Category Archives: 労働災害

労働災害87 労時間労働を理由とする従業員の自殺について使用者の安全配慮義務違反が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、従業員の自殺につき安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が認められなかった事案を見てみましょう。

ヤマダ電機事件(前橋地裁高崎支部平成28年5月19日・労経速2285号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員として勤務していた亡Xが平成19年9月19日に自殺をしたことについて、同人の相続人である原告らが、亡Xの自殺はY社における長時間にわたる時間外労働や過度な業務の負担によりうつ病に罹患したためのものであると主張して、安全配慮義務違反(債務不履行)に基づく損害賠償として、原告1に対し8620万4734円、原告2及び原告3に対しそれぞれ1736万7455円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ・・亡Xの業務上の負荷について、軽かったということはできず、一定の負荷が生じていたことは否定できない。
しかしながら、原告らが主張するような、亡Xが月100時間を超える時間外労働をしていたという事実が認められないのは前記のとおりであって、長時間労働と精神疾患の発症との明確な関連性はまだ十分には示されていないとの医学的知見に照らせば、亡Xの時間外労働時間が死亡直近の1か月でおおよそ94時間30分、死亡直近の1週間でおおよそ39時間55分に及んでいる点のみをもって、亡Xが極めて強い業務上の負荷を受けていたと直ちに評することはできない。 

2 亡Xの業務上の負荷については、フロアー長への昇格や短期間での労働時間の増加により、一定程度の心理的負荷が生じていたということは否定できないが、他方、開店準備作業に大幅な遅れが生じていたとは認められないこと、作業期間中の亡Xの具体的業務について、特段の負荷が生じる内容であるとは認められず、本件過誤についても強い心理的負担を生じるものとはいえないこと、Y社の支援・協力体制に不備があったとはいえない上、店舗内の人間関係についても特段問題はなかったことなどからすれば、亡Xについて、精神障害を発症させるほどの強い業務上の負荷が生じていたとはいえないというべきである。

3 ・・・以上の点を考慮すると、亡Xが9月15日の時点で重症うつ病エピソードを発症していたとの労災医員意見書は採用することはできず、その他、亡Xが上記精神障害を発症していたことを認めるに足る証拠はない。
そうすると、本件においては、亡Xが自殺をした動機や原因については結局のところ不明であるといわざるを得ないが、その交際関係など他に了解可能な動機がある可能性は否定できず、また、平成11年に警察庁が公表した自殺の動機に関する統計資料において、「不詳」とされているものが約7パーセント存在することも考慮すれば、亡Xが自殺した点のみをもって、何らかの精神障害を発症していたとみることもできない。

長時間労働等を理由として労災認定されているにもかかわらず、使用者が安全配慮義務違反を認めなかった裁判例です。

労働者側としては油断ならない判断です。

使用者側としては、労災認定がされていても訴訟では異なる事実認定がなされる可能性があることを理解し、先入観を持たずに主張立証をしなければなりません。

労働災害86(市川エフエム放送事件)

おはようございます。

今日は、自殺した精神疾患を有するDJの職場復帰への対応と安全配慮義務に関する裁判例を見てみましょう。

市川エフエム放送事件(千葉地裁平成27年7月8日・労判1127号84頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが自殺をしたことについて、安全配慮義務違反があったと主張するXの相続人が、Y社に対し、損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、約3000万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 Y社は、Xの職場復帰を認めた平成23年10月7日の時点で、・・・に照らせば、Xの精神状態や他の従業員との人間関係に改善が見られない状態で、職場復帰を認めれば、Xが再度自殺を試みることは予想できたというべきである。
・・・その結果、Xは、職場復帰後、外形的には精力的に職務をこなしていたものの、内面では、極めて多忙であることに疲弊し、職場での人間関係は更に良くなくなっていると感じていたことが認められ、その結果、Y社の職場を壊したのは自分であり、自殺することしか責任を取る方法はないと思い込み、自殺に至ったものと推認できる

