Category Archives: 不当労働行為

不当労働行為30(サンケン電気事件)

おはようございます。

さて、今日は、労組法上の使用者に関する命令を見てみましょう。

サンケン電気事件(石川県労委平成23年10月18日・労判1036号95頁)

【事案の概要】

Y社は、Z社の株式を100%所有するグループ会社の中核会社である。

Z社は、半導体を製造する会社である。

平成22年2月、Z社は、赤字製品対策のために工場を閉鎖すると提案し、X組合と、22回にわたり団交を御子なった。

Xは、Y社に対しても、工場閉鎖提案の撤回を議題とする団交を申し入れた。

Y社は、Y社とZ社は別法人であり、Z社が雇用する労働者についてY社は労組法上の使用者に該当しないので団交に応じないと回答した。

【労働委員会の判断】

Y社は労組法上の使用者に当たらない。
→不当労働行為には当たらない。

【命令のポイント】

1 通常時のX組合組合員の賃金、一時金、時間外労働手当、有給休暇、労働時間、職員採用、人事異動、懲戒などの基本的な労働条件等については、Z社がX組合との団体交渉や経営会議により独自の判断に基づき決定していたものであり、Y社による現実的かつ具体的な関与は認められない

2 Y社が親会社としてグループ内の子会社従業員の緊急対策的な労働条件等にかかる方針を決定し、当該方針をグループ内子会社に示していたことが窺われ、そのことがX組合組合員の労働条件等に影響を与えた可能性も否定できないが、当該労働条件等を現実的かつ具体的に決定したのはZ社であるから、Y社の関与は、グループ内子会社に対する経営戦略的観点から行う管理・監督の域を超えているとまでは認められない。

3 ・・・以上のことからすると、Y社は、Z社の経営に対し一定の支配力を有していたことは認められるが、それが親会社がグループの経営戦略的観点から子会社に対して行う管理・監督の域を超えているものとまでは認められないことから、X組合組合員の基本的な労働条件等に対して、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有している者とはいえず、Y社は、労働組合法第7条の使用者に当たるということはできない。
よって、Y社は、本件について不当労働行為責任を負う者には該当せず、不当労働行為は成立しない。

朝日放送事件(最高裁平成7年2月28日判決)の基準に従って判断されています。

本件では、親会社の労組法上の使用者性が問題となりましたが、上記のとおり、子会社従業員の労働条件について、現実的かつ具体的な支配・決定権限はないと判断されています。

使用者概念の拡大の問題は、もう少し研究したいところです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為29(緑光会事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合脱退勧奨等と不当労働行為に関する裁判例を見てみましょう。

緑光会事件(中労委平成23年9月7日・労判1035号172頁)

【事案の概要】

Y社は、病院のほか精神障害者社会復帰施設等を経営している。

平成20年10月、X組合は、Y社理事長がZに対して組合からの脱退を働きかけたこと、平成20年4月、X組合がカンファレンスルームの使用を申し入れても、部外者である組合員の出入りは患者に悪影響があるとして拒否したことが不当労働行為であるとして、救済を申し立てた。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にはあたらない

【命令のポイント】

1 ・・・このように、短期間に100通を超える脱退届が提出された経緯をみると、個々の組合員だけでない組織的な対応がうかがわれる。しかしながら、本件においては、Y社の管理者が分会員に対して脱退を勧奨したり、上記脱退についての説明会等に出席を促したという事実は認められず、他にY社が本件脱退に関与したことをうかがわせる事情はない

2 上記事情からみれば、Y社が組合に対して強い関心をもっていたことがうかがわれる。しかしながら、Y社理事長がZに対し「外部は邪魔だ」と発言した事実は認められず、その他法人が本件脱退に関与した事実は認められない
一方、本件脱退前に、食事会で出席者の中にX1が同年4月の団交において突然代表者交渉を提案したことなど分会員とX1との信頼関係が失われていったことを示す事情が認められることからすれば、本件脱退は、分会員側の事情において発生し、進められたものとの推認を否定することはできない

