Category Archives: 不当労働行為

不当労働行為289 団交拒否にかかる審査申立てと「一連の継続する行為」の意義(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、団交拒否にかかる審査申立てと「一連の継続する行為」の意義に関する事案を見ていきましょう。

一般社団法人日本港運協会事件(東京都労委令和3年7月20日・労判1260号93頁)

【事案の概要】

本件は、団交拒否にかかる審査申立てに関連して「一連の継続する行為」の意義が争点となった事案を見ていきましょう。

【労働委員会の判断】

本件申立ての1年以上前の団交にかかる申立ては却下

【命令のポイント】

1 組合は、平成30年2月7日付団体交渉申入れに対し、法人が同月19日に会員に文書を交付したことは本件申立てよりも1年以上前であるが、申立て前1年以内の団体交渉と一連の継続する行為に当たることから、本件審査の対象となると主張する。
しかし、団体交渉の申入れや団体交渉は、その都度別個の行為であり、同様の行為が続いているからといって、全体を1つの継続する行為とみることはできない
したがって、組合の主張は採用することができず、本件申立てより1年以降前の平成31年2月9日以前の団体交渉に係る申立ては、却下せざるを得ない。

不当労働行為の救済申立ては、不当労働行為と思われる行為がなされてから1年以内に行う必要があります。

同様の行為が繰り返し行われている場合は、「一連の行為」が最後に行われた時点を基準にして、1年以内かどうかを判断します。

「一連の行為」の判断は、解釈に委ねられますので、予測可能性が高くありませんので注意が必要です。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為288 仮処分命令後に横断幕等を撤去したため、被保全権利がすでに存在しないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、仮処分命令後に横断幕等を撤去したため、被保全権利がすでに存在しないとされた事案を見ていきましょう。

オハラ樹脂工業事件(名古屋地裁令和3年11月25日・労経速2473号29頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、Y社の従業員らが加入する労働組合及びその上部団体であるXらに対し、所有権、施設管理権等を被保全権利として、XらがY社本社の敷地内に設置した横断幕及びのぼり旗の撤去を求める仮処分命令の申立てをしたところ、当裁判所が、上記各物件の撤去を命じる仮処分命令をしたため、Xらが保全異議を申し立てた事案である。

【裁判所の判断】

仮処分決定を取り消す。

【判例のポイント】

1 Xらは、原決定後に本件のぼり旗等を撤去したことから、審理終結時において、本件のぼり旗等の設置により、Y社が被保全権利として主張する所有権、施設管理権が侵害され、債権者の名誉、信用が毀損されているとは認められない。
したがって、審理終結時において、Y社の所有権又は施設管理権に基づく本件のぼり旗等の撤去請求権の存在は認められない。

2 これに対し、Y社は、Xらによる撤去が仮装であり、Xらは原決定取消後、再度のぼり旗等を設置する蓋然性が高く、被保全権利はなお存在すると主張する。
しかし、Xらが撤去後にも本件のぼり旗等の設置の正当性を主張して争っていること、Xらが本件申立て以前にも、のぼり旗を設置し、Y社がのぼり旗の撤去を求める仮処分の申立てをした後に撤去したとの経緯があったとしても、本件申立ては、所有権又は施設管理権に基づく妨害物排除請求であることからすれば、現に所有権又は施設管理権が侵害されていない以上、Y社の仮処分申立てを認めることはできない

上記判例のポイント2に記載されているY社の懸念は理解できるところですが、要件事実的には上記結論になります。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為287 会社とアドバイザリー業務契約を締結した社労士及び共済組合の行為が不当労働行為とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、会社とアドバイザリー業務契約を締結した社労士及び共済組合の行為が不当労働行為とされた事案を見ていきましょう。

オーダースーツSADAほか1社事件(宮城県労委令和2年9月26日・労判1258号88頁)

