Category Archives: 不当労働行為

不当労働行為40(ヤンマー事件)

おはようございます。

さて、今日は、期間従業員の雇止めと不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

ヤンマー事件(滋賀県労委平成24年2月15日・労判1044号94頁)

【事案の概要】

Y社は、平成20年8月、びわ工場で就労する派遣労働者を期間従業員として直接雇用する旨を公表した。

派遣会社に雇用され、派遣労働者としてびわ工場組立グループおよび機械グループに従事していたX2とX3は、それぞれ契約期間を20年9月から21年2月までとする期間従業員としてY社に雇用された。

Y社は21年1月、組立グループおよび機会グループの期間従業員を対象に雇用契約に関する説明会を開催し、リーマンショックによる受注の急激な減少により組立グループは期間従業員全員の雇用契約を更新できない旨を、また、機械グループは期間従業員の一部の者と契約を更新できなくなった旨を説明した。

当時期間従業員の中で組合員であったのは14名であったが、そのうち組立グループのX2を含む11名全員および機械グループのX3は雇止めとなった。

組合は、X2およびX3の雇止めが不当労働行為であるとして本件救済を申し立てた。

【裁判所の判断】

雇止めは、不当労働行為にはあたらない

【判例のポイント】

1 ・・・以上を総合考慮すると、Y社がTNエンジンの受注回復の見通しの立たない平成20年12月の段階で、平成21年2月に雇用期間満了を迎える期間従業員の雇止めの方針を決定し、これを実行したことはやむを得ない措置であったといわざるをえない
組合は、TNエンジンの生産は同年5月度には増加に転じていることからするとY社はこれは予測可能であり、少なくとも半年くらいのスパンでリーマンショックの影響について分析して人員整理の必要性等を検討すべきであったのに平成20年12月という早い段階で期間従業員の雇い止めの方針を決定したのは不当である旨主張する。しかし、前記のとおり、Y社が受注回復についての見込みがたてられたとは認められず、毎月大きく受注量が減少していくなかで長期のスパンでの人員計画をするというのも困難であったと認められるから組合の主張は理由がない。

2 ・・・人事評価の成績の下位のものから順次7名を雇い止めの対象者として選定したが、その対象者のなかに組合員X3が含まれていたものである。
余剰人員の決定方法について不合理とされるべき事情は認められず、その人選について人事評価をもって決定したことについても合理性が認められる。

3 以上を総合すると、組合員X2および組合員X3の雇い止めは、専らリーマンショックに端を発する世界同時不況によるY社の業績悪化に対する措置としてやむなく取られたものと認められるのであり、組合の活発な組合活動があり、ビラ配布などをめぐってY社とトラブルがあって両者が緊張関係にあったことを考慮に入れたとしても、これをもって組合員であることを理由とする不利益取扱ないしは組合潰しをねらった支配介入であると認めることはできない。

整理解雇の一環として雇止めの合理性が認められています。

あくまで不当労働行為該当性を判断するにあたって、そのように判断されているものであり、訴訟で整理解雇の有効性が争われた場合に、当然に同じ結論になるとも限りません。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為39(大阪兵庫生コン経営者会事件)

おはようございます。

さて、今日は、複数組合間の不平等取扱いと不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

大阪兵庫生コン経営者会事件(中労委平成24年1月18日・労判1042号92頁)

【事案の概要】

Xは、大阪府および兵庫県内の生コンクリート製造会社約70社を会員とする団体である。

Xは、会員各社の平成21年賃金改定等に関して、Y組合およびZ組合と共同交渉を行うとともに、その他3つの組合との間でそれぞれ共同交渉を行った。

Xは、交渉過程で賃上げの有額回答を行うためには、大阪広域生コンクリート協同組合(広域協)が承認可決
した(1)限定販売方式の廃止および(2)ブロック対応金の廃止の施策への労働組合の協力理解が不可欠と考え、これら施策に協力する姿勢を示した組合には、4月14日に有額回答を行う一方、2労組が施策に協力する姿勢を示さなかったとして同月17日まで有額回答をしなかった。

