Category Archives: 労働者性

労働者性45 元代表取締役が労災保険法上の労働者にあたるとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、元代表取締役が労災保険法上の労働者にあたるとされた事案を見ていきましょう。

国・八代労働基準監督署長事件(熊本地裁令和3年11月17日・労経速2473号29頁)

【事案の概要】

Xは、平成31年1月28日、a社が運営する本件工場において、廃タイヤ・廃プラスチック破砕機のメンテナンス業務に従事中の事故により、左肘関節開放性脱臼骨折等の傷害を負った。

本件は、Xが、上記傷害は労働者の負傷に該当するとして、八代労働基準監督署長に対し労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付の申請をしたところ、八代労働基準監督署長が令和元年6月12日付け及び同月17日付けでこれらを不支給とする決定をしたことが違法であると主張して、本件各処分の取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

労災不支給決定を取り消す。

【判例のポイント】

1 Xがa社の代表取締役を退任した後(本件事故当時)、本件工場に所属する従業員はXを含めて7名であり、工場長(リサイクル部の責任者)はFが務め、副責任者3名とともに本件工場の管理を行っており、Xは本件工場に所属する平社員3名のうちの1人として、Fから毎日朝礼時にその日の作業内容について指示を受け、本件工場内で重機を使用した廃タイヤの片付け作業を行い、Fから個別の指示を受けることもあった一方、Xが他の従業員に指示を出すことはなくなっていたものであり、a社の代表取締役を退任したXが以前の地位を理由にFや本件工場の副責任者から受けた業務上の指示を無視したり拒否したりした事実の存在は窺われない
また、本件工場の業務は顧客等から回収した廃タイヤを処理して製紙工場等への販売用チップに再資源化する業務であり、そのために毎月約150トンもの多量の廃タイヤが本件工場に搬入されていたこと、本件工場の業務量は年間を通じて落ち着いており、基本的にXを含む平社員の従業員の残業はなかったことからすれば、Xは本件工場の平社員として毎日継続的に発生する廃タイヤの処理業務を現場の責任者であるFの指示の下に淡々と行っていたにすぎず、X自身による業務量の調整はされていなかったことが推認されることに加え、Xが代表取締役退任後にその旨をa社の取引先等に通知した上で、専ら本件工場内で就労するようになり、外出をするときには工場長のFに報告し許可を得ていたことを併せ考慮すると、a社とXとの間で労働条件通知書や労働者名簿等が作成されていなかったことや本件事故後にXが雇用保険の被保険者であるとの確認を得られなかったことを踏まえても、Xは、使用者であるa社(直接的には本件工場の責任者であるF)から具体的な業務遂行についての指揮監督を受け、それに従って指示された業務を行っていたというべきであり、Xがその業務に対し諾否の自由を有していたものとは認められない

2 Xは、a社の代表取締役を退任した後、毎日、自宅から約6km離れた場所に所在する本件工場に通勤し、同工場の責任者であるFの指揮監督下に就業規則で定められた稼働時間(午前8時から午後5時までの時間帯)の間、本件工場内で廃タイヤの片付け作業を行っており、本件工場での業務を中断して外出することはほとんどなく、仮に外出する場合には責任者であるFにあらかじめ報告を行う必要があったことに照らすと、a社によりXの業務時間及び業務場所は管理されており、Xはa社における就労のために時間的場所的拘束を受けていたものと認められる。

3 Xが、a社の代表取締役退任の前後を通じて(本件事故発生時まで)本件工場内で重機を使用した廃タイヤの処理作業を行っていたことからすれば、Xのa社における業務(労務)の円滑な遂行がXよりも経験年数の少ない従業員により行うことが可能であったとは考え難いし、少なくともXの従事していた作業を他の者に代わって行わせることが容易であったことを窺わせる事情は認められない。

4 Xは、本件事故当時、a社から本件工場に所属する従業員として毎月基本給20万円の支給を受け、当該基本給から社会保険料の控除及び源泉徴収をされた後の金銭を受領していたことに照らすと、当時Xがa社から支給を受けていた基本給は、Xの本件工場における一定時間の労務の提供への対価たる賃金として支払われていたものと認められる。