【事案の概要】

本件は、会社とアドバイザリー業務契約を締結した社労士及び共済組合の行為等が不当労働行為にあたるかが争点となった事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 B氏による脱退届用紙の配布は、Y社の指揮命令権の及ぶ昼礼の機会に、Y社がB氏と一体となって行っているものと評価でき、「使用者」による行為であると言わざるを得ない。
「使用者」が労働組合の脱退届用紙を配付して脱退を勧奨する行為は、脱退という組合員が自主的に判断して行動すべき事項(内部運営事項)に介入するものであり、X組合の団結力・組織力を損ねるおそれのある行為であるから、支配介入に該当する。

2 Y社がチェック・オフ停止の根拠としている脱退届は、Y社とB氏が一体となって脱退届用紙を配付して脱退を勧奨するという支配介入行為によって、A執行委員長を除く全組合員が署名したものである。この不当な支配介入行為によって署名された脱退届においては、組合員は自らの自由な意思でX組合を脱退したのか疑わしい状況であったことが認められる。
本件においては、Y社の不当な支配介入行為によって脱退届が提出されていたという特殊な状況であったことを踏まえると、Y社がチェック・オフの停止を行ったことは、X組合の弱体化を意図した一連の行為の一部であると評価でき、X組合の組織運営に支配介入しようとしたものと言わざるを得ない。

会社とアドバイザリー業務契約を締結した社労士の行為であったとしても、「使用者」による行為と評価されてしまうので注意しましょう。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為286 組合執行委員長を懲戒解雇したことが不当労働行為とした初審命令が取り消された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、組合執行委員長を懲戒解雇したことが不当労働行為とした初審命令が取り消された事案を見ていきましょう。

公益社団法人日本空手協会事件(中労委令和2年11月4日・労判1256号95頁)

【事案の概要】

本件は、組合執行委員長を懲戒解雇したことが不当労働行為に該当するかが争われた事案である。

なお、初審(東京都労委平成30年10月2日)は、不当労働行為に該当すると判断した。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたらない

【命令のポイント】

1 本件懲戒解雇に先立ち、事情聴取をしているが、聴取事項は、いずれも、当時の経営陣批判に関連する行為又はA個人の行為を問題とするものであって、組合の労働組合としての活動そのものを問題視していた様子もうかがわれない。
上記のような組合の活動の内容や協会内容の対立構造の顕在化という状況、協会のAに対する事情聴取の内容からすると、本件懲戒解雇は、Aが反経営陣活動をしたことを理由としてされたものであると考えられる
以上のとおり、本件懲戒解雇は、Aが労働組合の組合員であること又は労働組合としての活動をしたことを理由としてされたものとまでは認められない
したがって、本件懲戒解雇は、労組法7条1号の不当労働行為に該当しない。

懲戒解雇の有効性は別として、Aが組合員であること又は労働組合としての活動をしたことを理由とするものではないため、不当労働行為にはあたらないとされました。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為285 会社の支店長がバス運転手である組合員に対し組合脱退勧奨を行ったことが不当労働行為とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、会社の支店長がバス運転手である組合員に対し組合脱退勧奨を行ったことが不当労働行為とされた事案を見ていきましょう。

ジェイアールバス関東事件(東京都労委令和3年8月17日・労判1254号95頁)

【事案の概要】

本件は、会社の支店長がバス運転手である組合員に対し組合脱退勧奨を行ったことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 X支店長は、Aの行為を会社に報告しないことと引き換えにJR東労組の脱退届を出すようにAに求め、同人がこれを拒否すると、同人が転勤になる可能性やJR東労組が将来なくなる可能性を示唆するなどして同組合から脱退するよう働き掛けているのであるから、本件行為は、組合の運営に干渉し組合を弱体化させる行為であるといえる。

2 会社の対応やJR東労組の中央執行委員会の見解を考慮しても、本件行為について既に解決済みであり、集団的労使関係秩序が正常に回復されたとまで断ずることはできず、そうすると、類似の行為が繰り返される恐れがなくなったともいえない。したがって、本件申立てに救済の利益ないし必要がないとする会社の主張は採用することができない。

組合脱退勧奨が不当労働行為にあたることは争いのないところです。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為284 組合員の解雇撤回等を議題とする団交申入れに対する会社の対応が不当労働行為にあたるとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、組合員の解雇撤回等を議題とする団交申入れに対する会社の対応が不当労働行為にあたるとされた事案を見ていきましょう。

