Category Archives: 有期労働契約

有期労働契約126 69歳時点での雇止めの適法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、69歳時点での雇止めの適法性に関する裁判例を見ていきましょう。

エイチ・エス債権回収事件(東京地裁令和3年2月18日・労判1303号86頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で、有期労働契約を締結して内部監査業務に従事していたXが、同契約は労働契約法19条2号に該当し、Y社がXの更新申込みを拒絶することは客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められず、これを承諾したものとみなされるとして、労働契約に基づき、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②令和元年4月分の賃金32万5000円並びに令和元年5月分以降本判決確定の日までの賃金月額32万5000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、X自身として、冷却期間を置いたうえで回収部と対話の機会を見出し定期報告までに解決する必要があると考えていたことが推認され、さらに、Y社代表者から、C取締役経由で回収部と接触するよう指示されていたことを十分認識していたことが推認されるから、仮にXが、Y社代表者が社内で解決すると発言したと認識し、C取締役から回収部の監査について指導を受けたと認識していなかったとしても、Xは、回収部に対する監査実施の必要性とそのための工夫等の必要性を十分に認識していたというべきである。

2 Xは、一定の時期以降、回収部の監査について、なんらの具体的な対応策も取らないままに延期を繰り返していたといわざるを得ない。Xは、Xによる回収部の監査の延期自体がY社代表者に対する問題提起であり、Y社代表者が社内で解決すると言っていたことが実現されるのを待っていたという趣旨のことを述べるが、仮にY社代表者が社内で解決するという発言をしていたとしても、前述のとおりそもそもXの認識によってもY社代表者はXに対しC取締役を介して回収部とやり取りをするよう指示していたのであるから、Xが一方的にそれを実行せずに黙示的にY社代表者へ直接の対応を求めていたというのは、Y社代表者からすればおよそ理解不能なものである。

3 本件においては、Y社代表者やC取締役から事細かな業務改善指導がなかったとしても、前記の注意指導がなされれば、社会通念上相当な注意指導がなされたものといえると解するのが相当である。

第2定年が設定していない会社の場合、どのタイミングで雇止めにするかは悩ましいところです。

年齢にかかわらず、雇止めには合理的理由が求められますので、そう簡単に雇止めをすることはできません。ご注意を。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有期雇用契約に関する労務管理を行うことが肝要です。

有期労働契約125 女性従業員に不適切な言動を繰り返すこと等を理由とする雇止め(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、女性従業員に不適切な言動を繰り返すこと等を理由とする雇止めに関する裁判例を見ていきましょう。

ゲオストア事件(東京地裁令和5年6月14日・労判ジャーナル143号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で有期雇用契約を締結していたXが、Y社から上記有期雇用契約の更新の申込の拒絶(雇止め)をされたことから、Y社に対し、Xにおいて上記有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があり、当該雇止めは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとはいえず、労働契約法19条により、同一の労働条件で有期労働契約が更新されたものとみなされることを主張して、労働契約上の権利を有することの確認及び未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、令和2年11月9日、f氏がトイレ掃除をしているトイレのドアをノックし、トイレから出てきたf氏を追いかけて話しかけた上、わざわざf氏と話をするために再度来店し、f氏が会社のアシスタント社員(店長を補佐する役職)のh氏に立会を求めるなど、Xと話すことを嫌がっていることは明らかであったにもかかわらず、本店店舗から出ようとしたf氏にさらに話しかけており、上記行為は、従前からXの言動に不快感を抱いていたf氏に対し、恐怖や不快感を強く感じさせ、多大な精神的苦痛を与えるものであったといえ、その他にも、e氏やj氏などの女性従業員に対する不快感を与える行動が度々あったことや、Xとf氏及びe氏のシフトが重ならないように配慮していたにもかかわらず、Xが勤務終了後に、f氏が勤務している際に再度来店したり、Xが勤務日でない(シフトが入っていない)日にわざわざ本件店舗を訪れてf氏などに話かけていることなども併せ考慮すると、本件雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないとはいえない。

