Category Archives: 不当労働行為

不当労働行為90(東京コンドルタクシー事件)

おはようございます。今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、交通事故を起こし、交通違反を犯した組合副委員長兼分会長に対する出勤停止処分および自主退職勧告と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

東京コンドルタクシー事件(中労委平成26年3月19日・労判1090号92頁)

【事案の概要】

Xは、平成22年8月、自転車との衝突事故を起こし、同年3月、通行禁止違反を犯した。同月25日、Y社は、Xに対して出勤停止処分および自主退職勧告を行った。

また、平成22年7月、Y社はXに対して同年8月15日をもって再雇用契約が期間満了となるが、Y社は契約を更新する予定がないと通知した。

【労働委員会の判断】

出勤停止処分及び自主退職勧告は不当労働行為にあたらない。

雇止めも不当労働行為にあたらない。

【命令のポイント】

1 Xは、定年前5年間で7回の交通事故と4回の交通違反を犯し、再雇用に当たって交通事故・違反等を起こした場合は退職を含む厳しい措置をとる旨の特記事項が付されていたにもかかわらず、再雇用されてから約6か月後に本件事故を起こし、その約3週間後には本件違反を犯したというのであるから、これに対し、2乗務の出勤停止処分と自主退職勧告を内容とする本件措置をしたとしても、他の事例と比べて重く、均衡を欠くものであると直ちにいうことはできない

2 Y社が分会長であるXの組合活動を嫌悪し、本件事故及び本件違反を奇貨として、Xを自主退職に追い込み、組合らを弱体化させる意図をもって本件措置をしたとみるには合理的な疑いが残る一方で、相当多数の事故歴等があるにもかかわらず再雇用された後に本件事故及び本件違反を犯すに至ったという経緯や、本件事故及び本件違反を理由として本件措置をしたものとみる余地も十分あり得ることからすれば、本件措置が労組法第7条第3号の不当労働行為に当たるものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない

不当労働行為特有の考え方というものではなく、当該行為の合理性が認められれば、不当労働行為にはあたらないと判断してもらえます。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為89(ニチアス羽鳥工場事件)

おはようございます。 今週も一週間、がんばっていきましょう!!

さて、今日は、元従業員のアスベストによる健康被害に対する補償制度等を議題とする団交と誠実交渉義務に関する命令を見ていきましょう。

ニチアス羽鳥工場事件(神奈川県労委平成26年1月8日・労判1086号95頁)

【事案の概要】

本件は、X組合が、Y社の羽鳥工場において就労中にアスベストにばく露したAおよびBの加入を受け、Y社に対し、アスベスト健康被害に対する補償制度等を議題とする団交を申し入れたところ、Y社が、団交には応じるものの、交渉の対象をA及びBの各個人の問題に限るとの対応に終始したことは、労組法7条2号に該当する不当労働行為であるとして救済申立てをした事案である。

【労働委員会の判断】

Y社の不誠実交渉は不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 一般に会社には、組合の申し入れた義務的団交事項を議題とする団体交渉に誠実に応じる義務があり、組合の要求に対する回答や事故の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどして、組合の理解や納得を得られるよう誠意をもって団体交渉に当たることが求められる

2 これを本件についてみると、Y社は、本件団体交渉の申入れ直後から、A及びB個人の問題に関する限度で団体交渉に応じるとの基本的な姿勢を示し、本件団体交渉を通じてその姿勢を変えていない。しかし、かかる姿勢は、義務的団交事項をA及びBに係る権利主張としての補償要求に限定する会社の考え方を前提にしているが、本件要求事項の大部分が義務的団交事項に当たる以上、本件要求事項について説明や資料の提示をしないというY社の対応は、正当な理由がない限り、不誠実であるというべきである