粟野興産事件(東京都労委令和3年1月19日・労判ジャーナル1254号96頁)

【事案の概要】

本件は、組合員の解雇撤回等を議題とする団交申入れに対する会社の対応が不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 会社は、組合の全ての質問や要求は既に第1回団体交渉や係属中の訴訟等において回答済みであり、また、長期間、数々の訴訟と労働委員会の手続等で争われており、いずれかの譲歩により交渉が進展する見込みはなく、団体交渉を継続する余地はなくなっていた以上、団体交渉拒否の正当理由があると主張する。
しかしながら、訴訟と不当労働行為審査手続と団体交渉とは、各々その目的や機能を異にするものであり、訴訟や労働委員会の手続の中で説明資料等が提出されたからといって、団体交渉において誠実に説明する労働組合法上の義務が消滅するわけではない
また、訴訟等が係属していたとしても、別途、団体交渉において紛争を解決する余地がないとはいえず、団体交渉において双方が説明や主張を尽くした上で交渉が行き詰まりに達したといった事情がない限り、訴訟等における状況のみから、団体交渉を継続する余地がなくなったということはできない

これは、団体交渉の基本中の基本ですので、しっかり押さえておきましょう。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為283 組合の内部運営を理由とした団交拒否が不当労働行為にあたるとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、組合が大会を適法に行っていないなど組合の適法性に疑問があること等を理由に、会社が団交に応じないことが不当労働行為にあたるとされた事案を見ていきましょう。

クローバー事件(東京都労委令和3年1月19日・労判1254号96頁)

【事案の概要】

本件は、組合が大会を適法に行っていないなど組合の適法性に疑問があること等を理由に、会社が団交に応じないことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 会社は、組合の団体交渉の申入れに対し、労組法第2条の自主性及び同法第5条第2項第5号の民主性の点で組合の法適合性並びにA委員長の代表者としての資格に疑義を示して代議員の選出手続などについて具体的な説明を求め、説明がなかったことを理由として団体交渉に応じなかった。
しかし、会社が疑問視する組合の自主性や民主性に関する事項は、組合の内部運営に係る事柄であるから、団体交渉を拒否する理由にならない

2 組合が内部規約に違反して代議員を選出したとしても、それは単に内部規約違反にとどまり、その解決は組合の自主性に委ねられるべきものであるから、それが直ちにA委員長の代表者資格や組合の法適合性に影響を与えるものとはいえない

このような理由で団交拒否が正当化されることはありません。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為282 組合と合意した休日出勤の振替休日等にかかる会社の対応の不当労働行為該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様です。

今日は、組合と合意した休日出勤の振替休日等にかかる会社の対応が不当労働行為に当たるとされた事案を見ていきましょう。

東京空港交通事件(東京都労委令和2年7月7日・労判1253号150頁)

【事案の概要】

本件は、組合と合意した休日出勤の振替休日等にかかる会社の対応が不当労働行為に当たるかが争そわれた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 会社は、本件合意B及び本件合意Cで合意した事項を遵守したとはいえず、また合意を遵守する努力も怠っていたといえる。そして、休日の振替休日等が厳格に管理されていなかったことを踏まえ、本件合意Bでその改善を図ることを労使間で確認した上、本件合意Cでは、「必ず事前に振替休日を設定して実施し」、「3か月以内に必ず代休を取得させる」、「責任を持って説明する」など強い文言で実施の徹底等を図ることが労使間で合意された経緯を考えれば、本件合意B及び本件合意Cがあるにもかかわらず、事前の振替休日の設定もせず、3か月以内に代休を取得させることもせず、その理由も説明せず、同一給与計算期間の精算も行わなかった会社の対応は、労使間で懸案事項となっていた振替休日等の管理の改善と実施の徹底を図った組合との合意を軽視するものであるといわざるを得ない。このような会社の対応は、組合との合意を軽視することにより、組合員や従業員の組合に対する信頼を損ない、組合を弱体化させるものであるから、組合の運営に対する支配介入に当たるといえる。

