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同一労働同一賃金276 定年後再雇用時の賃金を従前の6割としたことが旧労契法20条に違反せず、また通勤手当を一定距離未満の場合、不支給とした規程の不利益変更が有効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、定年後再雇用時の賃金を従前の6割としたことが旧労契法20条に違反せず、また通勤手当を一定距離未満の場合、不支給とした規程の不利益変更が有効とされた事案を見ていきましょう。

日本空調衛生工事協会事件(東京地裁令和5年5月16日・労経速2546号27頁)

【事案の概要】

本件は、Y社を平成30年3月に定年退職し、その後、令和2年3月まで嘱託職員として再雇用され、定年退職前の6割の賃金を受給していたXが、Y社に対し、以下の各請求をする事案である。
定年後再雇用に際し、労使慣行に基づき賃金を定年退職前の7割とする再雇用契約が黙示的に成立した、又は再雇用契約において賃金を定年退職前の6割としたことは平成30年7月6日法律第71号による改正前の労働契約法20条に違反するとして、賃金請求権又は不法行為による損害賠償請求権に基づき、差額賃金相当額及びこれに対する遅延損害金の支払
②Y社が平成26年11月19日改正施行の就業規則及び給与規程に基づき、従前は利用距離にかかわらず通勤に利用するバス運賃を通勤手当として支給していたのを改め、最寄駅までのバス路線距離が1.5km未満の場合はバス運賃を支給しないこととしたのは、就業規則等の不利益変更に当たり無効であるとして、賃金請求権に基づき、上記改正により支払を受けられなくなったバス運賃相当額及びこれに対する遅延損害金の支払
③Y社がXとの再雇用契約を更新せず、令和2年3月限りで終了させたことは、65歳到達以降も再雇用契約が更新されるというXの合理的期待に反するとして、不法行為による損害賠償請求権に基づき、1年分の未払賃金相当額(定年退職前の7割を前提に算出)及びこれに対する遅延損害金の支払
④Y社在職中に上司から別紙記載のパワーハラスメントを受けたなどとして、使用者責任又は債務不履行による損害賠償請求権に基づき、慰謝料及びこれに対する遅延損害金の支払

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xの職務の内容に関しては、配置部署、勤務時間、休日等の労働条件は定年前後で変化がない。定年退職時に有していた主任の肩書は、再雇用に当たり外されたものの、主任としての具体的な権限は明らかでなく、責任の範囲についても変化は窺われない。しかし、業務の量ないし範囲については、従前はA課長とXの2名で担当していた経理課の業務を、新たに入職したDを含む3名で担当することとなり、経理業務、決算業務を中心に、Xが担当していた相当範囲の業務がDに引き継がれ、再雇用後はXが単独で担当する予定であった福利厚生関係業務も、実際にはA課長と分担していたのであるから、Xの業務が定年前と比べて相当程度軽減されたことは明らかである。

2 定年後再雇用であることが、賃金の減額の不合理性を否定する方向に働く事情として考慮されるべきことは上記のとおりである。特に、定年前のXの給与は、年功序列の賃金体系の中で、長年の勤続ゆえに、担当業務の難易度以上に高額の設定になっていたことが推認され、1400万円を超える退職金も受給したこと、Y社における定年は63歳であり、平成30年4月当時は男女とも特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を受給可能であったこと、Xの本件更新拒絶による退職後にその担当業務を引き継ぎ、定年退職時点でのXと概ね同様の業務を分担することとなったEの月給額は、再雇用後のXの基本給と同水準であることも、「その他の事情」として考慮することが相当である。
以上を総合勘案すれば、Xの定年後再雇用に当たり、賃金を定年前の6割としたことが不合理であるとは認められず、旧労働契約法20条に違反しない。

