Category Archives: 労働災害

労働災害67(Y興業事件)

おはようございます。
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←先日、「篤」で忘年会を行いました。

写真は、「釣りきんきの塩焼き」です。

普段、きんきは煮付けで食べることが多いので、今回は、焼いてもらいました。

すべての魚が最高級で、満足度が非常に高いお店です! すばらしいです。

今日は、午前中は、顧問先の会社でセミナーが入っています。

テーマは、「第2回 総務部が知っておきたいビジネス法務の基本」です。

午後は、清水の裁判所で交通事故の裁判と債権回収の裁判があり、その後、富士の裁判所へ移動し、裁判が1件入っています。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、会社専属タレントから暴行を受けた社員の療養補償給付等の不支給処分の取消に関する裁判例を見てみましょう。

Y興業事件(東京地裁平成25年8月29日・労判2190号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していたXが、Y社タレントから暴行を受け、頚椎捻挫ないし脳挫傷等の傷害を負い、その後、外傷後ストレス障害(PTSD)を発症し、療養・休業をやむなくされたとして、療養補償給付及び休業補償給付の請求を行ったが、中央労働基準監督署長が療養補償給付及び休業補償給付を支給しない旨の処分を行ったため、これらの処分の取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 業務と傷病との条件関係を肯定するためには、医学的知見等専門的知見に照らし、当該傷病を発病する可能性があると考えられる業務上の負荷が客観的に認められ、当該負荷がなければ当該傷病を発病していなかったとの高度の蓋然性が認められる必要がある。

2 本件事件の発端は、XがEに対して私的にX自身を自己紹介しようとしたところ、Eがその態度に不快感を覚えたというものであって、そのXの行為について業務性は認められないこと、暴行に至る経過において、XがM及びNを呼び捨てにしたことがあるが、その発言自体は、Xの業務との関連性に乏しいことなどからすれば、本件事件による災害の原因が業務にあると評価することは相当ではなく、Xの業務と本件事件による災害及びそれに伴う傷病との間に相当因果関係を認めることができないから、業務起因性を認めることはできない

3 なお、Xは、Eが過去幾多の暴力事件を起こし、社内やテレビ局内でも暴行事件を起こしており、本件事件による災害は、Eを専属タレントとして抱えて業務を遂行する過程に内在化されたリスクというべきであり、業務起因性が認められるとも主張している。しかしながら、Xの主張は具体性を欠いているし、Eが起こしたとされる個々の事案の内容も不明であり、その真偽も定かではないし、本件事件に至るXのEに対する言動がXの業務と関連しないことからすれば、本件事件による災害がEを専属タレントとして抱えて業務を遂行する過程において内在化されたリスクとして発生したとまで評価することは相当ではない。

Y興業といえば、もうあの会社しか思いつかないわけですが・・・。

裁判所は業務起因性を否定し、業務災害とは認めませんでした。

なお、専属タレント・Y社とXとの間では、前2者がXに対し損害賠償欣を支払うことについて、裁判上の和解が成立しているそうです。

労働災害66(O社事件)

おはようございます。

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←先日、顧問契約を結ばせていただいている福井県の社労士の先生にお会いしてきました。

写真は、先生にご馳走になった越前がにです。

このほか、カニのお刺身、焼きがに、せいこがに、かに雑炊などなどをいただきました。

めちゃくちゃおいしかったです!!

先生、今度は、静岡で倍返しですよ! 是非、静岡にお越し下さいませ。

今日は、午前中は、債権回収の裁判が1件、新規相談が2件入っています。

午後は、新規相談が1件、裁判の打合せが2件、刑事事件(否認事件)の証人尋問が入っています。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、キッチンフロアチームリーダーの突然死と業務起因性に関する裁判例を見てみましょう。

O社事件(神戸地裁平成25年3月13日・労判1076号72頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していたXがY社における過重な労働によって心臓性突然死したのは、Y社の安全配慮義務違反によるものであると主張して、Y社に対して、債務不履行又は不法行為に基づき損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、合計約1億円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xにおいて、発症前2か月間にわたって80時間を超える時間外労働がなされており、当時の業務状況等も考慮すると身体的、精神的に負担のかかる過重な労働であったといえ、それによってXに対して過重とそれに伴う睡眠不足により、疲労を蓄積した状態に陥って心身の不調を来した末、心臓性突然死により死亡したものといえ、Xの業務と死亡との間に相当因果関係が認められる。

2 使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の上記注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。そして、使用者ないし上記権限者がこの義務に反した場合は、使用者の債務不履行を構成するとともに不法行為を構成する。
また、使用者が認識すべき予見義務の内容は、生命、健康という被害法益の重大性に鑑み、安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧であれば足り、必ずしも生命、健康に対する障害の性質、程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はない

