Category Archives: 不当労働行為

不当労働行為60(健創庵事件)

おはようございます。 

さて、今日は、組合活動を理由とする雇止めと不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

健創庵事件(奈良県労委平成24年9月27日・労判1057号169頁)

【事案の概要】

Y社は、個人経営の整体施術院で、整体・足つぼマッサージ店等の経営を事業目的とする会社である。

平成22年春頃、Xの勤務態度に問題があるとして、Y社はこれまで60%であった歩合を45~50%に変更する旨をXに告げた。

その後、Xは組合に加入し、組合は、Y社に対して、団交を申し入れた。

平成23年4月、Y社は、Xに次年度の業務委託契約を更新しない旨の書類に署名するよう求めた。

Xは、Y社が雇止めにしたことは、Xが組合に加入し、組合の正当な行為をしたことを理由とする労組法7条1号の不利益取扱いにあたるとして争った。

【労働委員会の判断】

雇止めは不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 Xは、(1)Y社の業務の遂行に不可欠な労働力として、事業組織に組み込まれていたこと、(2)労務の内容を一方的・定型的に決められていたこと、(3)労働の対価として報酬を受けていたこと、(4)業務依頼の諾否の自由も制約を受けていたこと、(5)指揮監督を受け、時間的・場所的拘束を受けていたこと、(6)事業者性があるといえないことから、Y社との関係において、労組法上の労働者であると認めるのが相当である。

2 X組合員の行為は、確かに、業務態度に問題があったことは認められるが、X組合員のそのような行為によって業績不振に陥ったと認めることはできないし、Y社が雇止めの理由に挙げた業務中の問題行為の後にも契約を更新していること、女性従業員の退職問題の解決にはY社も協力していることが認められること、待機時間中に漫画本を読んだり、パソコン・ゲームをしていたことはXが主張するように業務態度ではなく、待機時間中の過ごし方の問題でもあることから、X組合員の行為を理由とした雇止めには、必要性を認めることはできない

3 上記のとおり、Y社による雇止めの合理性の有無および雇止め時の労使事情について検討した結果、本件雇止めについてY社に不当労働行為意思があったと認めざるを得ない。

4 当委員会は、Y社のX組合員に対する雇止めについて、不当労働行為の成立を認めるが、同人の契約期間が1年であること、同人は過去に2回自己都合により退職し、また、団交では退職を前提として未払い賃金等の支払を求めており、Y社に対し長期の雇用を期待していたとは認められないことに鑑み、X組合員に対する平成23年6月付け雇止めがなかったものとして取り扱うとともに、本件雇止めになる前の1年間の賃金額に年6%を乗じて得た金額を付与した金額を支払うこと、および本命令書受領後速やかに誓約文をXに交付することを命じることをもって相当であると思料する

上記判例のポイント2の認定は、参考になりますね。

会社としては、突然、団交を求められても、不慣れのため、適切な対応をすることができない場合もあると思います。

あまり表面的なテクニックに走らず、誠意をもって団交に応じるのがよろしいかと思います。

最近では、団交に関する本もいろいろ出版されていますが、いつの時代も基本となる注意点だけを理解すれば足りるというのが私の考えです。

ちゃんと会社の立場、考えを伝えればよいのです。

これは組合側も同じことです。

お互いが誠意を持って話をすればよいのです。 

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為59(SETソフトウェア事件)

おはようございます。

さて、今日は、昇給差別と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

SETソフトウェア事件(中労委平成24年8月1日・労判1055号95頁)

【事案の概要】

Xは、Y社の副社長付業務推進センター、ビジネス・人材開発室・教育担当であった。

Y社は、Xに対して、虚偽の内容のメールを他の多くの従業員に送付したことを理由に減給1割(期間3か月)の懲戒処分に付した。

平成19年6月、Y社は、同年度のXの昇給額を0円とする給与改定を行った。また、20年6月、Y社は、同年度のXの業績給を2000円昇給する給与改定を行った。

なお、Y社は、平成17年4月に新人事制度を導入し、評価期間中に職務遂行能力の伸長が良好な者などに昇給を行い、職務考課や業績考課の評価が劣る者に降給を行うこととした。