3 ・・・時の経過とともにアスベスト疾病の悪化した元従業員が存在することをY社はホームページで認めており、このようなアスベスト健康被害の実態を十分に把握していたことからすれば、Y社は両名の症状が悪化した場合の対応について組合の理解や納得を得るよう十分な説明を尽くさなければならないというべきである。

4 以上のとおり、Y社は組合の理解や納得を得るために誠意をもって本件団体交渉に当たったものとは認められないから、その対応は不誠実な団体交渉に当たる。

義務的団交事項にもかかわらず、合理的な理由なく団交に応じないとこのような結論になります。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為88(パナソニックプラズマディスプレイほか1社事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。
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さて、今日は、組合員の施設内における文書の配布方法変更等と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

パナソニックプラズマディスプレイほか1社事件(中労委平成25年12月18日・労判1084号92頁)

【事案の概要】

X組合はY社に対し、A組合員にリペア作業を命じたことが人権侵害である等と主張した。

これに対し、Y社は、Aの問題は司法の場で解決したい等と主張した。

また、X組合は、Y社の親会社であるZ社に対しても、A組合員に対する人権侵害行為等を議題とする団交を申し入れたが、X社は団交には応じなかった。

【労働委員会の判断】

団交拒否は不当労働行為に当たらない

親会社は労組法上の使用者に当たらない

【命令のポイント】

1 Y社としては、A組合員に対する人権侵害行為の問題については話し合いが既に行き詰まっているので、組合の団交申入れに直ちに応じることはできないとしつつ、新たに話し合う必要性が認められれば応じる可能性は必ずしも否定しないとの態度を取ったものといえる。当時、継続的に団交が開催されていたわけではなく、約1年2か月間にわたり団交が途切れた後に、前回団交で話し合いが実質的に行き詰まっていた議題について再び行われた団交申入れであったことからすればY社が、団交応諾の可否を決めるに当たり、組合に交渉再開の必要性につき説明を求めたのは首肯しうる対応であったと考えられる。
以上からすれば、先行事件の団交申入れまでの間に、上記の議題に関する本件団交申入れに、Y社が応じなかったのもやむを得ないところであり、これを正当な理由なく本件団交申入れを拒否したものであったということはできない。

2 Z社は、Y社の親会社であることから、資本関係、人的関係及び取引関係に基づき、会社に対し、一定の影響力を有していたと推認される。しかしながら、Y社には、プラズマディスプレイの製造等、独自の事業活動を行っていた企業としての実体があり、A組合員が雇用契約を締結したのもY社であったことからすれば、A組合員の賃金、労働時間、休日等の就労の諸条件について管理していたのはY社であったと考えられる。
また、本件団体交渉の対象事項との関係についても、A組合員に対し、他の社員とは異なる場所において一人でリペア作業に従事するよう指示したり、雇止めにすることを告知したのはY社であり、パナソニックがこの決定に関与していたことをうかがわせる事実はない
以上のとおり、Z社は、Y社に対し、親会社として一定の支配力は有していたものの、組合が各主張するところを検討しても、Z社が、A組合員の基本的な労働条件等につき雇用主と同視できるほどに現実的かつ具体的な支配力があったことを推認することはできない

団交拒否にあたらない理由に客観的合理性が見出せれば、本件のように不当労働行為に該当しません。

また、本件は親会社に対しても団体交渉を求めているケースですが、「雇用主と同視できるほどに現実的かつ具体的な支配力があった」という要件をクリアしなければなりませんので、ハードルは高いです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為87(大阪府(非常勤講師等・雇止め)事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、特別職の非常勤講師の雇止めと不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

大阪府(非常勤講師等・雇止め)事件(大阪府労委平成25年9月11日・労判1080号94頁)

【事案の概要】

平成24年1月27日、大阪教育合同労働組合(教育合同)は、府および府教委に対し、AおよびBを含む公立学校の常勤講師である組合員11名および公立学校の非常勤講師である組合員5名の雇用を継続すること、同年4月1日以降、Aを常勤講師として、Bを常勤講師または非常勤講師として任用することを要求して団交を申し入れた。

