Category Archives: 不当労働行為

不当労働行為20(JR東日本(千葉動労・安全運転闘争)事件)

おはようございます。

さて、今日は、懲戒処分と不当労働行為に関する裁判例を見てみましょう。

JR東日本(千葉動労・安全運転闘争)事件(中労委平成23年4月20日・労判1026号181頁)

【事案の概要】

Y社は、鉄道事業法等の法令に従い、列車運転速度表および運行図表を定めるとともに運転作業要領等の各種規程を設けて、これらを運転士全員に配布し、列車を利用する乗客に対して駅での列車の発着時刻を列車時刻表として公表している。

X組合は、運転保安確立を求めて平成18年3月、千葉支社管内の全線区で列車の最高速度を制限する安全運転闘争を行った。

これに対し、Y社は、組合所属の運転士の乗務する列車に管理者を添乗させて運転状況を確認した。その結果、乗務区間において1分以上の遅れが生じた列車は15本、関与した運転士はAら12名の組合員であった。

Y社は、安全運転闘争を決定・指示した組合本部役員であるBら6名を戒告処分に、また、安全運転闘争に参加したAら組合員12名を厳重注意処分に付した。

【労働委員会の判断】

戒告処分、厳重注意処分は、不当労働行為にはあたらない。

【命令のポイント】

1 本件争議行為は、意図的に会社における列車の定時運行体制に支障を生じさせるものであり、単に不完全な労務提供や労務の一部のみの提供という消極的態様にとどまるものではない。また、本件争議行為への会社の対応に照らすと、本件において会社が組合員らの就労を受け入れたからといって、本件争議行為を容認したとか、これが正当性を有するということにはならない。さらに、本件争議行為は、乗務員等の連携作業を乱すものであり、その結果として、列車事故等を招来しかねないという内在的危険性を有するものである。

2 以上のとおりであるから、本件争議行為は、いわゆる怠業という範疇を超えたものであり、争議行為として正当性の範囲を逸脱するといわざるを得ない。したがって、本件争議行為は労働組合の行為として正当性を有しないものである

3 ・・・そうすると、Bら6名に対する戒告処分については、その根拠や処分の程度等において相当性が認められ、また、上記各処分に当たって、会社がことさら組合員を萎縮させることにより、組合の弱体化を企図したとする事情はうかがえないから、労働組合法7条3号の支配介入に当たるとすることもできない。

4 したがって、Aら12名に対する厳重注意処分は、労働組合法7条3号の支配介入には当たらない。

本件では、組合員による争議行為が正当ではないと判断されたため、戒告処分等については、不当労働行為性が否定されています。

「安全運転闘争」により、かえって危険運転となってしまうと判断されたわけです。

皮肉なものです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為19(飛鳥交通神奈川(井土ヶ谷営業所)事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合別残業抑制と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

飛鳥交通神奈川(井土ヶ谷営業所)事件(神奈川県労委平成23年4月27日命令)

【事案の概要】

Y社は、従業員465名(井土ヶ谷営業所に262名)をもってタクシー事業を営んでいる。

X組合は、Y社に対し、団交において、深夜勤務の残業代を支払うよう求め、その後、時間外割増賃金の支払を求める訴訟を提起した。

Y社は、訴訟の原告であるか否かにかかわらず、自交総連組合の組合員全員を対象に残業抑制等を開始した。

【労働委員会の判断】

組合別残業抑制は、不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 時間外勤務が禁止されたことで、自交総連組合の組合員には賃金額の減少という経済的不利益性が存在する。また、公休出勤についても、休日における所定時間外労働であるから、これを禁止することは、前記時間外勤務の禁止と同様の理由で賃金が減額となり、経済的不利益性があるものと言える。

2 以上のことからすると会社は、個々の組合員が残業代について異議があること及び自交総連組合の組合員であることのゆえをもって残業抑制等の不利益取扱いを行っているものであり、また、本件残業抑制等の措置は、残業代未払請求という労働組合の活動方針に対する重大な妨害行為に当たるとともに、組合員を自交総連組合から脱退させようとの意図に基づく支配介入に当たると言うほかない。