訴訟において、上記事実を立証できるように日頃から準備をしておく必要があります。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有期雇用契約に関する労務管理を行うことが肝要です。

有期労働契約124 契約更新の合理的期待に基づく雇止め無効地位確認等請求が棄却された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、契約更新の合理的期待に基づく雇止め無効地位確認等請求が棄却された事案を見ていきましょう。

内藤証券事件(大阪地裁令和5年9月22日・労判ジャーナル142号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのある労働契約を締結していたXが、Y社から雇止めを受けたことにつき、契約更新についての合理的期待があり、雇止めは客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められないから労働契約法19条2号により契約更新された、又は雇止めの意思表示が労働組合法7条に違反し無効であるなどと主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づき、民法536条2項により雇止め後の未払賃金を請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xの業務は、臨時的・一時的なものとはいえないものの、本採用に至ってからの契約更新の回数は1回のみであり、雇用の通算期間も2年3か月にすぎず、そして、契約社員契約書には、「契約満了後は、乙(X)の能力、業務成績、勤務態度等により、契約更新の有無を判断する」旨が明記されており、Xにおいても、欠勤の頻度を含む勤務態度等により、契約更新がなされない可能性があることを認識し得たものといえ、そして、Xの勤務期間2年3か月における、取得可能な有給休暇、リフレッシュ休暇を全て取得した上での欠勤日数は50日に及んでいるところ、人事考課の内容や、Xとしても欠勤が多いことを自覚し、契約更新に支障が出ることを懸念していたことが認められるから、Xには契約更新の合理的期待があったとは認められない。

2年3か月の間に、有給休暇等とは別に欠勤日数が50日に及んでいることを理由とした雇止めが認められた事案です。

欠勤理由等によっては、雇止めの合理的理由が認められないのではないかと考え、雇止めを躊躇する場面もあろうかと思いますので、是非、参考にしてください。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有期雇用契約に関する労務管理を行うことが肝要です。

有期労働契約123 介護施設での虐待通報後の雇止めの適法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、介護施設での虐待通報後の雇止めの適法性に関する裁判例を見ていきましょう。

グッドパートナーズ事件(東京高裁令和5年2月2日・労判1293号59頁)

【事案の概要】

Xと人材派遣等を業とするY社は、平成31年2月3日、Xの就労場所を第三者が運営する介護付有料老人ホーム、雇用期間を同日から同年3月31日までとする有期労働契約を締結した。
本件は、Xが、Y社から同日をもって上記有期労働契約につき雇止めをされたところ、本件雇止めは違法な雇止めで無効である旨主張して、Y社に対し、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②上記労働契約に基づき、同年4月分から令和3年12月分までの未払賃金合計1108万8000円+遅延損害金の支払、③令和4年1月分以降の未払賃金として月額33万6000円の支払並びに④不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料50万円+遅延損害金の支払を各求める事案である。

原審は、上記③のうち、判決確定後の賃金の支払を求める部分については確認の利益がないとして訴えを却下した上で、本件雇止めは無効であるが、XとY社の雇用契約は令和元年5月31日を終期とする有期労働契約であるから同日をもって終了し、本件雇止めによるXの精神的苦痛は本件雇止めの無効及びその後の未払賃金の請求が認められることにより慰謝されたなどとして、上記②の請求のうち平成31年4月分及び令和元年5月分の給与から、中間収入を控除した40万5570円+遅延損害金の支払を求める限度で許容し、その余の請求を棄却した。

