Category Archives: 有期労働契約

有期労働契約76 有期雇用従業員に対する社内暴力を理由とする解雇と雇止め(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、社内暴力を理由とする期間途中の解雇は無効だが、雇止めは有効とされた裁判例を見てみましょう。

K社事件(東京地裁平成29年5月19日・労経速2322号7頁)

【事案の概要】

本件は、XがY社に対し、懲戒解雇が無効であること、労働契約法19条に基づいて有期雇用契約が更新されること並びに懲戒解雇、それに至るY社の対応及び契約期間満了後の更新拒絶には不法行為が成立することを主張して、雇用契約上の権利を有する地位の確認並びに解雇後の賃金、慰謝料100万円及びこれらの遅延損害金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、7万4010円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、平成28年3月から同年4月まで金22万2030円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、44万4060円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件就業規則は「他人に対して暴行・脅迫・監禁その他社内の秩序を乱す行為を行った場合」(70条10号)に該当するときは懲戒解雇とすることを定めているが、情状により諭旨解雇以下に処することも認めており、労働契約法の前記解釈に反することはできないから、懲戒解雇又は諭旨解雇の事由となる「暴行」は「やむを得ない事由」に当たる程度に悪質なものに限られるというべきである。

2 1月17日の出来事でXには暴行に当たる行動があり、懲戒に相当する事由は認められるが、その契機は偶発的で、態様や結果が特に悪質なものともいえず、その背景には、Xの自己中心的、反抗的な行動傾向や勤務態度があり、反省も不十分であったことを考慮しても、期間満了を待つことなく雇用契約を直ちに終了させる解雇を選択せざるを得ないような特別の重大な事由があるとは認めるに足りないから、その余の点を判断するまでもなく、Xに対する本件解雇は懲戒権を濫用するものとして無効であって、XとY社との間の有期雇用契約は、本件解雇では終了しなかったというべきである。

3 更新を妨げる上記「特段の事情」は、有期雇用契約の期間満了前の解雇における「やむを得ない事由」や通常の解雇における「客観的に合理的な理由」があり、「社会通念上相当である」こと(労働契約法16条)と同程度のものであることまでは要しないと解される。
・・・Xに契約期間の満了時に有期雇用契約が更新されると期待する合理的な理由があっても、Y社には有期雇用契約の更新を拒む特段の事情があったというべきである。

4 なお、有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第1条によると、Y社は有期雇用契約を更新しないときは、期間満了の日の30日前に雇止めの予告をすべきところ、Y社がこの予告をした主張立証はない。
しかしながら、上記基準は労働基準法14条2項、3項に基づく行政官庁の助言・指導の基準にとどまるから、これに違反する雇止めが直ちに違法になるわけではない上、先行した本件解雇で有期雇用契約の継続を望まないY社の意思は明らかに示されているから、Xに有期雇用契約更新の合理的な期待を抱かせる、又は更新を拒むことの社会通念上の相当性を害するには足りないというべきである。

有期雇用の場合、期間途中で解雇するには「やむを得ない事由」が必要となります。

それゆえ就業規則の解雇事由に形式的に該当する場合でもその程度を慎重に検討しないと今回のようになってしまいます。

また、上記判例のポイント3は重要なので押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約75 22年間更新のアルバイト従業員に対する雇止めの適法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、22年間反復継続してきたアルバイトに対する雇止めの適法性が争われた事例を見てみましょう。

ジャパンレンタカー事件(名古屋高裁平成29年5月18日・労判1160号5頁)

【事案の概要】

Xは、平成4年4月1日までにY社と期限の定めのある労働契約を締結して、アルバイト従業員として稼働し始め、同月から平成20年頃までは6か月に1回,同年以後は2か月ごとに雇用契約書の更新がなされ、最終の労働期間は、平成26年12月20日までとなっていた。