2 Aは、Xの職場復帰に当たり、Bの勤務日との調整をするなど一応の配慮をしているほか、X自身、継続的にC医師の診察を受けており、専門家による指導下にあったという事情は認められるものの、そのような状況下においてすでに自殺未遂を起こしているわけであるから、このことをより深刻に捉え、Xの職場復帰の可否を判断するに当たっては、Xに臨床心理士の診察を受けさせ、あるいは、自ら臨床心理士や主治医であるC医師と相談するなど、Xの治療状況の確認や職場における人間関係の調整などについて専門家の助言を得た上で行うべきであった
しかるに、Aは、上記のとおり、自分だけの判断でXの職場復帰及び業務内容を決めたものであり、その業務内容も前記のとおり、Xの精神的・身体的状態を十分配慮したものとはいえないものであったことからすれば、Aの対応は、Xの生命身体に対する安全配慮義務に違反するものというべきである。

3 Xは、Y社に就労する以前から精神疾患に罹患しており、自殺に結びつく素因を有していたこと、Xは、自殺未遂後、主治医であるC医師から3週間ほど休むよう勧められたにもかかわらず、その指導を受け入れなかったこと、Xは、C医師にジェイゾロフトなどの服薬を止めたい旨を申し入れ、C医師の了解を得たが、この服薬の中止がXの精神状態に何らかの悪影響を及ぼした可能性を否定できないこと、Xは、Y社から10日間の休暇を取る了解を得られ、休養の機会を与えられたにもかかわらず、それをあえて短縮して職場復帰をしたこと、Y社の職場における人間関係の悪化について、X自身相当程度の寄与をしていることが認められることなどに照らせば、XとAとの立場の違いや、Y社に求められる前記安全配慮義務違反の内容を考慮しても、Xに認められる前記損害について、損害の公平な分担という観点から、過失相殺ないしその類推適用により、3割を減額するのが相当である。

精神疾患を理由とする休職後、職場復帰をさせる際、使用者としては、細心の注意を払う必要があります。

上記判例のポイント2を理解し、リスクヘッジを図るべきです。

独自の判断だけで手続を進めることは決しておすすめしません。

労働災害85(七十七銀行(女川支店)事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、震災による津波で死亡した行員らの遺族による損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

七十七銀行(女川支店)事件(仙台高裁平成27年4月22日・労判1123号48頁)

【事案の概要】

平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(本件地震)による津波により、宮城県牡鹿郡女川町(女川町)に所在する被控訴人女川支店において、勤務中に同支店屋上(本件屋上)に避難していた行員及び派遣スタッフ合計12名が流されて死亡し、又は行方不明となった。

本件は、上記行員及び派遣スタッフらのうち3名の相続人である控訴人らが、被控訴人に対し、上記被災について、被控訴人において上記行員らに対する安全配慮義務違反があったと主張して、債務不履行又は不法行為(民法709条、715条)に基づき、上記行員らから相続した各損害賠償金及びその遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、Xらの請求をいずれも棄却したところ、控訴人らが控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 津波からの避難場所を決定するについては、津波の危険性が生命にかかわるものであること及び津波からの有効な避難の方法が津波の到達しない高台への避難であることからすれば、収集した情報に基づき、津波の高さ及び到達時刻、避難することが可能な場所及び選択の対象となる各避難場所までの避難に要する時間と避難経路に存在する危険性等を総合して判断すべきであると解するのが相当である
そして、本件においては、女川町への津波の到達予定時刻を本件地震発生当日の午後3時とする予想があったから、これに先立ち避難指示を行う必要があったといえるところ、上記のとおり、本件屋上は、事前に想定されていた高さの津波から避難することができる場所であり、また、同時点までの情報において、本件屋上を超えるほどの高さの津波が襲来する危険性を具体的に予見し得る情報は存在していなかったことからすれば、女川支店長において、本件地震発生後、本件屋上への避難を指示し、直ちにより高い避難場所である堀切山への避難を指示しなかったことについて、被控訴人に安全配慮義務違反があったと認めることはできない