3 本件規程変更に伴い、自宅から最寄駅まで1.5km未満のバス路線を通勤に利用してその運賃相当額を通勤手当として受給していた職員には、これを受給することができなくなるという不利益が生じることになる。しかし、自宅から最寄駅まで1.5km以内という距離は、一般に徒歩圏と受け止められる範囲であり、身体に特段の障害等がない限り、バス路線が設定されていても、徒歩で駅に向かうのが合理的であると解される。現に、この変更によって不利益を被った職員はXとJの2名のみであり、被る不利益も1.5km以内の徒歩を要する程度で、理由はどうあれ、XもY社から身体的な事情による特例支給を打診されながらこれを申請していない。また、かかる打診から明らかなとおり、Y社において変更後も当該規程を柔軟に運用している。こうした事情に照らせば、本件規程変更に伴う不利益は、軽微なものと評価するのが相当である。
他方、Y社においては、予算の効率的執行を図るため、通勤手当の算定方法として最も経済的かつ合理的な通勤経路を明記するという目的で本件規程変更を実施したものと認められるところ、これによる経費節減の効果は僅少とはいえ、一般社団法人であるY社に求められる予算の効率的執行に資することは確かであり、相応の必要性を肯定することができる。
内容面においても、変更後の規定は、社会通念上徒歩圏といえる範囲で、一般的には合理的な通勤経路とはいい難いバスの運賃について通勤手当の支給対象外とするものであり、身体的事情による特例支給も許容する柔軟な運用と相まって、合理的なものと評価することができる。
さらに、Y社は本件規程変更を含む就業規則等の改正に関して、平成26年7月25日の説明会から意見聴取の機会を付与し、職員代表であったXは2回にわたり意見書を提出しており、その中でも本件規程変更に関しては何らの言及がなかった。Xは「条文を読解するには十分な時間がな」いと述べていたものの、意見表明のための検討期間としては、Y社が当初設定した同年9月1日まででも十分な猶予があったというべきであり、同年11月19日に本件規程変更を施行するまでの間に、Y社は職員との関係で必要な手続を履践したと評価することができる。Xが加入する労働組合から、本件規程変更に関する異議が述べられたのは、施行から6か月近く経過した後のことであって、本件規程変更の効力を左右するものとはいえない。
以上によれば、本件規程変更は有効であり、Xの主張は理由がない。

正社員と嘱託社員との同一労働同一賃金問題について、裁判所がどのような点に着目して判断をしているのかを是非確認してください。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

同一労働同一賃金275 時給制契約社員への寒冷地手当の不支給が不合理とされなかった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、時給制契約社員への寒冷地手当の不支給が不合理とされなかった事案を見ていきましょう。

日本郵便事件(札幌地裁令和5年11月22日・労経速2545号35頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのある労働契約を締結して勤務した時給制契約社員であるXらが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者とXらとの間で、寒冷地手当の支給の有無に相違があったことは労働契約法20条に違反するものであったと主張して、不法行為に基づき、Xらにつき、別紙1請求債権目録記載の「勤務年月・賞与」欄に対応する「合計」欄記載の各金員+遅延損害金等の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社において正社員に対して支給されている寒冷地手当は、北海道その他の寒冷積雪地においては気温、積雪、風速等の特殊な気象条件によって冬期において燃料費、除雪費、被服費、食糧費、家屋修繕費等に多額の出費を要することから、これらの費用の一部を補給するために設けられた手当であり、その主たる目的は、正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、これらの一時的に増蒿する生活費を填補することを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと認められる。
上記目的に照らせば、寒冷地域において勤務する時給制契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、寒冷地手当を支給することとした趣旨は基本的に妥当するということができる。
そして、Y社における時給制契約社員は、契約期間が6か月以内とされており、Xらのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれていることからすると、正社員と同額を支給するかどうかはともかく、正社員と同様、時給制契約社員に対しても寒冷地手当を支給するとすることは合理的な理由があるといい得る