本件は、Xが、Y社とX間の労働契約は、労働契約法19条1号又は2号に該当し、労働期間が満了する日までに有期労働契約の更新の申込みをし、また、Y社の雇止めは合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから、労働契約法19条により従前の労働契約の内容である労働条件と同一の条件で契約更新の申込みをY社は承諾したものとみなされると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、賃金請求権に基づき、平成26年12月から毎月末日限り月額23万9514円の割合による賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、Y社は、Xが健康保険、厚生年金及び雇用保険の資格を取得したこと等を届け出て、かつ、雇用継続中、健康保険料、厚生年金保険料及び労働保険料を納付すべき義務があったのにこれを怠ったと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、361万6626円+遅延損害金の支払を求め、さらに、平成25年4月21日から平成26年10月18日までの間の未払割増賃金が合計291万3819円+遅延損害金が合計12万3933円であると主張して、Y社に対し、上記元本及び遅延損害金合計303万7752円等の支払を求めるとともに、付加金291万3819円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、XとY社間の有期労働契約は、期間の定めのない労働契約とほぼ同視できるものであり、Y社の更新拒絶は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、Y社は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件でXの更新の申込みを承諾したものとみなされるとして、Xの地位確認請求を認容するとともに、Y社の賃金請求も全部認容し、Xの不法行為に基づく損害賠償請求については、136万4822円+遅延損害金の支払を求める限度で認容し、Xの割増賃金請求については、289万3471円+遅延損害金の支払を求める限度で、Xの付加金請求については、277万5699円+遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ認容した。

そこで、Y社が控訴をするとともに、Xが不法行為に基づく損害賠償請求を棄却された部分について附帯控訴をするとともに、損害額の拡張及び追加をした。

【裁判所の判断】

 本件控訴について
(1)原判決主文3項中、次の(2)に係る部分を超える部分を取り消す。
(2)Y社は、Xに対し、33万4827円+遅延損害金を支払え。
(3)上記(1)の取消部分に係るXの請求を棄却する。
(4)Y社のその余の本件控訴を棄却する。

 本件附帯控訴について
(1)Y社は、Xに対し、6万5308円+遅延損害金を支払え。
(2)本件附帯控訴に基づくその余の当審拡張請求を棄却する。
(3)Xのその余の本件附帯控訴を棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、当審において、一定程度の年金が受給できる蓋然性が十分あるから、民事訴訟法248条を適用するなどして蓋然性が認められる範囲で損害を算定すべきである旨主張する。
しかし、年金受給年数や支給率等が将来変動する可能性があるし、Xが年金受給年齢に達するか、達したとして何年間受給できるかも不明であるし、本件の事案について民事訴訟法248条を適用するのが相当であるともいえない。Xの主張は、採用することができない。

2 Xは、当審において、不満を抱えながら明示的に抗議できなかったことは精神的苦痛の根拠となるのであって、これを否定することはできないから、慰謝料請求は認められるべきであるとして縷々主張する。
しかし、Xが国民健康保険料や国民年金保険料を支払ったことについては、財産的損害が填補されれば特段の事情がない限り慰謝料の支払いまで命じる理由はないところ、Xが縷々主張する事情は、いずれも慰謝料の支払を命じるに足りる特段の事情に該当するということはできない。Xの主張は、採用することができない。

3 ①Y社の健康保険の届出・納付義務違反によりXが被った損害は124万4822円、②Y社の厚生年金保険の届出・納付義務違反によりXが被った損害は91万5650円と認められる。
そして、前記のとおり、Xは、Y社との労働契約締結当初から健康保険及び厚生年金への加入がないことを認識していたと認められる。
この点、Xは、疑問を抱いてはいたものの、的確な知識もなかったので、不法行為であると認識できていなかったから、加害者に対する損害賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度に損害及び加害者を知っていたとはいえない旨主張する。
しかし、Y社がXに関し健康保険及び厚生年金保険の届出・納付義務を負うか否かについては、公的機関に問い合わせるなどして確認することは容易であることからすると、Xの主張は、採用することができない

