Category Archives: 労働災害

労働災害97 長時間労働と安全配慮義務違反(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、業務と自殺との間の相当因果関係が争われた事案を見てみましょう。

ディーソルNSP・ディーソル事件(福岡地裁平成30年12月17日・労判ジャーナル86号48頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に在籍中に死亡した亡Xの相続人らが、勤務先であるY社およびその親会社であるA社に対し、Y社らによる労務管理を受けていたXが自殺したのは、Y社らにおいて適切な業務管理をしなかったため、長時間労働により亡労働者に過重な精神的・肉体的負荷が掛かったことが原因であると主張して、主位的に、不法行為に基づき、逸失利益、慰謝料等約5060万円などの連帯支払いを求め、予備的に、安全配慮義務違反の債務不履行に基づき、上記同額の連帯支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

業務と本件自殺に相当因果関係が認められる。

【判例のポイント】

1 本件では、Xは、鬱病等の素因があり、心理的負荷に対する一定程度のぜい弱性を有していたと認められ、そして、Xは、本件自殺の直前2か月において、長時間労働等により、鬱病等の精神障害を発症し得る程度に過重な心理的負荷を受けていたこと、本件遺書において、本件未処理等を上司に報告して本件システムの開発を続けていくことに強い不安を示し、過度に自責的になっていること、業務以外に心理的負荷を与える要因が認められないことからすれば、Xは、長時間労働や納期の切迫による過重な心理的負荷に起因して適応障害を発症し、正常な認識、行為選択能力が著しく阻害され、自殺を思いとどまらせる精神的抑制力が著しく阻害された状態で本件自殺に至ったものと認められるから、本件自殺と業務との相当因果関係が認められる

2 平成25年3月初めの時点で、Y社らにおいて、Xが長時間労働により心身の健康を損なうおそれを予見し得たことを踏まえると、Y社らには、同月3月初めの時点においてサポート要員を付与するなどの措置を講じることは可能であり、これによりXの業務を軽減していれば、同月後半の過酷な長時間労働は避けられたのであり、Y社らに結果回避可能性があったということができるところ、Y社らは、同年3月19日に至って初めて、Xにサポート要員を付することを通告し、同年4月15日にgがサポートに入るよう手配したにとどまり、本件自殺に至るまでの期間、Xの時間外労働を制限したり、定期的に休日を取得させたりするなど、Xの業務の負担を直ちに軽減させる措置を一切講じることなく、漫然と、Xを、本件自殺前1か月において180時間を超える極めて長時間の時間外労働に従事させたのであるから、Y社らは注意義務に違反したといわざるを得ない。

3 Xが、精神疾患の既往症を有していたこと、サポート要員の付与を辞退したこと、本件未処理等を行っていたことについて、民法722条を適用及び類推適用し、損害額の35%を減額するのが相当である。

本件のような長時間労働を原因とする労災事件は、訴訟になると会社側は難しい状況となります。

だからこそ、日頃から労務管理をしっかりやらないといけないのです。

労災発生時には、顧問弁護士に速やかに相談することが大切です。

労働災害96 上司勧誘のマラソン大会における死亡と労災該当性(業務起因性)(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、上司勧誘のマラソン大会における心停止と死亡の業務災害該当性に関する裁判例を見てみましょう。

国・菊池労基署長事件(熊本地裁平成30年8月29日・労判ジャーナル82号48頁)