2 しかし、他方で、正社員の基本給は、全国一律に定められていることから、寒冷地手当には、寒冷地域に勤務することにより冬期に発生する燃料費等の多額の出費を余儀なくされる正社員の生活費を填補することにより、それ以外の地域に勤務する正社員との均衡を図り、これにより円滑な人事異動を実現するという趣旨を含んでいることは否定できない。
これに対して、時給制契約社員の基本給は、地域ごとの最低賃金に相当する額に20円を加えた額を下限額として決定されており、この地域別最低賃金額は、地域における労働者の生計費を考慮要素とし(最低賃金法9条2項)、具体的には、各都道府県の人事委員会が定める標準生計費等を考慮して定められ、その標準生計費を定める際には光熱費以外に灯油等への支出金額も検討材料とされている。したがって、具体的な金額は必ずしも明らかではないものの、寒冷地に勤務する時給制契約社員の基本給は、既に寒冷地であることに起因して増加する生計費が一定程度考慮されているといえる。
このように正社員と時給制契約社員との基本給は異なる体系となっている上、時給制契約社員の基本給は元々各地域の生計費の違いが考慮されており、寒冷地域に勤務することにより増蒿する生活費が全く考慮されていないものではない

3 加えて、Y社における寒冷地手当は、国家公務員の寒冷地手当に関する法律に由来するところ(弁論の全趣旨)、同法においても寒冷地手当の支給は、常時勤務に服する職員に限り支給するとされるにとどまり(同法1条)、時給制契約社員に対して寒冷地手当を支給する旨の規定はないことも考慮すると、前記認定事実の正社員と時給制契約社員との職務の内容及び職務の内容等の相違を踏まえ、時給制契約社員に対して寒冷地手当を支給するか否か、また、その額をいくらにするかという事項は、Y社の経営判断に委ねられているものといわざるを得ない
そうすると、正社員に寒冷地手当を支給する一方で、時給制契約社員に対してこれを支給しないという労働条件に相違があることは不合理であるとまではいうことができず、労働契約法20に違反するとは認められない。

上記判例のポイント1だけを読むと請求認容の可能性がありますが、ポイント2の事情を考慮することで請求棄却となっています。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

賃金274 免許取得のための教習費用相当額貸付け制度が労基法16条に違反しないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、免許取得のための教習費用相当額貸付け制度が労基法16条に違反しないとされた事案を見ていきましょう。

東急トランセ事件(さいたま地裁令和5年3月1日判決・労経速2513号25頁)

【事案の概要】

本件第1事件は、Y社が、Y社の従業員であったXに対し、消費貸借契約に基づき、貸金31万0800円+遅延損害金の支払を求める事案である。

本件第2事件は、Xが、Y社で就労中、上司らから、退職強要、パワハラ、不当な減給等を受けたために、精神的苦痛を受け、退職や離婚を余儀なくされたなどと主張して、不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償として、民法709条、715条1項に基づき、損害合計1882万円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Xは、Y社に対し、31万0800円+遅延損害金を支払え。

2
 Xの請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、本件消費貸借契約の契約書は、必ず提出するよう言われ、書くことを強要されたもので、自由な意思ではないから無効である旨主張する。
しかしながら、入社経緯に加え、そもそも、教習所の費用については、一般に、借り入れしなくても支払う選択肢もあり得るのであること、本件消費貸借契約には利息の定めもなく、Y社がかかる契約を強制するメリットも考えられないことに照らすと、Xが、本件消費貸借契約書の契約書について、記載を強要されたものと認めることはできない。

2 本件においては、本件消費貸借契約は、労働契約の履行、不履行とは無関係に定められており、単に労働した場合には返還義務を免除するとされている規定である。加えて、確かに、大型二種免許は、Y社のバス運転士としての業務に不可欠の資格であるが、国家資格として、X本人に付与される資格であり、他の業務にも利用できること(なお、Xは、後に交通事故に遭い、資格を生かすことができない旨主張するが、かかる事後的な事情が本件消費貸借契約の有効性に影響を与えるものではない。)、X自身も、Y社の養成制度を理解した上で本件消費貸借契約を締結したものと認められること、その金額も、31万0800円とXの月額給与二か月分程度であることなどに照らせば、本件消費貸借契約が、Xの自由意思を不当に拘束し、労働関係の継続を強要するものということはできない。
以上によれば、本件消費貸借契約は、Y社がXに対して貸付をしたものとして、本来労働契約とは別に返済すべきでものであるが、一定期間労働した場合に、返還義務を免除する特約を付したものと解するのが相当であって、労働契約の不履行に対する違約金ないし損害賠償額の予定であると解釈することはできない。

