Category Archives: 不当労働行為

不当労働行為270 団交拒否と不当労働行為(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賃上げおよび夏季一時金を議題とする2回の団交における対応、ならびにその後の団交申入れに応じない会社の対応が不当労働行為とされた事案を見てみましょう。

古久根鉄工事件(愛知県労委令和2年2月10日・労判1238号105頁)

【事案の概要】

本件は、賃上げおよび夏季一時金を議題とする2回の団交における対応、ならびにその後の団交申入れに応じない会社の対応が不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 団体交渉において、労使双方が当該議題についてそれぞれ自己の主張、提案及び説明を出し尽くし、これ以上交渉を重ねても進展する見込みがない段階に至った場合には、使用者は交渉を打ち切ることも許されるところ、第1回団交及び第2回団交における会社の対応は、定期昇給を含む平成30年の賃上げ及び夏季一時金に係る議題について合意達成の可能性を模索したものとはいえず、誠実に団体交渉に当たったものとはいえないことからすれば、第2回団交の後の組合からの3回の団体交渉の申入れを断った会社の対応は、正当な理由なく団体交渉を拒否したというほかない。

2 会社は、双方において交渉を尽くした結果、相互にこれ以上の譲歩はないということが確認され、団体交渉の終結が確認されたものである旨主張するが、第2回団交の終盤における組合側の発言については、当該団体交渉の後に定期昇給を含む平成30年の賃上げ及び夏季一時金に係る要求について組合が3回にわたり会社に団体交渉を申し入れていることからすれば、団体行動権の行使との引換えに会社から何らかの譲歩を引き出すことを意図した交渉の駆け引きの中での発言であって、真に団体交渉の終結を認める趣旨の発言ではなかったと評価するのが相当であり、当該会社の主張は採用できない。

団交打切りの当否の判断はとても難しいです。

交渉が平行線を辿っているか否かの判断は完全に評価だからです。

日頃から顧問弁護士に相談する体制を整え、無用なトラブルを回避することが肝要です。

不当労働行為269 組合員に賞与を支給しないことは不当労働行為?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、他の従業員に支給した平成28年冬季賞与を組合員に支給しなかったことが不当労働行為にあたるとした事案を見てみましょう。

大久保自動車教習所事件(中労委令和2年9月2日・労判1238号101頁)

【事案の概要】

本件は、他の従業員に支給した平成28年冬季賞与を組合員に支給しなかったことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 Y社は、分会員の労働条件の引下げについて組合との間で妥結に至らず、労使の対立が長期間継続する中、Y社の規程上、分会員、フリー社員いずれを、Y社の業績と労働者の勤務成績又は業績に応じて賞与が支払われることとなっている賞与について、組合からの賞与要求に対しては累積赤字等を理由に支給を拒みつつ、貢献度が高いとするフリー指導員に限らず、非組合員であるフリー社員全員に対して、分会員が冬期休暇で不在の日に、28年冬季賞与を支給したものである。
これらの事情を踏まえると、Y社は、分会員が組合の組合員であることを理由として28年冬季賞与を支払わなかったものと認められる。

組合員と非組合員との区別について合理的理由を説明できるか否かがポイントです。

本件のような取扱いに関する合理的説明は極めて困難でしょう。

日頃から顧問弁護士に相談する体制を整え、無用なトラブルを回避することが肝要です。

不当労働行為268 退職した組合員の残業代と団体交渉(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、退職した組合員の在職中の時間外手当等を議題とする団交に応じなかった会社の対応が不当労働行為に当たらないとされた事案を見てみましょう。

鴻池運輸事件(群馬県労委令和2年2月13日・労判1236号104頁)

【事案の概要】

本件は、退職した組合員の在職中の時間外手当等を議題とする団交に応じなかった会社の対応が不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたらない

【命令のポイント】

1 本件団交申入れのうち、時間外手当に関する部分については、時機を失しており、もはや団体交渉で解決すべき紛争はないものと会社が認識していたとしてもやむを得ない客観的状況が存在していたといえる。そうすると、当該部分が現に雇用関係にない労働者の労働条件に係るものであることを理由に会社がこれを拒んだとしても、正当な理由がなかったとまでは認められない。

