Category Archives: 守秘義務・内部告発

守秘義務・内部告発3(骨髄移植推進財団事件)

おはようございます。

さて、今日は、内部告発に関する裁判例を見てみましょう。

骨髄移植推進財団事件(東京地裁平成21年6月12日・労判991号64頁)

【事案の概要】

Y財団は、骨髄移植の仲介事業を行い、骨髄移植を推進するために設立許可を受けた財団である。

Xは、Y財団の総務部長の地位にあり、事務局長を補佐し事務局の運営を統括する立場にあった。

Xは、Y財団代表者である理事長に対し、A常務理事のパワハラ、セクハラとも言える言動により、体調を崩したり退職を考慮する職員も出てきており、事務局運営に障害が発生しないよう早急に改善措置を講ずることを要望するなどと記載された報告書を提出した。

その後、Y財団はXに対し、総務部長の職を解き、システム改善担当参事に異動を命じる(本件降格人事)旨の内示を行った。

この内示に納得ができなかったXは、理事長に再考を促し面談を求めるファックスを送信し、Y財団の常務理事らにも人事異動の凍結を求める要請をするなどし、Xの支持者である職員やボランティア団体の幹部らも、Y財団や厚労省幹部に人事異動の凍結を求める働きかけをした。また、新聞に「骨髄バンク”迷走”」、「骨髄バンクセクハラ 厚労省に調査要請へ」といった見出しの記事が掲載された。

その後、Y財団では、内部調査委員会及び外部調査委員会による調査を経て、セクハラ、パワハラに当たる事実があったとは認められないとの結果を発表した。

Y財団は、Xに対して諭旨解雇を通告し、Xが自主退職に応じなかったため、Xを解雇した。

解雇理由は、(1)報告書の報告内容に事実に反する虚偽の部分があると判断されたこと、および報告書が内部告発文書の枠を超えて、個人に対する誹謗中傷文書ともいえる内容となっていること、(2)報告書について十分な情報管理が行われず、結果的には新聞報道にも発展して、財団の社会的信用を著しく損なわせるととともに財団内部に混乱をもたらし、財団の運営に重大な支障を生じさせたこと、(3)人事の内示を外部に漏らして人事凍結の働きかけを行ったこと、業務懈怠により財団の信用を損なったこと、上司の指示に従わず、会議の場で暴言を吐いたことである。

Xは、本件解雇の不当性を主張し、提訴した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効。

【判例のポイント】

1 Y財団において、A常務理事の不適切な言動について改善措置を求める旨の報告書を作成し理事長に提出したXのに対し、総務部長解任の後、懲戒処分としての諭旨解雇がなされた件につき、常務理事に、真実、パワハラ、セクハラとも解される問題行動があるのであれば、これをY財団の理事長に伝え是正を図ること自体は、総務部長の職責というべきものであり、かえってこれを認識しながら放置し、適切な措置をとることを阻害した場合には、そのことが総務部長の任務懈怠として問責されることもありうる。

2 本件報告書提出は内部告発そのものではないが、Xが総務部長の職責として報告をした場合であっても、事実でない事柄を、不当な目的で、不相応な方法で行うものであれば、違法なものとなり懲戒事由ともなりうるから、本件においては、X主張の内部告発の適法性の判断要素(1)内部告発の真実性、2)目的の正当性、3)手段・方法の相当性)から検討するのが相当である。

3 内部告発の真実性については、本件報告書のような文書を提出する場合には、慎重な配慮が必要ではあるものの、その内容中に客観的事実と一致していない部分があるとしても、それゆえに当該報告書提出が直ちに違法であって懲戒事由に該当するということはできないとして検討がなされ、報告書は、基本的に真実性のある文書と評価できる。

4 目的の正当性、手段・方法の相当性についても違法性は認められず、Xによる本件報告書提出は、懲戒事由に該当しない。

5 報告書に記載された内容は、パワハラやセクハラに関するものであり、とりわけセクハラに関する情報はプライバシーに深く関わる情報であって、細心の注意を払う必要のあるものといえるところ、Xはかかる情報を収集し管理する総務部長として、当該情報の外部漏出がないようにすることはもちろん、Y財団内部においても、必要な範囲に当該情報が保持されるように努める義務(情報管理義務)を負っていた。

6 Xにおいては、上記情報管理義務に基づいて、報告書記載の情報が、本来、保持されるべき範囲内にとどまるように慎重な配慮をすることが求められていたところ、その具体的な情報管理の方法としては、単に報告書の写しを第三者に交付しなければよいというものではなく、第三者に報告書の写しを閲読をさせたり、その内容を口頭で告げたりすることも、当該義務に違反した行為となる。