この種の事件は比較的多く発生していますので、ポイントをしっかりと押さえてください。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

同一労働同一賃金26 定年後再雇用者の基本給・手当・賞与にかかる労契法20条違反の有無(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、定年後再雇用者の基本給・手当・賞与にかかる労契法20条違反の有無に関する裁判例を見ていきましょう。

名古屋自動車学校(再雇用)事件(最高裁令和5年7月20日・労判1292号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社を定年退職した後に、Y社と期間の定めのある労働契約を締結して勤務していたXらが、Y社と期間の定めのない労働契約を締結している労働者との間における基本給、賞与等の相違は労働契約法20条に違反するものであったと主張して、Y社に対し、不法行為等に基づき、上記相違に係る差額について損害賠償等を求める事案である。

【裁判所の判断】

原判決中、Xらの基本給及び賞与に係る損害賠償請求に関するY社敗訴部分を破棄する。

前項の部分につき、本件を名古屋高等裁判所に差し戻す

【判例のポイント】

1 管理職以外の正職員のうち所定の資格の取得から1年以上勤務した者の基本給の額について、勤続年数による差異が大きいとまではいえないことからすると、正職員の基本給は、勤続年数に応じて額が定められる勤続給としての性質のみを有するということはできず、職務の内容に応じて額が定められる職務給としての性質をも有するものとみる余地がある。
他方で、正職員については、長期雇用を前提として、役職に就き、昇進することが想定されていたところ、一部の正職員には役付手当が別途支給されていたものの、その支給額は明らかでないこと、正職員の基本給には功績給も含まれていることなどに照らすと、その基本給は、職務遂行能力に応じて額が定められる職能給としての性質を有するものとみる余地もある。そして、前記事実関係からは、正職員に対して、上記のように様々な性質を有する可能性がある基本給を支給することとされた目的を確定することもできない。
また、嘱託職員は定年退職後再雇用された者であって、役職に就くことが想定されていないことに加え、その基本給が正職員の基本給とは異なる基準の下で支給され、被上告人らの嘱託職員としての基本給が勤続年数に応じて増額されることもなかったこと等からすると、嘱託職員の基本給は、正職員の基本給とは異なる性質や支給の目的を有するものとみるべきである。
しかるに、原審は、正職員の基本給につき、一部の者の勤続年数に応じた金額の推移から年功的性格を有するものであったとするにとどまり、他の性質の有無及び内容並びに支給の目的を検討せず、また、嘱託職員の基本給についても、その性質及び支給の目的を何ら検討していない
また、労使交渉に関する事情を労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮するに当たっては、労働条件に係る合意の有無や内容といった労使交渉の結果のみならず、その具体的な経緯をも勘案すべきものと解される
Y社は、X1及びその所属する労働組合との間で、嘱託職員としての賃金を含む労働条件の見直しについて労使交渉を行っていたところ、原審は、上記労使交渉につき、その結果に着目するにとどまり、上記見直しの要求等に対するY社の回答やこれに対する上記労働組合等の反応の有無及び内容といった具体的な経緯を勘案していない
以上によれば、正職員と嘱託職員であるXらとの間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違について、各基本給の性質やこれを支給することとされた目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある。 

最高裁の判断として実務に与える影響はとても大きいです。

正社員と嘱託社員との労働条件の格差について、名古屋高裁の判断が待たれます。

とはいえ、前回も書きましたが、労働力不足が今後ますます深刻化する中で、はたしてこのような「格差」をどこまで許容し続けるのかは、法律論とは別に考える必要があろうかと思います。

同一労働同一賃金の問題は判断が非常に悩ましいので、顧問弁護士に相談して対応するようにしてください。

同一労働同一賃金25 正社員と期間の定めのある臨時雇員との賞与に関する労働条件の相違が不合理ではないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、正社員と期間の定めのある臨時雇員との賞与に関する労働条件の相違が不合理ではないとされた事案について見ていきましょう。

