Category Archives: 労働時間

労働時間28(阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件)

おはようございます。

今日は、海外旅行派遣添乗員の事業場外みなし時間制適用の可否に関する控訴審判決を見てみましょう。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件(東京高裁平成24年3月7日・労判1048号6頁)

【事案の概要】

Y社は、募集型企画旅行において、主催旅行会社A社から添乗員の派遣依頼を受けて、登録型派遣添乗員に労働契約の申込みを行い、同契約を締結し、労働者を派遣するなどの業務を行う会社である。

Y社は、フランス等への募集型企画旅行の登録型派遣添乗員として、Xを雇用した。日当は1万6000円であり、就業条件明示書には、労働時間を原則として午前8時から午後8時とする定めがあった。

Y社では、従業員代表との間で事業場外みなし労働時間制に関する協定書が作成されており、そこでは、派遣添乗員が事業場外において労働時間の算定が困難な添乗業務に従事した日については、休憩時間を除き、1日11時間労働したものとみなす旨の記載があった。

Xは、Y社に対し、未払時間外割増賃金、付加金等を求めた。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にあたらない。

【判例のポイント】

1 この制度は、労働者が事業場外で行う労働で、使用者の具体的な指揮監督が及ばないため、使用者による労働時間の把握が困難であり、実労働時間の算定が困難な場合に対処するために、実際の労働時間にできるだけ近づけた便宜的な労働時間の算定方法を定めるものであり、その限りで使用者に課されている労働時間の把握・算定義務を免除するものと解される。
そして、使用者は、雇用契約上、労働者を自らの指揮命令の下に就労させることができ、かつ、労基法上、時間外労働に対する割増賃金支払義務を負う地位にあるのであるから、就労場所が事業場外であっても、原則として、労働者の労働時間を把握する義務を免れないのであり(労基法108条、同規則54条参照)、同法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」とは、当該業務の就労実態等の具体的事情を踏まえて、社会通念に従って判断すると、使用者の具体的な指揮監督が及ばないと評価され、客観的にみて労働時間を把握することが困難である例外的な場合をいうと解するのが相当である。
本通達は、事業場外労働でも「労働時間を算定し難いとき」に当たらない場合についての、発出当時の社会状況を踏まえた例示であり、本件通達除外事例(1)(2)(3)に該当しない場合であっても、当該業務の就労実態等の具体的事情を踏まえ、社会通念に従って判断すれば、使用者の具体的な指揮監督が及びものと評価され、客観的にみて労働時間を把握・算定することが可能であると認められる場合には、事業場外労働時間のみなし制の適用はないというべきである

2 ・・・そうすると、本件添乗業務においては、指示書等により旅行主催会社である阪急交通社から添乗員であるXに対し旅程管理に関する具体的な業務指示がなされ、Xは、これに基づいて業務を遂行する義務を負い、携帯電話を所持して常時電源を入れておくよう求められて、旅程管理上重要な問題が発生したときには、阪急交通社に報告し、個別の指示を受ける仕組みが整えられており、実際に遂行した業務内容について、添乗日報に、出発地、運送機関の発着地、観光地や観光施設、到着地についての出発時刻、到着時刻等を正確かつ詳細に記載して提出し報告することが義務付けられているものと認められ、このようなXの本件添乗業務の就労実態等の具体的事情を踏まえて、社会通念に従って判断すると、Xの本件添乗業務には阪急交通社の具体的な指揮監督が及んでいると認めるのが相当である

3 労基法32条の労働時間とは、労働者が使用者(本件では派遣先の阪急交通社。)の指揮命令下に置かれている時間をいい(最高裁平成12年3月9日判決)、労働者が実作業に従事していない時間であっても、労働契約上の役務の提供を義務付けられていると評価される場合には、使用者の指揮命令下に置かれているものであって、当該時間に労働者が労働から離れることを保証されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができると解するのが相当である(最高裁平成14年2月28日判決)。
本件添乗業務の内容によれば、添乗員は、実際にツアー参加者に対する説明、案内等の実作業に従事している時間はもちろん、実作業に従事していない時間であっても、ツアー参加者から質問、要望等のあることが予想される状況下にある時間については、ツアー参加者からの質問、要望等に対応できるようにしていることが労働契約上求められているのであるから、そのような時間については、労働契約上の役務の提供を義務付けられているものであって、労働からの解放が保障されておらず、労基法上の労働時間に含まれると解するのが相当である

なかなか厳しい判断ですが、裁判所の判断傾向からすれば驚く話ではありません。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間27(阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第1)事件)

おはようございます。

さて、今日から、3回連続で、派遣添乗員の労働時間算定に関する高裁判決を見ていきます。

今日は、国内旅行派遣添乗員の事業場外みなし時間制適用の可否に関する控訴審判決を見てみましょう。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第1)事件(東京高裁平成23年9月14日・労判1036号14頁)

【事案の概要】

Y社は、旅行その他旅行関連事業を行うことを等を業とする会社である。

Xは、Y社の派遣添乗員として、阪急交通社に派遣され、同社の国内旅行添乗業務に従事している。

Y社では、派遣添乗員につき、事業場外みなし労働時間制が採用されている。

Xは、Y社に対し、未払時間外割増賃金、付加金等を求めた。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にはあたらない。