3 以上によれば、本件脱退の経過、本件脱退前後の状況を考慮しても、Y社理事長がZ1に対し分会員を組合から脱退させるよう働きかけ、理事長の意を受けたZが分会執行委員らに対し組合から脱退するよう働きかけ、更にZの発言を受けた分会執行委員らが分会員に対し組合からの脱退を働きかけたとは認められない。
したがって、Y社は、分会員らに対し、組合からの脱退を働きかけた事実は認められない。

4 Y社が、組合からのカンファレンスルームの使用申入れを拒否した際に明示した、外部の者の出入りを一定の範囲で制限するという理由は、病院が精神科病院であることからその治療の観点からみて必要性と合理性があるものといえる
・・・したがって、組合によるカンファレンスルームの使用を拒否したY社の対応は、組合によるカンファレンスルームの使用を拒否して組合活動を妨害したものとはいえず、この点に関する組合の主張は理由がない。

組合員の大量脱退の理由について、会社が脱退を働きかけたとは認定されなかったため、不当労働行為とはなりませんでした。

完全に事実認定の問題ですね。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為28(阪急トラベルサポート事件)

おはようございます。

さて、今日は、不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

阪急トラベルサポート事件(中労委平成23年11月16日・労判1036号93頁)

【事案の概要】

Y社は、一般労働者派遣事業、旅行サポート事業等を行っている会社である。

組合支部は、Y社に登録する派遣添乗員により組織されている。

Xは、平成13年6月からY社東京支店に登録し、専ら阪急交通社に派遣され、旅行の添乗業務におおむね2か月に3回、月12日程度従事してきた。

Xは、平成19年1月の支部結成以来、支部執行委員長である。

平成21年2月発売の週刊誌に支部の活動を紹介するXのインタビュー記事が掲載された。

Y社の東京支店長は、Aに週刊誌記事を示して事情聴取を行い、同記事が事実に反しY社の名誉を毀損し、業務妨害にも当たるとして週刊誌に訂正を申し入れること等を求めた。

しかし、Xはこれを拒否したため、支店長は、Xに対し、今後添乗業務を割り振らない措置をとる(本件アサイン停止)と告げた。

【労働委員会の判断】

労組法7条1号の不利益取扱いにはあたらないが、同条3号の支配介入にあたる。

【命令のポイント】

1 Y社は、Xは派遣の都度雇用関係が生じる登録型派遣労働者であり、アサインを受ける権利を有しないなどとして、本件アサイン停止は不当労働行為に該当する余地はないと主張する。
・・・Xは、労働者派遣事業者であるY社に登録され、阪急交通社に派遣添乗の度ごとにY社との短期労働契約を結んで派遣されていたのではあるが、Y社と同人の関係は、その実態においては、派遣添乗ごとの短期労働契約が長期間にわたって専属的かつ継続的に繰り返されてきたものであり、かつ就業規則も各労働契約の期間とその間の登録期間を一体的な期間として適用対象としてきたものであるから、常用型の派遣に近似していたものとみることができる
したがって、Y社とXとの間には登録期間も含め常用型の派遣に近似した関係があり、Y社は同期間も含め労組法第7条が適用される使用者であったとみることができるから、本件アサイン停止は、Y社とXの間に存在してきたこのような関係を切断する措置として、不当労働行為に該当し得るものである。

2 ・・・Xの上記取材における対応は、・・・会社の名誉・信用を相当程度毀損するものであったと推測できることにかんがみれば、組合活動として正当化し得るものではない。また、Xが、そのような発言によって生じたY社の名誉毀損の拡大の回避、会社の名誉回復の措置をとらなかったことも、やはり組合活動として正当化し得るものではない。
以上によれば、本件アサイン停止は、Xに対する「労働組合の正当な行為」の故の不利益取扱いとはいえない。