ロイヤルホテル事件(大阪地裁令和5年6月8日・労判ジャーナル139号23頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのある臨時雇員雇用契約を締結して勤務していたXが、Y社との間で期限の定めのない雇用契約を締結している社員との間で、賞与に係る労働条件に相違があったことは短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条に違反するものであると主張して、Y社に対し、不法行為に基づき、令和2年の賞与相当額12万3030円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、基本的に上期及び下期に正社員に対して賞与を支給しており、少なくとも平成28年度から令和元年度まで一定の支給率を維持している上、新型コロナウィルス感染拡大によりY社の業績が大幅に落ち込んだ令和2年度においても、支給率を下げながらも一定額の賞与を支給したことが認められ、正社員の賞与がY社の業績と必ずしも連動するものではなかったことが認められる。
正社員に対して支給される賞与には、労務の対価の後払いや一律の功労報償の趣旨のほか、正社員としての職務を遂行し得る人材を確保してその定着を図る目的があったと認めることができる。
これに対して、臨時雇員に対する賞与は、平成20年から同22年まで支給されたことはあったが、その額は数千円程度にすぎず、それ以降10年以上にわたり支給されたことがなかったことからすると、恩恵的給付としての性格が強いものであったということができる。
また、臨時雇員の賞与には、勤労意欲の向上の趣旨があったにしても、臨時雇員としての職務を遂行し得る人材を確保してその定着を図る目的があったとまでは認めることができない

2 正社員の業務内容は、臨時雇員と比較して、広範かつ責任を伴うものであり、臨時雇員が正社員の業務の一部を行うことはあっても、限定的であったということができる。

3 Y社において、正社員は人事異動が命じられることがあったのに対し、臨時雇員は特別な事情がない限り人事異動が命じられることはなかった。

4 Y社においては、本件登用制度が設けられ、一定の登用実績もあったことからすると、必ずしも臨時雇員と契約社員及び正社員の区分が固定されたものではなかったと認めることができるから、本件登用制度は「その他の事情」として考慮するのが相当である。

考慮要素自体はこれまでの裁判例と異なるものではありません。

労働力不足が今後ますます深刻化する中で、はたしてこのような「格差」をどこまで許容し続けるのかは、法律論とは別に考える必要があろうかと思います。

同一労働同一賃金の問題は判断が非常に悩ましいので、顧問弁護士に相談して対応するようにしてください。

同一労働同一賃金24 無期転換労働者には正社員の就業規則が適用される?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、無期転換労働者には正社員の就業規則が適用される?について見ていきましょう。

ハマキョウレックス(無期契約社員)事件(大阪高裁令和3年7月9日・労判1274号82頁)

【事案の概要】

本件は、労契法18条1項に基づき有期労働契約から期間の定めのない労働契約に転換したXらが、転換後の労働条件について、雇用当初から無期労働契約を締結している労働者(以下「正社員」という。)に適用される就業規則(以下「正社員就業規則」という。)によるべきであると主張して、Y社に対し、正社員就業規則に基づく権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づく賃金請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権として、無期労働契約に転換した後の平成30年10月分の賃金について正社員との賃金差額(X1につき9万1012円、X2につき9万3532円)+遅延損害金の支払を求める事案である。

原審裁判所は、Xらの請求をいずれも棄却したため、Xらがこれを全部不服として控訴を提起した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 労契法18条を新設した労働契約法の一部を改正する法律案が審議された第180回国会における衆議院厚生労働委員会において、厚生労働大臣政務官が、契約期間の無期化に伴って労働者の職務や職責が増すように変更されることが当然の流れとして考えられるが、当事者間あるいは労使で十分な話し合いが行われて、新たな職務や職責に応じた労働条件を定めることが望ましく、「別段の定め」という条文も、こうした趣旨に沿った規定であると考えられるとの答弁をしていること、労契法の改正内容の周知を図ることを目的として発出された「労働契約法の施行について」において、「別段の定め」とは、「労働協約、就業規則及び個々の労働契約(無期労働契約への転換に当たり従前の有期労働契約から労働条件を変更することについての有期労働契約者と使用者との間の個別の合意)をいうものであること」と説明されていることが認められる。
そして、これらを踏まえると、労契法18条1項後段の「別段の定め」とは、労使交渉や個別の契約を通じて現実に合意された労働条件を指すものと解するのが相当であり、無期転換後の労働条件について労使間の合意が調わなかった場合において、直ちに裁判所が補充的意思解釈を行うことで労働条件に関する合意内容を擬制すべきものではなく、Xらが主張するような同一価値労働同一賃金の原則によって労働条件の合意を擬制することが制度上要求されていると解することはできないというべきである。
このことからしても、本件において、Xらが主張する職務評価による職務の価値が同一であれば同一又は同等の待遇とすべき原則(同一価値労働同一賃金の原則)が、平成30年10月1日のXらの無期転換の時点において公の秩序として確立しているとまでは認めるのは困難である。また、Xらと正社員であるBとの職務評価や待遇等と比較しても、無期転換後のXらの労働条件と正社員のそれとの相違が、両者の職務の内容及び配置の変更の範囲等の就業の実態に応じて許容できないほどに均衡が保たれていないとも認め難い。
したがって、この点に関するXらの主張は採用できない。

