解雇285 解雇の有効性と社宅の賃料請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、単身赴任手当の不正受給等を理由とした懲戒解雇処分につき有効性を認めた裁判例を見てみましょう。

KDDI事件(東京地裁平成30年5月30日・労経速2360号3頁)

【事案の概要】

本件本訴は、Y社と期間の定めのない雇用契約を締結し、Y社の借上社宅に居住していたXが、平成27年11月18日に単身赴任手当等の不正受給や社宅使用料等の支払を不正に免れたこと等を理由として懲戒解雇され、Y社の退職金不支給規定に基づき退職金の支払を受けられなかったことについて、①主位的には、本件懲戒解雇は、Y社が指摘する各懲戒事由が存在せず、また、相当性も認められないことから懲戒権を濫用したものとして無効であると主張して、Y社に対し、本件雇用契約に基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件懲戒解雇後、本判決確定の日までの賃金の支払を求め、②予備的には、仮に本件懲戒解雇が有効であるとしても、Y社が指摘する退職金不支給事由はXのそれまでの勤続の功を抹消又は減殺するほどの著しい背任行為であるとはいえず、Xに本件不支給規定を適用することは許されないと主張して、Y社の退職金規程上の退職金支払請求権に基づき、退職金の支払を求める事案である。

本件反訴は、Y社が、Xは単身赴任手当等の各種手当を不正に受給したほか、入居資格を有していないにもかかわらずY社の借上社宅に居住し続けるなどし、本来Xが負担すべき債務をY社に負担させて同債務の支払を免れたなどと主張して、Xに対し、不当利得に基づき、Xの利得額及びこれに対する各利得日の翌日から支払済みまで年5分の割合による法定利息の返還を求めるとともに、Y社の社宅規程上の社宅返還義務に基づき、上記社宅の明渡しと同義務が生じた後の日である平成28年4月1日から明渡し済みまでの賃料相当損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、126万0246円+遅延損害金を支払え。

Xは、Y社に対し、537万4904円+遅延損害金を支払え。

Xは、Y社に対し、平成28年4月1日から平成29年3月29日まで、毎月末日限り、月額8万6000円の割合による金員+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の就業規則上の懲戒解雇事由に該当する各行為を行ったものであるところ、その具体的な内容をみても、3年以上の期間において、Y社に対し、本来行うべき申請を行わなかったというにとどまらず、積極的に虚偽の事実を申告して各種手当を不正に受給したり、本来支払うべき債務の支払を不正に免れたりするなど、XとY社が雇用関係を継続する前提となる信頼関係を回復困難な程に毀損する背信行為を複数回にわたり行い、Y社に400万円を超える損害を生じさせたものである。
これらの事情に加え、前記のとおり、Xは、その後、Y社から弁明の機会を付与された際にも、前記のXの主張とほぼ同様の主張を行うにとどまり、本件懲戒解雇がされるまで、Y社に対して明確な謝罪や被害弁償を行うこともなかったことや、前記のとおりの本件懲戒解雇に至る経緯に照らして、同解雇の効力に疑義を生じさせるような手続上の瑕疵も認められないことからすると、Xが30年以上にわたりY社に勤務していたこと(なお、本件各証拠によっても、Xに顕著な功績があったとまでは認められない一方で、Xは、その経緯には争いがあるものの、前件懲戒処分の理由となった各行為も行っていたものである。)といったXが指摘する諸事情を考慮しても、本件懲戒解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものということはできない。

2 Xは、3年以上の期間において、XとY社が雇用関係が継続していく前提となる信頼関係を回復困難な程に毀損する背信行為を複数回にわたり行い、Y社に400万円を超える損害を生じさせるなどしてものであって、Xの同各行為は、上記のとおり将来にわたるXとY社の信頼関係を回復困難な程に毀損するのみならず、それまでのXの長年の勤続の功のうち、KDDにおける長年の勤続の功についても、相当大きく減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為に当たるといわざるを得ないものの、Xの上記各行為の時期、期間及び内容に照らして、その功を完全に抹消したり、その殆どを減殺したりするものとまではいえず、②一時金(加算金)315万0615縁については、本件不支給規定の適用も、その6割である189万0369円を不支給とする限度でのみ合理性を有すると解するのが相当である。

結果としては、本訴原告が本訴被告に支払うべき金額のほうがはるかに大きくなりました。

それはさておき、本裁判例からわかるとおり、懲戒解雇の有効性と退職金不支給は当然には連動しません。

とはいえ、この点を事前に把握することは現実的には極めて困難です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。