3 しかしながら、Xに対する本件アサイン停止は、自ら執筆した記事に対する責任が問われたものではなく、同人の取材における対応が問題とされたものである。このことに、これまでXに非違行為があり、同人に注意・指導が行われたり、懲戒処分などが行われたりしたことをうかがわせる事情は認められないこと(審査の全趣旨)を勘案すれば、同人に対する本件アサイン停止の相当性には疑問がある
・・・以上のとおり、支部は、結成以来、Y社に未払残業代を支給させたり、一定の条件下にある派遣添乗員の雇用保険・社会保険の加入を実現させてきており、また、みなし労働の適用ないし未払残業代の支払をめぐってはY社と厳しく対立していたが、Xは、支部の委員長として、これら活動の中心的存在として重要な役割を担っていたものと認められる。Y社はこのようなXを快く思っていなかったことは当然に推認される
以上を総合勘案すると、本件アサイン停止は、みなし労働の撤廃等を活動する支部の中心的な存在であるXに対し、解雇と同視し得る措置を課し、同人をY社から排除することにより、組合の組合活動を減退させようとして行われたものと推認でき、労組法7条3号の支配介入に該当する。

不利益取扱いにはあたらないが、支配介入にはあたるという点が特徴的です。

通常、いずれにも該当するのが多いですが、今回のような判断もあるわけです。

上記命令のポイント3のような論理の運びは、労働者側としては参考にすべき点です。

会社側としては、組合幹部に対する対応は慎重にしなければいけません。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為27(両磐酒造事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合委員長等の配転、試用期間の延長等と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

両磐酒造事件(岩手県労委平成23年9月6日・労判1035号173頁)

【事案の概要】

平成22年6月、Y社は、X組合(組合員6名)の組合員X1を営業部(小売店への配送業務等)から製品工場
(清酒等の瓶詰業務)に、組合員長X2を製品工場の製品担当の長から営業部車両係にそれぞれ配転した。

同年12月、Y社は、同年7月に入社した組合員X3に対して試用期間を3か月の延ばすと告げ、その理由として12月の休日出勤命令に従わなかったことおよび入社後6か月間の仕事内容が悪いことなどを挙げた。

平成23年1月、X3がY社社長に退職すると告げたところ、同社長は、試用期間の延長を撤回する旨告げた。

【労働委員会の判断】

X1に対する配転命令は不当労働行為に当たらない

X2に対する配転命令は不当労働行為に当たる

X3に対する試用期間の延長は不当労働行為に当たる

【命令のポイント】

1 X1の勤務状況に問題があったこと及びアルコール依存による問題行動があったことから、Y社が、X1は営業の業務を行うことが適当ではないと考え、X1を営業部から製品工場に配置転換したことは、業務上の必要性があり、X1の配置転換には合理性があると認められる。したがって、X1に対する配置転換については、不当労働行為意思があったとは認められないため、配置転換の不利益性を判断するまでもなく、不利益取扱いには当たらない。

2 X2が瓶詰作業を他の従業員に教えなかったこと、Y社に重大な損害を与えたこと及び会社存続のため配置転換が必要だったことは認められず、配置転換の業務上の必要性は存在しないことから、配置転換の合理性は認められない。さらに、X2が組合の執行委員長であることや、平成22年3月から同年4月にかけて組合が申し入れた団体交渉をY社が拒否していることを考え併せると、Y社には、不当労働行為意思があったと認められる。

3 X3が平成22年12月23日に出勤しなかったことは、形式的には休日出勤命令に違反しているようにみえるが、休日出勤の一連の経過及び上司である統括リーダーの了解をとっていたことから、X3が命令に違反したとまでは断定できない。業務命令に違反したとY社が主張する事実はこの1件だけで、他にX3が業務命令に違反した事実はない。加えて、Y社は休日出勤しなかった従業員に対し、処分をしなかったこともある旨Y1社長が述べている。
次に、Y社は、X3の6か月間の仕事内容が悪いと主張するが、Y社社長および管理職は仕事ぶりをほとんど見ていなかったことから、Y社が仕事内容の評価を適正に行っていたとは認められない。
また、Y社は経営状況が良くないことから試用期間を延長したと主張するが、経営状況に関する具体的な立証がなく、認められない。
さらに、会社の就業規則には試用期間の延長の根拠となる規定もないことや、X3が退職を告げると、Y社社長はすぐに試用期間延長を撤回すると話すなど、Y社の対応には明確な根拠や一貫性がない。
以上から、X3にとって不利益な試用期間の延長に合理的な理由はなく
、Y社には不当労働行為意思があったと認めざるをえないことから、X3に対する試用期間の延長は、不利益取扱いに当たる。

