Category Archives: 派遣労働

派遣労働32 派遣先会社での雇用禁止合意と派遣法33条違反の成否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、派遣先会社での雇用禁止合意と派遣法33条違反の成否について見ていきましょう。

バイオスほか(サハラシステムズ)事件(東京地裁平成28年5月31日・労判1275号127頁)

【事案の概要】

本件は、次の各請求が併合された事案である。
(1)Y1に対する請求
Y1と結んだ雇用契約に基づきY1を派遣労働者として派遣先の業務に従事させたXが、Xを退職した被告Y1がXとY1との間で結んだ派遣先での就業禁止の合意に反して当該派遣先で就業したことを理由に、Y1に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づき、Y1が当該派遣先で就業したためXが逸失した利益相当損害金211万5000円+遅延損害金の支払を求めるもの
(2)Y2に対する請求
Y2と結んだ雇用契約に基づきY2を派遣労働者として派遣先の業務に従事させたXが、Xを退職したY2がXとY2との間で結んだ派遣先での就業禁止の合意に反して当該派遣先で就業したことを理由に、Y2に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づき、Y2が当該派遣先で就業したためXが逸失した利益相当損害金188万4696円+遅延損害金の支払を求めるもの
(3)Y3に対する請求
Y3と結んだ雇用契約に基づきY3を派遣労働者として派遣先の業務に従事させたXが、Xを退職したY3がXとY3との間で結んだ競業避止義務の合意に反して競業したことを理由に、Y3に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づき、Y3が競業したためXが逸失した利益相当損害金271万2877円+遅延損害金の支払を求めるもの
(4)Y4に対する請求
Xが、①Y4がXとY4との間で締結した平成24年1月31日付け労働者派遣取引基本契約における雇用の禁止の合意に反して、Y1、Y2及びY3を雇用したことを理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権、②Y4がXよりもよい条件でY1らを直ちに雇用すること、就業場所は従前と同じ事業所であること、業務も同様であること等の条件を提示して、Xから退職するようにY1らを勧誘した結果、Y1らがXを退職し、その直後にY4に雇用されたことをもって、Xと本件基本契約等を結んだY社4が信義則上負うべきXの財産権を侵害してはならないという保護義務の違反行為に当たることを理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権、又は③就業禁止条項による義務又は競業避止義務を負うY1らに対し、Y4が、Xを退職し、Y4と雇用契約を結ぶように誘致するといった不当な働き掛けをしたため、Y1らがXを退職し、その結果、XがY1らに対して有する債権が侵害されたという不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、Y4に対し、Y1らがXを退職しY4に雇用された上で従来の事業所において就業を継続していることによるXの逸失利益5年分に相当する3356万2865円+遅延損害金の支払を求めるもの

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 労働者派遣法は、労働力の需給の適正な調整を図るため労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を構ずるとともに、派遣労働者の保護等を図り、もって派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的とする(1条参照)。
そして、労働者派遣法33条1項は「派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者との間で、正当な理由がなく、その者に係る派遣先である者に当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用されることを禁ずる旨の契約を締結してはならない。」と、同条2項は「派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者に係る派遣先である者との間で、正当な理由がなく、その者が当該派遣労働者を当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用することを禁ずる旨の契約を締結してはならない。」とそれぞれ規定するところ、これらの規定の趣旨は、派遣元事業主と派遣労働者との間又は派遣元事業主と派遣先との間で、派遣元事業主との雇用関係の終了後に派遣労働者が派遣先であった者に雇用されることを制限する趣旨の契約を締結することが無制限に認められることになると、派遣労働者の就業の機会が制限され、憲法22条により保障される派遣労働者の職業選択の自由が実質的に制限される結果となって、労働者派遣法の立法目的にそぐわなくなることから、派遣元事業主と派遣労働者の間又は派遣元事業主と派遣先との間において、そのような契約を締結することを禁止し、もって派遣労働者の職業選択の自由を特に雇用制限の禁止という面から実質的に保障しようとするものであって、労働者派遣法33条に違反して締結された契約条項は、私法上の効力が否定され、無効であると解される。

