有期労働契約75 22年間更新のアルバイト従業員に対する雇止めの適法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、22年間反復継続してきたアルバイトに対する雇止めの適法性が争われた事例を見てみましょう。

ジャパンレンタカー事件(名古屋高裁平成29年5月18日・労判1160号5頁)

【事案の概要】

Xは、平成4年4月1日までにY社と期限の定めのある労働契約を締結して、アルバイト従業員として稼働し始め、同月から平成20年頃までは6か月に1回,同年以後は2か月ごとに雇用契約書の更新がなされ、最終の労働期間は、平成26年12月20日までとなっていた。

本件は、Xが、Y社とX間の労働契約は、労働契約法19条1号又は2号に該当し、労働期間が満了する日までに有期労働契約の更新の申込みをし、また、Y社の雇止めは合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから、労働契約法19条により従前の労働契約の内容である労働条件と同一の条件で契約更新の申込みをY社は承諾したものとみなされると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、賃金請求権に基づき、平成26年12月から毎月末日限り月額23万9514円の割合による賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、Y社は、Xが健康保険、厚生年金及び雇用保険の資格を取得したこと等を届け出て、かつ、雇用継続中、健康保険料、厚生年金保険料及び労働保険料を納付すべき義務があったのにこれを怠ったと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、361万6626円+遅延損害金の支払を求め、さらに、平成25年4月21日から平成26年10月18日までの間の未払割増賃金が合計291万3819円+遅延損害金が合計12万3933円であると主張して、Y社に対し、上記元本及び遅延損害金合計303万7752円等の支払を求めるとともに、付加金291万3819円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、XとY社間の有期労働契約は、期間の定めのない労働契約とほぼ同視できるものであり、Y社の更新拒絶は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、Y社は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件でXの更新の申込みを承諾したものとみなされるとして、Xの地位確認請求を認容するとともに、Y社の賃金請求も全部認容し、Xの不法行為に基づく損害賠償請求については、136万4822円+遅延損害金の支払を求める限度で認容し、Xの割増賃金請求については、289万3471円+遅延損害金の支払を求める限度で、Xの付加金請求については、277万5699円+遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ認容した。

そこで、Y社が控訴をするとともに、Xが不法行為に基づく損害賠償請求を棄却された部分について附帯控訴をするとともに、損害額の拡張及び追加をした。

【裁判所の判断】

 本件控訴について
(1)原判決主文3項中、次の(2)に係る部分を超える部分を取り消す。
(2)Y社は、Xに対し、33万4827円+遅延損害金を支払え。
(3)上記(1)の取消部分に係るXの請求を棄却する。
(4)Y社のその余の本件控訴を棄却する。

 本件附帯控訴について
(1)Y社は、Xに対し、6万5308円+遅延損害金を支払え。
(2)本件附帯控訴に基づくその余の当審拡張請求を棄却する。
(3)Xのその余の本件附帯控訴を棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、当審において、一定程度の年金が受給できる蓋然性が十分あるから、民事訴訟法248条を適用するなどして蓋然性が認められる範囲で損害を算定すべきである旨主張する。
しかし、年金受給年数や支給率等が将来変動する可能性があるし、Xが年金受給年齢に達するか、達したとして何年間受給できるかも不明であるし、本件の事案について民事訴訟法248条を適用するのが相当であるともいえない。Xの主張は、採用することができない。

2 Xは、当審において、不満を抱えながら明示的に抗議できなかったことは精神的苦痛の根拠となるのであって、これを否定することはできないから、慰謝料請求は認められるべきであるとして縷々主張する。
しかし、Xが国民健康保険料や国民年金保険料を支払ったことについては、財産的損害が填補されれば特段の事情がない限り慰謝料の支払いまで命じる理由はないところ、Xが縷々主張する事情は、いずれも慰謝料の支払を命じるに足りる特段の事情に該当するということはできない。Xの主張は、採用することができない。

3 ①Y社の健康保険の届出・納付義務違反によりXが被った損害は124万4822円、②Y社の厚生年金保険の届出・納付義務違反によりXが被った損害は91万5650円と認められる。
そして、前記のとおり、Xは、Y社との労働契約締結当初から健康保険及び厚生年金への加入がないことを認識していたと認められる。
この点、Xは、疑問を抱いてはいたものの、的確な知識もなかったので、不法行為であると認識できていなかったから、加害者に対する損害賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度に損害及び加害者を知っていたとはいえない旨主張する。
しかし、Y社がXに関し健康保険及び厚生年金保険の届出・納付義務を負うか否かについては、公的機関に問い合わせるなどして確認することは容易であることからすると、Xの主張は、採用することができない

本件におけるメインの争点である雇止めの適法性については、一審の違法無効という判断が維持されています。

それにしても22年間、更新を繰り返すというのはすごいですね。もはや完全に「形だけ」有期雇用の状態だったと考えるのが自然です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。