Category Archives: 派遣労働

派遣労働12(日本精工(外国人派遣労働者)事件)

おはようございます 

さて、今日は派遣労働者12名による派遣先会社への地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本精工(外国人派遣労働者)事件(東京地裁平成24年8月31日・労判1059号5頁)

【事案の概要】

本件は、派遣元会社から派遣先会社であるY社に対し、派遣元会社に雇用され、平成18年11月10日以前は業務処理請負の従業員として、翌11日以降は労働者派遣の派遣労働者として、Y社の工場等において就業していたXら12名が、Y社と派遣元会社との間の労働者派遣契約の終了に伴ってY社の工場における就業を拒否されたことについて、主位的に、(1)請負契約当時のXら、派遣先であるY社、派遣元であるA社の三社間の契約関係は、違法な労働者供給であり、XらとY社との間で直接の労働契約関係が成立しており、その後も、当該関係は変化なく維持され、XらとY社との間には直接の労働契約関係が継続していたというべきであること、(2)そうでないとしても、XらとY社との間は、黙示の労働契約が成立していたというべきであること、(3)(1)および(2)の労働契約の成立が否定されるとしても、労働者派遣法40条の4の雇用契約申込義務により、XらとY社との間には労働契約が成立していたと主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認および未払賃金と遅延損害金の支払を求めるとともに、予備的に、(4)Y社が長年にわたりXらの労務提供を受けてきた中で、Xらに対する条理上の信義則違反等の不法行為が成立すると主張して、Y社に対し、それぞれ200万円の慰謝料および遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

労働契約の成立は否定

慰謝料として50万~90万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 Xらが念頭に置く、請負人が注文者から業務処理を受託し、自己の雇用する労働者を、注文者の事業場に派遣して就労させているが、当該労働者の就労についての指揮命令を行わず、これを注文者にゆだねているような典型的な偽装請負のケースの場合、請負人と注文者との契約関係が請負契約と評価することができないとしても、注文者と労働者との間で労働契約が締結されていないのであれば、注文者、請負人、労働者の三者間の関係は、派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきであり、このような労働者派遣も、それが労働者派遣である以上は、職業安定法4条6号にいう労働者供給に該当する余地はないものというべきである(最高裁平成21年12月18日)。

2 これを本件についてみるに、・・・派遣法に違反したものであったといわざるを得ない。しかしながら、派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質等に照らせば、特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の労働契約が無効になることはないと解すべきであり、本件において、XらとA社との間の労働契約を無効と解すべき特段の事情はうかがわれないから、請負時代においても、両者間の労働契約は有効に存在していたものと解すべきである
したがって、上記三者間の関係は、派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当し、職業安定法4条6項にいう労働者供給には該当しないから、労働者供給に該当することを前提とするXらの主張は、前提において失当というべきである。そうすると、XらとY社との間の直接の(明示の)労働契約の成立を認めることはできない。

3 労働者と派遣先会社との間に黙示の「労働契約」(労働契約法6条)が成立するためには、(1)採用時の状況、(2)指揮命令及び労務提供の態様、(3)人事労務管理の態様、(4)対価としての賃金支払の態様等に照らして、両者間に労働契約関係と評価するに足りる実質的な関係が存在し、その実質関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思表示の合致があることを必要とすると解するのが相当である
そして、労働者派遣においては、労働者に対する労務の具体的指揮命令は、派遣先会社が行うことが予定されているから、黙示の労働契約が認められるためには、派遣元会社が名目的存在に過ぎず、労働者の労務提供の態様や人事労務管理の態様、賃金額の決定等が派遣先会社によって事実上支配されているような特段の事情が必要というべきである

相変わらずこの分野は勝訴のハードルがとても高いですね。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働11(日本精工事件)

おはようございます。 

さて、今日は、偽装請負と明示・黙示の労働契約の成否に関する裁判例を見てみましょう。

日本精工事件(東京地裁平成24年8月31日・労経速2159号9頁)

【事案の概要】

本件は、派遣元会社から派遣先会社であるY社に対し、派遣元会社に雇用され、平成18年11月10日以前は、業務処理請負の従事者として、翌11日以降は、労働者派遣の派遣労働者として、Y社の工場等において就業していたXら(帰化者を含む日系ブラジル人)が、Y社と派遣元会社との労働者派遣契約の終了に伴い、Y社の工場における就業を拒否されたことについて、主位的に、(1)派遣元会社と派遣先であるY社との間の契約関係が請負契約であった当時のXら、派遣先会社であるY社及び派遣元会社の三者間の契約関係は、違法な労働者供給であり、XらとY社との間で直接の労働契約関係が成立しており、平成18年11月11日以降、派遣元会社と派遣先会社でありY社との間の契約関係が労働者派遣契約に変更された後も、労働契約関係は変化なく維持されていたから、Xらと派遣先会社であるY社との間に直接の労働契約関係が継続していたというべきであること、(2)そうでないとしても、XらとY社との間には、黙示の労働契約が成立していたというべきこと、(3)(1)及び(2)の労働契約の成立が否定されるとしても、Y社には、派遣法40条の4に基づき、Xらに対する雇用契約申込義務があったというべきであるから、XらとY社との間には当該義務に基づく労働契約が成立していたというべきであることを主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに上記労働契約に基づいて平成22年1月以降の月例賃金等の支払を求めるとともに、予備的に、(4)長年にわたりXらの労務提供を受けてきたY社には、Xらに対する条理上の信義則違反等の不法行為が成立すると主張して、Y社に対し、それぞれ200万円の慰謝料等の支払を求めたものである。