2 本件髪切り行為について、会社が「A2の了解のもとに行われており、ハラスメント行為とは認識していない」と組合に回答していることから、会社は、本件髪切り行為そのものは認識していたといえる。
一方で、A2が、退職後、B3が作成した反省文を受領しているとの事情や、本件髪切り行為を行ったB3がC1地方検察庁において不起訴処分となった事実も会社が認識していることも認められる。
これらのことに鑑みると、会社が、本件髪切り行為について、本件団交申入れ時点においては、A2とB3の私人間の問題として既に解決済みの問題であり、その団交申入れが時機を失していると判断したとしても、無理からぬことと思料される。

3 以上のことや上記で述べたことから総合的に判断すると、本件団交申入れのうち、本件髪切り行為に関する部分については、個人間で解決済みの問題であり、もはや団体交渉で解決すべき紛争はないものと会社が認識していたとしてもやむを得ない客観的状況が存在していたといえる。
そうすると、当該部分についても、それが現に雇用関係にない労働者の労働条件に係るものであることを理由に会社がこれを拒んだことに、正当な理由がなかったとまでは認められない。

すでに解決済みの問題と会社が認識していたことが客観的に状況に照らして不合理とはいえないと判断されています。

一般論としては団交拒否を安易にするべきではありませんが、本件のようなケースでは、事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に判断することが求められます。

不当労働行為267 組合員の配置転換と不当労働行為(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、組合員Aに対し本社営業課長の任を解き運転職を命じたこと、および組合員Bに対し経理担当事務を解き一般事務担当を命じたことがいずれも不当労働行為とされた事案を見てみましょう。

アクアライン事件(大阪労委令和2年5月11日・労判1236号103頁)

【事案の概要】

本件は、組合員Aに対し本社営業課長の任を解き運転職を命じたこと、および組合員Bに対し経理担当事務を解き一般事務担当を命じたことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

いずれも不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 ・・・以上を総合的に判断すると、Aに対する配転命令には、合理的な理由があったとはいえず配転当時、会社と組合との間の労使関係が対立関係にあったことからすると、Aに対する配転命令は、会社の組合嫌悪意思によるものとみざるを得ない。

2 Bと会社との間の雇用契約書には、業務内容として「経理事務」と記載されていたことが認められ、かかる雇用契約書の記載からすると、Bは、経理業務に従事することを前提に雇用されていたといえる。一方、Bが、事前に経理事務として適切さを欠くとの指摘を受けていたとの疎明はなく、会社が、一般事務への配転命令を行うに当たって、Bに対し、事前に内示を行ったり、その理由を説明したとの疎明もない。そうすると、Bは、一方的に、業務の異なる一般事務に変更されたといえ、かかる配転をされたことにより、精神的不利益がなかったとはいえない
以上を相当的に判断すると、Bに対する配転命令には、合理的な理由があったとはいえず、配転当時、会社と組合との間の労使関係が対立関係にあったことからすると、Bに対する配転命令は、会社の組合嫌悪意思によるものとみざるを得ない。

前記のとおり、会社と組合との間の労使関係が対立しているときに、合理的理由なく配転命令を出すと不当労働行為と認定されますので注意しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談する体制を整え、無用なトラブルを回避することが肝要です。

不当労働行為266 限定正社員登用試験不受験の組合執行委員長の雇止め(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、限定正社員登用試験を受験しなかった有期雇用の組合執行委員長を雇止めとしたことが不当労働行為に当たらないとされた事案を見てみましょう。

日本コンセントリクスほか1社事件(沖縄県労委令和2年7月9日・労判1236号102頁)

【事案の概要】

本件は、限定正社員登用試験を受験しなかった有期雇用の組合執行委員長を雇止めとしたことが不当労働行為に当たるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたらない

【命令のポイント】

1 労働契約法18条は、使用者がいかなる正社員登用制度をとるかについて規制するものではなく、Y1社が上記限定正社員制度を導入したことをもって、労働契約法18条に違反するとか、同条を潜脱する意図によるものであるとはいえない

