セクハラ・パワハラ47 パワハラによる精神疾患発症と解雇制限の適用の判断方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、上司の暴行等に基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

共立メンテナンス事件(東京地裁平成30年7月30日・労判ジャーナル81号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していた元従業員Xが、適応障害に罹患し、その後休職となり、休職期間満了により自動退職とされたところ、Xが、同適応障害は、上司等から継続的にパワーハラスメントを受け、かつ、上司からも勤務中に暴行を加えられたことによるものであり、業務上の傷病であるから労基法19条1項により同自動退職は無効であると主張して労働契約上の地位確認を求めるとともに、上司の上記暴行につき、上司、Y社に対して、連帯して200万円の損害賠償等の支払、さらに、前記の上司等による継続的なパワハラに加えて、Y社から一方的に年俸額を減額され、休職後には、Y社がXの標準報酬月額を不当に減額して届け出たことが原因で健康保険組合から受領する傷病手当金を不当に減額されたなどと主張して、Y社に対し、民法709条に基づき562万円の損害賠償等の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

上司の暴行に基づく損害賠償請求は一部認容(20万円)

その余は請求棄却

【判例のポイント】

1 Xの頭部打撲、頸椎捻挫の程度は、経過観察7日間を要する程度に止まっている上、上司の行為態様としても、その暴行態様が強度なものであったとまでは言い難いことや、上司の暴行行為としては、本件事件時の1日のみに止まっていることからすると、かかる上司の暴行が、客観的にみて、それ単体で精神障害を発病するほどの強度の心理的負荷をもたらす程度のものと認めることには、躊躇を覚えざるを得ず、そして、Xが、東京臨海病院のみならず本件事件当日に受診した木場病院でも、医師に対し錯乱状態や不眠症といった症状を訴えていることからすると、Xに発病した適応障害が業務上の傷病に当たると認めることはできず、本件自動退職が労基法19条1項により効力を生じないとするXの主張は、その前提を欠くものであるから、Xは、休職期間満了によりY社を退職したと認められる。

2 Y社がXについての標準報酬月額の変更要件に関する解釈を誤ってその変更の届出を行った結果、Xの傷病手当金の支給額の減額がされたと認められるが、その後、Xからの健康保険被保険者資格確認請求手続を経て、Xの標準報酬月額は是正され、傷病手当金の追加支給がされて、その経済的損失は回復されているもので、Y社が故意に事実に反する内容の届出をしたものではないことに鑑みると、この点に関して、Xに慰謝料請求を認めるべき精神的損害が発生したと認めることはできないというべきである。

上記判例のポイント1のように、労基法19条1項の適用を巡って、精神疾患とその原因行為との間に相当因果関係が認められるかどうかが争われることがあります。

医療記録等をしっかり確認をしながら判断をする必要があります。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。