【裁判所の判断】

Y社に対し、慰謝料として50万~90万円の支払を命じた。

派遣先会社との労働契約の成立は否定

【判例のポイント】

1 労働者と派遣先会社との間に黙示の「労働契約」(労働契約法6条)が成立するためには、(1)採用時の状況、(2)指揮命令及び労務提供の態様、(3)人事労務管理の態様、(4)対価としての賃金支払及び労務提供の態様等に照らして、両者間に労働契約関係と評価するに足りる実質的な関係が存在し、その実質的関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思表示の合致があることを必要とすると解するのが相当であって、労働者派遣においては、労働者に対する労務の具体的指揮命令は、派遣先会社が行うことが予定されているから、黙示の労働契約が認められるためには、派遣元会社が名目的存在にすぎず、労働者の労務提供の態様や人事労務管理の態様、賃金額の決定等が派遣先会社によって事実上支配されているような特段の事情が必要とされるところ、請負時代、派遣時代を通じて、XらとY社との間において、黙示の労働契約が成立していたと認めることはできない。

2 派遣法40条の4所定の労働契約申込義務は公法上の義務として規定されているものであり、これによって、私法上の雇用契約申込義務が発生したり、労働契約関係を形成したり、擬制したりするものではなく、しかも上記申込義務が発生するには派遣先会社が派遣元会社から派遣元通知を受ける必要があるところ、各社がY社に対して派遣元通知をしていないので、派遣元通知のないXら、各社、Y社の三者間の労働者派遣関係において、派遣先会社であるY社に申込義務が発生すると解することはできず、申込義務に基づくXらとY社との間の労働契約は成立しない

3 Y社は、Xらの派遣先会社であって、直接契約責任を負う者ではないが、派遣先会社が派遣労働者を受け入れて就労させるについては、派遣法の規制を遵守するとともに、その指揮命令下に労働させることにより形成される社会的接触関係に基づいて、派遣労働者に対し、信義誠実の原則に則って対応すべき条理上の義務を負うと解するのが相当であり、この義務に違反する信義則違反の行為は不法行為を構成するというべきところ、本件において、Y社のXらに対する対応は、Y社が、偽装請負又は派遣法違反の法律関係の下、長期間にわたってXらの労務提供の利益を享受してきたにもかかわらず、突如として、何らの落ち度のない派遣労働者であるXらの就労を拒否し、Xらに一方的不利益を負担させるものである上、Xらの派遣就労に当たって、日本人派遣労働者の正社員登用の事実があるにもかかわらず、その選別基準について合理的な説明をしたり、再就職先をあっせんしたりするなどのしかるべき道義的責任も果たしていないものといわざるを得ないものであり、前記条理上の信義則に違反する行為であり、不法行為に該当する

上記判例のポイント3は重要です。是非、押さえておいてください。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働10(アデコ(雇止め)事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣会社が派遣先に対し、派遣社員の経歴を偽って告げたこと等による慰謝料請求に関する裁判例を見てみましょう。

アデコ(雇止め)事件(大阪地裁平成19年6月29日・労判962号70頁)

【事案の概要】

Y社は、一般労働者派遣事業、有料職業紹介事業等を業とする会社である。

Xは、平成14年、Y社に雇用された者である。

Xは、Y社に採用された後、Y社において、スーパーバイザー(SV)職の研修を受けた。

SVとは、テレマーケティングスタッフのマネジメントを実施する者をいい、具体的には、スタッフの応答品質の維持・管理、ヘルプ・クレーム対応、スタッフの育成・監督、業務管理などを行う者である。

Y社アウトソーシングサポート部運営課マネージャーのBは、Xに対し、平成14年12月、A社に提出するXの経歴表を見せたが、同経歴表には、「教材関連 アウトバウンド(教材継続勧奨・新規購読勧奨)」と記載されていた。

Xには、本件虚偽記載に係る経歴はない。

Xは、成15年2月から、A社のコールセンターで就労を開始し、SV業務に従事したが、上手くこなすことができなかった。

その後、Xは、Y社から解雇ないし雇止めをされた。

Xは、Y社に対し、不法行為に基づく損害(慰謝料、治療費、弁護士費用)の賠償等及び地位確認を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 甲32号証中にはカレンダーアンケートを少しした旨の記載があるが、これは「少し」であるに過ぎないことのほか、Xはアウトバウンド業務の研修を受けていたこと、甲31号証中にインバウンド業務のみでアウトバウンド業務を行っていない旨の記載のあること及びX本人尋問結果中にも、Xがアウトバウンド業務を担当していない旨の供述が存することに照らすと、Xが実質的なアウトバウンド業務に従事し、ひどく難渋していたような事情は認められず、アウトバウンド業務に関してXが負荷を感ずることがあったとしても、社会通念上、受忍限度内のことと解するのが相当である