2 Xは、Y1社による限定正社員登用試験の実施を確知しながら同試験を受けることなく、さらに、Y1社から再試験を希望するか尋ねられた際にも、その希望を示さなかったというのである。
そうだとすると、Y1社が、自らの意思で受験しなかったといえるXについては、合格の判定がされた事実が存在しない以上、同試験に合格したときと規定する本件労働契約の更新事由を充足しないと判断したことには、何ら不当・不合理という余地はない

上記判例のポイント1は非常に重要です。

もっとも、運用を恣意的に行うと不当労働行為となり得ますのでご注意ください。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労務管理を行うことが大切です。

不当労働行為265 組合員の人事異動と不当労働行為(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、組合員をA郵便局第二集配営業部からB郵便局に人事異動したことが不当労働行為に当たらないとした初審命令が維持された事案を見ていきましょう。

日本郵便(人事異動)事件(中労委令和2年1月22日・労判1234号105頁)

【事案の概要】

本件は、組合員をA郵便局第二集配営業部からB郵便局に人事異動したことが不当労働行為に当たるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたらない

【命令のポイント】

1 Xは勤続年数からみて、28年度の人事異動の対象となる候補者であった。また、B9支社管内における27年度及び28年度の人事異動に関しては、例年とほぼ同じ規模のもので、それぞれ30名又は40名以上の組合役員が異動になっており、そのうち執行委員は各年度20名以上、さらに支部外へ異動になった執行委員は10名以上であった。
このように、定期人事異動の際にX以外の組合の執行委員も多数異動になっていることからみて、会社が、定期人事異動を行うに当たり、対象者が組合の執行委員であることを考慮していることはうかがわれず、Xについてもこれと異なる事情は見いだし難い。
上記によれば、本件人事異動は、業務上の必要性がある上、その人選も不合理なものであったとはいえない。

組合員と非組合員に対する対応を区別していないことが立証できれば、不当労働行為には該当しません。

組合員に対する人事異動については、事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

不当労働行為264 無許可ビデオ撮影を理由とした解雇と不当労働行為(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、組合員3名を、無許可ビデオ撮影等を理由に解雇したことを不当労働行為とした初審命令が維持された事案を見てみましょう。

木村建設事件(中労委令和2年7月1日・労判1234号102頁)

【事案の概要】

本件は、組合員3名を、無許可ビデオ撮影等を理由に解雇したことを不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 組合は、基本的に、団体交渉を申し入れる際は、動画を撮影する方針で臨んでおり、これは言った言わないという争いになる事態を避けるとともに、組合員の行動に規制をかけるために組合の内部資料として撮影しているとされるものである。この方針の目的に一定の合理性がないとまではいえない

2 7月30日付け申入れ後、会社による不当労働行為が度重なっており、組合員らは、更なる不当労働行為が更なる不当労働行為が行われる可能性のある状況において、これを警戒し、不当労働行為が行われた際の記録を残して自らの身を守ろうと考えて会話の秘密録音を行ったものであり、緊急避難的な対応としてやむを得ないものであったといえる。秘密録音は、会社の業務上の秘密を漏えいさせることを目的としたものではなく、実際に漏えいの事実はなく、そのおそれがあったともいえない。

ここまでこじれてしまうと日常業務もままならない状況ではないでしょうか。

動画撮影や秘密録音の問題に対する対処法は、個々の事案によって異なりますので、顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

不当労働行為263 組合掲示板不貸与・休憩室の就業時間外の利用制限と不当労働行為(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、組合掲示板の貸与及び休憩室の就業時間外の利用を認めない会社の対応が不当労働行為に当たらないとされた事案を見てみましょう。

グローバル事件(東京都労委令和元年9月17日・労判1232号104頁)

【事案の概要】

組合掲示板の貸与及び休憩室の就業時間外の利用を認めない会社の対応が不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたらない

【命令のポイント】

1 掲示板の貸与や休憩室の利用等の便宜供与は、労使合意に基づいて行われるものであり、使用者に便宜供与を行う義務があるわけではない
本件では、28年10月28日の団体交渉で、便宜供与に関する具体的な条件を会社が提出すると述べてはいたものの、その後の団体交渉も含め、便宜供与をするという合意には至っていない

