Category Archives: 不当労働行為

不当労働行為50(学校法人森教育学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、給与規定改正等と低査定、校務分掌はずしの不当労働行為性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人森教育学園事件(広島高裁岡山支部平成23年3月10日・労判1028号33頁)

【事案の概要】

Y社は、A私立高校を設置する学校法人である。

XらはY社に勤務する教員である。

Xらは、教職員によって組織される組合の組合員である。

本件では、Y社がXらを校務分掌からはずしたこと、賞与の査定においてXらを低く取り扱ったことは不当労働行為として不法行為を構成するか否かが争点となった。

【裁判所の判断】

不当労働行為であったことが強く推認される

校務分掌はずし等に対する慰謝料として、100万円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 Y社は、労働者には就労請求権がないし、授業の持ち時間数の削減などのことで、労働の軽減になりこそすれ、負担が増加することはないから、学校側が校務分掌や授業の持ち時間を与えずとも不法行為は成立しないと主張するが、教員にとって、相当の授業持ち時間や校務分掌を与えられ、これに従事することは、自らの教育に対する技能を維持発展させ、生徒らとの交流を維持することにより、教員生活の充実発展を期することができ、それにより、今後の教員としての地位の維持発展をはかることができるのであり、これらを与えられないことによる不利益は多大なものがあると考えられるから、労働者に就労請求権がなく、労働の軽減をもたらす面があるとしても、組合活動を嫌悪し、その阻害を意図するなどして校務分掌や授業の持ち時間を与えない行為は、当該労働者に対する不利益取扱いに該当するものというべく、不当労働行為と評価されてもやむを得ない。

2 ・・・Xが他の教員と比較して多少低い評価を受ける根拠となる事情がなかったとはいえないものの、最低ランクに固定するほどの評価が相当とはいえないから、Y社の不当労働行為を正当化するものとはいえない。

一審に引き続き、控訴審でも、Y社による不法行為の成立が認められました。

労働者に就労請求権が認められていないことと、仕事を減らしたり、与えなかったりすることは、直接関係ありません。

不当労働行為に該当するか否かは、組合嫌悪の意思を客観的に判断されますので、就労請求権を持ち出したところで、一蹴されてしまいます。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為49(箕面自由学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、常勤講師を選任教諭に採用しなかったことと不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

箕面自由学園事件(大阪府労委平成24年4月10日・労判1049号95頁)

【事案の概要】

平成20年11月、幼稚園、初等科、中等科および高等科を設置運営するY学校は、中・高等科教諭常勤講師として勤務していたXに対して、20年度末をもって雇止めとする旨を通知した。

その後、Cが加入した組合がY学校と団交を行った。

平成23年1月、Y学校は、Xの資質がY学校が求める専任教諭の人物像に合うと認められないほか、専任教諭の採用枠の有無、財務状況等の諸事情からしても専任教諭として採用できない旨文書で回答した。

【裁判所の判断】

不当労働行為にはあたらない

【判例のポイント】

1 Y学校は、専任教諭の採用を判断するに当たって、専任教諭の資質として情熱や積極性を重視する一方、X組合員には、平成18年度以降、嘱託教諭としての1年間及び常勤講師としての2年間の勤務を通じて、それらが感じられないと評価しており、かかる評価は平成20年11月5日に同人が雇止めとする旨告げられた時点においてすでに受けていたのであって、同人の組合への加入の前後を通じて大きく変わってはおらず、一貫して、専任教諭として採用したいとの判断に至るものではなかったとみることができる。したがって、X組合員の組合加入の前後による同人に対するY学校の評価に差異があったとはいえず、この点について、Y学校の不当労働行為意思を認めることはできない。