2 Xは、甲29号証及び同34号証で、A社におけるSV業務遂行中の苦労について縷々陳述しており、同人がA社でSV業務遂行中、管理職ないしSV業務の経験がなかたことや共に派遣されたZが経験者であったことから、同人と比較される等してストレスないし精神的負荷を負ったことは窺える。
しかしながら、これらは、旧知の同僚等のいない、かつ、新しい体制を構築しようとする職場において、未経験の者が新しい職場にて就業する場合(このような場合は、社会生活の中ではしばしば見受けられることである。)にしばしば経験することであって、Xの負った負荷ないしストレスが、社会通念上受忍すべき範囲を超えるものと認められない。また、Xの負った負荷ないしストレスは、本件虚偽記載の存否に関わるものというよりも、SV経験のないことや、X自身の管理監督職への適格性・OJTによる業務吸収能力・対人関係処理能力などの要因により、SV業務を円滑にこなすことができなかった結果によるものと解される

3 Xは、SVないし管理職の経験がないにもかかわらず、SV業務についており、その分負荷が大きかったと解されるが、そもそも、Xは、SVや管理職の経験がないにもかかわらず、管理職を募集していると考えてSV業務に応募したものであり、その後も研修を通じて、SV業務が如何なる業務かについてある程度理解し、あるいは概略的なイメージを持つことができた(なお、現実に就労しなければ分からないことまで事前に理解する必要はない。)にも関わらず、自己がSV業務の経験がないことを理解しながら、事前に他の業務に就くことを申し出ることもせずに、自ら希望してA社のSV業務についたものである
そして、SVないし管理職経験のない者が自らこれらの職業を選択し、相当大きな苦労をしながらも、これをこなしていくことも正常な社会生活上の営みといえるところ、そのような選択をした者が経験不足等により相応の負荷を負担することも相当といえ、社会通念上相当と認められる範囲を逸脱するような特段の事情のない限り、業務遂行に伴う負荷ないしストレスについても受忍すべきである。このことはXについても妥当するのであって、本件記録上、Xの負った負荷が社会生活上相当と認められる範囲を逸脱するものと認めるに足る証拠はない。

Xが派遣先でストレスを感じたことは否定していないものの、それは、新しい仕事をする際、多くの人が感じる程度の負荷やストレスであり、受忍すべき範囲のものだとしています。

個々の事情を総合的に判断することになるので、この裁判例から一般的な判断基準をつくりだすのはなかなか難しいですね。

今回のケースでは、業務内容が近かったこと、X自身が希望してSV業務についたことが大きいですね。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働9(ワークプライズ(仮処分)事件)

おはようございます。 

さて、今日は、派遣労働と期間途中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ワークプライズ(仮処分)事件(福井地裁平成21年7月23日・労判984号88頁)

【事案の概要】

Y社とXは、平成20年11月、雇用期間を平成21年11月までとする雇用契約を締結した。

Y社は、Xを期間途中で解雇した。

Y社は、「本件解雇は、世界的不況の影響で派遣先企業のZ社の出荷が極端に減少して従前の生産規模を維持できなくなり、大幅な生産調整が契機となって他の事業部門へ配置転換する余地もなく、同社の事業上やむを得なくY社との労働者派遣契約が中途解約されたことに基づくものである。この解約により、Y社としては、Xと締結していた、Z社を派遣先とする派遣労働契約を維持することができなくなったことから、会社存続の観点からやむにやまれず選択せざるを得なかった方途として実施したものである。」などと主張した。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 派遣先であったZ社の経営状態に起因する労働者派遣契約の中途解約をもって、直ちに、Y社がXを解雇する「やむを得ない事由」があるとは認められない

2 次に、Y社は、会社存続の観点からやむにやまれず実施した解雇であり、一般企業の行う「整理解雇」に準じるものであるなどと主張するが、Y社の経営内容、役員報酬など、経営状態やその経営努力について何ら具体的な状況は疎明してはおらず、したがって、Y社の上記主張は直ちに採用できない
他に、Y社がXを解雇する「やむを得ない事由」があることの疎明はない。
したがって、Y社の主張するXに対する解雇は無効である。

3 Y社に民法536条2項の「責めに帰すべき事由」が認められるのであれば、Xには賃金全額の請求が認められるところ、Y社は、「派遣先であったZ社から派遣契約を打ち切られて将来の収入を閉ざされたY社の経営破綻を回避するべく、やむを得ず解雇に及んだものであって、本件解雇事由は外部起因性、防止不可能性を有する『経営上の障害』によるものであるから、上記帰責事由には当たらないと主張する。
確かに、Y社は、派遣を求める派遣先企業の存在があってはじめてXらに労働の場を提供できるうえ、その需要も様々な要因により変動するものである。さらに、派遣労働者の需要は留保しておくことができない性質のものではある。
しかしながら、Y社としては、労働者派遣業の上記特質を理解したうえ、派遣労働者確保のメリットと派遣労働者に対する需要の変動リスク回避などの観点を総合的に勘案して、派遣期間だけ労働契約を締結する形態ではなく、期間1年という期間を定める形で労働契約を締結したのであるから、その契約期間内については派遣先との労働者派遣契約の期間をそれに合わせるなどして派遣先を確保するのが務めであり、それによって労働契約中に派遣先がなくなるといった事態はこれを回避することができたのである。
したがって、本件において、X社との間の労働者派遣契約が解約され、その当時、Xに対する新たな派遣先が見出せず、就業の機会を提供できなかったことについては、Y社に帰責事由が認められるというべきである。これについてY社の主張する防止不可能性を有する経営上の障害によるものとは認められず、民法536条2項の帰責事由がないとの主張は採用できない