これに対し、府教委は、常勤講師および非常勤講師の個別任用に関する要求は交渉事項に当たらないと回答した。

平成24年4月1日、府教委は、AおよびBを公立学校の常勤講師または非常勤講師として任用しなかった。

【労働委員会の判断】

非常勤講師の雇止めは不当労働行為にあたらない

団交に応じなかったことは不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 教育合同が挙げる3点はいずれも組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとする理由とはならず、この点の主張は採用できない。

2 本件団交申入れに係る非常勤講師組合員5名については、その講師としての任用は、形式的には新たな任用手続によるものではあるが、実態としては、繰り返しの任用によって実質的に勤務が継続する中で、職種、校種及び勤務地区等の任用条件の変更又は前の任用期間における任用の継続であったとみるのが相当であり、任用が繰り返しなされて実質的に勤務が継続することに対する合理的な期待を有するというべきであり、したがって、労組法適用者である非常勤講師組合員5名について、「組合員について雇い止めを行わず、雇用を継続すること」という団交申入書の団交事項は、義務的団交事項に該当する
これらのことからすると、講師の採否について府教委には支配可能性がなく、当該交渉が実質的に意味のない交渉にならざるを得ないとする府の主張は採用できない。

形式論よりも実質論を重視した判断ですね。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為86(大阪市(組合事務所退去)事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!

さて、今日は、組合事務所の退去を議題とする団交に応じなかったことと不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

大阪市(組合事務所退去)事件(大阪府労委平成25年8月28日・労判1080号95頁)

【事案の概要】

平成24年1月30日、大阪市は、市労連、市従、学職労らおよび学給労に対し、各組合が使用している本庁舎地下1階事務室について24年度以降は使用許可を行わない方針であり、同年3月31日までに退去するよう求める文書を交付した。

これに対し、市労連らは、市に対し、事務室退去に関する団交を申し入れたが、市は、団交申入れには応じられないと回答した。

【労働委員会の判断】

不当労働行為に該当する

【命令のポイント】

1 本件申入事項はいずれも、組合らと市との団体的労使関係事項であり、原則として、義務的団交事項に当たる。

2 市は、本件申入事項の主要議題が組合事務所設置に係る本庁舎の目的外使用許可であり、目的外使用許可を与えるか否かは管理運営事項に当たる旨主張する。
確かに、行政財産である本庁舎について目的外使用許可を与えるか否かの判断そのものについては、市が自らの職務、権限として行う事項であって、管理運営事項に該当するものの、本件申入事項は組合事務所に関連する事項全般であって本庁舎の目的外使用許可そのもののみを対象としているとみることはできず、また、組合事務所設置に係る本庁舎の目的外使用許可に関する処理が組合らとの団体的労使関係に影響を及ぼす範囲において、義務的団交事項に当たるとみることができるのであるから、本件申入事項が管理運営事項に当たるため、本件団交申入れに応じる義務がないとする市の主張は採用できない。

3 以上のことからすると、本件申入事項については、行政財産である本庁舎について目的外使用許可を与えるか否かは管理運営事項に該当して団交事項とすることはできないものの、組合らとの団体的労使関係に影響を及ぼす範囲では義務的団交事項に当たるとみるべきであり、市はその影響の及ぶ範囲において本件団交申入れに応じなければならない

団交の内容の一部に義務的団交事項でないものが含まれている場合であっても、それ以外の内容が義務的団交事項であれば、やはり原則通り、団交に応じなければなりません。

義務的団交事項であるか否かは、広く解釈されますので、ご注意下さい。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為85(サントス事件)

おはようございます。

さて、今日は、組合加入直後に自宅待機を命じた後、懲戒解雇したことの不当労働行為性について見ていきましょう。

サントス事件(神奈川県労委平成25年9月20日・労判1080号93頁)