【労働委員会の判断】

Xの昇給額を0円および2000円としたことは不当労働行為にはあたらない

【命令のポイント】

1 Y社における新人事制度とそれを踏まえた賃金規程の定めからみて、Y社においては、資格等級や業績給額が毎年勤続年数に応じて上昇していくという年功序列賃金制度は採られておらず、少なくとも40歳を超えた従業員については、実際にも年功序列的な昇格、昇給は行われていないことが認められる。

2 ・・・以上によれば、Xの19年度及び20年度の職能給及び業績給総額における昇給の額が0円及び2000円であったことについては、いずれの年度においても、同人の昇給額が他の従業員に比べ殊更低く抑えられていたとはいえず、またY社の評価が不合理とは認められない
加えて、Y社がXが組合員であること及び同人の組合活動を嫌悪していたことを認めるに足る事情もない。したがって、Y社がXの19年度及び20年度の職能給及び業績給の総額における昇給額を0円及び2000円としたことは、同人が組合の組合員であることないしは同人の組合活動を理由として不利益な取扱いをしたものとはいえない。

年功序列賃金制度が取られておらず、昇給しないことが必ずしも不合理とは言えない状況では、不当労働行為にはあたりません。

会社としては、仮に昇給を行わないのであれば、不当労働行為と誤解されないように、また、誤解されても、しっかり説明できるように準備をしておきましょう。

ほとんどの場合、不当労働行為と判断されるのは、会社の認識不足と準備不足が原因です。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為58(横浜自動車学校事件)

おはようございます 

さて、今日は、スト予定日に出勤した組合員に対する賃金控除と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

横浜自動車学校事件(神奈川県労委平成24年8月8日・労判1055号94頁)

【事案の概要】

X組合は、Y社に対し、平成22年6月、次回団交で誠意ある回答がない場合は24時間ストを行う旨通告した。

また、X組合は、Y社に対し、次回の団交次第でストを回避する可能性もあると伝えた。

他方、Y社は、スト予定日に教習予定の教習生にキャンセルの電話連絡を開始し、X組合に対し、スト回避の通告を受けても、組合員の就労は認められないと伝えた。

X組合は、ストの前日、Y社にスト回避を通告した。しかし、Y社は、ストの前日回避は認められないとするとともに、キャンセルした教習生に組合員らが教習予約の電話をかけるなら、組合員の就労を認めると提案し(組合は、これに応じなかった)、さらに、同日夕刻、組合員31名の業務を「不就業」と記載した「勤務スケジュール表」を掲示した。

Y社は、スト予定日に出勤し業務を割り当てなかった組合員の同日分の賃金を控除した給与を支給した。

【労働委員会の判断】

賃金控除は不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 本件の場合は、確かにY社の今後の信用に関わるものとして、ストライキ当日の教習生のキャンセル作業を行ったことは不適切とはいえないとしても、それとストライキ回避後の組合員の就労を拒否することは別個の問題である。ストライキ当日に教習生が来校しない以上、Y社は組合員の就労を受け入れる意味がないとしても、それはY社のリスク回避の判断の結果であって、就労を拒絶する合理的な理由とはならないY社としては、組合員を受け入れて他の業務に就かせることも可能であり、仮に業務がなく賃金支払という負担だけが発生したとしても、それはY社の判断の結果として本来Y社が負うべきリスクがあり、組合員に負わせるべきものではない

2 なるほど、Y社は、組合がストライキ回避を通告した後に、組合に対して教習生への電話がけを手伝ってくれたら就労が可能となり得る旨を伝えているが、Y社の電話回線は8本しかなく、実際にストライキ回避後に組合員の協力を得て約150名の教習生に対し再予約の連絡をしたとしても、それ以前のY社による教習生へのキャンセルの連絡が12時間かかったという事実に鑑みれば、実際上の再予約は不可能だったといわざるを得ない。

3 以上のことからすれば、Y社による本件就労拒絶は、本来Y社が負担すべき組合員の就労受入れによる賃金支払を免れ、賃金喪失の不利益を組合員に負わせることを意図して就労を拒否するという、本件ストライキを計画したことに対する報復的な性格を否定できず、組合組織に打撃を与えることを意図して行われた不当労働行為に当たるといわざるを得ない

会社としては、とても厳しい判断です。

なかなか納得できないかもしれませんね。

教習生が来校しないときに、他の業務に就かせることも可能といいますが、実際、どんな業務があったのでしょうか? 