3 これを本件についてみると、以上の認定事実によれば、A店において、退勤打刻後残業が恒常的に行われていたことは、平成15年12月のQ事件によって明らかになり、退勤打刻後残業等により申告されていた労働時間を大幅に超えて残業していることをY社の労働時間を管理する者が認識し得たものといえるにもかかわらず、Y社は賃金不払い残業の原因について解明して、過重になっていた業務を軽減して適正化するなどの対策を執ることなく、単に退勤打刻後残業等の賃金不払い残業の規制を強化しただけであったから、Y社は、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務に反していたものといえる。したがって、Y社には上記義務違反による不法行為責任があるものと認められる。

残業時間が長い場合、使用者が具体的に労働者の健康状態を認識していないとしても、安全配慮義務違反に問われてしまいます。

労働時間の管理は、使用者の義務であることを再認識する必要がありますね。

労働災害65(ニューメディア総研事件)

おはようございます。
__←先日、スタッフ全員と久しぶりに鷹匠の「TORATTORIA IL Paladino」にランチを食べに行ってきました。

写真は、「山田農園無農薬野菜のペペロンチーノ、アンチョビ風味」です。

やさしい味付けで、おいしゅうございました。

 

今日は、午前中は、沼津の裁判所で離婚調停です。

午後は、静岡に戻り、労働事件の裁判が1件、新規相談が2件入っています。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、過重労働で突然死した女性SEの遺族による損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

ニューメディア総研事件(福岡地裁平成24年10月11日・労判1065号51頁)

【事案の概要】

本件は、Xの相続人らが、Xが死亡したのは承継前被告であるY社における業務の過重負荷に起因するものである旨主張し、不法行為に基づく損害賠償請求又は労働契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求として、Y社に対し、損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、合計約6800万円の支払を命じた。

【判例のポイント】

1 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである(最高裁平成12年3月24日判決)。そして、厚労省認定基準やその運用上の留意点においては、業務の過重性の具体的な評価に当たっては、疲労の蓄積の観点から、労働時間(時間外労働時間)を中心として、不規則の勤務、拘束時間の長い勤務、出張の多い業務、交替制勤務・深夜勤務、作業環境(温度環境・騒音・時差)、精神的緊張を伴う業務等の他の負荷要因について十分検討するものとされ、専門検討会報告書においても、長期間にわたる長時間労働やそれによる睡眠不足に由来する疲労の蓄積が血圧の上昇などを生じさせ、その結果、血管病変等をその自然的経過を超えて増悪させる可能性のあること、また、過労が身体的ストレスのみならず精神的ストレス状態であり、突然死の大きな修飾因子となること、などが指摘されている。

2 Y社は、Xの業務は過重なものではなく、Xの死亡に対する予見可能性はなかった旨主張するが、労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところであり、かつ、本件事故当時におけるXの業務の量・内容が過重負荷なものであり、Y社はそのことを認識し、又は認識し得べき立場にあったのであるから、Y社にはXの死亡に対する予見可能性があったものというべきであり、Y社の上記主張を採用することはできない。

3 Xは、平成19年3月8日にUクリニックを受診しているところ、Y社は、Xや付添いをしていたXの相続人が、医師に自殺未遂の事実を伝えず、また、医師から指示のあった再診を受けず、処方された薬も服用しなかった、として、これが過失相殺事由に該当する旨主張する。
しかしながら、Xの自殺未遂は、Xの業務が脳・親族疾患の発症をもたらす過重なものであったことの顕れとして理解すべきものであるところ、Xは、同クリニックに対し、Y社に入社して10年間、土日にも出社して仕事をしており、オーバーワークの状態にある旨申告しているのであるから、Xが医師に対して自殺未遂の事実を伝えていたかどうかは本質的な問題ではない。また、同クリニックは心療内科であり、処方された薬も神経症(神経衰弱状態)との診断に対する抗不安剤にすぎないから、Xが、同クリニックを再受診し、また、医師から処方された薬を服用したとしても、そのことによって疲労の蓄積から解放され血管病変等をその自然的経過を超えて増悪させる可能性が減少したといえるかどうかには疑問があるといわざるを得ない。

4 Y社は、XがY社に対して再三にわたり回復した旨の連絡と復帰の申入れをし、相続人らもXの上記申入れ等を止めることなくむしろ勧めていた旨主張する
この点、労働者は、一般の社会人として、自己の健康の維持に配慮すべきことが期待されているのは当然であるけれども、Xによる復職の申入れが自身の健康を増悪させることを認識・認容してなされたものとは考えがたく、そのような事実を認め得る証拠は見当たらないし、そもそも、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負っているのであるから、Y社としては、Xが復職をするに当たり、休職前におけるXの稼働状況に鑑み、新たな人員を配置してチームの人員を増やしたり、Xに休暇等を取らせたりしてその疲労の蓄積を解消させる措置をとるなど、業務の量・内容等が過度にならないようなものとする措置を具体的に講じなければならないのであり、Xが再三にわたり復職の申入れをしたとの一事をもって過失相殺事由が存在するということはできない

