Category Archives: 不当労働行為

不当労働行為70(パナソニック草津工場事件)

おはようございます。 

さて、今日は、労働者派遣個別契約が終了した組合員に対する派遣先の使用者性に関する命令を見てみましょう。

パナソニック草津工場事件(中労委平成25年2月6日・労判1070号172頁)

【事案の概要】

Xは、派遣社員としてY社の工場において、製品の検査業務等に従事してきた。

派遣元とY社との契約は、平成21年12月末に終了した。

Xが加入する組合は、Y社に対し、①Xの直接雇用、②労働者派遣法違反の状態で働かせていたことについての謝罪および金銭的解決等を求めて団交を申し入れた。

Y社は、Xと雇用関係がなく、黙示の労働契約も成立していないとして団交を拒否した。

組合は、本件救済を申し立てたところ、滋賀県労委は、Y社の団交拒否は不当労働行為にあたると判断した。

【労働委員会の判断】

団交拒否は不当労働行為にはあたらない

【命令のポイント】

1 派遣可能期間を超える労働者派遣に関する直接雇用の申込義務の規定は私法上の義務を課すものではないから、同規定の要件を充足して直接雇用の申込義務が生じたからといって、「近い将来において派遣労働者との間に雇用関係が成立する可能性」が、直ちに現実的かつ具体的に生じるものではない。ただし、労働行政機関が労働者派遣法の規定に従って、派遣先事業主に対して、その労働者派遣の実態にかんがみ、当該派遣労働者の雇入れ(直接雇用)の行政勧告ないしその前段階としての行政指導を行うに至ったという場合には、派遣先事業主は当該派遣労働者の雇入れに応じることが法律上強く求められ、派遣先事業主が同雇入れに応じる可能性が現実的かつ具体的に生じるに至っている状況にあるといえるから、上記の雇用主以外の場合に関する法理に従い、当該派遣先事業主は、当該派遣労働者との間で近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存する者として労組法7条の使用者となり得ると解するのが相当である

2 ・・・以上からすると、Y社は、採用、配置及び雇用の終了という一連の雇用の管理に関する決定権について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な関与等をしたとは認められない。したがって、Y社は、本件交渉事項に関して、労組法7条の使用者に当たると解することもできない。

上記命令のポイント1の判断は、押さえておきたいですね。

派遣先会社の皆様、ご注意ください。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為69(東和交通事件)

おはようございます。 

さて、今日は、タクシー会社労組分会長および組合員に対する出勤時間変更指示と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

東和交通事件(愛知県労委平成25年3月18日・労判1068号92頁)

【事案の概要】

平成22年2月、X組合は、Y社に春闘要求書を提出して、団交を申し入れた。Y社とX組合は、4回の団交を開催した。

Y社は、平成22年8月度にタクシー台数を167台から160台に、23年2月度から151台に減車したことに伴い、乗務員の勤務体系の変更を行うこととした。

Y社は、A分会長およびC組合員に対して、昼間の出勤への変更指示を行った。

なお、タクシー乗務は、昼間より夜間のほうが収益率がよく、A分会長およびC組合員は、従前、主として夜間に乗務していた。

【労働委員会の判断】

A分会長およびC組合員に出勤時間変更を指示したことは不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 ・・・この指示は出勤時間の変更を命じるものであるから、労働時間の変更であるといえる。また、Y社は、同月度以前と比較して格別の不利益があったわけではないことは明らかであると主張するが、歩合給の基礎となる給与対象営収額が減収となっていることが認められ、本件出勤時間変更指示は賃金の減少を招くものであり、不利益性が認められる

2 Y社は、・・・乗務員の勤務体系を変更する必要があったものといえる。また、・・・会社は、X組合等に対し、勤務体系の確認及び周知徹底を目的とする説明会の開催通知をしていることが認められ、手続的に問題があるとはいえない。

3 しかしながら、同月度の異動の基準について、Y社は、最低補償額の支給対象となる月間営収額が低い者を異動の対象としたと主張し、その根拠として平成23年1月度の営収順位表のみを示しているが、本件出勤時間変更指示が同月度満了以前の13日及び14日に行われたことからすると、同月度の営収順位に基づき異動対象者を人選したとは認め難い

整理解雇の場合もそうですが、会社とすれば、それなりの理由から、人選をするわけですが、「それなりの理由」に客観的合理性が認められない場合には、恣意的な人選と評価されてしまいます。