清掃とか・・・? 本来の予定されている業務でなくても、通常と同額の給与を支給しなければならないのでは、会社は納得できないでしょうね。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為57(京都府医師会事件)

おはようございます。 今年もラスト1か月ですね。 気合いを入れてがんばりましょう!!

さて、今日は、新会館への移転を機とする組合事務所・組合掲示板の貸与拒否と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

京都府医師会事件(京都府労委平成24年8月26日・労判1055号92頁)

【事案の概要】

Y社は、X組合と組合事務所および組合掲示板を貸与する旨の協定を締結し、旧会館内に事務所および掲示板を無償で貸与した。

平成18年頃、Y社は、新会館移転の方針を示し、X組合が新会館に組合事務所等を確保するよう要求した。

しかし、Y社は、20年12月、本件協定を21年6月末をもって解約すると予告した。

平成22年10月、新会館に移転したY社は、X組合に対して組合事務所の確保は困難であると通告し、組合掲示板を設置したが、X組合は、設置場所および大きさが要求と異なっているとして掲示板を使用しなかった。

【労働委員会の判断】

組合事務所を貸与しなかったことは不当労働行為にあたる

要求とおりの組合掲示板を貸与しなかったことは不当労働行為にはあたらない

【命令のポイント】

1 Y社によるこのような便宜供与の廃止の目的、態様について検討すると、Y社は、組合事務所を貸与できない理由は、スペースが確保できなかったためであり、組合弱体化の意図によるものではないと主張する。確かに、Y社は設計担当の一級建築士に組合事務所の要望を伝えたが、延床面積が1割減少する中で全体から考えて設置は無理であると回答されたこと、Y社は、物品を新会館に収容しきれないため、賃料を支払って新会館外の倉庫に保管していることが認められる。
しかしながら、Xは設計前の段階から組合事務所の確保を申し入れてきたことが認められ、その意図さえあれば、単に要望として伝えるにとどまらず何らかの調整を行う余地はあったのではないかと考えられるにもかかわらず、設計担当の一級建築士に具体的に検討するよう指示をした形跡もうかがわれないこと、新会館移転後も空室はあり他の団体に対して新たに部屋の貸与を行った経過が認められること、また、Xは、書類等の収納スペースの貸与で足りる旨譲歩していたことが認められ、その程度のスペースの確保については、工夫の余地があるとあると考えられることからすれば、この主張は採用できない

2 そして、十分な説明も行わず、新会館においてXのためのスペースは一切認められないとの態度をとり続けていることに加えて、XとY社間においては平成7年から14年までの長期にわたる係争をはじめとする複数の救済申立て等の経過があったことや、団体交渉の中でY社側の出席者である理事らが「正直医師会と組合との関係が良好であるとはいいがたいよね」等と発言していたことが認められることも併せ考えると、Y社が組合事務所を貸与していないことは、Xを弱体化することも意図した法第7条第3号の支配介入に該当するものと判断される。

3 使用者が長期間継続した便宜供与を廃止した場合には不当労働行為に該当する可能性が生じるといえるが、Y社はXに対し、新会館においても、組合掲示板を貸与していることが認められ、Y社は便宜供与を廃止したとは認められないから、Y社の組合掲示板に係る対応は、法第7条第3号の支配介入に該当しないものと判断される。

組合事務所の貸与については、不当労働行為とされましたが、医師会とすれば納得がいかないところではないでしょうか。

単にスペースの問題ととらえると、当然、納得がいかないと思います。

理屈の上では、設計段階で、他のスペースを犠牲にしてでも、組合事務所を確保することを優先させるべきということになるのでしょうが、実際には、難しいところです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為56(国立大学法人大阪大学事件)