したがって、Xは、賃金全額の支払を受ける権利を有する

この仮処分決定によると、本件のようなケースでは、派遣会社は、派遣労働者に対し、派遣期間の残りの期間について、賃金全額を支払わなければならないわけです。

60%だけではダメということです。

派遣期間の残りの期間が長い場合、派遣会社としては結構な出費になりますね。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働8(三菱電機ほか(派遣労働者・解雇)事件)

おはようございます。 また一週間がはじまりましたね。がんばっていきましょう!!

さて、今日は、派遣労働者と派遣先との黙示の労働契約の成否に関する裁判例を見てみましょう。

三菱電機ほか(派遣労働者・解雇)事件(名古屋地裁平成23年11月2日・労判1040号5頁)

【事案の概要】

Y1社は、各種電気機械器具等の製造ならびに販売などを目的とする会社である。

Y2社は、製造ライン業務請負業、一般労働者派遣事業等を目的とする会社であり、Y1社にも労働者を派遣している。

Y3社は、一般労働者派遣事業、人材紹介事業等を目的とする会社であり、Y1社にも労働者を派遣している。

Y4社は、一般労働者派遣事業、人材紹介事業等を目的とする会社であり、Y1社にも労働者を派遣している。

Y1社は、リーマンショックによる世界同時不況の影響を受けて生産量が落ち込んでいるため、大幅な生産調整を行うことによる過剰人員については、Y2社らをはじめとする各派遣会社との派遣契約を解約し、派遣労働者の受け入れを解消する方針を急遽決定した。

【裁判所の判断】

黙示の雇用契約の成立は否定

Y1社・Y2社に対し、連帯して慰謝料の支払うように命じた

【判例のポイント】

1 労務の提供をしている労働者と労務の提供を受けている事業主との間に、雇用契約が成立しているといえるか否かは、明示された契約の形式のみによって判断されるものではなく、両者の間に、雇用関係と評価するに足る実質的な関係が存在し、その実質的関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思の合致があると認められるか否かによって判断されるべきであり、雇用関係と評価するに足る実質的関係があるといえるか否かは、人事労務管理などを含めた事実上の使用従属関係の存否、賃金支払関係の存否などによって総合的に判断されることになると解されるところ、労働者派遣の場合にあっては、労務の具体的な指揮命令は、派遣先においてなすことが予定されているから、派遣労働者と派遣先事業主との間に黙示の雇用契約が認められるためには、派遣元事業主が名目的な存在にすぎず、派遣先事業主が、派遣労働者の採用や解雇、賃金その他の雇用条件の決定、職場配置を含む具体的な就業態様の決定、懲戒等を事実上行っているなど、派遣労働者の人事労務管理等が、派遣先事業主によって事実上支配されているといえるような特段の事情がある場合であることを必要とするものと解するのが相当である

2 仮に、直接雇用義務が発生していたとしても、契約の意思表示を擬制することはできないから、そのことのみで黙示の雇用契約の成立を推認できるものでないことは明らかであり、また、Y1においてはもとより、Xらにおいても、Y1の就業期間中に、労働者派遣法による派遣期間が既に経過していて直接雇用をされなければ就業できない状況下で就業していたとの認識までは当時なかったものであり、本件全証拠によっても、黙示の雇用契約の成立を推認できる事情があったとは認めるに足りないというべきである。

3 派遣先事業主が派遣労働者を受け入れ、自社において就業させるについては、労働者派遣法上の規制を遵守するとともに、その指揮命令の下に労働させることにより形成される社会的接触関係に基づいて派遣労働者に対し信義誠実の原則に則って対応すべき条理上の義務があるというべきであり、ただでさえ雇用の継続性において不安定な地位に置かれている派遣労働者に対し、その勤労生活を著しく脅かすような著しく信義にもとる行為が認められるときには、不法行為責任を負うと解するのが相当である

4 ・・・上記一連の経過の中でのY1によるXらに関わる労働者派遣契約の中途解約は、いかにY1が法的にXらの雇用主の地位にないとはいえ、著しく信義にもとるものであって、ただでさえ不安定な地位にある派遣労働者の勤労生活を著しく脅かすものであり、Y1が、X3及びX1の関係で解約日を9日間延長するとともに、X2の関係を含め派遣労働者による有給休暇の消化に加え、自己都合による欠勤の場合にも給与相当額を補償することとしたことを考慮しても、派遣先事業主として信義則違反の不法行為が成立するというべきである。

