Category Archives: 労働時間

労働時間108 夜勤勤務の休憩時間に関する未払割増賃金等支払請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、夜勤勤務の休憩時間に関する未払割増賃金等支払請求に関する裁判例を見ていきましょう。

医療法人みどり会事件(大阪地裁令和5年12月25日・労判ジャーナル147号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結し、介護老人保健施設において介護職員として勤務していたXが、Y社に対し、未払時間外割増賃金等の支払並びに労基法114条に基づく付加金等の支払を求め、また、同法39条の年次有給休暇の取得を申請していないのに、Y社が、Xに無断でこれを取得したこととしてその残日数を減少させたとして、不法行為に基づき、当該日数の賃金相当額の損害賠償等の支払を求め、さらに、令和3年度上半期及び下半期の賞与の算定にあたって、合理的な理由なく最低評価をしたとして、不法行為に基づき、それぞれ減額分2万円の損害賠償等の支払等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払割増賃金等支払請求一部認容

損害賠償等請求一部認容

【判例のポイント】

1 夜勤時の休憩時間に関して、本件運用変更前について、Xが、夜勤において、夜勤者2名の間で休憩に関する取り決めがなく、相勤者がナースコール等に対応するとは限らなかった以上、Xは、当該待機時間中、常にこれに対応する必要があったというほかなく、そして、ナースコール等の回数は、毎回の夜勤ごとに相当の回数に及んでおり、これがごく稀であって実質的に対応の必要が乏しかったとみることもできないから、Xは労働からの解放が保障されていたとはいえず、Y社の指揮命令下に置かれていたと評価するのが相当であり、本件運用変更後も、本件施設の介護職員は、夜勤時に休憩を取得すべきとされる時間帯においても、相勤者が巡視やナースコール等への対応を行っている間に利用者から重複ナースコール等があった場合における対応を免除する旨の指示を受けておらず、このような事態がごく稀であって実質的に対応をする必要がなかったともいえないから、休憩時間とされる時間についても、労働からの解放が保障されていたとはいえず、Y社の指揮命令下に置かれていたといわざるを得ないから、本件運用変更の前後を問わず、本件請求期間中のXの夜勤については、休憩時間を取得することができたものとは認められない

2 Y社の就業規則には、1か月単位の変形労働時間制を採用する旨の記載があるが、Y社の就業規則において、Y社が実際に作成した勤務割表の労働時間に対応する各日・各週の労働時間の特定がされているとは認められず、当該変形労働時間制は、労働基準法32条の2第1項所定の要件を欠くものといわざるを得ない。

上記判例のポイント1の理屈は異論のないところかと思います。

看護師に限らず、警備員等についても、同様の議論が妥当します。

法律の考え方はわかっていても、人手不足の昨今、実際にどのように労務管理をしたらよいのか悩ましいところです。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間107 不活動仮眠時間について労働時間該当性が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、不活動仮眠時間について労働時間該当性が認められた事案について見ていきましょう。

大成事件(東京地裁令和5年4月14日・労経速2549号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されて東京都内のビル内での設備管理業務に従事したXらが、Y社は労働基準法所定の割増賃金を支払っていないと主張して、Y社に対し、それぞれ次の各支払を請求する事案である(以下略)。

【裁判所の判断】

Y社は、
①X1に対し、708万2791円+遅延損害金を支払え
②X1に対し、付加金462万9917円+遅延損害金を支払え。
③X2に対し、835万2375円+遅延損害金を支払え。
④X2に対し、付加金557万3823円+遅延損害金を支払え。
⑤X3に対し、427万2058円+遅延損害金を支払え。
⑥X3に対し、381万9861円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 勤務の実態として、当直設備員2名のうちいずれかの仮眠時間に当たる時間帯においても、当直設備員らは、トラブル等に複数名で対応していたもので、2名以上で対応した件数は、平成29年2月から令和元年8月までの2年6か月間に少なくとも46件、Xらが対応したものだけでも33件に上り、その頻度は、1か月間に1件を上回るものであった。