2 確かに、襲来する可能性のある津波の高さを確実に予想することができない以上、津波災害による人命の被害をより確実に防止するためには、津波が襲来することについて具体的な予見可能性がある場面では、事前に想定されていた津波の高さや警報等により予想された津波の高さにかかわらず、より安全な場所に避難するよう尽力する必要があるといえる。
しかし、現状においては、津波に関して、その高さのみならず到達時刻についてさえも確実に予測することは困難であり、さらに、大きな地震があれば、通常は、建物や道路が損壊したり強い余震が発生したりするものであり、これらの事情のため、避難を行うことについては相応の危険を伴うことになるところ、避難場所を決定するに際して、このような危険についても考慮の上で避難を行う必要がある。
そのため、津波の襲来が迫り、到達時刻も確定し得ない状況下で、避難場所の相対的な安全の優劣を判断して避難場所を決定することについては困難があるといえる
また、より遠く、より高い場所に避難すれば津波からの安全性は高まることになるから、特定の場所を避難場所として予定している場合においても、それよりも安全な場所は広範に存在し得ることになる。
これらの事情を考慮すると、津波の高さや到達時刻等に関する予想を考慮せずにより安全な場所の存否を基準とする避難行動を義務付けるとすれば、際限のない避難行動を求められ、結果的には、事後的に判断して安全であった避難場所への避難が行われない限り義務違反が認められることになりかねない。
よって、より安全な避難場所がある場合にはそこに避難すべき旨の安全配慮義務を課することは、義務者に対して、不確定ないし過大な義務を課することになるから相当とはいえない
したがって、津波からの避難に関して安全配慮義務に違反したか否かを検討するに当たっては、襲来する津波の高さや到達時刻等に関する専門家による合理的な予想が存在する場合には、これを疑うに足りる情報が存在しない限り、これを前提として適切な対応をとったかどうかという観点から避難行動の適否を評価するのが相当である。

自然災害発生時の使用者の安全配慮義務について大変参考になります。

東海地方にもいずれ大きな地震が起こることが予想されていますので、使用者としては何をどの程度準備すればよいのか、予め把握しておく必要があります。

労働災害84(積水ハウス事件)

おはようございます。

今日は、受動喫煙等に関する安全配慮義務違反が認められないとされた裁判例を見てみましょう。

積水ハウス事件(大阪地裁平成27年2月23日・労経速2248号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、Y社に対し、①Y社は、Xが勤務先であるY社工場において恒常的に受動喫煙を強いられていたにもかかわらず、受動喫煙対策を講じず、Xを受動喫煙症及び化学物質過敏症に罹患させたと主張して、安全配慮義務違反(債務不履行)に基づき、損害賠償金296万2283円及び遅延損害金の支払を、②Y社は、関節リウマチに罹患していたXを、手足の負担がかかる作業に従事させて関節痛や手首、膝等の機能障害を生じさせたと主張して、安全配慮義務違反(債務不履行)に基づき、損害賠償金299万9038円の一部である290万円及び遅延損害金の支払を、それぞれ請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ①Y社が、平成15年の健康増進法(25条)の施行等を受け、同年12月には、本件工場総務部事務所を禁煙とする、総務課及び業務課のある建物内に喫煙所を設ける、各課事務所に併設された休憩所内にビニールの暖簾やカーテン等で仕切られた喫煙スペースを設置する等の分煙措置を採り、その際、従業員らに対し、喫煙は喫煙所や喫煙コーナー等の指定場所で行うよう指示、指導したこと、②Y社は、平成17年8月頃、X、Y社産業医間の面談を経て、Xからミシン室を禁煙にするようにとの申入れを受け、そのt浴後の同年秋頃、ミシン室を禁煙にして同室内に禁煙の張り紙を掲示し、これにより、ミシン室でタバコを吸う者はいなくなったこと、③平成17年8月以前には、総務課及び業務課に所属していた喫煙者の中には、ミシン室で喫煙していた者がいたが、本件工場のほとんどの喫煙者は所定の喫煙所等で喫煙しており、多くの喫煙者が日常的にミシン室で喫煙していたということはなかったこと、・・・以上の諸事情が認められる。

2 そして、これらの諸事情によれば、Y社は、法改正等を踏まえ、Xを含む従業員が本件工場内で受動喫煙状態になることがないよう、Xの申出を受ければ、その都度、相応の受動喫煙防止のための対策を講じてきたものであり、Xが、Y社での勤務において、受動喫煙状態を強いられていたとまでは評することはできないのであって、Y社が受動喫煙対策に関する安全配慮義務に違反したとまでは認めることはできない

3 ・・・以上のように、Y社は、Xからの申し出を受ける度に、Xとの面談を行うなどして、その希望や健康状態等を聴取し、ときに産業医と相談するなどして、関節リウマチに罹患していたXの身体に配慮し、Xにとって無理がなく、なるべく負担の少ない作業をその都度検討し、Xの了承を得た上で、代替作業の提案等、Xの要望に合致するような作業を提案するなどしてきたものといえる。
以上によれば、Xの関節痛の悪化等につきY社に安全配慮義務違反があったとまでは認めるに至らず、他に、Y社がXの関節痛等に関する安全配慮義務に違反したことを基礎づける事実を認めるに足りる証拠はない。

