Category Archives: 不当労働行為

不当労働行為150(アドバンストコミュニケーションテクノロジー事件)

おはようございます。

今日は、取引先会社における派遣業務が終了した組合員に対し、自宅待機を命じ、給与を減額支給したことの不当労働行為該当性に関する命令を見てみましょう。

アドバンストコミュニケーションテクノロジー事件(中労委平成28年6月1日・労判1136号168頁)

【事案の概要】

本件は、取引先会社における派遣業務が終了した組合員に対し、教育訓練を受講させずに自宅待機を命じ、給与を減額支給したことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 Xに対する自宅待機命令当時の賃金規程第20条によれば、Y社は、派遣業務を終了して未稼働状態となった社員に対し、教育訓練又は休業(自宅待機)を命じることがあり(基本的には教育訓練を行うとされている。)、教育訓練を受講した場合に支給される基準内賃金は、1か月目が90%、2か月目以降は80%と定められているのに対し、自宅待機の場合に支給される基準内賃金は60%と定められている
Xは、自宅待機を命じられ、上記規定に基づき、自宅待機中の給与について、基準内賃金を60%に減額され、同時に、教育訓練を受講し、技術者としての自らのスキルを向上させる機会を失うなどしたのであるから、教育訓練を受講した場合に比べて経済上及び職業上の不利益を被ったことは明らかである。

2 Y社は、Xに対し、合理的な理由もなく教育訓練を行わずに自宅待機を命じており、このような扱いを受けたのはXのみであったこと、Y社は、Xへの自宅待機命令当時、労組の協力に基づき結成された準備会を問題視し、Y社に対する批判や要求を疎ましく思っていたと認められることからすれば、Xに対する自宅待機命令は、準備会の結成メンバーとしてY社を批判し、労働条件や職場環境の改善等を要求していることを理由に、同人を社外に排除するために行われたものというべきであるから、同自宅待機命令及びその機関中に教育訓練を受けた場合と比較して給与を減額支給したことは、労組法第7条第1号の不利益取扱いに該当すると認めるのが相当である
また、Xに対する上記不利益取扱いは、組合活動を萎縮させ、また、社員に対する組合への加入を思い留まらせる効果等を有すると認められるから、同時に同条第3号にも該当する。

教育訓練を行わずに自宅待機を命じたことについて合理的な理由を説明できればよいのですが、できないとなると不当労働行為になってしまいますね。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為149 会社分割後の事業閉鎖を理由とする組合員の解雇と損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、会社分割後の事業閉鎖を理由とする組合員の解雇と損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

生コン製販会社経営者ら(会社分割)事件(大阪高裁平成27年12月11日・労判1135号29頁)

【事案の概要】

本件は、X組合とその組合員らが、本件組合壊滅を目的とした会社分割とその後の事業閉鎖で組合員らが実質的に解雇されたとして、分割前会社であるY社の元代表取締役であるA、新設会社であるZ社代表取締役B、会社分割を進めた司法書士Cらに対し、会社法ないし不法行為による損害賠償を請求する一方、Aとその妻であるDが、本件組合・組合員らによる自宅付近での街宣などの差止め、損害賠償を請求した事案である。

一審は、Bの責任を認めた一方で、その他の被告の責任は認めなかった。

【裁判所の判断】

原判決中、Cに関する部分を取り消す。

Cは、組合員らに対し、合計約850万円を支払え

【判例のポイント】

1 会社分割の方法を用いることにより本件会社から本件組合の組合員を排除するとの方法を発案することは、会社分割に関する相当な法的知識を有する者でなければできないことであるところ、Aの周辺にそのような法的知識を有するものは、C司法書士以外に見あたらない(Aは、インターネットや本で調べた上で債権者と相談したが、C司法書士に相談したことはない旨供述するにとどまり、具体的な債権者名等については、供述を拒んでいる。)。
加えて、本件会社の分割は、Aにとって非常に重要なことであるにもかかわらず、あえて上記の組合員排除という目的をC司法書士に秘匿したまま、登記手続を依頼し、かつ前記のような質問を発するというのも、不自然不合理であるといわざるを得ない。