2 次に、組合は、X組合員を専任教諭としない一方で、多数の非組合員を専任教諭としており、組合員差別である旨主張するので、X組合員と非組合員たる常勤講師との専任教諭への採用状況等の比較についてみる。
・・・(1)平成18年度以降に常勤講師として採用された、X組合員以外の教員40名のうち、同22年度末までに専任教諭としての採用が決定された者が12名いる一方、自己都合によらず雇用契約を終了した者が13名いること、(2)同23年度においてY学校は専任教諭を採用していないこと、がそれぞれ認められる。これらのことからすると、常勤講師の専任教諭への採用及び雇用契約終了の状況について、組合員と非組合員との間に、Y学校が組合員に対する差別を行ったと認められるほどの不自然な格差は認められない。よって、Y学校がX組合員を専任教諭として採用しない一方、同22年度までに常勤講師12名を専任教諭として採用したことが、組合員差別に当たるとみることはできず、組合のかかる主張は採用できない。

3 以上のことからすると、(1)Y学校のC組合員に対する評価は組合加入の前後で大きく変わってはおらず、(2)平成18年度以降に採用された常勤講師の専任教諭への採用状況等が組合員差別に当たるとみることはできず、(3)その他Y学校に不当労働行為意思を推認するに足る言動を認めることができないことから、Y学校がX組合員を平成23年度に専任教諭として採用しなかったことが、同人が組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たるとはいえない

組合加入を理由とした不利益取扱いではないとの評価をされたことから、不当労働行為性を否定されました。

客観的なデータがものを言うことがよくわかります。

準備が大切ということですね。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為48(ブリーズベイホテル事件)

おはようございます。

て、今日は、労組法上の使用者に関する命令を見てみましょう。

ブリーズベイホテル事件(中労委平成24年5月9日・労判1049号93頁)

【事案の概要】

Y社は、平成22年6月、Aホテルの土地建物を落札し、土地建物の所有権を取得し、A社の従業員(正社員50名、パート社員45名)のうち必要な人員を雇用して、遅くとも8月の盆前にはホテル事業を開始する意向であった。

A社の従業員は、全員の継続雇用が確保されない限り、Y社の雇用の呼びかけに応じないとし、平成22年7月、Aホテル労働組合およびA観光ホテル管理職組合に加盟した。

組合は、Y社に対し、A社従業員に提示している雇用契約期間及び賃金・身分等の労働条件を議題とする団交を申し入れた。

これに対し、Y社は、Y社と組合は直接やりとりする立場にないのでA社に連絡する旨、組合員とは雇用関係にないので団交に応じられないなどと伝えた。

【労働委員会の判断】

Y社は労組法上の使用者にあたらない
→団交拒否は不当労働行為にはあたらない

【命令のポイント】

1 組合の組合員は本件団交申入れの時点においてA社の従業員であったのであり、同時点において、同人らとY社との間に雇用関係は成立していなかったことが認められる。

2 雇用関係に入るための前提条件については、Y社と、組合所属のA社の従業員らとの間には、雇用契約の締結に向けた交渉が開始するや否や、必要人員のみを採用するという意向と、全員の継続雇用という意向との間に大きな齟齬が生じていたのであり、しかも、その齟齬は、同従業員らが上記意向により入社説明会及び面接への応募を拒絶し、Y社もこれに応じて一般公募による採用方針へ切り替えたことによりさらに拡大していったと認められる。そして、本件団交申入れ当時のみならず、同団交申入れから近い将来においても、上記従業員及びY社の双方において、それらの隔絶した意向を変えて、双方が歩み寄る様子があったと認めることはできない

3 以上の事実を総合して考えれば、Y社と、組合所属のA社の従業員らとの間には、本件団交申入れの時点及びその前後を通じて、近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存していたと認めることはできない

4 以上のほか、Y社が、本件団交申入れにつき、労組法第7条の使用者として団交に応ずべき地位にあると認めるに足りる証拠はない。

非常に参考になるケースですね。

初審労委は、Y社が団交に応じないことは不当労働行為であると判断しました。

雇用契約が成立していない場合であっても、それだけで不当労働行為に該当しないとはなりません。

「近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存していた」場合には、雇用契約が成立していない場合でも、不当労働行為に該当する場合があります。

今回のケースでは、そのような場合にはあたらないと判断されたわけですね。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為47(明静事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合役員の解雇と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

明静事件(中労委平成24年5月9日・労判1049号92頁)

