おはようございます。
さて、今日は、マスコミに対する内部告発と懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。
学校法人田中千代学園事件(東京地裁平成23年1月28日・労判1029号59頁)
【事案の概要】
Y社は、服飾の専門学校および短期大学を開設する学校法人である。
Xは、Y社の総務部総務課長であるが、Xは、週刊Pの記者に対し、内部告発をした結果、本件内部告発を掲載した週刊誌が発刊された。
これを受け、Y社は、Xを懲戒解雇した。
【裁判所の判断】
懲戒解雇は有効
【判例のポイント】
1 本件のような内部告発事案においては、①内部告発事実(根幹的部分)が真実ないしはXが真実と信ずるにつき相当の理由があるか否か、②その目的が公益性を有しているか否か、③労働者が企業内で不正行為の是正に努力したものの改善されないなど手段・態様が目的達成のために必要かつ相当なものであるか否かなどを総合考慮して、当該内部告発が正当と認められる場合には、仮にその告発事実が誠実義務等を定めた就業規則の規定に違反する場合であっても、その違法性は阻却され、これを理由とする懲戒解雇は「客観的に合理的な理由」を欠くことになると解するのが相当である。
2 内部告発一般の位置付けからみて、その目的の公益性が認められることが大原則とされるべきである。そうすると内部告発の目的として公益的要素とそれ以外の要素が併存する場合には、その主たる目的が公益的要素にあることが必要であると解するのが相当である。
3 Xは、専ら自らの身分すなわち本件雇用契約上の地位を保全する意図の下、Gらが行っている文科省OB役員の退陣運動に賛同し、これに乗じて、偶さか知り合いになった週刊Pの記者に対して、本件内部告発を行うに至ったものと認めるのが相当である。・・・結局、本件内部告発に上記目的の公益性は認められないものというべきである。
4 労働者は雇用契約上使用者に対して上記誠実義務を負っているのであるから、まず企業内部において当該不正行為の是正に向け努力すべきであって、これをしないまま内部告発を行うことは、企業経営に打撃を与える行為として上記誠実義務違反の評価は免れない。
5 本件内部告発先の週刊Pの記者は、本件内部告発事実についてXから実名報道の了解を得ただけで、Y社に対する反対取材を全く行わないまま本件週刊誌を発刊しており、このような報道姿勢は極めて誤報を生む危険性の高いものである。そうだとすると以上のような取材手法に基づき本件各記事を本件週刊誌上に執筆した上記週刊Pの記者ないしは同誌の公刊元は、少なくとも本件に関する限り、公通保護法所定の外部通報先には当たらない。
よって、本件懲戒解雇に公通保護法3条の適用があるとするXの上記主張は失当ないし理由がなく、採用することはできない。
規範部分が明確に示されているため、参考になります。
内部告発、公益通報に関する問題は、顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。