過去の裁判例から、どのような点を裁判所が評価しているのかをチェックしてみるといいと思います。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為68(社会福祉法人ひまわりの会事件)

おはようございます。

さて、今日は、委員長の責任者解任と減給及び配置転換と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

社会福祉法人ひまわりの会事件(神奈川県労委平成25年2月1日・労判1068号95頁)

【事案の概要】

労働組合の委員長であったXは、施設長と言い争いをしたため、Y社は、Xに対して「注意喚起書」を発した。

Y社は、その後、Xに対し、施設長と良い争いをしたことなどを理由に、責任者の職責を解任し、減給処分とする旨通知した。

また、Y社は、Xを生活相談員から運転手業務に配置転換した。

【労働委員会の判断】

委員長の責任者解任、減給処分、配置転換はいずれも不当労働行為に該当する

【命令のポイント】

1 Xは、本件処分により責任者会議及び主任会議への出席がかなわなくなったことに伴い、生活相談員としての業務にも関わる法人の運営状況を確認する機会や入居者への対応を検討する場を失うこととなったのであるから、職務上の不利益を受けているといえる。
また、本件処分により、責任者手当として支給されていた職務手当4000円の支給が平成23年4月以降停止されており、Xには経済上の不利益が認められる

2 本件配置転換は、相談業務からデイサービスの送迎を中心とする運転手業務という職務内容の変更を伴う異動であり、Xにとっては、それまでの経験や技能をほとんど活かすことができない業務に就くという点において、職務上の不利益が認められることは客観的に明らかである。また、介護支援専門員の資格を取得するなどして、生活相談員として担当業務に取り組んできた同人が精神的苦痛を被ることは容易に推測できるところであり、精神上の不利益も認められる
・・・法人における運転手業については、本件配置転換の前は嘱託職員等の非正規職員が従事してきており、本件配置転換により正規職員に担当させなければならない具体的な必要性を窺わせる事情は認められない。したがって、本件配置転換は、業務上の具体的必要性や人選の合理性に疑問があるだけでなく、手続の相当性も欠落しており、その合理性を認めることはできない

3 以上から、本件処分及び本件配置転換は、組合員であること又は正当な組合活動をしたことを理由とする不利益取扱いに当たる。

配転命令は、使用者に広い裁量が認められていることから、訴訟でその有効性を争う場合、労働者側とするとかなりハードルが高いです。

これに対し、本件のように労働委員会において不当労働行為性を争う場合には、訴訟ほどハードルは高くないような気がします。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為67(岡本技研事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、労働問題の包括的解決等を議題とする団交に応じなかったこと不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

岡本技研事件(大阪府労委平成25年1月23日・労判1066号94頁)

【事案の概要】

Y社は、自転車・釣具の部品を製造している会社である。

X組合はY社に対し、労働問題の包括的解決、組合員3名に対する懲戒処分の撤回、全外国人労働者の社会保険の遡及加入および社会保険料の会社による全額負担など10項目を議題とする団交を申し入れた。

しかし、Y社は、団交に応じる旨の回答をしなかった。

【労働委員会の判断】

団交拒否は不当労働行為にあたる。

【命令のポイント】

1 Y社の代理人である弁護士が、回答書において、外国人労働者の社会保険の遡及加入等に係る組合からの団交申入れについては、弁護士が交渉担当者となる旨回答した事実は認められる。
しかし、Y社が組合に対して団交に応じる明確な意思表示をしたのは、外国人労働者の社会保険の遡及加入等に係る議題についての一度だけであったということができ、また、その後、Y社又は弁護士が、再度、本件団交申入れの議題の全てについて団交に応じる旨の明確な回答をしたと認めるに足りる事実の疎明はない

2 以上のことからすると、Y社は、本件団交申入れについて、組合との面談による団交を一度も応じておらず、また、Y社が団交に応じなかったことには正当な理由があるとはいえないのであるから、本件団交申入れに対するY社の対応は、労働組合法7条2号に該当する不当労働行為である。

組合からの団交申入れに対して、顧問弁護士だけで対応すると、こういうことになります。

団体交渉には応じましょう。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為66(清水建設事件)

おはようございます。 今週も一週間、お疲れ様でした。

さて、今日は、小規模組合に対する組合事務所不貸与に関する命令を見てみましょう。

清水建設事件(愛知県労委平成25年1月15日・労判1064号96頁)

