Category Archives: 不当労働行為

不当労働行為120(平和タクシー事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、労働委員会の救済命令の裁量と私法規範との整合性に関する争点を見てみましょう。

平和タクシー事件(広島高裁平成26年9月10日・ジュリ1485号4頁)

【事案の概要】

Y労働委員会は、平成24年4月、タクシー事業を営むX社が、その従業員でZ組合の組合員であるAら7名に対して乗務停止などを内容とする本件懲戒処分をしたことが不当労働行為であると認め、懲戒処分を取り消し、給与相当額の本件バックペイを命じる本件救済命令を発した。

一方、Aらは、裁判所に対して、懲戒処分がなければ得られたはずの給与相当額の支払等を求める訴訟を提起しており、1審判決は平成24年8月、控訴審判決は平成25年3月に言い渡され、確定した。

判決は、本件懲戒処分を無効とした上で、Aらの給与相当額の支払いをX社に命じていたところ、X社は、判決の命じた金額の全額を弁済した。なお、その額は、Y労働委員会の命じた本件バックペイの元本額を下回っていた。

その間、X社は、本件救済命令の取消しを求めて訴えを提起した。1審は、本件バックペイの支払を命じた部分について、民事訴訟で確定した額を超える部分を取り消し、超えない部分については訴えを却下した。

【裁判所の判断】

原判決を取り消し、X社の本件救済命令の取消請求を棄却

【判例のポイント】

1 救済命令の目的は、不当労働行為によって損なわれた労働者の個人的・財産的価値の回復を図ることだけにあるのではなく、組合を含めた正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復・確保を図ることにもあること、したがって、救済命令におけるバックペイの賦課は上記目的に基づく公法上の義務であって、民事判決が命じる私法上の義務とは異なるとされていること等を考慮すると、確定した民事判決に基づいて私法上の義務が履行されたとしても、それによって直ちに公法上の義務を課した救済命令の目的が達せられたとはいえず、・・・取消しを求める訴えの利益は失われない

2 救済命令の趣旨・目的は、使用者の不当労働行為により生じた事実上の状態を是正することにより、正常な集団的労使関係の迅速な回復・確保を図ることにあると解されるから、救済命令の内容は、私法的な意味での原状回復と同義とは解されず、私法上の権利関係に従った回復措置に限定されるものではない
ただ、救済内容が、実質的に私法上の権利義務の実現と共通する面を有する場合には、その救済の結果について私法上の権利義務との調整が可能であるか、そのかい離の程度が救済命令の目的からして許容される範囲内にある必要はあるというべきである。

上記判例のポイント1は、知識として押さえておく必要があります。

その前提として、どのような事案において、今回のような問題が起こるのかを理解しなければ、使える知識にはなりませんね。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為119(甲労働者組合事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、組合に対する情宣活動の差止め等が認められた裁判例を見てみましょう。

甲労働者組合事件(東京地裁平成27年4月23日・労経速2248号12頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y組合の情宣活動により平穏に生活を営む利益(人格権)を侵害されたなどと主張して、Y組合に対し、人格権侵害に基づく妨害排除請求権により、Y組合の行為の差止めを求めるとともに、Y組合の違法な情宣活動により精神的苦痛を被ったなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償として、損害金275万及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

情宣活動の差止めを認める。

Y組合はXに対し、55万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 ・・・以上の点に照らせば、本件行為は、いかにそれがA社の不当な措置等に関し、Bから納得し得る説明を求める趣旨に出たものであったとしても、元配偶者であり私邸たる本件居宅に居住するにとどまるXにおいて、本件行為を受忍すべき理由はなく、本件行為は、Xに対する関係で、その私邸で平穏な生活を享受するというXの人格権を侵害するものであったといわざるを得ない