合理的理由なく組合との合意に反した対応をすると本件同様、不当労働行為とされてしまいます。

守れない約束はしない、約束したら守る、ということに尽きます。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為282 使用者の労務指揮権に委ねられた事項と義務的団交事項該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、従業員への聞き取り調査を実施したことが義務的団交事項にあたるかが争われた事案を見ていきましょう。

大屋タクシー事件(三重県労委令和2年12月21日・労判1253号147頁)

【事案の概要】

本件は、従業員への聞き取り調査を実施したことが義務的団交事項にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたらない

【命令のポイント】

1 本件聞き取り調査は、売上金額にかかる乗客とのやりとりに関するドライブレコーダーの記録と、運行日報に記載された金額が食い違っていたことから、事実確認を行うために実施されたものである。運賃の受領において、不明瞭な事象が生じた場合に、事実確認を行うことは、タクシー会社にとって当然かつ必要な行為であるのだから、A2組合員に対して本件聞き取り調査を実施したことは、会社の労務指揮権の範囲内として委ねられている事項であり、業務に付随して通常予定されている労務指揮権の範囲を超えるものではないと解せられることから、第1回団交申入れの交渉事項として会社が理解した「本件聞き取り調査を実施したこと」については、義務的団交事項には該当しない。

2 そもそも、いかなる事項を団体交渉事項とするかを具体的に明らかにすることは、団体交渉申入れに際しての当然の前提であり、また団体交渉の開始にあたって、最小限必要なことでもある。団体交渉申入書に適切な記載がなく、それまでの経緯からも推し量ることもできない状況で、これに適切に対応する義務が使用者にあると解し、使用者の判断に誤りがあった場合には不当労働行為の成立を認めるとするのは、使用者に過大な義務を課すものとなる
組合が団体交渉申入書とは別に具体的な説明をしていたり、要求をしていたりしていたのであれば別であるが、本件においてはそのような事情は認められず、会社が団体交渉申入書の記載から、組合の求める交渉事項が、「本件聞き取り調査を実施したこと」と理解したことはやむを得ない。

上記命令のポイント2の考え方は非常に重要ですので、しっかりと押さえておきましょう。

一般的には義務的団交事項の範囲はかなり広いので、自分勝手な解釈をしないように気を付けましょう。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為281 組合加入慣行の停止と不当労働行為(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

今日は、組合に加入した新入社員を従業員名簿に記載して組合に交付する取扱いを停止した会社の対応を不当労働行為にあたるとした事案を見てみましょう。

くれよん事件(中労委令和3年3月3日・労判1249号95頁)

【事案の概要】

本件は、組合に加入した新入社員を従業員名簿に記載して組合に交付する取扱いを停止した会社の対応を不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【判例のポイント】

1 会社の組合拒否的な対応及び会社の組合嫌悪の強固な意思を踏まえると、会社は、組合を嫌悪する一貫した意思の下で、26年5月以降少なくとも27年3月末日までの間、組合と交渉や相談をすることなく、新入社員に対し、組合加入は任意である旨の説明をして新規組合加入者を減少させ、さらに、これに引き続き、27年4月以降、それまで続けてきた組合に加入した新入社員を従業員名簿に記載して組合に交付する取扱いを停止したのであって、同行為は組合組織の財政的・人的基盤の弱体化を招来する効果を有する行為であるといえる。
そして、上記停止行為は、それまで行ってきたユニオン・ショップの事実状態を一方的に打ち切る行為といえるものであるところ、会社が、上記停止行為にあたって、組合に相談・説明をすることは一切なかったのであるから、停止行為の合理的な理由を示して組合から合意を得るべく会社が誠実に団体交渉を尽くしたなどの事情は認められない
したがって、会社が、27年5月以降、組合に加入した新入社員を従業員名簿に記載して組合に交付する取扱いを停止したことは、労組法7条3号の支配介入にあたる。

結論としては異論がないと思います。

既得権益を奪うことはそう簡単にできません。

しっかりと手順を踏むことが重要です。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。