【事案の概要】

Y社は、平成21年6月当時、従業員56名をもって川口支店等において物流センター等の製品(食品)の入出荷業務全般の管理・運営、フォークリフト荷役作業等のアウトソーシング受託を行っていたが、顧客から業務委託契約を解約され、24年1月現在、従業員はいない。

平成21年3月から4月にかけて川口支店で班長として勤務していたAは、未払賃金、年休取得等について、所轄の労基署等に赴き、その後、組合を結成し、Aが執行委員長に、Bが執行委員、Cが副執行委員長に就任した。

平成21年5月、組合は、Y社に対して組合結成を通知し、団交を申し入れた。

Y社は、A及びCを解雇した。

【労働委員会の判断】

A及びCの解雇は不当労働行為にあたる。

Bの解雇は不当労働行為にはあたらない。

【判例のポイント】

1 (1)Y社が「解雇通知書」において、Aの解雇理由ないしその細目として掲げる事項は、解雇理由とするに足りる具体性を欠いていたり、解雇理由として相当ではない上に疑問のあるものばかりであり(2)Aには一部問題行為も見受けられるが、Y社はこれに対して解雇以外の処分を検討することなく、過去、全く問題としていなかった協力会社会議への無断遅刻・欠席等を列挙して、突如として同人を解雇しており、(3)Y社はY社における同人の労働条件改善活動を遅くとも21年4月上旬に、組合結成行為を遅くとも5月21日までには察知して、同行為を問題視していたことが認められるのであるから、Aに対する解雇は同人が組合の結成活動を中心的に行ったことを敵視し、それ故に意図的に行ったものであると考えざるを得ない。
したがって、Aに対する解雇は、労組法第7条第1号の不利益取扱いに該当する。また、Aに対する解雇は、組合の中心人物である同人を会社から排除することにより、同人が中心となって活動する組合及び組合の活動等を指導するフード連合を弱体化させる行為として同条第3号の支配介入にも該当する。

2 Y社は、20年9月頃より業務改革を押し進めており、社内規律改善のための管理体制の強化等から解雇がなされたものである旨主張するが、B以外にも検便未提出者が存在する中で、同人から事情を聴取することなく、弁明の機会も与えず、他の処分を検討することなく同人をいきなり解雇しているのであるから、上記Y社の主張は首肯し難く、同人の解雇自体には合理的理由があるといえるか疑わしい
ところで、Bに対する解雇について不当労働行為が成立するためには、Y社が同人の解雇をするに当たって、Aらの組合結成活動を察知し、また、Bがそれに加わっていたといえることが必要である。
・・・Y社が、Bが組合結成活動について関与していたことを察知していたことを認めることはできないから、Y社のBに対する解雇が同人が組合結成に関わったことの故をもって行われたと認めるには足りず、Bに対する解雇を不当労働行為とすることはできない

解雇の有効性に関する判断は、よくあるパターンですね。

重要なのは、Bに対して、解雇の有効性には疑問があるとしつつ、結論として、不当労働行為性を否定している点です。

これは、「故をもって」の要件との関係で、Y社に不当労働行為意思があるとは認められないと判断したものです。

このように解雇の有効性と不当労働行為は要件が異なるため、解雇自体が無効であっても、不当労働行為とはならないこともあるわけです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為46(平成タクシー事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合員によるビラ配布を理由とする乗務停止処分等と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

平成タクシー事件(広島県労委平成24年4月3日・労判1048号173頁)

【事案の概要】

平成22年9月及び10月、組合の組合員は、Y社が車両を待機させる場所において、Y社の労働条件などを記載したビラを通行人に配布した。また、組合は、10月の半月、ストを実施した。

同年11月、Y社は、組合員13名に対し、ビラ配布により業務を妨害したとして3日~11日間の無線配車停止または乗務停止の懲戒処分に付した。

同年12月、Y社社長Aは、副分会長Bに対し、無線室に連絡せずに個人受け(客から直接依頼を受けてタクシーでの送迎をすること)をしたことおよびタクシーを私的に使用したことについて始末書の提出を求め、Bは始末書を提出した。同月、Y社は、Bに対し、始末書の内容を理由に5乗務の乗務停止処分に付した。