2 A、C司法書士及びBは、共謀の上、本件会社の事業のうち製造部門をZ社(会社分割における新設会社)に承継させ、本件組合の組合員である本件従業員らが所属する輸送部門を分割会社である本件会社に残すという会社分割をし、その後、分割後の本件会社の事業を閉鎖することにより、本件会社から本件組合の組合員である本件従業員らを排除することを企て、A及びC司法書士において上記のとおり本件会社分割を行い、その後、Aにおいて分割後の本件会社の事業を閉鎖したことが認められる。
上記によれば、A、C司法書士及びBは、共同して本件従業員ら及び本件組合の権利を故意に侵害したものであり、それは民法719条1項の共同不法行為に当たるというべきである。

濫用的会社分割により組合員を排除したと認定されています。

今回のスキームを考えたのが司法書士と認定され、共同不法行為に該当するとされています。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為148(日幸製菓事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、賃金要求に対して全従業員との個別面談後に回答するとしたことなどが不当労働行為にあたるとした命令を見てみましょう。

日幸製菓事件(中労委平成27年11月18日・労判1134号95頁)

【事案の概要】

本件は、組合からの賃金要求に対して全従業員との個別面談後に回答するとしたことなどが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 ・・・同年8月23日に開催された団交において、全従業員との個別面談を行った後に回答するとして、「賃金に関する要求」に対する具体的な回答を行わず、回答の根拠となる資料を示さなかった会社の対応は、合理的な理由なく不当に回答を引き延ばす不誠実なものであって、労組法7条2号に該当する不当労働行為であると認められる。

2 他方で、会社は、・・・第4回団交までに人事評価に係る評価項目の概要、評価ランクの定め方及び評価者等、支給基準に関する事項について相当の説明を行っており、また同団交において、それまで不開示としていた評価ランクの人数分布について開示するなど、組合が開示を求める理由が必ずしも具体的かつ十分に説明されない状況において、開示について一定程度協力的な姿勢をみせていることからすると、部門ごとの具体的な評価項目及び各評価ランクの平均金額を開示しないことをもって不誠実であったとまでは認められない。

資料の提示を拒否する場合には、その合理的な理由を説明できないと不誠実団交として不当労働行為に該当します。

また、回答について合理的な理由なく先延ばしを繰り返すのも同様です。

気をつけましょう。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為147(日本ロール製造事件)

おはようございます。

今日はパイプ事業部縮小に伴う組合員の雇用及び労働条件に関する団交における会社の対応が不当労働行為に当たらないとされた命令を見てみましょう。

日本ロール製造事件(中労委平成28年1月6日・労判1134号94頁)

【事案の概要】

本件は、パイプ事業部縮小に伴う組合員の雇用及び労働条件に関する団交における会社の対応が不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたらない

【命令のポイント】

1 本件団交において、Y社は、パイプ事業部は続ける、雇用は守ると回答するだけでなく、事業契約についての説明会を行うとともに、事業計画についての書面も組合に提出し説明する等、OEM先との交渉中であることを踏まえ、本件団交当時にできる範囲の具体的な説明をしており、加えて、パイプ事業部の経営状況も可能な限り説明していたのであるから、こうしたY社の対応は、不誠実なものとはいえない。

2 Y社は、4月18日の団交において、パイプ事業部は続けていく旨回答しているが、5月9日の団交において、パイプ事業部の事業計画がはっきり決まっていない、パイプ事業部を存続させるために努力している、雇用を守べく努力している等と回答していることからすると、4月18日のパイプ事業部は続けていく旨の会社の回答は、パイプ事業部を存続させるために努力することを明言したものとみるのが相当である。

3 Y社はOEM先と交渉中であり、それが確定しないとパイプ事業部の具体的な事業計画を立てられる状況になく、組合員の労働条件や処遇への影響も不確定で十分に説明できるような状況にはなかったと認められる。このような状況の下で、パイプ事業部の存続と赤字脱却のための将来展望について、会社が本件団交でした以上の説明を求められるとすることはできないから、会社の対応が不誠実とはいえず、組合の主張は採用できない。