【裁判所の判断】

原判決主文第2・3項を次のとおり変更する。
(1)Y社は、Xに対し、56万2244円+遅延損害金を支払え。
(2)Xのその余の請求を放棄する。

【判例のポイント】

1 平成31年4月分について、Xが別会社で稼働したのは同月のうち16日から30日までであるから、同月1日から同月15日までの間については中間収入の控除は認められないが、同月16日から30日までについては中間収入の控除が認められる。
なお、Xが原審において主張する中間収入控除後の未払給与額の計算方法では平均賃金の4割を超える部分を控除することにもなり得るものであるが、他方においてXは中間収入を控除する前の未払賃金額を全額請求していることを踏まえると、労働基準法12条1項及び最高裁昭和37年7月20日判決に忠実な形で上記のような計算方法を採ることを否定する趣旨ではないと解される。

中間収入控除後の賃金額について、高裁は、原審判断を修正しています。

最判昭和37年7月20日の判旨「連合国軍関係事務系統使用人給与規程並びに同技能工系統使用人給与規程の各休業手当に関する各条は、休業期間中における駐留軍労務者の最低限度の生活を保障するために特に設けられた規定であつて、軍の都合による休業が民法第五三六条第二項にいう「債務者ノ責ニ帰スヘキ事由」に基づく履行不能に該当し、労務者が政府に全額賃金の支払を請求し得る場合においても、その請求権を平均賃金の六割に減縮せんとする趣旨に出たものではないと解するのを相当する。」

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有期雇用契約に関する労務管理を行うことが肝要です。

有期労働契約122 2回更新された有期雇用契約につき、さらなる更新への合理的期待がないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、2回更新された有期雇用契約につき、さらなる更新への合理的期待がないとされた事案を見ていきましょう。

ISS事件(東京地裁令和5年1月16日・労経速2522号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結したXが、Y社に対し、本件雇用契約は無期雇用契約であり、仮に有期雇用契約であり契約期間が満了しているとしても労働契約法19条によって更新されている旨主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件雇用契約に基づき、令和2年10月から本判決確定の日まで毎月末日限り22万5000円の賃金の支払を求め、また、Y社が本件雇用契約の締結に当たって無期雇用契約である旨の労働条件を明示せず、Xを不当に解雇した旨主張して、不法行為に基づき、損害金150万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、11万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件雇用契約は2回更新され、その契約期間は通算して約8ヵ月となっているところ、Xは、Y社の求人情報に応募した当時29歳であって、ITエンジニア未経験者についての求人条件を満たしておらず、Y社の基幹業務を担当するITエンジニア職に就ける見込みが高くはなかったこと、Y社は、いずれの更新についても契約期間を記載した各雇用契約書を作成し、Xとの間で対面又はオンラインでの面談を行った上、2回目の更新に際して作成した雇用契約書にはXの署名押印を得るなどして、明示的に更新手続を行っていたこと、Xは、2回目の更新に際して、Y社代表者Aから、Xが従事していたライセンス管理業務に関する取引が終了する見込みである旨、営業活動を行って新しい仕事先を見つけられるよう最善を尽くすものの、最悪の場合雇用を継続することができない旨の説明を受けていたことに照らすと、Xにとって、本件雇用契約が2回目に更新された令和2年8月7日の時点で、本件雇用契約が更新されるものと期待することについての合理的な理由があったとはいえない。

更新回数が少なく、更新手続をしっかり行っていたこと等が考慮された結果となっています。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有期雇用契約に関する労務管理を行うことが肝要です。

有期労働契約121 雇用調整助成金受給中のコロナ禍等を理由とした雇止めの適法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、雇用調整助成金受給中のコロナ禍等を理由とした雇止めの適法性について見ていきましょう。

コード事件(京都地裁令和4年9月21日・労判1289号38頁)

【事案の概要】

本件本訴事件は、Xが、Y社に対し、①Y社との間で期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結して就労していたXが、Y社による雇止めは無効であると主張して、労働契約上の地位の確認及び本件雇止め後の賃金の支払等を求めるとともに、②本件反訴は不当訴訟であるとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、その賠償金等の支払を求めた事案である。