【労働委員会の判断】

組合間で賃上げの回答時期に差を設けたことは不当労働行為に該当する

【判例のポイント】

1 Xは、別労組らに有額回答した同月14日に2労組とも4時間半にわたり交渉しながら、有額回答の条件を明らかにすることはなく、これらについての2労組の考え方を確認することもなく、「先が見えたら同じ回答をする」などと曖昧な回答に終始していた。そして、2労組が、ゼネコンや自治体を回り、広域協を守るために活動していると述べたのに対しても、Xは、具体的な理由も述べず有額回答できない旨繰り返すなど、その交渉態度は、2労組の理解を得るに足る説明や説得を行ったとはいえず、誠実な対応を通じて2労組との間の合意達成を模索する姿勢に欠けるものといわざるを得ない上、およそ2労組に対し別労組らと同時期に有額回答することを目指していたともいえない
このようなXの共同交渉における対応は、有額回答の時期につき別労組らと2労組とを合理的理由もなく差別扱いしたものであり、使用者の中立保持義務に反し、誠実交渉義務を尽くしたものとはいえない

2 ・・・以上に判断したとおり、21年度賃上げに関する2労組との共同交渉において、Xが、別労組らに行った有額回答を行わず、回答時期に差を設けたことは、労組法7条2号及び3号の不当労働行為に当たるとした初審判断は相当である。

複数組合間の中立保持義務に関する判断です。

合理的な理由なく組合により扱いに差をつけると、このような判断につながります。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為38(宮古毎日新聞社事件)

おはようございます。

さて、今日は、正社員不登用と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

宮古毎日新聞社事件(沖縄県労委平成23年11月28日・労判1040号95頁)

【事案の概要】

平成18年5月に結成された組合はを、Y社の契約社員4名および正社員5名で組織している。

Y社は、16年8月から契約社員との間で書面による雇用契約を締結するようになり、その契約期間は数ヶ月~3年で、更新されることもあり、組合結成時から22年6月までの間に、13名の契約社員またはパートタイム従業員を正社員に登用している。

なお、Y社は、22年5月、社内掲示板に正社員募集告知を掲示し、宮古毎日新聞に募集告知を掲載し、6月、契約社員であった非組合員1名を正社員に採用した。

組合は、組合結成前から契約社員として就労していた組合員Xら3名を正社員として登用しなかったことおよび正社員化要求に関する団交に誠実に対応しなかったことが不当労働行為であるとして救済を申し立てた。

【労働委員会の判断】

正社員不登用は不当労働行為にあたらない

不誠実団交は不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 組合が団体交渉でXらの正社員化を求め続けているにもかかわらず、Y社が事前に情報を提供しないまま正社員を募集したことは、配慮を欠く対応であったとも考えられるが、組合とY社の間に正社員募集について契約社員に周知する方法などを定めたルールもなく、募集期間が短期間であったことも、応募者全員に共通する事情であることを併せ考えると、Y社が特に組合員の応募を妨げたものと認めることはできない。
以上のとおり、Y社がXらを正社員にしなかったことは、労組法7条1号に定める不当労働行為と認めることはできない

2 Y社は、組合が正社員へ登用された人数を質問したことに対し、専門家に確認するなどと述べて具体的な回答をせず、契約社員から正社員にした理由を質問したことに対しても、具体的な回答を回避する対応に終始した。
契約社員の正社員化については、義務的団体交渉事項であり、一般的・抽象的な理由で回答を回避することは、団体交渉において、使用者に求められる誠意ある対応ということはできず、不誠実な交渉態度である

3 組合は、勤務シフト表とY社が答えた従業員数が異なっていたため、その差異を質問したことに対し、Y社は従業員の個人情報であるなどとして、具体的に説明しなかった。
従業員数は、賃金台帳等で確認すれば、容易に対応できるものであるにもかかわらず、それを怠り、いたずらに団体交渉を引き延ばし、個人情報であるなどとして、組合への説明を拒否しているY社の対応は、不誠実な交渉態度である

正社員不登用の点については、不当労働行為に該当しないと判断され、不誠実団交については不当労働行為に該当すると判断されています。

後者については、「一般的・抽象的な理由で回答を回避」すると、このように判断されてしまいます。

会社としては、正直、あまり答えたくないようなことや適切な回答ができない場合もあると思いますが、そこは、顧問弁護士等と対応を考えて、誠実に交渉に応じることをおすすめします。

不当労働行為37(吉富建設事件)

おはようございます。

さて、今日は、団交拒否に関する裁判例を見てみましょう。

吉富建設事件(中労委平成23年12月7日・労判1040号94頁)