2 設備控室に内線電話、緊急呼出装置、インターフォンが設置されていたほか、設備員は、勤務中、休憩・仮眠の時間であっても館内PHSの携帯を義務付けられ、仮眠時間中であっても、防災センターから容易に連絡を取ることができる状況にあり、仮眠に入る際、寝間着等ではなく、洗濯後の別の制服に着替えていたことをも踏まえれば、仮眠時間中の設備員も労働から離れることはできていなかったと認められ、Xらは、本件仮眠時間中、労働時間に基づく義務として、設備控室における待機とトラブル等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けされていたと認めることができる。

上記の事情が認められる以上、仮眠時間が労働時間にあたることは、過去の裁判例から明らかです。

警備員の労働時間の長さゆえに、結果として高額な未払残業代が認定されています。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間106 就業時間前後における制服の更衣時間の労働時間性が肯定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、就業時間前後における制服の更衣時間の労働時間性が肯定された事案について見ていきましょう。

日本郵便事件(神戸地裁令和5年12月22日・労経速2546号16頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXらが、Y社から着用を義務付けられていた制服の更衣に要する時間は労働基準法上の労働時間に該当するにもかかわらず、Y社はこれを労働時間として扱わず、更衣に要する時間に応じた割増賃金を支払っていない旨主張して、Y社に対し、①〈ア〉主位的に、不法行為に基づく損害賠償請求として、平成29年12月から令和2年11月までの間の未払賃金相当損害金及び弁護士費用相当損害金の合計である各Xに係る別紙の「請求額」欄記載の金員+遅延損害金の支払を求め、〈イ〉予備的に、(a)雇用契約に基づく賃金請求として、令和元年7月から令和2年11月までの間の未払賃金である各Xに係る別紙の「請求額」欄記載の金員+遅延損害金の支払を求めるとともに、(b)労働基準法114条に基づく付加金請求として、上記各Xに係る別紙1の「請求額」欄記載の金員と同額の付加金+遅延損害金の支払を求め、また、②雇用契約に基づく賃金請求として、令和2年12月から令和4年3月までの間の未払賃金である各原告に係る別紙の「請求額」欄記載の金員+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 C3郵便局、C1郵便局、C2郵便局、C6郵便局、C5郵便局、C4郵便局、C7郵便局、C8郵便局、C9郵便局及びC10郵便局には、いずれも更衣室が設置されている。そして、このうち、C3郵便局、C2郵便局、C6郵便局、C5郵便局、C4郵便局、C7郵便局、C8郵便局及びC9郵便局においては、制服を着用して通勤していることが確認できるのは、調査対象者のうちのごく一部であり、これらの郵便局においては、ほとんどの従業員が、各郵便局内に設置された更衣室で更衣を行っているのが実態であるということができる。
また、Y社が作成した「郵便業務のコンプライアンス指導教材(2016年1月期①)」には、「2016年1月1日(金)~31日(日)の間に、対象者(=郵便業務を担当する部署に所属する社員及び総務部に所属し郵便業務に携わる社員)全員に対し、本研修教材を用いて指導してください。」との記載とともに、「勤務時間外のユニフォーム着用・ユニフォーム通勤の禁止」、「お客さまから見た『ユニフォームを着用している社員』は『勤務時間中である』と認識され、ユニフォームを着用したままの飲食店での飲酒等は会社のイメージ低下に繋がるため、勤務時間外のユニフォーム着用の禁止」、「ユニフォームに郵便物・現金等を隠して事務室から持ち出し、窃取等する犯罪を防止するため、ユニフォーム通勤の禁止」との記載があるところ、これらの記載は、Y社として、ユニフォームを着用しての通勤を禁止していたということを窺わせるものである。
さらに、会計事務マニュアルにおいても、平成29年5月付けで改訂される前の会計事務マニュアルには、勤務時間外のユニフォーム着用の禁止が明示的に記載され、同月付けの改訂後においても、これを基本的には控えさせる旨が記載されているのであり、このような記載も、Y社として、ユニフォームを着用しての通勤を禁止していたことを窺わせるものといえる。
他方、C3郵便局、C1郵便局、C2郵便局、C6郵便局、C5郵便局、C4郵便局、C7郵便局、C8郵便局、C9郵便局及びC10郵便局のそれぞれにおいて、ユニフォームを着用しての通勤が許されている旨がY社から各従業員に対して告知されたことはこれまでないことが認められる。
以上のとおり、Y社がユニフォームを着用しての通勤を禁止していたことを窺わせるY社作成の資料があるほか、ほとんどの従業員が、各郵便局内に設置された更衣室で更衣を行っていたという実態がある一方で、Y社からユニフォームを着用しての通勤が許される旨の告知がされたことはないのであるから、Y社は、C3郵便局、C1郵便局、C2郵便局、C6郵便局、C5郵便局、C4郵便局、C7郵便局、C8郵便局、C9郵便局及びC10郵便局の各郵便局内の更衣室において、制服を更衣するよう義務付けていたものと認めるのが相当である。