本件におけるメインの争点である雇止めの適法性については、一審の違法無効という判断が維持されています。

それにしても22年間、更新を繰り返すというのはすごいですね。もはや完全に「形だけ」有期雇用の状態だったと考えるのが自然です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約74 雇止めが有効と判断された理由とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、雇止めの主たる理由または動機は勤務成績、勤務方法、それらの改善可能性にあったとし、雇止めを有効とした事例を見てみましょう。

札幌交通事件(札幌地裁平成29年3月28日・労経速2315号7頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、Y社がした後記の本件雇止め等が無効及び違法であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、また、不法行為に基づき、平成27年10月1日から同28年1月20日までの賃金相当損害金67万0399円+遅延損害金の支払いを求め、同28年1月21日から本判決確定の日まで毎月27日限り賃金相当損害金18万3915円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xの勤務方法は、Y社の一般的な又は勤務成績の良い乗務員とは異なり、甲駅のタクシー乗り場に駐車して、客を待ち、客を乗せて目的地まで運んだ後、客を探しながらタクシーを運転するということ(流し)をせずに、客を乗せないまま、同駅に戻り、タクシー乗り場に駐車して、客を待つ、そして、Y社からの無線による配車指示については、キャンセルボタンを押すことで応じない、というものであった。
無線による配車指示については、例えば、平成27年4月1日から同月30日までは、閉局ボタンを9回押し、休憩ボタンを111回押し、合計120回、配車指示が入らない状態を作り出した上、126回の配車指示に対し、了解ボタンを押して配車を受けたのはわずか5回にとどまり、キャンセルボタンを押して配車指示拒絶をしたのは121回にものぼっていた。
これらのような勤務方法の結果、平成27年7月27日から同年8月26日までの期間については、Xの走行距離及び売上は、Y社が定めた目標の走行距離及び売上に届いたことがなかっただけでなく、百合が原営業所の乗務員の平均の走行距離及び売上にも届いたことがなく、特に、Xの売上は、百合が原営業所の乗務員の平均の売上の半分に満たないことが多かった

2 ・・・以上の事情によれば、Xにおいて、平成27年9月30日の期間満了時に、本件労働契約3が更新されると期待することには、その程度は強くないものの、合理的な理由があるというべきであり、本件労働契約3は、労働契約法19条2号に該当するものである。

3 ・・・以上のような、Xの勤務成績が極めて悪かったこと、Xの勤務方法が一般的な又は勤務成績の良いY社乗務員と異なっていたこと、Xの勤務成績及び勤務方法について改善可能性がなかったこと、Xは雇用期間を6か月とする有期労働契約が2回更新されたにとどまっていたこと、平成26年6月頃又は同年7月頃のY社から日本交通労働組合に対する説明などによれば、X以外で更新を拒絶された嘱託社員として証拠上認められる者が1名であることといった事情、Xの主張及び本件全証拠に照らしても、本件雇止めには、客観的合理性も社会通念上の相当性も認められるというほかない。

2号事案で、これだけの事情がそろえば、雇止めは有効と判断されます。

多くの場合、ここまでの事情がそろう前にしびれを切らして解雇してしまうのです。

期間途中の解雇は期間満了による雇止めよりも要件が厳しいので判断を誤らないように気をつけましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約73 不十分な調査等によるいじめ認定に基づく雇止めが無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、他の従業員らをいじめたことに基づく雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

大同工業事件(名古屋高裁平成29年2月16日・労判ジャーナル63号45頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で、期間の定めのある雇用契約を締結して繰り返し更新してきた元従業員Aが、Y社の雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、無効であるとして、Y社に対し、労働契約に基づく同契約上の権利を有する地位の確認並びにY社による雇止め後の平成26年4月以降の賃金等の支払をも遠めるとともに、Y社の従業員であったCが、Xを根拠なく罵倒した上、自己の信仰する宗教をXにも信仰するよう強要したことによりXが精神的苦痛を被ったとして、Y社及びCに対して、Cについては不法行為(民法709条、710条)、Y社については使用者責任(民法715条)に基づいて、慰謝料200万円等の支払を求めた事案である。

