Category Archives: 同一労働同一賃金

同一労働同一賃金9 特別休暇に関する同一労働同一賃金問題(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、特別休暇について労働契約法20条に違反するとされた裁判例を見てみましょう。

日本郵便(佐賀)事件(福岡高裁平成30年5月24日・労経速2352号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で、有期労働契約を締結し,同社の運営する郵便局(本件郵便局)において、所属課の上司の下で郵便の集配業務に従事し、平成26年1月22日をもって退職したと主張するXが、①基本賃金・通勤費、②祝日休、③早出勤務等手当、④夏季・年末手当、⑤作業能率評価手当、⑥外務業務手当、⑦特別休暇(夏季休暇・冬期休暇)の付与の有無に関する正社員との相違について、労働契約法20条に違反し不法行為が成立するとして損害賠償を求めるなどした事案である。

【裁判所の判断】

特別休暇については不合理な相違である。

【判例のポイント】

1 夏期及び冬期休暇が、主としてお盆や年末年始の慣習を背景にしたものであることに照らすと、かかる休暇が正社員に対し定年までの長期にわたり会社に貢献することへのインセンティブを与えるという面を有しているとしても、そのような時期に同様に就労している正社員と時給制契約社員との間で休暇の有無に相違があることについて、その職務内容等の違いを理由にその相違を説明することはできず、制度として時給制契約社員にこれが全く付与されないことについては、不合理な相違であるといわざるを得ない。
 時給制契約社員は、正社員と異なり当該期間が当然に勤務日となっているわけではなく、勤務日と指定されたとしても、当該期間中にその全てが正社員と同程度の日数の勤務に従事するとは限らないが、上記のとおりの休暇が設けられた趣旨を踏まえれば、正社員の夏期特別休暇に在籍日要件が設けられているように、当該期間中の実際の勤務の有無や、平均的な勤務日数などの要件を付加した上で、時給制契約社員に対し、正社員に比して一定割合の日数を付与するという方法も考えられるところであって、当該期間中に実際に勤務したにもかかわらず、正社員と異なりおよそ特別休暇が得られないというのはやはり不合理な相違といわざるを得ない。
Xが所属する労働組合と、Y社との間では、平成19年10月22日付けで、期間雇用社員の休暇に関し労働協約が締結されており、そこには夏期・年末年始休暇についての定めはないものの、そのことだけでは、不合理性を否定することはできないというべきである。
そして、本件においては、前記認定のとおり、Xが正社員とほぼ同程度の勤務日数、勤務時間で就労していたと認められることに照らすならば、Xに対しては、同程度の休暇を付与するのが相当であったというべきである
したがって、労働契約法20条が制定された平成25年4月以降、Y社が、Xに対しかかる休暇取得の機会を与えなかったことは、同条に反し、Xに対する不法行為に当たるというべきである。

労働契約法20条に関する新たな裁判例です。

上記①~⑦のうち、⑦に関する相違のみが違法とされています。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

同一労働同一賃金8 賞与の支給額の差異と同一労働同一賃金問題(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、賞与の支給額の差異について労働契約法20条違反が否定された裁判例を見てみましょう。

医療法人A会事件(新潟地裁平成30年3月15日・労経速2347号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に非正規(有期雇用契約)職員として雇用されていたXが、雇用期間中、正規(無期雇用契約)職員には冬期賞与として基本給2か月分の賞与が支給されるのと異なり、非正規職員には冬期賞与として基本給1か月分の賞与しか支給されないという相違があることが、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止を定めた労働契約法20条に違反すると主張して、同条に基づき、冬期賞与として支給されるべき賞与と実際に支給された賞与との差額である基本給1か月分の給与相当額17万5000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