おはようございます。 

さて、今日は、誠実交渉義務に関する命令を見てみましょう。

国立大学法人大阪大学事件(中労委平成24年6月6日・労判1053号95頁)

【事案の概要】

X組合は、団交申入れに対して、開催時間を昼休み時間帯、開催場所をB地区に限定したY大学の対応が不当労働行為であると主張した。

これに対し、Y大学は、時間帯を昼休み時間、場所をB地区とする大学の対応は原則を示したもので、それに限定するものでなく、この方針が特段不合理なものともいえず、不当労働行為に当たらないと主張した。

【労働委員会の判断】

Y大学の対応は不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 本件にあっては、教員の定年年齢に関連しての労働条件の不利益変更や期末手当、非常勤職員の雇止めといった重要な労働条件に関わる事柄について団交が申し入れられており、X組合らは、2時間から3時間程度の団交を要求し、議論を尽くすためには、少なくとも1回2時間程度は必要であると訴えていたことからすると、昼休みの時間帯に限定した団交の設定は時間の長さにおいて問題を孕んでいたものといえる。さらに、労働時間の途中における45分又は1時間の休憩時間の付与を義務づける労働基準法(34条)の趣旨及び昼食時間の確保の必要性を考え合わせると、労働組合の側が積極的に容認していたというのであれば格別、本件のようにX組合らがそれに異を唱えていたのを押し切って団交の時間帯を昼休みにこだわり続けることに合理性があったとは言えない

2 X組合に対し、団交の開催場所をB地区に限定することは、団交開催場所への移動の負担を一方的に労働組合側に負わせるものである。しかも、Y大学は、併せて、団交の開催時間を昼休みの時間帯に限定していたのであるから、かかる団交時間帯に限定していたのであるから、かかる団交場所の限定により、一層、実質的な交渉を妨げることになるのは明らかである。Y大学は、交渉に必要な場合、昼休みの1時間を過ぎても対応しており交渉に支障はないと主張するが、延長した場合であっても数分から十数分程度であって、これらにより実質的な交渉時間が十分確保されていたことを認めるに足りる証拠はない

3 以上みてきたとおり、X組合らによる21年7月以降本件申立てまでの間の団交申入れに対するY大学の対応は、団交の開催時間及び場所につき、正当な理由なくそれらを昼休みの時間帯及びB地区に限定したものであって、かかる対応は、X組合らの団交申入れに対する不誠実な対応として、労組法7条2号の不当労働行為にあたる。 

団交の開催時間及び場所について、合理的な理由なく、組合や組合員に不利益に制限すると、不当労働行為になります。

また、今回のように、休憩時間に限り、団体交渉を認めるとすると、労基法との関係でも問題となりうるという視点を持つことが大切です。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為55(財団法人新国立劇場運営財団事件)

おはようございます。

さて、今日は、合唱団員の不合格措置と不当労働行為に関する裁判例を見てみましょう。

財団法人新国立劇場運営財団事件(東京高裁平成24年6月28日・労経速2152号3頁)

【事案の概要】

新国立劇場を運営しているY財団は、その開催するオペラ公演に出演する合唱団員として、Xとの間で、実演により歌唱技能を審査して選抜するための手続(試聴会)を経て、契約メンバーとしての出演基本契約を締結していた。