5 Y2社が一定の努力をしたことを考慮しても、X3に対する不法行為が成立すると認めるのが相当であり、Y1の前記信義則違反の対応と相まって、X3に対し、多大な精神的苦痛を与えたものであり、Y1の行為とY3の行為には、少なくとも強い客観的関連共同性が認められるから、共同不法行為を構成し、Y1とともに、X3の受けた精神的損害について賠償責任を負うというべきである

この判例は、とても重要な判例ですね。

派遣先と派遣元の二社が、労働者派遣契約の中途解約について、共同不法行為責任を負うとされています。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働7(日本トムソン事件)

おはようございます。 

さて、今日は、派遣社員と派遣先との労働契約の成否と更新拒絶の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

日本トムソン事件(大阪高裁平成23年9月30日・労判1039号5頁)

【事案の概要】

Xらは、平成16年4月から20年4月までの間、A社との間で労働契約を締結し、Y社の姫路工場内で、自動車のベアリングの製造業務に従事していた。

Y社は、平成15年12月当時、姫路工場において製造業務の請負化を目指したが、当初、A社にはベアリングの製造に関する技能、経験がなく、いきなり請負化しても単独での運用は難しいため、まずはY社がAから出向の形態でA社の社員を受け入れ、出向者が技能を習得することができたと判断された時点に置いて、請負形態での運用に移行することとした。

このようにして、A社とY社との間では、同年12月には出向協定が締結されたものが、17年10月からは業務委託(請負)契約に変更され、さらに、製造業での労働者派遣が解禁された後の18年8月からは、労働者派遣契約が締結された。

しかし、平成21年2月、リーマンショックのなかで、A社とY社の本件労働者派遣契約につき、同年3月をもって中途解約する旨の通知をA社が受けたことを契機に、Xらは、同日をもって中途解雇(労働契約の本来の終期は、平成21年8月であった)する旨の解雇予告通知をA社から受けた。

【裁判所の判断】

派遣労働者と派遣先との間での黙示の労働契約の成立は否定

派遣先による雇止めは適法

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 雇用契約は、契約当事者間において、一方が他方に使用されて労働に従事することと、その労働への従事に対して一方が他方に賃金を支払うことを内容とする合意である。本件において、XらとY社との間に黙示の雇用契約の成立を認めるに足りる証拠はない

2 労働者派遣法は、労働力の需給の適正な調整を図るため労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を講ずるとともに、派遣労働者の就業に関する条件の整備を図り、もって派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的として制定された行政上の取締法規であって、同法4条の規定する労働者派遣を行うことのできる事業の範囲や同法40条の2が規定する派遣可能期間等についてどのようにするかは、我が国で行われてきた長期雇用システムと、企業の労働力調整の必要に基づく労働者派遣とをいかに調整するかという、その時々の経済情勢や社会労働政策にかかわる行政上の問題であると理解される上、労働者派遣法によって保護される利益は、基本的に派遣労働に関する雇用秩序であり、それを通じて、個々の派遣労働者の労働条件が保護されることがあるとしても、労働者派遣法は、派遣労働者と派遣先企業との労働契約の成立を保障したり、派遣関係下で定められている労働条件を超えて個々の派遣労働者の利益を保護しようとしたりするものではないと解される上、少なくとも労働者派遣法に反して労働者派遣を受け入れること自体については、労働者派遣法は罰則を定めておらず、また、社会的にみると、労働者派遣は、企業にとって比較的有利な条件で労働力を得ることを可能にする反面、労働者に対して就労の場を提供する機能を果たしていることも軽視できないことからすると、非許容業務でないのに派遣労働者を受け入れ、許容期間を超えて派遣労働者を受け入れるという労働者派遣法違反の事実があったからといって、直ちに不法行為上の違法があるとはいい難く、他にこの違法性を肯定するに足りる事情は認められない
以上によれば、Xらの不法行為による損害賠償請求はいずれも理由がない。

本件は、出向、業務請負契約、労働者派遣という法形式の変遷があり、これが事案を複雑にしています。

派遣先との黙示の労働契約の成立については、現在のところ、一貫して裁判所は否定しています。

慰謝料請求については、裁判例により結論が別れているところですが、本件では、派遣法違反だからといって当然に不法行為上の違法とはいえないと判断しています。

なお、一審判決は、慰謝料としてXら各自に対し50万円の支払を命じました。

最高裁の判断を待ちましょう。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働6(パナソニックエコシステムズ(派遣労働)事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣労働者と派遣先との黙示の労働契約の成否、更新拒絶に関する裁判例を見てみましょう。

パナソニックエコシステムズ(派遣労働)事件(名古屋地裁平成23年4月28日・労判1032号19頁)

【事案の概要】

Y社は、空調機器、環境機器等の開発・製造・販売などを目的とする会社である。

Xは、派遣会社B社からY社に派遣労働者として派遣される形式で就労していたが、Xは、平成21年3月末をもって、雇止めされた。

Xは、Xの雇用主は実質的にはY社であり、Y社との間で黙示の労働契約が期間の定めのないものとして成立していたものであり、雇止めの実質的主体もY社であるところ、Y社によるXの雇止めは解雇権の濫用であって解雇権の濫用であって解雇は無効であるとして、Y社に対して雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた。