原審がXの請求を認容したところ、Y社が控訴した。

【裁判所の判断】

原判決を取り消す。
→請求棄却

【判例のポイント】

1 賞与には、一般に労働の対価としての意味だけでなく、功労報償的意味及び将来の労働への意欲向上策としての意味があるとされ、勤怠査定に基づいて算定されるY社における正規職員の賞与についても同様の意味合いが認められる。期間の定めがなく長期雇用を前提とし、将来にわたる勤務の継続が期待される正規職員に対し、労働に対するモチベーションや業績に対する貢献度の向上を期待してインセンティブ要素を付与することには、一定の人事施策上の合理性が認められるから、期間の定めがあり、将来にわたる勤務の継続が期待される雇用形態となっていない非正規職員との間で相違を設けること自体が不合理であるということはできない。そして、Y社においては、正規職員には、賞与を基本配分と成績配分に区分し、成績配分の額により支給総額が増減する仕組みとする一方、非正規職員には、個別労働契約によって支給額を定額化し、成績配分の額により支給総額が増減することのない仕組みとしているところ、かかる取扱いが不合理ということはできない。
また、その相違の程度についてみると、Y社において平成27年度に事務職員に対して支給された冬期賞与の額は、正規職員は平均で基本給2.1か月分、非正規職員は一律で基本給1か月分であり、その差額は基本給約1か月分にすぎず、実際に非正規職員であったXに支給された冬期賞与とY社が正規職員の常勤Iであった場合に支給される冬期賞与の差額は、17万5000円程度であり、Xによれば、Xを常勤Iで採用したと想定した場合に得られる年間収入見込額とXが現実に得た収入額の差はほぼ賞与の差によるものであるところ、その割合は約8.25パーセントというのであるから、賞与の前記目的に沿った相違として合理的に認められる限度を著しく超過しているとはいえない。したがって、Y社が、賞与について、正規職員と非正規職員との間で前記相違を設定したことが不合理であるとは認められず、労働契約法20条に違反するとはいうことはできない。

上記判例のポイント1の理由はさておき、賞与については労働契約法20条違反になりにくいことはこれまでの裁判例の流れですね。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

同一労働同一賃金7 家族手当、住宅手当、精勤手当の支給の相違と同一労働同一賃金問題(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、家族手当、住宅手当、精勤手当の支給の相違が労働契約法20条違反とされた裁判例を見てみましょう。

井関松山製造所事件(松山地裁平成30年4月24日・労経速2346号18頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのある労働契約を締結して就労している従業員であるXらが、Y社と期間の定めのない労働契約を締結している従業員との間に、賞与、家族手当、住宅手当及び精勤手当の支給に関して不合理な相違が存在すると主張して、Y社に対し、①当該不合理な労働条件の定めは労働契約法20条により無効であり、Xらには無期契約労働者に関する就業規則等の規定が適用される労働契約上の地位に在ることの確認を求め、②平成25年5月から平成27年4月までに支給される本件手当等については、主位的に、同条の効力によりXらに当該就業規則等の規定が適用されることを前提とした労働条件に基づく賃金請求として、予備的に、不法行為に基づく損害賠償請求として、実際に支給された賃金との差額+遅延損害金の支払を求め、③平成27年5月から平成29年10月までに支給される本件手当等について、不法行為に基づく損害賠償請求として、実際に支給された賃金との差額+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

家族手当、住宅手当及び精勤手当については労働契約法20条に違反する。

賞与については同条に違反しない

【判例のポイント】

1 Xらと同一の製造ラインに配属された無期契約労働者との間で、その定常業務の内容に相違はなく、管理業務及び新機種関連業務は重要な業務であるものの、無期契約労働者のうち一部の者について業務が異なるにすぎず、その他の業務に大きな差異も認められないことからすると、Xらと比較対象となる無期契約労働者との業務の内容に大きな相違があるとはいえない

2 有期契約労働者については、定期的な教育訓練は実施されておらず、有期契約労働者を中途採用制度により無期契約労働者とする場合であっても、職制に就任させるためには3年程度の無期契約労働者としての勤務経験を経ることが必要である。そのため、有期契約労働者全体について、将来、組長以上の職制に就任したり、組長を補佐する立場になったりする可能性がある者として育成されるべき立場にあるとはいえない。
したがって、Xらと無期契約労働者の間には、職務の内容及び配置の変更の範囲に関して、人材活用の仕組みに基づく相違があると認められる。

3 中途採用は、ほぼ毎年実施されており、現に平成28年2月時点では、Y社において採用された無期契約労働者であって職制にある11名のうち、9名が有期契約労働者から中途採用されており、無期契約労働者と有期契約労働者の地位が必ずしも固定的でないことは、本件相違の不合理性を判断する際に考慮すべき事情といえる。