【労働委員会の判断】

ビラ配布を理由とする乗務停止処分または無線配車停止処分は不当労働行為にあたる

会社タクシーの私的使用などを理由とする乗務停止処分は不当労働行為にはあたらない

【命令のポイント】

1 ビラ配布行為は、会社における労働条件の問題及び会社が不当労働行為を行っていることへの社会的関心を喚起することを目的とした行為であり、目的の観点から、組合活動としての正当性が認められる

2 組合としては、前記の目的を最も効果的に果たし得るような場所をビラ配布の場所として選択することは当然のことであり、本件ビラ配布行為の場所の選択が、会社に一定程度の業務上の不利益を与えるものであったとしても、そのことをもって直ちに本件ビラ配布行為の正当性が損なわれるということはない

3 また、本件ビラ配布行為を行うに当たって、組合員が一時的にアクロス等の敷地内に立ち入ったことを否定することはできないが、組合が敷地内への侵入について注意を払っていたことや、注意されて場所を移動したことなどに照らせば、本件ビラ配布行為の組合活動としての正当性を失わせる程に違法な行為があったとまでは認められない

4 本件ビラ配布行為は正当な組合活動であると認められるところ、本件懲戒処分は、正当な組合活動に対して行われたものであり、また、本件ビラ配布行為のみならず、その後に行われたストライキに対する報復的意図も認められることから、反組合的な意図をもって行われた不利益な取扱いであると解するのが相当であり、労働組合法7条1号の不利益取扱いに該当する不当労働行為である。

5 個人受けについては、従前から禁止されており、実際に他にも個人受け禁止違反で懲戒処分を受けた乗務員がいたといった事情に照らせば、Bも、当然そのことを承知していたと推認され、これを覆す証拠はない。さらに、個人受け禁止に抵触した過去の同様の事例では、4乗務の無線廃車停止の懲戒処分があり、それとの均衡を考慮すれば、本件処分の程度が相当性を欠くものとまでは認められない
以上のとおりであるから、本件処分に関し、会社がBに対して合理的な理由なく処分を行ったものとは認められず、本件処分は不当労働行為意思に基づいて行われたものとはいえない。

ビラ配布行為は、組合活動の基本ですが、会社側からすれば、営業場所でやられると困惑してしまうと思います。

しかし、正当な組合活動は、憲法上保障された権利ですので、正当な組合活動を行ったことを理由にその組合員たる従業員を処分すると、不当労働行為となります。

経営者としては、いかなる範囲の組合活動が正当とされているかについて知っておく必要があると思います。

感情的に処分をすると、あとで大変です。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為45(東急バス事件)

おはようございます。

さて、今日は、増務割当差別に対する不当労働行為の成否と救済方法に関する裁判例を見てみましょう。

東急バス事件(東京地裁平成24年1月27日・労判1047号27頁)

【事案の概要】

X組合およびその組合員13名は、Y社が残業扱いとなる乗務(増務)の割当てに当たって、平成17年3月以降の期間につき、他の従業員との間で差別があり、労組法7条所定の不利益取扱いおよび支配介入に当たるとして、労働委員会に対し救済命令の申立てを行った。

これを受けて、都労委は、Y社に対し救済命令を発した。

Y社は、これを不服として、中央労働委員会に再審査を申し立てた。

中労委は、一部内容を変更した上で、救済命令を発した。

Y社は、本件中労委命令取消しを求めた提訴した。

【裁判所の判断】

増務割当差別は不当労働行為にあたる

【判例のポイント】

1 本件中労委命令は、組合員らに対する差別的取扱いの禁止を命じた本件初審命令を維持したが、初審命令後も同様の差別的取扱いが継続していること等にかんがみれば、改めて差別的取扱いの禁止を命じる高度の必要性が認められるから、かかる救済方法を定めること自体に裁量の逸脱・濫用があると認めることはできない。

