Category Archives: 不当労働行為

不当労働行為140(P社(配転等)事件)

おはようございます。

今日は、通勤中の交通事故の後遺症を理由に、配転し、配転に伴い賃金を減額したことが不当労働行為にあたらないとされた事例を見てみましょう。

P社(配転等)事件(兵庫県労委平成27年12月24日・労判1130号90頁)

【事案の概要】

本件は、通勤中の交通事故の後遺症を理由に、大型トラックドライバーからパソコン解体開梱作業等に配転し、配転に伴い賃金を減額したことが不当労働行為にあたるかが争われた事例である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にはあたらない

【命令のポイント】

1 Y社は、Xの本件事故による症状固定後の状況について、集中力、注意力が低下しているにもかかわらず、その自覚症状がなく、適切な安全対策が取れないような状態であって、大型トラックを運転させることは非常に危険であると判断したものであり、安全管理上、Xを大型トラックドライバーから配置転換したことには合理的な理由があるものと認められる。

2 本件賃金減額について、本件配置転換によって職務が変更になったことに伴うものであること、結果としてXの明確な同意が得られたとは言えず、その点において、私法上問題があると評価される余地があるものの、Y社はXに対して同意を得るよう、それなりに話し合いをしていること、加えて平成25年3月21日の団体交渉において、Y社が、職種の変更に伴い賃金の減額が生じるが、障害年金が支給されることによって減額分は補填されるなどと説明したことからすると、Y社がXの賃金月額が減少するとしても、減額分は障害年金により補填されると認識していたものと推認できることを併せ考えれば、Y社の労組に対する嫌悪を決定的な動機としてなされたものということはできず、不利益取扱い及び支配介入の不当労働行為に該当すると認めることはできない

この決定は非常に参考になりますね。

私法上問題がある場合でも、会社に組合嫌悪の動機が認められない場合には、不当労働行為にはあたらないと判断される場合があるということです。

どのような事情が結論に影響しているのか、是非、参考にしてください。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為139(廣川書店事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、組合の申し入れた春闘要求および一時金を議題とする団交に会社が誠実に対応しなかったことが不当労働行為にあたるとされた事例を見てみましょう。

廣川書店事件(東京都労委平成27年10月6日・労判1128号94頁)

【事案の概要】

本件は、組合の申し入れた春闘要求および一時金を議題とする団交に会社が誠実に対応しなかったことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 ・・・これらの団体交渉は、いずれも、25年12月27日の本件申立ての1年以上前の行為であるから、これらの団体交渉に係る申立ては期間とかにより却下を免れない
なお、組合は、上記団体交渉に係る事実は、労働組合法27条2項に規定する継続する行為に該当すると主張するが、本件団体交渉事態は、その都度完結したものと解されるのであり、継続する行為であるということはできない

2 そもそも、Y社が、賃上げについては11年以降25年まで15年連続でゼロ回答に、一時金については16年夏季から25年冬季まで10年連続で「30万円±20万円」という回答に終始していること自体、会社回答の合理性を疑わせるものであって、会社としては、自らの回答を根拠付ける資料を開示した上で、賃上げできない理由や一時金の金額の根拠を誠実に説明し、組合との交渉に真摯に臨む必要があった
しかし、・・・会社は、団体交渉において、一環して自らの結論を述べるのみであり、組合が、会社回答の根拠を求めても、これまでの実績と同額・・・、考えを変えるつもりはない、何も言うことはないなどと応答するのみで、組合に対し何ら回答の根拠を示さず、交渉によって妥協点を見いだそうとする態度を示すことはなかった
・・・したがって、・・・会社の対応は、不誠実な団体交渉に該当する。

上記命令のポイント1はあまり見かけない判断ですね。

労働組合法27条2項 「労働委員会は、前項の申立てが、行為の日(継続する行為にあつてはその終了した日)から一年を経過した事件に係るものであるときは、これを受けることができない。

これが根拠条文です。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為138(東京航業研究所事件)

おはようございます。

今日は、労組法上の労働者性、使用者性が争われた事案を見てみましょう。

東京航業研究所事件(東京都労委平成27年10月20日・労判1128号93頁)