2 もっとも、その一方で、派遣先であった者が派遣労働者であった者を無限定に雇用できることとすると、派遣元事業主が独自に有し、他の事業主は有しない特殊な知識、技術又は経験であって、派遣労働者が派遣就業をする上で必要であるため当該派遣元事業主が特別に当該派遣労働者に習得させたものがある場合にも、雇用契約終了後は当該派遣労働者が派遣先と雇用契約を結んでそうした特殊で普遍的でない知識等を勝手に利用することが可能となる結果、特殊で普遍的ではない知識等を有することによる当該派遣元事業主の利益が侵害される事態が発生しかねない
そこで、労働者派遣法33条は、そうした知識等を有することによる当該派遣元事業主の利益を保護するといった正当な理由がある場合に限り、上記の雇用制限の禁止を解除することとしたものと解される。
以上によれば、上記の雇用制限をすることは原則として禁止され、これに反して結ばれた雇用制限条項は無効であるが、当該雇用制限条項を設けることに正当な理由があることの主張立証があった場合に限り、例外的にその禁止が解除されて当該雇用制限条項の効力が認められることになると解される。

派遣法33条の解釈が展開されています。

あまり論点として登場する機会は多くないので、この事案を通じて押さえておきましょう。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。

派遣労働31 通勤によるコロナ感染不安を訴える派遣労働者に対する雇止めの違法性が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、通勤による新型コロナウイルスへの感染不安を訴える派遣労働者に対する健康配慮義務違反及び雇止めの違法性がいずれも否定された事案を見ていきましょう。

ロバート・ウォルターズ・ジャパン事件(東京地判令和3年9月28日・労経速2470号22頁)

【事案の概要】

本件は、労働者派遣事業等を目的とするY社との間で期間の定めのある労働契約を締結していたXが、Y社に対し、Xが新型コロナウイルスへの感染を懸念して在宅勤務を求めていたにもかかわらず、Xを派遣先会社に出社させたり、在宅勤務等を希望するXを疎んで雇止めにしたり、雇止めに関しその理由を具体的に説明しなかったりしたと主張し、これらはXに対する一連の不法行為に当たるとして、不法行為に基づき慰謝料450万円及び弁護士費用45万円の合計495万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社や本件派遣先会社において、当時、Xが通勤によって新型コロナウィルスに感染することを具体的に予見できたと認めることはできないというべきであるから、Y社が、労働契約に伴う健康配慮義務又は安全配慮義務(労働契約法5条)として、本件派遣先会社に対し、在宅勤務の必要性を訴え、Xを在宅勤務させるように求めるべき義務を負っていたと認めることはできない
したがって、仮に、Y社が本件派遣先会社に対しXの在宅勤務の実現に向けて働きかけをしなかったという事情があったとしても、これをもって違法ということはできない。

2 本件労働契約は、令和2年3月2日から同年3月31日までの期間を定めて締結されたものであり、本件雇止めまで一度も更新されたことがなかったことや、本件労働契約において更新を予定した条項は定められていなかったことに照らすと、本件雇止めの時点において、Xに雇用継続への合理的期待があったと認めることはできないというべきである。

コロナに対する不安の度合いは、人によってまちまちですので、Xの要望は理解できないことはありません。

もっとも、コロナに限らず、風邪もインフルエンザも、マスクをしようかしまいが、ワクチンを接種しようがしまいが、感染する人は感染してしまいます。その逆もまたしかり。

判断が難しい労務管理については、速やかに顧問弁護士に相談することが大切です。

派遣労働30 勤務態度不良を理由とする派遣労働者の雇止め(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、勤務態度不良を理由とする派遣労働者の雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