【判例のポイント】

1 事業場外みなし労働時間制は、使用者の指揮監督の及ばない事業場外労働については使用者の労働時間の把握が困難であり、実労働時間の算定に支障が生ずるという問題に対処し、労基法の労働時間規制における実績原則の下で、実際の労働時間にできるだけ近づけた現実的な算定方法を定めるものであり、その限りで労基法上使用者に課されている労働時間の把握・算定義務を免除するものということができる
そして、使用者は、雇用契約上従業員を自らの指揮命令の下に就労させることができ、かつ、労基法上時間外労働に対する割増賃金支払義務を負う地位にあるのであるから、就労場所が事業場外であっても、原則として、従業員の労働時間を把握する義務があるのであり、労基法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」とは、就労実態等の具体的事情を踏まえ、社会通念に従い、客観的にみて労働時間を把握することが困難であり、使用者の具体的な指揮監督が及ばないと評価される場合をいうものと解すべきこと及び旧労働省の通知が発出当時の社会状況を踏まえた「労働時間を算定し難いとき」の例示であることは、原判決の判示するとおりである

2 確かに、使用者の指揮監督が及んでいなくとも、従業員の自己申告に依拠した労働時間の算定が可能な限りは「労働時間を算定し難いとき」に当たらないというのであれば、「労働時間を算定し難いとき」はほとんど想定することができず、事業場外みなし労働時間制が定められた趣旨に反するというべきである。しかし、本件で問題となっているのは、自己申告に全面的に依拠した労働時間の算定ではなく、社会通念上、事業場外の業務遂行に使用者の指揮監督が及んでいると解される場合に、補充的に従業員の自己申告を利用して労働時間が算定されるときであっても、従業員の自己申告が考慮される限り、「労働時間を算定し難いとき」に当たると解すべきかということであり、事業場外みなし労働時間制の趣旨に照らすと、使用者の指揮監督が及んでいるのであれば、労働時間を算定するために補充的に自己申告を利用する必要があったとしてもそれだけで直ちに「労働時間を算定し難いとき」に当たると解することはできず、当該自己申告の態様も含めて考慮し、「労働時間を算定し難いとき」に当たるか否かが判断されなければならない

3 添乗員による行程管理が指示書の記載に捕らわれず、その場の事情に応じた臨機応変なものであることを要求されるという意味では、添乗員の行程管理がその裁量に任されている部分があるといえるとしても、添乗員の裁量はその限りのものであって、そのような裁量があることを理由に添乗員が添乗業務に関する阪急交通社の指揮監督を離脱しているということはできない。また、添乗日報は、添乗員が指示書により指示された行程を実際に管理した際の状況を記載して報告した文書であり、一部に記載漏れや他の記載との若干の齟齬はみとめられるものの、その記載は詳細であって、事実と異なる記載がされ、あるいは事実に基づかないいい加減な記載がされているというような事実は認められない。なお、指示書の記載と異なる点が多くある理由は前記のとおりであって、指示書の記載と異なる点が多いからといって、添乗日報の記載の信用性は減殺されない。
・・・添乗員の行程管理については多くの現認者が存在しており、添乗日報の到着時刻や出発時刻について虚偽の記載をすればそれが発覚するリスクは大きく、その点も添乗日報の記載の信用性を高める状況の一つということができる。そして、現に、Xが作成した本件各ツアーに係る添乗日報の信用性を疑うべき事情は何ら認められない。

4 ・・・社会通念上、添乗業務は指示書による阪急交通社の指揮監督の下で行われるもので、Y社は、阪急交通社の指示による行程を記録した添乗日報の記載を補充的に利用して、添乗員の労働時間を算定することが可能であると認められ、添乗業務は、その労働時間を算定し難い業務には当たらないと解するのが相当である

上記判例のポイント1、2の規範はしっかり押さえておきましょう。

かなり適用範囲は狭いので注意が必要です。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間26(ドワンゴ事件)

おはようございます。

今日は、専門型裁量労働制に関する裁判例を見てみましょう。

ドワンゴ事件(京都地裁平成18年5月29日・労判920号57頁)

【事案の概要】

Y社は、コンピュータ及びその周辺機器、ソフトウェア製品の企画、開発、製造、販売、輸出入及び賃貸などを業務内容とする会社である。

Xは、平成15年9月、Y社との間で雇用契約を締結し、平成16年7月、退職した。

Xは、Y社に対し、未払い残業代を請求した。

Y社は、専門型裁量労働制が適用されると主張した。

【裁判所の判断】

専門型裁量労働制の適用はない。

【判例のポイント】

1 専門型裁量労働制について、労基法38条の3第1項は事業場の過半数組織労働組合ないし過半数代表者の同意(協定)を必要とすることで当該専門型裁量労働制の内容の妥当性を担保しているところ、当事者間で定めた専門型裁量労働制に係る合意が効力を有するためには、同協定が要件とされた趣旨からして少なくとも、使用者が当該事業場の過半数組織労働組合ないし過半数代表者との間での専門型裁量労働制に係る書面による協定を締結しなければならないと解するのが相当である。また、それを行政官庁に届け出なければならない(労基法38条の3第2項、同法38条の3第3項)。
同条項の規定からすると、同適用の単位は事業場毎とされていることは明らかである。ここでいう事業場とは「工場、事務所、店舗等のように一定の場所において、相関連する組織の基で業として継続的に行われる作業の一体が行われている場」と解するのが相当である。
Y社の大阪開発部は、その組織、場所からすると、Y社の本社(本件裁量労働協定及び同協定を届出た労働基準監督署に対応する事業場)とは別個の事業所というべきであるところ、本件裁量労働協定はY社の本社の労働者の過半数の代表者と締結されたもので、また、その届出も本社に対応する中央労働基準監督署に届けられたものであって、大阪開発部を単位として専門型裁量労働制に関する協定された労働協定はなく、また、同開発部に対応する労働基準監督署に同協定が届け出られたこともない。そうすると、本件裁量労働協定は効力を有しないとするのが相当であって、それに相反するY社の主張は理由がない。
そうすると、Xに対しての裁量労働制の適用がない。したがって、Y社は、Xに時間外労働や休日労働があれば、それに応じた賃金をXに支払うべき義務を負っているというべきである。