【事案の概要】

X組合は、平成20年3月、Y社名古屋支店社員9名で結成された。組合員は6名である。

X組合は、平成21年10月、組合事務室の貸与を要求したが、同年11月、Y社は、名古屋支店内にスペースがないことを理由に応じられないと回答した。

なお、Y社は、A組合(会社の管理専門職、総合職、一般職4772名で組織)の名古屋支部(組合員333名)およびB組合(地域管理専門職、地域職約2000名で組織)の名古屋支店(組合員233名)に対し、それぞれ約22㎡および約10㎡の組合事務所を貸与している。

【労働委員会の判断】

組合事務所不貸与は不当労働行為にはあたらない

【命令のポイント】

1 ・・・X組合において組合事務室貸与にかかる交渉を行ったのは、平成21年10月からこれまでに数回にすぎず、その会社との交渉の中で、組合事務室の必要性や貸与可能なスペースについて具体的な主張をしたとは認められないことからすれば、Y社が組合の要求に応じる必要を見出せなかったとしてもやむを得ないものと認められる

 X組合が保有する資料等の分量は、小型の段ボール箱1つ分程度であるから、保管のために組合事務室が必要であるとまでは認められない。また、組合の活動規模が小さいことに照らせば、そもそも組合員同士が集まって交流する機会は少ないし、そのこと自体、組合事務室がなければ不可能なものではなく、部屋が必要な際にはその都度貸与を要求する等の方法でも可能である。更に、組合の存在の周知及び組合員の増員については、ビラ配付等の他の手段によって達成することが可能である

3 Y社の名古屋支店内において、X組合が組合事務室として使用するスペースをY社が捻出することは、不可能とまではいえないものの、X組合と他組合との間には、組合員数に大きな開きがあること、組合の活動規模も組合事務室の必要性が希薄であるといわざるを得ず、貸与拒否により組合の運営上特段の支障が生じるとはいえないこと、これまでの組合事務室貸与に係る交渉経過に鑑みて、Y社が組合の要求に応じる必要性を見出せなかったとしてもやむを得ないことから、Y社が組合からの組合事務室の貸与要求に応じなかったとしても、そのことには合理的な理由がある
したがって、Y社が組合に組合事務室を貸与しないことは、組合の活動を相対的に低下させ、その弱体化を図ろうとする使用者の意図を推認させるものではなく、組合の運営に支配介入するものとはいえないから、労組法7条3号には該当しない。

複数の組合が存在する場合に、一方には組合事務所を貸与し、もう一方には貸与しないという場合、貸与されなかった組合から不当労働行為と主張されることがあります。

本件の判断は、あくまでも事例判断ですので、一般化するのは難しいですが、是非、参考にしてください。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為65(ユーエムジー・エービーエス事件)

おはようございます。

さて、今日は、元従業員によるアスベスト被害にかかる団交申入れと団交応諾義務に関する命令を見てみましょう。

ユーエムジー・エービーエス事件(山口県労委平成24年12月13日・労判1062号93頁)

【事案の概要】

Y社は、従業員553名をもってABS樹脂事業を行っている。

Xは、Y社の従業員として、機器の保守・管理業務等に従事してきたが、平成20年12月に自主退職した。

平成20年10月、Xは病院で肺がんが判明し、21年7月、労災認定を受け、その補償を求めてY社と交渉したが合意に至らなかった。

その後、Xは組合に加入し、Y社に対し団体交渉を申し入れたが、Y社は、Xが退職して2年以上経過しており、Y社に在籍する労働者でないこと等を理由に組合からの団交に応じる義務はないとして団交に応じなかった。

【労働委員会の判断】

団交拒否は不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 労組法7条2号の「使用者が雇用する労働者」とは、使用者が現に雇用している労働者をいい、雇用関係が既に終了している者は原則として含まれない。しかし、雇用関係が既に終了している者についても、解雇など労働契約の終了を巡って紛争が継続している場合、及び、雇用関係の継続中に紛争が顕在化し退職後も紛争が解決されていない場合のほか、在職中の事実を原因とする未精算の紛争が存在し、その問題の存在が顕在化してから時機に遅れていない合理的な期間内に、その所属する労働組合から使用者に団体交渉が申し入れられた場合には、「使用者が雇用する労働者」に含まれ、使用者は団体交渉応諾義務を負うと解するのが相当である