3 すなわち、残業代未払請求という自交総連組合及びその組合員の行為は、その請求に係る法的結論の帰趨はともかくとして、労働基準法に基づく正当な権利主張と言うことができる。したがって、労働組合の正式な活動方針に従い、当該組合員が裁判所に支払請求を提起することは、労働組合の正当な行為に当たるから、本件残業抑制等の措置は、正当な組合活動を理由とする報復的な不利益取扱いに該当する。また、会社が、個々の組合員が別件訴訟の原告となっているか否かを問うことなく、自交総連組合の組合員であることのみをもって一律に残業抑制等を行っていることは、労働組合の組合員であることを理由とする不利益取扱いに該当する

4 さらに、会社が別件訴訟を取り下げさせるために本件残業抑制等の措置を取っていることは、労働基準法に基づく残業代未払請求という組合の自主的な活動方針に対する露骨な妨害行為に当たる。と同時に、本件残業抑制等の措置は、自交総連組合を脱退した者が直ちに残業抑制等の対象から外されていることからすれば、同組合員に自交総連組合からの脱退を強く促す悪質な脱退工作というべきであり、これらの点でも労働組合法7条3号で禁止された支配介入に該当する

やり方が露骨だと、このような結果になってしまいます。

会社としては、もう少し「見せ方」を工夫しなければいけません。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為18(北海道大学事件)

おはようございます。

さて、今日は、団体交渉の打ち切りと不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

北海道大学事件(北海道労委平成23年3月11日・労判1024号97頁)

【事案の概要】

平成21年8月、人事院は国家公務員の俸給月額の0.2%引下げ、期末・勤勉手当の0.35月分引下げ、4月時点の官民較差の12月期期末手当による減額調整などを内容とする勧告を行った。

X組合は、同年10月、Y大学に対して勧告に準拠した賃金の不利益変更を議題とする団交を申し入れ、3回にわたり団交が行われた。

団交において、Y大学は、勧告の内容を受け止めて賃金引下げの方針を決めたなどと説明し、X組合が代償措置をとるよう求めたところ、Y大学は、資料を配布し、X組合が代償措置として不十分であると指摘しても、最終案を示したとして団交の終了を宣言した。

【労働委員会の命令】

団交の打ち切りは、不当労働行為に該当する。

【命令のポイント】

1 Y大学が国立大学法人となった際に、職員の個別の給与額や適用される給与体系に変更はなく、また終始構造にも実質的には変更がなかったのであり、団体交渉におけるY大学の説明内容によって、Y大学が人事勧告の内容を受け止めて、職員の給与等を減額する方針を決めた理由が説明されていると認められる。

2 第2回団体交渉においては、大学が検討する代償措置について触れるだけで終了しており、第3回団体交渉において、Y大学は書面を交付して、代償措置について述べるものの、書面には項目のみ3点記載されているだけであり、団体交渉議事録等からも、その内容についての詳細な説明などはなされていないと認められる

3 本件において、Y大学が提示した代償措置は、今回の不利益変更に伴う代償措置として説明しているのであり、また、団体交渉において交渉議題としているのであるから、Y大学としてもその内容などに関して具体的に説明するなど誠実に対応することが必要である。このような観点からすると、第3回団体交渉における大学の説明内容は、不十分であると認められ、組合の主張に対する説明も不足していると認められる。

4 したがって、第3回団体交渉において、Y大学が、代償措置について説明したとして団体交渉を打ち切った行為は、不誠実な交渉態度であると言わざるを得ないばかりか、組合の運営に対する支配介入に該当し、労働組合法7条2号及び3号に該当する不当労働行為である

大学側が、団体交渉において、賃金切下げの理由については、誠実に説明していると認められています。

しかし、賃金切下げに伴う代償措置に関しては、説明が不十分であったとされました。

単に団体交渉を拒否したというのではなく、説明が不十分であったという判断です。

現場において、どの程度の説明をすれば足りるのか、判断が難しいところです。

可能な範囲で具体的に説明をする、ということしかないのではないでしょうか。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為17(間組事件)

おはようございます。

さて、今日は、団交拒否と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

間組事件(神奈川県労委平成23年3月15日・労判1024号95頁)

【事案の概要】

Xは、Y社の従業員として建設現場等で就労し、退職して9年余経過した平成20年6月、悪性胸膜中皮腫と診断され、同年9月、労基署から労災の認定を受けた。

平成21年6月、アスベスト関連組合は、Y社に対してXの組合加入を通知し、同人の就労していた建設現場のアスベスト曝露の実態、本件職業病に関する謝罪と賠償等を求めて団交を申し入れた。