スタッフマーケティング事件(東京地裁令和3年7月6日・労経速2465号31頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのある労働契約を締結して就労していたXが、Y社による雇止めの無効を主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、雇止め以降本判決確定までの期間における賃金月額29万4737円他+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 Y社は、Xが自らの勤務態度や知識不足等について繰り返し指導を受けたにもかかわらず改善がみられなかったと主張し、その証拠としてb社やY社の従業員が送信した電子メールを提出するが、これらのうち乙第1号証・第2号証については,そもそもXの勤務態度等に問題がある旨が指摘された事実を認めることができず、乙第7号証・第8号証によれば、a社の会議等においてXの接客方法が問題視された事実が認められるものの、それを踏まえてXに対し指導がなされた状況や指導を受けたXの対応に関する証拠はなく、Xが勤務態度等について指導を受けたにもかかわらず改善がみられなかった事実を認めることはできない
そうすると、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものというべきである。

2 Y社は、令和2年2月13日、X代理人に対し復職に向けた打合せの機会を設けることを申し入れており、遅くとも同日以降はXの就労は履行不能でなかった旨を主張する。
しかし、当該申入れは、Xが「雇い止めに至る経緯で問題があったことを素直に認めて今後改善するということであれば、受け入れを検討する」、「自分は悪くないという態度で、気に入らないことがあるとかみつくという姿勢が改まらないのであれば受け容れられない」という内容であったものと認められ、結局のところ、Xが態度を改めなければ復職させない旨を申し入れたものというべきであるから、Y社がXの就労を拒絶している事実を左右するものではない
また、Y社は、Xが、同月以降他社において就労していたこと、本件雇止め前から別の仕事に移ることを希望していたことを指摘して、Xが本件労働契約に基づき就労する意思があったとは認められない旨を主張するが、雇止めを受けた労働者が他社において就労していたからといって直ちに雇止め前の労働契約に基づく就労の意思を喪失したものとはいえず、Xが本件雇止め前に異動を希望していたことについても本件労働契約に基づく就労の意思を否定するものでないことは前示のとおりであって、Y社の主張は採用することができない。

非常に基本的な内容ですが、実務においては極めて重要な内容です。

勤務態度を理由とする解雇・雇止めの注意、就労の意思の有無についての判断方法についてしっかりと理解しておきましょう。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。

派遣労働29 派遣元に対する派遣法違反を理由とした損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、派遣社員の派遣元に対する損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

イスト事件(大阪地裁令和2年10月15日・労経速107号24頁)

【事案の概要】

本件は、塾等の教育機関への人材派遣等を目的とするY社に派遣の登録をしていたXが、Y社との間で有期労働契約を締結し、その期間満了前に解雇され、その権利ないし法律上保護に値する利益を侵害されたとして、また、仮に労働契約の成立が認められないとしても、Y社が就業条件等を書面で明示しなかったために権利ないし法律上保護に値する利益を侵害されたとして、いずれも不法行為に基づき、解雇がなければ得られたであろう賃金相当額計228万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、Xに対し、賃金の見込額等に関する就業条件を明示した書面を交付していないけれども、労働者派遣法違反から直ちにXの権利ないし法律上保護に値する利益侵害、あるいは、Y社の故意又は過失が認定されるものではなく、この点、Xが平成30年3月頃、A高校における勤務と同様の条件のB学園における非常勤講師の勤務の紹介を受けていたことやB学園との間で直接「1コマ1万円/月額固定」(2コマ月額2万円)の労働契約を締結していたことに照らせば、仮に平成30年8月30日のCの説明が「1コマ1万円」にとどまっていたとしても、それがXに誤解を与えるような説明であったとはいえないから、Y社は口頭とはいえ賃金の見込額等を伝えていたのであるから、Y社による上記書面の交付がないことによって、Xの権利ないし法律上保護に値する利益が侵害されたとはいえず、また、Y社の故意又は過失があるとはいえない

この論理展開は派遣法に限らず、行政法規全般に使われるものですので是非押さえておきましょう。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。

派遣労働28 派遣と請負の区別方法とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、労働者派遣法40条の6の労働契約申込みみなしが否定された裁判例を見てみましょう。

