労働災害98 脳梗塞発症に基づく会社の損害賠償責任(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、脳梗塞発症に基づく会社に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

フルカワ事件(福岡地裁平成30年11月30日・労判ジャーナル86号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社及びその代表取締役であるAに対し、Xが脳梗塞を発症し、後遺障害が残ったのは、Y社におけるXの業務に起因するなどと主張して、Y社に対しては民法415条に基づき、Aに対しては会社法429条1項に基づき、損害賠償金の一部として約1億円等の連帯支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求の一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、本件疾病の発症前6か月間に、月平均174時間50分の時間外労働を行っており、恒常的に長時間労働に従事していたといえるうえ、本件疾病の発症前1か月間にも、150時間15分の時間外労働を行っているところ、医学的に、特に、発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間から6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合には、業務と発症の関連性が強いと評価できるとされていることが認められるから、本件疾病発症前6か月間におけるXの労働時間は、本件疾病の発症と強い関連性を有する程度の著しい長時間労働であったといえ、また、本件店舗の店長であったXは、自己及び本件店舗の目標を達成するために、相応の精神的緊張を伴う業務に従事していたというべきであるから、この点でも、Xの業務は、長時間労働とあいまって本件疾病の発症の要因となり得るものであったといえること等から、Xの本件疾病は、Xの動脈硬化が、過重な業務に伴う負荷によりその自然経過を超えて悪化したことによって発症したものとみるのが相当であり、Y社におけるXの業務と本件疾病の発症との間には、相当因果関係が認められる

2 Xの本件疾病の発症は、Xの基礎疾患(高血圧及び高脂血症並びにこれらに起因する動脈硬化)が、Y社における過重な業務に伴う負荷によりその自然経過を超えて悪化したことによるものであり、高血圧及び高脂血症は本件疾病の主因とされており、特に高血圧は最大の危険因子とされていること、しばしば喫煙者にみられる多血症も本件疾病の危険因子とされていることによれば、Xの上記基礎疾患については、肥満も寄与していると考えられることからすると、Xの基礎疾患の存在が本件疾病の発症の重要な原因の一つであったといえるから、Y社にXの損害の全部を賠償させることは公平を失するというべきであるが、他方で、本件疾病発症当時におけるXの動脈硬化の自然経過による増悪の程度は明らかではないことに加え、Y社におけるXの業務の過重性の程度や、Xの業務に対するAの関与の内容及び程度をも考慮すると、Y社及びAの賠償すべき損害の額を定めるに当たり、2割を減額する限度で本件既往症の存在をしんしゃくするのが相当である。

これからますます労働人口が減っていく一方で、仕事の量は減らない以上、労働時間の規制をしたところで、このような事件がなくなることはありません。

世の中から「納期」という概念がなくならない限りは、長時間労働を永遠になくならないのではないでしょうか。