Y社は、Y社と組合との間に労働契約はもとより直接、間接にも使用従属関係はないしこれに類する関係がないことを指摘し、組合が団交を求める得る根拠を具体的に示すよう求めた。

その後、Y社は、組合が団交を申し入れても、同様の回答を繰り返して団交に応じていない。

【労働委員会の判断】

団交拒否は不当労働行為に該当する。

【命令のポイント】

1 Y社は、組合の要求事項のうち、本件職業病に係るXに対する謝罪と賠償については、団体交渉の機能として一般的に認められている労働条件の取引の集合化と労使の実質的対等化の機能を有するものではなく、過去に発生した事実に起因する責任の追及に他ならず、義務的団交事項に当たらないと主張する。

2 確かに、労働条件の取引の集合化及び労使の実質的対等化は団体交渉の機能として一般的に認められている機能である。しかし、個々の組合員の権利問題等について団体交渉の議題とすることは、広く見られることであり、労働条件の取引の集合化は、義務的団交事項にあたるか否かの判断において必ずしも必要な条件であるとはいえない。また、労使の実質的対等化は、会社と組合を当事者とする団体交渉が申し入れられている以上、本件についても当然に認められる機能である

3 さらに、謝罪と賠償は、過去に発生した事実に起因する責任の追及ではあるが、アスベスト健康被害による補償問題の解決に向けた一つの方策であるということができるから、使用者に処分可能な、組合員に関する災害補償の問題である。
よって、謝罪と賠償に関する事項は、義務的団交事項に当たる

4 以上より、Y社は、正当な理由なく団体交渉を拒否したものであるから、労組法7条2号に該当する不当労働行為が成立する

5 また、Y社が正当な理由なく団体交渉を拒否したことにより、Y社との団体交渉を実現させることができなかった組合は、その威信を傷つけられ、組合員に対する影響力が減じられて弱体化するおそれがある
以上のとおりであるから、Y社が正当な理由なく団体交渉を拒否したことは、同時に、Y社が組合の運営に対して支配介入したことになるから、労組法7条3号に該当する不当労働行為も成立する。

会社としては、「義務的団交事項」にはあたらないから、団交には応じないと主張する場合があります。

しかし、この主張する場合には、「義務的団交事項」の範囲をよく検討したほうがいいです。

なかなか厳しいわけです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為16(秋本製作所事件)

おはようございます。

さて、今日は、懲戒処分及び解雇と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

秋本製作所事件(千葉県労委平成23年3月24日・労判1024号94頁)

【事案の概要】

平成21年4月、Y社は、松戸公共職業安定所に従業員代表の記名押印のある休業協定書を添付して中小企業緊急雇用安定助成金の申請を行った。

X組合の分会長Aは、同月、千葉労働局に対して本件休業協定書の従業員代表者選出手続に不正がある旨の申告を行った。

同月、Y社は、Aに対して翌日午後1時までに本件申告を取り下げるよう業務命令を行った。しかし、Aが取り下げなかったところ、Y社は、訓戒処分に付すとともに、本件申告を取り下げるよう重ねて業務命令を行った。

しかし、Aがこれに応じなかったため、Y社は、Aに対して6月、

【労働委員会の判断】

各懲戒処分は、不当労働行為に該当する。

解雇は、不当労働行為に該当する。

【命令のポイント】

1 分会結成前及び分会結成後のこれまでの経緯からして、Y社は、Y社を批判し、公的機関を動かして法令違反を改善しようとする活動方針をとる分解を嫌悪し、とりわけ、その先頭に立つ分会長であるAに対する嫌悪感を強めていったものと推認される

2 Xの本件申告は正当な労働組合活動であったところ、Y社は分会長であるAへ合理的理由のない懲戒処分を複数回に渡り行ったが、これらの処分は会社を批判し、公的機関への通報等によって会社の法令違反を改善させる方針をとっていた分会の労働組合活動を嫌悪したY社が、分会長として中心的に活動していたAに対して行った不利益な取り扱いであるから、労組法7条1号の不当労働行為に該当するものと判断することが相当である

3 また、正当な労働組合活動を行ったことを理由として分会長に複数回に渡り懲戒処分を下すことは、分会の他組合員の活動を萎縮させ、また会社従業員が分会に加入することへの圧力となるものであるから、労組法7条3号の不当労働行為にも該当するものと判断する