これまでにも受動喫煙を巡り裁判が起こされてきましたが、ハードルは高いですね。

まして、今回の会社のようにやるべきことをやっている場合には、安全配慮義務を尽くしていると判断されます。

なかなかここまでのことができる会社は多くないと思います。すばらしいですね。

労働災害83(フォーカスシステムズ事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、遺族補償年金についての損益相殺的調整に関する最高裁判例を見てみましょう。

フォーカスシステムズ事件(最高裁平成27年3月4日・労判1114号6頁)

【事案の概要】

本件は、過度の飲酒による急性アルコール中毒から心停止に至り死亡したXの相続人が、Xが死亡したのは、長時間の時間外労働等による心理的負荷の蓄積によって精神障害を発症し、正常な判断能力を欠く状態で飲酒したためであると主張して、Xを雇用していたY社に対し、不法行為又は債務不履行に基づき、損害賠償を求める事案である。

原審は、Y社の安全配慮義務違反を認め、不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償義務を認定するとともに、Xの過失割合は3割と認定した。

【裁判所の判断】

上告棄却

【判例のポイント】

1 遺族補償年金は、労働者の死亡による遺族の被扶養利益の喪失の填補を目的とする保険給付であり、その目的に従い、法令に基づき、定められた額が定められた時期に定期的に支給されるものとされているが、これは、遺族の被扶養利益の喪失が現実化する都度ないし現実化するのに対応して、その支給を行うことを制度上予定しているものと解されるのであって、制度の趣旨に沿った支給がされる限り、その支給分については当該遺族に被扶養利益の喪失が生じなかったとみることが相当である。そして、上記の支給に係る損害が被害者の逸失利益等の消極損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有することは、上記のとおりである。
上述した損害の算定の在り方と上記のような遺族補償年金の給付の意義等に照らせば、不法行為により死亡した被害者の相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定することにより、上記相続人が喪失した被扶養利益が填補されたこととなる場合には、その限度で、被害者の逸失利益等の消極損害は現実にはないものと評価できる

2 以上によれば、被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、その填補の対象となる損害は不法行為の時に填補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが公平の見地からみて相当であるというべきである(最高裁平成22年9月13日判決参照)。
以上説示するところに従い、所論引用の当裁判所平成16年12月20日判決は、上記判断と抵触する限度において、これは変更すべきである。

有名な最高裁判例なのでご存じの方も多いと思いますが紹介しておきます。

労働災害82(メルシャン事件)

おはようございます。

今日は、うつ病の業務起因性と休業補償給付不支給決定取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

メルシャン事件(東京地裁平成26年10月9日・労判1110号70頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、業務に起因して精神障害(うつ病)が発症したとして、労災保険法による休業補償給付を請求したところ、中央労働基準監督署長が平成23年2月8日付で同給付を支給しない旨の決定をしたことから、その取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 改正判断指針・認定基準は、裁判所による行政処分の違法性判断を直接拘束するものではないが、作成経緯や内容に照らせば相応の合理性を有しており、労災保険制度の趣旨にもかなうものである。そこで、業務と当該精神障害発症との相当因果関係を判断するに当たっては、改正判断指針・認定基準を踏まえつつ、当該労働者に関する精神障害の発症に至るまでの具体的事情を総合的に斟酌することが相当である。

2 XのY社出向は、Xの体調等に配慮した上での暫定的な措置としてされた人事異動であることが認められるのであって、本件会社がXに対するパワーハラスメント又は退職勧奨の意図をもって、Y社出向中のXの処遇を決定したものとは認められない
・・・XがY社出向中に隔離され、ISO9001の審査員補資格の取得に関する学習・研究以外の仕事を一切与えられないというネグレクト行為を受けたとのX主張事実を認めることはできないから、これらの点をXが業務により受けた心理的負荷の出来事として考慮することはできない。