【事案の概要】

Y社は、一般貨物自動車運送事業等を営む会社である。

Y社の従業員であるAおよびBが組合に加入したところ、Y社はAおよびBを自宅待機を命じた。

その理由としては、Aは8月配転および2月配転について取引先に内容を告知し、会社の人事労務管理について不満を述べたこと(A懲戒理由①)、上司である所長に暴言を吐き、脅迫したこと(A懲戒理由②)を、Bは物損事故について損害金を支払わず(B懲戒理由①)、事故の反省、謝罪をしないこと(B懲戒理由②)などをあげている。

Y社は、その後、AおよびBに対して懲戒解雇を通知し、その理由として、上記自宅待機の理由に付加して、自宅待機命令に反して出社を継続したこと(A懲戒理由③)をあげている。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 Aが本件自宅待機命令を受けた後も本件懲戒解雇に至るまで出社を継続したのは、そもそも合理性を欠く本件自宅待機命令を認めない意思を表すためであり、また、Y社が自宅待機期間中にその理由を十分に説明していないことを併せ考えると、Aが出社を継続したことを本件懲戒解雇の理由とした③に合理性は認められない

2 Bが本件物損事故を起こし、会社の従業員に損害を与えたものの、その損害金を支払っていないことに争いはない。しかし、その損害金の支払についてBが同意したことを認めるに足りる証拠はなく、したがって、本件自宅待機命令及び本件懲戒解雇の理由である①に合理性は認められない

3 本件懲戒解雇は、A、B外2名による分会結成後間もなく両名同時に行われた結果、分会の中心人物であるAとBは社外に排除され、分会員が4名から2名に半減している。また、本件自宅待機命令及び本件懲戒解雇によって示された会社の分会に対する厳しい態度は、結成されたばかりの分会の勢力拡大に影響を及ぼしたものと推認することができる。したがって、本件自宅待機命令及び本件懲戒解雇は、分会の運営に対する干渉行為である。
・・・本件自宅待機命令及び本件懲戒解雇は、A及びBが組合員であること又は正当な組合活動をしたことを理由とする不利益取扱いであり、法第7条第1号に該当する不当労働行為であると判断する。

これも不当労働行為性が明らかな事例です。

上記命令のポイント3を読むだけで、会社の組合嫌悪の意思がよくわかります。

使用者側は、顧問弁護士の指示のもとで適切な対応をとることをおすすめします。

どんなときでも、信頼できるブレーンの意見に耳を傾けられる経営者でありたいですね。

不当労働行為84(ひめじや事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、組合加入直後の解雇と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

ひめじや事件(大阪府労委平成25年8月7日・労判1079号174頁)

【事案の概要】

平成24年4月7日、Y社従業員Xは、組合に加入し、同月13日、Y社に対して、労働組合に加入している旨を告げた。

同年5月16日、組合執行委員長が、Y社に電話をかけて、同月18日にY社を訪問し、団交申入書を提出したい旨を告げた。

同月17日、Y社は、Xに対して、「就業規則第38条の規定により」同日付で解雇する旨の通知書を交付し、Xが具体的な理由の説明を求めても、守秘義務違反、公私混同と回答するのみであった。

団交においても、Y社社長は、具体的な解雇理由を説明しなかった。

同月28日、Y社はXに対し、「経理担当者として知った秘密をしばしば漏えい、勤務中にしばしば私用電話」などと記載した解雇理由通知書を交付した。

【労働委員会の判断】

Xを解雇したことは不当労働行為に該当する

【命令のポイント】

1 ・・・以上を総合的に判断すれば、Y社は、平成24年4月13日にX組合員から労働組合への加入を告げられたことを契機に、同組合員に始末書の提出を求めたり、秘密裏に録音を行うなど、同組合員を解雇するための準備を始めたところ、同年5月16日になって電話で2日後にX組合員の組合加入が正式に通告されることを知り、組合の関与により解雇が困難になる以前にX組合員を解雇してしまおうとして、同月17日に、合理的で説得力のある解雇理由がないにもかかわらず性急に本件解雇を行ったのであり、解雇理由通知書についても解雇理由を後付け的に整理したと推認することができる

