定期的にお金を受け取っている行為は、本件では、会社に対する利益相反行為であり、背信行為にあたると判断されています。

自分の立場を利用して、取引先からお金を受け取ってしまうと、このようなトラブルにつながりますので、やめましょう。

訴訟の是非を含め、対応方法については事前に顧問弁護士に相談しましょう。