4 ・・・Xらにも夏季及び冬季に各5万円の寸志が支給されていること、中途採用制度により有期契約労働者から無期契約労働者になることが可能でその実績もあり、両者の地位は必ずしも固定的でないことを総合して勘案すると、一季30万円以上の差が生じている点を考慮しても、賞与におけるXらと無期契約労働者の相違が不合理なものであるとまでは認めれらない。

5 Y社においても、家族手当は、生活補助的な性質を有しており、労働者の職務内容等とは無関係に、扶養家族の有無、属性及び人数に着目して支給されている。上記の歴史的経緯並びにY社における家族手当の性質及び支給条件からすれば、家族手当が無期契約労働者の職務内容等に対応して設定された手当と認めることは困難である。・・・有期契約労働者に家族手当を支給しないことは不合理である。

6 Y社の住宅手当は、住宅費用の負担の度合いに応じて対象者を類型化してその者の費用負担を補助する趣旨であると認められ、住宅手当が無期契約労働者の職務内容等に対応して設定された手当と認めることは困難であり、有期契約労働者であっても、住宅費用を負担する場合があることに変わりはない。したがって、・・・不合理であると認められる。

7 精勤手当の趣旨としては、少なくとも、月給者に比べて月給日給者の方が欠勤日数の影響で基本給が変動して収入が不安定であるため、かかる状況を軽減する趣旨が含まれると認められる。・・・有期契約労働者は、時給制であり、欠勤等の時間については、1時間当たりの賃金額に欠勤等の合計時間数を乗じて額を差し引くものとされ、欠勤日数の影響で基本給が変動し収入が不安定となる点は月給日給者と変わりはない。したがって、・・・不合理であると認められる。

先日出された最高裁判決がベースになってきますが、とはいえ、やはりどこまでいっても個別の判断が求められます。

通勤手当や賞与についてはある程度固いところではありますが、それ以外の手当については個々の事情をどう評価するかによって結論が変わり得ると思います。

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同一労働同一賃金6 正社員とパート社員の通勤手当の相違に関する同一労働同一賃金問題(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、パート社員の通勤手当を正社員の半額とすることが労契法20条違反とされた裁判例を見てみましょう。

九水運輸商事事件(福岡地裁小倉支部平成30年2月1日・労経速2343号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社において期間の定めのある労働契約に基づき荷役作業に従事するXらが、各自、Y社に対し、①その労働条件において通勤手当が期間の定めのない労働者に対するものの半額とされていることは労働契約法20条の禁止する不合理な差別に当たる等と主張して、労働契約又は不法行為による損害賠償請求権に基づき、平成25年1月から平成26年12月までの通勤手当の差額合計12万円+遅延損害金並びに平成27年1月から毎月末日限り通勤手当の差額5000円の支払を求めるとともに、当該不法行為による損害賠償請求権に基づき慰謝料5万円+遅延損害金の支払を求め、②Xらに対する皆勤手当を廃止する内容の就業規則の変更は無効であると主張して、労働契約に基づき、平成26年11月と同年12月における未払皆勤手当合計1万円+遅延損害金並びに平成27年1月から毎月末日限り皆勤手当5000円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、28万円及びうち10万5000円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社が通勤手当を設けた理由は、Y社代表者の供述によれば、少しでも手当が多い方が求人に有利であるというものであり、それ自体、本件相違の合理性を肯定できる理由であるとは考え難い。また、パート社員と正社員のいずれの職務内容も、北九州市中央卸売市場での作業を中核とするものであるから、パート社員か正社員かを問わず、仕事場への通勤を要し、かつ、その通勤形態としても、多くの者が自家用車で通勤しているという点で、両者で相違はなく、パート社員の方が、正社員に比べて通勤時間が通勤経路が短いといった事情もうかがわれないのであって、通勤手当の金額を定めるに当たり、正社員の通勤経路などを調査した上でこれが定められたわけでもない
そうすると、本件相違に合理的な理由は見出せず、通勤手当がY社に勤務する労働者の通勤のために要した交通費等を填補するものであることなどの性質等にかんがみれば、上記で認定した職務内容の差異等を踏まえても、本件相違は不合理なものといわざるを得ない。
したがって、本件相違は労働契約法20条に違反するものというべきである。