Y財団は、平成15年8月から平成16年7月までのシーズンの契約に関し、試聴会の審査により契約メンバーとしては不合格である旨をXに告知した。

これを受けて、Xが加入している音楽家等の個人加盟による職能別労働組合であるユニオンは、Xの上記シーズンの契約についての団体交渉の申入れをした。

しかし、Y財団がこれに応じなかった。

【裁判所の判断】

合唱団員の不合格措置は不当労働行為にはあたらない

団員の処遇に関する事項について財団には団交応諾義務がある

【判例のポイント】

1 ユニオンは、試聴会においては、審査の公平及び適正が担保されておらず、評価方法及び採点方法も恣意的であると主張する。
ところで、本件合唱団の契約メンバーとしての水準に達する歌唱力を有しているか、オペラ公演への出演に適するか否かを判断することは、専門的・技術的な性質を有する事柄であるばかりでなく、芸術的評価を伴うものであり、しかも、既に相当の技量を備える者の間で行われる評価であるから、第三者に客観的に認識し得る明確な基準を定立することは困難であるというほかない。そして、合否の最終的な判断は、審査員の芸術感や感性によっても影響を受けるのであるから、おのずと審査員の裁量に委ねられることにならざるを得ない。この点は、判断基準ばかりでなく、判断のための技能評価の方法についても同様であり、複数の審査員が関与する場合に、統一的な評価方法を用いるかどうかも、これに当たる専門家の判断によらざるを得ないのであって、評価方法や採点方法が決まっていないことのみをもって、試聴会の審査結果が不合理であるとするのは相当でない

2 Y財団は、本件不合格措置を撤回又は変更する義務はなく、ユニオンが専ら本件不合格措置の撤回や変更を求めて団体交渉を求めるのであれば、Y財団においてこれを拒否することに正当な理由があるが、ユニオンとY財団との間では、従前から、試聴会の在り方を含む契約メンバーの選抜について継続して話し合いが持たれているところ、契約メンバーは労働者であり、毎年試聴会を経て契約を締結してきているという実態がある以上、上記の問題は、労働者の処遇に関する事項に含まれるというべきであって、本件団交申入れは本件不合格措置を契機として行われたものであり、その対象がXの次期シーズンにおける契約とされているけれども、その契約締結の前提として選抜方法が問題となる以上、従前と同様に、協議内容が試聴会の在り方、審査の方法や判定方法等の本件合唱団員の処遇に及ぶことは両者にとって推測できるところであって、その結果が、次期シーズンに向けての出演基本契約の手続として本件合唱団の処遇に影響することになるから、この問題は、Y社にとっても義務的団交事項となるというべきであるので、Y社には団体交渉応諾義務があり、上記団体交渉事項が具体的でないとしてこれを拒否することには正当な理由はない

この事件は、一審は、労組法上の労働者に該当しないと、団交について不当労働行為性を肯定した部分を取り消し、不合格措置の不当労働行為性を否定した部分を正当としました。

二審も、一審判決を維持しました。

ところが、最高裁は、契約メンバーは、Y財団との関係において労働契約法上の労働者に当たると解するのが相当であるとし、これを前提として不当労働行為性の審査を尽くすべきとして、原審に差し戻しました。

本件裁判例は、この差戻審の判決です。

義務的団交事項か否かについての問題を事前に正確に判断するのはとても難しいことです。

微妙な場合には、団交に応じるべきであるというのが私の考えです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為54(テルウェル西日本事件)

おはようございます。 また一週間がはじまりましたね! 今週もがんばっていきましょう!!

さて、今日は、うつ状態による長期欠勤を理由とする雇止めと不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

テルウェル西日本事件(中労委平成24年7月18日・労判1053号92頁)

【事案の概要】

X組合員は、平成19年12月に開催されたY社と組合の団交に出席した頃から、休暇申請、賃金明細書、勤務実態、争議行為参加などをめぐり次第にY社と対立するようになった。

平成20年12月、組合は、X組合員がうつ状態になり年末まで欠勤する旨電話をかけ、その後、1月も欠勤すると電話をかけた。

平成21年2月中旬、Y社は、雇用期間が満了する同年3月31日限りでX組合員を雇止めにすると決定し、本人に通知した。

本件の争点は、本件雇止めが不当労働行為といえるか、である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にはあたらない

【命令のポイント】

1 Y社がX組合員の雇止めを判断する上で根拠としていたのは、21.1.8診断書と21.1.23欠勤届の記載のみではないと考えられるのであって、X組合員が同年4月以降職場復帰することが可能であれば、X組合員がその旨会社に対し直接意思表示をすればよいだけであるにもかかわらず、同年2月中旬までに、そうした意思表示は行われなかった。つまり、X組合員は、同年3月31日に契約期間が満了することを承知していたのであるから、精神的健康状態が回復し、また就労の意思があるのであれば、雇用契約当事者であるX組合員から意思表示を行うべきであったと考えられる。ところが、組合はX組合員と会社との直接接触を遮るだけであった。X組合員の雇止めについて判断する前提としてX組合員の健康状態の把握に努めていた会社としては、X組合員の就労の意思及び可能性に関するX組合員との上記のような連絡状況をも勘案して雇止めの判断に至ったと考えられるのであり、会社がそのように勘案して、同年4月以降X組合員から安定的に労務を受領できないと考えたとしても無理はない