本件反訴事件は、Y社が、Xに対し、①Y社の名誉や信用を毀損する内容の記者会見を行い、②京都府下の多数の労働組合をして、Y社の雇止めへの抗議や撤回を求める大量の書面を被告に送りつけさせて被告の業務を妨害し、③a労働組合総連合会の関係者に誤った事実を流布して、Y社の名誉や信用を毀損したなどと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、その賠償金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Xの本訴請求及びY社の反訴請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Y社において、本件労働契約を有期労働契約とした目的には、相応の合理性があり、しかも、上記のとおり、Xの担当業務は、代替可能なものであるということができる。そして、その後の更新についても飽くまで単年度毎の契約更新となる旨定められていたというのであり、X自身、令和元年8月の1回目の契約更新を経た後、令和2年3月にY社代表者らとの本件面談時に同年8月に必ずしも契約更新とならない旨示唆されたというのであるから、Xは、本件労働契約締結当時及びその後も、本件労働契約の雇用期間が1年であることを十分認識していたというべきである。
以上のほか、本件雇止めまでの間、僅か1回という更新回数や、試用期間を含めても、その雇用通算期間は合計2年3か月と比較的短期間にとどまっていること等を併せ考えると、Xが指摘する契約更新される年齢の上限の定めや、1回目の契約更新時の状況を十分考慮してみても、Xの雇用継続に対する合理的期待を認めるのは難しく、そうでないとしても、その程度は必ずしも高いものということはできない。

2 ①Y社においては赤字経営が続いていたところ、令和2年に入って新型コロナウィルス感染症が拡大していく中、その売上げは、同年3月は前年度比の約62.3%、同年4月は前年度比の約29.4%、同年5月は前年度比の約26.8%に落ち込み、緊急事態宣言解除後の同年6月でも前年度比の約48.8%にとどまっていたこと、②Y社は、同年4月20日頃から、一部の無期雇用従業員とXを含む全てのパート従業員を休業とし、また、勤続20年以上、勤続4年以上のパート従業員2名に対し、退職勧奨をして退職してもらうことにし、さらに、他に従業員に対しても同年夏季の賞与を支給しない旨決定していたこと(なお、Y社は、同年、加工高の107%に相当する額を人件費に充てていた。)、③加えて、本件労働契約の期間満了時である同年8月6日時点では、その2日前に、厚生労働省が、同年9月末までとされた雇用調整助成金の新型コロナウィルス感染症の影響に伴う特例措置を同年12月末までとする案を軸に延長する方向での検討に入った旨の報道がされてはいたものの、緊急雇用安定助成金を含む雇用調整助成金の拡充制度の延長の有無及びその内容や期間は依然として定まっていなかったこと、④製造部には、Xのほかに、もう1名のパート従業員である本件従業員が所属していたが、同従業員は、Xよりも前に採用され、当時既に2度の契約更新(雇用期間各1年)を経て、通算雇用期間も3年となっていたこと、⑤Y社は、契約期間満了の約1か月前には、理由を付して契約更新に応じられない旨通知し、その前後の団体交渉の席上においても、Y社の業績が芳しくないため原告を雇止めする旨説明していたことを指摘することができ、これらを総合考慮すると、本件雇止めが、客観的合理性・社会的相当性を欠いたものということはできない

3 Y社が名誉毀損行為として主張するXの本件記者会見上の発言そのものは、本件雇止めに関して、X・Y社間で紛争が生じ、そのための交渉を踏まえた、本件本訴におけるXの立場から見た意見表明にとどまるものであって、Y社側としても、これに対し、本件雇止めは正当なものであったと反論すれば足りる程度のものであったというべきである。
そして、新型コロナウィルス感染症拡大に関連する雇止めは社会的関心事であり、そのような社会的関心事に関して本件本訴を提起したことを述べ、これと併せてXの立場を説明するため、本件記者会見を開いたことについては、本件記者会見上の発言が人身攻撃に及ぶようなものではなかったなど自らの意見表明の域を逸脱したとはいうことができない本件においては、表現の自由の尊重が社会の根幹を構成することに照らし、違法な無形的利益の侵害行為であるということはできない。