使用者側は、上記判例のポイント4を是非、参考にしてください。

裁判所としては、このような判断をすることになります。

従業員が復職を求めてきた際は、使用者は復職が客観的に可能か否か、仮に復職を認めるとして、就労環境等に十分に配慮する必要があります。

労働災害64(日本赤十字社(山梨赤十字病院)事件)

おはようございます。
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←先日、休日出勤をしていたスタッフと一緒に、久しぶりに事務所の近くの「くりた」に行ってきました。

写真は、「鴨南ばん」です。

いい出汁が出ていて、おいしゅうございました。

午前中は、労働事件の裁判が1件と交通事故の裁判が1件入っています。

午後は、顧問先会社でのセミナーと打合せが3件入っています。

今日のセミナーのテーマは、「従業員が知っておくべきコンプライアンス講座~基礎編~」です。

全従業員を対象に、最低限知っておくべき法的ルールについてお伝えします。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、うつ病発症・自殺した介護職員の遺族からの損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本赤十字社(山梨赤十字病院)事件(甲府地裁平成24年10月2日・労判1064号37頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の運営するリハビリテーション施設で介護職に従事していたXが自殺により死亡したことについて、Xの妻及び子が、Xは長時間かつ過密な業務に従事していたにもかかわらず、Y社がXの心身の健康を損なうことがないよう配慮する措置を何ら採らなかったため、うつ病エピソードを発症し、前記自殺をするに至ったと主張して、Y社に対し、不法行為ないし債務不履行に基づき、合計8895万3000円の損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、損益相殺後、合計約2500万円の支払を命じた。

【判例のポイント】

1 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは周知のところである。
労働基準法は、労働時間に関する規制を定め、労働安全衛生法65条の3は、作業の内容等を特に限定することなく、事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは、前記のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の前記注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである(最高裁平成12年3月24日判決)。

2 タイムカードは、労働時間を把握する法的義務を負っている使用者が労働者の勤怠を管理するために労働者に打刻させる記録である以上、特段の事情がない限り、労働者がタイムカードに記載された始業時間から終業時間まで業務に従事していたものと事実上推定すべきであって、タイムカードの客観的記載と労働の実態との間に乖離が生じている旨を主張する使用者には、高度の反証が要求されるというべきである

3 Y社においては、職員が時間外労働に従事した場合、その時間や用務等を記載した時間外勤務申請書を提出することとされていたため、Xが現実の時間外労働時間を逐一正確に記載して提出していたか疑わしい上、このような申請書の性格上、労働者が使用者に遠慮して現実に従事した時間外労働時間よりも少なく申告する可能性があることも容易に推察されるところであるから、当該申請書はXの時間外労働時間を客観的に反映したものとはいえない

4 ・・・本件自殺前6か月間のXの時間外労働時間は99時間30分に及んでおり、特に本件自殺前1か月間の時間外労働時間は166時間を超えていた上、業務内容自体の重さ及びE所の責任者に就任することによる業務量及び精神的負荷の増加も考慮すると、Xの担っていた業務は過重なものであったと評価することができる。

5 長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険性のあることは周知の事実であり、うつ病等の精神障害を発症した者に自殺念慮が出現して自殺に至ることは社会通念に照らして異常な出来事とはいえないから、長時間労働等によって労働者が精神障害を発症し、自殺に至った場合においては、使用者が、長時間労働等の実態を認識し、又は認識し得る限り、使用者の予見可能性に欠けるところはないというべきであって、予見可能性の対象として、うつ病を発症していたことの具体的認識等を要するものではないと解するのが相当である

6 Y社においては、職員の勤怠管理を上記のようなタイムカードで行っていた以上、Xの労働時間が長時間に上っていた以上、Xの労働時間が長時間に上っていることや労働内容にも一定の配慮が必要な業務が多いことなどを認識し、あるいは容易に認識し得たにもかかわらず、Y社では、タイムカードを確認してXの労働時間を把握することすらしておらず、Xが適切な業務遂行をなし得るような人的基盤の整備ないし時間外労働時間の減少に向けた適切な指示等をせずに、漫然と放置していたものである。
したがって、Y社は、Xに従事させる業務を定めて管理するに際して、同人が適切な業務遂行をなし得るような人的基盤の整備等を行うなど労働者の心身の健康に配慮し、十分な支援体制を整える注意義務を怠ったものと認められる。

使用者側としては、上記判例のポイント2を参考にしてください。

実際、反証をするのは容易なことではありませんので。

労働災害63(A工業事件)

おはようございます
__←先日、社団法人の理事会終了後、理事のみなさんと「こはく」に行ってきました

写真は、「さくらえびのかき揚げ」です。

みんなプラスのオーラが出ているので、パワーをもらえます。 本当にいい仲間です。

今日は、午前中は、離婚調停と新規相談が1件です。

午後は、新規相談が3件、顧問先会社との打合せが1件入っています。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は特別加入者死亡に対する労災補償不支給決定処分取消請求に関する最高裁判決を見てみましょう。

A工業事件(最高裁平成24年2月24日判決・労判1064号18頁)