【事案の概要】

本件は、銀行員であった亡労働者Xの父が、Xが上司から誘われて参加したマラソン大会において心停止となって死亡したとして、老舎災害補償保険法に基づく遺族補償年金及び葬祭料の各支給を請求したが、菊池労働基準監督署長がいずれも支給しない旨の各処分をしたことから、本件各処分は違法であるとして、国に対し、本件各処分の取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件大会への参加は、支店の支店長が支店内で行員らを勧誘したことを契機とするものではあるが、その声かけの態様は、Xら特定の行員に対し、業務の一環として本件大会への参加を求めるものではなく、支店の行員以外の行員らも含めて広く声かけをしたにすぎない私的なものであって、これに対する行員らの対応をみても、参加しない意思を表明した者や申込書を受け取らない者もいるなど、本件大会に参加するか否かは行員らの各自の判断に委ねられていたということができ、さらに、本件大会とその1か月余り後に開催された第2回熊本リレーマラソン自体、熊本銀行が特別協賛したにとどまり、行員らが参加した場合の参加費が免除されるなど、行員らにとって一定の利益を受ける面はあったものの、行員の参加が熊本銀行において要請されていたものではない上、そもそも本件大会とは主催者も異なる無関係の大会であるといわざるを得ないから、熊本銀行の行員にとって、第2回熊本リレーマラソンへの参加が業務に当たるとはいえず、本件大会への参加がその準備行為として業務に当たるということもできず、本件大会の参加がXの業務行為又はそれに伴う行為として行われたということができないから、本件災害が業務災害に当たると認めることはできない。

事実上強制されていたと認定されるかどうかがポイントになりますが、裁判所はこの点について否定しました。

他の行員の対応から判断するとこのような結論になるのもしかたがないように思います。

労災発生時には、顧問弁護士に速やかに相談することが大切です。

労働災害95 自賠責保険の支払いにおける被害者優先説(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、自賠責保険の支払いにおいて労災保険法12条の4に基づく国の請求よりも被害者の直接請求を優先すべきとした判例を見てみましょう。

保険金請求事件(最高裁平成30年9月27日・労経速2364号3頁)

【事案の概要】

本件は、自動車同士の衝突事故により被害を受けたXが、加害車両を被保険自動車とする自動車損害賠償責任保険の保険会社であるY社に対し、自動車損害賠償保障法16条1項に基づき、保険金額の限度における損害賠償額及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、Xの請求につき、自賠責保険金額の合計である344万円及びこれに対する原判決確定の日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で認容した。

【裁判所の判断】

原判決中、344万円に対する平成27年2月20日から本判決確定の日の前日までの遅延損害金の支払請求を棄却した部分を破棄し、同部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。

【判例のポイント】

1 ・・・しかしながら、被害者が労災保険給付を受けてもなお塡補されない損害(以下「未塡補損害」という。)について直接請求権を行使する場合は、他方で労災保険法12条の4第1項により国に移転した直接請求権が行使され、被害者の直接請求権の額と国に移転した直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超えるときであっても、被害者は、国に優先して自賠責保険の保険会社から自賠責保険金額の限度で自賠法16条1項に基づき損害賠償額の支払を受けることができるものと解するのが相当である。

2 自賠法16条の9第1項にいう「当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」とは、保険会社において、被害者の損害賠償額の支払請求に係る事故及び当該損害賠償額の確認に要する調査をするために必要とされる合理的な期間をいうと解すべきであり、その期間については、事故又は損害賠償額に関して保険会社が取得した資料の内容及びその取得時期、損害賠償額についての争いの有無及びその内容、被害者と保険会社との間の交渉経過等の個々の事案における具体的事情を考慮して判断するのが相当である。このことは、被害者が直接請求権を訴訟上行使した場合であっても異なるものではない。

案分説と被害者優先説のうち、後者が採用されています。

なお、類似の事案において、既に最高裁判決(最判平成30年2月19日)が存在し、本件と同様の理由から被害者優先説が採用されています。

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労働災害94 新人研修における事故と安全配慮義務違反(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、新人研修における歩行訓練後の後遺症と安全配慮義務違反の有無等に関する裁判例を見てみましょう。

サニックス事件(広島地裁福山支部平成30年2月22日・労判1183号29頁)