【裁判所の判断】

Y社との黙示の雇用契約の成立は否定

Y社に対して信義則違反の不法行為に対する慰謝料として100万円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 XのY社における就労は、A社を雇用主としていた当初は、偽装請負にあったが実態は労働者派遣であったものであり、仮に、Xの従事する業務が専門26業務にあたらないとした場合には、労働者派遣法上の派遣受入可能期間の制限に違反するという違法なものとなるけれども、本件全証拠を総合しても、XとY社との間に黙示の雇用契約が成立するといえる事情は、いまだ認めるに足りないというべきである

2 XとY社との間に黙示の雇用契約の成立が認められないのは、前記のとおりであり、Xが、B社から雇止めにされたことについて、Y社に対し、雇用主であることを前提として解雇権の濫用であるとして法的責任を問うことは認められないというべきである。

3 Xは、平成16年8月に就業を開始して以降、複雑で高度に専門的な業務に習熟を重ね、作業標準書を作成し、それがマニュアルとして用いられるまでになり、当該業務の担当者としては、Y社の正社員を含め、自己に代わる人材が他にいないほどの重要な人材になり、Y社における上司からも厚い信頼を得て、頼りにされていたことや、・・・雇用の継続に配慮してくれており、自己に関して、これまで一度としてY社が近い将来におけて派遣を終了させる意向を有しているといったことを示唆されるようなことがなかったことなどから、Y社への派遣が近い将来打切りになるとは予想もしておらず、B社との間で平成20年11月に雇用期間を平成21年3月末までとする雇用契約を締結した際においてもまさか同日をもってY社への派遣が終了し、雇止めになることがあるということは思いもよらず、Xは、同年4月以降も当然派遣が継続すると考え、勤務に励んでいた。
それにもかかわらず、Xは、平成20年12月、上司から、他の部署から移籍してきた正社員に対し、Xが休んだときに困るのでXが行っている業務内容のすべてを教えるように指示され、Xがその指示に従って、自己がそれまでの勤務で培った知識、経験、ノウハウのすべてをその正社員に伝授し、自己の代わりが務まる人材として育成したところ、更新期間のわずか1か月前になって、突然あたかも騙し討ちのようにXを狙い撃ちにして派遣打切りを通告され、派遣元から解雇されるに至ったものであること、・・・が認められるのであり、かかるY社のXに対する仕打ちは、いかにY社が法的に雇用主の立場にないとはいえ、著しく信義にもとるものであり、ただでさえ不安定な地位にある派遣労働者としての勤労生活を著しく脅かすものであって、派遣先として信義則違反の不法行為が成立というべきである

4 なるほど、労働者派遣においては、派遣元が雇用主として派遣労働者に対して雇用契約上の契約責任を負うものであり、派遣先においては派遣労働者に対して契約上の責任を負うものではないけれども、派遣労働者を受け入れ、就労させるにおいては、労働者派遣法上の規制を遵守するとともに、その指揮命令の下に労働させることにより形成される社会的接触関係に基づいて派遣労働者に対し信義誠実の原則に則って対応すべき条理上の義務があるというべきであり、ただでさえ雇用の継続性において不安定な地位に置かれている派遣労働者に対し、その勤労生活を著しく脅かすような著しく信義にもとる行為が認められるときには、不法行為責任を負うと解するのが相当である

5 しかして、Xは、Y社の派遣先としての上記信義則違反の不法行為により、派遣労働者としての勤労生活を著しく脅かされ、多大な精神的苦痛を被ったことが認められるところ、かかる精神的苦痛を慰藉するには、100万円が相当である。

派遣先会社との黙示の雇用契約の成否に関しては、従前通り、否定されてました。

これに対して、派遣先会社の派遣労働者に対する不法行為責任は肯定されました。

派遣先会社の不法行為責任は、黙示の雇用契約の成否に比べて、認められやすい傾向にあります。

派遣労働者側とすれば、派遣先会社の不法行為責任追及の際に、大変参考になる裁判例です。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働5(日本化薬事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣労働者と派遣先会社間の労働契約の成否と雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

日本化薬事件(神戸地裁姫路支部平成23年1月19日・労判1029号72頁)

【事案の概要】

Y社は、平成16年7月、A社との間で、業務委託基本契約を締結し、同社に対し、姫路工場で生産する製品の製造業務を委託した。そして、Y社は、上記基本契約に基づき、平成17年6月、A社との間で、Xにつき、自動車安全部品の製造及び付帯業務に関する業務委託契約を締結し、同契約は平成18年10月まで更新・継続された。

Y社は、平成18年8月、A社との間で、労働者派遣基本契約を締結し、業務委託から労働者派遣に切り替えた。そして、Y社は、上記基本契約に基づき、同年10月、A社との間で、Xにつき、労働者派遣契約を締結し、平成21年1月まで更新・継続した。