会社とすると「できる限り」の説明をすることが求められます。

ときに、組合から回答困難な質問が投げかけられることもありますが、会社として、回答できないと判断した場合には、その理由を説明しなければなりません。

説明に合理性が認められる場合には不当労働行為にはあたりません。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為146(高槻市(交通部)事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、組合との協定締結拒否と不当労働行為に関する命令を見てみましょう。

高槻市(交通部)事件(大阪府労委平成28年1月8日・労判1134号93頁)

【事案の概要】

本件は、道路交通法により免許停止となった市営バス乗務員である非常勤職員の失職に関する協定締結に応じなかった市の対応が不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 市はX2とは協定を締結しながら、組合と協定を締結しない理由として、平成25年4月1日付けの改正により非常勤職員就業要綱に1日免停で失職しないことが盛り込まれたことを挙げる。
しかし、非常勤職員就業要綱は、使用者たる市がその考えにより設定、変更するものであるのに対し、協定書は労使間の合意であり、その内容を変更しようとすれば、協定の相手方である組合の意向を無視することはできないのであるから、組合が両者の性質は異なるとして、協定化を求めるのには理由があり、非常勤職員就業要綱が従前からの組合の要求を満たすように改正されたからといって、市が組合からの協定締結申入れに応じる必要はないというものではない

2 以上のとおりであるから、市が組合との間で、X2協定書と同内容の協定を締結しないことは、組合員の労働条件に関する組合からの要求事項について協定化を拒み、正当な理由なくX2に比して均衡を欠く扱いをしたものというのが相当であって、かかる行為は組合を弱体化するものであり、組合に対する支配介入に当たり、労働組合法7条3号に該当する不当労働行為である。

他組合との比較で労使協定を締結しないことが支配介入にあたると判断されています。

複数組合が存在する場合には、注意が必要です。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為145(富士美術印刷事件)

おはようございます。

今日は、組合活動による会社の信用毀損に基づく損害賠償請求が認められた裁判例を見てみましょう。

富士美術印刷事件(東京地裁平成28年2月10日・労経速2277号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、Xらに対し、ビラ等の内容が虚偽であって、Xらの行為によりY社の信用が毀損され、その結果、Y社は取引先との取引が打ち切られるなどの損害を被ったと主張して、共同不法行為に基づき、損害賠償金2200万円+遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Xらは、Y社に対し、連帯して350万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xらが所属する労働組合は、団結権及び団体交渉権が保障されており、組合員である労働者のために、その労働条件を始めとする経済的地位の維持、向上を目指して活動することが認められていることに鑑みれば、労働組合が配布したビラ等の文書、掲示した幟及び横断幕等の表現が、結果的に他者の名誉又は信用を毀損しても、表現内容の真実性、表現自体の相当性、表現活動の動機、態様、影響等一切の事情を考慮し、正当な組合活動として社会通念上許容された範囲内のものであると判断される場合には、違法性が阻却されると解すべきである。

2 ・・・以上のとおり、本件各表現の内容が重要な部分において真実であることの証明がなく、また、その内容の重要な部分を真実と信ずるにつき相当な理由があるとは認められないにもかかわらず、表現活動が行われたことからすると、その余の表現自体の相当性、表現活動の動機、態様、影響等について検討するまでもなく、本件各表現は、仮に組合活動であるとしても、正当な組合活動として社会通念上許容された範囲を超えており、違法性は阻却されないというべきである。

3 A社がY社との取引を打ち切った理由については、Y社が倒産する恐れがあると判断したことが原因であるのか、Y社において争議行為が行われていることが原因であるかが判然としないところ、他に、A社との取引中止に関する事情を裏付ける証拠はないことからすれば、Xらの行為とA社との取引中止による損害との間には、相当因果関係が認められない
・・・また、Xらの行為を見たA社以外の取引先数社から、Y社との取引を打ち切られたものの、その理由については特に告知されていないことが認められる。そうすると、上記数社がY社との取引を中止した理由については不明というほかなく、Xらの行為と上記数社との取引中止の間にも、相当因果関係が認められない。