【事案の概要】

本件は、建築工事の請負を業とするY社の代表取締役であり労災保険法(改正前のもの)27条1項所定の事業主(中小事業主)の代表者として法28条1項(現行法34条1項)の承認に基づき労災保険に特別加入していたXが、Y社において受注を希望していた工事の予定地の下見に赴く途中で事故により死亡したことに関し、その妻が、Xの死亡は同項2号にいう「業務上死亡したとき」に当たるとして、法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ、広島中央労働基準監督署長から、これらを支給しない旨の決定を受けたため、その取消しを求めた事案である。

本件の争点は、労災保険法28条(現行法34条)1項2号所定の業務上死亡した場合に当たるかである。

第1審判決(広島地裁平成21年4月30日)は、Xの本件下見行為に業務遂行性を認めた。

第2審判決(広島高裁平成22年3月19日)は、一審判決を取り消し、業務遂行性を否定した。

【裁判所の判断】

上告棄却
→業務遂行性を否定

【判例のポイント】

1 法28条1項が定める中小事業主の特別加入の制度は、労働者に関し成立している労災保険の保険関係を前提として、当該保険関係上、中小事業主又はその代表者を労働者とみなすことにより、当該中小事業主又はその代表者に対する法の適用を可能とする制度である。そして、法3条1項、労働保険の保険料の徴収等に関する法律3条によれば、保険関係は、労働者を使用する事業について成立するものであり、その成否は当該事業ごとに判断すべきものであるところ(最高裁平成9年1月23日)、同法4条の2第1項において、保険関係が成立した事業の事業主による政府への届出事項の中に「事業の行われる場所」が含まれており、また、労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則16条1項に基づき労災保険率の適用区分である同施行規則別表第1所定の事業の種類の細目を定める労災保険率適用事業細目表(昭和47年労働省告示第16号)において、同じ建設事業に附帯して行われる事業の中でも当該建設事業の現場内において行われる事業とそうでない事業とで適用される労災保険率の区別がされているものがあることなどに鑑みると、保険関係の成立する事業は、主として場所的な独立性を基準とし、当該一定の場所において一定の組織の下に相関連して行われる作業の一体を単位として区分されるものと解される
そうすると、土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体又はその準備の事業(同施行規則6条2項1号)を行う事業主については、個々の建設等の現場における建築工事等の業務活動と本店等の事務所を拠点とする営業、経営管理その他の業務活動とがそれぞれ別個の事業であって、それぞれその業務の中に労働者を使用するものがあることを前提に、各別に保険関係が成立するものと解される

2 したがって、建設の事業を行う事業主が、その使用する労働者を個々の建設等の現場における事業にのみ従事させ、本店等の事務所を拠点とする営業等の事業に従事させていないときは、上記営業等の事業につき保険関係の成立する余地はないから、上記営業等の事業について、当該事業主が法28条1項に基づく特別加入の承認を受けることはできず、上記営業等の事業に係る業務に起因する事業主又はその代表者の死亡等に関し、その遺族等が法に基づく保険給付を受けることはできないものというべきである

3 Y社は、建設の事業である建築工事の請負業を行っていた事業主であるが、その使用する労働者を、個々の建築の現場における事業にのみ従事させ、本店を拠点とする営業等の事業には全く従事させていなかったものといえる。そうすると、Y社については、その請負に係る建築工事が関係する個々の建築の現場における事業につき保険関係が成立していたにとどまり、上記営業等の事業については保険関係が成立していなかったものといわざるを得ない。そのため、労災保険の特別加入の申請においても、Y社は、個々の建築の現場における事業についてのみ保険関係が成立することを前提として、Xが行う業務の内容を当該事業に係る「建築工事施工(8:00~17:00)」とした上で特別加入の承認を受けたものとみるほかはない
したがって、Xの遺族である上告人は、上記営業等の事業に係る業務に起因するXの死亡に関し、法に基づく保険給付を受けることはできないものというべきところ、本件下見行為は上記営業等の事業に係る業務として行われたものといわざるを得ず、本件下見行為中に発生した本件事故によるXの死亡は上記営業等の事業に係る業務に起因するものというべきであるから、上告人に遺族補償給付等を支給しない旨の本件各処分を適法とした原審の判断は、結論において是認することができる。

特別加入者に関する最高裁の判断です。

参考にしてください。

労働災害62(リゾートソリューション(高松工場・石綿)事件)

おはようございます
写真 (4)←先日、「Venti Due」に行ってきました

定期的に行かないと、気がすみません(笑)

マリナーラとモレッティ。翼君と岬君のような関係です。

今日は、午前中は、顧問先会社の社長との打合せが入っています。

午後は、新規相談が1件、裁判の打合せが1件入っています。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、石綿粉じん吸引等による健康被害と損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

