解雇297 復職の可否の判断における主治医の診断書の信用性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、パワハラの存否と休職期間満了自然退職扱いの有効性等に関する裁判例を見てみましょう。

コンチネンタル・オートモーティブ事件(東京高裁平成29年11月15日・労判1196号63頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、①XがY社から長時間残業による過重労働を強いられたこと、上司から名誉毀損又は侮辱を受けたり、恫喝して責められたりするなどのパワーハラスメントを受けたことなどによって適応障害を発症した旨を主張して、民法709条又は同法715条1項に基づき、121万円(慰謝料110万円と弁護士費用11万円の合計額)+遅延損害金の支払を求め、また、②平成24年4月分から同年7月分までの未払残業代として70万8643円+遅延損害金の支払を求め、さらに、③Y社が休職期間満了によりXを自然退職としたのは無効である旨を主張して、Y社に対する労働契約上の地位の確認並びに平成26年11月から本判決確定に至るまで、賃金として毎月25日限り月額36万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、Xの上記①及び同③に係る各請求をいずれも棄却し、上記②に係る請求のうち、Y社に対して、4万0184円+遅延損害金の限度で認容し、その余の請求をいずれも棄却したところ、これを不服とするXが本件控訴を提起し、Y社が本件附帯控訴を提起した。

【裁判所の判断】

本件控訴を棄却する。
本件附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
Y社は、Xに対し、2万6160円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、休職期間満了による自然退職が、労働者の地位を脅かすものであり、Xが復職可能な寛解状態にある旨の診断書が存在する以上、Y社は、それを否定する積極的で客観的な立証をすべきであるにもかかわらず、それがないのであるから、Xの復職は認められるべきである旨を主張する。
しかしながら、復職の要件である「休職事由が消滅したこと」、すなわち、Xの負傷疾病が寛解し、XがY社において従前どおりの業務遂行をすることができる身体状態に復したこと(就業規則49条1項、47条1項1号)については、Xが主張立証しなければならない事項であるところ、前記のとおり、平成26年10月29日の時点において、XがY社における就労が可能な身体状態を回復したと認めるに足りる証拠はないのであるから、Y社が、Xの休職事由が消滅しておらず、Xの復職は困難であると判断したことは、やむを得ないものといわざるを得ない。
そうすると、Xの上記主張は理由がなく、その余の主張するところも理由がなく、いずれも採用することができない。

2(一審判断)産業医であるI医師も、患者の強い意向により復職可能とする診断書を書く場合がある旨述べており、主治医であるJも、本件診断1から本件診断2への診断の転換について、Xが解雇を通告されて復職の希望を示したことを理由に挙げていることからすれば、本件診断1から本件診断2への転換は、Y社を退職となることを避けたいというXの意向が強く影響しているといえる
また、Jは、本件診断2の当時、医師としては通常勤務ではなく制限勤務とすべきと考えていた旨述べること、Xが抗うつ剤や比較的強い睡眠導入剤の処方を受けていたこと、Xの通院の頻度も通常の患者よりも高いものであったことなどに照らせば、Xの病状が、同月31日まで自宅療養を要するとされた本件診断1の状態から軽快しておらず、本件診断2において通常勤務可能とされた理由は、もっぱらY社を退職となることを避けたいというXの希望にあったというべきである。
以上によれば、休職開始から1年の期間が満了する平成26年10月29日の時点において、Xの体調は、上記就労不可とする本件診断1のとおり就労に耐え得るものではなく、上記時点において復職を不可としたY社の判断は正当というべきであるから、休職期間の満了により、Xを退職扱いにしたことは有効であり、Xの主張は採用できない。

上記判例のポイント2は非常に重要な視点です。

休職期間満了時に起こりうる典型的な問題ですので、どのように対応すべきかを予め知っておきましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。