2 Y社は、本件中労委命令における差別取扱いの禁止命令は、極めて抽象的かつ不明確な命令であり、救済命令としての特定を欠くものであって、このような救済命令を発することは違法であると主張する。
しかし、先になされた不当労働行為が単なる一回性のものでなく、将来再び繰り返されるおそれが多分にあると認められる場合においては、不当労働行為制度の目的に照らし、その予想される将来の不当労働行為が、過去の不当労働行為と同種若しくは類似のものである限り、労働委員会はあらかじめこれを禁止する不作為命令を発することを妨げないと解するのが相当である(最高裁昭和37年10月9日判決、最高裁昭和47年12月26日判決)。本件においては、Y社が同種の不当労働行為を継続しており、今後も同じ増務割当差別が繰り返されるおそれが多分にあると認められるから、かかる不作為命令を発することは何ら妨げられないというべきである。

3 その不作為命令の特定性の程度については、それが罰則で強制されるものである以上、ある程度具体的に示されるべきであるが、これをあまり厳格に要求することは、将来の不当労働行為の予防という観点に照らし合目的的とはいえないことから、この点については、労働委員会に相当の裁量があるものというべきである。本件においては、X組合員らを他の乗務員と増務割当てに関して差別して取り扱ってはならないことは、通常人においても理解可能な内容であるといえるし、Y社において、勤務交番表その他の増務割当時における取扱いの合理性を確保し、各組合の増務時間数の相当程度の均衡が保たれているかを適宜確認して必要な調整を行えば、同主文の履行は可能であることからすれば、本件差別禁止条項における不作為命令の特定の程度は相当であり、この点で、本件中労委命令が、労働委員会に与えられた裁量を逸脱・濫用していると認めることはできない。

4 不当労働行為審査手続は、処分権主義を採用する民事訴訟手続とは異なり、職権再審査制度もおかれていること(労働委員会規則52条)、さらに不当労働行為審査手続の審査の対象は、不当労働行為の存否であって、申立ての趣旨は、その救済方法の指定という意味を有することも考えると、再審査申立人の再審査申立ての趣旨に完全に拘束されるという意味での、厳格な処分権主義が採用されたと解することは相当でない

不当労働行為に関する一般論について参考になる点がたくさんあります。

内容としては、本件増事割当差別が不当労働行為にあたることは明らかです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為44(カネサ運輸事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合員である長距離トラック運転手に対する配車差別と不当労働行為・不法行為に関する裁判例を見てみましょう。

カネサ運輸事件(松山地裁平成23年10月31日・労判1047号91頁)

【事案の概要】

Y社は、一般区域貨物自動車運送事業などを目的とする会社である。

Xは、平成8年、Y社において運転手として勤務していたAとともに労働組合を結成し、その後、執行委員長となった。

本件組合結成後、Y社は、XおよびAに対して、長距離トラックの配車をほとんどしないようになったため、組合は、愛媛県の労働委員会に対してあっせんの申請をし、XおよびAに対する配車を、他の従業員と同様に原則として輪番制とする旨の協定をした。

しかし、Y社は、その後も、Xに対し、配車について他の従業員とは異なる取扱いを継続しており、Xは、現在長距離トラックの配車を受けていない。

Xは、Y社に対し、本件配車差別は不当労働行為に該当するとして、不法行為に基づき、Xが平等に配車されれば受けられたはずの賃金等の不足分として約550万円、慰謝料として100万円の支払を求めた。

【裁判所の判断】

配車差別は、不当労働行為にあたり、不法行為を構成する
→約550万円の財産的損害及び慰謝料として30万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 Y社がXに対し配車に関してAを除く他の従業員と異なる取扱いをするようになったのは、Xが本件組合を結成し、本件組合がY社に団体交渉を申し入れるようになった後のことであり、XがD会長にその意に反する発言をするたびにXに対する不利益な取扱いが顕著になっていったことは明らかである。したがって、Y社の取った上記取扱いは、Xが本件組合の組合員であることや、労働組合の正当な行為をしたことの故をもってされたものというべきであり、労働組合法7条1号に反するものとして違法性を有し、Xに対する不法行為を構成するものと認めるのが相当である。