不当労働行為については、形式的には不当労働行為意思の存否を判断しますが、結局のところ、会社の行為に合理性が認められるかということを判断しているにすぎません。

今回の判断を読めばよくわかります。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為26(クボタ事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣労働者の直雇用化前の団交申入れに関する裁判例を見てみましょう。

クボタ事件(東京地裁平成23年3月17日・労判1034号87頁)

【事案の概要】

Y社は、平成19年1月、Y社工場で就労している派遣労働者を、同年4月を目処に直接雇用することを決定した。

同年2月、上記派遣労働者が加入する労働組合であるX組合が、直雇用化実施前にY社に団体交渉を申し入れたところ、Y社は、1度は団体交渉に応じたが、その後のX組合からの団体交渉申入れには応じなかった。

X組合は、労働委員会に対し、救済申立てをし、不当労働行為であると判断された。

Y社は、命令を不服としてその取消を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却
→Y社の団交拒否は不当労働行為に該当する

【判例のポイント】

1 不当労働行為禁止規定(労組法7条)における「使用者」について、不当労働行為救済制度の目的が、労働者が団体交渉その他の団体行動のために労働組合を組織し運営することを擁護すること及び労働協約の締結を主目的とした団体交渉を助成することにあること(同法1条1項参照)や、団体労使関係が、労働契約関係又はそれに隣接ないし近接した関係をその基盤として労働者の労働関係上の諸利益についての交渉を中心として展開されることからすれば、ここでいう「使用者」は、労働契約関係ないしはそれに隣接ないし近似する関係を基盤として成立する団体労使関係上の一方当事者を意味し、労働契約上の雇用主が基本的に該当するものの、雇用主以外の者であっても、当該労働者との間に、近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存する者もまた、これに該当するものと解すべきである。

2 本件団体交渉申入れは、交渉議題を(1)契約社員の就業規則、(2)有給休暇の引継ぎ、(3)平成19年4月以降の組合員の賃金、(4)契約社員の雇用期間の根拠と契約更新の具体的条件、(5)労働協約の締結、(6)その他であり、いずれも直雇用化後のX組合員の重要な労働条件に関するものである。

3 Y社は、現在に至るまで、本件団体交渉申入れの各時点において、自己が使用者に該当しないと主張し、かつ、本件団体交渉申入れに対し平成19年3月末日まで団体交渉に応じなかったことに正当な理由があったと主張しているが、これらの主張がいずれも認められないことは前述のとおりである。
そして、直雇用下後のX組合とY社との間の団体交渉で、組合員の雇用期間等の問題について妥協点を見出せておらず、現時点でも、今後のY社とX組合との間の団体交渉に関し、Y社が労働組合法7条の使用者性や同条2号の「正当な理由」について適切に判断することにより適切な時期に団体交渉が実施されることを期するという観点から、本件の救済方法として、本件不当労働行為に関するY社の責任を明確にした上で、Y社に対し今後本件と同様の不当労働行為を繰り返さない旨の文書手交を命じる必要性(救済利益)があるというべきである

前回の住友ゴム工業事件と近い事案です。

労組法の趣旨を考慮した内容ですね。

十分納得できるものだと思います。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為25(住友ゴム工業事件)

おはようございます。

さて、今日は、団交応諾義務に関する最高裁判例を見てみましょう。

住友ゴム工業事件(最高裁平成23年11月10日・労判1034号98頁)

【事案の概要】

X組合には、Y社の元従業員A、B及び元従業員の妻Cが加入している。

X組合は、Y社に対し、(1)会社における石綿使用実態の明確化、(2)退職労働者全員に対する健康診断の実施、(3)定年後の老妻認定者に対する企業補償制度の創設を求めて団交の開催を申し入れた。