【事案の概要】

XがY社に入社して新人研修を受けたが、研修カリキュラムの1つである24キロメートルの歩行訓練を受けた際に、右足及び左足を負傷したとして、主位的には、Y社の安全配慮義務違反が過失を構成するとして、不法行為に基づき、損害賠償と歩行訓練の日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを請求したもので、予備的には、Y社の安全配慮義務違反が債務不履行を構成するとして、損害賠償とY社に対して請求した日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを請求した事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、2222万4145円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 健康状態チェック表等でY社は参加者の体調を把握しようとしており、業務日報の記載からa訓練であまり無理をしないよう講師が述べていることが認められ、Y社が全く参加者の体調等に配慮していなかったわけではない。
しかし、Y社は、研修参加者の外出を禁止しており、参加者が自己の意思で医療機関を受診する機会を奪っているにもかかわらず、発熱者が出たときの対応でも明らかなように、Y社側から医療機関を受診させることに積極的ではない
a訓練は、参加者全員が完歩することを目的としており、参加者の年齢が幅広く、体力にも大きな差があるにもかかわらず、個人差や運動経験の有無等に全く配慮していない点で、無理があるプログラムである
そして、Xが歩行訓練中に転倒して右足関節を痛め、歩行訓練の中断や病院受診を求めても、これを拒絶して歩行訓練を継続し、a訓練に参加させたことが、Xの現在の症状の原因となっていること等に照らすと、Y社には、債務不履行の原因となる安全配慮義務違反が存在したと認められる。
Y社は、Y社にとって望ましい社員を選別するための手段としてa訓練を用いる意向があるかも知れないが、仮にそうであれば、その際に負傷した参加者に対しては、責任を負わなければならない。
なお、上記のとおりY社が参加者の安全について一定の配慮をしていることに照らすと、不法行為の原因となる過失があったということはできない

2 Xの足関節、膝関節には、軽度の変形性関節症が認められるが、軽度であり、Y社の研修に参加する前にはXには何も症状がなかったこと、軽度の変形性関節症がXの治療の長期化とどのように影響したか不明であること等に照らすと、素因減額を要するほどの素因に該当するとはいえない。
なお、Xは、肥満体であることが認められ、体重が重いために膝関節、足関節にかかる負荷が大きくなってXの傷害の悪化、長期化に影響したことが予想されるが、病的肥満といえる程度には達していない。
したがって、Xの肥満は病的ではないから、素因には該当せず、素因減額を検討することはできない。

3 本件は、債務不履行に基づく請求であり、弁護士費用の請求は認められない。

ニュースにもなった事案です。

認容額がかなり高額ですね。

みんながみんな体育会系ではないので、このような研修(?)はやはり避けるべきですね。

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労働災害93 うつ病で休職中の懲戒解雇事案における主治医と産業医の意見書の信用性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、うつ病で休職中の懲戒解雇と労基法19条1項違反の有無に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人武相学園(高校)事件(東京高裁平成29年5月17日・労判1181号54頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の設置するa高等学校(以下「a高校」という。)の教諭であり水泳部の顧問であったXをY社が解雇したことが、労働基準法19条(業務上疾病により休業中の労働者の解雇禁止)の規定に違反するかどうかが争われる事案である。

原判決は、Y社に対して労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるXの請求を、Xのうつ病が業務上の疾病とはいえないことを理由として棄却した。

これを不服としてXが控訴したのが、本件控訴事件である。

【裁判所の判断】

原判決を取り消す。
→Xが、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

【判例のポイント】

1 Y社は、B医師は、簡単な問診をしただけで、軽度うつ病で3か月程度の休業を要する旨の診断を行っており、科学的検査を実施しておらず、Y社との面談も実施しないなど、精神科医のとるべき対応として不十分であるとして、B医師の診断が信用できない旨を主張する。
しかしながら、B医師は、Xには、日内変動、抑うつ、制止のうつの徴候が深刻であり、激しい不安焦燥、不穏、自殺念慮、自棄的破壊的激情噴出等の精神的症状と、不眠、7kgの体重減少等の身体的症状があり、これらの具体的症状に基づきうつ病エピソードと診断したと認められ、その症状の把握や診断手法に不合理な点は認められない。平成24年7月6日にXを診断した済生会横浜市南部病院のI医師も、精神運動抑制と認知の歪みが目立つとして、B医師と同様のうつ病診断をしていることが認められる
Y社は、自らの主張に沿う証拠としてH医師作成の意見書を提出する。しかしながら、H医師は、Xを診察した上で意見を述べているものではない上、うつ病診断における科学的検査(血液検査や画像診断所見等)は研究段階にあり有用性は現在のところ確立されていない旨述べ、また、医師による使用者からの事情聴取は寛解を目指して長期的に診療を続ける場合にストレス要因を明らかにするという意味で大切であるが、患者の主観面を確認し当面の症状を改善させ落ち着かせることと比べれば重要度は落ちるという趣旨を述べているにとどまる。H医師の意見書は、B医師の診断自体の信用性に影響を及ぼす余地はない。したがって、Xがうつ病を発症したとするB医師の診断は、採用できる。