リゾートソリューション(高松工場・石綿)事件
(高松地裁平成24年9月26日・労判1063号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の高松工場で石綿セメント管製造過程での作業に従事していたXらが、Y社が石綿粉じんの飛散抑制、吸引予防、教育、早期発見および救護等の安全配慮義務を尽くさなかったことにより業務遂行中に石綿粉じんを吸引し、これによって石綿肺等の疾病に罹患したと主張し、Y社に対し、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、合計約4000万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 国に予見可能性が生じた時期は別段として、じん肺法は、石綿を具体的に明記した上、前記のように規定したのであるから、じん肺法が施行された昭和35年頃には、一民間企業においても、石綿による健康被害の発生を具体的に予見することは十分可能というべきである

2 じん肺法の施行後もわが国で大量の石綿の使用が継続されたという点については、じん肺法が施行された昭和35年頃には、今日明らかとなっている石綿が人の健康に与える影響の大きさの全部が明らかになっていたとは認められず、じん肺法が施行された以降も大量の石綿の使用が継続されたことは認められるが、同法は、石綿粉じんによる健康被害が発生していることを前提として、粉じん発生抑制、労働者における粉じん対策、健康管理等、適切な管理を行うことにより健康被害の抑制・防止を図るために制定されたものであることからすると、同法施行後の石綿使用・消費量が多かったことをもって、予見可能性、結果回避可能性を否定することはできないというべきである。

3 被告は、防じんマスクや安全衛生手帳の支給などを行っていたのであるから、Xらが自ら石綿粉じん発生抑制、吸引防止のための措置を講じなかったことにも過失があるとして過失相殺をすべきである旨主張する。
しかしながら、X1、X4及びX6らは、石綿粉じんにばく露することを防止するための防じんマスクの支給を受けたことはなく、石綿粉じんによる健康障害発生の可能性や、石綿粉じん抑制のための教育、指導を受けたこともなく、じん肺を早期発見・予防するためのじん肺健康診断を受けたこともなかったのであるから、当該Xらにおいて、石綿粉じんのばく露を避けることは容易ではなく、Xら自ら石綿粉じん発生抑制措置や吸引抑制措置をとらなかったことに過失があると評価することはできない
したがって、Y社の上記主張は採用できず、Y社の過失相殺の主張は採用できない。

4 債務不履行に基づく損害賠償請求権や、不法行為に基づく損害賠償請求権は、その権利行使が可能な時期から消滅時効が進行するものであるところ(民法166条1項)、・・・被告はXの損害賠償請求権は消滅時効により消滅したと主張する。 
しかしながら、従前から発生している損害であったとしても、その後に、新たに合併症が発症した場合などについては、当該合併症については従前に権利行使を行うことが不可能であるから、当該合併症の発症時点から、当該合併症の発症時点から、当該合併症を含めた権利行使が可能になったものと解するのが相当である。
Xは、本件訴訟提起後である平成23年2月10日に続発性気管支炎との診断を受けており、続発性気管支炎は、じん肺法およびじん肺法施行規則において、じん肺の合併症として定められていることからすると、その診断を受けるまで、続発性気管支炎を含めた上での損害賠償請求を行うことは不可能であったといえる。
したがって、Xは、当該診断を受けた日以降から続発性気管支炎を含めた損害賠償請求が可能となったものであり、消滅時効完成前である平成23年10月3日に訴えの変更の形で、その権利行使を行ったことは当裁判所に顕著であるから、消滅時効は完成していないというべきである。

予見可能性、結果回避可能性、過失相殺、消滅時効の起算点に関する裁判所の判断について参考にしてください。

労働災害61(J株式会社事件)

おはようございます GWも終わりましたね。また今週も一週間がんばっていきましょう!!
__←先日、事務所の近くにオープンした「韓国家庭料理 韓旅(kantabi)」に行ってきました

写真は、「海鮮チヂミ」です。外はカリッと、中はフワッとしており、おいしいです。

新しいお店ができたら、とりあえず一度行ってみるのです。

今日は、午前中は、不動産に関する裁判が1件入っています。

午後は、交通事故等の裁判が2件、新規相談が2件入っています。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、石綿で精神障害発病・自殺と業務起因性に関する裁判例を見てみましょう。

J株式会社事件((岡山地裁平成24年9月26日・労判1062号84頁)

【事案の概要】

本件は、業務上の疾病である石綿肺を患っていたXが精神障害を発病し自殺したことに関し、Xの妻が、倉敷労基署長に対し、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金および葬祭料の支給を請求したところ、同署長から、上記自殺による死亡が業務上の死亡に当たらないことを理由として、これらをいずれも支給しない旨の決定を受けたことから、その取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

倉敷労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労働基準法及び労災保険法上の災害補償制度が業務に内在する危険が現実化して労働者に損害を生じた場合には使用者の故意・過失を問うことなくその損害を補償すべきであるという危険責任の法理に基づくものであることに鑑みれば、上記相当因果関係の存在を肯定するためには、当該負傷又は疾病が当該業務に内在する危険が現実化したことによるものであると認められることが必要であると解される(最高裁平成8年1月23日判決)。当該疾病が精神障害の場合、精神障害の成因について環境由来の心理的負荷(ストレス)と個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が生ずるかどうかが決まるという「ストレス-脆弱性」理論が精神医学上の知見として広く受け入れられていると認められることからすれば、業務による心理的負荷が、社会通念上、客観的にみて当該精神障害を発病させる程度に過重といえる場合に、業務に内在する危険が現実化したものとして、上記相当因果関係の存在を肯定し得るものと解するのが相当である。
また、精神障害を発病した者の自殺による死亡については、精神障害によって、正常の認識、行動選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されていた状態で自殺したと認められる場合に、精神障害が原因となって死亡したと認めることができるというべきである。