2 Y社は、Xが深夜労働の申告承認の手続をとっていなかったため、同人の深夜労働に係る割増賃金支払義務を負っていない旨主張する。しかし、Y社は、Y社のタイムカードの記載からXが深夜に労働をしていたことを認識することができ、実際にもXが上記認定した範囲で深夜労働をしていたことからすると、上記手続の成否は深夜労働に係る割増賃金請求権の成否に影響を与えないものというべきである。そうすると、Y社の上記主張は理由がない

裁量労働時間制に関する珍しい裁判例ですが、内容としては形式的な要件をみたしていないからダメよ、という話だけです。

上記判例のポイント2については、よくあるパターンですね。

残業に関して許可制を採用し、仮に従業員が許可をとらずに残業をしていたとしても、会社が、従業員の残業を認識し得た場合には、このような結論となります。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間25(エーディーディー事件)

おはようございます。

今日は、専門業務型裁量労働制に関する裁判例を見てみましょう。

エーディーディー事件(京都地裁平成23年10月31日・労判1041号49頁)

【事案の概要】

Y社は、コンピュータシステムおよびプログラムの企画、設計、開発、販売、受託等を主な業務とする会社である。

Xは、Y社の立ち上げのときに誘われ、平成13年5月の成立当初から従業員であった。

Y社では、システムエンジニアについて専門業務型裁量労働制を採用することとし、平成15年5月、労働者の代表者としてXとの間で、書面による協定を締結し、そのときは労基署に届出をしたが、それ以降は届出をしていない。

協定によれば、対象労働者はシステムエンジニアとしてシステム開発の業務に従事する者とし、みなし労働時間を1日8時間とするものである。

Y社においては、平成20年9月に組織変更があり、その頃から、カスタマイズ業務について不具合が生じることが多くなり、その下人はXやXのチームのメンバーのミスであることが多かった。Xは、上司から叱責されることが続き、自責の念に駆られるなどして医院で受診したところ、「うつ病」と診断されたため、平成21年3月に退職した。

なお、Xは、うつ病について労災を申請し、労災認定され休業補償給付がされた。

Y社は、Xに対して、業務の不適切実施、業務未達などを理由に2034万余円の損害賠償請求訴訟を提起した。

これに対し、Xは、Y社に対し、未払時間外手当および付加金の支払等を求めて反訴した。

【裁判所の判断】

Y社のXに対する損害賠償請求は棄却

Y社に対し約570万円の未払残業代の支払を命じた。

Y社に対し同額の付加金の支払を命じた。

【判例のポイント】

1 専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上その遂行方法を労働者の裁量に委ねる必要があるものについて、実際に働いた時間ではなく、労使協定等で定められた時間によって労働時間を算定する制度である。その対象業務として、労働基準法38条の3、同法施行規則24条の2の2第2項2号において、「情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。)の分析又は設計の業務」が挙げられている。そして、「情報処理システムの分析又は設計の業務」とは、(1)ニーズの把握、ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定、(2)入出力設計、処理手順の設計等のアプリケーション・システムの設計、機械構成の細部の決定、ソフトウェアの決定等、(3)システム稼動後のシステムの評価、問題点の発見、その解決のための改善等の業務をいうと解されており、プログラミングについては、その性質上、裁量性の高い業務ではないので、専門業務型裁量労働制の対象業務に含まれないと解される。営業が専門業務型裁量労働制に含まれないことはもちろんである。

2 Y社は、Xについて、情報処理システムの分析又は設計の業務に携わっており、専門業務型裁量労働制の業務に該当する旨主張する。
確かに、Xにおいては、A社からの発注を受けて、カスタマイズ業務を中心に職務をしていたということはできる。
しかしながら、本来プログラムの分析又は設計業務について裁量労働制が許容されるのは、システム設計というものが、システム全体を設計する技術者にとって、どこから手をつけ、どのように進行させるのかにつき裁量性が認められるからであると解される。しかるに、A社は、下請であるXに対し、システム設計の一部しか発注していないのであり、しかもその業務につきかなりタイトな納期を設定していたことからすると、下請にて業務に従事する者にとっては、裁量労働制が適用されるべき業務遂行の裁量性はかなりなくなっていたということができる。また、Y社において、Xに対し専門業務型裁量労働制に含まれないプログラミング業務につき未達が生じるほどのノルマを課していたことは、Xがそれを損害として請求していることからも明らかである。さらに、Xは、部長からA社の業務の掘り起こしをするように指示を受けて、A社を訪問し、もっと発注してほしいという依頼をしており、営業活動にも従事していたということができる
以上からすると、Xが行っていた業務は、労働基準法38条の3、同法施行規則24条の2の2第2項2号にいう「情報処理システムの分析又は設計の業務」であったということはできず、専門業務型裁量労働制の要件を満たしていると認めることはできない。