2 本件雇止めは、X組合員の欠勤の状況及び健康状態が芳しいものでなかったことを理由とするものであることは明らかであり、C組合員の組合活動への報復の意思ないし組合に対する弱体化の意図は認められない。したがって、本件雇止めは労組法7条1号に規定する不利益取扱いおよび同条3号に規定する支配介入には当たらない

 
雇止めの理由が合理的であると判断され、不当労働行為性は否定されました。

労働組合が、組合員と会社との直接接触を妨げるだけで、Xの健康状態、就労可能性について会社に対して伝達しなかったことも、雇止めが有効と判断された理由となっています。

参考になりますね。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為53(高見澤電機製作所外2社事件)

おはようございます。

さて、今日は、親会社・持株会社の労組法上の使用者性に関する裁判例を見てみましょう。

高見澤電機製作所外2社事件(東京地裁平成23年5月12日・ジュリスト1447号119頁)

【事案の概要】

Y1社は、長野県の信州工場でリレー部品等の製造等を営む会社である。

Y1社と組合との間には、会社は、企業の縮小・閉鎖などによる組合員の労働条件の変更については、事前に所属組合と協議し、合意の上実施することを内容とする全面解決競艇を締結していた。

Y1社は、平成13年9月、持株会社であるY2社を設立し、その後、Y1社からY2社にグループ会社全体を統括する管理・営業・技術開発部門の営業譲渡が実施され、Y1社はY2社の製造子会社に特化された。

Y3社は、Y2社が設立されるまでは、Y1社の株式の約53%を所有し、Y1社の取締役の約半数はY3社出身またはY3社との兼務役員であった。Y3社は、Y2社の設立以降、Y2社の議決権株式の約68%を所有し、Y1社の株式は所有していない。

組合は、平成13年11月、Y3社、Y2社、Y1社に対し、Y1社信州工場の存続・発展のための今後の経営計画・事業計画と同工場の労働者雇用確保等のための方策を明らかにすること等を求める団交を申し入れた。これに対し、Y1社は団交に応じたが、Y3社、Y2社は組合員の使用者ではないことを理由に団交に応じなかった。

【裁判所の判断】

請求棄却
→不当労働行為にはあたらない。

【判例のポイント】

1 一般に「使用者」とは労働契約上の雇用主をいうものであるが、雇用主以外の事業主であっても、当該労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、当該事業主は労組法7条の「使用者」に当たる

2 Y3社は、A事件、B事件の時点で、Y1社の株式の過半数を所有し、Y1社の全取締役の約半数がY3社出身またはY3社との兼務役員であったことから、資本関係および出身役員を通じ、親会社としてY1社に対し、その経営について一定の支配力を有していたとみることができる
Y2社の設立後(C事件の時点で)は、Y2社は、資本関係および兼務役員を通じて、親会社としてY1社に対し、その経営について一定の支配力を有し、営業取引上優位な立場を有していたとみることができる。Y3社についても、資本関係および出身役員を通じ、孫会社であるY1社に対し、経営について一定の支配力を有していたと推認することができる

3 Y2社設立以後、Y2社のY1社に対する営業取引上の意思決定ないし行為が、Y1社の労働者の賃金等の労働条件に影響を与えうることは否定できない。しかし、その決定過程にY2社が現実的かつ具体的に関与したことを認める証拠や、労働時間等の基本的な労働条件等についても、Y2社が雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有していたと認めるだけの証拠はない。Y3社についても、Y1社の労働者の基本的な労働条件等について、現実的かつ具体的な支配力を有していたと認めるだけの証拠はない
以上によれば、Y3社およびY2社は、Y1社の経営について一定の支配力を有していたといえるが、労働者の基本的な労働条件等について現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったといえる根拠はないから、労組法7条の使用者にはあたらない