現時点では、もはや通勤手当の差異については労契法20条違反で確定ですので、各社速やかに対応をすべきです。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

同一労働同一賃金5 退職金に関する同一労働同一賃金問題(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、退職金についてパートタイム労働法旧8条1項違反を肯定した裁判例を見てみましょう。

京都市立浴場運営財団ほか事件(京都地裁平成29年9月20日・ジュリ1513号4頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の嘱託職員のXらが、Y社が、嘱託職員の退職金規程を定めていなかったことが、パートタイム労働法旧8条1項に違反すると主張し、Y社に対し、主位的に規程に基づき、予備的に不法行為を理由として、嘱託職員の退職金規程が定められていれば嘱託職員のXらに支払われたであろう退職金相当額の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求一部認容

【判例のポイント】

1 正規職員には退職金が支給されるのに嘱託職員のXらが「退職金を支給されないことについての合理的理由は見当たらない。以上に照らし、Y社が嘱託職員のXらに退職金を支給しないことはパートタイム労働法旧8条1項に違反し、違法である。

2 旧パートタイム労働法には、労働基準法13条のような補充的効果を定めた条文は見当たらず、旧パートタイム労働法8条1項違反によって、規程に基づく退職金請求権が直ちに発生するとは認めがたい。しかし、同違反は不法行為に該当し損害賠償請求をなし得る。嘱託職員の基本給は正規職員のそれより低く抑えられていたこと、Y社の退職金が基本給に勤続年数に応じた係数をかけて機械的に算出されるものであることに鑑みれば、規程に基づき算出された退職金相当額が嘱託職員のXらの損害と認められる。

旧パートタイム労働法8条1項(現9条)は以下のとおりです。

「事業主は、職務の内容が当該事業所に雇用される通常の労働者と同一の短時間労働者(第十一条第一項において「職務内容同一短時間労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」という。)については、短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱いをしてはならない。」

最近流行りの同一労働同一賃金系の論点です。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

同一労働同一賃金4 賞与支給方法の差異と同一労働同一賃金問題(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、有期と無期の賞与支給方法の差異と労契法20条違反の成否に関する事案を見てみましょう。

ヤマト運輸(賞与)事件(仙台地裁平成29年3月30日・労判1158号18頁)

【事案の概要】

本件は、Y社において、期間の定めのない雇用契約を締結している社員(マネージ社員)と1年以内の期間の定めのある雇用契約を締結している社員(キャリア社員)が存在するところ、キャリア社員であるXが、Y社に対し、マネージ社員とキャリア社員との間で、賞与の算定方法が異なる不合理な差別があり、Xの個人成果査定が不当に低いことが労働契約法20条に反する不法行為に当たるとして、平成25年7月支給、同年12月支給、平成26年7月支給、同年12月支給の各賞与につき、マネージ社員との不合理な差別等がなかったならば支給されたはずの賞与とXが実際に得た賞与の差額99万5974円+遅延損害金の支払等を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が不合理なものであることを禁止する趣旨の規定であるところ、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違があれば直ちに不合理とされるものではなく、労働契約法20条に列挙されている要素を考慮して「期間の定めがあること」を理由とした不合理な労働条件の相違と認められる場合を禁止するものであると解される。そして、不合理な労働条件の相違と認められるかどうかについて、同条は「職務の内容」即ち「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」及び「職務の内容及び配置の変更の範囲」と「その他の事情」を考慮要素とする旨規定している。