5 本件事故の発生当時、Xがa社以外の会社で勤務して報酬を得ていたことはなく、個人的な事業(副業)も行っていなかったこと、Xが本件工場で廃タイヤの処理作業に使用していた重機や工具は、a社の所有物であり、X個人が所有するものはなかったことに加え、Xがa社の代表取締役退任後(本件事故発生の1年以上前)に約14年間加入していた労働者災害補償保険の特別加入者から脱退したことを照らすと、Xのa社における勤務には専従性が認められる一方、Xに事業者性は認められないというべきである。

肩書や役職等の形式面に囚われずに、働き方の実質を具体的に主張することが求められます。

労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性44 ホテルのフロント業務に従事する者の労働者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、ホテルのフロント業務に従事する者の労働者性に関する裁判例を見ていきましょう。

キサラギコーポレーション事件(大阪地裁令和3年8月23日)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、賃金が未払であるとして、雇用契約に基づき未払賃金等の支払を求めるとともに、Y社代表者からセクハラ、誹謗中傷等を受けたとして、会社法350条に基づき損害賠償等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 Xが従事していた業務は、本件ホテルのフロント業務等であったところ、その業務内容に照らしても、XがY社から指示された仕事を受諾するか否かを自由に決定することができていたということはできず、Xが、Y社から打診された業務を拒絶したというというような事情もうかがわれず、また、Y社代表者が、Xに対し、部屋の稼働状況を問い合わせたのに対し、Y社代表者の問合せがあるたびにXが稼働状況を報告していることからすれば、Xは、Y社の指揮命令下にあったということができ、さらに、Xの勤務場所は、本件ホテル内に固定されており、業務に従事する時間もシフトによって定まっていたほか、Xはタイムカードを打刻することが義務付けられていたといえるから、Xの勤務場所・勤務時間には拘束性があったということができ、そして、Xの報酬は、時給制とされており、労務提供の時間によってその額が定めることとされていたものであること、100時間の見習い(研修)期間が設けられていたことなどからに照らせば、Xの報酬は労務対償性を有していたということができるから、Xは、Y社の指揮監督下において労務を提供し、労務提供の対価として報酬を得ていたものであり、本件契約は雇用契約であったと認めるのが相当である。

これを業務委託(請負)とするのは完全に無理があります。

強引に業務委託契約の形をとるとあとで大変なことになりますので気を付けましょう。

労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性43 アイドルの労働基準法上の労働者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、アイドルの労働基準法上の労働者性について見ていきましょう。

Hプロジェクト事件(東京地裁令和3年9月7日・労判ジャーナル119号58頁)

【事案の概要】

本件は、亡Bの相続人である原告らが、Bとアイドル活動等に関する専属マネジメント契約等を締結していたY社に対し、Bは労基法上の労働者であると主張し、Bが上記契約等に基づいて従事した販売応援業務に対する対価として支払われた報酬額は、最低賃金法所定の最低賃金額を下回るとして、労働契約に基づく賃金請求権として、上記報酬額と最低賃金法所定の最低賃金額との差額+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Bは、本件賃金請求期間中、平成28年契約又は本件契約に基づき、Y社が提供するタレント活動のためのトレーニングを受けながら、Y社が企画したり、取引先等から出演依頼を受けたイベント等に参加してライブ等を行ったり、イベント会場に出店した小売店等の販売応援を行うなどのタレント活動を行っていたことが認められる。
Bは、本件グループのイベントの9割程度に参加していたが、イベントへの参加は、本件システムに予定として入力されたイベントについてBが「参加」を選択して初めて義務付けられるものであり、「不参加」を選択したイベントへの参加を強制されることはなかった。また、平成28年契約にも本件契約にも就業時間に関する定めはなかった。
以上によれば、Bは、本件グループのメンバーとしてイベント等に参加するなどのタレント活動を行うか否かについて諾否の自由を有していたというべきであり、Y社に従属して労務を提供していたとはいえず、労基法上の労働者であったと認めることはできないというべきである。