労契法18条1項後段の「別段の定め」の解釈は基本的な内容ですので、しっかりと押さえておきましょう。

同一労働同一賃金の問題は判断が非常に悩ましいので、顧問弁護士に相談して対応するようにしてください。

同一労働同一賃金23 派遣労働者に対する通勤手当不支給と同一労働同一賃金問題(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

今日は、有期雇用の元派遣社員への通勤手当不支給は不合理でないとする原審の判断が維持された裁判例を見てみましょう。

リクルートスタッフィング事件(大阪高裁令和4年3月15日・労経速2483号29頁)

【事案の概要】

本件は、人材派遣事業等を業とするY社との間で、派遣等による就労の都度、期間の定めのある労働契約を締結し、派遣先事業所等において業務に従事していた派遣労働者が、Y社と期間の定めのない労働契約を締結している従業員と派遣労働者との間で、通勤手当の支給の有無について労働条件の相違が存在し、同相違は、(旧)労働契約法20条に反する違法なものであり、同相違に基づく通勤手当の不支給は不法行為に当たると主張して、Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、未払通勤手当相当額等の支払を求めた事案である。

原審は、Xの請求を棄却したため、これを不服とするXが控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xは、本件通勤手当が通勤交通費を補填する趣旨で支給されているところ、職務内容いかんに関わらず、通勤交通費実費が支給されているのであるから、職務の内容が異なることは不合理性判断には影響しないと主張する。
しかし、職務の内容が全く異なる場合、賃金だけでなく各種手当その他の労働条件について一定の違いが生じることは自然なことである。職務の内容及びこれと密接な関連性があるその他の事情や、通勤手当の支給と関連性があるその他の事情や、通勤手当の支給と関連性を有する他の賃金項目の内容等により、通勤交通費を補填する必要性やその程度は異なってくるのであり、一定の職種区分について通勤手当を支給し、職務の内容が異なる他の職種区分については支給しないこととしても、それを直ちに不合理であると評価することはできない

非常に有名な裁判例です。

通勤手当に関しては原告が主張するような考え方が一般的ですが、派遣社員については異なるようです。

同一労働同一賃金の問題は判断が非常に悩ましいので、顧問弁護士に相談して対応するようにしてください。

同一労働同一賃金22 嘱託・年俸社員における賞与・家族手当等の相違と同一労働同一賃金問題(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、嘱託・年俸社員における賞与・家族手当等の相違と労契法20条違反に関する裁判例を見てみましょう。

科学飼料研究所事件(神戸地裁姫路支部令和3年3月22日・労判1242号5頁)

【事案の概要】

本件は、①Y社と期間の定めのある労働契約を締結して「嘱託」との名称の雇用形態により勤務していたXら及び②Y社と期間の定めのない労働契約を締結して「年俸社員」との名称の雇用形態により勤務していたXらが、Y社と無期労働契約を締結している上記「年俸社員」を除く他の雇用形態に属する無期契約労働者との間で、賞与、家族手当、住宅手当及び昼食手当に相違があることは、労働契約法20条ないし民法90条に違反している旨などを主張して、Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償として、本件手当等に係る賃金に相当する額及び弁護士費用+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