3 Aの叱責に関する品質保証部の関係者の認識は、①その対象がXに限られていたわけではなく、Xに対して行われた頻度も、品質保証部の他の従業員よりは多かったが、それは、Xがお客様相談室からのクレーム処理を担当しており、Aに対し頻繁に報告を要するものであったことが理由となっていた、②Aの叱責は、Xを指導する際に、それ自体として人格否定的な言辞を用いたり、内容として理不尽であったりしたことはなく、執拗な面はあったものの、内容としては理論的で、議論を戦わせているうちに口調が厳しくなっていったというものであり、Xの上記供述部分とは必ずしも符合しない。
・・・そうすると、Aの叱責の状況は、当時の品質保証部に在籍していた関係者が証言等する内容・程度を超えるものであったとは認めるに足りない。

配転や出向を退職勧奨の意図で行うと、違法無効と判断されることがあります。

本件では合理的な理由が認められたのでセーフでした。

また、パワハラについても、人格否定的な発言、理不尽な内容ではなく、叱責は指導の範囲と評価されたため、認定されませんでした。

労働災害81(ホットスタッフ事件)

おはようございます。

今日は、中国ロケ中の宴会での過度の飲酒・死亡と業務起因性に関する裁判例を見てみましょう。

ホットスタッフ事件(東京地裁平成26年3月19日・労判1107号86頁)

【事案の概要】

本件は、Xが雇用主であるY社の業務として行った出張中にアルコールを大量摂取し、その後に嘔吐し、吐しゃ物を気管に詰まらせて窒息死したことについて、労災保険法7条1項に規定する労働者の業務上の死亡に当たると主張し、渋谷労働基準監督署長に対し、Xの遺族において遺族補償一時金、葬祭料を請求したのに対し、本件処分行政庁がいずれも支給しない旨の処分をしたため、原告らにおいて、各不支給処分の取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 Xを含む本件日本人スタッフは、本件第2会合を、本件中国ロケの重要な目的である本件飛行場の撮影許可を得る窓口であるJほか鎮委員会の要人との親睦を深めることのできるいわば絶好の機会であると認識し、中国人参加者の気分を害さず、また好印象を持ってもらうため、勧められるがまま、「乾杯」に応じざるを得なかったものということができる。
これらの事情からすると、Xにおいて、本件第2会合において、積極的に私的な遊興行為として飲酒をしていたと評価すべき事実を見いだすことはできず、むしろ、本件第2会合において「乾杯」に伴う飲酒は、本件中国ロケにおける業務の遂行に必要不可欠なものであり、Xも、本件日本人スタッフの一員として、身体機能に支障が生じるおそれがあったにもかかわらず、本件中国ロケにおける業務の遂行のために、やむを得ず自らの限界を超える量のアルコールを摂取したと認めるのが相当である

2 Xは、酒を捨てるなどして過度の飲酒を防ぐ方法があることを認識していたが、本件日本人スタッフがそれぞれ複数の中国人参加者に囲まれ、「乾杯」を勧められていたという本件第2会合の状況に鑑みれば、本件日本人スタッフは、いずれにせよ相当程度の飲酒を余儀なくされることになるものといわざるを得ず、過度の飲酒にわたらないように途中で酒を捨てるといった対策を実効的な程度に至るまでとるということは、事実上、相当に困難であったといわざるを得ない(X同様、中国における宴会の経験を有し、かつ、酒に弱いことを自覚していたEは、途中でトイレに吐きに行くなどの対策を講じたにもかかわらず、本件第2会合終了時には、過度の飲酒により動くことができなくなっていた)。したがって、Xが過度の飲酒を防ぐことができたにもかかわらずこれを怠ったということもできない。

3 以上の検討によれば、本件第2会合における飲酒行為により、Xが咽頭反射の反応がない状態で嘔吐したことは、同人の従事していた業務である本件中国ロケに内在する危険性が発現したものとして、業務の間の相当因果関係が認められ、これによって本件事故が発生したものであるから、本件事故は、労災保険法12条の8第2項、労基法79条、80条にいう「労働者が業務上死亡した場合」に該当するものというべきである。

なかなかきわどい判断ですね。

裁判体が異なれば、結論も異なったと思われます。

もっとも、個人的には、本判決の結論に賛成です。

労働災害80(アズコムデータセキュリティ事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、安全配慮義務違反等が認められないとした裁判例を見てみましょう。

アズコムデータセキュリティ事件(東京地裁平成26年12月24日・労経速2235号23頁)