【事案の概要】

平成21年3月に開店した串焼き屋は、不動産業等を営むY者の社長が自ら賃借したビルの一室で飲食店を営むため、Xとの交渉をY社のマネージャーAに委ねて、その準備に当たらせたものである。

また、Xは、串焼き屋の店内スタッフについて、Aマネージャーの指示により募集を進め、B及びCを採用した。

平成21年5月に串焼き屋が閉店するまで、Xは、Aマネージャーから売上高等の報告を求められ、Aマネージャーは、収支管理を行い、Xらの給料をXの口座に振り込んだりした。

Xら3名は、平成21年5月、組合に加入し、組合は、同月、Y社に対し、Xらの未払賃金の支払等を議題とする団交を申し入れた。

Y社は、串焼き屋の経営者はZであり、Y社と関係ないこと、組合員と雇用契約がないことなどを理由に団交に応じられないと通知した。

【労働委員会の判断】

Y社が団交に応じなかったことは不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 串焼き屋開店準備段階から閉店に至る段階において、AマネージャーがX組合員に対して売上高等の報告を求めたり、自ら串焼き屋の収支管理を行っていることから、串焼き屋の業務運営はY社の指揮監督下にあったとみるのが相当である。また、Aマネージャーは、X組合員ら3名分の給料をX組合員の口座に振り込んだり、社会保険加入に言及しており、また、X組合員ら3名のタイムカードが存在することからすると、X組合員ら3名は串焼き屋お従業員として就労していたものであり、その賃金等の労働条件はY社が決定していたということができる。
以上からすると、X組合員ら3名は、Y社の指揮監督の下で労働力を提供し、これに対する報酬として賃金を受領していたとみるべきである。そうすると、本件においては、X組合員とY社との間には、契約書等は存在しないが、実質的に雇用関係が成立していたと解するのが相当である

2 Y社は、X組合員ら3名との関係において、労組法7条の使用者に該当するものであるから、Y社は本件団体交渉申入れに応ずるべき立場にある。よって、本件におけるY社の対応には正当な理由はなく、これは労組法7条2号の不当労働行為に該当する。

労組法上の使用者性が問題となっています。

Y社が労組法上の使用者にあたることは、事案の内容からすると、争う余地がないように思いますが。

私は、団交には、できる限り応じた方がいいと考えています。

あまり、使用者性がどうとか、義務的団交事項がどうとかを厳格に解釈せずに、微妙だったら、とりあえず応じるというスタンスがいいと考えています。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為36(神奈川都市交通事件)

おはようございます。

さて、今日は、定年後準社員の雇止めと不当労働行為性に関する裁判例を見てみましょう。

神奈川都市交通事件(東京地裁平成23年4月18日・労判1040号69頁)

【事案の概要】

Y社は、一般常用旅客自動車運送事業等を営む会社で、神奈川県を中心に11か所の営業所を有し、従業員数は1541名であり、川崎営業所の従業員は約230名であった。

Xは、昭和61年2月、Y社に入社し、以後、タクシー乗務員として川崎営業所に勤務していた。

XらとY社との間では、事務所使用料および組合役員手当金等請求、休業補償等請求、未払賃金の支払請求、解雇された組合員の地位確認、団交におけるY社の対応についての不当労働行為救済申立等の紛争が生じ、それぞれ訴訟等に至っている。

Xは、平成14年4月、満60歳の定年に達し、その後3回契約更新されたが、16年4月、期間満了により雇止めとなった。

【裁判所の判断】

本件雇止めは、不当労働行為にあたらない

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則の規定上、満60歳の定年以降、満62歳までの雇用延長と、満62歳以降の準社員としての採用を明確に区別して規定し、満62歳以降の者を準社員として採用するに当たり、「特に会社が必要とする者及び本人の希望により会社が認めた者」について採用することがあるという以上、満62歳以降の準社員としての採否に際し、Y社に裁量権があることは明らかである

2 Y社が、満62歳に達した乗務員を準社員として採用するか否かについては、裁量権があるものの、仮にY社の裁量権行使に際して考慮した事情が、全く事実の基礎を欠くとか、考慮してはならない事情を考慮した等、与えられた裁量権の範囲を逸脱、濫用したと認められる場合には、そのような行為を行ったY社の雇止めには、不当労働行為意思を認める余地がある

