Category Archives: 派遣労働

派遣労働2(アウトソーシング事件)

おはようございます

さて、今日は、整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

アウトソーシング事件(津地裁平成22年11月5日・労判1016号5頁)

【事案の概要】

Y社は、労働者派遣を業とする会社である。

Xは、平成19年12月、Y社と派遣労働の雇用契約を締結した。

Y社は、平成20年12月、Xを整理解雇した。

Xは、本件整理解雇は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 Y社は、本件解雇の有効性について、解雇権濫用の法理としての整理解雇の4要件(人員削減の必要性、解雇回避努力義務、被解雇者選定の妥当性、手続の相当性)を挙げて主張している。期間内の解雇は、「やむを得ない事由」(労働契約法17条1項、民法628条)のある場合に限って許されるところ、それは、期間の定めのない労働契約の解雇が権利の濫用として無効となる要件である「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」(労働契約法16条)よりも厳格に解されるべきであるから、期間の定めのない労働契約における解雇権濫用の法理の一形態である整理解雇の要件をそのまま当てはめるのは妥当でない。「やむを得ない事由」があるかについては、期間の定めのある場合の解雇の要件よりも厳格に解されることを踏まえつつ、これらの要件ごとに整理して総合的に判断することとする。

2 人員削減の必要性についてみるに、Y社がXを解雇した平成20年12月当時、Y社の派遣先である製造業及びY社を含む人材派遣業の業界全体が不況に見舞われ、Y社においても、Xの派遣先であるA社や他の派遣先との間の派遣契約を打ち切られるなど経営的に厳しい状況があったものの、他方で、本件解雇前後を通じてY社の経営状態は健全であったと認められ、本件解雇は未だ余力を残した予防的措置と評価されるのであって、必要性の程度は、やむを得ずにしたというものとはいえない

3 次に、解雇回避努力義務についてみるに、Y社は、Xを含む派遣労働者に対し、新規派遣先を確保することがほぼできなかったことから自主退職を勧めることを基本とし、A社に派遣されていた17名のうちXを除く16名については自主退職に応じたが、自主退職に応じなかったXに対しては、もともとXの希望する条件とは合わなかった1社についてのみ新たな派遣先として打診したが、これが不調になるや新規派遣先の紹介を断念し、A社との間の派遣契約解除日と同日に解雇に踏み切ったのであり、解雇回避努力義務を尽くし切ったといえるかについては疑問が残るといわざると得ない

4 そして、被解雇者選定の妥当性をみるに、Xのように期間完了前の有効雇用労働者に対する自主退職や解雇を打診したことは認められるものの、他の労働契約の形態の従業員については特段解雇を打診した事実は窺われない。その上、期間の定めのない雇用契約の従業員と比べて期間の定めのある雇用契約の従業員を期間満了前に解雇すべき合理性についても、これを認めるに足りる事情や証拠はないといわざるを得ない。

5 最後に、手続の相当性を見るに、Y社は、新規派遣先を紹介したいけれども、紹介できるところはないなどと説明したのみで、Xを解雇するに当たって、派遣労働者の削減を必要とする経営上の理由や解雇した後の処遇など十分説明し尽くしたとまではいえず、解雇手続について十分協議したなどの事情も認められない
したがって、Y社のXに対する解雇は無効である。

上記判例のポイント1は、注目すべきです。

期間の定めがない労働者と比べて、期間の定めがある労働者を期間途中に解雇する方が要件が厳しいのです。

盲点です。

いずれにしても、整理解雇を有効に行うのは、かなり大変です。

必ず顧問弁護士に相談しながら、慎重に進めることが大切です。

派遣労働1(テー・ピー・エスサービス事件)

おはようございます。

さて、今日は、人材派遣会社の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

テー・ピー・エスサービス事件(名古屋地裁平成20年7月16日・労判965号85頁)

【事案の概要】

Y社は、コンピュータ-運営の業務代行請負及びデータ作成の代行と請負、労働者派遣事業等を業とする会社である。

Xは、Y社に雇用され、A社の工場で勤務していた。

Y社は、Xに適する業務が確保できず、その見通しも暗いとの理由で、自宅休業とし、その後は雇用契約を終了せざるを得ないとして、Xを解雇した。

Xは、Y社に対し、本件解雇は違法であるとして、不法行為に基づく損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

Y社に対し、約217万円の支払を命じた。

【判例のポイント】

1 Xが相当長期間にわたり本件業務に従事することは、その当初から予定されていたこと、Xの仕事ぶりは真面目で、これにつき苦情があったり、Xに対し注意や指導がされたことはなかったこと、Xが本件業務に引き続き従事することは、Y社の希望する契約形態であれば可能であったこと、しかるに、Y社は、XがY社の希望する契約形態によることを拒否し、愛知労働局に行政指導を申し入れた直後に、何ら交渉を持たないままXに対し本件業務の打ち切りを通告したこと、また、同労働局から本件指導を受けた直後、同労働局に対し、Xを常用雇用者として翌日以降も雇用を継続することで是正した旨報告しながら、Xに対しては、待機期間中の賃金は6割支給とするとし、また、解雇予告手当を支払うので退職するように促したこと、Xに適する業務が確保できないとして、自宅休業とした後は雇用契約を終了させる旨通告したこと、以上の事実が認められる。

2 このような事実からすると、Y社は、Xが本件組合とともに、偽装請負を解消し、適法な労働者派遣を行うよう要求し、愛知労働局にその旨の行政指導を求めたことを嫌悪して、Xに対し、本件業務から排除するだけでなく、Y社からも排除するべく解雇という不利益な処分を行ったものと推認することができる。

3 本件解雇は、違法な目的に基づいて(労働基準法104条2項及び労働組合法7条1号にも違反する。)、故意に、本来解雇する理由のないXに解雇という不利益を与えたものであるから、Xに対する不法行為となる。

4 本件業務は、実態は労働者派遣であるにもかかわらず、労働者派遣法の規制を免れようとするいわゆる偽装請負である点でも、また、Xに対する指揮命令をする者とXを雇用するY社との間に多数の業者が介在する違法な多重派遣の形態である点でも違法であること、本件解雇は、このような違法状態を改善するため、法律上の権利として保護された労働組合活動や監督機関への申告を行った者を企業から排除するという強度の反社会的な行為であること、X自身が本件解雇につき法的決着をつけた上で働きたいという個人的な意向を有していたことによる面があるもの、Xは、本件解雇後、平成20年4月当時まで抵触に就いていないこと、その他、本件に顕れた一切の事情を考慮すると、本件解雇によりXが被った精神的苦痛を慰謝するには200万円が相当である。

5 常用型の派遣労働者の場合、使用者は、派遣先の業務が打ち切られても雇用を継続する義務があり、特に、本件のY社は、本件業務の受注形態が違法なものであることを知りながら、Xをこれに従事させたのであるから、その違法な状態を正さなければならなくなった場合を想定してXの雇用確保の措置を講じておくべきである。そして、本件業務は突然打ち切られたわけではなく、4か月余も前からその違法性を指摘され、是正を求められていたのであるから、雇用確保の措置を講じる余裕は充分にあったというべきである。したがって、Y社が本件業務にかかる契約を継続できなかった結果としてXを休業させざるを得なかったとはいえず、Y社の受領拒絶により労務提供ができなかったに過ぎない。
よって、その余の点を判断するまでもなく、Xの賃金請求は理由がある。

上記判例のポイント4は注意が必要です。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。