Y社は、受注の減少等を理由として、姫路工場の派遣労働者につき、派遣期間が満了する者の打ち切りを実施することとし、就業状況等を勘案してXについては派遣契約を更新しないこととした。

これを受けて、A社は、平成20年12月、Xに対し、雇用契約も更新しない旨を伝えた。

Xは、平成21年1月、姫路工場の管理部長らと面談し、期間3年を超える違法な労働者派遣なので、自らを正社員として直接雇用してほしい旨を要請した。これを聞いたA社は、Xに対し同月末日までの賃金は保障しつつ当日から出勤停止とし、同月31日をもってXを解雇した。

【裁判所の判断】

XとY社間には労働契約は成立していない。

Y社の行為は、不法行為には該当しない。

【判例のポイント】

1 請負契約においては、請負人は注文者に対して仕事完成義務を負うが、請負人に雇用されている労働者に対する具体的な作業の指揮命令は専ら請負人にゆだねられている。よって、請負人による労働者に対する指揮命令がなく、注文者がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、たとい請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することはできない。そして、上記の場合において、注文者と労働者との間に雇用契約が締結されていないのであれば、上記3者間の関係は、労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきである。そして、このような労働者派遣も、それが労働者派遣である以上は、職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はないというべきである。
そして、労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば、仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効になることはないと解すべきである(最高裁判所平成21年12月18日第二小法廷判決)。

2 Y社は、Xの姫路工場就労後、一貫してXに対する作業上の指揮権を有しており、Xの出退勤につき、ある程度の管理をしていたことも明らかであるから、Y社とA社間の関係は、当初から業務委託(請負)と評価することができず、これにXを加えた三社間の関係は、労働者派遣に該当するというべきである。

3 A社によるXの採用につき、Y社による事前面接があったとは認められず、これを根拠にX・Y社間には黙示の労働契約が成立したとのXの主張には、理由がない。

4 X、Y社及びA社の三社の関係は、Xが姫路工場での就労を開始した当初から、労働者派遣であったと認められるところ、当時、物の製造業務に関する派遣可能期間は1年であったことからすれば、Y社には、平成18年6月の時点で、Xに対し直接雇用を申し込む義務が発生していたと解するほかはない。
しかし、労働者派遣法40条の4は、その文言からして、派遣先の派遣労働者に対する雇用契約の申込義務を規定したにとどまり、申込の意思表示を擬制したものでないことは明らかであって、Xの主張は、立法論としてならともかく、現行法の解釈としては採り得ないものといわねばならない

裁判所は、当初の業務委託契約が偽装請負であったことは認めたものの、そのあとは、お決まりのコースです。

本件では、A社、Y社は何のお咎めもありません。

会社側としては、派遣契約に関する各種裁判例を研究し、敗訴リスクを実質的に検討した上で、現場対応することになります。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働4(積水ハウスほか(派遣労働)事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣労働と黙示の労働契約に関する裁判例を見てみましょう。

積水ハウスほか(派遣労働)事件(大阪地裁平成23年1月26日・労判102号24頁)

【事案の概要】

Y1社は、人材派遣、人材紹介等を事業内容とする会社である。

Y2社は、建築工事の請負及び施行、建築物の設計および工事管理等を事業内容とする会社である。

Xは、Y1社に対して派遣登録をしていたところ、Y2社の正社員を募集する紹介予定派遣に応募したが、採用されず、その後Y2社の大阪南カスタマーズセンターに派遣されて就労していた。

XとY1社の間の派遣労働契約は、平成16年12月に締結された後、3か月ごとに15回、平成20年8月まで約3年8か月にわたって更新された。

平成17年3月以降についてY1社らの間で結ばれた労働者派遣契約および派遣通知書には、業務内容は、「5号OA機器オペレーション業務(付随業務を含む)」と記載されていた。

Y2社の本件センター所長であるBは、平成20年7月頃、Xに本件労働者派遣契約を同年9月以降更新しない旨Y1社の担当者Fに伝えたが、その際に、いったん本件労働者派遣契約を終了するが、3か月のクーリングオフ期間をおいた後の同年12月から再度Xの派遣を受け入れたいとの希望を伝えた。

その後、XとY1社らの本件労働者派遣契約は、平成20年8月をもって期間満了により終了した。

同年10月にいたって、Y2社は12月からのXにかかる労働者派遣契約は締結しないとの意思決定をし、これを通されたFは、Xに対し再契約がないことがはっきりした旨連絡した。

Xは、Y2社におけるXの業務内容は、労働者派遣法40条の2で制限する就労期間について制限のない労働者派遣法施行令4条で定める26の業務に該当しないにもかかわらず、Y1社らは労働者派遣の役務提供を受ける期間を潜脱する目的で派遣業務を偽装した違法な派遣を行ったものであり、Y1社らの労働者派遣契約およびXとY1社の間の派遣労働契約が無効であるなどと主張し争った。