Y社は、X組合からの団交の申し入れに対し、X組合には、Y社と雇用関係にある労働者は含まれていないことを理由として申入れに応じなかった。

そのため、X組合は、労働委員会に対し不当労働行為の救済申立てを行ったが、労働委員会は救済申立てを却下する旨の決定をしたため、X組合はその取消しを求めて訴訟を提起した。

【裁判所の判断】

Y社の上告を棄却、上告受理申立も不受理
→Y社の団交応諾義務を肯定

【判例のポイント】

(一審判決)
1 労組法7条の目的は、労働者の団結権を侵害する一定の行為(不当労働行為)を排除、是正して正常な労使関係を回復することにある。

2 同条2号にいう「使用者が雇用する労働者」とは、基本的に、使用者との間に現に労働契約関係が存在する労働者をいうと解されるが、労働契約関係が存在した間に発生した事実を原因とする紛争(最も典型的なものは、退職労働者の退職金債権の有無・金額に関する紛争である。)に関する限り、当該紛争が顕在化した時点で当該労働者が既に退職していたとしても、未精算の労働契約関係が存在すると理解し、当該労働者も「使用者が雇用する労働者」であると解するのが相当である

3 本件では、A及びBは、労働契約関係が存在した間に業務により石綿を吸引したことにより健康被害が発生している可能性があると主張し、Y社に対し、石綿の使用実態を明らかにすることとともに、石綿による被害が生じている場合にはその補償を求めているのであり、両名の心配はもっともであるから、本件団交要求は、A及びBの在職中に発生した事実に起因する紛争に関してされたものであって、両名が加入しているX組合は「使用者が雇用する労働者」の代表者であると解される

4 ただし、死亡した元従業員については、同人がX組合に加入した事実はないから、その遺族であるCがX組合に加入しているとしても、Y社は、Cの代表者としてのX組合が団体交渉を求めても、これに応じる義務を負わない

(二審判決)
1 労組法7条2号にいう「使用者が雇用する労働者」とは、原則的には、現に当該使用者が雇用している労働者を前提としているが、雇用関係の前後にわたって生起する場合(雇い入れが反復される臨時的労働者の労働条件を巡る紛争等)においては、当該労働者を「使用者が雇用する労働者」と認めて、その加入する労組と使用者との団交を是認することが、むしろ労組法上の趣旨に沿う場合が多い

2 使用者がかつて存続した雇用関係から生じた労働条件を巡る紛争として、当該紛争を適正に処理することが可能であり、かつ、そのことが社会的にも期待される場合には、元従業員を「使用者が雇用する労働者」と認め、使用者に団体交渉応諾義務を負わせるのが相当であるといえる。

3 その要件としては、(1)当該紛争が雇用関係と密接に関連して発生したこと、(2)使用者において、当該紛争を処理することが可能かつ適当であること、(3)団体交渉の申入れが、雇用期間終了後、社会通念上合理的といえる期間内にされたことを挙げることができる。そして、上記合理的期間は、雇用期間中の労働条件を巡る通常の紛争の場合は、雇用期間終了後の近接した期間といえる場合が多いであろうが、紛争の形態は様々であり、結局は、個別事案に即して判断するほかはない

内容的にも非常に参考になるものですね。

高裁が示した判断基準(上記二審判決の判例のポイント3)は重要ですね。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為24(クボタ(契約終了慰労金)事件)

おはようございます。 

さて、今日は、不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

クボタ(契約終了慰労金)事件(中労委平成23年8月3日・労判1033号95頁)

【事案の概要】

平成20年8月、Y社は、工場の契約社員(組合員を含む)に雇用契約を21年3月末まで更新すること、今回が最後の更新となり、4回目の更新を行わないこと、確認書を提出した場合に契約終了慰労金を支給することを記載した第3回更新通知を配付した。

同年9月、Y社は、21年1月から3月までの間に労働契約を終了する工場の契約社員に「労働契約終了について何らの異議を申し立てない」旨の確認書を提出した場合に、契約終了慰労金を支給する旨の通知を配付した。

