Category Archives: 労働時間

労働時間8(変形労働時間制その3)

おはようございます。

さて、今日も、昨日に引き続き、1カ月単位の変形労働時間制について見ていきましょう。

1カ月の変形労働時間制で時間外労働となる時間は、以下の3つです。

1 1日については、就業規則その他これに準ずるものにより8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間

2 1週間については、就業規則その他これに準ずるものにより40時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(1で時間外労働となる時間を除く)

3 変形期間については、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(1または2で時間外労働となる時間を除く)

なお、3に関して、1カ月以内の変形期間の労働時間の総枠は、以下のとおりです。

1カ月の暦日数  労働時間の総枠
   28日      160.0時間
   29日      165.7時間
   30日      171.4時間
   31日      177.1時間
(計算式:40時間(週法定労働時間)×(変形期間の暦日数÷7日)

では、1カ月単位の変形労働時間制において、他の週に休日を振り替えた結果、あらかじめ定めたその週の労働時間を超えた場合はどのように対応したらよいでしょうか。

この場合には、1日8時間、1週40時間を超える労働となる場合には、その超える時間は時間外労働として扱うこととされています。

就業規則での規定方法としては、大きく2つの方法が考えられます。

1 業務の繁忙期・閑散期に応じて、従業員の所定労働時間を一律に定める方法

2 従業員ごとに勤務シフトを指定して運用する方法

2の方法をとる場合、対象となる変形期間の開始前に、必ず勤務シフト表などで、従業員に各日の労働時間を事前に周知することが必要ですので注意してください。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間7(変形労働時間制その2)

おはようございます。

さて、今日から数回にわたり、1ヵ月単位の変形労働時間制について見ていきたいと思います。

1ヵ月単位の変形労働時間制とは、期間を1ヵ月以内とし、一定期間を平均して週40時間の法定労働時間以内であれば、1日あるいは1週間の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。

つまり、法定労働時間を超えた時間でも所定労働時間とすることができ、時間外労働にはならないわけです。
 
例えば、所定労働時間が7時間で、隔週で週休2日制とする場合、1週間の労働時間は42時間(7時間×6日)と35時間(7時間×5日)を交互に繰り返すことになります。 

42時間の週については、1週間の法定労働時間(40時間)を超えてしまうため、変形労働時間制を採用する必要があります。 

導入要件は以下のとおりです。

就業規則に、(1)1ヵ月以内の一定の期間(変形期間)、(2)変形期間を平均し1週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えないこと、(3)変形期間の起算日、(4)変形期間の各日および各週の労働時間等の所定事項を定めて労働基準監督署に届け出ることが必要です。

ポイントは、(4)です。

通達によれば、就業規則において、各日の労働時間の長さだけではなく、始業及び終業の時刻も定める必要があるとされていますので、注意してください。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間6(変形労働時間制その1)

10月スタート!!

今月もはりきっていきましょう!!

さて、変形労働時間制について見ていきましょう。

今日は、概要です。

労基法の労働時間に関する規制の基本は、1日8時間、1週40時間の法定労働時間です(労基法32条)。

変形労働時間制は、これを1ヵ月単位、1年単位などの一定期間の総労働時間の規制に置き換えて、業務の繁閑に応じて所定労働時間を弾力的に配分させる制度です。

変形労働時間制には、以下の3つがあります。

1 1ヵ月単位の変形労働時間制(労基法32条の2)

2 1年単位の変形労働時間制(労基法32条の4)

3 1週間単位の変形労働時間制(労基法32条の5)

変形労働時間制を採用した場合、変形期間内を平均して週の法定労働時間を超えない限り一定の日や週に法定労働時間を超える所定労働時間を設定しても時間外労働にはなりません

なお、満18歳未満の年少者については、原則として、これら3種類の変形労働時間制は適用されません(労基法60条1項)。

満15歳以上満18歳未満の者については、満18歳に達するまでの間、1週間について48時間、1日について8時間を超えない範囲内において、1ヵ月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制を適用することができます(労基法60条3項2号)。