4 本件各表現の態様及びビラ等の内容は、・・・これらの行為は約1年半の間、不特定又は多数の人が認識し得る態様で多数回にわたり繰り返されていること、現に、Y社の取引先は、Y社の本社を訪問した際に、幟、横断幕及びXらによる演説などを見て、Y社に対し、倒産したのかと問い合わせることがあり、Y社は、その度に説明に追われたことなどの諸事情を考慮すれば、本件各表現の結果としてY社の信用が毀損されたことによる損害は350万円であると認定するのが相当である。

組合活動に対する使用者側の対抗手段としては、まずは差止めの仮処分が考えられます。

それに加えて、今回の裁判例のように損害賠償請求をするということです。

ご覧のとおり、裁判所が認定してくれる金額は、それほど高額にはならないことを予め理解しておきましょう。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為144(国立大学法人福岡教育大学事件)

おはようございます。

今日は、組合員である教員に対する任用差別に関する命令を見てみましょう。

国立大学法人福岡教育大学事件(福岡県労委平成28年1月29日・労判1134号92頁)

【事案の概要】

本件は、①組合のビラ配布活動に参加したことを理由に組合員を大学院教育学研究科長に任命しなかったことが不当労働行為にあたるか、②未払賃金請求訴訟の原告となっていることを理由に組合員を教育研究評議会評議員に指名しなかったことが不当労働行為にあたるか、が争われた事案である。

【労働委員会の判断】

①、②ともに不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 本件ビラ配布の目的を検討すると、本件ビラは、組合が、25年11月の学長選考が教職員の意向投票とは異なる結果となったこと及びその理由が明らかにされていないことについて、大学の自治や民主的運営上問題があるとして、組合が学長選考会議の再審議を法人に求めていることを外部に説明するとともに、そのような組合の活動への支援を呼びかけるものである。
学長選考は、組合員の労働条件に直接関わるものではないが、・・・間接的ではあっても、そこで働く教職員の労働条件にも影響を及ぼすことがあると考えられることという諸事情を考え合わせると、本件ビラ配布活動は、大学の教職員で組織される労働組合の正当な活動の範囲内であると考えられる
・・・以上のように、法人がA教授を研究科長に任命しなかったことは、同人の正当な組合活動を理由としてなされた「不利益な取扱い」であり、労組法7条1号の不当労働行為に該当する。

2 Bら4名は、提訴時の組合執行委員長と書記長並びにその前任の執行委員長と書記長といういずれも組合の重要な役職にある者であり、訴訟の対象が賃金の減額という基本的な労働条件に関わるものであることからすると、本件訴訟の提起は、組合の重点活動として行われたものと認められる
また、組合が、労働条件の維持改善を図るため、訴訟などの法的手段を利用することは、組合活動として特に問題はない。
・・・以上を併せ考慮すると、法人は、B書記長が書記長という重要な地位にあり、正当な組合活動を行ったことを理由として評議員に指名しないという「不利益な取扱い」を行ったものといわざるを得ない。
以上のとおり、法人によるB書記長に対する評議員の指名拒否は、同人の正当な組合活動を理由としてなされた不利益取扱いであり、労組法7条1号に該当する不当労働行為である。

労働条件に直接関わることでなくても、それだけ義務的団交事項から除外されると考えるのは危険です。

義務的団交事項については、使用者が考えるよりも広く解釈される傾向にありますので、注意しましょう。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為143(神明解体工業事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、団交応諾義務、誠実交渉義務に関し争われた事例を見てみましょう。

神明解体工業事件(兵庫県労委平成28年2月18日・労判1132号86頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、平成26年夏季一時金の団交において、X組合との交渉過程で合意・確認したところに反し、次の団交で初回回答からの増額回答をせず、一時金とは無関係の、過去において会社が支払義務を認めた債務の一部支払いをもって増額分に充てるという提案をし、またX組合が求める販売費および一般管理費の内訳を開示しないなどその交渉態度が不誠実であり、さらに、妥結に至っていない一時金を一方的に支払うことで団交を打ち切ろうとし、これらの行為が不当労働行為に該当するとして、救済の申立てがあった事案である。