3 Xを準社員として採用するか否かを決するに当たり、就業時間中の休憩取得指示違反、就業時間中の組合活動、制帽着用義務違反及びタコメーターの開閉等の事情を考慮することは、いずれも相当というべきであり、本件雇止めに至るY社の判断には、裁量権の逸脱、濫用があったとは認められない。

継続雇用に関し、会社側に裁量を認め、裁量権を逸脱していないかを判断しています。

行政事件のような発想ですね。

採用の可否について、会社側が判断要素としたものはすべて不当労働行為に該当しないとし、裁量権の逸脱・濫用はないと結論づけています。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為35(郵便事業(河内長野支店)事件)

おはようございます
写真 12-03-26 20 17 30←昨夜は、パワーをつけるために、焼き肉を食べに「文田商店」に行ってきました。

ノンアルコールです。1時間1本勝負。

とても混んでいました。繁盛しているお店に行くと、その秘訣を探りたくなります。

安くておいしかったです。

今日は、午前中、破産の新規相談が入っています。

お昼に、新しく顧問契約を締結していただくR社に行ってきます

午後は、打合せが3件入っています。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は団交応諾義務に関する命令を見てみましょう。

郵便事業(河内長野支店)事件(大阪府労委平成23年11月18日・労判1038号93頁)

【事案の概要】

Y社の河内長野支店の従業員10名が組織する組合は、社員に対する営業目標の設定に関して平成21年6月、同年11月、同年12月にそれぞれY社と交渉を行った。

平成22年2月、組合は、改めて社員に対する営業目標の設定に関して団交を申し入れた。

河内長野支店業務企画室長Eは、「支部交渉」の対象事項は、会社と組合の上部団体である郵政ユニオン間で19年9月に締結された「労使関係に関する協約」およびその付属覚書に定められた項目に限定されている旨を述べて、団交に応じられないと回答した。

同年3月、組合が再度団交を申し入れたところ、E室長は、会社が管理者用に作成した内部資料の「コミュニケションルール」を読み上げて、これまでの交渉は団交ではなく、支部労使委員会であった旨や支部交渉、支部労使委員会の対象事項についての説明を行い、今回の要求は団交事項でないと説明した。

【労働委員会の判断】

Y社の団交拒否は不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 ・・・確かに、組合も上部団体に相談を行わず、会社の主張の根拠を十分理解しようとせず、また、上部団体の協約を十分理解しようとせず、また、上部団体の協約を無視するような態度を見せるなど、問題とすべき点もあるが、このような膨大で複雑な内容の労働協約等を郵政ユニオンの下部組織である組合に当然理解しておくものとするのは無理があり、むしろ、会社はそれまで支部交渉と労使委員会の区分に言及することなく交渉に応じておきながら、突然方針を変更して団交には応じられないと主張しているのだから、組合に対して労働協約等を示して、なぜ支部交渉の対象事項には当たらないと考えられるのかについて、十分な説明をし、理解を求める必要があったということができる。したがって、そのような説明を行わずに、ただ団交は行えないとのみ主張する会社の対応は、正当な理由なく団交を拒否しているものといわざるを得ない

会社側の説明不十分であると判断されています。

組合側にも問題があったことは認めつつも、だからといって、会社が団交を拒否する正当な理由とはならないという判断です。

団体交渉のやり方については、正解というものがありませんが、個人的には、会社としては義務的団交事項をあまり狭く解さずに、ある程度の幅をもって団体交渉に応じるほうがよいのではないかと考えています。

グレーな場合には、交渉に応じる、というスタンスがよいのではないかと思っています。

不当労働行為34(日本鋳鍛鋼事件)

おはようございます。

さて、今日は、労組法上の使用者概念に関する命令を見てみましょう。

日本鋳鍛鋼事件(福岡県労委平成23年11月15日・労判1038号95頁)

【事案の概要】

A社からY社に派遣され、平成21年1月から3か月ごとに契約を更新して、会社総務部で就労してきたXは、Y社に直接雇用される正社員化を打診されたこともあったが、平成22年3月末、Y社における就労を終了した。

Y社で就労していた際の時間外労働などに疑問を抱いたXは、組合に加入した。

組合は、Y社に対して、平成22年6月、10月、12月にそれぞれXの正社員化に関する問題およびXの時間外労働に伴う賃金問題等労働時間に関する問題を議題とする団交を申し入れた。

