賃金156 看護師の修学費用返還請求と労基法16条の適用の当否(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、修学費用返還請求が認められなかった事案を見てみましょう。

医療法人K会事件(広島高裁平成29年9月6日・労経速2342号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、Y社の元職員であるXに対し、X2を連帯保証人として看護学校修学資金等を貸し付けた(このうち、平成17年4月4日から平成19年3月1日までの合計146万2793円の貸付を「本件貸付①」と、同年4月26日から平成22年3月27日までの合計108万円の貸付を「本件貸付②」といい、本件貸付①と本件貸付②とを併せて「本件貸付」という。)として、Xらに対し、本件貸付の残元金合計253万7793円+遅延損害金の連帯支払を請求している事案である。

原判決は、本件貸付①はY社により免除されており、免除の意思表示に錯誤は認められない、本件貸付②は労働基準法16条の法意に反し無効であると判断して、Y社の請求をいずれも棄却した。

Y社は、これを不服として、本件控訴を提起した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 労働基準法16条にいう「労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約」は、文理上、労働契約そのものに限定されていないし、労働者が人たるに値する生活を営むための必要最低限の基準を定め(同法1条参照)、基準に適合した労働条件を確保しようとする労働基準法の趣旨に照らせば、同条が適用される契約を限定する理由はないから、同条は本件貸付にも適用されるものと解される。
したがって、貸付の趣旨や実質、本件貸付規定の内容等本件貸付に係る諸般の事情に照らし、貸付金の返還義務が実質的にX1の退職の自由を不当に制限するものとして、労働契約の不履行に対する損害賠償額の予定であると評価できる場合には、本件貸付は、同法16条に反するものとすべきである

2 そして、本件貸付が実質として労働契約の不履行に対する損害賠償額の予定を不可分の要素として含むと認められる場合は、本件貸付は、形式はともあれ、その実質は労働契約の一部を構成するものとなるから、労働基準法13条が適用されるというべきであり、本件貸付が同法16条に反する場合に無効となるのは、同条に反する部分に限られ、かつ、本件貸付は同条に適合する内容に置き換えて補充されることになる。
なお、労働基準法14条は、契約期間中の労働者の退職の自由が認められない有期労働契約について、その契約期間を3年(特定の一部の職種については5年)と定め、労働者の退職の自由を上記期間を超えて制限することを許容しない趣旨であるから、上記の「退職の自由を不当に制限する」か否かの判断においては、事実上の制限となる期間が3年(特定の一部の職種については5年)を超えるか否かを基準として重視すべきである。

同様の取扱いをしている病院は多数存在すると思いますので、運用については十分気をつけてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。