ライフ・イズ・アート事件(神戸地裁令和2年3月13日・労経速2416号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で業務請負契約を締結したA社の労働者としてY社の伊丹工場で製品の製造業務に従事していたXらが、Y社に対し、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律40条の6第1項5号、同項柱書に基づき、XらとY社との間に別紙1「労働契約一覧」記載の各労働契約が存在することの確認及び平成29年4月1日から本判決確定の日まで、毎月末日限り、別紙1「労働契約一覧」の各賃金欄記載の賃金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させる事業者について、労働者派遣か請負の区分は、当該事業者に業務遂行、労務管理及び事業運営において注文主からの独立性があるか、すなわち、①当該事業者が自ら業務の遂行に関する指示等を行っているか、②当該事業者が自ら労働時間等に関する指示その他の管理を行っているか、③当該事業者が、服務規律に関する指示等や労働者の配置の決定等を行っているか、④当該事業者が請負により請け負った業務を自らの業務として当該契約の注文主から独立して処理しているかにより区分するのが相当である。

2 本件では、①平成28年頃、Y社は機械の保守等を除いてA社の個々の従業員に業務遂行上の指示をしておらず、A社はY社から独立して業務遂行を行っていたこと、②A社が自ら労働時間等に関する指示その他の管理を行っていたこと、③A社は、その従業員に対し、服務規律に関する指示をなし、その配置を決めていたこと、④A社は、Y社から請負契約により請け負った業務を自らの業務としてY社から独立して処理していたこと、⑤A社では三六協定が更新されず同29年1月に失効していたが、これを労働者派遣契約に切り替えれば三六協定がなくてもY社から求められた増産に対応できると誤解し、Y社に派遣契約への切り替えを依頼したという経緯があり、Y社がA社との間の従前の業務請負の実態を糊塗するために労働者派遣契約を締結したものではないことが認められる。
以上の事情を考慮すると、遅くとも平成29年3月頃には偽装請負等の状態にあったとまではいうことはできないというべきである。

上記判例のポイント1の判断基準は、派遣と請負を区別する上で極めて重要なのでしっかり押さえておきましょう。

実際の判断は非常に悩ましいので、顧問弁護士に相談をしながら進めるのが賢明です。

派遣労働27 派遣先との労働契約成立の是非(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、派遣先との労働契約成立の是非に関する裁判例を見てみましょう。

エヌ・ティ・ティ マーケティングアクト事件(大阪地裁平成31年2月22日・労判ジャーナル87号69頁)

【事案の概要】

本件は、A社から派遣された派遣労働者の形態でY社において就労していたXが、Y社に対し、XとY社との間には労働契約が成立しており、Y社とA社との間の労働者派遣契約は偽装されたものである等と主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 XとA社との間に労働契約が成立していることに加え、A社において平成28年2月24日付けでXのY社への派遣に係る派遣元管理票が作成されていること、同年3月2日以降、Xの多言語通訳・翻訳センターでの就労に関し、Y社からA社に対して派遣料が支払われていること、以上の点を併せ鑑みると、同日から4月1日までの期間に係る派遣先通知書が同年5月9日付けで作成されていること等のXが主張する事実を踏まえても、Y社とA社との間に、同年3月2日までに労働者派遣契約が成立していたことが認められるというべきであり、XとY社との間に、Y社の面接を受けた日に労働契約が成立したとは認められない

2 Xは、Y社やA社の行為が、(1)職業安定法44条及び労働基準法6条に違反し、(2)職業安定法が原則禁止する職業紹介に該当し、(3)労働者派遣法26条6項に違反し、(4)不当労働行為に該当し、もって労働者は人格権を侵害された旨主張するが、(1)の点について、XとY社の就労関係は労働者派遣法に基づく労働者派遣に当たり、職業安定法44条が禁止する労働者供給事業には該当せず、労働基準法6条にも違反しないし、(2)の点について、少なくとも、A社がY社に対して求人の申込みをした事実を認めるに足りる的確な証拠はないから、Y社の行為が職業紹介に当たるとは認められず、(3)の点について、本件面接及びその後の一連のY社の行為は、労働者派遣法26条6項の趣旨に反するものの、不法行為法上の違法性は認められず、(4)の点について、不当労働行為に当たるとは認められないから、Y社やA社の行為について、X主張に係る不法行為が成立するとは認められない。