2 本件グループのメンバーに報酬が支払われるようになった経緯に照らすと、本件グループのメンバーに支払われていた報酬は、本件グループのメンバーの励みとなるように、その活動によって上がった収益の一部を分配するものとしての性質が強く、メンバーの労務に対する対償としての性質は弱いというべきである。
また、販売応援に対する報酬は、1回当たり2000円又は3000円を支払うというものであり、Xが指摘するとおり、日当のような外形を有しているものの、これは平日の販売応援に対してのみ支払われるものであり、ライブが行われる土日祝日に販売応援を行ったとしても支払われることはなかった。
本件グループのメンバーは、アイドル活動をすることを目的に本件グループに所属していたものであり、その本来の目的であるライブができたときには販売応援をしても上記のような報酬が支払われることはなかったことに照らすと、上記報酬は、メンバーの多くが参加したがるライブに出演できなかったにもかかわらず、アイドル活動としての性格が相対的に弱い販売応援にのみ従事したメンバーに対し、公平の見地から支払われていたものと見るのが相当であり、このような上記報酬の性質に鑑みると、販売応援という労務に対する対価としての性質は小さかったというべきである。

かなり際どい事実認定だと感じます。

労働者性が争点となる場合には、「どう考えても労働者でしょ」という事案から「微妙だなー」という事案まで幅広くありますが、本件は後者だと思います。

書こうと思えば、逆の結論の判決も普通に書けるのではないかと思います。

労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性42 業務委託契約の性質が労働契約と認められ、契約解消(解雇)が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、業務委託契約の性質が労働契約と認められ、契約解消(解雇)が無効とされた事案を見ていきましょう。

クリエーション事件(東京地裁令和3年7月13日・労経速2465号37頁)

【事案の概要】

本件本訴は、Y社との間で労働契約を締結していたと主張するXが、Y社が令和2年2月28日にした解雇は無効であると主張し、Y社に対し、労働契約上の地位を有することの確認を求めるとともに、解雇日以降の賃金として、令和2年3月から本判決確定の日まで、毎月27日限り10万円(月額35万円から被告に対する貸金債務月額25万円を控除した後の金額)+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 被告は、主にクイックまつげエクステをフランチャイズ展開する事業を営む株式会社であり、直営店舗のほか、加盟店(Y社から研修を受けて証明書の発行を受け、顧客に対して施術を行う店舗)及び代理店(Y社と加盟店を仲介する店舗)を通じてまつげエクステの事業を行っていたこと、Xは、令和元年8月ころから、Y社の事務所の鍵及び携帯電話を交付され、麹町所在の事務所又は恵比寿所在の直営店舗(サロン)において、本部長の肩書で、加盟店の管理(販促物の供給、連絡等)、事務用品の購入、広告及び販促物の作成、セミナー及び講習会のサポート並びにAの秘書業務等の業務を行っていたことが認められる。

2 そして、AはY社の代表取締役であること、X及びAとY社の代理店等が加入するLINEグループが20以上あり、XはAとの間でLINEグループにより、Y社の内部的事務、取引に係る予算及び発注、代理店その他の関係者との連絡等の業務に関するやり取りを行っていたこと、XとAは、LINEグループでのやり取りを通じて、頻繁に業務上の報告、連絡をしていたこと、Xが業務を行うに当たってはAから具体的な指示を受けることが多くあったことが認められ、これらの事情に照らせば、AはXに対して業務上の指揮命令を行う関係にあったと認められる。なお、Aは、X本人尋問において、Xに対し、自らが依頼したコピーを取ることを拒否したことを非難する旨の発言をしているところ、かかる発言からも、AがXに対して指揮命令を行う関係にあったことがうかがわれる

3 また、Xは、休暇を取得する場合はAに報告し、Aの了承を得ていたこと、Aは、令和2年1月ころから、Xに対してタイムカードに打刻するよう求めており、同月28日、Xに対し、「ずいぶんまえから、タイムカードできるよえにしてくださいといいましたが、いつできるのでしょう。」、「きちんと皆んな8時間勤務で、お休みもまえもってわかるようにするために、タイムカードをかったのですが、全然いみがないです。」、「会社は早くても6時までは対応してもらいたいので今月はそのようにおねがいします。」、「タイムカードおしてください。」、「お昼とるとらないは、自由ですが、8時間はいるようにしてください。」などのメッセージを送信したことが認められる。
上記の事実によれば、Xは、Aから具体的な指示を受けてY社の業務を遂行していたと認められ、仕事の依頼や業務の指示に対する諾否の自由を有していたとは認められない。また、Xは、Y社における勤務日や勤務時間について一定の拘束を受けていたというべきであり、これらの事情を考慮すれば、本件契約の性質は労働契約と認めることができる。