4 Y社が合理的理由や相当性が十分といえない解雇をAに行ったことは、従前からY社と対立するAが、分会結成後は賃金の問題を含め分会長として活発に活動していたことを嫌悪し、同人をY社から排除することを決定的動機として行われたものと判断することが相当であり、労組法7条1号の不当労働行為に当たる

本件のような不当労働行為事案は、特に労組法に関する詳しい知識が必要とされていません。

会社の役員や現場担当者としては、組合員に対し、懲戒処分等を行う場合には、通常通り、合理的な理由が存在するかを慎重に検討すれば足りることです。

本件は、単に合理的理由なく懲戒処分や解雇をしたので、その裏返しとして、不当労働行為に該当するだけです。

普段通り、気をつければいいのです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為15(誠幸会事件)

おはようございます。

さて、今日は、配転・人事考課の低評価と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

誠幸会事件(神奈川県労委平成23年3月29日・労判1024号93頁)

【事案の概要】

Y社は、従業員役500名をもって特別養護老人ホーム等を運営している。

X組合は、平成19年12月の結成当時8名であったが、21年4月以降は分会長Aのみである。

平成21年4月、Aは、Y社と雇用期間を1年として、Y社の運営する施設、事業いずれに配属されても異議はない旨の条項を含む準職員有期雇用契約を締結した。

同年10月、Y社は、入職以来介護職として就労してきたAに対し、新設の下飯田事務所を勤務地とし、入居者やデイサービス利用者を確保するための営業を内容とする介護事業促進業務職に配置転換した。

Y社は、Aに対し、平成21年7月に同年上期の、12月に同年下期の期末手当の人事考課の評価を低くし、それぞれ19年同期より10万円減じて支給した。

Xは、本件配転及び人事考課の低評価は不当労働行為であると主張し争った。

【労働委員会の判断】

配転・人事考課ともに不当労働行為に該当する

【命令のポイント】

1 Y社が21年度人事考課において、A分会長をD評価としたことに対し、県央ユニオンらは上記評価の撤回を要求をしていること、また、同人が上記評価の撤回を実現するために横浜西労基署へ労働基準法違反の申告をしていること、同署の労働基準監督官からY社に労働基準法に抵触するおそれがある旨の説明があった直後にY社が21年10月配置転換を表明し、更に従わなければ解雇するという警告を発していることからすると、Y社が県央ユニオンらの組合活動とAを快く思っていなかったことが窺われる

2 Y社は、A分会長が就労時間外に使用者の施設外で労働条件等に関するビラを配布したことや労働条件の遵守に係る理事長の態度を批判したことを評価の対象としており、本来職務遂行能力や就業時間中における勤務態度、仕事に対する姿勢等を対象に実施すべき人事考課において上記のごとき組合活動を対象とすることは、制度の運用上、適正なものとはいえない

3 本件各配置転換及び本件各人事考課は、A分会長の正当な組合活動を理由に同人に対して不利益な取扱いを行ったものとして不当労働行為性が推認されるところ、上記取扱いに合理性は認められず、また、分会の運営に影響を及ぼす支配介入でもあることから、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断する

結論は妥当だと考えます。

Y社が配転を行った時期が、労基署への申告と近接していたことが認定に影響を与えています。

また、人事考課の根拠についても、参考になります。

顧問弁護士に一言相談があれば、「社長、それは不当労働行為と認定される可能性が高いですよ」とアドバイスできたと思いますが。

不当労働行為14(函館厚生院事件)

おはようございます。

今日は、終日、事務所で仕事をする予定です。 途中、接見に行ってきます。

今日も一日がんばります!!

さて、組合員参加型団体交渉(大衆交渉)の拒否と不当労働行為に関する裁判例を見てみましょう。

函館厚生院事件(東京地裁平成20年3月26日・労判969号77頁)