リストラとしての雇止めの有効性がどのような要素を考慮して判断されているかについて、とても参考になります。

また、上記判例のポイント3のように、提訴前の記者会見は、反訴の形で損害賠償請求の対象となり得ますので、ご注意ください。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有期雇用契約に関する労務管理を行うことが肝要です。

有期労働契約120 有期雇用契約において、適正評価により契約が期間満了で終了することがある旨の明確な合意が成立しているとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、有期雇用契約において、適正評価により契約が期間満了で終了することがある旨の明確な合意が成立しているとされた事案を見ていきましょう。

明治安田生命保険事件(東京地裁令和5年2月8日・労経速2515号3頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対して、XとY社との間で締結されていた労働契約は、①主位的には無期労働契約であり、②予備的には有期労働契約であったとしても、Y社の行った雇止めは無効であると主張して、当該労働契約に基づき、次の各請求をする事案である。
(1)労働契約の権利を有する地位にあることの確認
(2)令和2年8月から本判決確定の日まで、毎月24日限り、賃金として月額25万円+遅延損害金

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 労働者の適性を把握するために有期労働契約を締結すること自体は許容されているところ、本件見習契約の期間においては、労働者の適性を評価することが予定されているとしても、さらには実態としてはほとんどの者がアドバイザーBに採用されるとしても、本件見習契約においてはその終期が明示的に定まっている以上は、これを試用期間と解することはできないというべきである(本件では期間の満了により本件見習契約が当然に終了する旨の明確な合意が成立しているというべきであって、最高裁平成2年6月5日判決の射程は及ばないと解すべきである。)。

2 本件労働契約は有期労働であるのに対し、MYライフプランアドバイザーとしての雇用契約は無期労働契約であり、全く別の契約であるというべきであるから、MYライフプランアドバイザーとして採用されるために労働契約を締結することは新たな契約の締結というべきであって、労働契約法19条2号にいう「更新」には該当しない。したがって、仮にXに採用基準を満たせばMYライフプランアドバイザーとして採用されることについて期待があったとしても、これは労働契約法19条2号にいう合理的な期待があったとはいえない

上記判例のポイント1はとても重要なので、しっかり押さえておきましょう。

この論点については、いつも神戸弘陵学園事件最高裁判決の射程が問題となります。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有期雇用契約に関する労務管理を行うことが肝要です。

有期労働契約119 雇止め後、使用者が動産の撤去等を行ったことが違法として、動産の引渡し、損害賠償請求が認容された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、雇止め後、使用者が動産の撤去等を行ったことが違法として、動産の引渡し、損害賠償請求が認容された事案を見ていきましょう。

学校法人乙ほか(損害賠償請求等)事件(大阪高裁令和5年1月26日・労経速2510号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との労働契約に基づきY社が運院するQ大学の専任講師として勤務していたXが、Y社から労働契約の期間満了による終了の通知を受け、その効力を争っていたところ、Y社らから、Xが占有使用していた研究室の占有を侵奪され、同研究室に置いていたX占有に係る動産も撤去されたとして、
(1)本件研究室を占有し上記動産を所持するY社に対し、①本件研究室の占有権に基づく占有回収として本件研究室の引渡し及び②原判決別紙動産目録記載の本件動産の占有権に基づく占有回収として本件動産の引渡しを求めるとともに、
(2)共同して上記占有侵奪行為をしたY社らに対し、上記占有侵奪行為が違法であるとして、Y2、Y3、Y4については同法709条、719条に基づき、Y2及びY3の使用者であるY社については民法715条1項に基づき、損害賠償として慰謝料100万円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

原審は、XのY社に対する(1)②本件動産の引渡請求を認容するとともに、(2)損害賠償請求を慰謝料5万円+遅延損害金の支払を求める限度で認容したが、その余の請求は棄却した。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、別紙物件目録記載の建物部分を引き渡せ。