また、妊産婦が請求した場合には、1週または1日の法定労働時間を超えて労働させてはいけません(労基法66条1項)。

また、上記3つの変形労働時間制とは若干性質が異なりますが、フレックスタイム制(労基法32条の3)もあります。

フレックスタイム制とは、従業員が各日の始業・終業時刻を自ら決定することができる制度です。

次回以降、各制度を詳しく見ていきましょう。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間5(事業場外みなし労働時間制その5)

おはようございます。

今日は、事業場外みなし労働時間制に関する裁判例を見てみましょう。

和光商事事件(大阪地裁平成14年7月19日・労判833号22頁)

【事案の概要】

Y社は、金融業を営む会社である。

Xは、Y社の営業社員として外勤勤務を行っていた。

Xは、Y社退職後、未払いの時間外労働割増賃金の支払いなどを求めた。

Y社は、事業場外みなし労働時間制により所定労働時間労働したものとみなされるから、Xに時間外労働時間は存在しないと主張した。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にはあたらない。

【判例のポイント】

1 Y社では、営業社員について勤務時間を定めており、基本的に営業社員は朝Y社に出社して毎朝実施されている朝礼に出席し、その後外勤勤務に出て、基本的に午後6時までに帰社して事務所内の掃除をして終業となる。

2 Xは、メモ書き程度の簡単なものとはいえ、その日の行動内容を記入した予定表を会社に提出し、外勤中に行動を報告したときは会社が予定表の該当欄を抹消していた。 

3 営業社員全員に会社所有の携帯電話を持たせている。

以上の事情から、裁判所は、「労働時間が算定し難いとき」にはあたらないと判断しました。

なお、Y社は、上記の携帯電話の件について、「顧客から担当者にかかってきた電話を転送するためである」と主張しました。しかし、裁判所は、Y社が営業社員に対して携帯電話を使用して指示を与えていたこともあったことをX本人の尋問内容から認定し、Y社の主張を認めませんでした。

やはりよほど自由な外勤勤務でないと、「労働時間が算定し難いとき」にはあたらないようです。

これまでの裁判例を参考に、「うちの会社もこの程度だったら把握しているな」と思われる場合には、事業場外みなし労働時間制は使わないほうが無難です。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間4(事業場外みなし労働時間制その4)

さらに裁判例をもう1つ見てみましょう。

サンマーク事件(大阪地裁平成14年3月29日・労判828号86頁)

【事案の概要】

Y社は、教育機器等の販売、通信販売業務等を行う会社である。

Xは、Y社の営業社員であり、情報誌の広告企画、営業活動、取材活動、原稿依頼等の職務を行っていた。 

 Xは、Y社に対し、時間外割増賃金の支払いを求めた。 

 
Y社は、Xの職務はそのほとんどが事業場外で行うものばかりであり、「労働時間が算定し難いとき」に該当し、時間外手当が発生する余地はないと主張して争った。

【裁判所の判断】

事業場みなし労働時間制の適用を受ける場合にはあたらない。  

【判例のポイント】

1 Xの事業場外における業務は、前日提出の報告書や当日の打合せで上司に把握されており、その結果も、訪問先における訪問時刻と退出時刻を報告するという制度によって管理されている。 

2 同報告書には、訪問先すべてについて、訪問時刻と退出時刻、訪問の回数、見込み、結果、今後の対策等を記載するとされていたことから、Xが事業場外における営業活動中にその多くを休憩時間に当てるなど自由に使えるような裁量はなかった


以上の事情から、裁判所は、「労働時間が算定し難いとき」にはあたらないと判断しました。


本件のような詳細な報告書の提出を義務付けている場合には、「労働時間が算定し難いとき」には該当しないようです。
 

やはりそう簡単には認められないようです。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間3(事業場外みなし労働時間制その3)

おはようございます。

もう1つ裁判例を見てみましょう。

千里山生活協同組合事件(大阪地裁平成11年5月31日・労判772号60頁)