2 これを本件についてみると、Xは、Y社において、高濃度の石綿暴露作業とされる石綿吹付け作業に従事していたため、昭和62年に石綿肺を発病した。・・・このような、平成2年から10年以上の期間にわたり続く咳や痰の症状や、次第に悪化していく息切れなどの症状は、Xに心理的負荷を与え続け、かつその心理的負荷は次第に大きくなっていったものということができる。また、石綿肺は、根治療法がなく、慢性的な苦しみを与え続け最終的には死に至る危険の高い疾病であるが、Xは、そのことを悲惨な姿で死んでいった同僚らの姿を通じて認識せざるを得ない状況にあり、石綿肺の病状が悪化していく度に、一生続くであろう苦しみや死に対する恐怖を強く感じていたというべきである
・・・以上のことに加えて、じん肺を始めとする慢性呼吸器疾患の患者が精神障害を発病することについての研究報告等が存在することなどをも考慮すれば、石綿肺の病状等によるXの心理的負荷は、社会通念上、客観的にみて本件精神障害を発病させる程度に過重であったというべきである。そして、Xには、石綿肺による病状以外の心理的負荷や個体側の脆弱性、遺伝素因など他に発病因子となり得るような事情が証拠上明らかにはうかがわれないことからすれば、本件精神障害の発病と石綿肺の病状等との間、ひいては本件精神障害の発病と石綿肺発病の原因である業務との間に相当因果関係を認めることができる

本件は、石綿肺→精神障害発症→自殺という因果関係を認めています。

長時間労働→精神障害発症→自殺という因果関係よりもハードルが高いですが、裁判所は肯定しました。

労働災害60(萬屋建設事件)

おはようございます 一週間お疲れ様でした。 明日から3連休ですね。

普通に仕事をしまーす。
__←先日、久しぶりに「エアーフラッシュ」に行ってきました

写真は、「煮込みハンバーグ トマトクリーム」です。 何を食べてもおいしいです。

もう少し近くにお店があったら、間違いなく毎週行っています。

今日は、午前中は、新規相談が1件入っています。

午後は、打合せが2件入っています。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、過重業務により自殺した社員の遺族からの損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

萬屋建設事件(前橋地裁平成24年9月7日・労判1062号32頁)

【事案の概要】

本件は、Xの遺族が、Y社の従業員であったXが、Y社の過失及び安全配慮義務違反により、長時間労働等を過重な業務を強いられた結果、うつ病を発症して自殺をしたと主張し、Y社に対し、不法行為(民709条、715条)及び債務不履行(415条)に基づく損害賠償請求として、合計約9700万円を請求した事案である。

【判例のポイント】

Y社に対し約4000万円の損害賠償義務を認めた。

【判例のポイント】

1 Y社は、使用者としてXを業務に従事させていたのであるから、Xに対し、上記注意義務を負っていたと認定するのが相当である。また、Y社においては、時間外労働時間や休日労働時間について、自己申告制を採用していたのであるから、厚生労働省が策定した本件基準に照らして、Xに対し、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分に説明するとともに、必要に応じて自己申告によって把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、実態調査を実施する等して、Xが過剰な時間外労働をして健康状態を悪化させないようにする義務(労働時間把握義務)があったというべきである
しかし、Y社は、Xを含む従業員が時間外労働及び休日労働をする際、Y社所定の手続をとらずに時間外労働や休日労働をしている従業員がいることを認識しながら、従業員が申告した時間と実際の時間が一致しているか否か調査しようともせず、むしろ月24時間を超える残業時間の申告を認めておらず、労働時間把握義務を懈怠していたというべきである

2 長時間労働の継続等により疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると労働者の心身の健康を損なうおそれがあることは広く知られていることであり、うつ病の発症及びこれによる自殺はその一態様である。
そうすると、使用者としては、上記のような結果を生む原因となる危険な状態の発生事態を回避する必要があるというべきであるから、当該労働者の健康状態の悪化を認識していなくとも、就労環境等に照らして、労働者の健康状態が悪化するおそれがあることを容易に認識しえた場合には、使用者には結果の予見可能性が認められるものと解するのが相当である。
そして、Y社は、Xの業務自体の過重性を認識しており、長時間労働については認識していなかったとしても、それはY社自身が労働時間把握義務を懈怠した結果であるから、本件において、Xが遂行していた過重業務により、通常うつ病に陥り、自殺を図ることを予見することが可能であったというべきである