【事案の概要】

本件は、(1)XらがY社との関係において、労組法上の労働者に、(2)Y社がXらとの関係において、労組法上の使用者に、ならびに(3)Y社が本件団体交渉申入れに応じなかったことが正当な理由のない団交拒否に、それぞれ当たるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にはあたらない

【命令のポイント】

1 X2は、会社の取締役であるとともに、整理室の主宰者として、会社と文化財整理業務の受注契約(業務請負契約)や建物賃貸借の契約を締結していたが、同人が会社との間で労働契約を締結した事実はなく、Xは、会社との委任契約に基づく取締役であり、かつ、外注先の事業者であったと認められる

2 ・・・以上のとおり、労働者性を判断する諸要素を総合的に考慮しても、X2は、労働契約によって労務を供給する者又はそれに準じて団体交渉の保護を及ぼす必要性と適切性が認められる労務供給者には該当せず、会社との関係において、労組法上の労働者に当たるとはいえない

3 X2の労働者性は認められず、また、会社は、X3らの使用者とは認められないのであるから、組合がX2らに関して申し入れた団体交渉について、会社に応諾義務があったということはできず、会社が本件団体交渉申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。

使用者との雇用契約が存在しないことだけでは労組法上の労働者性、使用者性は否定されません。

実際、雇用契約が存在しなくても労組法上の労働者性、使用者性が認められているケースもあります。

本件ではハードルを越えることはできませんでした。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為137(埼玉県国保連合会事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、臨時職員である組合員の雇用契約更新に当たり、組合と交渉することなく、組合員に雇用契約更新回数の制限などの条件を個別に提示したことが不当労働行為にあたるかが争われた事例を見てみましょう・

埼玉県国保連合会事件(埼玉県労委平成27年10月22日・労判1126号87頁)

【事案の概要】

本件は、臨時職員である組合員の雇用契約更新に当たり、組合と交渉することなく、組合員に雇用契約更新回数の制限などの条件を個別に提示したことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたらない

【命令のポイント】

1 Y社が、契約期間が3月31日までの臨時職員に対して、4月1日以降の契約更新に係る個別面接を2月下旬に行うことは、対象者の更新希望の有無を確認し、更新を決定するのに必要な行為であり、その内容、時期からして合理的なものといえる。
また、その態様・程度も例年どおり更新希望の確認と勤務条件等の書面への署名又は押印を求めるもので、個別面接の趣旨からして合理的な範囲にとどまる

2 組合は、個別面接当日の朝に団体交渉を申し入れたことをもって、異議申入れをしたのにY社が個別面接を強行したかのような主張をなすものであるが、当該要求書には「3月7日までに団体交渉を行うことを申し入れます。」と記載されていることから組合が団体交渉を個別面接時に行うように申し入れたとは認めることができない。また、前述のとおりこの時期に個別面接を行うことは合理的なものと言えることから、当該要求書をもってY社が個別面接の中止や延期をすべきであったとみることもできない。執行委員長を含む組合員においても個別面接実施自体を異議なく受け入れ、勤務条件等の書面に各自了承サインまでしている。

3 よって、・・・組合嫌悪の念から組合の存在を否定し、あえて個別面接を行ったものとは言えず、労組法7条3号で禁止する支配介入に該当しない。

団体交渉継続中に、組合を飛び越して、各組合員と交渉をすることは原則として許されませんが、今回の事案は、特に不合理な対応ではなかったため、不当労働行為にはあたりませんでした。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為136(NHK(全受労堺支部)事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、交渉ルールおよび労使慣行を理由に、労組支部の指定する者が出席する支部との団交に応じなかったことが団交応諾義務に違反するかが争われた事例を見てみましょう。

NHK(全受堺支部)事件(中労委平成27年11月4日・労判1126号86頁)

【事案の概要】

本件は、交渉ルールおよび労使慣行を理由に、労組支部の指定する者が出席する支部との団交に応じなかったことが団交応諾義務に違反し不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる。

【命令のポイント】

1 本件出席ルールについてY社とX組合との間で合意があったと認めることはできず、本件出席ルールがY社とX組合との間で拘束力を有していたものとはいえず、事前了解や本件出席ルールを根拠にY社の団交拒否に正当な理由があったと認めることはできない