この類型の訴訟は、いつもチャレンジングなものです。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働26 派遣先における面談後の不採用と損害賠償請求の可否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、派遣先における面談後の不採用に対する損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

バックスグループ事件(東京地裁平成29年6月7日・労判ジャーナル71号44頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用契約の締結を申し込んだ派遣労働者Xが、Y社に対し、Y社がXと雇用契約を締結する前に派遣労働者の就労予定先であるA社の担当者と派遣労働者を面接させたうえ、A社の意向を理由としてXを採用しなかった旨主張し、かかる経緯に照らせば、A社とY社は実質的には労働者派遣契約を結んでおり、Y社が派遣労働者に本件面接を行わせ、本件面接の結果派遣労働者を不採用としたことは、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(以下、告示37号)に違反し、Xに対する不法行為に当たるなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料95万円の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、不法行為の根拠として告示37号違反を主張するところ、告示37号の目的は、労働者派遣法の施行に伴い、労働者派遣法に該当するか否かの判断を的確に行う必要があることに鑑み、労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分を明らかにすることであり、労働者派遣事業と請負との区分に関する基準であるから、事業者(使用者)に関する何らかの義務を定めるものではなく、本件においてXが指摘するY社の各行為について、告示37号違反による不法行為を認めることはできない

2 本件面接について、労働者派遣法が禁ずる事前面接に当たるとのXの主張は、派遣先による特定行為を禁止する労働者派遣法第26条6項に違反する旨の主張とも解されるところ、同項は「派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めなければならない」と規定しており、いわゆる努力義務にとどまると解される上、その義務の主体は「労働者派遣の役務の提供を受けようとする者」であるから、仮に本件面接が同条項の特定行為に当たるとしても、それによって直ちにXの個々具体的な保護法益が侵害され、その責任をY社が負うとは認め難く、Y社が本件面接を行わせたこと自体がXに対する不法行為に当たると認めることはできず、さらに、契約締結自由の原則により、一般に企業には従業員の採用に当たって広範な裁量が認められるところ、同項の趣旨及び本件に顕れた一切の事情を考慮しても、Y社がXを採用しなかったこと自体が権利濫用に当たるとも認め難いから、Y社はXに対し不法行為責任を負わない。

特段異存はありません。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働25 登録型派遣社員の地位確認請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、派遣労働者の派遣事業者に対する地位確認等請求に関する裁判例を見てみましょう。

セールスアウトソーシング事件(東京地裁平成28年6月21日・労判ジャーナル56号50頁)

【事案の概要】

本件は、労働者派遣事業者であるY社との間で雇用契約を締結した派遣労働者Xが、その雇用契約に雇用期間の定めはなく、仮に雇用期間の定めがあったとしても、労働契約法19条により更新されて現在まで存続しており、未払賃金があるなどと主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認並びにその雇用契約に基づく未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

地位確認請求は棄却

未払賃金等支払請求は一部認容

【判例のポイント】

1 X・Y社間の雇用契約はいわゆる登録派遣であり、本件契約書上も、派遣社員として雇用する契約であること、派遣期間は平成26年9月30日までであること、契約更新は派遣先の判断基準によることがそれぞれ明記されているうえ、派遣労働者が利用した「ショットワークス」は、短期や単発のアルバイトや派遣社員向けの求人情報サイトであったことが認められること等から、派遣労働者が10月以降の雇用継続を期待していたとしても、その期待に合理的理由があるとは認めがたく、労働契約法19条所定の他の要件について検討するまでもなく、X・Y社間の雇用契約が更新されたものとみなすことはできないから、X・Y社間の雇用契約は9月30日をもって雇用期間満了により終了しており、現在まで存続しているとみる余地はないから、派遣労働者の地位確認請求には理由がない。

2 Xは9月後半も本件契約書所定の労務を提供する意向を示していたが、Y社はこれを拒否し、Xの労働債務の履行が不能になっていたと認められること等から、Y社は、派遣労働者に対し、9月16日から30日までの賃金を支払うべき義務を負い、同期間の賃金額については、9月1日から15日までの賃金と同額の7万2800円をもって相当である。

