おはようございます。
今日は、外資系企業に中途採用された従業員への職務遂行能力不足を理由とした解雇の有効性を否定した事案を見ていきましょう。
PAGインベストメント・マネジメント事件(東京地裁令和5年10月27日・労経速2555号21頁)
【事案の概要】
本件は、世界中の機関投資家から預託された資産を基に投資運用を行う会社の日本法人であるY社に勤務していたXが、(1)業績評価が不良であることなどを理由に令和3年6月30日付けで解雇されたことについて、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、無効であると主張して、Y社に対し、①労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、②同年7月分の未払賃金15万9356円+遅延損害金、③同年8月分から本判決確定の日まで毎月25日限り月額82万1000円の割合による金員+遅延損害金の各支払を求めるとともに、(2)Xの上司がXに対する退職勧奨に関する情報等が記載されたメールを、当該情報を知らない同僚らを宛先に含めて送信したことにより、Xの社会的評価が低下し、精神的苦痛を被ったなどと主張して、使用者責任による損害賠償請求権(民法709条、715条)に基づき、慰謝料100万円+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
1 解雇無効→バックペイ
2 Y社はXに対し、15万9356円+遅延損害金を支払え
3 Xのその余の請求を棄却する
【判例のポイント】
1 Xが所属する部署は、投資家やY社の経営陣向けにPAGが運用するファンドに関する各種データを提供する部署であって、令和3年7月当時、同部署のメンバーはXを含めて6名と少数であったこと、Xは年俸900万円という相当程度の労働条件で中途採用され、その職務内容としては投資家向けの四半期レポートの作成等とされていたことが認められる。そして、これらの事情に加え、世界有数の投資運用会社であるPAGの日本法人であるY社が投資家の信頼するファンドに関する最新の情報を迅速かつ正確に提供することが重要であることからすれば、Xが同部署で2番目に低いアソシエイトの職位であることを考慮しても、本件労働契約上、課せられた期限内に、担当分野についての正確な内容の資料を作成する能力が相当程度高い水準で求められていたというべきである。
2 Xは、正確性及び迅速性に関する職務遂行能力に問題があり、その業績評価は不良であったものの、本件解雇当時においては、「会社の人的資源を開発する絶え間ない努力、十分な個人指導、カウンセリング、及び警告を与えてもなお」、是正し難い程度であったとまでは直ちに認められず、Xにつき、解雇事由に該当する事実は認められない。したがって、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから(労働契約法16条)、無効である。
能力不足を理由とする解雇については、その判断基準が曖昧なため、使用者側は、訴訟での立証に工夫が必要です。
多くの裁判例で、上記判例のポイント2のような判断がされていることを留意する必要があります。
日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。