古典的な論点ですね。

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労働時間105 専門業務型裁量労働制における労使協定締結が無効として残業代等の支払いが命じられた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専門業務型裁量労働制における労使協定締結が無効として残業代等の支払いが命じられた事案

学校法人松山大学事件(松山地裁令和5年12月20日・労経速2544号3頁)

【事案の概要】

本訴事件は、①Y大学法学部法学科に所属する教授職にあるXらが、専門業務型裁量労働制を導入した就業規則の変更が無効であり、時間外労働、休日及び深夜労働に係る賃金が支払われていないと主張して、未払賃金支払請求権に基づき、Y大学に対し、X甲野に509万1326円+遅延損害金、X乙山に407万6623円+遅延損害金の支払を求め(以下、これらの請求を「本訴請求①」という。)、②X甲野が、〈ア〉Y丁田によるハラスメント申立て並びにY大学による同申立についての審議及びハラスメント認定がいずれも不当労働行為に該当する、〈イ〉Y大学及びY丁田が、労働者の過半数代表者の選出に当たって不当に介入したことが違法であると主張して、Yらに対し、共同不法行為に基づく損害賠償として、連帯して100万円+遅延損害金の支払を求め(以下、これらの請求を「本訴請求②」という。)、③Xらが、Y大学の、〈ア〉労働者の労働時間を把握管理しなければならない義務及び出退勤時刻を把握する手段を整備しなければならない義務違反、〈イ〉休日及び深夜の研究室の利用の原則禁止処分、〈ウ〉休日・深夜勤務申請書及び休日・深夜勤務報告書の受付拒否、〈エ〉注意文書等の発出行為がいずれも不当労働行為に該当するとして、Y大学に対し、不法行為に基づく損害賠償として、X甲野に75万円+遅延損害金、X乙山に100万円+遅延損害金の支払を求め(以下、これらの請求を「本訴請求③」という。)、④Xらが、Y大学に対し、上記①に係る付加金として、X甲野に421万2988円+遅延損害金、X乙山に270万9640円+遅延損害金の支払を求めた(以下、これらの請求を「本訴請求④」という。)事案である。

【裁判所の判断】

1 Y大学は、X甲野に対し、351万9733円+遅延損害金を支払え。
2 X大学は、X甲野に対し、140万円+遅延損害金を支払え。
3 X大学は、X乙山に対し、284万9534円+遅延損害金を支払え。
4 Y大学は、X乙山に対し、90万円+遅延損害金を支払え。
5 Y大学は、X丙川に対し、720万1813円+遅延損害金を支払え。
6 Y大学は、X丙川に対し、250万円+遅延損害金を支払え。
7 Y丁田は、X甲野に対し、10万円+遅延損害金を支払え。
8 X甲野は、Y丁田に対し、11万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 専門業務型裁量労働制を採用するに当たっては、「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定」を締結する必要があり(労働基準法38条の3第1項)、過半数代表者の選出手続は、「法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続」である必要がある(労働基準法施行規則6条の2第1項2号)。
そして、過半数代表者は、使用者に労働基準法上の規制を免れさせるなどの重大な効果を生じさせる労使協定の当事者であり、いわゆる過半数労働組合がない場合に過半数労働組合に代わってその当事者となることが定められていることを踏まえると、過半数代表者の選出手続は、労働者の過半数が当該候補者の選出を支持していることが明確になる民主的なものである必要があると解される。