2 Y社は、Xが平成23年8月に休職するまで体調不良を訴えることもなく通常どおり業務をこなしていたこと、休職後もa高校のOB会の宴会に出席して飲酒したり、平成24年6月に5日間の講習を受講して教員免許を更新するなどしたことを指摘する。
しかしながら、平成23年6月初めに水泳部顧問や授業の禁止処分を受ける前後からXの精神が衰弱して不眠、希死念慮の症状が出ていたことは、前記認定のとおりである。また、うつ病の回復過程にある平成24年6月に教員免許更新のため5日間の講習を受講したからといって同年7月のI医師のうつ病との診断が否定されるものではない。
休職中の宴会出席は、うつ病の回復過程において主治医の助言に従い治療の一環として出席したことが認められる。その他Y社が主張する事情を併せ考慮しても、前記認定(Xが平成23年6月上旬から同年8月下旬までの間にうつ病を発症したこと)を左右するには足りない。

2 C校長及びD副校長らによる進退や重大な処分という発言を伴う聴取調査は、「会社の経営に影響を与えるなどの重大な仕事上のミスをした場合」に該当し、これによりXに課された心理的負荷は大きく、平均的な教諭であってもうつ病を発症させる程度のものであった。
そして、発症前6か月間のXの月平均100時間を超える時間外労働は、Xに非常に大きな心理的負荷を課するものであり、前記聴取調査による心理的負荷を増大させた。
そして、うつ病発症の有力原因となり得るような他の原因が認められない本件においては、C校長らによる聴取調査及びXの時間外労働とうつ病発症との間に相当因果関係がある。
うつ病はY社における業務に起因して発症したものであり、Xは、本件解雇当時、うつ病により休職中であった。そうすると、本件解雇は労働基準法19条に反し無効である。
したがって、Xは、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にある。 

この種の訴訟では、主治医と産業医の意見の食い違い、いずれの意見を採用すべきかが問題となります。

形式的にどちらの意見を尊重すべきかを判断するのではなく、いずれの意見がより合理的な根拠に基づくかを判断することになります。

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労働災害92 安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求と過失相殺(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、作業中の怪我に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

三興運送事件(大阪地裁平成29年3月1日・労判ジャーナル33頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社の安全配慮が不十分であったため作業中に負傷したとして、Y社に対し、不法行為又は債務不履行に基づき、損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社の損害賠償責任を認める。

3割の過失相殺を認める。

【判例のポイント】

1 Y社においては、作業中の手足を挟まれる危険について特に対策を講じておらず、作業員に安全靴の装着を求める取引先の所に行く場合には安全靴を装着することになっていただけであったところ、Xは、本件事故当時、年平均90時間超の超過勤務を恒常的に行っており、また、Xは、労働安全衛生規則5条に基づく安全管理者として講習を受けていたことはあったが、特に会社の中で安全管理を行うような役職に就いていたわけではなく、また、本件昇降機は、自動停止装置を付けることができないものであり、Xは、本件事故当時、安全靴など装着しないで作業をしており、本件昇降機に乗って積み荷を降ろした後、本件昇降機に乗ってハンドリフト(積み荷を運ぶ機械)を支え、コントローラーを操作して上昇していた際、たまたま自分の左足が荷室側にはみ出ており、第1指が本件昇降機と荷室の間に挟まってしまい、本件事故が発生したこと等から、Y社には、本件事故につき過失があったといえるから、不法行為に基づく損害賠償請求責任を負う(厳密には、Xの上司で安全管理者たるべきY社従業員に過失があり、Y社は、その使用者責任を負うと解される)。