2 労働組合の交渉担当者の選任は労働組合の自主的判断に委ねられるものであるところ、X組合側の出席者はA特別執行委員一人ではなく、従前から交渉していたX組合の者もいるのであり、基本的にY社側で前提事項の説明等を繰り返す必要が生ずるなどして交渉に顕著な混乱が生じるおそれがあるとはいえず、A特別執行委員自身に交渉を行う上で不適切とされるような問題があるとの証拠もない。仮にY社が交渉に混乱が生じるおそれがあると懸念するとしても、それは交渉の具体的方法の問題として、X組合との間の事務折衝等において具体的に懸念を表明し、混乱するような事態が生じないように進行を打ち合わせたり、X組合が事前にA特別執行委員との間で入念な準備等をしたりするなど自主的な取組によって解決することが可能な事柄であり、このような手順を踏むことなく、一律に出席を拒否する正当な理由とはならない

上記命令のポイント2は押さえておきましょう。

安易に団交を拒否することは避けましょう。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為135(甲野堂薬局事件)

おはようございます。

今日は、担当商品の賞味期限切れを理由として、組合員に業務改善を命じ、損害賠償を請求し、出勤停止処分に付し、解雇したことが不当労働行為にあたるかについて判断した事案を見てみましょう。

甲野堂薬局事件(中労委平成27年7月1日・労判1126号89頁)

【事案の概要】

本件は、担当商品の賞味期限切れを理由として、組合員Aに業務改善を命じ、損害賠償を請求し、出勤停止処分に付し、解雇したことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

なお、Y社とAは、それぞれ地位不存在確認等請求および地位確認等請求の別件訴訟を提起していたが、平成25年12月19日、Aの解雇を無効とし、地位確認について最高裁で確定し(最判平成26年3月6日)、Y社は、解雇期間中の賃金を支払い、Aは、会社に復職している。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる。

【命令のポイント】

1 解雇の理由がA組合員の些細な言動をあえて指摘したに過ぎないものであったこと、Y社がA組合員を会社から追い出したいと考えていたものと推認されること、労使間の対立がピークを迎えていた状況下で同解雇が行われていたものであったことからすれば、当該解雇は、A組合員の活動をけん制ないし抑制することを目的としていたY社が、社内の唯一の組合員であったA組合員を会社から追い出すことを企図し、業務改善命令及び損害賠償請求を始めとする一連の行為の最後の仕上げを目的として行ったものと認めるのが相当である。

2 以上からすると、Y社の21年11月30日付け業務改善命令及び損害賠償請求、同日付け懲戒処分、同年12月30日付け業務改善命令並びに22年2月23日付け解雇はいずれもA組合員が組合員であることないし同人の組合活動を理由として行われたものであり、労組法第7条第1号の不利益取扱いに当たる。

組合員に対する解雇等に合理的理由が認められない場合には、不当労働行為にあたります。

このような場合の不当労働行為該当性については、労働組合法特有の話というよりは、一般的な解雇事案と同様の判断をすれば足ります。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為134(H運送事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、賃上げの団交において回答の根拠となる財務諸表の持ち帰り及び書き写しを拒否したことが不当労働行為とされた事例を見てみましょう。

H運送事件(大阪府労委平成27年7月28日・労判1124号91頁)

【事案の概要】

本件は、賃上げの団交において回答の根拠となる財務諸表の持ち帰り及び書き写しを拒否したことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 Y社は、①そもそも、労働組合に使用者の会計書類の閲覧謄写請求権はない旨、②Y社は、団交の席上において、資料を提示し、閲覧に応じたものであり、さらには、専門家の同道を条件に、会社備付けの会計書類の閲覧を申し出たのであるから、組合の資料提出要求への対応としては、それで必要かつ十分である旨主張する。
しかしながら、労働組合に使用者の会計書類の閲覧謄写請求権があるか否かの問題と、会計書類についての使用者の団交における対応が不当労働行為に当たるか否かとは別の問題であり、Y社の①の主張には理由がない。
Y社の②の主張については、確かに、使用者は、団交に際し、労働組合が求める資料の全てを開示し、提供することまで求められるものではない。しかしながら、使用者は、団交での労使の合意形成に向けて、自らの主張を十分に説明し、相手方の理解を得る努力をしなければならず、これらを怠った場合には、使用者の対応は不当労働行為となり得るものである