【事案の概要】

Y社は、消費生活協同組合。

Xらは、Y社の支所、倉庫等において、物流業務、共同購入業務等に従事していた。

Y社の就業規則には、配達業務への事業場外みなし労働時間制が規定されている。

Xらは、時間外労働等に対する割増賃金の支払いを求めた。

Y社は、就業規則を根拠に、配達からの帰着時間が所定終業時間を超えても時間外勤務手当の対象とはならないと主張した。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にはあたらない。

【判例のポイント】

1 Y社においては、配達業務に従事する職員を含めて、その労働時間をタイムカードによって管理しており、労働時間を算定しがたい場合に当たらない。

というわけで、タイムカードで労働時間を管理している場合には、事業場外みなし労働時間制を使うことはできないようです。

なお、時間外労働の有無について、タイムカードの記載によって、これを認定できるかについて争われることがあります。

本件でも争点の1つになっています。

裁判例の中にも、タイムカードの記載によって時間外労働時間を認定するものと、タイムカードの記載は現実の労働時間を記載したものではないとするものがあります。

この点については、別の機会に見ていきたいと思います。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間2(事業場外みなし労働時間制その2)

おはようございます。

今日は、事業場外みなし労働時間制に関する裁判例を見てみましょう。

ほるぷ事件(東京地裁平成9年8月1日・労判722号62頁)

【事案の概要】

Y社は、書籍等の訪問販売を主たる業務とする会社である。

Xらは、Y社のプロモーター社員(就業規則上、事業場外みなし規定が適用されるものとされている)であり、土曜または日曜の休日に、展覧会での販売業務に従事したとして、時間外及び休日手当を請求した。

Y社は、展覧会での労働が、事業場外みなし労働時間制の適用の対象である等として、Xらの請求に応じなかった。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にはあたらない。

【判例のポイント】

1 展示販売は、業務に従事する場所及び時間が限定されていた。

2 Y社の支店長等も業務場所に赴いていた。

3 Xらの会場内での勤務は、顧客への対応以外の時間も顧客の来訪に備えて待機していたものであり、休憩時間とはいえない。

1~3のような事情から、裁判所は、「労働時間を算定し難いとき」とはいえないと判断しました。

1、2からすると、労働時間は把握できたと判断されても仕方がありません。

みなし労働時間制の要件を満たしていない場合には、原則に戻り、実労働時間で労働時間を計算して割増賃金を支払うことになります。

もっとも、残業時間が何時間であるかについては、労働者が立証しなければなりません。

そのため、従業員のみなさんは、事業場外みなし労働時間制が採用されている場合でも、実労働時間を記録化しておくことをおすすめします。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間1(事業場外みなし労働時間制その1)

おはようございます。

今日は、事業場外みなし労働時間制について見ていきます。

この制度を使うべきか否かについて、現在、ある会社から相談を受けております。

労働基準法38条の2第1項
労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。

事業場外で業務を行うために、管理者の具体的な指揮監督が及ばない場合には、労働時間について、一定の時間働いたものとみなす、という制度です。

したがって、単に事業場外で仕事をするだけでは、この制度を使うことはできません。

この制度を使う場合には、以下の要件をみたすことと、労使協定を締結することが必要となります。

また、就業規則にも定めておく必要があります。

この制度を使う場合、労基法38条の2第1項で定めているとおり、「労働時間を算定し難い」ことが要件となります。

具体的には、使用者の指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難な場合に、利用することができます。

そのため、例えば、
1 グループで仕事をする場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合

2 携帯電話等によって随時使用者の指示を受けながら仕事をしている場合

3 事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた際、指示どおりに業務に従事し、その後事業場に戻る場合

等の場合には、労働時間の算定が困難であるとはいえず、この制度を使うことはできません。

そのため、訪問先を決めるのも帰社時間を決めるのも従業員の裁量となっており、逐一外出先からの報告が義務づけられていないような場合にしか使うことができません。

この制度は、あくまで例外的なものなので、そう簡単には使えないわけです。

次回、事業場外みなし労働時間制に関する裁判例を見ていきましょう。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。