7 本件事実に照らすと、Xは上記義務に反して、本来、情報を保持すべきでない多数の者に報告書記載の情報を伝達していたといわざるを得ず、また、少なくともXの情報管理の不十分さによって本件各新聞報道に至ったものといえ、この点につきXには懲戒事由に該当須する事実が認められるが、他方、Y財団は、基本的に真実性のある報告書を無視し、的確な調査を行わないまま、Xに対し降格人事を行おうとしたのであり、XがY財団への対抗措置として外部への働きかけを強めていった結果、当該各報道に至ったともいえ、Xの本件情報管理義務違反およびそれによるY財団内部の混乱等については、Y財団にも責任の一端はあり、これらを総合考慮すれば、Xの情報管理義務違反を理由として本件解雇をすることは重きに失する

内部告発そのものではないですが、同様の判断基準に基づき判断されています。

内部告発の正当性が認められ、懲戒解雇は無効となりました。

会社としては、参考にすべき点が非常に多いと思います。

日頃から顧問弁護士に相談をしながら、1つ1つ慎重に対応することが大切ですね。

守秘義務・内部告発2(大阪いずみ市民生協(内部告発)事件)

おはようございます。

さて、今日は、内部告発に関する裁判例を見てみましょう。

大阪いずみ市民生協(内部告発)事件(大阪地裁堺支部平成15年6月18日・労判855号22頁)

【事案の概要】

Y社は、消費生活協同組合法に基づき設立された生活協同組合である。

Xらは、いずれもY社の職員であり、役員室室長や総務部次長、共同購入運営部次長の地位にあった。

Xらは、Y社の役員がY社を私物化する背信行為をしているとして摘発行為を行い、組合員の総代会の総代ら500人以上に「組合員への背信行為の実態」等と題する告発文書を匿名で送付した。

Y社は、Xらを出勤停止、自宅待機としたうえで、配転や懲戒解雇等を命じた。

Xらは、懲戒解雇を無効として地位保全の仮処分を申請し、認容されたため、解雇は撤回され職場復帰した。

Xらは、Y社及びY社役員に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をしたが、Y社とは和解が成立し、その後取り下げた。

【裁判所の判断】

内部告発は正当なものである。

Y社の損害賠償責任を認めた。

【判例のポイント】

1 内部告発の内容の根幹的部分が真実ないしは内部告発者において真実と信じるについて相当な理由があるか、内部告発の目的が公益性を有するか、内部告発の内容自体の当該組織体等にとっての重要性、内部告発の手段・方法の相当性等を総合的に考慮して、当該内部告発が正当と認められた場合には、当該組織体等としては、内部告発者に対し、当該内部告発により、仮に名誉、信用等を毀損されたとしても、これを理由として懲戒解雇をすることは許されないものと解するのが相当である。

2 本件内部告発文書等に記載の事項の真実性等については、真実であるか、Xらにおいて真実であると信じるについて相当な理由があるというべきである。

3 本件内部告発の目的については、専ら公共性の高いY社における不正の打破や運営等の改善にあったものと推認され、極めて正当なものであった。

4 本件内部告発の方法・手段については、本件内部告発文書等が匿名の文書である点については、告発された側が告発内容の真偽の確認が困難である場合がありうるが、Y社の最高実力者およびこれに次ぐ地位にある者に対し、公私混同や私物化を問題とするものであり、氏名を明らかにして告発を行えば、役員らによる弾圧や処分を受けることは容易に想像され、匿名による告発もやむを得なかった
次に、総代会の直前になって総代等に対して郵送されたことで総代会が混乱する危険があったことは否定し難いが、総代会は最高議決機関であるから、業務執行権を有する役員らに期待できない場合、総代会に問題提起するのはむしろ当然であり、この点が相当性を欠くとはいえない。そして、最高責任者の不正行為を正すためには多少の混乱は避けがたいのであり、そうであっても内部告発により不正が正されればY社にとって内部告発がなされない場合よりも遥かに大きな利益をもたらすべきものであるから、多少の混乱を伴うべきことをもってその手段、方法を不相当とはいえない

5 もっとも、内部告発の内容について多少不正確な部分があり、また表現が誇張されていること、刑事告発については不起訴にされているという問題点がなくはないが、本件内部告発が重要な事実を含み、概ね真実と信じるべき根拠があって、その内容自体Y社にとって看過すべからざる問題ばかりを取り上げているのであるから、全体として不相当なものとはいえない