2 使用者が団体交渉をすることを労組法によって義務づけられている事項(義務的団体交渉事項)とは、組合員である労働者の労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものをいうものとされ、賃金、労働時間、安全衛生、災害補償、教育訓練などが労働条件(場合により「その他の待遇」)の代表的なものとされている。

3 これを本件についてみると、本件団体交渉事項のうち、1のアスベスト被害により肺がんを発症したことに対し、Xに謝罪すること、及び4のアスベスト被害に対する会社の補償についての考え方を明らかにすることは、退職前の雇用関係に関連して発症した健康被害に関するものであり、2の会社におけるアスベスト粉じん曝露の状況と安全対策について説明すること、及び3の会社におけるアスベスト粉じん曝露による健康被害の発生状況及び石綿健康管理手帳の取得状況について明らかにすることは、職場環境とそれに関連したものであり、いずれも上記の安全衛生や災害補償に関する事項に該当し、会社に処分可能なものと認められるから、Xについての退職前の会社との雇用関係に関するものである限り、義務的団体交渉事項にあたると解すべきである。
以上のとおり、元従業員であるXが会社に在籍する労働者ではないことなどを理由とするY社の団体交渉拒否は、正当な理由がないものであって、労組法7条2号に該当する不当労働行為である。

退職後の団体交渉については、労組法7条2号の「使用者が雇用する労働者」の文言を拡大解釈することになります。

規範は上記判例のポイント1のとおりです。

よく出てくる規範ですので参考にしてください。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為64(関西学院(期限付契約職員雇止め)事件)

おはようございます。

さて、今日は、期限付契約職員の雇止めまたは嘱託職員として継続雇用しなかったことと不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

関西学院(期限付契約職員雇止め)事件(中労委平成24年10月3日・労判1058号96頁)

【事案の概要】

Xは、Y法人のキャンパス自立支援課コーディネーターに応募して、平成18年4月1日、雇用期間1年、最長4年まで更新の可能性がある旨の期限付契約を締結し、キャンパス自立支援課で勤務することとなった。

平成20年11月または12月頃、キャンパス自立支援課課長は、Xから最長4年となっている自分の雇用について、本当に継続雇用の可能性がないのか人事課に聞いて欲しいと要請され、人事課に問い合わせたところ、継続雇用はできないといわれ、これをXに伝えた。

また、Xを嘱託職員に変更して継続雇用することの可能性についても人事課に確認したところ、そのようなことは課長には関係ないといわれ、それをXに伝えた。

21年1月、Xの所属長である教務部長および課長は、Y法人にXの継続雇用の可能性について確認したところ、Y法人から人事政策を変更することはできないと回答され、2月、Xにその旨を伝えた。

【労働委員会の判断】

Xの雇止めは不当労働行為にあたらない

【命令のポイント】

1 Xの継続雇用の可能性に関する人事課への問い合わせの経過からすれば、「継続雇用の可能性」は、回答済みの期限付契約職員としての継続雇用の可能性のことではなく、むしろ、明確な回答がなかった嘱託職員としての継続雇用の可能性の趣旨であったものと解するのが相当であり、21年1月20日の確認は、その点に関する法人の方針についての最終的な確認として行われたものであるとみることができる。また、上記の問い合わせに対する回答の内容はその都度Xに伝えられていたのであるし、同年2月13日、教務部長から継続雇用できない旨言われたことに対して、Xは、「私たちの継続雇用に向けて、あなた方ができる手立てはもうないと判断されたということですね。」「わかりました。後は自分でどうにかします。」と述べ、同日、自宅に帰った後に労働組合関係者に連絡を取り、翌日、労働組合関係者から紹介された組合に初めて連絡を取って、同月24日に組合に加入したのであり、これらのことからも、X自身、期限付契約職員としての継続雇用のみならず、嘱託職員への雇用形態の転換による継続雇用についても可能性がない旨を告げられたと理解していたものとみることができる。

2 そうすると、法人がXを期限付契約職員としては雇止めをしたこと及び同人を嘱託職員に変えて継続して雇用することも行わないことは、既にXが組合に加入する前から法人がとってきた方針なのであるから、これらをもって、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとはいうことはできない

雇止めが組合員であるがゆえの不利益取扱いにあたるか否かについて、法人が、既にXが組合に加入する前から雇止めにすることを決めていたことを理由に否定しました。

方針決定の時期からの判断という点で参考になります。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為63(ミトミ建材センターほか事件)