2 Y社は、Xが高齢であり、体力的・能力的に長距離運転は困難であると判断されるから、Y社がXに配車をしないのには合理的な理由があると主張する。しかし、加齢に伴う体力、能力の低下には個人差があることは明らかであり、Xは、Y社による上記不利益な取扱いを受けるようになった平成18年5月ころは53歳であったと認められるところ、当時Xが長距離トラックの運転手として通常要求される体力、能力において不足していたことを窺わせる合理的な根拠、証拠は見当たらない。かえって、Xは、配車上の不利益な取扱いを受けるについて、Y社から体力的・能力的にみてどのような問題があるのか具体的な指摘を受けたことはないこと、Xはこれまでに大事故を起こしたり、行政処分を受けたことはないことが認められるから、Y社の上記主張は採用できない

3 そのほか、Y社は、Xに配車をしない理由として、Xが車両整備やトラックの駐車方法や荷物の返品処理などで仕事上問題を起こしており、今後荷主や取引先等に対する会社の信用を失墜しかねないこと、Xが他の従業員らとの協調性に欠けるためY社の業務に支障をきたしかねないことなどを挙げるが、いずれも十分な根拠、証拠を欠き、採用できない。むしろ、証人Dは、Xに配車しなかった一番の理由はXの人間性であり、人間性とは、職場において協調性がないということであると供述する一方、Xに協調性がないということは最近になって気付いたと供述しており、供述態度(原告代理人の質問に対し、押し黙って答えない。)にも照らすと、D会長がXに不利益な取扱いをするようになったのは、Xが本件組合を結成し組合活動を開始したことを嫌悪したことによるものであることは明白であるというべきである

4 Y社は、電話代手当と食事手当は、それぞれ使途目的を定められて支給されるものであり、労働の対価たる賃金ではないと主張するが、弁論の全趣旨によれば、Y社は、従業員に対し、これらについてその支給を明らかにするために領収書を提出させたり、精算を求めたりしたことはないことが認められるから、これらも所定の地域への乗務に就いた場合には決まった額を当然に支払うことが予定されている性質のものとみることができ、Xの損害を算定するに当たっての計算の基礎となる手当に含ませるのが相当である

Xに対する配車上の不利益取扱いに関する会社側の主張するは、いずれも合理性がないということで、採用されていません。

また、会社側の証人(会長)の証言も反対尋問で崩されています。

全体的に見て、不当労働行為性を否定することはなかなか難しいと思います。

電話代手当と食事手当に関する争点については、上記判例のポイント4が参考になります。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為43(シオン学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、一時金の協定平均額以下の支給と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

シオン学園事件(神奈川県労委平成24年3月29日・労判1046号91頁)

【事案の概要】

Y社は、自動車学校を経営する会社である。

X組合とY社は、平成21年7月、上期一時金について、1人平均15万円とする協定を締結した。

同日、Y社は、上期一時金として支部組合員16名に平均11万1883円(組合員16名中13名は協定平均額以下)を支給した。

Y社は、各人の一時金支給額の決定にあたり、稼働考課及び考課査定を実施した。

【労働委員会の判断】

一時金の協定平均額以下の支給は不当労働行為に該当する

【命令のポイント】

1 稼働考課は、それ自体としては客観的な基準や、組合員か否かを問わない基準を内容とするものであるとしても、法令の趣旨に反したり、組合活動を行う支部組合員らにとって殊更に不利益な結果となるものを含み、Y社はそのことを容認してきたものと認められるのであって、このような稼働考課を含む考課査定制度が稼働状況を端的に評価するものであるというY社の主張は採用できない。

2 考課査定において、Y社の定める評価項目やその評価基準は、基本的にはY社の裁量に任せられているものだとしても、本件においては、その評価基準が曖昧であることにより、支部組合員が恣意的に評価される可能性を多分に含んでいるものだと言うことができ、そのような制度的問題点についてY社はあえて改善策をとることなく放置し、支部組合員にとって不利益な結果を容認してきたものである。したがって、考課査定には恣意性が生じる余地がなく、不利益取扱には当たらないとの会社主張は採用できない。