6 また、Xらが業務中にY社内部の資料を他の職員の私物からを含め無断で持ち出し、これをもとに本件内部告発が行われているが、場合により個別の行為について何らかの処分に問われることは格別、本件内部告発全体が直ちに不相当なものになると解すべきではなく、本件内部告発の目的や内容、手段等を総合的に判断して正当かどうかを判断すべきである。本件で無断で複写して持ち出した点は、内部告発のためには不可欠である一方、持ち出した文書の財産的価値自体はさほど高いものではなく、しかも原本を取得するものではないので、Y社に直ちに被害を及ぼすものではない。したがって、Y社を害する目的で用いたり、不用意にその内容を漏洩したりしない限りは、本件内部告発自体を不相当とまではいえないものと解するべきである。

この裁判例では、内部告発の正当性の判断基準が詳細に示されています。

裁判所は、Y社役員によう生協施設の恣意的利用、女子職員へのセクハラ行為、ゴルフ会員権、ハワイコンドミニアム利用等による私物化、公私混同、背任、横領の疑惑(税務調査が行われた)等の事実が真実または真実と信じるに足りるものと判断しました。

また、Xらによる内部告発後の効果として、私物化が阻止され、生協運営に一定の改善があったことも考慮されています。

非常に参考になりますね。

日頃から顧問弁護士に相談をしながら、労務管理を進めていくことがとても大切です。

守秘義務・内部告発1(カテリーナビルディング事件)

おはようございます。

さて、今日は、内部告発と懲戒処分に関する裁判例を見てみましょう。

カテリーナビルディング事件(東京地裁平成15年7月7日・労判862号78頁)

【事案の概要】

Y社は、建築請負工事、不動産の売買、賃貸および仲介、有料老人ホームの経営などを業とするA社の子会社である。

Xは、Y社に採用され、A社に出向し、以後、A社の建設部に所属していた。

Y社は、(1)Xが会社の仕事をせずに無断外出を繰り返したり、(2)就業時間中にカラオケ店でカラオケの練習をする等の勤務怠慢があったこと、(3)XがA社の専務取締役からの指示・命令を無視したり、社長に同人の悪口を言ったこと、(4)監査法人や日本証券協会に対し、A社の上場承認を妨害する目的で、A社を誹謗中傷する発言をしたり、(5)文章を交付・送付したこと、(6)日報への虚偽記載、(7)無断早退、(8)同僚に対する不適切な発言、(9)週刊誌などにA社を誹謗中傷する記事を掲載するよう依頼したこと等を理由に、Xに対し、解雇する旨の意思表示をした。

さらに、Y社は、弁論準備期日において、(10)XがA社の監査法人の公認会計士に対し、A社の上場承認を妨害する目的でA社を誹謗中傷したことおよび(11)恐喝未遂を理由に、Xを懲戒解雇する旨の意思表示をした。

これに対し、Xは、Y社が主張するような事実はなく、Y社はXが労基署にA社の労基法違反の事実を申告したことに対する報復として解雇したものであり、労基法104条2項に違反し無効であるとして、地位確認、賃金と賞与の支払いを求めるとともに、慰謝料請求をした。

【裁判所の判断】

本件解雇は無効。

慰謝料請求については棄却。

【判例のポイント】

1 解雇事由のうち(2)、(3)、(4)、(5)、(10)を認めたうえで、(2)については勤務怠慢の程度はさほど重大なものではなく、また(3)については、Xの発言はA社の業務改善を図るためにしたもので、その動機・目的は不当とはいえず、Xも反省の態度を示していることから、解雇の理由とするのは相当ではない。

2 解雇事由(4)、(5)、(10)について、Xの行為は企業秩序維持の観点からも問題があるが、(ア)Xは、当時新宿労政事務所や新宿労基署に労働条件の相談や調査を申し入れており、監査法人に対する文書の交付または送付行為は、このような行為の一環として行われていたものであること、(イ)A社はその後、労基署の調査を受け、従業員の労働時間や管理の方法や時間外賃金の支払いについて改善指導を受けたことを合わせると、Xの行為は労基法の遵守や労働条件の改善を目的としたものと認められ、その方法、態様が相当とはいえないことを考慮しても、相応の合理性を有するものと認められるのであり、本件各解雇は、客観的合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することはできず、解雇権を濫用したものとして無効である。

3 本件各解雇につき、Y社は、Xに対し、不法行為責任を負うが、一般に、解雇された労働者が被る精神的苦痛は、解雇期間中の賃金が支払われることにより慰謝されるというべきであり、本件において解雇無効および賃金の支払いを命じる以上、本件各解雇によるXの精神的苦痛は填補される。

内部告発と解雇の問題は、どうしても感情的に判断してしまいがちです。

日頃から顧問弁護士に相談し、慎重に対応することが求められます。