Y社は、「Xとは雇用関係にないので団交に応じない」旨電話で通知し、団交に応じなかった。

【労働委員会の命令】

未払賃金等労働関係の清算については、Y社は労組法上の使用者にあたる

Xの正社員化に関する事項については、Y社は労組法上の使用者にはあたらない

未払賃金等労働時間管理に関する事項について、Y社が団交に応じないことは不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 使用者とは、一般的には労働契約上の雇用主をいうものであるが、労組法7条に定める不当労働行為制度の趣旨に鑑みれば、同条にいう「使用者」については、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて事故の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は同条の「使用者」にあたると解すべきである(朝日放送事件最高裁判決)。

2 たとえ派遣就労が終了した後であっても、未払賃金の存否等労働関係の清算を巡る何らかの問題がなお残存しており、派遣先事業主が当該問題を解決しうる立場にあると解されるときには、なお当該派遣先事業主は労組法上の使用者に当たることがあると考えられる。
しかしながら、本件のような派遣先事業主における派遣社員の正社員化(派遣社員の直接雇用を意味する)の問題とは、本来、派遣社員の雇用主である派遣元が決定する性質のものではないのは自明であるから、これについて「雇用主と・・・同視できる」かという判断基準を用いるのは適切でない

3 正社員化について派遣労働者と派遣先会社との間で明確な合意があるなどの事情がある場合も、近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存するということができる。本件においては、・・・XとY社との間に、正社員として雇用するとの明確な合意があったとはいえない。

4 申立人は、XとY社との間に黙示の労働契約が締結されていたと主張する。しかし、Xは、本来の労働者派遣の枠組内でY社に就労していたにすぎず、例えば、派遣元事業主の存在が形骸化していたり、派遣元事業主と労働者との間の労働契約が無効となるような重大な派遣法違反が存在していたり、Xの賃金等を実質的にY社が支払っていたなどの特段の事情は認められないことからすれば、XとY社との間に黙示の労働契約が成立していたとはいいがたい

このケースは、重要な判断がてんこもりですね。

しかも、2つの団交事項で、結論が分かれており、比較しやすいです。

司法試験の問題にちょうどいいですね。

派遣先会社であっても、労組法上の使用者にあたることがあるので、気をつけましょう。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為33(茨木産業開発事件)

おはようございます。

さて、今日は、不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

茨木産業開発事件(大阪府労委平成23年11月29日・労判1038号92頁)

【事案の概要】

Y社は、従業員約80名をもって、自動車教習所を経営しており、指定自動車教習所に置かれる管理者を直接補佐する副管理者4名程度任命している。

平成21年5月、営業担当副管理者を解任すると告げられたAは、組合に個人加盟した。

Y社は、組合とAの処遇について団交を行ったうえ、Aに対して営業担当副管理者を解任し、保安担当副管理者に任命した。その後、Y社は、Aに対し、保安担当副管理者を解任し、保安担当次長を命ずる辞令を手交した。

平成22年2月、Y社は、有期雇用契約により教習指導員として勤務していたBに対して、従前の契約書にはなかった「契約の更新にかかる記載」や「賞与にかかる記載」が、新たに「契約の更新はなし」、「賞与はなし」と明記された契約書の締結を求めた。B組合員は、この労働契約書に署名押印して、同年3月から1年間の労働契約を締結した。

【労働委員会の判断】

保安担当副管理者の解任は不当労働行為にあたる

有期雇用契約組合員の契約内容の不利益変更は不当労働行為にあたらない

【命令のポイント】

1 Y社は、本件解任について、A副委員長の能力や仕事ぶりに問題がある旨主張しているところ、Y社の副管理者解任の他の事例は、いずれも役職定年によるのであるから、能力等を理由とする副管理者からの解任は、Y社において異例のものということができる
次に、Y社が、組合及びA副委員長に対し、本件解任を提案した当時の理由の説明状況についてみると、Y社がA副委員長を副管理者から解任する旨初めて発言した平成21年8月28日の団交では、A副委員長は期待に応えていない、報告・提案だけで行動がない等と述べたにとどまることが認められ、Y社が、21年6月異動以降のA副委員長の勤務ぶりを詳細に検討した上で、本件解任を決定したかについて、疑問を持たざるを得ない
・・・以上のことを総合的に勘案すると、本件解任は、A副委員長が組合員であるが故の不利益取扱いであるとともに、組合の活動に支配介入したものでもあるというべきで、かかる行為は労働組合法7条1号及び3号に違反する不当労働行為である。