2 使用者の代表者であっても、私生活上の権利は尊重されるべきであるから、仮に本件居宅にBが居住していたとしても、私生活の中心なる場である本件居宅において、Y組合がBに対し団体交渉に応じるよう要求し、本件行為を行うことが正当化されるわけではない。まして、本件では、本件居宅にはBは居住しておらず、元配偶者であるXには本件居宅において本件行為を受忍すべき理由はないから、Y組合が主張する事情は、本件行為の違法性を否定する理由となるものではない。それのみならず、使用者であるA社の破産開始決定後になされた本件行為に係る団体交渉の申入れ等の行為(B宛に解雇や労働債権等に関して団体交渉を申し入れる行為)の正当性は、Bが代表者の地位を失い(会社法330条、民法653条1項)、破産財団に関する権限が破産管財人に専属する(破産法78条1項)こととなったことに伴い、そもそも容易に是認し難いし、その実効性にも疑問がある
さらに、本件仮処分決定が効力を生じた後になされた本件行為については、法の定める手続に則ってなされた裁判を無視し、法秩序を蹂躙するものであって、到底容認することができない

3 Y組合は、平成25年10月18日以降、Y組合が本件居宅への訪問行為をしていないことについても指摘するが、Y組合は、繰り返し本件居宅で本件行為に及んでおり、本件行為のなかには、応対に出たXやD弁護士の指摘や意向にもかかわらず行われ、本件仮処分決定後にもなされたものもあること、Y組合が現時点においても本件行為は正当である旨主張し続けていることに照らせば、同日以降、訪問行為が行われていないからといって、差止めの必要性が失われることにはならない

これだけやっても支払う金額は55万円と遅延損害金ですから、まったく抑止力にはなりません。

そういう意味で、組合活動は、威力があるのです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為118(学校法人鶴岡学園事件)

おはようございます。

今日は、理事長、学部長、学科長が団交に出席しなかったことの不当労働行為該当性に関する命令を見てみましょう。

学校法人鶴岡学園事件(北海道労委平成27年4月24日・労判1115号89頁)

【事案の概要】

本件は、理事長、学部長、学科長が団交に出席しなかったことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたらない

【命令のポイント】

1 平成25年4月11日、同年5月23日に行われた団体交渉には、法人側からはG事務局長、H事務局次長外3名が交渉担当者として出席しているが、G事務局長、H事務局次長は、いずれも法人の理事であり、それぞれ25年度の大学の人事に関する事務の担当者として、団体交渉事項に関する経過に関わっており、また、事務局長の地位は、法人の就業規則上、大学学長、高等学校長らと並んで「所属長」と位置付けられていることからすると、G事務局長及びその補佐をする立場のH事務局次長は、法人の見解を説明することができ、かつ、団体交渉に関する権限を法人から委ねられていたということができる
したがって、組合が指定したB理事長、E学部長、F学科長を団体交渉に参加させず、G事務局長、H事務局次長らを交渉担当者としたことをもって団体交渉拒否あるいは不誠実な団体交渉とはいえない。

必ずしも会社の社長が団体交渉に出席する必要はないことがわかります。

反面、交渉権限がない平社員だけが参加することは不当労働行為になりますので注意しましょう。

なお、本事案では、組合員を再雇用しなかった理由を議題とする団交における法人の対応について、説明が不十分であるとして不当労働行為にあたると判断されています。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為117(学校法人P事件)

おはようございます。

今日は、職場内の言動を理由に組合員の職種を変更し、配置転換を行ったことが不当労働行為に該当するかについて判断した命令を見てみましょう。

学校法人P事件(大阪府労委平成27年2月6日・労判1114号172頁)

【事案の概要】

本件は、職場内での不適切発言を理由に職種変更を伴う配置転換を行ったことが組合員に対する不利益取扱いに当たるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にはあたらない。

【命令のポイント】

1 ・・・F組合員は、同人が、生徒、教職員等とトラブルを起こさないことを、二度にわたって、法人に対し約することで教育職員として図書室に勤務するに至ったことが認められる。
6月21日F発言は、このような経過のある中でG司書及びH講師に対して行われた不適切発言であるのみならず、同発言は、図書室において、生徒の前で行われたことが認められ、高等学校、中学校という教育現場において行われた発言であることを鑑みると、F組合員を生徒と接触の多い職場に配置しておくことは是認できないと法人が判断したことをもって不当とはいえない