原判決は、XのY社に対する賃金等の請求を一部却下一部棄却し、損害賠償請求を棄却したため、Xが控訴した。

【裁判所の判断】

雇止め無効
慰謝料として150万円を認めた。

【判例のポイント】

1 Y社は、十分な調査もせず、Xの弁明を真摯に聞いてそれを検討することもなく、Xが他の従業員をいじめて辞めさせたという誤った事実を主たる理由として本件雇止めを行ったものであって、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから無効であるといわざるを得ず、Y社は、平成26年2月初旬には早々と、ハローワークに対しXに代わるパート従業員の求人申込を行い、同月27日には、同パート従業員の採用を正式に決め、同月28日には、Xに対し、上記のとおり客観的に合理的理由を欠く理由に基づく本件雇止めを通告し、Xによる労務の受領を将来にわたり予め拒否したものといえるから、Xは、Y社の責めに帰すべき事由によって労務の提供ができなかったものと認められること等から、Xは、平成26年4月1日以降もY社に対する労働契約上の権利を有する地位にあり、かつ、同日以降のY社に対する賃金請求が認められる。

2 Y社の工場長たるCは、十分な調査もせず、Xに弁明の機会を与えないまま、複数の従業員をいじめて辞めさせたものと一方的に決めつけ、大声をあげるなどして、強い調子でXに反省を命じ、かつ、事実無根の事柄を記載したC作成書面及びXが恰も不道徳極まりない人物であることを前提とするかのようなC交付書面を手渡してこれらをXに閲読させるなどしたことによって、Xに対し休職を伴う療養を要する適応障害の傷害を負わせ、精神的苦痛を与えたものであるから、Xに対し民法709条、710条の不法行為責任を負い、Cの上記不法行為は、その使用者であるY社の業務の執行につき行われたことは明らかであるから、民法715条の使用者責任を負い、Xの精神的苦痛に対する慰謝料額としては、150万円が相当である。

上記判例のポイント1は注意しましょう。

いじめやパワハラ、横領事案等で加害者とされる者の弁明を十分に聞かず、また、冷静な調査をすることなく、最初から決めつけて対応にあたることは避けなければなりません。

刑事事件の冤罪の多くは「決めつけ」から生まれていることを忘れてはいけません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約72 雇止め有効に伴う社宅の賃料相当損害金請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、雇止め無効地位確認と社宅不法占拠に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

エリクソン・ジャパン事件(東京地裁平成28年12月22日・労判ジャーナル61号14頁)

【事案の概要】

本件は、本訴において、Y社との間で期間の定めのある雇用契約を締結していた元従業員Xが、Y社による雇止めが無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、雇用契約に基づく賃金の支払及び賞与等の支払を求め、反訴において、Y社が、Xに対し、X・Y社間の雇用契約と同時になされた社宅の貸与契約が終了したにもかかわらず、XがX・Y社間の一部和解によるまで同社宅を占有権原のないまま不法に占拠したとして、上記社宅の貸与契約の終了に基づき、損害賠償(872万5000円)の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

雇止めは有効

XはY社に対し872万5000円を支払え

【判例のポイント】

1 XがY社において担当する職務が永続性・継続性を有する基幹業務といえないことを前提に、X・Y社間の有期雇用契約が1年間の期間を定めてわずか1回しか更新されていないことに鑑みれば、同契約が、期間の定めのない契約と実質的に同視できるものになったとは到底いい難く、本件雇用契約が労働契約法19条1号に該当するとは認められない
また、その職務自体が前記のとおり永続性・継続性を有する基幹業務とはいえないこと、適正な手順を踏んでXに対して本件雇用契約が再更新されない旨が伝えられたこと等からすると、本件雇用契約が再更新されるものとXが期待することについて合理的な理由があるとも認め難く、同条2号に該当するとも認められないから、本件雇止めは有効であって、本件雇用契約は平成25年2月28日の経過をもって期間満了によって終了したものと認められる。