労働法規適用回避目的で、業務委託契約を選択する方が少なくありませんが、そのうち、雇用契約と業務委託契約の違いを十分に理解している方がどれほどいるでしょうか。

労働者性に限らず、管理監督者、固定残業代、変形労働時間制等、多くの労働紛争は、使用者の無知から生じているのが現実です。

労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性41 労務DDにより回避可能な雇用契約の存否に関する紛争(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、雇用契約の存否が争点となった裁判例を見ていきましょう。

流通情報センター協同組合事件(東京地裁令和3年7月7日・労判ジャーナル117号46頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社と雇用契約を締結している旨主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、雇用契約に基づく未払賃金及び立替金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

雇用契約の成立を肯定

【判例のポイント】

1 XとY社及びA社との間の雇用契約の存否について、Xは、平成29年12月、組合専務理事であるD及びA社の実質的な代表を務めるFから、Y社及びA社で正式に働いてほしい旨言われてこれを承諾したところ、その際、業務内容については、監査、巡回、受入先企業の相談対応等と、当該業務に対する報酬については、Y社から月額10万円、A社から月額5万円(立替経費については別途精算)とそれぞれ定められ、その後、概ね当該定めに従ってXが業務に従事し、Y社から支払がされたことが認められ、さらに、Xは、Y社及びA社で業務を行うようになった後、当初は、Y社の指示によりFと相談して担当先の割り振りを受けた上、担当の受入先企業を訪問して実地確認等を行い、その結果を記載した報告書をY社に提出していたこと、その余の業務についても、Y社及びA社の指示を受けて行っていたことが認められ、Y社及びA社の指揮命令下で業務に従事していたということができるから、XとY社及びA社との間で、雇用契約が成立したというべきであり、そして、令和元年6月、A社の業務がY社に引き継がれた後も、Xは引き続き従前と同様の業務を行っていたというのであるから、上記引継ぎに伴い、XとA社との間の雇用契約がY社に引き継がれ、未払賃金債務もY社に引き継がれたものと認められる。

仕事の仕方を実質的に検討し、指揮命令下に置かれていると判断される例です。

労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性40 「業務委託」との文言のある契約書に基づく労働の雇用契約該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、「業務委託」との文言のある契約書に基づく労働の雇用契約該当性に関する裁判例を見てみましょう。

サンフィールド事件(大阪地裁令和2年9月4日・労判1251号89頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、(1)①主位的に、雇用契約に基づく賃金請求権として、68万2080円+遅延損害金の支払を求め、②予備的に、業務委託契約に基づく報酬請求権として、68万2080円+遅延損害金の支払を求め、
(2)立替金精算合意に基づく請求権として、8万0918円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、68万2080円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、8万0918円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 そもそも当該契約が雇用契約に該当するか否かは、形式的な契約の文言や形式のいかんにかかわらず、実質的な使用従属性を、労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素をも勘案して総合的に判断すべきである。
これを本件について検討するに、①Xに、Y社からの具体的な仕事の依頼や業務従事の指示等に対する諾否の自由があったとはいえないこと、②Xは、業務内容及びその遂行方法について、Y社又はY社を通じてa社から、具体的な指揮命令を受けていたこと、③Xは、Y社の命令、依頼等により、通常予定されている業務以外の業務に従事することがあったこと、④Xは、Y社又はY社を通じてa社から、勤務場所及び勤務時間の指定及び管理を受けており、労務提供の量及び配分についての裁量はなかったこと、⑤XがX以外の者に労務の提供を委ねることは予定されていなかったことが認められ、これらの事実によれば、Xの労務提供の形態は、Y社の指揮監督下において労務を提供するというものであったということができる。
また、Xの報酬は、出来高制ではなく、時間を単位ないし基礎として計算され、欠勤した場合は応分の報酬が控除され、いわゆる残業をした場合には通常の報酬とは別の手当が支給されるものであったことが認められ、これらの事実によれば、Xの報酬は、Y社の指揮監督下で一定時間労務を提供したことの対価であり労務対償性を有していたということができる。
加えて、Xの採用過程は労働者のそれと同じであり、Xは業務に要した経費を負担していないことが認められ、本件全証拠によっても、Xの報酬が他の労働者の報酬と比して高額であるとか、Xが自己の資金と計算で事業を行っているといった事実は認められない。
以上によれば、Xは、Y社の指揮監督下で労務を提供し、労務の対価として報酬を得ていたものであり、XとY社は使用従属関係にあるということができるから、本件契約は雇用契約に当たるというべきである。