2 マネージ社員に期待される役割、職務遂行能力の評価や教育訓練等を通じた人材の育成等による等級・役職への格付等を踏まえた転勤、職務内容の変更、昇進、人材登用の可能性といった人材活用の仕組みの有無に基づく相違があり、職務の内容及び配置の変更の範囲には違いがあり、その違いは小さいものとはいえない
そして、Y社のマネージ社員とキャリア社員の賞与の支給方法の違いは、支給月数と成果査定の仕方にあるところ、支給月数の差はマネージ社員より基本給が高いキャリア社員の所定労働時間比率を乗じることによって、格付、等級、号俸、業務区分が同じ場合のマネージ社員とキャリア社員の基本給と支給月数を乗じた賞与算定の基礎金額を同一にしようとしたものであり、またその支給月数の差も格別大きいとはいえないことからすれば、そのことだけで不合理な差異であるということはできない。また、前記のとおり、査定方法のマネージ社員とキャリア社員の職務の内容及び配置の変更の範囲、具体的には転勤、昇進の有無や期待される役割の違いに鑑みれば、長期的に見て、今後現在のエリアにとどまらず組織の必要性に応じ、役職に任命され、職務内容の変更があり得るマネージ社員の一般社員について成果加算(参事、業務役職は成果査定)をすることで、賞与に将来に向けての動機づけや奨励(インセンティブ)の意味合いを持たせることとしていると考えられるのに対し、与えられた役割(支店等)において個人の能力を最大限に発揮することを期待されているキャリア社員については、絶対査定としその査定の裁量の幅を40%から120%と広いものとすることによって、その個人の成果に応じてより評価をし易くすることができるようにした査定の方法の違いが不合理であるともいえない。

3 さらに、各期の賞与は、その支給方式も含め、労働組合との協議のうえ定められている。平成26年度12月賞与については、Xが加入する労働組合からも意見を聞き、支給月数及び配分率について合意している。
以上によれば、Y社におけるマネージ社員とキャリア社員の賞与の支給方法の差異は、労働契約法20条に反する不合理な労働条件の相違であるとは認められない。

これまでにいくつか労働契約法20条関係の裁判例が出されていますが、多くの裁判例で消極的な判断がされています。

もう少し判例の集積を待つ必要がありますね。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

同一労働同一賃金3 無期労働契約者のみに支給される手当と同一労働同一賃金問題(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、無期労働契約者のみに支給される手当の一部が労働契約法20条に違反するとされた裁判例を見てみましょう。

ハマキョウレックス(第2次)事件(大阪高裁平成28年7月26日・労経速2292号3頁)

【事案の概要】

本件は、一般貨物自動車運送事業等を営むY社との間で、期間の定めのある労働契約を締結して配車ドライバーとして勤務したXが、Y社に対し,
①XとY社との間には始期付きの期間の定めのない労働契約が成立しており、仮にそうでないとしても、Y社と無期労働契約を締結している労働者の労働条件とXの労働条件とを比較すると、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、家族手当、通勤手当及び一時金の支給、定期昇給並びに退職金の支給に関して相違があり、かかる相違は不合理であって公序良俗に反し、平成25年4月1日以降は労働契約法20条にも違反しており無効であるから、Xは、労働契約上、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、家族手当、通勤手当及び一時金の支給、定期昇給並びに退職金の支給に関し、Y社と無期労働契約を締結している労働者と同一の権利を有する地位にある旨主張して、同地位にあることの確認を求め、
②Y社は、Xの手取賃金として最低でも月額30万円を支払う旨約したにもかかわらず、平成23年11月10日から平成25年9月10日まで、原判決別表の「振込額(円)」欄記載の手取賃金額しか支払わず、前記30万円との差額である同表の「差額(円)」欄記載の合計68万2578円が未払であり、仮に前記約束が認められないとしても、手取賃金として最低でも月額30万円が支払われるものとXに期待させるなどしたY社の行為は不法行為を構成し、Xは前記未払分68万2578円と同額の損害を被った旨主張して、主位的に労働契約に基づき、予備的に不法行為に基づき、前記68万2578円+遅延損害金の支払を求め、
前記①のとおり、Xは、労働契約上、Y社と無期労働契約を締結している労働者と同一の権利を有する地位にあるところ、平成21年10月1日から平成25年8月31日までの47か月間の無事故手当月額1万円、作業手当月額1万円、給食手当月額3500円、住宅手当月額2万円、皆勤手当月額1万円と通勤手当の差額2000円との月額合計5万5500円の割合による手当合計260万8500円が未払であり、仮にXが前記労働者と同一の権利を有しないとしても、そのような権利を有するものと期待させながら未だにXとの間で無期労働契約を締結しないなどのY社の行為は不法行為を構成し、Xは前記未払分260万8500円と同額の損害を被った旨主張して、主位的に労働契約に基づき、予備的に不法行為に基づき、前記260万8500円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