2 Xは、安全管理者として講習を受けたとはいえ、会社内で具体的に何らかの措置を講じるべき立場になく、また、講習の内容も不明であるから、本件事故を防止できるだけの知識を付与されていたとは認め難く、また、Xは、本件事故当時、相当長時間の超過勤務をしていたため注意力が低下していたと主張し、本人尋問でも、当時12月の寒さ等と相まって注意力が低下していたなどと供述するところ、それも首肯されるところであるが、Y社は、これを否定し、事故前にXからY社に過労を訴えるようなことはなかったと指摘するが、Y社の従業員は当時概ね長時間労働に従事していたことが窺われるから、Xがそのような訴えをしなかったとしても不自然でなく、・・・Xにも本件事故について過失があるとはいえ、過失割合はせいぜい30%と言うべきである。

3割の過失相殺を大きいと見るか否かは判断が分かれるところですね。

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労働災害91 使用者に労働保険の保険料認定処分取消訴訟の原告適格は認められるか?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、行政訴訟で使用者に原告適格を認めた裁判例を見てみましょう。

医療法人社団X事件(東京地裁平成29年1月31日・労経速2309号3頁)

【事案の概要】

本件は、総合病院を開設する医療法人社団であり、労働保険の保険料の徴収等に関する法律12条3項に基づくいわゆるメリット制の適用を受ける事業の事業主であるXが、上記病院に勤務する医師が脳出血を発症し、労働者災害補償保険法に基づく休業補償給付等の支給処分を受けたことに伴い、処分行政庁から、本件支給処分がされたことにより労働保険の保険料が増額されるとして、徴収法19条4項に基づく平成22年度の労働保険の保険料の認定処分を受けたため、本件支給処分は違法であり、これを前提とする本件認定処分も違法であると主張して、本件認定処分のうち上記の増額された保険料額の認定に係る部分の取り消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 特定事業主は、自らの事業に係る業務災害支給処分がされた場合、同処分の名宛人以外の者ではあるものの、同処分の法的効果により労働保険料の納付義務の範囲が増大して直接具体的な不利益を被るおそれがあり、他方、同処分がその違法を理由に取り消されれば、当該処分は効力を失い、当該処分に係る特定事業主の次々年度以降の労働保険料の額を算定するに当たって、当該処分に係る業務災害保険給付等の額はその基礎とならず、これに応じた労働保険料の納付義務を免れ得る関係にあるのであるから、特定事業主は、自らの事業に係る業務災害支給処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消しによってこれを回復すべき法律上の利益を有するものというべきである。

判決としては上記のとおり「請求棄却」となっていますが、ポイントはそこではなく、その前提として事業主に原告適格を認めた点です。

是非、押さえておきましょう。

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労働災害90 見舞金支払請求権の遅延損害金の利率(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、うつ病に罹患し休職後解雇された元従業員からの損害賠償請求等に関する裁判例を見てみましょう。

東芝事件(東京高裁平成28年8月31日・労経速2298号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、鬱病に罹患して休職し、休職期間満了後にY社から解雇されたことにつき、上記鬱病はY社における過重な業務に起因するものであるから、上記解雇は労働基準法19条1項本文等に違反する無効なものであると主張して、Y社に対し、安全配慮義務違反等による債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求としての休業損害や慰謝料等の支払及びY社の会社規程に基づく見舞金等の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1(損害賠償・休業損害を除いた慰謝料等)
Y社は、Xに対し、603万4000円+遅延損害金(年5分)を支払え。
2(損害賠償・休業損害)
Y社は、Xに対し、5186万0526円+遅延損害金(年5分)を支払え。
3(同上)
Y社は、Xに対し、平成28年6月25日から本判決確定の日まで、毎月25日限り月額47万3831円+遅延損害金(年5分)を支払え。
4(見舞金)
Y社は、Xに対し、160万円+遅延損害金(年5分)を支払え。

【判例のポイント】

1 見舞金支払請求権の遅延損害金の利率について検討すると、上記見舞金を規定している本件見舞金規程は、社員の業務上の傷病に対する見舞金、社員の住居の被災に対する災害見舞金及び社員又はその家族の死亡に対する弔慰金について定めることを目的として制定されたものであり(1条)、また、見舞金は、同規定の定める要件を満たした場合に社員に対して贈与するものされていること(3条(1),4条1項)が認められる。
このような本件見舞金規程の目的や見舞金の性質等に照らすと、同規程に基づく見舞金支払債務が商法514条の「商行為によって生じた債務」に該当すると解することはできないから、見舞金支払請求権の遅延損害金の利率について,同条の適用はないことになる。