指揮監督関係が存在する場合には、仮に契約書のタイトルが業務委託契約であったとしても、労働者性は肯定されます。

雇用と業務委託の契約の特徴・性質をしっかり理解していないと、多くの場合、雇用と判断されてしまいますのでご注意ください。

労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性39 執行役員として業務に従事していたと主張する者の労働者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、執行役員として業務に従事していたと主張する者の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

リコオテクノ事件(東京地裁令和3年7月19日・労判ジャーナル116号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結し、執行役員として業務に従事していたと主張するXが、Y社がした解雇は無効である旨主張し、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づき、本件解雇日以降の未払賃金等の支払、労働契約に基づき、労働契約締結時から本件解雇日までの未払賃金等の支払、民法650条1項に基づき、Y社のために支出した立替金約2万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

地位確認等請求棄却

立替金支払請求認容

【判例のポイント】

1 Xは、Y社において、事業譲渡の企画・立案・書類の作成に関する業務、資金の調達に関する業務、就業規則等の作成に関する業務、人事関係、決算手続に関する会計事務所との折衝・協議、Y社内の会議の調整、月次資金繰り表の作成、売掛金の回収等の業務に従事していたことが認められるところ、Xは、上記業務のうち主に事業譲渡に関する業務に従事し、同業務については他者からの指揮命令を受けることなく自らの裁量により業務を遂行していたものと考えられ、加えて、Xは、勤務場所及び勤務時間の定めがなく、他の従業員とは異なりタイムカードの打刻を求められていなかった上、Y社の事務所での朝礼に出席した後は、事務所から退出することが多くあったことが認められ、勤務時間及び勤務場所の拘束を受けていなかったといえるから、Xは、Y社において、自らの裁量により業務を遂行していたもので、Y社の指揮命令に基づき業務を遂行していたとは認められず、また、業務の依頼に対する諾否の自由を有していなかったとも認められず、さらに、Xは、勤務時間及び勤務場所の拘束を受けていなかったことも考慮すると、Xの労務の提供が使用従属関係の下になされていたということはできず、本件契約が労働契約の性質を有するものとは認められない。

ここまで自由な働き方が認められていたのであれば、労働者性が否定されてもおかしくありません。

逆に言えば、ここまで広い裁量が与えられていない場合には、労働者と評価されるリスクがありますのでご注意ください。

労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性38 ホテルフロントマン(業務委託)の労働者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、ホテルフロントマン(業務委託)の労働者性に関する裁判例を見ていきましょう。

ブレイントレジャー事件(大阪地裁令和2年9月3日・労判1240号70頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社との間で労働契約を締結したと主張して、Y社に対し、①労働契約に基づき、平成28年7月1日から平成30年6月29日までの間(以下「本件請求期間」という。)の労務提供分につき、労基法37条1項所定の割増賃金合計775万8029円+遅延損害金の各支払い、②労基法114条に基づく付加金575万6920円+遅延損害金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、737万9533円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、付加金520万2182円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 業務内容及び遂行方法に対する指揮命令
Xの業務は、本件業務委託契約書中に、その内容が細かく特定されていた上、同契約書上、Xは、かかる業務をY社の指示によって行い、勤務日ごとに毎回各種状況の報告を行うこととされていた。そして、Xは、実際に、Y社に対し、受託業務報告書の書式を用いて、利用客についての報告事項、引継ぎ事項を記載する欄のほか、一時間ごとの入室中、掃除中及び利用停止中の客室数に至るまで、業務につき詳細な内容の報告を上げていた。このように、Y社による詳細な特定や報告の要求があったことからすると、Xの業務内容及び遂行方法に対しては、Y社の指揮監督が及んでいたということができる。