3 時間外手当の額について検討するに、平成20年5月以降は、タイムカードを廃止し、それ以前のものは廃棄しているので、Xの労働時間を証する客観的な証拠は存在しない。
Xは、平成20年10月以降の作業日報とそれに基づく労働時間表を提出する。この期間の作業日報は具体的なものであって、Xはそれに記載された労働時間につき労働したものと認めることができる
Xは、平成20年10月1日以前については、上記期間の平均労働時間の80%に相当する時間外労働をしていたと推定しているところ、上記認定のXの業務内容や労働災害認定においても毎月80時間を超える時間外労働があったと認定されていることなどからすると、この推定は一定の合理性を有しているということができ、X主張のとおりの時間外労働時間を認めることができる

上記判例のポイント1には注意が必要です。

入口部分で負けると割増賃金がどえらいことになります。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間24(ジェイアール総研サービス事件)

おはようございます。

今日は、守衛の休憩・仮眠時間と割増賃金等に関する裁判例を見てみましょう。

ジェイアール総研サービス事件(東京高裁平成23年8月2日・労判1034号5頁)

【事案の概要】

Y社は、財団法人Aのビル管理等を目的等する会社であって、AからAの研究所における守衛業務を受託していた。

Xは、平成15年3月、Y社に嘱託社員として雇用され、同年4月には社員として総務部守衛室勤務を命じられた。

A研究所における守衛の業務は、守衛室において、受付、鍵の保管、火災報知器への対応、巡回、異常の有無の確認、門扉の施錠等のほか、地震や火災報知器の発報などに臨機に対応するものであった。

守衛の勤務は、一昼夜交代勤務で、休憩時間合計4時間、仮眠時間4時間であり、2人の守衛が交代で休憩・仮眠をとっていた。

Xは、平成17年1月18年12月までの間の休憩時間および仮眠時間が労働時間に当たると主張して、労働時間または労働基準法37条に基づき割増賃金等の支払を求めた。

【裁判所の判断】

休憩時間及び仮眠時間は、労基法上の労働時間に当たる。

【判例のポイント】

1 労働契約所定の賃金請求権は、不活動時間が労基法上の労働時間に当たることによって直ちに発生するものではなく、当該労働契約において休憩・仮眠時間に対していかなる賃金を支払うものと合意されているかによって定まるものと解されるが、労働契約は、労働者の労務提供と使用者の賃金支払とに基礎を置く有償双務契約であり、労働と賃金との対価関係は労働契約の本質的部分を構成しているというべきであるから、労働契約の合理的解釈としては、労基法上の労働時間に該当すれば、通常は労働契約上の賃金支払の対象となる時間としているものと解するが相当である。そして、時間外労働につき所定の賃金を支払う旨の一般的規定を有する就業規則等が定められている場合に、所定労働時間には含められていないが、労基法上の労働時間に当たる一定の時間について、明確な賃金支払規定がないことの一事をもって、当該労働契約において当該時間に対する賃金支払をしないものとされていると解することは相当でない(平成14年2月28日第1小法廷判決参照)。

2 ・・・したがって、Y社とXとの労働契約において、本件休憩・仮眠時間について残業手当、深夜手当を支払うことを定めていないとしても、本件休憩・仮眠時間について、労働基準法13条、37条に基づいて時間外割増賃金、深夜割増賃金を支払うべき義務がある。

3 守衛らは、休憩時間に入ると、特段の事情がない限り、守衛室内の休憩室部分で、新聞や本を読んだり、テレビを見たりすることが可能とされていたが、実際には、受付に来ている来訪者が多数あって応対が長引き、所定の休憩時間帯に入っても直ちに休憩に入ることができない場合も度々あり、また、当務の守衛が来訪者に対応している間に電話があって休憩時間中の守衛が電話に対応することもあり、さらに、当務の守衛が貸出しを求められた鍵を見つけ出すことができずに休憩時間中の守衛が対応したり、近隣住人の来訪に休憩時間中の守衛が対応する必要が生ずることもあったことは前記認定のとおりである。
・・・以上のほか、前記認定の諸事実及び証拠関係を総合すると、休憩時間中の守衛については、緊急事態が発生した場合への対応はもとより、平常時においても、状況に応じて当務の守衛を補佐すべきことが予定されていたものというべきであって、労働からの解放が保障されていなかったものと認められる

4 また、仮眠時間中は、制服を脱いで、自由な服装を着用して守衛室のベッドで仮眠することも可能であったが、仮眠時間中に帰宅したりすることが許されていたものではなく、Xによると、Xは、用務があった時直ちに対応し得るようトレーナー等を着用して仮眠していたというのであり、仮眠時間中の守衛は、警報に対応することなど緊急の事態に応じた臨機の対応をすることが義務付けられていたものであり、現実に実作業に従事する必要が生ずることは、Xの場合も存在したことは前記認定のとおりであって、その必要が皆無に等しいものとして実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情も認められない
したがって、本件休憩・仮眠時間は、Xは、労働からの解放が保障されていたとはいえず、具体的な状況に応じて役務の提供が義務付けられ、本件休憩・仮眠時間中の不活動時間もY社の指揮命令下に置かれていたと認められるから、本件休憩・仮眠時間は労基法上の労働時間に当たるというべきである。