2 Y大学において、平成29年度の過半数代表者の選出は、選挙により、A教授の信任投票が行われているところ、選挙権者数は493名、信任票が124票であったことから、A教授の選出を明確に支持している労働者は、選挙権者全体の約25パーセントにすぎない。
したがって、A教授は、「労働者の過半数を代表する者」とは認められないことから、A教授とY大学との間で締結された平成30年度の専門業務型裁量労働制に関する労使協定は無効である。
なお、Y大学は、平成29年度の過半数代表者の選出が有効にされたことの根拠として、本件過半数代表者選出規程15条2項が、信任投票において選挙権者が投票しなかった場合は有効投票による決定に委ねたものとみなす旨規定していること、選挙に先立ち、選挙権者に対して上記規定が周知されていたことなどを指摘する。しかしながら、本件において、労働者は、上記規程の下においても、有効投票による決定の内容を事前に把握できるものではなく、また信任の意思表示に代替するものとして投票をしないという行動をあえて採ったとも認められないから、上記規程によっても、投票しなかった選挙権者がA教授の選出を支持していることが明確になるような民主的な手続がとられているとは認められず、この点についてのY大学の主張は採用することができない。

労働時間の例外規定については、その要件を厳格に解釈することになります。

安易に採用すると後から大変なことになりますのでご注意ください。

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労働時間104 三六協定が過半数要件を満たさなかったこと等に基づく慰謝料請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、三六協定が過半数要件を満たさなかったこと等に基づく慰謝料請求に関する裁判例を見ていきましょう。

オーエスティ物流事件(大阪地裁令和5年11月16日・労判ジャーナル145号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社従業員であるCから職場において大声で脅されるなどの行為をされ、これに対してY社が適切な対応をとらなかった旨や、Y社が労働組合との間で締結した三六協定やいわゆるユニオン・ショップ協定について、要件を欠いているのにこのことを周知しなかったなどと主張して、Y社に対し、不法行為又は使用者責任に基づき、①Cらによるパワハラやいじめをやめさせるように求めるとともに、②慰謝料として550万円を求めた事案である。

【裁判所の判断】

①は却下、②は棄却

【判例のポイント】

1 三六協定が過半数要件を満たさなかったとしても、特別の事情がない限り、このことによって、労働者の権利又は法律上保護される利益が侵害されるものということはできず、本件違反がXに対する不法行為を構成するとは認められず、また、Xは、Y社が本件違反を周知しなかったことが、労働基準法106条に違反し、不法行為に当たる旨も主張するが、本件違反があったとしてもこれがXに対する権利又は法律上保護される利益を侵害するものとはいえないから、Y社がXに対して本件違反を通知する義務を負っていたとはいえず、労働基準法106条1項は、そもそも公法上の義務を定めるものであって、使用者の労働者に対する私法上の周知義務等を基礎付ける規定ではないし、その文言上、使用者が同条所定の協定を締結したなどの場合に、当該協定等を周知すべき義務を課すものであって、その効力が失われた場合にこれを周知すべき旨までを定めたものと解することはできないから、不法行為が成立するとは認められない

法律違反がすべて不法行為に該当するわけではありません。

公法と私法という視点も忘れずに押さえておきましょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間103 新型コロナ蔓延期の海外渡航に対する時季変更権の行使(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、新型コロナ蔓延期の海外渡航に対する時季変更権の行使に関する裁判例を見ていきましょう。

京王プラザホテル札幌事件(札幌地裁令和5年12月22日・労判1311号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社において宿泊部部長として勤務していたXが、令和2年3月に国外で行われるXの娘の結婚式に出席するため、年次有給休暇の時季を指定したが、Y社から新型コロナウイルス感染症に関する状況等を踏まえて国外への渡航を禁止するための時季変更権の行使を受けて当該結婚式に出席することができなかったところ、当該時季変更権の行使はY社の事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないから違法であるなどと主張して、労働契約上の債務不履行又は不法行為に基づき、慰謝料及び弁護士費用として330万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、本件期間の年次有給休暇の利用目的としてハワイで行われる娘の結婚式に出席することを明示しており、ハワイに渡航できず、同結婚式にも出席できない場合にはおよそ本件期間に年次有給休暇を取得する必要がなかったものと認められることを前提に、当時の新型コロナウイルス感染症の状況のの下では、仮にXがハワイに渡航し、実際に新型コロナウイルスに感染し、帰国後に症状等が出た場合には、当該感染の事実等が大々的に報道され、Y社に対する社会的評価の低下をもたらすことでY社の事業継続に影響しかねないものであったと認められ、上記の特段の事情があると認められるから、本件時季変更権の行使に当たり、Xの本件期間の年次有給休暇の利用目的を考慮することも許されるというべきである。