【事案の概要】

Y社は、社会福祉法人であり、函館中央病院を設置・運営している。

X組合は、Y社の従業員によって結成され、組合員数は605名である。

X組合は、平成16年3月、5月、7月、北海道地方労働委員会に対し、(1)X組合が、団体交渉手続の変更、労働協約の解約、就業規則の変更について団体交渉を申し入れたにもかかわらず、Y社がこれを拒否したこと、(2)Y社が、上記団体交渉に応じないまま、労働協約を解約し、就業規則を変更したこと、(3)Y社が、平成16年1月の労使協議会において、X組合に対し、労使協議会の設置目的を逸脱した対応をしたこと、(4)Y社が、X組合に対し、春闘時の組合旗掲揚及び腕章の着用等を許可しなかったこと、(5)X組合が、平成16年度春闘要求について団体交渉を申し入れたにもかかわらず、Y社がこれを拒否したこと、(6)Y社が、X組合に対し、定期昇給等を求める署名活動に抗議し、その中止を求めたこと、がそれぞれ不当労働行為に当たるとして、救済を申し立てた。

道労委及び中労委は、いずれも、一部について不当労働行為にあたると判断したため、Y社は、行政訴訟を提起した。

【裁判所の判断】

請求棄却(不当労働行為にあたる)

【判例のポイント】

1 団体交渉とは、労働組合と使用者又は使用者団体が自ら選出した代表者(交渉担当者)を通じて労働協約の締結を目的として行う統一的交渉のことであるから、使用者は、労働組合から交渉担当者以外に多数の組合員が参加する方式の団体交渉を申し入れられた場合には、原則として、交渉体制が労働組合に整っていないことを理由として、交渉体制が整うまでの間団体交渉を拒否することができるというべきである。

2 しかし、団体交渉が労使間の話合いであるという性質上、団体交渉においては、労使間の自由な意思(私的自治)ができる限り尊重されるべきであるから、交渉の日時、場所、出席者等の団体交渉手続について、労働協約に定めがある場合はもちろん、そうでなくても労使間において労使慣行が成立している場合には、当該労使慣行は労使間の一種の自主的ルールとして尊重されるべきであり、労使双方は、労働協約又は労使慣行に基づく団体交渉手続に従って団体交渉を行わなければならないというべきである

3 組合員参加型団体交渉は、相当長期間にわたって反復継続して行われたものとして、労使慣行となっていたというべきであるから、Y社は、参加人から労働条件等の義務的団体交渉事項について組合員参加型団体交渉の申入れがあった場合には、正当な理由がない限り、これに応じなければならないというべきである

4 Y社は、平成15年12月、参加人から組合員参加型団体交渉手続の変更等について組合員参加型団体交渉の申入れを受けたにもかかわらず、これに応じない旨回答し、その後も組合員参加型団体交渉に応じなかったのであるから、かかるY社の対応は、労組法7条2号の団体交渉拒否に当たるというべきである。

原則論について、上記判例のポイント1で述べられています。

原則論は、菅野先生の「労働法」(第9版)559頁が採用されています。

しかし、本件では、労使慣行により、例外が肯定された事案です。

本件では、労使慣行があったと認定されていますが、判決理由を読む限り、労使慣行が存在したかどうかは微妙なところです。

いろんな方法で団体交渉をしており、必ずしも大衆交渉ばかりであったとはいえません。

会社側の教訓としては、最初から適切な対応をしておくべきであり、合理的理由のない譲歩は慎むべきであるということです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為13(日産自動車事件)

おはようございます。

さて、今日は、使用者の中立保持義務に関する裁判例を見てみましょう。

日産自動車事件(最高裁昭和60年4月23日・労判450号23頁)

【事案の概要】

Y社は、乗用車等の製造を業とする会社である。

Y社は、従来から工場の製造部門で昼夜2交替勤務体制および計画残業と称する恒常的な時間外・休日勤務体制をとっていた。

昭和41年8月にA会社を合併したY社は、翌年2月より上記両体制を旧Aの工場の製造部門にも導入した。

合併後のXには従業員の大多数を組織するX組合と、ごく少数の従業員を組織するのみとなったZ組合とが併存していたところ、Z組合は、かねてより深夜勤務に反対しており、Y社は上記両体制の導入に際し、X組合とのみ協議を行い、Z組合には何らの申入れ等を行わなかった。