 Xの控訴及び当審における追加請求に基づき、原判決を次のとおり変更する。
 Y社は、Xに対し、77万円及びうち12万7500円に対する平成25年10月29日から、うち64万2500円に対する平成27年12月4日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 Xのその余の請求及び当審におけるその余の追加請求をいずれも棄却する。
 Y社の控訴を棄却する。

【判例のポイント】

1 労働契約法20条は、「不合理と認められるもの」といえるか否かの判断については、「職務の内容」、すなわち、「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」と、「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」と「その他の事情」を考慮要素とする旨規定しており、「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」とは、労働者が従事している業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいい、「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」とは、今後の見込みも含め、転勤、昇進といった人事異動や本人の役割の変化等(配置の変更を伴わない職務の内容の変更を含む。)の有無や範囲を指し、人材活用の仕組みと運用を意味するものと言い換えることができる。また,「その他の事情」とは、合理的な労使の慣行等の諸事情を指すものと解される(本件施行通達)。

2 そして、労働契約法20条の不合理性の判断は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違について、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されるべきものであると解される(本件施行通達)ところ、同条の不合理性の主張立証責任については、「不合理と認められるもの」との文言上、規範的要件であることが明らかであるから、有期労働契約者は、相違のある個々の労働条件ごとに、当該労働条件が期間の定めを理由とする不合理なものであることを基礎付ける具体的事実(評価根拠事実)についての主張立証責任を負い、使用者は、当該労働条件が期間の定めを理由とする不合理なものであるとの評価を妨げる具体的事実(評価障害事実)についての主張立証責任を負うものと解するのが相当である。

3 Y社の正社員と契約社員との間には、前記のような職務遂行能力の評価や教育訓練等を通じた人材の育成等による等級・役職への格付け等を踏まえた広域移動や人材登用の可能性といった人材活用の仕組みの有無に基づく相違が存するのであるから、前提事実の労働条件の相違が同条にいう「不合理と認められるもの」に当たるか否かについて判断するに当たっては、前記のような労働契約法20条所定の考慮事情を踏まえて、個々の労働条件ごとに慎重に検討しなければならない。

4 労働契約法20条は、訓示規定ではないから、同条に違反する労働条件の定めは無効というべきであり、同条に違反する労働条件の定めを設けた労働契約を締結した場合には、民法709条の不法行為が成立する場合があり得るものと解される。

しかしながら、労働契約法は、同法20条に違反した場合の効果として、同法12条や労働基準法13条に相当する規定を設けていないこと、労働契約法20条により無効と判断された有期契約労働者の労働条件をどのように補充するかについては、労使間の個別的あるいは集団的な交渉に委ねられるべきものであることからすれば、裁判所が、明文の規定がないまま、労働条件を補充することは、できる限り控えるべきものと考えられる

したがって、関係する就業規則、労働協約、労働契約等の規定の合理的な解釈の結果、有期労働契約者に対して、無期契約労働者の労働条件を定めた就業規則、労働協約、労働契約等の規定を適用し得る場合はともかく、そうでない場合には、前記のとおり、不法行為による損害賠償責任が生じ得るにとどまるものと解するほかないというべきである。

労働契約法20条の規範的効力を否定しています。

また、ざっくり労働契約法20条違反か否かを判断するのではなく、個々の労働条件ごとに判断していくべきであるとされています(当然といえば当然ですが)。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

同一労働同一賃金2(ハマキョウレックス事件)

おはようございます。

今日は、労働契約法20条の不合理な労働条件の相違に関して判断した裁判例を見てみましょう。

ハマキョウレックス事件(大津地裁彦根支部平成27年9月16日・ジュリ1490号4頁)