2 以上のことを総合すれば、本件解雇は、X組合員が組合に加入したことを知ったY社が、それを嫌い、X組合員を会社から排除することを企図して行われたものと判断せざるを得ず、労働組合法7条1号に該当する不当労働行為である。

わかりやすい不当労働行為ですね。

気持ちはわからないではないですが、このようなやり方では、事態を悪化させるだけなので、おすすめはしません。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為83(育良精機大阪工場ほか1社事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!

さて、今日は、労組法上の使用者性に関する命令を見てみましょう。

育良精機大阪工場ほか1社事件(中労委平成25年9月4日・労判1079号172頁)

【事案の概要】

Y1社は、茨城県つくば市に本社を、大阪府東大阪市内に工場を置き、高速道路用防音壁等にかかわる金属のプレス加工や板金加工等を行う会社である。

Y2社は、茨城県筑西市に本社を置き、金属製品製造業等を営む会社である。

Y1社は、従業員に対して、平成22年4月2日に特別一時金を、同年7月29日及び12月28日に夏季および年末一時金を支給した。Eを除くプレス板金担当の正社員7名に対する支給額をみると、特別一時金は、2万円がAほか1名で、他の5名は3万円であり、夏季一時金は、Aが27万円で、他は30万円台が2名、40万円台が4名であり、年末一時金は、Aが30万円で、他は30万円台が3名、40万円台が3名であった。

平成23年4月1日、組合は、Aに対する本件一時金の差別支給が不当労働行為であるとして本件救済を申し立てた。

【労働委員会の判断】

1 Y2社はAに対する関係で使用者の地位にない

2 Y1社が、Aの一時金をプレス板金担当正社員の中で最低額としたことは不当労働行為に該当する

【命令のポイント】

1 Y1社とY2社との間には、業務運営に関し一定の関係がうかがえる事実が認められるものの、両社には資本関係がなく、また、兼務役員はいるものの、丙社長やD専務はY1社の役員でもなく、同人らの行為をもってY2社がY1社の経営に支配力を有していたことの証左とまではいえないことからすると、本件工場が、Y2社の建材事業部の大阪工場という位置付けにあるということはいえない。また、本件工場の本件一時金の支給額の決定過程を踏まえると、Y2社がY1社の従業員の基本的な労働条件について、具体的かつ直接的な影響力ないし支配力を有していたとみることはできない
したがって、Y1社は、Y2社の正社員であるA組合員に対する関係において、使用者の地位にあったということはできないから、労組法7条の使用者には当たらない

2 Y1社は、一時金の査定に当たってあらかじめ定められた一貫性のある合理的な査定方法を採っているとは認められず、むしろその運用においても粗雑な査定を行っていたといえるものであり、また、A組合員の業務の専門性が低いことや時間外労働時間数が少ないことをもって、A組合員の査定を低く評価していることに合理性はなく、他に、査定が適正に行われたと認めるに足る証拠はないことからすれば、A組合員の本件一時金の額がEを除くプレス板金担当の正社員の中で最低額であることに合理性を認めることはできない。・・・以上によれば、労組法7条1号に該当する不当労働行為に該当する。

判例のポイント1の労組法上の使用者性については、ときどき争点になりますね。

規範がありますので、参考にしてください。

判例のポイント2で示されている一時金の金額の問題ですが、他の従業員との金額の差について客観的に合理的な説明ができない場合には、本件のように不当労働行為性を肯定されてしまう可能性がありますので、ご注意ください。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為82(X工業事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、組合が会社や役員宅へ街宣活動等をすることの差止請求が認められた裁判例を見てみましょう。

X工業事件(東京地裁平成25年5月23日・労経速2192号13頁)