上記判例のポイント1については労働者側にはハードルが高い論点ですね。

一方、判例のポイント2については妥当な判断です。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働24(日産自動車ほか事件)

おはようございます。

今日は、派遣労働者と派遣先会社との直接の黙示の労働契約の成立が認められなかった裁判例を見てみましょう。

日産自動車ほか事件(東京地裁平成27年7月15日・労経速2261号9頁)

【事案の概要】

本件は、派遣元であるA社との間で期間の定めのある労働契約を締結し、その更新を重ねながら、派遣先であるY社において就労していたXが、①XとA社との間の労働契約及びA社・Y社間の労働者派遣契約は偽装された無効なものであり、XとY社との間には直接の労働契約が黙示のうちに成立しているとして、仮にそうでないとしても、労働者派遣法40条の4及び40条の5の各規定によってXとY社との間に労働契約が成立しているとして、Y社に対し、期間の定めのない労働契約上の地位を有することの確認並びに平成21年6月以降の賃金+遅延損害金の支払を求め、②A社・Y社の職業安定法違反及び労働者派遣法違反等の違法行為によって、XがY社に直接雇用されていれば本来支払を受けることのできたはずの賃金の支払を受けられず、A社から受け取っていた賃金との差額について損害を被り、また、精神的苦痛を被ったとして、A社・Y社に対し、連帯して、不法行為に基づく損害賠償金として、逸失利益、慰謝料及び弁護士費用+遅延損害金の支払を求め、③XとA社との間の労働契約及びA社・Y社間の労働者派遣契約が上記のとおり無効であることから、A社はXがY社に派遣され就労していた期間、Y社から支払を受けた派遣代金額から、A社がXに対して支払った賃金額を控除した額につき、法律上の原因なく利得を得ており、これに対応してXに損失が生じているとして、A社に対し、不当利得返還請求権に基づき上記差額+遅延損害金の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xと被告らとの間の法律関係は労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣にほかならず、職業安定法4条6項にいう労働者供給には該当しない。また、XとA社との契約関係は実体を伴ったものであって、これを無効とすべき特段の事情は見当たらないところである。そして、Xについて、A社との間の関係と並列的に、Y社との間の直接の雇用関係の成立を認めるべき根拠となるような事情は見当たらないというべきである。
かえって、Y社の休業期間中とはいえ、Xが、A社からY社以外の派遣先の紹介を受け、就労していた事実は、Y社との間に直接の雇用関係が存在することを前提とせず、A社からの労働者派遣という法律関係の枠内で就労を継続していたことを裏付けるものであって、XとY社との間で黙示の労働契約の成立を認める余地はないというべきである

2 Xは、Y社には派遣労働者を受け入れた派遣先として法令を遵守し、信義誠実に従って対応すべき条理上の義務があるところ、Y社が、その義務に反して法令違反を行い、東京労働局の指導も無視して、Xの就労を拒絶したことにより、Y社での就労の継続についての期待が侵害されており、長期間にわたって派遣労働者として不安定な地位を強いられ、庶務的業務を押しつけられたことによって精神的苦痛を被ったとも主張している。
しかし、Y社が労働者派遣法を遵守したとしても、直接・間接雇用を問わず、XがY社での就労を継続できる合理的な期待があるとまでいえないことは既に述べたところから明らかであるし、東京労働局の指導した雇用の安定の措置としては、Y社によるXの直接雇用のほか、グループ会社での雇用、A社による別の派遣先の就業が例示されていたところ、XはY社による直接雇用以外は受け入れない姿勢を示していたことからすれば、合意に至る可能性が低いとして交渉に応じなかったことを捉えて不法行為に当たるとするのは相当でないというべきである
また、長期間派遣労働者として不安定な地位にあったとする点も、XがY社から直接雇用された地位、その他派遣労働者以外の地位を法律上当然に期待できたわけではなく、A社との契約の更新、Y社での庶務的業務の担当を含めた就労の継続が、Xの意思に反した不相当な方法で行われていたことをうかがわせる証拠もないから、この点を捉えて不法行為であるということもできない