賞与の相違は不合理でない

家族手当、住宅手当の相違は不合理

昼食手当の相違は不合理でない

【判例のポイント】

1 Y社の一般職コース社員に対する賞与は、労働意欲の向上、人材の確保・定着を図る趣旨によるところ、Xら嘱託社員との間の職務内容、職務内容や配置の変更範囲、人材活用の仕組みの各相違、および、再雇用者を除くXら嘱託社員の年間支給額と比較して一般職コース社員の基本給が低い一方、定年後の再雇用者では老齢厚生年金の支給等から賃金が抑制され得ること、さらに、Y社には試験による登用制度があり、嘱託社員としての雇用が固定されたものではないこと等から、一般職コース社員とXら嘱託社員との間の賞与にかかる労働条件の相違は不合理でない

2 Y社の家族手当や住宅手当は、支給要件や金額に照らすと従業員の生活費を補助する趣旨であるところ、扶養者がいることで日常の生活費が増加することは、Xら嘱託社員と一般職コース社員の間で変わりはなく、Xら嘱託社員と一般職コース社員は、いずれも転居を伴う異動は予定されず、住居を持つことで住居費を要することになる点でも違いはないから、家族手当および住宅手当の趣旨は、Xら嘱託社員にも同様に妥当するとされ、これらをまったく支給しないことは不合理である。

3 Y社の昼食手当は、当初は従業員の食事にかかる補助の趣旨で支給されていたが、遅くとも平成4年頃までには、名称にかかわらず、月額給与額を調整する趣旨で支給されていたところ、一般職コース社員とXら嘱託社員との間の職務内容、職務内容や配置の変更範囲、人材活用の仕組み等が異なること、両社員では賃金体系が異なり、一般職コース社員の月額の基本給は、昼食手当を加えてもXら嘱託社員の月額支給額より低いこと、Y社では登用制度が設けられていること等から、一般職コース社員とXら嘱託社員との間の昼食手当にかかる労働条件の相違は不合理でない。

家族手当及び住宅手当の格差については不合理であると判断されています。

転居を伴う異動の有無が考慮要素となりますので注意しましょう。

同一労働同一賃金の問題は判断が非常に悩ましいので、顧問弁護士に相談して対応するようにしてください。

同一労働同一賃金21 無期職員と契約職員との地域手当、住居手当、昇給基準を巡る待遇差と同一労働同一賃金問題(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、無期職員と契約職員との地域手当、住居手当、昇給基準を巡る待遇差が不合理でないとされた裁判例を見てみましょう。

独立行政法人日本スポーツ振興センター事件(東京地裁令和3年1月21日・労経速2449号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結しているXが、①Xの学歴・経歴によれば、Y社の基準に照らし基準月額を81号俸とすべきであるのに、Y社がXに対し、基準月額を61号俸とする労働契約の締結を余儀なくさせた、②Y社が期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を締結している職員に対して支給している地域手当及び住居手当をXに支給せず、また、無期労働契約において設けている昇給基準をXに適用せず昇給させないのは不合理な労働条件の相違であり、平成30年法律第71号による改正前の労働契約法20条(同条は、前記改正により削除され、令和2年4月1日施行の有期雇用労働者法8条に統合された。同条は、前記改正前の労働契約法20条の内容を明確化して統合したものであるから、以下、同法20条に関する当事者の主張は、有期雇用労働法8条による主張と整理した上判断する。)に違反する旨主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として平成28年4月分から令和元年7月分までの基準月額、地域手当、住居手当、基準月額に連動する契約職員手当、超過勤務手当及び特別手当の各差額賃金相当額701万1762円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 無期職員は、転居を伴う異動の可能性があり、配置される地域の物価の高低によって必要とされる生活費に差額が生じることから、勤務地の物価の高低に応じ、生活費の差額を補てんする必要があるといえるが、契約職員は異動が予定されておらず、東京都特別区にしか配置されていないことから、勤務地の物価の高低による生活費の差額は生じず、これを補てんする必要がない。
したがって、無期職員に対して地域手当を支給する一方で、契約社員に対してこれを支給しないという待遇の相違は、不合理であると評価することができるものとはいえないから、有期雇用労働者法8条にいう不合理と認められる待遇に当たらないと解するのが相当である。