2 本件雇用契約が平成25年2月28日の経過をもって期間満了によって終了したことに伴って、本件社宅契約も同日の経過をもって終了したものと認められ、Xは、Y社に対し、平成25年3月1日以降、本件社宅契約の終了に基づき、本件社宅を明け渡す義務を負っていたものであるが、・・・Xは同義務に反して、これを何らの権原なく占有し続けたものといえ、そして、その間の、Y社の賃料及び更新料相当損害金は、合計872万5000円であると認められる。

雇止めが有効と判断されたため、上記判例のポイント2の判断となっています。

えらい金額になっていますね・・・。

このようなリスクがあることから、念のため社宅から退去しておくことも検討すべきかと思います。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約71 貸与物の私的利用を理由とする雇止めの有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も一週間お疲れ様でした。

来週一週間は出張のため、ブログはお休みいたします。

今日は、契約更新への期待と貸与物の私的利用による雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

大阪ガス・カスタマーリレーションズ事件(大阪地裁平成28年12月22日・労判ジャーナル61号11頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で、有期雇用契約を締結し、その後に更新を繰り返していた元従業員Xが、契約の更新がされなかったことについて、本件不更新は期間の定めがない労働契約における解雇と同視しうるものであるうえ、Xは契約の更新がされることに合理的な期待を有していたところ、本件不更新は合理的理由を欠き、社会通念上相当なものとは認められないとして、労働契約法19条に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認とそれを前提とした賃金の支払い等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件では、XとY社の間では、契約更新の手続きが形式的なものであるとか、形骸化していたとまで認めることはできないから、有期雇用契約を終了させることが、期間の定めのない雇用契約を締結する労働者に対する解雇と同視できるとまでいうことはできず、労働契約法19条1号に該当するとは認められないが、他方において、雇用契約書に契約更新がありうる旨が記載され、すでに3度の更新がされていること、D事務所においては、過去に更新を希望しながら更新がされなかった者はいないこと等の事情を総合すれば、Xが契約期間の満了時に有期雇用契約が更新されることには、合理的な理由があると認められるから、労働契約法19条2号には該当する。

2 Xは、貸与バイクを私的に利用し、その頻度も少ないとはいえないうえ、その際には私的利用を含めてY社から貸与を受けた給油カードで給油をすることがあったものであり、さらには、私的利用が発覚しないようにするため、ドライブレコーダーからSDカードを抜き、隠蔽を図っていたほか、長期間にわたって走行カードに事実と異なる記載をしていたものであり、加えて、少なくとも1年以上の長期にわたって、勤務時間中にA診療所で業務を行っていたものであり、これらXの行為は、その内容や程度に照らせば軽微なものとはいえず、Y社との信頼関係を著しく損なうものといわざるを得ないこと等から、Y社が掲げる雇止め事由のうち、以上の各点のみをもってしても、Y社が本件雇用契約を締結しないとの判断に至ることは不合理とはいえず、本件雇止めが合理的理由を欠くとか、社会通念上の相当性を欠くと評価することはできない

有期雇用契約における雇止めに関する労働契約法19条については、まず1号・2号該当性が問題となります。

各号の判断のしかたについてはこれまでの裁判例を参考にして、トラブルを未然に回避できるように準備をすべきです。

1号、2号のいずれかに該当する場合には、解雇に関する労働契約法16条と同様に合理的理由と相当性の判断をすることになります。

1号と2号で判断の厳格さが異なるという見解もある(2号のほうが緩やか)ことに留意しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約70 有期労働契約の無期転換移行に関する労働者の期待保護の要否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、有期労働契約の無期契約移行の可否に関する最高裁判決を見てみましょう。

福原学園事件(最高裁平成28年12月1日・ジュリ1502号4頁)