この争点については、原告側に厳しい判決が続いています。

派遣元会社も派遣先会社も、対応に困った場合には速やかに顧問弁護士に相談することをおすすめします。

派遣労働23(ティー・エム・イーほか事件)

おはようございます。

今日は、派遣社員のうつ病罹患と自殺に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

ティー・エム・イーほか事件(東京高裁平成27年2月26日・労判1117号5頁)

【事案の概要】

本件は、Aが代表取締役を務めるY社に雇用され、Z社に派遣されて中部電力浜岡原子力発電所で空調設備の監理業務等に従事していたXが平成22年12月9日に自宅で自殺したことから、その妻子が、派遣先会社の出張所長であったBらに対し、Xのうつ病を認識し、又は認識することができたのに安全配慮義務等を怠り、Xを自殺に至らしめたとして、A及びBに対しては不法行為に基づき、派遣会社に対しては債務不履行及び会社法350条に基づき、派遣先会社に対しては債務不履行及び使用者責任に基づき、損害賠償請求をした事案である。

原審は、原告の請求を全て棄却した。

【裁判所の判断】

派遣会社及び派遣先会社は、連帯して合計150万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 当裁判所は、Xの自殺についてY社らに法律上の責任はないとする点は原判決と同じであるが、Y社及びZ社は、従業員であるXの体調不良を把握した以上、安全配慮義務の一環として、具体的に不良の原因や程度等を把握し、必要に応じて産業医の診察や指導等を受けさせるなどすべきであったのに、これを怠り、その限度でXに対して慰謝料の支払義務が生じたものと認められる

2 ・・・Xの体調が十分なものではないことを認識することができていたのであるから、Y社及びZ社は、それぞれ従業員に対する安全配慮義務の一環として、上記の機会や同年12月にXが自殺に至るまでの間に、XやXらの家族に対し、単に調子はどうかなどと抽象的に問うだけではなく、より具体的に、どこの病院に通院していて、どのような診断を受け、何か薬等を処方されて服用しているのか、その薬品名は何かなどを尋ねるなどして、不調の具体的な内容や程度等についてより詳細に把握し、必要があれば、Y社及びZ社の産業医等の診察を受けさせるなどした上で、X自身の体調管理が適切に行われるよう配慮し、指導すべき義務があったというべきである。
それにもかかわらず、Y社及びZ社は、いずれもXに対して通院先の病院や診断名や処方薬等について何も把握していないのであって、従業員であるXに対する安全配慮義務を尽くしていなかったものと認めることができる。

3 もっとも、Xは、Y社に入社した際の面接で健康面に問題はないと述べ、妻もこれに同調しただけでなく、入社後も平成20年から平成22年まで毎年7月に実施された健康診断において精神面の不調等を訴えてはいないし、Y社やZ社に対してうつ病に罹患しているとの診断書等を提出したこともないが、このことは、X自身が解雇されることなどを恐れてうつ病又はうつ状態に陥っていることを明かそうとしなかったものと考えられるのであって、仮にAやBにおいて、Xに対して直截に具体的な病名等を確認しようとしても、Xが素直にこれに応じてうつ病又はうつ状態にあることを説明したか否かについては、不明という他はないが、Xがそのような不安を抱くようになった原因の1つには、AやBのXに対する日頃の対応があったのではないかとも考えられ、そのこと自体、Y社やZ社における従業員に対する安全配慮義務の履行が必ずしも十分なものでなかったことを推認させるものである

会社関係者のみなさんは、この裁判例を十分理解する必要があります。

「安全配慮義務」という言葉は知っていても、その具体的な内容まで理解している方は多くありません。

どこまでやれば安全配慮義務を尽くしたといえるのか。 まさにここがポイントです。

定期的なセミナー、勉強会を開き、ブラッシュアップをしていかなければなりません。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理を行いましょう。