2 無期職員は、転居を伴う異動の可能性があり、転居がない場合と比較して住宅に要する費用が多額となり得ることから、住宅に要する費用を補助する必要がある一方、契約職員については東京都特別区内にしか配置されておらず、転居を伴う異動の可能性はない。
したがって、無期職員に対して住居手当を支給する一方で、契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものとはいえないから、有期雇用労働者法8条に違反するものではないと解するのが相当である。

3 本件昇給基準は、無期職員に適用されるものであるところ、その文言によれば、管理又は監督の地位にある職員以外の職員について、「おおむね」、昇給区分Aの割合を100分の5、昇給区分Bの割合を100分の20とするものであって、おおむねの割合を示すものと解されること、及び、本件昇給基準より上位の規定である職員給与規則は、無期職員の昇給は予算の範囲内で行わなければならない旨規定し、昇給に予算の制約を設けていることを考慮すると、本件昇給基準は、昇給区分AないしBとすべき職員の割合についての決まりを設けたものと認めることはできない
したがって、本件昇給基準に関し、無期職員について昇給の決まりを設けているとはいえないから、無期職員について昇給の決まりを設ける一方、契約職員について昇給の決まりを設けていないという不合理な待遇の相違があり、不法行為に該当する旨のXの主張は、その前提を欠くものである。

各種手当に関する格差については、当該手当の趣旨から議論がスタートします。

格差について合理的理由を説明できるか否かがポイントとなります。

同一労働同一賃金の問題は非常にセンシティブですので、顧問弁護士に相談して対応するようにしてください。

同一労働同一賃金20 派遣労働者に対する通勤手当不支給と同一労働同一賃金問題(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、派遣労働者に対する通勤手当不支給の(旧)労契法20条該当性に関する裁判例を見てみましょう。

リクルートスタッフィング事件(大阪地裁令和3年2月25日・労判ジャーナル111号24頁)

【事案の概要】

本件は、人材派遣事業等を業とするY社との間で、派遣等による就労の都度、期間の定めのある労働契約を締結し、派遣先事業所等において業務に従事していた派遣労働者が、Y社と期間の定めのない労働契約を締結している従業員と派遣労働者との間で、通勤手当の支給の有無について労働条件の相違が存在し、同相違は、(旧)労働契約法20条に反する違法なものであり、同相違に基づく通勤手当の不支給は不法行為に当たると主張して、Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、未払通勤手当相当額等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 派遣労働者が派遣スタッフないしOSスタッフとして従事した各JOB及び受託業務における時給額、派遣労働者が要した通勤交通費及びアルバイト・パートの平均時給額の比較によれば、派遣労働者が得ていた時給額はアルバイト・パートの平均時給額よりも相当程度高額であり、その差額は、各JOBにおいては派遣労働者が通勤に要した交通費を支弁するのに不足はないものであり、受託業務においても100円程度上回っており、派遣労働者が通勤に要した交通費の相当部分を補うのに足りるものであったと認められ、派遣スタッフ等の時給は、無期転換スタッフの時給・通勤手当、調整手当と同程度であるから、派遣労働者が得ていた時給額は、一般的にみて、その中から通勤に要した交通費を自己負担することが不合理とまではいえない金額であったということができ、また、派遣労働者の賃金について、通勤手当を含めて総額制にし、別途通勤手当を支給しないこと自体を禁ずる法律は存しないこと等から、当時、派遣労働者に通勤手当を支給しないことが一般的に違法であるとの取扱いがされていたとはいえず、本件相違は、(旧)労働契約法20条の「不合理と認められるもの」と評価することはできないから、本件相違により派遣労働者に対して通勤手当が支給されなかったことについて、不法行為に当たるということはできない

通勤手当に関する格差については、一般的には、違法と判断されますが、今回は、派遣労働者との対比においては、上記判例のポイント1の理由から適用と判断されました。

派遣会社の皆さんは参考にしてください。

同一労働同一賃金の問題は非常にセンシティブですので、顧問弁護士に相談して対応するようにしてください。