【事案の概要】

本件はY社との間で期間の定めのある労働契約を締結し、Y社の運営する短期大学の教員として勤務していたXが、Y社による雇止めは許されないものであると主張して、Y社を相手に、労働契約上の地位の確認及び雇止め後の賃金の支払を求める事案である。

原審(福岡高裁平成26年12月12日)は、上記の事実関係等の下で、本件雇止めの前に行われた2度の雇止めの効力をいずれも否定して本件労働契約の1年ごとの更新を認めた上で、要旨次のとおり判断し、本件労働契約が平成26年4月1日から期間の定めのない労働契約に移行したとして、Xの請求をいずれも認容すべきものとした。

採用当初の3年の契約期間に対するXの認識や契約職員の更新の実態等に照らせば,上記3年は試用期間であり、特段の事情のない限り、無期労働契約に移行するとの期待に客観的な合理性があるものというべきである。Y社は、本件雇止めの効力を争い、その意思表示後も本件訴訟を追行して遅滞なく異議を述べたといえる以上、本件雇止めに対する反対の意思表示をして無期労働契約への移行を希望するとの申込みをしたものと認めるのが相当である。そして、Y社においてこれまでの2度にわたる雇止めがいずれも客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない結果更新され、その後無期労働契約への移行を拒むに足りる相当な事情が認められない以上、Y社は上記申込みを拒むことはできないというべきである。したがって、本件労働契約は無期労働契約に移行したものと認めるのが相当である。

【裁判所の判断】

原判決中、Xの労働契約上の地位の確認請求及び平成26年4月1日以降の賃金の支払請求を認容した部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消す。

前項の部分に関するXの請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 本件労働契約は、期間1年の有期労働契約として締結されたものであるところ、その内容となる本件規程には、契約期間の更新限度が3年であり、その満了時に労働契約を期間の定めのないものとすることができるのは、これを希望する契約職員の勤務成績を考慮してY社が必要であると認めた場合である旨が明確に定められていたのであり、Xもこのことを十分に認識した上で本件労働契約を締結したものとみることができる。
上記のような本件労働契約の定めに加え、Xが大学の教員としてY社に雇用された者であり、大学の教員の雇用については一般に流動性のあることが想定されていることや、Y社の運営する三つの大学において、3年の更新限度期間の満了後に労働契約が期間の定めのないものとならなかった契約職員も複数に上っていたことに照らせば、本件労働契約が期間の定めのないものとなるか否かは、Xの勤務成績を考慮して行うY社の判断に委ねられているものというべきであり、本件労働契約が3年の更新限度期間の満了時に当然に無期労働契約となることを内容とするものであったと解することはできない
そして,前記の事実関係に照らせば、Y社が本件労働契約を期間の定めのないものとする必要性を認めていなかったことは明らかである。
また、有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換について定める労働契約法18条の要件をXが満たしていないことも明らかであり、他に、本件事実関係の下において、本件労働契約が期間の定めのないものとなったと解すべき事情を見いだすことはできない。
以上によれば、本件労働契約は、平成26年4月1日から期間の定めのないものとなったとはいえず、同年3月31日をもって終了したというべきである。

労働事件特有な労働者保護の考え方を知らない人がこの最高裁判決を読めば、「そりゃそうでしょ。」「そう考える以外に考えようがないんじゃないの。」と思うのではないでしょうか。

無期労働契約への転換に対する労働者の期待が法的保護する値するようなものかどうかがポイントになってきます。

大切なことは、契約内容を明確にすること、更新時の手続きをしっかり行うことなど、プロセスを軽視しないということです。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約69(学校法人目白学園事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、有期雇用の大学教員に対する雇止めが有効と判断された裁判例を見てみましょう。