2 ・・・このようなF組合員の対応をみると、6月21日発言①については、G司書に「おねえさん」といった頻度は記憶力が悪いので覚えていない、「おねえさん」という言葉自体は基本的には丁寧語・敬語の範疇であるとし、不快といわれるのならば不適切ではあったと認め、謝罪し、今後は改めるとしながら法人の解釈には到底同意できず、セクハラ冤罪であるとし、6月21日発言②については、H講師への謝罪で解決しており法人に誓約する必要はないとするものであり、F組合員に真摯な反省がなく、同人は今後も同種の言動を繰り返すおそれが非常に高いと判断した旨の法人の主張は理解できるところである。

3 したがって、法人が、F組合員に対し、本件異動発令を行ったことには相当の理由があるといえる。
以上のとおりであるから、本件異動発令は、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為であるとはいえず、本件申立てを棄却する。

配転命令の合理性が認められるため、不当労働行為にはあたらないという判断です。

学校という職場の特殊性を反映した判断がなされています。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為116(ジャレコほか1社事件)

おはようございます。

今日は、親会社の労組法上の使用者性に関する命令を見てみましょう。

ジャレコほか1社事件(中労委平成27年2月18日・労判1114号170頁)

【事案の概要】

本件は、親会社(ホールディンス)Y社が、子会社A社従業員の加入する組合の申し入れた団体交渉に応じないことが、不当労働行為に該当するかが争われた事案である。

初審東京都労委は、団交拒否は不当労働行為にあたるとして、文書交付を命じた。

これに対し、組合らは、団交応諾の救済を求め、また、Y社は、申立ての棄却を求めて、それぞれ再審査を申し立てた。

【労働委員会の判断】

不当労働行為には当たらない。

【命令のポイント】

1 ・・・以上によれば、A社の従業員の労働条件については、A社のみがこれを支配し決定することができる地位にあったというべきであって、Y社がA社の従業員の基本的な労働条件等について雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を及ぼしていたとはいえない

2 ・・・以上のことからすると、モバイル事業部を廃止し、X組合員を含む同事業部に所属する従業員を解雇することを決定したのは、A社であって、本件解雇について、Y社が雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を及ぼしていたとはいえない

3 以上のとおりであるから、Y社が本件解雇及び団体交渉について使用者の責任を負うとする組合らの主張は採用できず、Y社が、X組合員の基本的な労働条件や本件解雇について、労組法第7条の使用者に該当するということはできない

親会社等の労組法上の使用者性は、上記規範により判断されますが、なかなか認められないですね。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為115(W社事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、労組法上の使用者性が問題となった命令について見てみましょう。

W社事件(兵庫県労委平成26年9月25日・労判1110号92頁)

【事案の概要】

本件は、A社からA社の店舗D店等において食料品等の販売を委託されていたY社の解散に際し、X労働組合がD店において、Y社のパート従業員として就労していたX組合の組合員Bの雇用継続を求めてA社に団交を申し入れたところ、A社がBの使用者には当たらないことを理由に拒否したことが不当労働行為に該当するとして、また、A社がBを雇用しなかったことが不当労働行為に該当するとして、救済申立てをした事案である。

【裁判所の判断】

不当労働行為にはあたらない

【判例のポイント】

1 A社がY社に対して支配的地位にあるとはいえないことは、・・・で述べたとおりであるし、A社が、Y社に販売業務を委託したのは、独立を希望する社員の独立支援と、店舗ごとに個性を持たせて競争力を伸ばすことを目的に、制度として行っていたものであり、A社が違法又は埠頭な目的のためにY社の法人各を利用したとはいえない。
以上のとおり、Y社の法人格は形骸化しておらず、A社はY社の法人格を濫用していないのであるから、Y社の法人各を否認することはできない