3 Y社は従来組合活動を嫌悪していたところであるが、訴訟や労働委員会での紛争が続き、Y社は組合らをいっそう好ましくない存在と捉え、また、組合活動を行う支部組合員らの給料の水準が高かったことは、Y社の経営を逼迫させるものだと捉えていた。そして、Y社が経営上、人件費の軽減を迫られた際、稼働考課に関しては、Y社が会社に貢献していないと考える支部組合員の組合活動時間を稼働可能時間から減算するなどして結果的に支部組合員を低査定とし、考課査定に関しては、基準の曖昧な評価項目を残したまま公正な評価を確保するための努力を怠り、組合らに対する情報開示や説明も十分なものではなかった。そして、そのことが本件格差の原因となったものと認められ、Y社はそのような結果を容認したまま、積極的に是正しようとすることもなかったのである
よって、本件格差は不当労働行為に当たらないとのY社の主張はいずれも採用できず、本件格差が労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為であるとの前記推認を覆すものではない。

実質的にみれば、査定のしかたが、組合員を不利益に取り扱うようになっていると判断されてしまえば、どれだけ体裁を整えても、不当労働行為と判断されてしまいます。

また、評価基準をあえて不明確なものにしておき、いかようにも判断できるようにしてある場合であっても、結果的に組合員ばかりが不利益な評価を受けているのであれば、不当労働行為意思が推認されてしまいます。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為42(衛生事業所労組(街宣活動)事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合の街宣活動と不法行為に関する最高裁判決を見てみましょう。

(なお、本件判例は、不当労働行為に関する判例ではありませんが、便宜上、不当労働行為のカテゴリーとしました。)

衛生事業所労組(街宣活動)事件(最高裁平成24年1月31日・労判1045号97頁)

【事案の概要】

A社の衛生事業所の代表取締役であるXが、その労働組合の組合員であるY1ら7名に対し、Y1らがした街宣活動とビラの配布によって平穏な生活を営む権利が侵害され、名誉を毀損されたとして、不法行為に基づき、Y1ら各自に対し、損害賠償請求をした。

なお、Y2を除くY1ら6名は、A社の従業員である。

1審は、本件街宣活動のうち本件和解前のものは、Xの平穏な生活を営む権利を侵害するものであったと認定し、また、Xの社会的評価を低下させるものであったと認定した。
そして、本件各表現による名誉毀損は、正当な組合活動として違法性を阻却されるものではないと判断し、慰謝料50万円及び弁護士費用5万円を損害として認めた。

2審は、本件街宣活動及び名誉毀損については、1審と同じ判断を下したが、正当な組合活動として違法性が阻却されるかについては、一審判決を取り消し、正当な組合活動としてY1らに不法行為は成立しないとした。

【裁判所の判断】

上告棄却、上告受理申立不受理
→街宣活動は違法とはいえず、不法行為は成立しない。

【判例のポイント】(原審の判断)

1 本件街宣活動のうち本件和解前のものは、A社周辺、市役所周辺及びX宅近辺区域を中心として、自動車を停止させることなく進行しながらなされたものであって、その態様からすると、A社の営業区域であるB市内において、地域住民に広く労使紛争の実態を訴え、有利な紛争解決を図ることを目的としたものであったと認められ、X宅の平穏をことさら害するような目的の下に、X宅を狙い撃ちにしたものであるとは認められない
また、上記目的を達成するのに必要な音量を超過し、Xやその家族に受忍限度を著しく超えるような騒音被害を与えたとも認められず、X宅近辺区域における街宣活動の継続時間がそれ程長いものであったとは考えられず、その時間帯も夜間や早朝に及ぶことはなかったこと、更には、X自身は労使紛争について第三者であるとはいえず、純粋な第三者に比して受任すべきは範囲はより広いといえることを総合すれば、本件和解前の本件街宣活動は、社会通念上、正当な組合活動の範囲を超えた違法なものであったとは認められない
したがって、本件街宣活動のうち本件和解前のものは、それがXの平穏な生活を営む権利を侵害したからといって、正当な組合活動として違法性が阻却され、Y1らは不法行為責任を負わない。