おはようございます。 

さて、今日は、労働組合の街宣活動等の禁止に関する仮処分決定を見てみましょう。

ミトミ建材センターほか事件(大阪地裁平成24年9月12日・労経速2161号3頁)

【事案の概要】

Y社は、土木工事及び建築工事の請負並びに設計施工等を目的とする会社である。

本件は、Y社らが、X組合に対し、X組合が、Y社の生コン納入現場付近、Y社が受注する工事現場周辺、Y社代表者Aの自宅付近で、街頭宣伝活動やシュプレヒコール等を行ったことにより、Y社らの営業権や人格権が侵害されたとして、X組合の行う街宣活動等の禁止を求める仮処分命令を申し立てたところ、これを認容する原決定がなされたのに対し、X組合が、X組合が行っている街宣活動等は、労働組合活動の一環として行われているもので適法な行為であるなどと主張して、異議を申し立てた事案である。

【裁判所の判断】

労働組合の街宣活動等の禁止を求める仮処分命令には理由があるとして認可した

【決定のポイント】

1 労働組合は、組合員である労働者のために、その労働条件をはじめとする経済的地位の維持・向上を目指して活動することが許されており、その活動が、組合活動として正当な範囲内にある限り、違法性は阻却される。そして、組合活動が正当なものとして許されるためには、その目的、態様、内容、使用者側が受ける不利益その他の事情を総合考慮し、社会通念上相当と認められることが必要であると解するのが相当である

2 ・・・以上の事情を総合すると、X組合の行ったY社らに対する街宣活動は、少なくとも10回にわたって行われ、その内容もY社とその労働者との関係にとどまらず、Y社を違法業者と認定し、その公共事業に関することにまで及んでいる上、Y社に関連する工事現場の近くを何度も巡回する方法で行っているのであって、X組合の街宣活動は、社会通念上相当と認められる範囲を超えているといえる。したがって、X組合のY社等に対する街宣活動は、正当な組合活動と認められるものではなく、Y社等の営業活動を不当に妨害する行為であるというべきである

3 上記において認定したX組合の街宣活動等の態様に加え、疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、X組合の街宣活動によってY社等の取引先が取引に躊躇していることがうかがえることも併せ考慮すると、X組合の街宣活動等によって、Y社等に著しい損害が生じ得るといえるので保全の必要性は認められる。

本件では、労働組合からの異議申立てが認められず、差し止めの仮処分が認可されました。

取引先等別企業に対する街宣活動(二次的争議行為)と経営者の私邸付近での街宣活動については、組合活動の正当性が否定される傾向にあります。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為62(パナソニックエコシステムズ事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合の申立人適格、会社の使用者性等に関する命令を見てみましょう。

パナソニックエコシステムズ事件(愛知県労委平成24年9月24日・労判1057号170頁)

【事案の概要】

Xは、人材派遣会社からY社に派遣され、有圧換気扇の試作品の性能実験業務に従事してきた。

Y社は、平成21年3月、Xに対する労働者派遣契約を解除すると通知した。

Xは、平成21年4月、組合に加入し、組合は、Y社に直接雇用を求めて団体交渉を申し入れた。

Y社は、自らは単なる派遣先であって団交を行う立場にないと回答して、団交に応じなかった。

【労働委員会の判断】

労働組合の申立人適格は認められる

Y社の労組法上の使用者性は否定

【命令のポイント】

1 Xが、平成21年4月に組合に加入し、組合がY社に対し、Xを直接雇用することを求め団体交渉を申し入れたこと、同人が同月末をもってY社での派遣就労を終えたことは、・・・で認定したとおりであり、Y社で就労する派遣労働者であったXについて、Y社での派遣就労の終了に際し、組合により直接雇用の申込義務の有無について問題が提起され、本件において争われているのであるから、この限りにおいて、現時点においても同人は、その加入する労働組合による団体交渉を通じて、労働条件等について交渉する権利を有する「労働者」の地位にあるものといえる

2 Xが学習塾の経営者としての側面を有するようになったことにより、組合の自主性が失われていること及び同人がY社の利益代表者に該当することについての疎明はない。また、同人が雇用するアルバイト4名が、いずれも組合に加入したことがないことは、・・・で認定したとおりであり、同人が、組合に対する関係で、労組法第2条第1号に規定する使用者の利益代表者に当たるとはいえない。
よって、組合は労組法第2条に適合する労働組合ではなく申立人適格を有しないとのY社の主張は採用できない。