【労働委員会の判断】

確認書提出を契約終了慰労金支給の条件とする通知を配付したことは不当労働行為に当たらない

慰労金の支給に関する団交におけるY社の対応は不当労働行為に当たる

【命令のポイント】

1 契約終了慰労金が労働契約の円滑な終了を目的の一つとしていることからすれば、契約終了慰労金は、19年3月雇用契約が終了することを前提として支給されるものといえる。そうであるならば、契約終了慰労金の支給に当たって19年3月雇用契約が終了したことを確認する書面を徴することは、契約終了慰労金の制度そのものにおいて当然に予定されていたといえる。そして、確認書の要件における「労働契約の終了について何らの異議を申し立てない」旨の文言も、訴訟の提起をしようとする組合員らに対して心理的動揺を与えることがありうるとしても、その内容は、客観的には、19年3月雇用契約が終了したことを確認するものにほかならず、それ自体を、新たに不利益な要件を課すものということはできない

2 Y社は、組合員らの雇用期間の満了に係る問題に関する誠実な交渉の在り方として、第17回団交においては契約終了慰労金の支給に関する提案や説明を、そして、第18回団交においては9月26日契約終了慰労金通知の内容に関する提案や説明をそれぞれ行うべきであったところ、それらを行わなかったといえるのであって、かかるY社の対応は、労組法第7条第2号の不誠実団交の不当労働行為に該当する。

不誠実団交の問題は、会社にとって、非常に悩ましい問題です。

現場では、可能な範囲での説明を尽くすということしかないと思います。

それでも足りないと言われるのであれば、仕方ないです。

組合と会社とは、立場が違いますので、組合にとって満足のいく回答を得られない場合には、組合としては、不誠実団交だと主張することになるわけです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為23(三栄興業事件)

おはようございます。

さて、今日は、スト当日の年休取得組合員への欠勤扱い等に関する命令を見てみましょう。

三栄興業事件(神奈川県労委平成23年8月4日・労判1033号94頁)

【事案の概要】

Y社は、従業員48名をもって自動車学校を運営している。

平成21年2月、X組合は、賃上げ等を要求してストを通告し、同年3月に妥結するまでに12回のストを実施した。

同年3月、Y社は、臨時朝礼を開催し、朝礼出席者全員にQUOカード5000円券を支給した。同日、X組合は、始業時からストを実施しており、組合員は朝礼に欠席していたため、QUOカードは支給されなかった。

同月、Y社は、スト実施日の年休を認めない旨口頭でY社書記長らに通告した。X組合がストを実施した同日のX組合支部長の年休申請に対して、Y社は、繁忙期間中でもあり、取得理由を尋ねても明確に回答しなかったとして、同日の年休取得を認めず、欠勤扱いとした。

ただし、Y社は、同日以降もスト実施日に年休を申請しその理由を明確にした組合員の年休は、欠勤扱いにはしなかった。

【労働委員会の判断】

組合がストを実施した日に年休を申請した組合員3名を欠勤扱いとし、賃金を減額したことは不当労働行為にはあたらない。

組合のスト実施日に臨時朝礼を行い、朝礼参加者にQUOカードを配布したことは不当労働行為にあたる。

【命令のポイント】

1 そもそも年休は、労働基準法第39条第1項及び第2項の要件が充足されることにより、法律上当然に労働者に生ずる権利であって、同条第5項の請求とは休暇の時季指定にほかならず、年休の成立要件として、使用者の承諾は必要ない。適法な時季変更権の行使がない以上、使用者は時季の変更もできない。また、年休の利用目的は同法の関知しないところであり、使用者が理由の如何によって付与しないということは許されない。ただし、一斉休暇闘争のようにストライキのために年休を利用することは、年休権の正当な行使ということはできない