2 他の満60歳以上の従業員についてみると、いずれの従業員についても平成21年度の契約書には、契約の更新の有無及び賞与についての記載はなく、同22年度の契約書には、これらの項目について記載があることが認められ、満60歳以上であるB組合員の契約書上の更新の有無及び賞与についての記載の変更は、Y社が有期雇用の従業員の労働契約書に記載する項目を追加したことに伴うものと解される。
また、賞与の有無に関しては、他の満60歳以上の従業員全員についても、賞与なしと記載されていることが認められる。
したがって、Y社は平成22年度におけるB組合員の労働契約を変更したことは、組合員であるが故の不利益取扱いということはできず、組合の活動に支配介入したということもできない。なお、この判断は、平成22年2月頃、本件解任や本件争議行為等を巡って、組合と会社との間で良好とはいえない関係にあったことを勘案しても、変わるものではない
以上のとおりであるから、この点に関する組合の申立ては棄却する。

Aに対する降格処分は、合理的な理由がないと判断されたため、不当労働行為とされました。

他方、Bに対する契約内容の不利益変更は、他の従業員との関係も考慮され、不合理とはいえないと判断されたため、不当労働行為性は否定されました。

結局は、会社の行為に合理的な理由が認められるか、組合嫌悪の意思の表れといえるかに尽きるわけです。

会社としては、合理的な理由をいかにそろえられるかにかかっています。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為32(秋田臨港事件)

おはようございます。 今日から3月ですね。

さて、今日は、組合委員長の配転と団交での発言に関する命令を見てみましょう。

秋田臨港事件(秋田県労委平成23年11月29日・労判1038号91頁)

【事案の概要】

Y社は、自動車等の廃棄物処分業を営む会社である。

Y社は、全従業員を集めて、リーマンショックの影響から業績が悪化し、平成21年2月頃には人員削減が避けられないと述べ、賃金を引き下げ、人員削減を行った。

組合は、Y社の人員削減に反対し、一時金や労働時間などをめぐってY社と対立した。

平成22年4月、Y社は、組合委員長であって約1年間シュレッダープラントの保守・監視等の業務に従事してきたXに対し、タイヤ工場への配転を命じた。なお、Y社は、Xの配転理由は技術に乏しく、基本を無視した独善的かつ極めて危険な作業を漫然と行い、シュレッダープラントの担当者としては不適であるとしている。

同年5月18日に開催された団交において、Y社側出席者である代理人は、業務時間中に組合活動を行った組合員に対する懲戒処分を検討している旨発言した。また、同年8月6日に開催された団交において、会社代理人は、組合側出席者の発言に激昂して「コノヤロウ!!」などと述べた。

【労働委員会の判断】

配転命令は不当労働行為にあたる

団交における会社側出席者の発言は不当労働行為にはあたらない

【命令のポイント】

1 タイヤ工場は、再開して間もなく社内での位置づけも不確定で、また、同じ工場内で関連性はあると言うものの、シュレッダープラントで要求される技術水準は低く、シュレッダープラントで要求される高い溶接技術を活用するような部署でもない。Xは、自らの技術にこだわりと自負をもち、また、シュレッダープラントにとって欠くべからざる人間と認められていた。このような者にとっては、他の配転の例で会社が行ったような配慮も説明もなくタイヤ工場に配転された場合、労働条件低下等の経済的不利益はなくても、これを精神的不利益と受け止めるのも無理からぬものがある

2 Y社は、業務時間中や業務をしているものを対象に、許可無く組合活動を行うことは正当なものではないという見解を示し、そのような場合には懲戒処分の対象になることを予告すると共に、過去の事例に対する抗議の意思を示した「5月18日発言」は、この会社の考えを示す一連の流れの中で行われたものを、要約したものと言える。Y社は、組合活動と業務時間について、Y社の見解と対応を示したにすぎないと言え、仮に組合が別の見解を持っていたとしても、それは別途交渉を行うなどの余地はあるのであって、この発言が、組合が正当と考える組合活動を行っていてもなお、予期せず突然に懲戒処分になるおそれを抱かせるほど威嚇的なものとは認められない