【事案の概要】

Xは、Y社の従業員であったところ、平成25年8月24日以降欠勤し、同年12月3日、休職処分がされた。本件は、Xが、上記欠勤がY社の安全配慮義務違反に基づくものであり、また、上記休職処分が無効であると主張して、月額給与の支払を求めるとともに、上記安全配慮義務違反、無効な休職処分及び無効な賃金減額の通知によって精神的苦痛を受けたと主張して、慰謝料50万円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xとしては、12月2日に債務の本旨に従った労務の提供が可能な状態であれば、12月2日に出勤するか、その時点でXの体調からみて勤務することが可能な場所や従事する業務内容、条件についての協議を申し出なければならなかったというべきである
そうであるにもかかわらず、Xは、12月2日、3日と何の連絡もせず、出勤もしなかったのであり、Y社が、Xは越谷セキュリティセンターでの集配業務に従事できる精神的状況にはないと判断したこともやむを得ないものと認められる

2 Xは、本件診断書を提出しているが、「病状が改善しているため復職に関して問題なしと考える」との記載からは、どのような条件でXがY社での勤務を開始できるのか不明であり、また、あくまで医学的な判断であって、X自身がY社での勤務を開始する意思があることを示すものではないので、本件診断書の提出をもって、労務の提供があったとみることはできない
Xが越谷セキュリティセンターでの集配業務に従事できる客観的な状態にはなかったことは、X作成の11月30日付の労基署宛の文書において「ここ1週間あまり、引き続き極度の不安感に襲われて不眠症状が続いている」と記載されていることからも裏付けられる。Xは、Y社からの嫌がらせが続けば欠勤が続く可能性がある旨を記載したにすぎないと主張するが、労基署宛の文書ということからみても、病状が悪化していることを訴える趣旨と解される。また、Y社は、本件休職処分を発令した当時、上記文書の内容を認識していなかったのであるが、上記文書やXが無断欠勤したことからXの当時の精神状態が客観的に認定できる以上、本件休職処分の効力の判断においては考慮しうる事情と認められる。

非常に重要なポイントについて裁判所の判断が示されています。

上記判例のポイント1については、労使ともに理解しておく必要があります。

特に労働者側代理人は、依頼者に適切にアドバイスをする必要があります。

労働災害79(X運送事件)

おはようございます。

今日は、上司の叱責による自殺と損害賠償に関する裁判例を見てみましょう。

X運送事件(仙台高裁平成26年6月27日・労経速2222号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の宇都宮営業所に勤務していたXが、連日の長時間労働のほか、上司であったAからの暴行や執拗な叱責、暴言などのいわゆるパワーハラスメントにより精神障害を発症し、平成21年10月7日に自殺するに至ったと主張して、Y社に対しては、不法行為又は安全配慮義務違反に基づき、Aに対しては、不法行為に基づき、損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社及びAに対し、連帯して、合計約7000万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 Xは、新入社員として緊張や不安を抱える中で、本件自殺の5か月前(入社約1か月後)から月100時間程度かそれを超える恒常的な長時間にわたる時間外労働を余儀なくされ、本件自殺の3か月前には、時間外労働時間は月129時間50分にも及んでいたのであり、その業務の内容も、空調の効かない屋外において、テレビやエアコン等の家電製品を運搬すること等の経験年数の長い従業員であっても、相当の疲労感を覚える肉体労働を主とするものであったと認められ、このような中、Xは、新入社員にまま見られるようなミスを繰り返してAから厳しい叱責を頻回に受け、本件業務日誌にも厳しいコメントを付される等し、自分なりにミスの防止策を検討する等の努力をしたものの、Aから努力を認められたり、成長をほめられたりすることがなく、本件自殺の約3週間前には、Aから解雇の可能性を認識させる一層厳しい叱責を受け、解雇や転職の不安を覚えるようになっていたと認められるのであり、このようなXの就労状況等にかんがみれば、Xは、総合的にみて、業務により相当程度の肉体的・心理的負荷を負っていたと認めるのが相当である

2 Aは、Xを就労させるに当たり、Xが業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないよう、①Y社に対し、Xの時間外労働時間を正確に報告して増員を要請したり、業務内容や業務分配の見直しを行う等により、Xの業務の量を適切に調整するための措置をとる義務を負っていたほか、②Xに対する指導に際しては、新卒社会人であるXの心理状態、疲労状態、業務量や労働時間による肉体的・心理的負荷も考慮しながら、Xに過度な心理的負荷をかけないよう配慮すべき義務を負っていたとされるところ、Aには、①②の各点についての注意義務違反があったと認められる。