3 身体に対する加害行為を原因とする被害者の損害賠償請求において、裁判所は、加害者の賠償すべき額を決定するに当たり、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、損害の発生又は拡大に寄与した被害者の性格等の心因的要因を一定の限度でしんしゃくすることができる(最高裁昭和63年4月21日判決)。
この趣旨は、労働者の業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求においても、基本的に同様に解すべきものである。しかしながら、企業等に雇用される労働者の性格は多様であることはいうまでもないところ、ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態も使用者としては予想すべきものということができる。しかも、使用者又はこれに代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行うものは、各労働者がその従事すべき業務に適するか否かを判断して、その配置先、遂行すべき業務の内容等を定めるべきものであり、その際に、各労働者の性格をも考慮するのは当然のことである。
したがって、労働者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因としてしんしゃくすることはできないというべきである(最高裁平成12年3月24日判決)。

4 本件についてみると、Xは、責任感が強く人に頼みごとをしにくい性格であり、この性格も一つの要因となって、本件工事における、現場代理人としての職務について、Dに残業をするよう頼む等することができず、十分に業務を分担することができなかったと認めることができる。しかし、Dは、本件工事の前に担当していた工事を終えた直後に本件工事に配置されており、残業を前提とした業務分担を頼みにくい状況であったことや、D自身残業手当が出ないと考えており、残業をする意欲がなかったこと等に照らすと、必ずしも、Xの性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定さ
れる範囲を外れるものであったために、Dと十分に業務を分担することができなかったと認めることはできない。そして、他にXについて過失相殺をすべき事情を認めることはできないから、Y社の主張は採用することができない。

残業や休日出勤について、自己申告制を採用している会社は、注意しましょう。

使用者は、従業員の労働時間を把握する義務を負っており、また、生命・身体の安全に配慮する義務を負っているという基本を忘れないことが大切です。

残業時間が多くなっている従業員がいたら、速やかに業務内容を見直し、残業時間を減らすように指導することをおすすめします。

労働災害59(米八東日本事件)

おはようございます
__←先日、久しぶりに鷹匠の「Venti Due」に行ってきました

写真は、定番の「マリナーラ」と「モレッティ」です。なにげに最強のコンビです。

おいしゅうございました。

今日は、午前中は、債権者集会が入っています。

午後は、沼津の裁判所で証人尋問が入っていましたが、延期になりましたので、事務所で書面作成です。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、心臓性突発死した従業員に対する安全配慮義務違反に関する裁判例を見てみましょう。

米八東日本事件(新潟地裁平成24年12月6日・労経速2166号15頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが死亡したのは、Y社における過重労働が原因であるとして、Xに対し、XらのうちXの妻子が、労働契約に基づく安全配慮義務違反に基づき、Xの母が不法行為に基づき、損害賠償の支払を求めた事案である。

なお、Y社の店舗の店長であったXは、有給休暇を取得して深夜にテレビでワールドカップの決勝戦を観戦していたが、翌朝ぐったりとして反応がなく病院に搬送されたが、心臓性突発死により死亡した(享年36歳)ことが同病院で確認された。

【裁判所の判断】

Y社の安全配慮義務違反を認定
→Y社に対して、合計約4000万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 労働者が長期間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは周知のところである。したがって、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことのないように注意する義務を負う。

2 Y社本社は、一般に70時間を超える超過勤務を指導していたこと、Xのタイムカードのチェックを行っていたことが認められ、Y社は、Xの長時間労働の実態を認識していたものであるから、それによる心身の健康を損なう何らかの疾患の発症を予見できたものと認められる。したがって、Y社は、発症予防のため、過重な労働を是正する措置をとる義務があったものであり、Y社が同義務を遵守すれば、Xは、過重労働による心臓性突然死を避けることができたのに、Y社はこれを怠り、その結果、Xの心臓性突然死をもたらしたものであり、Xに対して損害賠償責任を負う。
この点につき、Y社は、心臓性突然死についてはその原因が不明であるから予見可能性や結果回避可能性がない旨主張するが、上記のとおりY社にはXにおける心身の健康を損なう何らかの疾病の発症については予見可能性や回避可能性が認められるところ、予見の対象としては心臓性突然死という具体的な症状までは不要というべきであるから、Y社の主張は採用できない。

3 Y社におけるXの労働は過重であったと認められるが、本件店舗の店長であるXは、これを是正するため、Y社に申し出て業務量ないし労働時間の軽減を図ることが可能な立場にあったにもかかわらず、そのような申出をしたことは認められない。また、Xは、平成18年6月9日から深夜のワールドカップ中継を観ており、特に同年7月3日から休暇を取得していたのであるから、その間、疲労回復に努め、心身の休養を図ることは可能であったにもかかわらず、深夜のワールドカップ中継視聴を継続していた。Xの心臓性突然死がワールドカップ決勝戦を観るために深夜一人でいた際に発症していることなどからすると、同発症にはこれらの要因が影響していることは否定できず、その他本件で認められる全事情を総合考慮すると、損害の公平な分担のためには、損害について3割の過失相殺をするのが相当と認める。