2 ・・・そうすると、Y社は、24年春闘に係る団交において、組合の要求に応じられない理由を十分に説明し、組合の理解を得る努力をすることなく、組合が求めた資料の持ち帰り及び書き写しを拒否したのであって、かかるY社の行為は不誠実であり、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である。

会社の気持ちはわからないではありませんが、残念ながら不当労働行為にあたります。

経営者のみなさんは、まずは団体交渉のルールを過去の事例等から一通り勉強する機会を設ける必要があります。

多くの場合、ルールを知らないことが原因とトラブルが拡大化しているように思いますので。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為133(泉佐野市(チェック・オフ)事件)

おはようございます。

今日は、Y市が、事務手数料徴収にかかる契約の締結に応じないことを理由に組合費のチェック・オフを中止したことが不当労働行為にあたるとされた例を見てみましょう。

泉佐野市(チェック・オフ)事件(大阪府労委平成27年7月28日・労判1123号165頁)

【事案の概要】

Y市が、事務手数料徴収にかかる契約の締結に応じないことを理由に組合費のチェック・オフを中止したことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 一般に、使用者には労働組合に対して便宜供与を行うべき義務はなく、使用者が便宜供与を中止又は組合に不利益のある方式に変更することが、直ちに不当労働行為に当たるとはいえないが、本件においては、昭和49年頃から、給与条例に基づき組合費は事務手数料を徴収することなくチェック・オフされてきたことが認められ、このように、長期間継続されてきたチェック・オフを中止又は変更するには、合理的な理由が必要であり、Y市は、組合に対し、その理由を明らかにして説明を行い、理解を得る努力を行う必要があるというべきである。

2 Y市の組合への説明状況等についてみると、Y市が組合に交付した文書には、行政改革の一環として、便宜供与のあり方について見直しを行い、給与からの控除について事務手数料を徴収することにした旨の記載があることは認められるが、これ以外に事務手数料の導入の経緯や根拠、理由を記載した部分は見当たらず、また、チェック・オフを中止するまでの間に、Y市が組合に対し、給与からの控除に係る事務手数料を徴収することについて理由等を記載した書類を別途、交付し、説明をしたとする疎明はない。

3 したがって、Y市は、長期間にわたり便宜供与として行ってきたチェック・オフについて、慎重な検討を行わないまま、事務手数料を徴収することを決定し、組合に対し、その決定に従わなければチェック・オフ自体を中止するという態度を取り、必要な説明もないまま一方的に負担を強いたというのが相当である。
以上のとおりであるから、Y市が、組合費のチェック・オフについて、事務手数料を徴収する旨申し入れ、組合が事務手数料の支払に応じなかったことを理由に、チェック・オフを中止したことは、組合に対する支配介入に当たり労組法7条3号に該当する不当労働行為である。

一度導入した制度を長年にわたって採用し続けてきているわけですから、制度を廃止する場合には、その合理的な理由を説明しなければ、組合だって納得しません。

だからこそ、使用者は、その場のノリや軽い気持ちで新しい制度を導入することは避けるべきなのです。

個々の従業員との関係における労働条件の不利益変更の問題もまさに同じ視点で考えるべき問題です。

導入するのは簡単ですが、廃止するのはとても大変なのです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為132(学校法人順正学園事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、団交開催までに長期間を要したことおよび賃金は人事院勧告に準拠しているとの説明に終始したY学園の対応が不当労働行為とされた例を見てみましょう。

学校法人順正学園事件(岡山県労委平成27年7月23日・労判1123号166頁)

【事案の概要】

本件は、団交開催までに長期間を要したことおよび賃金は人事院勧告に準拠しているとの説明に終始したY学園の対応が不当労働行為に該当するかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる。

【命令のポイント】

1 上記の団体交渉に至る経緯については、いずれも、Y学園は組合の団体交渉の申入れに対して、速やかに返答せず、組合から日程調整の督促を受けて対応している状況が認められ、こうした学園の対応は誠実な態度とは認めることができず、誠実交渉義務に違反するものである。