4 組合員の労働条件変更につき組合との事前協議・合意の上実施することを定めた本件全面解決協定は、いかなる場合においても常に使用者が一方的に経営上の措置を執ることを許さないとする趣旨ではなく、使用者側の独断専行を避け、できる限り両者相互の理解と納得の上に事を運ばせようとする趣旨を定めたものと解すべきである。そうすると、少なくとも、労働条件の変更を含む当該経営上の措置が使用者にとって必要やむを得ないものであり、かつ、これについて労働組合の了解を得るために使用者として尽くすべき措置を講じたのに、労働条件の了解を得るに至らなかった場合に、使用者が一方的に当該経営措置を実施することを妨げるものではないと解するのが相当である。A事件における転社者・希望退職者の募集および人事異動については、経営上の必要性が認められ、Y1社は組合らの理解や同意を求めて団交を重ねたにもかかわらず、組合らは自己の主張を維持する態度に終始していたという本件事情からすれば、Y1社は、組合らの理解と納得を得るために尽くすべき措置を講じたものと評価することができ、全面解決協定違反(支配介入等)にはあたらない。

まず、上記判例のポイント1はしっかりと理解しておかなければいけません。

労働契約法上の「使用者」概念と労働組合法上の「使用者」概念が異なることを意味します。

次に、上記判例のポイント4の「全面解決協定」に関する解釈についても参考になりますね。

同協定の趣旨から規範を導いています。

このような協定を締結している会社は、是非、参考にしてください。 

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為52(樟蔭学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、非常勤講師の担当授業コマ数減少、誠実交渉義務と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

樟蔭学園事件(大阪府労委平成24年7月20日・労判1053号91頁)

【事案の概要】

平成22年9月、X組合員は、上司であるA教授から、23年度に本件科目のカリキュラム編成を変更し、担当コマ数を減らす方針である旨のメールを受信した。

同年12月、組合は、Y社に対し、協定の遵守を求め、X組合員のコマ数問題を議題とする団交を申し入れた。

Y社は、講師各人のコマ数は未だ確定していない旨回答し、23年1月、X組合員の23年度の担当授業コマ数を3コマとする旨をX組合員および組合に通知した。

その後、組合は繰り返し団交を申し入れたが、Y社は、X組合員から異議の申し出がないこと、年度末の繁忙期に当たり日程調整がつかないなどを理由に、23年4月まで団交に応じず、23年度のX組合員のコマ数を2コマ照らして3コマとした。

【労働委員会の判断】

担当授業のコマ数を減少させたことは不当労働行為に当たらない

団交申入れに対するY社の対応は不当労働行為に当たる

組合との協議を行わないまま担当授業コマ数を減少させたことは協定違反にあたり不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 本件科目を担当していた他の外国人講師のコマ数の増減についてみると、(1)平成22年度はX組合員以外の表中のZ1からZ5の5名が本件科目の金曜日の授業を担当したこと、(2)これらの講師は組合員ではないところ、退職した者以外全員について、同23年度は同22年度に比べて、コマ数が減少したこと、(3)これらのうち、Z1からZ3の2名については、コマ数の減少の幅が、Z組合員の2コマ減よりも小さいが、それぞれが、同23年度春に新たに担当するようになった授業は、月曜日の3限目の時間帯に実施されており、X組合員は、同22年度及び同23年度春に、この時間帯の授業を担当していること、がそれぞれ認められる。
そうすると、Y社が本件科目の金曜日の授業の廃止に伴い、X組合員のコマ数を前年度に比べ、2コマ減少させる一方、非組合員にだけ、特別の便宜を図ったとまでいうことはできない