2 Y社は、Xに対し、別紙動産目録記載の動産を引き渡せ。

3 Y社らは、Xに対し、連帯して20万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xが施錠された本件研究室内に相当量の動産を保管して同室を占有していることは容易に想定されていたのであるから、その占有が労働契約に伴い開始されたものであり、仮にその契約がXの主張にかかわらず期間満了により終了したというべきであったとしても、物の所持者が明確に拒否しているにもかかわらず、その占有を奪うことが違法となり得ることは見やすい道理であり(例えば窃盗罪の保護法益は占有である。)、Xが加入していた本件組合やX代理人弁護士らからも事前に同様の警告等を受けていたことを考えれば、Y2及びY3において、弁護士であるY4と相談の上適法であるとの見解が得られたというのみでは、過失がなかったということはできない

2 Y4が、法律専門家である弁護士としてY社による違法な自力救済の実行を容易にした点につき過失があったことは明らかというべきである。なお、Y4が、Y社において本件研究室使用の必要性が高い状況にあり、自力救済も許されるとの誤った判断に至ったものであるとしても、対立するX代理人弁護士らから既に自力救済の違法性を強く警告されていた状況に照らせば、少なくとも、法的手段として、いわゆる明渡断行の仮処分命令の申立て(民事保全法23条2項)が検討対象となるべきであったと考えられるが、Y4が、Y社に対して、そのような提案をしたことがないことはもとより、検討を行ったことを窺わせる事情すらない。
したがって、Y4が、弁護士として代理人の立場で関わったにとどまるとしても、Y4もまた、本件動産の撤去行為等を幇助したものとして、民法719条2項に基づき、共同不法行為者とみなされ、他の3名と連帯してXに対する損害賠償責任を負うというべきである。

冷静に考えればわかることかと思いますが、その場の雰囲気から突発的に不適切な判断をしてしまうことは否定できません。

しっかり法的手続きをとるということが大切です。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有期雇用契約に関する労務管理を行うことが肝要です。

有期労働契約118 無期転換直前の雇止めの適法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、無期転換直前の雇止めの適法性に関する裁判例を見ていきましょう。

日本通運(川崎・雇止め)事件(東京高裁令和4年9月14日・労判1281号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのある雇用契約(最初の雇用契約開始日から通算して5年を超えて更新することはない旨の条項が付されていた。)を締結し、4回目の契約更新を経て勤務していたXが、Y社に対し、Y社が当初の雇用契約から5年の期間満了に当たる平成30年6月30日付けでXを雇止めしたことについて、①上記条項は労働契約法18条の無期転換申込権を回避しようとするもので無効であり、Xには雇用継続の合理的期待があった、②同雇止めには客観的合理性、社会通念上の相当性が認められないなどと主張し、Y社による雇止めは許されないものであるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、同契約に基づく賃金請求権に基づき、上記雇止め後である同年8月25日から毎月25日限り月額賃金26万9497円+遅延損害金の支払を求める事案である。

原判決は、Xの請求をいずれも棄却したため、Xは、原判決の全部を不服として控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 労働契約法18条の規定は、有期労働契約が反復更新され、長期間にわたり雇用が継続する場合においては、雇止めの不安があることによって、年次有給休暇の取得など労働者の正当な権利行使が抑制される問題が生じることなどを踏まえ、有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、有期雇用労働者の申込みにより期間の定めのない労働契約に転換する仕組みを設けることによって、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し、労働者の雇用の安定を図ることを目的とするものと解される。他方で、同条の規定が導入された後も、5年を超える反復更新を行わない限度において有期労働契約により短期雇用の労働力を利用することは許容されていると解されるから、その限度内で有期労働契約を締結し、雇止めをしたことのみをもって、同条の趣旨に反する濫用的な有期労働契約の利用であるとか、同条を潜脱する行為であるなどと評価されるものではない
もっとも、5年を超える反復更新を行わない限度で有期労働契約を利用することが同条に反しないとしても、同法19条による雇止めの制限が排除されるわけではないから、有期労働契約の反復更新の過程で、同条各号の要件を満たす事情が存在し、かつ、最終の更新拒絶が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、同条により、労働者による契約更新の申込みに対し、使用者が従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で承諾したものとみなされ、その結果、労働契約が通算5年を超えて更新されることとなる場合には、有期雇用労働者は、同法18条の無期転換申込権を取得することとなると解される。