2 国家公務員の給与を賃金の基準とすることも、それ自体は不合理なものではなく、また、学園事務局の給与担当者の人数を考慮すれば、学園の主張する人勧準拠にも一定の合理性は認められ、そして人勧準拠とするかどうかは学園の裁量的判断事項に属するものである。
しかし、Y学園に問われているのは、団体交渉の際、Y学園が組合に対し、組合の理解を得られるように、人勧準拠が合理的であるとする根拠を一定の財務資料を含む具体的な資料等を示して説明するなどの努力をしたかどうかの点にあるのであって、本件救済申立てまでの学園の態度は、人勧準拠という結論を述べるにとどまっており、誠実な交渉態度と評価することはできない

3 組合が開示を求めている賃金支給要領が労働条件に関するものであることは明らかであり、その運用の基準が明らかとならない限り、これに関する労働条件を話し合う基礎となるものがないことになるから、仮に手元資料的なものしかないとしても、その内容を組合に示し、その運用について真摯に話し合うのが適切な団体交渉のやり方であり、組合設立以降、長年にわたる組合からの開示要求に対し開示をしていない状況が継続していたことを踏まえると、26年1月21日の団体交渉における学園の対応も、誠実な交渉態度であったと認めることは困難である

使用者側は、具体的な説明を避けたい気持ちが働くと、このような対応になってしまいがちです。

しかし、誠実交渉義務を負っている以上、団体交渉でお茶を濁してその場を納めることは無理だと理解しなければなりません。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為131(日本郵便(越谷局)事件)

おはようございます。

今日は、組合員の懲戒処分に関して苦情処理会議で審理されたことなどを理由に団交に応じなかったことが不当労働行為とされた命令を見てみましょう。

日本郵便(越谷局)事件(埼玉県労委平成27年10月7日・労判1123号163頁)

【事案の概要】

本件は、組合員の懲戒処分に関して苦情処理手続で審理されたことなどを理由に会社が団体交渉に応じなかったことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる。

【命令のポイント】

1 義務的団交事項は、団体交渉の対象事項のうち、団体交渉の対象事項のうち、団体交渉権保障の核心的部分を構成するのであるから、法的保障の意義は大きく、それを制限することは原則として許されない。義務的団交事項は、憲法28条及び労組法によって使用者に対する労働組合からの団体交渉申入れに応じなければならない義務を伴って保障されているからである。

2 すなわち、組合員の労働条件や処遇に関する基準については団体交渉で行い、組合員の処遇等に関する個別的人事権の行使については苦情処理手続で行うというように、区別して各々の手続に委ねることを労働協約に定め、個別的人事権の行使に関する事項を団体交渉の対象事項から除外し、苦情処理手続の下に据えること自体は可能である。しかし、その場合には、団体交渉権保障の趣旨を尊重し、苦情の内容を十分に聴き取る姿勢が示される実質的な審理がなされ、会社側は自らの主張について客観的な資料に基づいて説得するなど労使対等の立場で問題解決にあたるといった団体交渉の趣旨を損なわないものでなければ、団体交渉制度に代置するとはいえない

3 ・・・以上によれば、個別的人事権の行使に関する事項を団体交渉の対象事項から除外し、苦情処理手続に代置する本件協約等の定めは、規定上からは、苦情処理手続が団体交渉権の保障する実質審査を例外的に保障するにとどまるものに過ぎない。
また、実際の運用においても、苦情の内容を十分に聴き取る姿勢が示されたり、会社側が自らの主張について客観的な資料に基づいて説得したりするなど労使対等の立場で問題解決にあたるといった団体交渉の趣旨を損なわないような実質審査を行っているとは認められない。
よって、本件苦情処理手続は、団体交渉権保障の趣旨に照らして団体交渉に代置しうるものとはいえない

4 以上のとおり、本件協約等における苦情処理手続は、個別的人事権の行使に関する事項について、団体交渉に代わって、実質的で慎重な協議や審理が行われることが制度的に担保されているとはいえない。
また、現にそのような運用がなされていると評価することは到底できない。
したがって、実質的に団体交渉に代わる手続として機能しているとみなすことはできない。
よって、・・・かかる会社の対応は、労組法7条2号の不当労働行為に該当する。

あまり見ることのない争点ですね。

苦情処理手続をもって団体交渉の代わりとすることは、よほどの手続的な保障をしない限り、使用者が団交応諾義務を果たしたとはいえないのではないでしょうか。

そう考えると、あえてこのような制度を設ける意義があるのか疑問です。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。