【裁判所の判断】

派遣労働契約、労働者派遣契約は無効ではない。

XとY2社との間には、黙示の労働契約は成立しない。

Y2社に対する、30万円の損害賠償請求を認容。

【判例のポイント】

1 政令には政令5号業務として「電子計算機、タイプライター、テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作の業務」と定めるのみで、派遣先の労働者の地位との関係で政令26業務の場合に派遣期間の制限が解除された趣旨を踏まえても、主としてパソコン操作がその業務となっている場合について政令5号業務から外れるとまで解することはできない

2 派遣労働者であるXが従事した業務が政令26業務(政令5号業務)に該当せず、また、それに従った派遣期間の制限違反等の労働者派遣法違反の事実があったとしても、労働者派遣法の趣旨およびその取締法規としての性質、さらには派遣労働者を保護する必要性等を踏まえると、特段の事情のないかぎり、そのことだけでXと派遣元であるY1社との間の派遣労働契約が、また、Y1社と派遣先であるY2社との労働者派遣契約が直ちにに無効となるものではない

3 派遣労働者と派遣先との黙示の労働契約の成否を判断するに当たっては、派遣元に企業としての独自性があるかどうか、派遣労働者と派遣先との間の事実上の使用従属関係、労務提供関係、賃金支払関係があるかどうか等を総合的に判断して決するのが相当である。

4 労働者が派遣元との派遣労働契約に基づき派遣元から派遣先に派遣された場合であっても、派遣元が形式的な存在にすぎず、派遣労働者の労務管理を行っていないのに対して、派遣先が実質的に派遣労働者の採用、賃金額その他の労働条件を決定し、配置、懲戒等を行い、派遣労働者の業務内容・派遣期間が労働者派遣法で定める範囲を超え、派遣先の正社員と区別しがたい状況となっており、派遣先が派遣労働者に対し労務給付請求権を有し、賃金を支払っている等派遣先と派遣労働者間に事実上の使用従属関係があると認められるような特段の事情がある場合には、派遣先と派遣労働者との間において、黙示の労働契約が成立していると認めるのが相当である

5 XとY2社との関には黙示の労働契約の成立は認められないが、Y2社がXに対し派遣労働契約終了後3か月の期間をおいて再度就労が可能であると告げたこと等から、Xの復職就労に関する期待が法的保護に値するものであり、Y2社による平成20年12月以降のXの就労の拒否はこれを侵害した違法行為であるとされ、30万円の損害賠償請求が認容された。 

今後、派遣労働に関してもいっぱい検討していこうと思います。

本件では、いろいろと参考になるポイントがあります。

上記判例のポイント3、4は、小難しいことを言っているように見えますが、よく読むと、たいしたことは言っていません。

たぶん、判例のポイント3、4の基準をみたすのは、よほどの場合でない限り、現実には存在しないように思います。

結局、派遣労働者の期待権侵害による30万円の損害賠償請求だけを認めたわけです。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働3(テクノプロ・エンジニアリング(派遣労働者・解雇)事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣会社待機社員の整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

テクノプロ・エンジニアリング(派遣労働者・解雇)事件(横浜地裁平成23年1月25日・労判1028号91頁)

【事案の概要】

Y社は、労働者派遣法に基づく派遣事業などを目的とする会社である。

Xは、平成8年にY社との間で派遣労働者(技術社員)として雇用契約を締結し、それ以降、17年までA社に派遣されて就労していた。その後、Xは、B社に派遣替えとなり、21年3月まで業務に従事した。

Y社は、平成21年3月の時点で待機社員494名のうち新規配属先が確保できた者および自己都合退職した者を除く合計351名に対して、整理解雇する旨の意思表示を行った。

Xは、本件整理解雇は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 本件解雇は、いわゆる整理解雇に該当するところ、整理解雇は、労働者の私傷病や非違行為など労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではなく、使用者の経営上の理由による解雇であって、その有効性については、厳格に判断するのが相当である。そして、整理解雇の有効性の判断に当たっては、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性及び手続の相当性という4要素を考慮するのが相当であり、以下このような観点から本件解雇の有効性について検討する。

2 Y社は、平成20年5月度に経常利益が赤字に陥った以外、本件整理解雇以前の少なくとも過去数年間は一貫して黒字であり、本件整理解雇にあたってはY社における人員削減の目標を定めていたか否かも明らかでない。・・・これらの事情を総合すれば、Y社の経営状態は好ましくない方向に推移していたものと認められるものの、本件整理解雇にあたり、その時点で、Y社に切迫した人員削減の必要性があったとまでは認めるに足りない

3 Y社が本件整理解雇当時に人員削減の目標を定めていたかも明らかではなく、また、Y社は、技術社員に対する希望退職者の募集を一切行わないまま、平成21年3月末時点の待機社員の人数が494名に上るとの予測を受けて、直ちにXを含めた待機社員351名にも及ぶ本件整理解雇を実施することを決定し、その解雇通知を行っている。こうした事情によれば、人員削減の手段として整理解雇を行うことを回避するため、希望退職の募集など他の手段により本件整理解雇を回避する努力を十分に尽くしたとは認められない

本件では、整理解雇の必要性が認められないところで、勝負ありです。

整理解雇を実施する場合には、相当注意しなければ、有効にはなりません。

必ず顧問弁護士に相談の上、慎重に進めてください。