学校法人目白学園事件(東京地裁平成28年6月17日・労判ジャーナル55号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのある雇用契約を締結していたXが、Y社により期間満了後の雇用契約の締結を拒絶されたことに関して、Y社に対し、主位的に、期間満了前に期間の定めのない雇用契約が黙示的に成立しており、上記の契約締結の拒絶は不当解雇に当たると主張し、また、予備的に、期間満了後の契約締結の拒絶は許されないと主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、Y社の責に期すべき事由によりXの労務遂行が不能になったと主張して(民法536条2項)、雇用契約に基づいて、賃金等の支払を求め、さらに、違法に解雇ないし契約締結の拒絶をされたと主張して、不法行為に基づいて、慰謝料等の損害金等の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 XとY社との間の平成21年度雇用契約は3年を雇用期間とする有期雇用契約が1回更新され、雇用期間を3年とする平成24年度雇用契約が締結されたにとどまっているから、その更新が多数回にわたって反復継続されたものと評価することはできず、また、Y社においては、平成24年度雇用契約を締結するに当たり、専任教員任用申請書について理事長の承認を得、Xを候補者とするY社教員予備選考報告書及びY社教員先行依頼書を添えてY社学長に発議し、Xを候補者とするY社教員資格審査答申書を同学長に提出し、最終的にXの任用について理事長の決裁を受けており、Xとの面接も行っていることが認められるから、その更新手続が形骸化し、曖昧なものであったということはできないこと等から、Xが無期の専任教員と職務内容が同様であったことを考慮しても、平成24年度雇用契約の期間満了後の契約締結の拒絶が無期雇用契約の解雇と社会通念上同視できると認めることはできない。

2 Y社の面接官は、平成21年度雇用契約の締結に先立ち、Xに対し、雇用期間が3年である旨を複数回説明し、その後、Y社は、Xとの間で、「雇用期間 平成21年4月1日から平成24年3月31日まで」、「契約更新の有無 甲において更新の可否を検討のうえ、本契約満了時に甲乙合意があった場合は、更に3年間の更新を行う」と明記された有期雇用教職員雇用契約書を取り交わしており、また、Y社において、期間の定めのある雇用契約により採用された専任教員につき、平成17年度以降、3年の雇用契約が2回以上更新された実例が存在しないことにも照らすと、Xが平成24年度雇用契約の期間満了時において有期雇用契約の更新を期待したとしても、その期待に合理的理由があると認めることはできないこと等から、Xの請求のうち予備的主張を前提とする地位確認請求、賃金請求及び損害賠償請求も、判断するまでもなく理由がない。

形式だけでなく、実質的にもしっかりと手続きを行うことの重要さがよくわかります。

どんな場合でも形式だけ整えるのでは不十分です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約68(阪急バス(正社員登用試験)事件)

おはようございます。

今日は、正社員登用試験の受験機会を与えなかったことが債務不履行等にあたらないとされた裁判例を見てみましょう。

阪急バス(正社員登用試験)事件(大阪地裁平成28年2月25日・労経速2282号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社がXら(Y社の契約社員であった者)に対して、平成25年1月中旬に実施された正社員登用試験を受験する機会を与えなかったことが、Y社の債務不履行又は不法行為に該当するとして、XらがY社に対し、慰謝料並びに弁護士費用+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社における正社員登用試験制度導入の経緯、実施回数等に鑑みれば、同試験制度は、主として正社員の欠員補充を目的とするものであると認められる。このような同制度の趣旨目的に照らすと、Y社は、同試験の受験資格等について、正社員の欠員状況や必要人数、更にはY社の経営状況や事業計画等を総合的に勘案した上で決定し、実施していると認められる。

2 本件条文には、契約社員としての雇用期間が満4年に達した者に対して「直近の」正社員登用試験の受験資格を与える旨の文言がないこと、上記認定した正社員登用試験制度の趣旨及び受験資格者の推移、茨木分会会長が作成した「正社員登用試験について」と題する書面にも本件条文と同一の内容しか記載されていないこと、そもそも上記認定説示のとおり、正社員登用試験の導入された趣旨目的が正社員の補充という点にあったことから、同試験を受験するために必要となる勤続年数は、正社員の定員の充足状況に応じて決定されるため、勤続年数4年になれば必ず正社員登用試験を受験できるとは限らなかったこと、これまでのY社における正社員登用試験の受験資格や1年間の受験回数の推移等の事情を総合的に勘案すると、Xらが主張するような点がXらとY社との間の契約社員に係る雇用契約の内容となっていたといえないと認めるのが相当である。