2 時間的場所的拘束性
Xの業務は、その業務時間が、基本的に午前11時から翌日の午前11時と定められ、業務を行う場所も、本件ホテルという一つの場所に定められているものであって、時間的場所的な拘束性がある

3 労働契約との内容の近似性
Xは、形式上、Y社との間で、業務委託契約を締結している。
他方、午前11時から翌日の午前11時までというXの業務時間は、労働者であるY社の従業員を対象とした就業規則に記載されている始業時刻及び終業時刻の内容と同一である。また、Xが、本件業務委託契約書に基づいて従事する業務内容や、Xの具体的な勤務日の決定方法については、業務委託契約の締結以前に、労働契約に基づいて労務を提供していたときのものと変わりがなかった

4 小括
以上によれば、Xは、Y社との間で、形式的には業務委託契約を締結しているものの、時間的場所的な拘束を受けている上、その業務時間・内容や遂行方法が、Y社との間で労働契約を締結した場合と異なるところがなく、Y社の指揮監督の及ぶものであったことからすると、Xは、実質的には、Y社の指揮命令下で労務提供を行っていたというべきである。

仕事のしかたとして、これを業務委託と考えるのはやはり無理がありますね。

結果、凄まじい残業代となっております。

労働者性に関する判断は難しいケースも中にはありますので、業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

 

労働者性37 コピーライターの労働者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、コピーライターの労働者性ならびに契約解除(解雇)の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ワイアクシス事件(東京地裁令和2年3月25日・労判1239号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社において稼働していたXが、XとY社との間の契約は雇用契約であり、Y社がXに対してした平成30年6月30日付け解雇の意思表示は客観的合理的理由がなく無効である旨主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、雇用契約に基づく賃金支払請求として、本件解雇前の未払賃金223万5927円+遅延損害金並びに本件解雇日以降の月例賃金として平成30年7月から本判決確定の日まで毎月末日限り、月額43万円+遅延損害金の支払を求める事案の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Xが、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

Y社は、Xに対し、223万5927円+遅延損害金を支払え。

Y社は、Xに対し、平成30年7月31日限り43万円、同年8月31日限り28万円、同年9月から本判決確定の日まで毎月末日限り25万8000円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 コピーライティング業務自体についてはその業務の性質上、Y社代表者やY社の社員から具体的な指示はあまりされていなかったものの、顧客のディレクターの指示には従って業務を進める必要があり、Y社においても、Xの業務の進捗状況や進行予定については、毎月2回の定例会議で確認し、Xに対しても他の社員とともに前月の売上げの状況を踏まえた訓示がなされ、少なくとも既存の顧客との関係では売上げを増やすための努力を求められていたと推認されることからすると、これらの業務に対する指示の状況は、コピーライティング業務を委託する場合に通常注文者が行う程度の指示等に留まるものと評価することは困難である。

2 Xは、基本的に週5日、1日8時間以上Y社事務所において上記業務に従事していたことからすると、Xに対する固定報酬は、Xが一定時間労務を提供していることへの対価としての性格を有しているというべきである。

3 Xについては、Y社において正社員を採用する際に作成される内定通知書、採用通知書及び雇用契約書は作成されておらず、Xからも履歴書や身元保証書等の提出がされていないこと、Xが社会保険及び厚生年金等に加入していなかったことが認められる。
しかしながら、Y社は平成21年1月頃、D氏の紹介でXに対して案件ごとに報酬額を協議する形でコピーライティング業務を委託するようになった後、固定報酬制の本件契約を締結していることからすると、他の正社員と採用手続が異なることは労働者性を否定する要素とはいえないと解される。また、社会保険及び厚生年金等に加入していないことについて、Xが本件契約締結当時は加入を求めていなかったとしても、このことが労働者性を否定する要素とはいえない