会社とすれば納得できないかもしれませんが、現在の裁判所の判断はこのようになっています。

実際の訴訟では、「労働からの解放」が認められるか否かについて、労働者側は丁寧に主張立証する必要があります。

結局は事実認定の問題となるので、労働者側、会社側ともに気合いを入れて、主張立証しなければいけません。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間23(B社事件)

おはようございます。

さて、今日は、宿直勤務の労働時間性に関する裁判例を見てみましょう。

B社事件(東京地裁平成17年2月25日・労判893号113頁)

【事案の概要】

Y社は、建設施設の保守運行業務並びに修理工事、警備業務並びに防災防犯設備の施設管理等を目的とする会社である。

Xは、Y社の従業員であり、警備業務に従事していた。

Xは、Y社に対し、更衣時間・朝礼時間・休憩時間及び仮眠時間が労基法上の労働時間に当たると主張し、未払賃金等の請求をした。

【裁判所の判断】

休憩時間は、労基法上の労働時間に該当しない。

仮眠時間は、労基法上の労働時間に該当する。

【判例のポイント】

1 労働基準法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれる時間をいうが、上記労働時間に該当するか否かは、労働者が当該時間において使用者の指揮命令下に置かれていたものと評価できるか否かにより客観的に定めるものというべきである。

2 ・・・当該時間が非労働時間である休憩時間といえるためには、単に実作業に従事しないということだけでは足らず、使用者の指揮命令下から離脱しているといえる時間、すなわち、労働者が権利として労働から離れることを保障されていると評価できることを要すると解される。そして、労働からの解放が保障されている休憩時間といえるためには、当該時間における労働契約上の役務提供が義務づけられていないと評価される必要がある。
・・・しかしながら、・・・休憩時間には、飲食店で外食する者がいたり、食事を持参していない者が食事を購入するために外出したり、あるいは仮眠をとる者もいるなど自由であったこと、休憩時間には、警備員が警備服上着(ジャケット)を脱ぐことは認められており、ネクタイを緩めることもあった旨認められるのであって、これらの事実に照らせば、休憩時間は事業場外への外出も可能であるなど、労働契約上の役務提供が義務づけられていなかったものと評価することができる

3 Xは、本件仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対し直ちに相当の対応をすることを義務づけられていると認められるのであるから、本件仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているとはいえず、労働契約上の役務の提供が義務づけられていると評価することができる。したがって、Xは、本件仮眠時間中は不活動仮眠時間も含めてY社の指揮命令下に置かれているものであり、本件仮眠時間は労基法上の労働時間に当たるというべきである。

4 Y社は、宿直した警備員に対し、宿直1回当たり2300円の特定勤務手当を支払っている。仮に、時間外労働が存在しているというのであれば、特定勤務手当の趣旨からして、その支払金額をXの請求額から控除すべきである、と主張する。
しかしながら、特定勤務手当は、「変形労働時間制の適用による勤務において宿泊した場合は、特定勤務手当1日につき、2300円を支給する」と規定されている上に、Y社は、仮眠時間中に実作業が30分以上に及ぶ場合に限って時間外勤務手当を支給しているが、その場合であっても、特定勤務手当が支給されていると認められるから、特定勤務手当の趣旨は、24時間勤務に伴う勤務に対する対価と解されるのであって、時間外賃金とは趣旨が異なるものと認められるから、これを時間外賃金の一部払いであると認めることはできず、Y社の主張は採用できない

オーソドックスな感じです。

未払時間外手当の請求に対して、会社側で「既に●●手当に含まれている」と主張することがよくあります。

上記判例のポイント4のようにです。

ここは、会社側が事前に対策をとっていれば、必ず対応できる部分です。

訴訟になってからでは、どうしようもありません。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間22(奈良県(医師・割増賃金)事件)

おはようございます。

さて、今日は、産婦人科医の宿日直勤務や宅直勤務の労働時間性に関する裁判例を見てみましょう。

奈良県(医師・割増賃金)事件(大阪高裁平成22年11月16日・労判1026号144頁)

【事案の概要】

Y病院は、奈良県が設置運営する病院である。

Xらは、Y病院の産婦人科に勤務する医師である。

Xらは、奈良県に対し、宿日直勤務および宅直勤務は労働時間であるとして、労基法37条の定める割増賃金の支払いを請求した。

【裁判所の判断】

宿日直勤務については、割増賃金の請求を認める。

宅直勤務については、割増賃金の請求を認めない。

【判例のポイント】

1 労働基準法41条3号の監視労働とは、原則として一定部署にあって監視するのを本来の業務とし、常態として身体又は精神的緊張の少ない者、断続的労働とは、休憩時間は少ないが手待ち時間は多いものをいうと解されるところ、これらの労働は労働密度が薄く、精神的肉体的負担も小さいことから、当該労働時間は、全て使用者の指揮命令下にある労働時間であることを前提とした上で、所轄労働基準監督署長の許可を受けることを条件として、労働基準法32条その他同法上の労働時間に関する規定、休憩やや休日に関する規定の適用を免れるとしたものと解される。