2 労災保険法に基づく休業補償給付は、労働者が業務上の事由等による負傷又は疾病により労働することができないために受けることができない賃金を填補するために支給されるものであるから(1条、14条)、填補の対象となる損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する関係にある休業損害の元本との間で損益相殺的な調整を行うべきであるが、休業損害に対する遅延損害金に係る債権は、飽くまでも債務者の履行遅滞を理由とする損害賠償債権であって、遅延損害金を債務者に支払わせることとしている目的は、休業補償給付の目的とは明らかに異なるものであるから、休業補償給付による填補の対象となる損害が、遅延損害金と同性質であるということも、相互補完性があるということもできない。したがって、遅延損害金との間で損益相殺的な調整を行うことは相当ではないというべきである(最高裁判所平成22年9月13日第1小法廷判決・民集64巻6号1626頁,前掲最高裁判所平成27年3月4日大法廷判参照)。
また、休業補償給付は、填補の対象となる損害が現実化する都度ないし現実化するのに対応して定期的に支給されることが予定されていることなどを考慮すると、制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、その填補の対象となる損害はそれが発生した時、すなわち、本件でいえば、各月分の休業損害について、これが発生する翌月25日に填補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが公平の見地からみて相当であるというべきである(上記各判決参照)。

非常にマニアックな論点ですが、実務においては知っておかなければいけません。

労災発生時には、顧問弁護士に速やかに相談することが大切です。

労働災害89 歓送迎会後の任意の送迎中の事故死を業務災害に当たるとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、歓送迎会後の任意の送迎中の事故死を業務上の事由による災害に当たるとした最高裁判例を見てみましょう。

行橋労働基準監督署長事件(最高裁平成28年7月8日・労経速2290号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していた労働者であるXが交通事故により死亡したことに関し、その妻が、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ、行橋労働基準監督署長から、Xの死亡は業務上の事由によるものに当たらないとして、これらを支給しない旨の決定を受けたため、その取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

原判決を破棄し、第1審判決を取り消す。

行橋労働基準監督署長が上告人に対して平成24年2月29日付けでした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の決定を取り消す。

【判例のポイント】

1 Xが本件資料の作成業務の途中で本件歓送迎会に参加して再び本件工場に戻ることになったのは、本件会社の社長業務を代行していたE部長から、本件歓送迎会への参加を個別に打診された際に、本件資料の提出期限が翌日に迫っていることを理由に断ったにもかかわらず、「今日が最後だから」などとして、本件歓送迎会に参加してほしい旨の強い意向を示される一方で、本件資料の提出期限を延期するなどの措置は執られず、むしろ本件歓送迎会の終了後には本件資料の作成業務にE部長も加わる旨を伝えられたためであったというのである

そうすると、Xは、E部長の上記意向等により本件歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、その結果、本件歓送迎会の終了後に当該業務を再開するために本件工場に戻ることを余儀なくされたものというべきであり、このことは、本件会社からみると、Xに対し、職務上、上記の一連の行動をとることを要請していたものということができる。

2 そして、上記の経過でXが途中参加した本件歓送迎会は、従業員7名の本件会社において、本件親会社の中国における子会社から本件会社の事業との関連で中国人研修生を定期的に受け入れるに当たり、本件会社の社長業務を代行していたE部長の発案により、中国人研修生と従業員との親睦を図る目的で開催されてきたものであり、E部長の意向により当時の従業員7名及び本件研修生らの全員が参加し、その費用が本件会社の経費から支払われ、特に本件研修生らについては、本件アパート及び本件飲食店間の送迎が本件会社の所有に係る自動車によって行われていたというのである。

そうすると、本件歓送迎会は、研修の目的を達成するために本件会社において企画された行事の一環であると評価することができ、中国人研修生と従業員との親睦を図ることにより、本件会社及び本件親会社と上記子会社との関係の強化等に寄与するものであり、本件会社の事業活動に密接に関連して行われたものというべきである。