2 ①Y社の使用する建物、設備及び備品をA社が無償で貸与することは、販売委託契約の内容として通常あり得るものと理解できるし、②Y社の株主や全ての取締役がA社の元従業員であるとしても、Y社においては、取締役会が開催され、人事、経営等に係る会社の意思決定がなされ、独立して経営を行っているのであるから、これらの事実をもってA社とY社が実質的に同一であるということはできない

3 団体交渉要求事項との関係で、A社の使用者性について検討すると、Bの雇用契約の不更新の原因となった解散については、Y社が、将来の経営状況が厳しいとの見地から自らの取締役会で決定したものであり、その決定に対してA社が影響力を行使したとの疎明はなく、さらに、・・・で判断した理由から、いずれの団体交渉要求事項についても、A社は、Bの労組法上の使用者であるとはいえない
よって、労組法7条2号の団体交渉拒否について、A社がBの使用者であると解することはできない。

法人格を否認するのは、本当に難しいです。

今回の事案でもハードルを越えることはできませんでした。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為114(三軌工業事件)

おはようございます。

今日は、二次下請会社の労組法上の使用者性に関する命令を見てみましょう。

三軌工業事件(滋賀県労委平成26年12月15日・労判速2239号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、あっせんにおいて、C組合員が組合に加入していることを理由に直接雇用の申込みを行うことに抵抗があると回答を行ったことが、不利益取扱いに当たり、また、本件団体交渉拒否に当たるとして、X組合が救済申立てをした事案である。

【労働委員会の判断】

Y社は労組法上の使用者には当たらない。

【命令のポイント】

1 Y社が労組法7条の「使用者」といえるためには、Y社が、就労に関する諸条件にとどまらず、C組合員の雇用そのもの、すなわち採用、配置、雇用の終了等の一連の雇用の管理に関する決定について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有している必要があると解される。

2 これを本件についてみるに、Y社がC組合員に対し、これら採用、配置、雇用の終了等の一連の雇用の管理に関する決定について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な関与等をしたことを認めるに足りる証拠はない

3 なお、X組合は、Y社がC組合員に対し、近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存する者であることを理由として、Y社が労組法7条の「使用者」に当たるとの主張はしておらず、また、それを認めるに足る事情もない。

ときどき登場する労組法上の使用者性に関する争点です。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為113(京都府(府立B高校)事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、団体交渉での対応が不当労働行為にはあたらないとした命令を見てみましょう。

京都府(府立B高校)事件(京都府労委平成26年11月18日・労判1106号92頁)

【事案の概要】

本件は、X組合の組合員であり、京都府が設置する京都府立B高等学校の非常勤講師に委嘱されていたAの平成24年12月31日付の解嘱等にかかる団交における府の対応が団交拒否に該当すると労組が主張して、不当労働行為救済申立てを行った事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為には当たらない

【命令のポイント】

1 本件団交を通じ、府は、労組の要求に対し譲歩しなかったものの、それは事実調査に基づく判断であって、団交においてその根拠を具体的に説明しており、労組の質問等にも論拠を示して反論したものと認められ、使用者の誠実交渉義務に反する点はないと判断される

2 使用者は、基本的に、関係者に対して適切と認められる調査を行い、その結果を団交で回答すれば足り、関係者自身を出席させる必要はないと解されるところ、府は校長に対して事実調査を行いその結果を団交で説明したと認められるから、本件団交に校長を出席させなかった府の対応は、不誠実とはいえない。

3 面談時メモについては、府は十分な事前の確認のないまま本件団交において、あたかも実際にその存在を確認したかのような説明をしながら面談時メモが存在すると回答したこととなり、このような府の対応には不適切な面があったといわざるを得ない。しかしながら、これは誤解によるものに過ぎず、このことのみをもって、誠実交渉義務に反する点はないとの判断をくつがえすに足りない。

4 以上のとおり、本件解嘱に係る本件団交の場での府の交渉態度は不誠実とはいえないと判断される。

上記命令のポイント1、2は参考になりますね。

頭に入れておきましょう。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為112(学校法人札幌大学事件)