4 Y社は、本件契約を締結後、Xに対し、固定報酬の支払について「給与明細」を発行し、源泉徴収を行い、毎年、源泉徴収票を発行していたこと、平成28年6月20日付で在職証明書を発行したこと、Y社がXに対して固定報酬の支払が遅延することを連絡するに際し、固定報酬を「給料」と呼称していたことが認められるところ、これらはY社がXを他の社員と同様に労働者として認識していたことを推認させる事情といえる。

5 Xの業務については、具体的な仕事の依頼、業務指示等に対する諾否の自由はなく、Xは、Y社からの指示の下、顧客からの指示に従って業務を行っていたほか、月2回の定例会議における業務の進捗状況の確認を受けるなど、Y社の業務上の指揮監督に従う関係が認められ、時間的場所的拘束性も相当程度あり、業務提供の代替性があったとはいえないことからすると、Y社の指揮監督の下で労働していたものと推認される。これに、Xに支払われる固定報酬の実質は、労務提供の対価の性格を有していると評価できること、Xには事業者性が認められず、専属性がなかったとはいえないこと、Y社もXを労働者として認識していたことが窺われること等を総合して考えれば、Xは、Y社との使用従属関係の下に労務を提供していたと認めるのが相当であって、Xは、労基法9条及び労契法2条1項の労働者に当たるというべきである。

判例のポイント4を見る限り、労働者性は肯定されてもやむを得ないと思われます。

また、固定報酬制を採用している点も労働者性を肯定しやすくしています。

労働者性に関する判断は本当に難しいです。業務委託等の契約形態を採用する際は事前に顧問弁護士に相談することを強くおすすめいたします。

労働者性36 配達業務従事者の労働者性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も一週間がんばりましょう。

今日は、配達業務従事者の労働者性に関する裁判例を見てみましょう。

ロジクエスト事件(東京地裁令和2年11月6日・労判ジャーナル110号42頁)

【事案の概要】

本件は、Y社から依頼を受けて配送業務に従事していたXが、Xは労働契約法2条1項、労働基準法9条の「労働者」に該当するにもかかわらず、Y社が違法な解雇を行ったなどと主張して、不法行為(使用者責任)又は債務不履行による損害賠償請求権に基づき、慰謝料及び逸失利益(給料相当額)50万9000円等の支払を求める事案である。

原判決は、Xの請求を全部棄却する旨の判決を言い渡した。

Xはこれを不服として本件控訴を提起した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xは、本件契約が労働契約に当たる旨主張するが、本件契約は、配送業務に関する基本契約であり、個別の配送業務については、Y社が業務があれば発注することとなっており、Xにその発注についての諾否の自由があるものと認められ、また、本件契約において、Xは、業務の遂行に当たり、本件業務の性質上最低限必要な指示以外は、業務遂行方法等について裁量を有し自ら決定することができることとされ、Xは、配送業務の遂行に当たり、Y社の社名やロゴが入ったエコキャリーカート、ユニフォームを使用しているが、これは円滑な業務遂行を目的としたものである可能性がある以上、Xの労働者性を基礎付けるものとはいえず、そして、本件契約の料金は、配送距離に応じた単価に個々の件数を乗じて算出するものであり、労務提供時間との結びつきは弱いものであるといえ、そして、Y社の募集広告に「1時間当たり850円の手取り保障」「フリー切符代1日1590円支給」との記載があるが、これらの条件は「勤務開始後1か月間の特典」という一時的なものであったことからすれば、これをもってXの労働者性を基礎付けるものとはいえない。

2 Xは、Y社の従業員であるAから、本件契約を解除する旨言われ、押し問答の末、退職合意書に一身上の都合により辞職すると記載の上で署名押印するように言われてその旨記載した旨記載した旨主張するが、本件契約書の規定する契約期間は3ヶ月と短く、本件契約は飽くまで基本契約であり個別の事務処理委託に当たっては個別契約を締結することを要するから、Aには本件契約自体を期間途中で解除する動機や退職合意書なるものをBに記入させる動機があると認め難いことに加えて、Bの供述を裏付ける的確な証拠はないことからすれば、Bの上記供述を直ちに信用することはできない。

労働者性が否定された事案です。

各種労働法の適用回避のために業務委託契約にしているような業種は、日頃から顧問弁護士に相談の上、労働者性が肯定されないように留意する必要があります。