3 また、Xは、本件資料の作成業務を再開するため本件車両を運転して本件工場に戻る際、併せて本件研修生らを本件アパートまで送っていたところ、もともと本件研修生らを本件アパートまで送ることは、本件歓送迎会の開催に当たり、E部長により行われることが予定されていたものであり、本件工場と本件アパートの位置関係に照らし、本件飲食店から本件工場へ戻る経路から大きく逸脱するものではないことにも鑑みれば、XがE部長に代わってこれを行ったことは、本件会社から要請されていた一連の行動の範囲内のものであったということができる。

4 以上の諸事情を総合すれば、Xは、本件会社により、その事業活動に密接に関連するものである本件歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況に置かれ、本件工場における自己の業務を一時中断してこれに途中参加することになり、本件歓送迎会の終了後に当該業務を再開するため本件車両を運転して本件工場に戻るに当たり、併せてE部長に代わり本件研修生らを本件アパートまで送っていた際に本件事故に遭ったものということができるから、本件歓送迎会が事業場外で開催され、アルコール飲料も供されたものであり、本件研修生らを本件アパートまで送ることがE部長らの明示的な指示を受けてされたものとはうかがわれないこと等を考慮しても、Xは、本件事故の際、なお本件会社の支配下にあったというべきである。
また、本件事故によるXの死亡と上記の運転行為との間に相当因果関係の存在を肯定することができることも明らかである。
以上によれば,本件事故によるXの死亡は,労働者災害補償保険法1条,12条の8第2項,労働基準法79条,80条所定の業務上の事由による災害に当たるというべきである。

ぎりぎりのところでなんとか最高裁によって救済されました。

上告をあきらめていれば、この結果には至りませんでした。

あきらめたらそこで終わりです。

労働災害88 安全教育を徹底していたことを理由に、会社に安全配慮義務違反が否定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、安全教育を徹底していた等の理由により、会社に安全配慮義務違反が認められないとした裁判例を見てみましょう。

アイシン機工事件(名古屋高裁平成27年11月13日・労経速2289号3頁)

【事案の概要】

本件は、A社に派遣作業員として雇用され、Y社の工場に派遣されていたXが、同工場での作業中に右環指切断の傷害を負ったとして、A社及びY社に対し、不法行為に基づく損害賠償として、879万6077円+遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

原審が、XのA社に対する請求を棄却し、Y社に対する請求につき、136万円+遅延損害金の限度で認容し、その余を棄却したところ、X及びY社が控訴した。

【裁判所の判断】

Xの控訴を棄却する

Y社の控訴により、Y社敗訴部分を取り消す。
→Xの請求を棄却する

【判例のポイント】

1 Y社においては、派遣社員の受入れ時に、ポルトガル語を併記した本件テキストを用いて安全教育を実施しており、異常が生じた際には、機械を止め、上司を呼び、上司を待つことを指導するほか、動いているものや動こうとするものには手を出してはならないことなどを「安全三訓」として強調し、その後、これらの点に関する理解度を測るテストを実施し、作業ラインに配属された後も、毎日の作業開始時に「安全三訓」を唱和させて、これを徹底していたことが認められる

2 本件事故後の調査の過程で、「ポルトガル語を話せる監督者がいないため、身振り手振りの伝達では、100%思いが伝わっていない」ことが問題とされたことが認められるものの、安全三訓の内容は平易なものであり、受入れ時の安全教育において、ポルトガル語でも周知され、安全教育内容の理解度テストにおいても、Xが理解していたことに照らすと、上記の問題提起は、意思疎通の充実によって、日常的に生ずる種々の問題点の解消を図るべきことを提示したにとどまり、Xに安全教育の内容が伝わっていないことを問題視したものとは解されない
そうすると、Y社が、機械操作時に機械内部に手を入れないよう指示指導する義務や、チョコ停が生じた場合に上司を呼ぶよう指示指導する義務を怠ったとはいえない。

裁判所が日頃の安全教育を評価した結果ですね。

他社においても非常に参考になる裁判例です。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。