3 「8月6日発言」は、確かに組合側出席者に対して悪態をついたもので不穏当とは言えるが、組合側にも、それが8月6日か8月3日のどちらであったかはともかく挑発するような発言があったのであるから、一方的にY社に帰責すべきかどうかには疑問がある。また、発言内容を検討しても、具体的に強制、威嚇、報復等を予告し、ないしはそのおそれを感じさせるものとは言えず、組合活動の自由を侵害し、その自主性を阻害するとは認められない。実際に、この発言のあった団交のわずか3日後には団交が開催され、上記発言がその開催の支障になった様子は窺えない。
以上の次第であるから、会社代理人が行った「5月18日発言」及び「8月6日発言」は、いずれも労組法7条3号には該当しない。

本件は、配転と団交での発言の2つが問題とされました。

団交での発言は、「会社代理人」が行ったようです。弁護士でしょうかね。

組合側の挑発に乗ってしまったのでしょうか。 挑発に乗っているようでは駄目です。

思うつぼというやつです。

交渉ごとですから、感情的な対応をする方が負けます。

すぐに感情的になる人は、交渉事には向いていないので、気をつけましょう。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為31(石原産業事件)

おはようございます。

さて、今日は、不当労働行為に関する事案を見てみましょう。

石原産業事件(中労委平成23年10月19日・労判94頁)

【事案の概要】

Y社の従業員(約80名)は、店舗および事業所のゴミを収集・運搬する業務に従事する者を正社員、吹田市および豊中市の委託を受けて一般家庭のゴミを収集・運搬する業務に従事する者を準社員と区分している。

平成19年4月、Y社従業員は、X組合を結成した。

X組合とY社は、同年5月から9月までに7回の団交を行った。

X組合は、10月、団交にY社が応じなかったことから、ストを開始した。

同年10月、Y社は、組合のスト期間中に就労した非組合員に一律5万円の特別報酬を支給した。

その後開催された団交において、Y社は、非組合員に通常の業務を超える負担をいただいたことに感謝の意を示すものとして特別報酬を支給した旨述べた。

同年12月上旬頃から、Y社は、組合員を事務所コースに配置し、本来業務のゴミ収集から外して単純作業の洗車や車両点検のみの作業指示を行うようになった。

【労働委員会の命令】

特別報酬の支給は不当労働行為にはあたらない。

ストに参加した組合員に洗車や車両点検等のみの作業指示を行ったことは不当労働行為にあたる。

【命令のポイント】

1 スト期間中に就労した従業員には、通常に比して大きな肉体的・精神的負担がかかっていたといえるのであるから、Y社がこのような従業員の負担増大に対する報酬として特別報酬を支給したことには合理的理由があるといえる。また、支給対象者はスト期間中に就労した従業員であり、支給額も相応と認められる範囲内である。さらに、Y社がスト終了以前に特別報酬の支給を予告したり、示唆したりした事実はうかがわれないことからすると、特別報酬の支給は、Y社がこれを支給することにより今後の組合のストライキを抑止する意図をもって行ったものとはいえない
よって、ストに参加した組合員に特別報酬が支給されなかったのは、スト期間中、通常業務を超える作業に従事しなかったことを理由とするものであって、これが組合員の組合活動等を嫌悪してなされた不利益取扱いや組合の弱体化を企図した支配介入であるとまではいえない。

2 洗車や車両点検の作業は、通常、ゴミ収集車に乗った従業員がその車について行っていることからすると、洗車と車両点検のみに従事させることに業務上の必要性があるとはいい難い。したがって、Y社が、組合員らに洗車や車両点検の業務のみを行わせたことに合理的な理由は認められない
・・・以上からすると、上記業務指示等は、19年4月の組合結成以降、労使対立が続く中で、ストライキという組合の正当な行為を嫌悪し、敢えて必要のない業務指示等を差別的に行ったものと認められ、労組法第7条第1号の不当労働行為に当たる。

妥当な結論だと思います。

特別報酬については、外形上、組合嫌悪の意思の表れと判断するのは難しいと思います。

他方、洗車や車両点検の作業を命じるというのはあからさまなやり方ですので、不当労働行為と判断されてもやむを得ません。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。