2 Y病院の産婦人科医師の宿日直勤務は、その具体的な内容を問うまでもなく、外形的な事実自体からも、奈良労働基準監督署長が断続的な宿直又は日直として許可を行う際に想定していたものとはかけ離れた実態にあった、ということができる。このことに照らすと、奈良労働基準監督署長がY病院の宿日直勤務の許可を与えていたからといって、そのことのみにより、Xらの宿日直業務が労働基準法41条3号の断続的業務に該当するといえないことはもちろん、上記許可の存在から、Y病院における宿日直業務が断続的業務に当たると推認されるということもできない。

3 マンションの住み込み管理員が、雇用契約上の休日に断続的な業務に従事していた場合において、使用者が、管理員に対し、管理員室の証明の点消灯及びごみ置場の扉の開閉以外には、休日に業務を行うべきことを明示に指示していなかった事実関係の下では、使用者が休日に行うことを明示又は黙示に指示したと認められる業務に管理員が現実に従事した時間のみが、労働基準法32条の労働時間に当たる
ところが、本件で問題となっている宅直については、Y病院長がY病院の産婦人科医らに対し、明示又は黙示の業務命令に基づき宅直勤務を命じていたものとは認められないのであるから、Xらが宅直当番日に自宅や直ちにY病院に駆けつけることが出来る場所等で待機していても、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができない
・・・以上のとおり、Xらの宅直勤務は、Y病院の明示又は黙示の業務命令に基づくとは認められないので、これが労働基準法上の労働時間に当たると認めることはできない。

4 とはいっても、Y病院の宅直制度が、医師は緊急の措置を要請された場合にはこれに応ずべきであるとする、プロフェッションとしての医師の職業意識に支えられた自主的な取組みであり、Y病院における極めて繁忙な業務実態からすると、現行の宅直制度の下における産婦人科医の負担は、プロフェッションとしての医師の職業意識から期待される限度を超える過重なものなのではないか、との疑いが生ずることも事実である(また、そもそも、雇用主である奈良県が、雇用される立場のXらのプロフェッションとしての医師の職業意識に依存した制度を運用することが正当なのかという疑問もある。)。
奈良県においては、Y病院における1人宿日直制度の下での宿日直担当医以外の産婦人科医の負担の実情を調査し、その負担(宅直制度の存否にかかわらない。)がプロフェッションとしての医師の職業意識により期待される限度を超えているのであれば、複数の産婦人科宿日直担当医を置くことを考慮するか、もしくは宿日直医の養成に応ずるため、自宅等で待機することを産婦人科医の業務と認め、その労働に対して適正な手当を支払うことを考慮すべきものと思われる。

少し前に、この事件の記事についてこのブログで取り上げました。

裁判所は、宿日直勤務を、労基法41条3号の断続的労働とは認めず、その全体についてY病院の指揮命令下にある労基法上の労働時間であるとして、割増賃金の請求を認容しました。

他方、宅直勤務については、医師の自主的な取組みであり、Y病院からの黙示の業務命令によるものとは認められないとして、労基法上の労働時間に当たらないとしました。

このような判断をしておきつつ、裁判所は、上記判例のポイント4で、バランスを保とうとしています。

こういうのを「蛇足」とかいわれちゃうんでしょうか・・・。 僕は、いいと思うんですけど。

なお、本件では、上告受理申立てがされているようです。 最高裁の判断が待たれます。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間21(レイズ事件)

おはようございます。

さて、今日は、事業場外みなし労働時間制に関する裁判例を見てみましょう。

レイズ事件(東京地裁平成22年10月27日・労判1021号39頁)

【事案の概要】

Y社は、不動産業を営む会社である。

Xは、Y社に採用され、その後、解雇された。解雇時は、営業本部長の地位にあった。

Xは、解雇後、Y社に対し、時間外・休日労働にかかる未払賃金の支払いを求めた。

これに対し、Y社は、Xが管理監督者にあたること、事業場外みなし制度が適用されることなどを主張し、争った。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を否定

【判例のポイント】

1 本件みなし制度は、事業場外における労働について、使用者による直接的な指揮監督が及ばず、労働時間の把握が困難であり、労働時間の算定に支障が生じる場合があることから、労働時間の算定に支障が生じる場合があることから、便宜的な労働時間の算定方法を創設(許容)したものであると解される。そして、使用者は、本来、労働時間を把握・算定すべき義務を負っているのであるから、本件みなし制度が適用されるためには、例えば、使用者が通常合理的に期待できる方法を尽くすこともせずに、労働時間を把握・算定できないと認識するだけでは足りず具体的事情において、社会通念上、労働時間を算定し難い場合であるといえることを要するというべきである

2 また、労働基準法は、事業場外労働の性質にかんがみて、本件みなし制度によって、使用者が労働時間を把握・算定する義務を一部免除したものにすぎないのであるから、本件みなし制度の適用結果(みなし労働時間)が、現実の労働時間と大きく乖離しないことを予定(想定)しているものと解される。したがって、例えば、ある業務の遂行に通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合であるにもかかわらず(本来、労働基準法38条の2第1項但書が適用されるべき場合であるにもかかわらず)、労働基準法38条の2第1項本文の「通常所定労働時間」働いたものとみなされるなどと主張して、時間外労働を問題としないなどということは、本末転倒であるというべきである