2 Y社が、組合掲示板貸与及び休憩室の就業時間外の利用という便宜供与を実施することについて組合との合意に至らず、便宜供与を認めていないことが、便宜供与は労使合意に基づいて行われるものであることを踏まえた相当な対応といえる範囲を逸脱して組合を弱体化させる行為に当たるとまでいうことはできない

一度便宜供与を行うと、その後は、合理的理由なくそれをなくすことは不当労働行為に該当しますので注意は必要です。

だからこそ最初が肝心です。組合との協議、交渉の際は必ず顧問弁護士に相談することが大切です。

不当労働行為262 組合員の人事異動と不当労働行為(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、組合員を廃棄物の収集運搬をするコースドライバーから廃棄物の仕分業務に人事異動したことが不当労働行為とされた事案を見てみましょう。

上田清掃事件(京都府労委令和元年9月18日・労判1232号102頁)

【事案の概要】

組合員を廃棄物の収集運搬をするコースドライバーから廃棄物の仕分業務に人事異動したことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 A組合員は平成5年の入社以来コースドライバー業務に従事してきたことが認められ、このように長年同一の業務に従事してきた労働者を、それとは異質の業務に異動することは、それ自体不利益性を有すると認められるところ、本件人事異動後のA組合員の業務にはドライバー業務も含まれているが、これは、仕分後の資源物を近隣の回収業者に搬入するだけの業務であって、また、主たる業務は、コースドライバー業務とは異質なことが明らかな仕分作業であったと認められる。よって、本件人事異動には、不利益性が認められる。

2 本件人事異動は、Y社の中核的事業所における中核的業務から本社から離れたほとんど他に従業員がいない現場作業所での単純作業への異動であって、当該職場における従業員の一般的認識に照らして通常不利益なものと受け止められ、それによって当該職場における従業員の労働組合活動への意欲が委縮し、組合活動一般に対して制約効果が及ぶようなものであったと認めるのが相当である。

仮に業務内容が異なる場合でも、当該配置転換に合理的理由が存在すれば不当労働行為とは認定されません。

もっとも、一般論としては、業務内容が大きく異なる場合には、それ相応の理由を準備する必要があります。

理由の合理性の有無については判断が難しいので、顧問弁護士に相談しましょう。

不当労働行為261 役職手当の不支給と不当労働行為(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、分会書記長に対し役職手当を不支給としたことが不当労働行為とされた事案を見てみましょう。

NPO法人せたがや白梅事件(東京都労委令和元年11月5日・労判1231号172頁)

【事案の概要】

本件は、分会書記長に対し役職手当を不支給としたことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 25年9月1日、B4主任は出向先から法人に戻ったが、同年12月にA3が病気休職から復職したときに従来どおり役職手当が支給され、29年3月まで3年4か月間にわたり、支給され続けてきた。
そうすると、既に主任の基本給等級である3級に昇格し、B4主任が出向先から戻った後も長期間にわたり役職手当が支給されてきたA3書記長に対し、法人が、突然、主任代行は不要だとして役職手当を不支給としたのは不自然であり、なぜこの時期にそのような判断がされたのか疑問である。

2 以上のとおり、法人の挙げる降職の理由は、いずれも不自然であり、A3書記長への事前の説明がないなど、手続の面でも不自然な対応がみられるのであって、役職手当の不支給が降職を理由とするものであるか否か自体が疑問であるといわざるを得ない。
・・・これらに加え、当時、緊迫した労使関係が継続していたことや、A3書記長が紛争の中心人物の一人であった等の事情も総合考慮すると、役職手当の不支給は、分会書記長である同人が、労働条件の改善や法人の経営努力が必要であるなどと組合の立場からの要求を掲げてお願いの書面への署名捺印を拒否したことを法人が嫌悪してなされたものといわざるを得ない
したがって、法人が、A3書記長に対し、役職手当を不支給としたことは、同人が組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たる。

つまるところ、各処分や行為について合理的理由が説明できるかに尽きます。

事前に顧問弁護士に相談し、冷静に対応することが求められます。