【事案の概要】

本件は、一般貨物自動車運送事業等を営むY社との間で、期間の定めのある労働契約を締結したXが、Y社との間で期間の定めのない労働契約等が成立している、仮にそうでないとしても、期間の定めのない労働契約を締結したY社の労働者とXの労働契約における労働条件とを比較して不合理な相違のある労働条件を定めたXの労働契約部分は公序良俗等に反して無効であるから、Xは、Y社との労働契約上、期間の定めのない労働契約を締結した被告の労働者と同一の権利があると主張して、Y社に対し、かかる権利を有する地位にあることの確認を求めるともに、期間の定めのない労働契約を締結したY社の労働者が通常受給すべき賃金との差額について、Y社との労働契約に基づき、また、期間の定めのない労働契約を締結したY社の労働者と同一の権利を有しないとしても、そのような権利を有すると期待させたにもかかわらず、いまだにXと期間の定めのない契約を締結しないY社の行為は、Xの期待権を不法に侵害したものであり、かかる行為はXに対する不法行為を構成すると主張して、上記差額分と同様の賃金ないし損害賠償金の支払及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

なお、Xは、当庁による破産手続開始決定を受け、破産財団となるべき未払賃金の4分の1について、破産者X破産管財人Zが本訴訟手続を受継した。

本判決は、差戻し前の事件の判決手続に違法があるとして、控訴審により差し戻された差戻後の第1審判決である。

【裁判所の判断】

Y社は、Zに対し、1万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 労働契約法20条における「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者間の当該労働条件上の相違が、それら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同にその他の事情を加えて考察して、当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるを得ないものを意味すると解すべきところ、Y社の彦根支店においては、正社員のドライバーと契約社員のドライバーの業務内容自体に大きな相違は認められないものの、Y社は、従業員数4597人を有し、東京証券取引所市場第1部へ株式を上場する株式会社であり、また、従業員のうち正社員は、業務上の必要性に応じて就業場所及び業務内容の変更命令を甘受しなければならず、出向も含め全国規模の広域異動の可能性があるほか、Y社の行う教育を受ける義務を負い、将来、支店長や事業所の管理責任者等の被告の中核を担う人材として登用される可能性がある者として育成されるべき立場にあるのに対し、契約社員は、業務内容、労働時間、休息時間、休日等の労働条件の変更がありうるにとどまり、就業場所の異動や出向等は予定されておらず、将来、支店長や事業所の管理責任者等の被告の中核を担う人材として登用される可能性がある者として育成されるべき立場にあるとはいえない

2 Y社におけるこれら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同等を考察すれば少なくとも無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当及び家族手当、一時金の支給、定期昇給並びに退職金の支給に関する正社員と契約社員との労働契約条件の相違は、Y社の経営・人事制度上の施策として不合理なものとはいえないというべきであるから、本件有期労働契約に基づく労働条件の定めが公序良俗に反するということはできないことはもとより,これが労働契約法20条に反するということもできない。

3 Xらは、本件有期労働契約を締結するにあたり、Xに対し、月額の手取賃金を30万円以上とする、本件有期労働契約締結後から半年ないし1年後には正社員とするとの期待を抱かせたにもかかわらず、現在まで、Xとの間で、月額の手取賃金を30万円以上とすること及び正社員とするとの条件を付した労働契約を締結しないY社の対応は、Xの期待権を侵害する不法行為に当たると主張するが、上記事実関係に照らせば、Xの主観はともかく、Xの上記期待は、法的保護に値する期待と認めるには足りず、事実上の期待にすぎないというべきであるから、それに対する侵害が不法行為に当たるとのXらの主張は採用することができない。

4 以上に対し、通勤手当についてのY社の労働条件の相違は、労働契約法20条に反し、同条の解釈上、同条に違反する労働条件の定めは、強行法規違反として無効と解され、かかる定めをしたY社の行為は、Xに対する不法行為を構成するというべきである。

そして、その損害額は、当該労働条件の相違がなかった場合にXが取得できた通勤手当の額とXに支給された通勤手当との差額であると解されるところ、XがY社の正社員であったとすれば、どの程度の通勤手当の支給を受けることができたかについては本件証拠上不明であるが、少なくとも正社員の最低支給額である5000円と、Xの受給額である3000円の差額である2000円は被告の不法行為による損害と認めることができる。
したがって、労働契約法20条施行後の平成25年4月分から同年8月分までの差額合計1万円(2000円×5か月分)については、これをXが被った損害と認める。