【事案の概要】

 Xらは、Y社によるGの解雇を有効とする判決(「解雇事件判決)が確定した後、本件解雇の撤回等を求めて街頭宣伝活動(「街宣活動」)等をしていたところ、Y社の本社、支店、営業所、工場等の施設を中心として半径150メートルの範囲内の土地における街宣活動等の差止めを認める第一審裁判所(東京地裁)の判決(「前訴差止事件判決」)が確定した後も、引き続きY社の施設周辺等やY社役員等の住所地周辺において本件解雇の撤回等を要求する街宣活動等をしているところである。
本件は、(1)Y社が、Xらに対し、①Y社の本社、支店営業所、工場等の施設を中心として半径150メートルから1キロメートルの範囲内の土地における街宣活動等の差止め、②幕張メッセ、霞ヶ関ビルディング、東京ビッグサイト及び茨城県桜川市役所大和庁舎前広場を中心として半径1キロメートルの範囲内の土地における街宣活動等の差止め及び③Y社の役員等であるB、C、D、A及びEが、①それぞれの自宅を中心として半径1キロメートルの範囲内の土地における街宣活動等の差止め及び②過去の街宣活動等に係る損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

差止請求については、一部認容。

Y社に対する損害賠償として200万円、役員に対する損害賠償として合計90万円の支払を命じた。

【判例のポイント】

1 法人は、その名誉、信用が毀損され、平穏に営業活動を営む権利が侵害され、今後も当該侵害行為が継続する蓋然性が高い場合には、当該侵害行為を差し止める権利を有するものと解するのが相当である。

2 Xらは、GがY社に対して解雇の撤回ないし再雇用の要求をすること及びこれを組合がY社に要求し、そのための団体交渉を申し入れることは、解雇を有効とする判決の確定にかかわらず、憲法上、労働組合に補償された団体交渉権及び団体行動権に属する正当な行為であると主張する。
確かに、労働組合の団体交渉権及び団体行動権は憲法上保障された権利であるが、憲法は、これが財産権等の他の基本的人権に対して絶対的優位にあることを認めているものとは解されず、労働者の権利実現のために労働組合が行う団体交渉権及び団体行動権の行使であっても、それが無制限に許されるものでないことは明らかである。本件においては、法治国家における権利実現方法として基本的な手段というべき民事訴訟において、解雇事件判決の確定により、Y社のGに対する解雇が有効であり、Y社とGとの間には雇用契約関係が存在しないことが公権的に確定しているところであり、Xらが、なおY社に対して、解雇の撤回や再雇用について再考を求めること自体が許容され得るとしても、そのための活動の範囲・内容は、解雇事件判決の確定によって、当然に影響を受けるものといわざるを得ない。そして、解雇事件判決の確定に加え、前訴差止事件判決が確定し、平成21年仮処分事件、平成23年仮処分事件における決定がされ、Y社による任意の解雇撤回等が期待し難い状況にあることなどからすれば、Xらが、なお本件解雇の撤回等をY社に求めるために前記のような街宣活動等を繰り返し行うことは、自らの要求を容れさせるべく、Y社に対して殊更に不当な圧力をかけようとするものといわざるを得ず、憲法上、労働組合に保障された団体交渉権及び団体行動権に属する正当な行為ということはできないというべきである

3 不法行為の被侵害利益としての名誉とは人又は法人の品性、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価のことをいい、信用とは、経済的側面における社会的評価のことをいう。したがって、名誉、信用の毀損とは、これら人又は法人の客観的な社会的評価を低下させる行為のことをいう。
これらを本件についてみると、・・・不法行為を構成するというべきである。
・・・Y社が名誉・信用の毀損によって被った損害額は200万円と認めることが相当である。