3 Xが従事した業務の一部又は全部が事業場外労働(いわゆる営業活動)であったことは認められるものの、Xは、原則として、Y社に出社してから営業活動を行うのが通常であって、出退勤においてタイムカードを打刻しており、営業活動についても訪問先や帰社予定時刻等をY社に報告し、営業活動中もその状況を携帯電話等によって報告していたという事情にかんがみると、Xの業務について、社会通念上、労働時間を算定し難い場合であるとは認められない
また、Xは、営業活動を終えてY社に帰社した後においても、残務整理やチラシ作成等の業務を行うなどしており、タイムカードによって把握される始業時間・終業時間による限り、所定労働時間(8時間)を超えて勤務することが恒常的であったと認められるところ、このような事実関係において、本件みなし制度を適用し、所定労働時間以上の労働実態を当然に賃金算定の対象としないことは、本件みなし制度の趣旨にも反するというべきである。

4 Y社は、Xに対し、時間外労働や休日労働を命じていない旨主張し、これに沿った証拠もある。しかしながら、Xらが出社時及び退社時にタイムカードを打刻していたことは明らかであり、そうである以上、Y社がXら勤務実態を把握していたこともまた明らかというべきである。そして、Y社は、従業員の労働管理の責任を負う使用者として、仮にXらが業務指示に反する形で勤務していたならば、その旨注意ないし指導すべきであるが、そのような事情はうかがわれないこと、Xらの時間外労働及び休日労働は恒常的なものであったと解されることをも併せ考えると、Xらは、少なくともY社による黙示の指示に基づいて業務(時間外労働及び休日労働)に従事していたものと解される。

本裁判例でも、事業場外みなし労働時間制の適用を否定しました。

会社としては、慣れないものに手を出して、やけどしないように注意しましょう。

また、時間外労働や休日労働について、会社の「黙示の指示」という認定をされています。

明示的な業務命令をしていなくとも、黙認していると、このような認定をされる場合がありますので、注意しましょう。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間20(R社事件)

おはようございます。

今日は、労働時間に関する裁判例を見てみましょう。

R社事件(大阪地裁平成22年10月29日・労判1021号21頁)

【事案の概要】

Y社は大阪府下で小中学生を対象とする学習塾を経営する会社である。

Xは、文系講師として、Y社に16年間勤務し、平成15年3月、自己都合で退職した。

Xは、他の学習塾勤務等を経て、平成19年7月、Y社に再入社し、期間の定めのない雇用契約を締結した。

Y社では、年に4回、生徒アンケートを実施しており、Xは、生徒アンケートで文系講師のうち最下位が続いた。

Y社は、Xには授業能力向上、改善の意欲が認められず、生徒アンケートの評価は最低線から向上しなかったことを理由として、Xに対し、解雇を通告した。

Xは、本件解雇は無効であると主張し争うとともに、時間外労働や休日労働の割増賃金を請求した。

【裁判所の判断】

解雇は有効

割増賃金の請求は認容。付加金も全額支払を命じた。

【判例のポイント】

1 Y社は、Xの給与の中には、週8時間分の固定時間外手当が含まれていると主張する。しかし、給与明細書上、基本給と時間外手当が明確に区別されているとはいえないこと賃金規程上も固定時間外手当に関する規程は存在しないこと、その他にY社の上記主張を根拠付ける的確な証拠は見出し難いことからすると、Y社の同主張は理由がない。

2 Y社は、休憩時間の取得については各講師の裁量に委ねられており、予習時間、経営会議への参加、勉強会への参加は、いずれも労働時間には該当しないと主張する。
休憩時間とは、労働者が使用者による時間的拘束から解放されている時間を指すのであって、例えば、具体的な業務がなされていなくとも、使用者の指揮命令下におかれている限りは休憩時間ではなく労働時間であると解される

3 本件についてみると、Xを含む講師は、生徒からの質問があれば、これに対応する必要があったこと、受付事務職員がいたとしても、来訪者が講師との面談等を求めることもあり、その場合には各講師が対応しなければならないこと、Y社においては、休憩時間が明確に設定されていなかったこと、Xの配属先である各教室では、昼食時間中における生徒等に対する対応に関し、当番等を決めて対応していたとは認められないこと、各講師は、授業時間以外の時間において、生徒の成績をつけたり、成績分析をしたり、授業の準備のための予習をしたりする必要があったこと、以上の点が認められ、これらの点からすると、Xは、在社時間中、Y社の指揮監督下から解放される時間を有していたとは認め難い

4 塾講師が、その業務を遂行する(具体的には授業を行うということ)ために、その授業内容の事前準備を行う時間が不要であるとはいえないこと、予習をして授業の質を高めることは塾講師にとって必須事項であること、講師経験の長短によって予習に必要な時間が異なることはあるということは窺われるものの、全く経験豊富な講師であったとしても、予習が不要となるとは考え難く、Xについても、授業のために必要があればそれに応じて十分な予習を行ってきたこと、以上の点が認められ、これらの点からすると、授業を行うことに必要な予習を行うことは、Xの業務の一環であって、同時間については、労働時間であると評価するのが相当である

全国の塾関係者とすれば、この裁判例は困りますね・・・。

私も司法試験の勉強をしていた頃、塾講師をしていたので、状況はよくわかります。

在社時間は、授業を実際にやっていなくても、生徒の質問に対応したり、来客者の対応をするので、労働時間にあたると思います。

ただ、予習時間が労働時間かと言われると、違和感を感じます。

授業内容の事前準備は当然必要ですが、仕事の準備が必要なのは、塾講師に限りません。

塾側とすれば、当然納得できないと思います。

というわけで、Y社は控訴しております。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間19(日本インシュアランスサービス(休日労働手当・第1)事件)