4 Y社は、本件のように債務不履行に基づく請求については債権者は弁護士費用その他の費用を請求できない旨主張する。しかし、労働者が、使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求するため訴えを提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる範囲内のものに限り、上記安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきであるから(最高裁平成24年2月24日)、同主張は採用できない。

長時間の残業が継続的に行われている場合には、使用者の安全配慮義務違反を認定されやすいです。

見て見ぬふりをしていると、大変なことになりますので、注意しましょう。

本件では、Xが店長という立場にあったことが過失相殺の一要素となっていますね。

自分で業務時間を軽減できる立場にあったということが理由です。

現実にそれが可能であったかどうかはわかりません。

労働災害58(後藤塗料商会事件)

おはようございます
__←先日、顧問先会社の社長とともに「博」に行きました

突然、毛ガニが出てきました。

言うまでもなく、味は秀逸です! すばらしい!!

今日は、午前中は、弁護士会で法律相談が入っています。

午後は、不動産関係の裁判が1件入っています。

最近、不動産関係の裁判が非常に多いです。

土曜日のセミナーの準備をしないと・・・

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、労災の特別加入者による労災保険不支給処分の取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

後藤塗料商会事件(東京地裁平成24年7月20日・労判1058号84頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の代表取締役であるXが、就業中に脚立から滑り落ちて左足を負傷し、左リスフラン関節脱臼の傷害を負ったことが、業務遂行中の災害であると主張して、労働者災害補償保険法の特別加入者として、同法に基づく療養補償給付および休業補償給付の支給を請求したところ、品川労基署長が、本件傷害は業務遂行中の災害とは認められないという理由でこれらをいずれも支給しない旨の処分をしたことから、Xが、国に対し、本件各不支給処分の取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

本件各不支給処分は違法

【判例のポイント】

1 特別加入制度は、労働基準法上の労働者に該当しない者であっても、業務の実情、災害の発生状況等に照らし、実質的に労働基準法の適用労働者に準じて保護するにふさわしい者もいることから、かかる者に対し、保険技術的な観点から可能な範囲において、労災保険を適用しようとする制度であるところ、特別加入者の被った災害が業務災害として保護される場合の業務の範囲をあくまでも労働者の行う業務に準じた業務の範囲としており、特別加入者の行う業務に関するすべての行為に対して労災保険による保護を与える趣旨のものではないと解される。そのため、本件通達は、要件を定めて、これを満たす行為に限り、業務遂行性を認めるとし、その1つとして、要件ロ「労働者の時間外労働または休日労働に応じて就業する場合」が定められている。
かかる趣旨によれば、要件ロの注の「労働者の所定労働時間外における特別加入者の業務行為については、当該事業場の労働者が時間外労働又は休日労働を行っている時間の範囲において業務遂行性を認めるものである。」という定めのうち「特別加入者の業務行為」については、要件イと別異に解する理由はなく、中小事業主の行為が、要件イの「特別加入申請書別紙の業務の内容欄に記載された所定労働時間内において、特別加入の申請に係る事業のためにする行為(当該行為が事業主の立場において行う事業主本来の業務を除く。)及びこれに直接附帯する行為(生理的行為、反射的行為、準備・後始末行為、必要行為、合理的行為及び緊急業務行為をいう。)を行う場合」に当たることを要するものというべきである。

2 なお、要件ロが、要件イのように中小事業主の時間外労働や休日労働に当たる行為という定め方をしなかったのは、中小事業主の場合は、自己の判断で時間外労働に従事することとなり、労働者とみなされる業務を遂行している際に被災したものか、事業主の立場において行った事業主本来の業務中に被災したものか等を判断できない事態が生じうるため、時間外労働や休日労働に従事していた労働者の陳述等によって、中小事業主が時間外労働や休日労働に従事していたことを証明させることとしたものと解される

3 Y社は塗料販売を業とする会社であり、会社の規模は役員2名、従業員3名という極めて小規模な会社であること、Xが本件受傷当時行っていた作業は店舗内の美化のための商品棚や壁の塗装であること、作業の態様も脚立の1.3mの高さの天板に腰掛けて、刷毛でペンキを壁に塗っていたものであることなどに照らせば、本件行為はあくまでも塗料販売を行う本件店舗の美化のために必要な行為であり、Xの特別加入申請にかかる事業である「塗料販売」の必要行為であるというべきであるから、「塗料販売」に直接附帯する行為であると認めることができる
以上によれば、Xは、本件受傷当時、「労働者の時間外労働に応じて就業していた」ものと認めることができるから、前記要件ロに該当し、本件受傷は、労災保険法7条の「業務上の負傷」に該当するというべきである(業務遂行性が認められる以上、本件受傷が業務に起因することは明らかである。)。

労災保険の特別加入に関する裁判例はあまり見かけませんが、いつか取り扱うかもしれません。

日頃から準備をして、いざというときに適切に対応できるようにしなければいけません。

すべては準備が大切ですね。