そして、Y社は、X組合の組合員にのみ交代勤務・残業を命じ、Z組合の組合員については昼間勤務にのみ従事させ、残業を一切命じなかった。

Z組合は、Z組合の組合員に残業を命じないことはX組合の組合員と差別する不当労働行為であると主張した。

【裁判所の判断】

不当労働行為が成立する。

【事案の概要】

1 労組法のもとにおいて、同一企業内に複数の労働組合が併存する場合には、各組合は、その組織人員の多少にかかわらず、それぞれ全く独自に使用者との間に労働条件等について団体交渉を行い、その自由な意思決定に基づき労働協約を締結し、あるいはその締結を拒否する権利を有するのであり、使用者と一方の組合との間では一定の労働条件の下残業に服する旨の協約が締結されたが、他方の組合との間では当該組合が上記労働条件に反対して協約締結に至らず、両組合の組合員間で残業に関して取扱いに差異が生じても、それは使用者と労働組合との間の自由な取引の場において各組合が異なる方針ないし状況判断に基づいて選択した結果が異なるにすぎず、一般的、抽象的には、不当労働行為の問題は生じない

2 しかし、団体交渉の結果が組合の自由な意思決定に基づく選択によるものといいうる状況の存在が前提であり、この団体交渉における組合の自由な意思決定を実質的に担保するために、労組法は使用者に対し、労働組合の団結力に不当な影響を及ぼすような妨害行為を禁止している。このように、併存する各組合はそれぞれ独自の存在意義を認められ、固有の団体交渉権及び労働協約締結権を保障されており、その当然の帰結として、使用者は、いずれの組合との関係においても誠実に団体交渉を行うべきことが義務づけられ、また、単に団体交渉の場面に限らず、すべての場面で使用者は各組合に対し、中立的態度を保持し、その団結権を平等に承認、尊重すべきものであり、各組合の性格、傾向や従来の運動路線のいかんによって差別的な取扱いをすることは許されない。

3 複数組合併存下においては、使用者に各組合との対応に関して平等取扱い、中立義務が課せられているとしても、各組合の組織力、交渉力に応じた合理的、合目的的な対応をすることが右義務に反するものとみなされるべきではない。

4 しかし、団体交渉の場面においてみるならば、合理的、合目的的な取引活動とみられうべき使用者の態度であっても、当該交渉事項については既に当該組合に対する団結権の否認ないし同組合に対する嫌悪の意図が決定的動機となって行われた行為であり、当該団体交渉がそのような既成事実を維持するために形式的に行われているものと認められる特段の事情がある場合には、右団体交渉の結果としてとられている使用者の行為についても労組法7条3号の不当労働行為が成立する

5 本件では、上記特段の事情が認められ、不当労働行為が成立するとした原審の判断は是認できる。

複数組合併存下における使用者の中立保持義務に関する最高裁判例です。

上記判例のポイント4の「当該団体交渉がそのような既成事実を維持するために形式的に行われているものと認められる特段の事情」があると認定されないように気をつけなければいけません。

会社としては、中立かつ誠実に各組合と交渉をすることが求められています。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為12(田中酸素事件)

おはようございます。

さて、今日は、配転・出勤停止処分と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

田中酸素事件(中労委平成23年1月19日・労判1022号87号)

【事案の概要】

Y社は、従業員役60名をもって、高圧ガス製造販売および建設機材のリース販売等を行っている。

X組合の執行委員長Aは、平成8年7月、Y社に入社し、平成13年8月から本社のリース部門の業務に従事してきた。

平成20年12月、Y社は、Aに対し、Y社会長に対する暴言等職場の秩序を乱したこと、上長の注意、指示、命令に従わないことなどを理由に6日間の出勤停止処分に付した。

平成21年1月、Y社はAに対し、小野田営業所へ配転する旨命じた。小野田営業所は、本社から車で10分程度の距離にある。

配転後のAは、主として足場材等洗浄作業に従事している。

Aは、本件出勤停止処分と配転は、不当労働行為にあたるとして争った。

【労働委員会の判断】

出勤停止処分・配転ともに不当労働行為にあたる。

【命令のポイント】

1 Y社は、本件リース部門が配達業務等に人手を要しない状態にあったとまではいえず、また、Aの業務遂行能力は若干の指導、補助等を補っても通常の業務遂行に耐えない程度にまで失われ又は欠落していたとはいえないにもかかわらず、Aを敢えて本社リース部門に復帰させず、本件配転により、Aを更なる人手を要する状態にあったとはいえない小野田営業所に配転したということができる

2 そうすると、本件リース部門が業務を縮小したこと、Aが長期間離職していたことを考慮しても、本件配転の合理性には疑問が残るといわなければならない

3 本件配転の合理性に疑問が残ることに加え、Aは、X組合の執行委員長であること、X組合は、結成以来ほぼ恒常的にY社と対立、緊張関係にあったこと、Y社が、第1次解雇の後もAを再度解雇し、第2次解雇が無効であることを前提とする判決が確定するや、Aの弁明等を聴取せずに本件処分を行い、同様にAの意向等を事前に聴取しないで本件配転を行ったことが認められる。