おはようございます。

今日は、給与規程等の改正にかかる団交の対応と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

学校法人札幌大学事件(北海道労委平成26年10月10日・労判1106号93頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、X組合に対し、平成24年9月4日掲示の法人給与規程の改正について、改正理由を資料を示して説明することなく団交継続中に本件給与規程改正を一方的に施行するなどしたこと、また、教員の定年後の勤務延長任用に関して、法人教員勤務延長任用規程の改正の協議を労組に申し入れず一方的に実施するなどしたことが、不当労働行為に当たるとして、救済申立てがあった事案である。

【労働委員会の判断】

Y社の団交における対応は不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 Y社は、上記規程改正につき、財政状況の健全化のため人件費の削減が必要であることを説明するだけではなく上記規程改正が財政状況の健全化にどの程度寄与し、今後どの様に財政状況を健全化していくのか、財政状況の見通しや中長期的な経営方針などを明らかにするなどして、上記規程改正によって労働者の被る不利益の程度が必要以上に過大なものではなく、また、特定の労働者だけが不利益を被るものではないなど、経過措置や代替措置などの他の施策も含めて上記規程改正が財政状況を健全化する施策として適正なものであることを説明しなければならない

2 Y社は、上記規程改正によって労働者の被る不利益、特に勤務延長任用教員に対する年俸額の削減につき、これまで申入れをしていた段階的な削減から一律に年俸額480万円に削減すること、さらには校務の負担及び休職の廃止などの不利益につき、労組の要求や主張に対し、単に財政難である旨を繰り返すのではなく、段階的な削減から一律に削減することにした理由や必要性の論拠、さらには激変緩和措置の有無などに関する情報を提供したり、校務の理解に対する溝を埋めるような提案や説得をしておらず、十分な説明をしたとはいえない

3 よって、Y社は、上記規程改正に係る団体交渉において、労働条件の更なる不利益変更につき、誠実に対応したと認めることはできない。

使用者側の説明が不十分であるとして誠実交渉義務違反とされた例です。

労働条件の中でも、賃金は労働者にとって最も重要なものですから、他の労働条件の不利益変更と比べても、より一層の説明が必要です。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為111(想石事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、就労拒否と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

想石事件(茨城県労委平成26年11月20日・労判1106号91頁)

【事案の概要】

Xは、Y社の取締役製造部長であり、A組合の執行委員に選出された。

A組合は、Y社に対し、未払賃金の支払等を要求して団体交渉を申し入れた。

その後、Xは、取締役辞任届を提出した。

Y社はXに対し、「取締役としての一切の義務及び権利が無効となり、会社との一切の関係が消滅した」旨通知し、翌日からXの就労を拒否した。

【労働委員会の判断】

Xの就労拒否は不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 Xは、事業遂行に不可欠な労働力として会社の事業組織に組み込まれ、製造部門の業務に従事し、タイムカード打刻により労働時間を管理あるいは把握され、労務の対価としての報酬を受けていたものと評価できる。そうすると、XはY社との間で実質的な雇用関係にもあったものと考えるのが相当である

2 Xが会社の意を受けてA労組に加入した事実や、Xの加入によりA労組の運営等に関して、使用者の意向等が反映されたと思われるような事実については、一切認められないことを勘案すると、Xは労組法2条但書第1号により、労働組合への参加が制限される「役員」や利益代表者に当たるとまでは言えず、A労組も、労組法2条の要件を欠くものではなく、Xは労組法7条の保護を受ける労働者であると判断するのが相当である。

3 本件就労拒否は、未払賃金等や成果給、自動丸鋸機の問題などで敵対的な態度を見せるA労組を嫌悪したY社が、中心人物であるXを職場から排除することによって、A労組の組織や活動を弱体化することを企図した解雇であったと考えざるを得ないことから、労組法7条1号及び3号の不当労働行為に当たると判断する。

Y社の主張は、なかなか厳しいものがあります。

取締役であったとしても、上記命令のポイント1のような事情がある場合には、会社としても形式的な対応は避けるべきであると考えます。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。