【労働委員会の判断】

販売費および一般管理費の内訳を開示しなかったことは不当労働行為に該当する。

その余は不当労働行為に該当しない。

【命令のポイント】

1 団体交渉において、会社には交渉妥結に向けて組合の理解を得るために必要な資料を示して説明するなどの努力をすべき義務があることは上述したとおりであり、会社の上記のような対応は、過去の団体交渉において、平成20年度からの売上高の推移等の資料を示してしたとしても、会社の経営状況が一時金についてどの程度の支払が可能な状況かについて、組合の理解が得られるように説明する努力を十分に尽くしたとは認め難い

2 第4回と第5回の団体交渉に応じていることからも、会社は交渉の打ち切りをもくろんで支給したとは認められないし、第4回と第5回の団体交渉においては、現在の経営状態では、当初回答の額が支給できる限界であり上積みをすることができない趣旨の回答をしているのであって、このことは第1回の団体交渉の回答から変わるものではないが、ことさら団体交渉を形骸化させようとする態度であるとは認められない

必要な資料の開示を拒否すると、不当労働行為に該当しますので注意しましょう。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為142(T社(懲戒解雇)事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、確定判決に基づく債権差押命令の申立てを理由に組合員1名を懲戒解雇したことが不当労働行為にあたるとされた事例を見てみましょう。

T社(懲戒解雇)事件(大阪府労委平成27年10月23日・労判1130号93頁)

【事案の概要】

本件は、確定判決に基づく債権差押命令の申立てを理由に組合員1名を懲戒解雇したことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 懲戒解雇通知書には解雇理由として、①C組合員が自らの計算違いを差し置いて、②連絡なきまま突然に、③債権差押命令を申し立て、④その結果Y社の経済的信用を毀損し、Y社に損害を与えたことが上げられているところ、・・・当該債権差押命令申立ては、申立てまでに十分に折衝を重ねた上での正当な権利行使であるうえ、これにより、Y社の経済的信用を毀損し、Y社に損害を与えたと認めるに足る疎明はない

2 懲戒解雇に至る手続についてみるも、懲戒解雇通知書で解雇理由として記載されている、C組合員が自らの計算違いを差し置いて連絡なきまま突然に債権差押命令を申し立てたことが事実に反することは、C組合員ないし労組に確認すればすぐに判明するところ、Y社がこのような確認を行ったとの疎明はない。したがって、Y社が制裁の中から懲戒解雇を選択したことについても合理性はない

3 以上のことからすると、Y社が、C組合員を懲戒解雇したことには合理性がなく、同人が組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たる。

使用者があえて懲戒解雇を選択する以上、相応の理由が必要であり、手続を経る必要です。

感情にまかせて、安易に懲戒解雇をすることは避けましょう。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

不当労働行為141 法人格否認の法理により新設会社で組合員を採用しなかったことが不当労働行為にあたるとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、運送事業を廃止して同事業に従事していた組合員を解雇したこと、新設の運輸会社に採用しなかったことが不当労働行為にあたるとされた事例を見てみましょう。

光洋商事ほか1社事件(長崎県労委平成27年12月7日・労判1130号92頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が運送事業を廃止して同事業に従事していた組合員Xらを解雇したこと、Xらを新設のZ社に採用しなかったことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる。

【命令のポイント】

1 Y社はA社長の主導によって設立されたものであり、Z社はY社の商号をB弁護士の指摘によって変更されたものであるから、Z社はA社長の主導によって設立されたものと認められる。
そして、Y社の運送事業を引き継ぐこと以外に何らかの異なる事業を営むことを目的としていたとは認められないし、実際にY社の運送事業を超えて事業を営んだ事実もない。
したがって、Z社は、Y社の運送事業部門を引き継ぐものとして設立されたと認めるのが相当である。

2 Z社設立の経緯、車両、不動産や備品、取引先、従業員、及び業務の実態などを総合すると、Z社は、法人格としては独立しているものの、それは形式に過ぎず、実質的にはY社の一部門として長崎本社営業所の運送事業を行っていると判断するのが相当である。

3 以上のとおりであるから、Y社及びZ社は実質的に同一であると認められ、そして、本件解雇及び本件不採用は、組合員4人を両社から排除することを意図して行われた不利益取扱いであり、労組法7条1号に該当する不当労働行為と判断するのが相当である。

法人格否認の法理が適用された事例です。

訴訟ではなかなか認めてくれない法理ですが、本件では労働委員会が認めてくれました。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。