娘の結婚式に出席できないとは・・・。

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労働時間102 変形労働時間制は無効であるとして、未払割増賃金等支払請求が一部認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、変形労働時間制は無効であるとして、未払割増賃金等支払請求が一部認められた事案を見ていきましょう。

サカイ引越センター事件(東京地裁立川支部令和5年8月9日・労判ジャーナル140号18頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、Y社において引越運送業務に従事していたXらが、時間外労働に係る割増賃金等が未払であると主張し、Y社に対し支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 本件就業規則において現業職の始業・終業時刻シフトの組合せの考え方、公休予定表の作成手続及び周知方法等の定めはなく、D支社は、労使協定上、いずれのシフトを採用するか明示せず、公休予定表ないし出勤簿においてもシフトの記載は見当たらないところ、時期によって異なるシフトを採用し、シフトAからシフトBへの移行日も全現業職において一律ではなかった上、顧客の引っ越しの関係上個別の従業員ごとに早出・遅出のシフトも組まれていたというのであり、また、現業職の労働時間が、書面により始業・終業時刻をもって特定されていたと評価することはできず、さらに、D支社においては、各月の30日前までに従業員の公休予定表を作成・周知する取扱いが徹底されておらず、公休予定表の作成後も、従業員らの申出以外の理由により、公休予定日が変更されることがまれではなかったことに照らすと、各月の30日前までに公休予定表が作成される形がとられていたとしても、実態として、各期間の労働日が特定されていたと評価することはできないといわざるを得ないから、本件請求対象期間におけるD支社の変形労働時間制の定めは、労働基準法32条の4の要件を充足しないものとして無効である。

本件同様、変形労働時間制の有効要件を満たさず、無効と判断されているケースが後を絶ちません。

安易に同制度を導入することは控えるべきでしょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

 

労働時間101 過半数代表者の選出に違法があるとして、変形労働時間制・36協定が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、過半数代表者の選出に違法があるとして、変形労働時間制・36協定が無効とされた事案を見ていきましょう。

未払割増賃金等支払請求事件(釧路地裁帯広支部令和5年6月2日・労判ジャーナル140号32頁)

【事案の概要】

本件は、社会保険労務士であるBと雇用契約を締結して就労していたAが、Bに対し、①労働契約に基づき、平成31年4月から退職した令和3年4月までの時間外割増賃金等の支払、②不法行為に基づき、有効な労働基準法36条に基づく協定を欠き時間外労働を命ずる適法な権限がないのに、労働基準法32条及び同法36条に違反してBがAに対し違法な残業命令を繰り返して勤務をさせてきたことに対する慰謝料150万円等の支払、③労働契約に基づくBの私生活時間配慮・職場環境調整義務違反による慰謝料の支払、④時間外割増賃金に係る付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 過半数代表者の選出手続は、法に規定する協定等をするものを選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法によらなければならない(労働基準法施行規則6条の2第1項第2号)ところ、Bの事業所においては、平成16年に1年単位の変形労働時間制を採用した際に、従業員の間で従業員代表としてCを選出する話し合いが持たれた後は、従業員間で話し合いがされないままCが従業員代表としてBとの間で1年単位の変形労働時間制についての協定を締結しており、これによれば、前記の協定に先立って、選出目的を明らかにした投票、挙手等の方法によるCを従業員代表とする民主的な手続は行われていないのであるから、前記各協定届には、労働基準法施行規則6条の2第1項所定の手続によって選出された者ではない者が、Bの労働者の過半数代表者として署名押印しているといわざるを得ないから、Bにおける1年単位の変形労働時間制は無効である。

2 確かに、36協定が無効となれば、使用者は労働者に対して時間外労働を命ずる労働契約上の根拠を欠くことになることから、時間外労働を命ずる業務命令権の行使は違法となるというべきであるが、BにおけるA以外のいずれの労働者もCについて労働者代表としての適格性を否定する者はおらず、仮に従業員代表を選出する手続が行われていれば、Cが従業員代表に選出されていた可能性が高いこと、Aも36協定がCによって締結されていることをBの事業所における勤務開始後数年以内に認識しながら、これに対して異議を述べることをしていなかったこと、法定外労働に対しては、時間外割増賃金の支払が命じられることになることに照らせば、36協定が無効と判断されたとしても、その違法性は、慰謝料を命ずべき違法性があるとは認められない