2 労働組合の活動として配布されているビラに通常見られる表現方法であるといえるし、その配布回数及び配布場所についても、正当な組合活動としての社会通念上許容される範囲を逸脱しているということはできない。したがって、本件各表現及び本件ビラ記載のいずれについても、少なくとも真実相当性の要件を充たすものということができるし、また、その表現方法等の点に照らしても、本件街宣活動及び本件ビラ配布による名誉毀損は、社会通念上正当な組合活動としての範囲を超えておらず、Y1らに不法行為は成立しないというべきである

組合活動として許容される範囲がよくわかります。

憲法上保障されている権利ですから、かなり広範に認められていることがわかります。

使用者側としても、組合活動として許容される範囲がかなり広いということを理解しておくほうがよろしいかと思います。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為41(京都市事件)

おはようございます。

さて、今日は、嘱託契約不更新、団交応諾義務と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

京都市事件(京都府労委平成24年2月28日・労判1044号93頁)

【事案の概要】

平成22年4月から平成23年3月まで非常勤嘱託員として京都市の行財政局総務部総務事務センターに任用されていたXは、22年9月、同センター長Aの提案した文書運搬業務の変更について、同僚の嘱託員と共に再検討を求め、同年11月、Aは提案を撤回した。

AはXに対し、勤務時間中にパソコンを使って業務と関係のないホームページの閲覧を行ったこと等について面談を行い、AはXに服務指導に応じるよう命じる旨の業務命令書を交付した。

組合は、市に嘱託員の雇用継続等を求めて団交を申し入れ、Aの服務指導がパワハラに当たるおそれがあるとし中止を求めるやりとりを行った。

23年2月、行財政局人事部長Bは、組合の役員に対し、Xが服務指導を受けない限り任用の更新はできない、服務指導に応じれば「一旦リセットして考える」などと述べ、Xは服務指導に応じた。

組合は、嘱託員の雇用継続およびXに対する服務指導のあり方に関する団交を申し入れたが、京都市は、団交申入れの際に組合役員が職場内で大声を発したことなどを理由として団交に応じなかった。

同年3月末、京都市は、Xに対し4月末まで任用するが、同日をもって任用を更新しないと通知した。

【労働委員会の判断】

嘱託契約不更新は不当労働行為にはあたらない

団交に応じないことは不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 ・・・このような事実からすれば、AがXに対する服務指導に係る対応の経過はいささか不自然であると考えざるを得ない。さらに、Aは、業務命令書まで発してXを面談に応じさせようとしており、これについてはIも異常と発言している。
このような不自然な経過及び態様からすれば、AがXに対してとった服務指導に係る対応には行き過ぎがあったものといわざるを得ない。そして、その後も、平成23年2月8日の団体交渉で、京都市自身が、Aの対応がパワハラかどうか検討する間、Xに対する働きかけを凍結する旨回答し、・・・Xの任用の更新に対する期待について十分な合理性が認められることをあわせ考えれば、京都市の主張する面談拒否等をもって、Xの任用の更新を行わないまでの理由とすることには、その合理性に疑念を抱かざるを得ない

2 Xは、本件非更新の理由に合理性がないことから、本件非更新がXの組合活動の故であることが推認されると主張するが、単に本件非更新の理由に合理性がないからといって、直ちに、それが組合活動の故になされたものであるとはいえない。
・・・本件非更新の理由は、もともと服務指導に応じるよう求められていたXが、この指導に応じなかったことにあり、組合がこのような指示を行ったか否かにかかわりなく、本件非更新は行われたものと推認されるから、本件非更新は組合活動の故になされたものとはいえない
。よって、組合の主張は採用できない。

3 以上、判断したとおり、本件非更新は労組法7条第1号の不利益取扱いには該当せず、よって、同条第3号の支配介入にも該当しない。

京都市が団交に応じなかったことは不当労働行為に該当するとの判断は、いつもの通りです。

それに対して、Xを更新しなかったことについては、合理性に疑問があるにもかかわらず、組合活動の故になされたものではないと判断し、不当労働行為には該当しないということです。

Xとすれば、京都市を相手として、民事訴訟で任用不更新の効力を争うのとともに、慰謝料請求をすることが考えられますね。

なかなか任用不更新の効力を覆すのは大変ですが。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。