3 Xに関して、Y社は派遣受入期間の制限を超えて同人の労務の提供を受けていたものの、同人を会社の社員と同様に扱っていたとはいえず、採用及び賃金額決定への関与、労働時間の管理、配置権限の行使及び雇用契約打切りへの関与等の各点においても、派遣先の立場を超えて、雇用主と同視しうる程度に具体的に支配、決定できる地位にあったとまでは認められない
また、これらのことを合わせ総合的に判断しても、Y社が、Xとの労働関係について、雇用主と同視できる程度に具体的に支配、決定できる地位にあったとまではいえない
したがって、Xについて、Y社が労組法上の使用者に当たるとはいえない

派遣先会社への直接雇用を要求する団体交渉を申し入れた事案ですが、労働委員会は、派遣先会社の労組法上の使用者性を否定しました。

上記命令のポイント3は押さえておくといいと思います。

これに対し、派遣労働者に対するセクハラの事案について、派遣先会社を団交義務を負う使用者とした日本製箔事件(滋賀県労委平成17年4月1日)や派遣契約解除に関する事案について派遣先会社に団交義務を負う使用者としたタイガー魔法瓶事件(大阪府労委平成20年10月10日)などがあります。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為61(東洋エージェント事件)

おはようございます。 

さて、今日は、誠実交渉義務に関する命令を見てみましょう。

東洋エージェント事件(中労委平成24年9月5日・労判1057号173頁)

【事案の概要】

Y社は、従業員約300名をもって、道路交通法に基づく放置車両の確認および標章の取り付けに関する事務等を行っている会社である。

平成22年3月、組合はY社に対して、組合事務所の貸与、組合掲示板の設置、基本日給の引き上げ等8項目を要求して団交を申し入れた。

これに対して、Y社は、十分な対応をしなかったため、組合は、救済申立てを行った。

初審は、Y社に対して、誠意をもって団交に応じることと、文書手交を命じた。

Y社はこれを不服として、中労委に再審査を申し立てた。

【労働委員会の判断】

Y社が団交において誠実に対応しなかったことは不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 Y社は、組合事務所の貸与及び組合掲示板の設置に応じられない理由として、組合事務所の貸与及び組合掲示板の設置が労組法7条3号に抵触するものであって、利益供与に当たるという考えに固執し、一貫して組合事務所の貸与及び組合掲示板の設置を検討する姿勢をみせなかったものといえる。
しかしながら、最小限の広さの組合事務所の貸与が、労組法7条3号で規定する利益供与に当たらないことは同号ただし書から明らかである。また、会社の監視事業部長名の文書において同条3号を示していることからすれば、Y社は同号ただし書についても了知していたものと認められる
・・・以上のとおりであるから、組合の要求事項のうち、組合事務所の貸与及び組合掲示板の設置については、Y社は、これを設置・貸与することで生じる支障等を具体的に説明していないのであり、組合の要求に応じられないとする理由を十分に説明したとはいえず、かかるY社の対応は不誠実団交に当たる。

2 Y社が、賃金引上げができない根拠として、経費や収支の問題があることを示唆したことは認められるものの、経費や収支に関して、組合に対して一切説明していない
団交において使用者は、自らの主張の根拠を具体的に説明し、開示し得る客観的な資料を提示するなど、組合の理解を得るべく誠実に団交に応じる必要があるというべきであるところ、Y社が主張するような組合が求める資料開示による企業秘密の漏えいの懸念が、客観的にみて根拠を伴ったものであると認めるに足る証拠はない仮に当該懸念があり、確認事務の性質から経費の内訳が開示できないというのであれば、そのことについて組合の理解を得るべく、具体的に説明を行うべきであるのにもかかわらず、Y社は、経費にかかわるすべての情報が確認事務に関する守秘義務の範囲に入ることの根拠を十分に説明していない。
以上のことからすると、基本日給の引上げを議論するに当たり、Y社は、賃金体系について十分説明していない上に、正当な理由なく就業規則の提示を拒否しているのであるから、このようなY社の対応は不誠実団交に当たる。

最小限の広さの組合事務所の貸与については、不当労働行為(利益供与)にあたらないことは条文上明らかです。

使用者側がどこまでの説明をしなければならないのかは悩ましいところですが、上記命令のポイント2は、参考になるのではないでしょうか。

使用者側としてはなかなか理解しづらいかもしれませんが、法的な判断はこのような感じになります。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。