変形労働時間制の無効例が後を絶ちません。

「例外規定の厳格解釈」がここでも影響しています。

労使協定締結時の過半数代表者の選出方法には気を付けましょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間100 就業規則に記載がない勤務シフトの使用を理由に、変形労働時間制の適用が無効と判断した一審判決が維持された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、就業規則に記載がない勤務シフトの使用を理由に、変形労働時間制の適用が無効と判断した一審判決が維持された事案を見ていきましょう。

日本マクドナルド事件(名古屋高裁令和5年6月22日・労経速2531号27頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、
①Y社が、XとY社との労働契約が平成31年2月10日付け退職条件通知書兼退職同意書による合意解約により終了したと主張するのに対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、
②主位的に退職の意思表示が無効であることを理由とする労働契約に基づく賃金請求として、予備的に違法な退職強要があったことを理由とする不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求として、退職日の翌日である令和元年5月1日から本判決確定の日まで、毎月末日限り45万4620円+遅延損害金の支払、
③時間外労働を行ったと主張して、労働契約に基づき平成29年3月13日から平成31年2月12日までの未払割増賃金合計486万0659円の一部である61万0134円+遅延損害金の支払、
④付加金+遅延損害金の支払
⑤(ア)Y社における業務や違法な退職強要等により労作性狭心症及びうつ病を発病したことを理由とする不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求若しくは(イ)上司らによるパワーハラスメント等により人格的利益を侵害されたことを理由とする使用者責任(民715条)に基づく損害賠償請求として、慰謝料500万円の一部である200万円+遅延損害金の支払
を求める事案である。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 変形労働時間制の有効性について
当裁判所の判断は、原判決41頁10行目から42頁16行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
したがって、Y社の定める変形時間労働制は無効であるから、本件において適用されない。

第1審判決は、こちらをご覧ください。

そういうことのようです。

多くの事案で変形労働時間制の適用が無効と判断されています。

有効要件をしっかりと満たしているかを専門家にチェックしてもらうことをおすすめします。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間99 研修医のオンコール待機時間等の労働時間該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

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今日は、研修医のオンコール待機時間等の労働時間該当性について見ていきましょう。

医療法人社団誠馨会事件(千葉地裁令和5年2月22日・労判1295号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が開設する病院において後期研修医として勤務していたXが、Y社に対し、①雇用契約又は労働基準法37条1項及び同条4項に基づき、①未払の割増賃金658万2125円+遅延損害金、②付加金+遅延損害金、③上級医によるパワーハラスメントのために適応障害を発症し退職を余儀なくされ損害を被ったと主張して、安全配慮義務の違反による損害賠償請求権に基づき、703万9522円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、503万3005円+遅延損害金を支払え。

Y社はXに対し、付加金322万0483円+遅延損害金を支払え。

Y社はXに対し、233万9522円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件契約では、年俸922万8000円を12等分割(月額基本給76万9000円)にて支給する、原則として日直・当直などを行った場合は、別途規程により加算されるが、臨時日・当直及び時間外手当、早出、呼出、待機、手術手当等の手当については本給に含まれるとの合意がされたにとどまり、固定残業代額の明示はなく、また、Y社が、Xに対し、本件契約締結の際、基本給のうち20万4000円を固定残業代として支払う趣旨であるとの説明をしたとの的確な証拠もない。そうすると、Xが、月額基本給のうち時間外労働に対する対価がいくらかであるかを判別できたとはいえないから、上記合意は無効である。

2 オンコール当番医は、本件病院外においては、緊急性の比較的高い業務に限り短時間の対応が求められていたに過ぎないものであり、Xについても、これを求められる頻度もさほど多くないものと認められる。そうすると、本件病院外でのオンコール待機時間は、いつ着信があるかわからない点等において精神的な緊張を与えるほか、待機場所がある程度制約されているとはいえるものの、労働からの解放が保障されていなかったとまで評価することはできない

3 本件病院に出勤して勤務した時間は、別紙5の「病院側試算」欄の「オンコール対応」欄記載のとおりであり、その時間が労働時間であると認められる。

上記判例のポイント2の判断は、最高裁の考え方に沿うものですが、なぜこのような事情があると労働から解放されていると評価できるのか、いまだによくわかりません。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。