2 本件についてみると、・・・労働基準法違反と不当労働行為の成立は別問題である。会社は、ストライキ実施日における年休申請について、ストライキ参加のためか、本来の年休利用のためかを判断する根拠として、組合員に理由を聴取し、明確に回答した組合員の年休申請についてはこれを認めている。・・・同一の組合員でも扱いを変えていることからすると、組合員であるがゆえに欠勤扱いにしたとはいえない。また、X組合はストライキに対する意趣返しと主張しているが、Y社は同月12日以降の組合員の年休を全て欠勤扱いにしたとはいえない。

3 よって、3名の年休申請を認めず欠勤扱いとしたことは、労働基準法違反の問題は別として、あくまで会社が3名をストライキに参加したと判断したことによるものであり、ストライキを実施するX組合を嫌悪して、報復的に年休を与えなかったものとまでは認められないから、組合員であるがゆえの不利益取扱いとはいえず、またX組合に対する支配介入に当たるともいえない

4 繁忙期で予約が逼迫しており、教習指導員の稼働率向上とこれまでの慰労のためにQUOカードを配付したというY社の主張は不自然とはいえない。しかし、組合員がストライキ実施のため誰一人出勤していない日に臨時に朝礼を開催して配付したこと、組合員以外は全員支給されていること、ストライキを実施した組合員については始めから除外されてしまうという差別的な支給基準であること、また、組合員にはQUOカードを他の教習指導員に支給したという事実を隠匿していたことから判断すると、QUOカードを組合員にのみ支給しなかったことは、Y社がX組合によるストライキを嫌悪し、組合員以外の教習指導員を優遇することにより、組合員を差別した不利益取扱いであり、かつX組合に対する支配介入であるといえ、不当労働行為に該当する

年休申請に関する判断は参考になります。

現場では、非常に悩ましい問題だと思います。

労基法違反と不当労働行為該当性の問題は別問題という視点は持っておくべきです。

QUOカード配付に関しては、不当労働行為に判断されていますが、そう判断されてもやむを得ないと思います。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為22(川崎重工業事件)

おはようございます。

さて、今日は、交渉主体と団交拒否に関する裁判例を見てみましょう。

川崎重工業事件(兵庫県労委平成23年6月9日・労判1029号95頁)

【事案の概要】

Y社は、平成20年のいわゆるリーマンショック以降、経営状況が悪化したため、21年秋から冬にかけてC工場の操業度が落ち込み、同工場の請負業務は新規に発注する案件がなく、労働者派遣契約も順次中途解除する状況となった。

21年11月、Y社は、請負契約または労働者派遣契約に基づきC工場で鉄道車両の台車製造業務を行っていたA社及びB社に新たな請負業務を発注せず、労働者派遣契約を中途解除した。

C工場で働いていたA社およびB社の従業員Dらは、労働組合を結成した。

A社およびB社は、11月から12月にかけてDら組合員を解雇または雇止めとした。

11月、組合は、Y社に対して組合員の雇用に関する団交を申し入れた。

Y社は、組合員と直接の雇用関係になく、組合員の労働条件を決定する権限がないので、団交に応じられないと回答した。

組合は、Y社の団交拒否は、不当労働行為にあたると主張し争った。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にはあたらない。

【命令のポイント】

1 組合が本件団体交渉においてY社とA社とが一体となって解決することを求めているのは、組合員の解雇等の撤回ないしY社での雇用に関するものであるところ、組合は、これらの事項に関してY社が現実的かつ具体的な支配力を有していた事実として、組合員がY社の従業員と混在して働いていたこと、Y社の従業員から残業の指示を受けたこと、有給休暇を取得するに当たりY社の班長への届出が必要であったこと、Y社の従業員と一緒に朝礼に参加し、会社の課長等から業務指示を受けたことを指摘するにとどまり、これらの事実だけでは、組合員の雇用についてY社が現実的かつ具体的な支配力を有しているとまではいえない

2 団体交渉の当事者としての使用者性の判断は、労働組合法独自の観点から行うべきであって、会社に雇用契約の申込み義務がないというだけで、直ちに雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的にないとして使用者性を否定するのは適切ではない。とりわけ本件のように派遣可能期間を超えている場合には、雇用契約の申込み義務がないとしても、労働者派遣法の趣旨は直接雇用を含めた雇用の安定を要請していると解することができ、実際に本件では兵庫労働局から同旨の指導が会社に対してなされていたことを考慮すると、なお雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的にあると判断される余地もある