おはようございます。

今日は、事業場外みなし労働時間制に関する裁判例を見てみましょう。

日本インシュアランスサービス(休日労働手当・第1)事件(東京地裁平成21年2月16日・労判983号51頁)

【事案の概要】

Y社は、F生命保険相互会社の契約調査業務の代行会社として設立された沿革を有し、生命保険制度の健全な運営を実現するために生命保険会社が行う契約選択業務に係る確認業務を受託している会社である。

Xらは、Y社の「業務職員」としてこようされ、自宅を本拠地として、生命保険の死亡保険金や各種給付金等の支払いに際し、告知の有無、事故の状況、障害の状態、入院加療の内容等を確認する業務などに従事している。

Xらは、Y社から宅急便やメール等で担当案件の確認業務に関する資料を自宅で受領し、指定された確認項目に従い、自宅から確認先等を訪問し、事実関係の確認を実施し、その結果を確認報告書にまとめて、報告期間内に本社ないし支社に郵送またはメールで送付する態様で業務に従事していた。

業務職員の所定労働時間等は、平日は、始業午前9時、終業午後5時、労働時間7時間、休憩1時間、土曜が特別休日、日曜が休日とされ、日常の確認業務については、事業場外労働のみなし労働時間制が採用されていた。

Xらは、就業規則上は、業務上特に必要があり、所属長が指示をした場合には、休日を就業日とし、他の日を休日とすることがあるとされ、その振替休日は就業日当日から4週間以内に本人が請求した日に取ることとされていたが、業務量から振替休日を十分に取れる状況になかったり、振替休日にY社から電話連絡があるなどしていた。

平成18年1月、Y社は、労働基準監督官からの是正勧告(休日の就業に関して、時間外労働および休日労働に対する割増賃金の支払い)を受け、業務職員に対し過去2年分の休日労働の割増賃金の清算をすることとした。

Xらは、Y社に対し、自宅と確認先との間の移動時間についても労働時間として取り扱われるべきである、休日労働については実労働時間に応じて割増賃金を支払うべきであると主張して、休日労働手当、付加金の支払いを求めた。

なお、本件争点は、(1)自宅と確認先間の移動時間の取扱い、(2)報告書作成時間の算定方法、である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xらの業務執行の態様は、契約形態が雇用であるから従属労働であるとはいえ(実際、同じ業務を担当しているが、業務委託契約の職員もいる。)Y社の管理下で行われるものではなく、本質的にXらの裁量に委ねられたものである。したがって、雇用契約においては、使用者は労働者の労働時間を管理する義務を有するのが原則であるが、本件における雇用契約では、使用者が労働時間を厳密に管理することは不可能であり、むしろ管理することになじみにくいといえる。

2 Y社就業規則において、Xらの労働日は、平日においては、みなし労働時間制が採られており、就業時間は7時間(休憩時間は1時間で随時取る。)であるところ、「日常の確認活動については、通常の労働時間就業したものとみなす」とされている。Xらの業務執行の態様からすれば、このみなし労働時間制は、その業務執行の態様に本質的に適っているということができる。

3 業務執行の態様の下では、休日労働のあり方も、平日のそれと本質的な差異はないのであるから、休日労働の時間の算定も、平日同様、みなし労働時間制によることが、その業務執行の態様に本質的に適っているということもできる。しかしながら、休日は本来労働することを予定していない日であるため、「所定労働時間」や「通常所定労働時間」(労基法38条の2第1項)といったものが存在しないので、みなすべき労働時間が存在せず、これによることができないということにすぎない。平日の労働にみなし労働時間制が採用されている場合でも、休日労働は実労働時間によらねばならないという格別の要請が労基法上存在するとは解されない。かえって、休日労働のみは実労働時間によらねばならないということになれば、経験則上、休日労働の方が作業効率が低下するのが通常であるのに、使用者はその労働に対して、高い割増賃金を支払わねばならず、経験原則にも相反することになりかねない。

4 Y社の業務職員の業務執行の態様は、その労働のほとんど全部が使用者の管理下になく、労働者の裁量の下にその自宅等で行われているのであるから、休日における報告書作成時間等も、使用者において管理しているものではなく、作成に要した実時間を使用者において知ることができるものではない。業務職員もY社に報告していないし、また実際にもY社が把握してはいない。したがって、一定の算定方法に基づき、報告書作成時間等を算定することにも合理性が存するといえる。

5 休日労働における報告書作成時間の算定に関する社内的な取決めについては、本質的に使用者に制定する権限があり、その裁量に委ねられているというべきであり、司法審査に当たっては、恣意にわたるような定め方や、時間外手当請求権を実質的に無意味としかねないような裁量権の逸脱が存するか否かの点に限って審査すべきである。

6 移動時間のうち、確認場所間の移動については労働時間として扱うことに当事者間に異論はない。問題は、自宅と確認先との間の移動時間、すなわち自宅を出発して最初の確認先に至る間の移動時間である。
Xらの自宅は就業場所でもあり休息の場所でもあり、Xらの自宅から確認先への移動については通勤と解するのが相当である。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。