3 Y社は、Aの使用者であるから民法715条に基づき、Aと連帯して損害賠償責任を負う。

本件自殺の前の時間外労働時間数からすれば、これだけで十分労災認定及び安全配慮義務違反が認定できます。

他人事として捉えるのではなく、自社で同じような悲劇を起こさないように、労務管理を徹底することをおすすめします。

労働災害78(海上自衛隊(たちかぜ)事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、先輩自衛官による暴行及び恐喝による自殺と予見可能性に関する裁判例を見てみましょう。

海上自衛隊(たちかぜ)事件(東京高裁平成26年4月23日・労経速2213号9頁)

【事案の概要】

本件は、海上自衛官として護衛艦たちかぜの乗員を務めていたXが平成16年10月27日に自殺したことにつき、①Xの自殺の原因は、Xの先輩自衛官であったDによる暴行及び恐喝であり、上司職員らにも安全配慮義務違反があったと主張して、Dに対しては民法709条に基づき、国に対しては国家賠償法1条1項又は2条1項に基づき、X及びその父母に生じた損害の賠償を求めるとともに、高裁において、②国がXの自殺に関係する調査資料を組織的に隠蔽した上、同資料に記載されていた事実関係を積極的に争う不当な応訴態度を取ったため、精神的苦痛を被ったとして、国家賠償法1条1項に基づき、国に対して慰謝料の支払請求を追加した事案である。

原審は、Dの暴行・恐喝行為及び上司職員らのDに対する指導監督義務違反とXの自殺との間に事実的因果関係を認めることができるが、D及び上司職員等においてXの自殺につき予見可能生があったとは認められないから、Xの死亡によって発生した損害については相当因果関係があるとは認められないとした。

【裁判所の判断】

損害として、以下の項目を認めた。

①逸失利益 約4380万円

②慰謝料 2000万円

③その他 550万円

④国の訴訟活動について 20万円

【判例のポイント】(高裁において追加された請求に限る)

1 ・・・そうすると、横須賀地方総監部監察官が本件アンケートを保管していながら、本件開示対象文書の特定の手続において、これを特定せず隠匿した行為は、違法であるというべきである。その結果、Aは、本件訴訟において、本件アンケートに記載された回答に基づく主張立証をする機会を奪われることになったものと認められる

2 国の指定代理人らは、本件訴訟の被告の立場にある国の代理人として訴訟を追行するものであって、国において保有しあるいは収集した資料のうちいかなるものを証拠として提出するかは、民事訴訟法上これを提出すべき義務を負う場合を除き、これを自由な裁量により判断することができるというべきであり、その保有する資料を証拠として提出しなかったとしても、それが訴訟上の信義則に反するとみるべき特段の事情がない限り、違法な証拠の隠匿があるということはできないと解するのが相当である
・・・したがって、国の指定代理人らにおいて、証拠の違法な隠匿があったとは認められない。

3 一般事故調査結果は、艦長ないしその上位機関である護衛艦隊司令官の掌握するたちかぜ乗員の服務事故につき、その調査の客観性を高めるために横須賀地方総監部に設置された事故調査委員会が調査した結果をまとめたものであって、国の指定代理人が本件訴訟における被告の立場において行う主張立証が、必ずそれに一致しなければならないものではない。そして、自殺の原因を「風俗通いによる多額の借財」と推論する国の主張については、たちかぜの乗員の供述やXの携帯電話の着信履歴などを根拠としており、その信用性の有無や推論の是非はともかく、主張の根拠を欠くものであったとまではいうことができない。その他本件訴訟における国の主張等をみても、指定代理人らにおいて、その主張が事実的、法律的根拠を欠くことを知りながら、又は容易にそのことを知り得たのに、あえてそれを行ったなど、違法な主張立証その他の訴訟活動があったと認めることはできない
したがって、国の訴訟活動について、国家賠償法ないし不法行為法上の違法があったとは認められない。

国の訴訟活動については違法性がないと判断されています。

もっとも、「乙43号証メモ」等を行政文書の情報開示請求の特定の手続において特定せず、隠匿したことが国会賠償法1条の違法であるとして、20万円の慰謝料が認容されています。