3 そこで、このような観点から、Y社と組合員との間に、近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存するかどうかについて検討すると、組合からY社に対し団体交渉申入れがあった平成21年11月ころ、C工場では操業度が落ち込み、請負業務については新規に発注する案件がなく、労働者派遣契約についても順次解除していく状況にあったことが認められる。・・・したがって、Y社と組合員との間に、近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存するということはできない

4 以上のことから、Y社は、組合員に対する労働組合法上の使用者に当たらず、組合員の雇用に関する組合からの団体交渉の申入れに応じる義務を負うとはいえない。

上記ポイント1の事情からすると、Y社内では少なからず、偽装請負の状態が存在したことが窺われますが、労働委員会としては、これらの事情だけでは、Y社を組合員の労組法上の使用者とは認めませんでした。

正直、理解に苦しみますが・・・。 

実質的には、Y社が指揮命令をしていたように読めますが。 どうなんでしょうか。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為21(JR西日本(和歌山・転勤)事件)

おはようございます。

さて、今日は、配置転換と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

JR西日本(和歌山・転勤)事件(和歌山県労委平成23年4月6日・労判1027号95頁)

【事案の概要】

Y社は和歌山支社の和歌山列車区は運転業務および車掌業務を担当する現業機関であり、橋本運転区は運転業務を担当する現業機関である。

平成21年5月、Y社は、和歌山列車区の運転士であるXに対し、橋本運転区へ配置転換する旨の通知を、6月、本件転勤を発令した。

Xは、JR西日本労働組合関西地域本部およびその下部組織である和歌山地方本部ならびに和歌山分会の組合役職を歴任した。

Xは、本件配置転換は、不当労働行為であると主張し争った。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にはあたらない。

【判例のポイント】

1 Xの通勤時間は片道約1時間50分となったから、この通勤時間を短いとは言えないし、Xの組合活動従事可能時間の減少もあるから、本件転勤がXにとって不利益であるとは言えるものの、それらはいずれも和歌山列車区から橋本運転区への転勤という通常の転勤に伴って発生しているものであるから、本件転勤に通常の転勤を超えた不利益を認めることはできない

2 Y社は組合に嫌悪の情を抱いており、したがって、組合が行った追悼ミサについて不快な念を持って見た可能性は否定できない上、追悼ミサとY社が本件転勤の人選を開始した時期とは符合するから、全く影響がなかったとは断定できない。しかも、本件転勤はこれまでの組合とY社の厳しい労使対立を背景に、最近まで組合の中心的な人物であったXも、転勤対象者たり得る本件転勤の対象者として充てたものと推認することもできる
しかしながら、業務上の必要性が明確であり、転勤先が通常の転勤範囲内である本件転勤において、Xの組合活動への嫌悪の情が、Y社の行った本件転勤命令の決定的動機であったとまでは認定することはできない

3 本件転勤が法第7条第1号の不当労働行為であると言いうるためには、本件転勤がXの組合活動に対する嫌悪を決定的な動機としたものであること、本件転勤が不利益な取扱いであることの双方を充足する必要があるが、前者については、組合活動への嫌悪が本件転勤の人選に影響しなかったわけではないにしても、それが決定的な動機であるとは言えず、後者については、本件転勤がXにもたらした不利益は通常の転勤の範囲内であり、他の転勤とは格差もない以上、不利益取扱いがあったとは評価できないから、本件転勤が法第7条第1号の不当労働行為に該当するとは判断できない。

なかなか微妙な判断ですね。

会社の組合嫌悪の情の存在を推認できるとしても、それが本件転勤命令の「決定的動機」とまではいえないという判断です。

「決定的動機」というのは、規範的概念ですので、その存在は一概には判断できません。

結局のところ、総合考慮ということになります。

今回は、「それほど大きな不利益ではない」という発想が根底にあるのだと思います。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。