4 Bら3名は、不法行為に基づき損害賠償を請求することができる。
・・・慰謝料としては、B、C及びDについて、それぞれ30万円の限度で許容することが相当である。 

大変興味深い裁判例です。

会社側としては、この裁判例を是非、参考にして、組合活動に対して適切に対応してください。

労働者側としては、解雇等について確定判決が出た場合には、組合活動に一定の影響が及ぶことを理解した上で、適切に組合活動をしてください。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為81(全日本建設運輸連帯労組関西地区生コン支部(大谷生コン・本案)事件)

おはようございます。

さて、今日は、産業別組合による業務妨害行為に対する差止め・損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

全日本建設運輸連帯労組関西生コン支部(大谷生コン・本案)事件(大阪地裁平成25年3月13日・労判1078号73頁)

【事案の概要】

本件は、Y社がXに対し、Y社の営業権に基づき、XによるY社に対しての業務妨害行為(Y社の取引関係者へのY社との取引停止の要請、納入先現場におけるY社の取引関係者への圧力、広域協組幹部会社への圧力、Y社の納入妨害及びこれらに準ずる行為)の各差止めを請求するとともに、Xによる業務妨害行為を理由とする不法行為に基づき、損害賠償を請求し、併せて遅延損害金の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

Xによる取引先への要請行為、情宣活動、出荷妨害等に対するY社からの妨害差止請求と損害賠償請求(330万円)を認容

【判例のポイント】

1 Xが行ったと認められる本件業務妨害行為は、その態様からして、一般市民に許容される要請活動、宣伝活動または説得活動の域を超えているといわざるを得ず、Y社の取引関係者をして、Y社との取引の開始及び継続について心理的に委縮させる効果をもつものであると一般的に認められる。したがって、Y社は、本件業務妨害行為により、それが取引関係者にもたらす委縮効果を通じて、その営業権を侵害されているというべきであり、本件業務妨害行為は正当な組合活動と認められるなどして違法性を阻却されない限り、違法であるという評価を免れない

2 組合活動は、その目的及び行為態様を考慮して、労働者の労働義務、誠実義務、使用者の施設管理権との調整という観点も併せて斟酌して正当性が認められる場合には、憲法上の保護を受けて違法性が阻却されると解される

3 本件業務妨害行為の行為態様、頻度、違法性の程度を考慮し、これまでXがY社に対して業務妨害行為を繰り返してきたことを斟酌するならば、将来において同様の、またはこれらに準ずる方法、態様による業務妨害行為が行われる蓋然性は高く、それによりY社に軽度とはいえない不利益が生ずるおそれが高いと認められる。したがって、差止めの必要性は高く、これらについて差止請求権が認められる

4 本件業務妨害行為の態様からすると、その対象となった取引関係者の中に、現場の混乱を回避し、また、自社の社会的イメージを維持するという目的から、Y社との取引を縮小し、あるいは、解消することを考えるに至る業者が出ることは十分にあり得ることであると考えられる。そのような意味において、Y社の名誉及び信用の低下は現実に生じたものと認められ、そのこと自体がXの違法な本件各業務妨害行為によりY社に生じた損害であると認めるのが相当である。
このことが現実に売上げの減少につながったかをみると、・・・前記の損害は売上げの減少にはつながっていないことが認められる。しかしながら、売上げの上下は、Y社の営業努力による取引の維持や新規取引先の開拓、景気の動向等、複数の要因に影響されるものであるから、売上げの減少がないからといって、前記の損害がないとすることは相当でない
前記の損害は、その性質上、具体的な損害額の算定が困難であり、その損害額を立証することが極めて困難であるというべきであるから、民事訴訟法248条に基づき損害額を認定することとし、本件各業務妨害行為の態様等を考慮して、これを300万円と認定し、その一割の30万円を弁護士費用に関する損害と認定することとする

非常に参考になる裁判例ですね。

会社としては、組合の組合活動に正当性が認められないと考える場合には、差止請求や損害賠償請求を検討することになります。

裁判所がどのような要素を重視して判断しているのかを認識することが大切です。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。