労契法20条については、上記判例のポイント1の視点を押さえましょう。

労働者側からは、ハードルが高いことがわかりますね。

同一労働同一賃金1(N社事件)

おはようございます。

さて、今日は、パートタイム労働法8条違反が不法行為を構成するとされた裁判例を見てみましょう。

N社事件(大分地裁平成25年12月10日・労経速2202号3頁)

【事案の概要】

本件は、使用者であるY社との間で期間の定めのある労働契約を反復して更新していた労働者であるXが、Y社が契約期間満了前の更新の申込みを拒絶したことは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、Y社は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなされたと主張して(労働契約法19条)、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、更新拒絶期間中の月額賃金、更新拒絶期間中の賞与、更新拒絶による慰謝料を請求するとともに、Y社がXに対して短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)8条1項に違反する差別的取扱いをしていると主張して、同項に基づき、正規労働者と同一の雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、Y社の正規労働者と同一の待遇を受ける雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、同項に違反する差別的取扱いによる不法行為に基づく損害賠償を請求している事案である。なお、Xは、正規労働者と同一の雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認請求の理由として、準社員として3年間勤務した後に正社員として雇用するという約束がY社との間で成立したことも主張しており、また、パートタイム労働法8条1項の要件を充足する場合には、期間の定めがあることによる不合理な労働条件を禁止した労働契約法20条も充足すると主張する。

【裁判所の判断】

1 更新拒絶は無効→賃金支払

2 慰謝料として50万円を支払え

【判例のポイント】

1 ・・・Y社が更新拒絶の理由として挙げる「本件訴訟において様々な点において事実と異なる主張をしていること」、「裁判と無関係の第三者であるY社の従業員を多数裁判に巻き込んでいること」は、いずれも事実として認めることができない。Y社におけるXの職務は、石油製品という危険物の輸送であるが、職務の遂行についてXに過誤があったことは認められず、本件訴訟におけるX及びY社の主張立証の内容、訴訟活動の態様に照らして、X・Y社間で本件訴訟が係属していることにより、Y社におけるXその他の従業員による職務遂行の安全が害されるとは認められない。
また、Xが交通事故のニュースを見て、Y社大分事業所幹部が警戒感を抱かざるを得ないような発言をしたとの点についても、Xの話は、安全性に対する認識の欠如を示すもの又はY社との信頼関係を破壊するものであったとは認められず、更新拒絶を裏付ける客観的に合理的な理由の存在を裏付けるものであるとは認められない。
したがって、Y社がXによる有期労働契約の更新の申込みを拒絶したことは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない。

2 ・・・以上によれば、正社員と準社員であるXの間で、賞与額が大幅に異なる点、週休日の日数が異なる点、退職金の支給の有無が異なる点は、通常の労働者と同視すべき短時間労働者について、短時間労働者であることを理由として賃金の決定その他の処遇について差別的取扱いをしたものとして、パートタイム労働法8条1項に違反するものと認められる。

3 Xは、パートタイム労働法8条1項に基づいて、XがY社の正規労働者と同一の労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を請求する。
しかし、上記の確認の対象である権利義務の内容は明らかではない上、パートタイム労働法8条1項は差別的取扱いの禁止を定めているものであり、同項に基づいて正規労働者と同一の待遇を受ける労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めることはできないと解されるから、上記の地位確認の請求はいずれも理由がないものと解される。

4 パートタイム労働法8条1項に違反する差別的取扱いは不法行為を構成するものと認められ、Xは、Y社に対し、その損害賠償を請求することができる。

本裁判例では、パートタイム労働法8条1項に違反する差別的取扱いは、ただちに不法行為を構成すると判断しているように読めますが、同法は、公法的性格を有するものであり、同法違反がただちに不法行為を構成するかは解釈の余地があります。

フランチャイズ契約について独禁法が適用される場合等でも同じことが言えますね。

また、パートタイム労働法8条1項に違反する差別的取扱いがあったとしても、それだけで、正規労働者と同一の待遇を受ける労働契約上の権利を有する地位にあることの確認までは認められないとの判断は参考になります。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。