3 Xらは、契約社員としての雇入れの際、Y社はXらに対し、「正社員登用制度はあるが、勤務成績がよくても、会社の都合次第で、5年経っても、10年経っても正社員になれない場合もある」というように説明すべきであったなどと主張するが、上記認定した正社員登用試験導入の経緯、同試験の実施状況等に鑑みれば、Y社において、Xらが主張するような法的義務(説明義務)があるとは解し難く、同主張はそれ自体失当というほかない。

制度目的やこれまでの運用からすると、正社員登用試験の受験資格については、会社に裁量が与えられており、契約社員全員に当然に認められているものではないという認定です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

有期労働契約67(ラボ国際交流センター事件)

おはようございます。

今日は、Y社に労働契約法の潜脱の意図を有していたとは認められず、雇止めが有効とされた裁判例を見てみましょう。

ラボ国際交流センター事件(東京地裁平成28年2月19日・労経速2278号18頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の有期雇用職員であったXが、平成26年3月31日をもってY社に雇止めされたところ、Xは、Y社に対し、同雇止めの無効を主張して、地位確認、賃金請求及び損害賠償請求をする事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 契約更新手続が極めて形式的なものであったとは認められず、かえって、毎期毎にXY社間で新たな労働条件での契約更新がなされてきたものと認められることから、期間の定めが形骸化していたとは認められない。また、Xは、「なぜこれだけやっているのにあなたは社員ではないの?」と質問されるとのことであるから、「社会通念上」Y社の正社員と同視できる状況にあったとも認められない。よって、XY社間の雇用契約が、同条1号における期間の定めのない労働契約と社会通念上同視できるとは認められない。
もっとも、本件は「当該有期雇用契約が更新されることについて合理的な理由がある」(労働契約法19条2号)ものと認められる

2 Xは、担当業務の遂行能力には秀でたものがあったと思われるが、Y社の他の職員との協調性には問題が認められる。また、仕事を1人で抱え込む状態が長期間継続すると、何らかの問題がXの担当業務に発生したときに、Y社全体として責任をもって適切に対処することが困難となる弊害がある。そして、Y社の事業運営上の問題点に鑑みれば、Y社の事業運営上もXによる専任体制を維持することが困難となっていたことは明らかであり、Y社において、XY社間の雇用契約の見直しを迫られたことにはやむを得ない事情があったというべきである

3 なお、本件は労働契約法19条2号の事案であり、同条1号における「期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できる」ものでもないのであるから、解雇(同法16条)における判断と同程度の厳格な判断を求められるわけではない

4 なお、Xは、本件雇止めは、労働契約法18条・19条を潜脱する意図で実施されたと主張し、これに沿う証拠として、C氏のメールを提出する。同メールには、「新労働契約法の施行が今年4月1日。1年間雇用し、1回更新すると、労働者に、無期雇用の期待が生まれるため、本来は、来年3月で雇止めをするのが、組織運営上は望ましい。」、「こうした確約をとらずに、2015年3月末を迎え、その時になって、私には無期雇用の権利があると主張されるとかなりやっかいなことになるので」との記載がある。
・・・C氏のメールは、C氏の個人的意見の域を超えず、Y社組織全体としての意見とは認められない。
・・・そうすると、Y社が労働契約法の潜脱の意図を有していたとは認められず、Xの当該主張は採用できない。

2号事案です。

多くの場合、この2号事案ですが、上記判例のポイント3は、使用者側・労働者側ともに理解した上で主張立証をすることが求められます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。