2 X組合員がY社に対し、コマ数の減少に同意するとの意思を明確に示したと認めるに足る疎明はない。しかも、仮にY社の主張とおり、Y社が平成22年12月にX組合員がコマ数の減少に同意したとの情報を得ていたとすれば、Y社は、かかる情報を得ながら、組合からの12.14団交申入書に対して、文書で、団交申入れには何ら返答せず、講師各人の担当授業コマ数は未だ確定していないと回答し、さらに、2.1団交申入書による再度の団交申入れに対し、団交を保留したものであり、かかる対応自体、組合と団交の場で協議をしようとする姿勢を欠いたものであって、問題があるといわざるを得ない
以上のとおりであるから、Y社のX組合員のコマ数減少についての団交への対応は、早期に団交を開き、組合と協議を尽くそうとする姿勢に欠けたものであると判断され、労働組合法7条2号に該当する不当労働行為である

組合員に対する非組合員との差別的取扱いの有無については、結局のところ、上記命令のポイント1のように、組合員と非組合員に対する取扱いを比較した際、両者で差があるか否かという事実認定の問題になります。

会社としては、このあたりのことを考えずにあからさまに組合員に対して差別的な取扱いをすると、高い確率で不当労働行為と認定されますので、注意してください。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為51(櫻間工業事件)

おはようございます。

さて、組合執行委員長の解雇等に関する命令を見てみましょう。

櫻間工業事件(北海道労委平成24年6月22日・労判1051号94頁)

【事案の概要】

Y社は、土木・建築の施工・管理ならびに請負および一般貨物自動車運送を行っている会社である。

Y社の従業員であるAは、Y社社長に、業務中に事故を起こした旨報告した。

Y社社長は、Aに出勤停止を明示、てん末書の提出を求め、Aは、これを受けて3回てん末書を提出した。しかし、Y社は、内容が不備であるとして、再提出を求めた。

Aは、Y社社長に対しててん末書の対応は労働組合に一任したいと申し出た。

その後、Y社は、Aをクレーン作業から外し、除雪のほか、資材積込み等の場内作業を命じた。

Y社は、Aを即日解雇した。

【労働委員会の判断】

解雇は不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 Y社が、A組合員が組合員であることを知ったのは、22年12月に、A組合員が、てん末書の件について今後の対応は労働組合に一任したいとB社長に申し出た時点であり、A組合員は、その日を境にクレーン作業から外され、除雪、資材積込み及び清掃等の業務に従事させられている。A組合員が、てん末書の対応を労働組合に一任したいとB社長に申し出たのは、本件事故に対する認識についての回答をしたものではないから、そのことをもってA組合員の本件事故に対する認識に変わりがないとして作業内容を変更する等の処分を行う理由となり得るものではなく、Y社が、A組合員の作業内容を変更したのは、まさにA組合員に申し出たこと自体が契機になっていると考えざるを得ない

2 Y社は、A組合員が、本件事故発生から既に2か月以上経過したにもかかわらず、意識改善が全く見られないこと、及び組合の要請に応じて事実関係の調査のための時間的猶予を与えていたものの一向に回答がなされなかったことから、本件解雇に至ったと主張する。
しかしながら、A組合員が本件事故のてん末書の提示について組合に一任した後は、組合が対応の窓口となったのであるから、A組合員個人が組合を無視して直接Y社に謝罪等の意思を表明することは考えられず、Y社もてん末書の提出に係る団体交渉に応じている以上、そのことを承知していたといわざるを得ない。しかも、Y社は、本件事故についてA組合員とY社の主張が食い違っており、組合が本件事故について調査中であることを認識していたものである。それにもかかわらず、その調査結果を検討することなく、A組合員個人から調査報告書を未だ提出していない旨を聞いたのみでA組合員の意識改善が見られないとして決定した本件即時解雇には、相当な理由があったとは言えない

3 以上の事実から総合的に判断すると、A組合員をクレーン作業から外し、除雪、資材積込み及び清掃等に従事させ本件解雇に至った一連のY社の行為は、A組合員が自らを組合員であることを明かして、てん末書の件について今後の対応は労働組合に一任したいと申し出、組合の支援を受けて争う姿勢を示したことによるもので、A組合員が組合員であることの故をもってなされた不利益取扱いに当たり、労働組合法7条1号の不当労働行為に該当する

典型的な不当労働行為ですね。

即時解雇についても、裁判で争えば、無効でしょうね。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。