4 これらの事情に照らすと、Y社は、X組合の執行委員長であるA及び同人ら組合活動を嫌悪し、同人を本社から排除し、精神的ないし職業上の不利益を与えるとともに、A及び組合の会社及び他の従業員に対する影響力を減殺する意図をもって本件配転に及んだと認めるのが相当である。
以上検討したところによれば、Y社は、A及び同人らの組合活動を嫌悪し、・・・本件配転を行ったと認められるから、本件配転は、労組法7条1号の不当労働行為に当たる

この命令の内容を見てもわかるとおり、結局、不当労働行為に該当するか否かについては、特別な判断基準があるわけではないのです。

配転が合理的理由に基づいていないといえ、その当事者が組合員であると、不当労働行為に該当する可能性が出てくるわけです。

まして、今回、Aは、X組合の執行委員長です。

会社としては、やり方を考えないと、このような結果になってしまいます。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為11(島田理化工業事件)

おはようございます。

さて、今日は、誠実交渉義務と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

島田理化工業事件(静岡県労委平成23年1月27日・労判1022号86頁)

【事案の概要】

Y社は、東京都内に本社および東京製作所を、静岡県内に島田製作所を、福岡県等に営業拠点を置き、電気機器の製造販売を行っている。

平成21年4月、Y社は、X組合に対して、島田製作所(従業員数約200名)を閉鎖し、同製作所で行っていた洗浄装置事業を終息させ、高周波応用機器事業を東京製作所に集約し、180名の希望退職を募集する旨の経営再建プランを説明した。

Y社と支部は、経営再建プランに関して同年8月までに8回の団交のほか事務折衝を行った。その間の6月、Y社は、支部に対して「経営再建プランにおける人員関連施策内容」と題し、再就職あっせん、希望退職、高周波事業の東京地区移転に伴う配転、個別面談について説明する文書を送付した。

また、7月、Y社は、支部に対して高周波事業の東京地区への移転計画、再就職のあっせん及び希望退職者のスケジュールを説明した。

8月の団交において、Y社は、議論は平行線でこれ以上の交渉の進展が困難であるとして、経営マターの協議を打ち切りたい、希望退職募集について労使の合意は必要ないと述べた。

Y社は、7月に説明したとおり、10月に希望退職を募集した。

X組合は、団交におけるY社の対応が誠実交渉義務に違反すると主張し争った。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にはあたらない

【命令のポイント】

1 島田製作所の閉鎖に関する事項等並びに人員関連施策としての希望退職の募集に関する事項及び高周波事業従事者の東京地区への転任に関する事項のうち、島田製作所の閉鎖に関する事項等はY社の事業の廃止・移管という経営・生産に関する事項であり、そこから生じる労働条件問題の交渉の中で議論されるべきことはあっても、それ自体としては義務的団交事項に当たるということはできない。

2 しかし、経営再建プランの実施に伴う希望退職の募集は、労働者の雇用そのものにかかわることであり、応募する労働者にとっては退職金などの労働条件を含むものであり、また、応募しない労働者にとってもその労働条件に影響を及ぼすことであるので義務的団交事項である。また、高周波事業従事者の東京地区への転任に関する事項は、高周波業務部門全体の東京地区への異動であり、集団的な職場の変更であるので、義務的団交事項である。

 希望退職募集に関しては、経営再建プラン発表後、募集までに、6回の団体交渉のほか事務折衝も行われ、その間に、Y社は、資料を提示して希望退職募集に至った経営状況を説明している。

4 経営再建プランに係る島田製作所の閉鎖に関する事項等自体は、事前協議事項や義務的団交事項とは認められず、同プランに係る人員関連施設としての希望退職の募集に関する事項及び講習は事業従事者の東京地区への転任に関する事項については、Y社は誠実に団体交渉を行っていたと認められることから、不当労働行為には該当しない

地元静岡の事件です。

同命令では、労使間の事前協議中に希望退職を募集したことは、不当労働行為には当たらないと判断されています。

本件では、Y社は、誠実交渉義務を尽くしているといえ、結論は、妥当であると思います。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。