2 使用者が、一定期間が満了した後に契約を更新する意思がないことを明示・説明して労働契約の申込みの意思表示をし、労働者がその旨を十分に認識した上で承諾の意思表示をして、使用者と労働者とが更新期間の上限を明示した労働契約を締結することは、これを禁止する明文の規定がなく、同法19条2号の適用を回避・潜脱するものであって許容されないと解する根拠もないというべきである上、使用者と労働者とが更新期間の上限を明示した労働契約を締結したという事情は、上記にいう契約期間管理の状況、雇用継続の期待を持たせる使用者の言動の有無といった考慮事情と並んで、契約の更新への期待の合理的理由を否定する方向の事情として、当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められるか否かを判断する際の考慮要素となるというべきである。

この論点については、だいたい決着がついたと見ていいと思います。

一番最初の契約締結時に更新上限を設定することが大切です。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有期雇用契約に関する労務管理を行うことが肝要です。

有期労働契約117 合理的期待を初回の更新では認め無効としたが、以降の更新では認めなかった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、合理的期待を初回の更新では認め無効としたが、以降の更新では認めなかった事案を見ていきましょう。

グッド・パートナーズ事件(東京地裁令和4年6月22日・労経速2504号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で有期労働契約を締結していたXが、Y社から平成31年3月31日をもって有期労働契約につき雇止めをされたところ、本件雇止めは無効である旨主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、上記労働契約に基づき、同年4月分から令和3年12月分までの未払賃金合計1108万8000円+遅延損害金の支払並びに令和4年1月分以降の未払賃金として月額33万6000円の支払を求め、さらに、本件雇止めが不法行為に当たると主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料50万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、40万5570円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件メールは、本件契約の更新が確定したことを内容とするものであるから、これを受信したXにおいて、初回の契約満了時である同年3月31日の時点において、本件契約が更新されることについて強い期待を抱かせるものであったということができる。そうすると、Xには、同日時点において、本件契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる。

2 本件メールの内容は、2か月間と期間を明示して、本件契約の更新が確定したことを内容とするものであり、令和元年6月以降の更新について期待を生じさせるような内容ではなかったというべきである。
そして、本件メール以外に、Y社において同月以降の更新につき期待させるような言動があったと認めるに足る証拠はなく、本件契約を締結した当初において、長期にわたる更新が予定されていたことを窺わせる事情も認められない。加えて、本件雇止めが本件契約の初回の更新時にされたものであり、雇用継続に対する期待を生ぜしめるような反復更新もされていなかったことからすると、本件メールに記載のない二度目以降の契約更新について、Xが更新を期待することに合理的な理由があったと認めることはできない

3 Y社は、Xが平成31年4月の時点で再就職していたこと等をもって、Y社での就労意思を喪失していた旨主張する。
しかしながら、一般的に雇止めされた労働者が、当該雇止めの効力について争う場合において、生計維持のために新たな職を得ること自体はやむを得ない面があり、他社への就職をもって直ちに元の就労先における就労意思を喪失したと認めるのは相当でない

上記判例のポイント3はしっかり押さえておきましょう。

再就職による就労意思の喪失の論点はよく出てきますので、裁判所の考え方の傾向を知っておくことはとても大切です。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に有期雇用契約に関する労務管理を行うことが肝要です。