セクハラ・パワハラ31 指導とパワハラの境界線は?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、上司によるパワハラの存否と賃金仮払いの可否等に関する裁判例を見てみましょう。

バイエル薬品(仮処分)事件(宮崎地裁平成28年8月18日・労判1154号89頁)

【事案の概要

本件は、Y社の従業員であるXが、平成27年4月1日以降、上司のパワーハラスメント等を原因とした心身の不調により出社困難になったとして出社しなかったところ、Y社は、同年9月分までの給与を支払ったものの、その後、退職を促すのみで給与の支払を行わないなどと主張して、Y社に対し、主位的に、雇用契約に基づき、平成28年2月分以降本案判決確定に至るまで、毎月末日限り55万8883円の賃金の仮払を求め、予備的に、労働基準法26条に基づき毎月33万5330円(賃金の6割)の休業手当の仮払を求める事案である。

【裁判所の判断】

申立て却下

【判例のポイント】

1 ・・・しかし、同陳述書によれば、B所長は、①会議の際、XがB所長の話に集中していない様子であったことから注意指導を行った、②取引先建物内において、Xが担当先について十分把握していなかったことから今後の営業活動に関する指示を行ったというのであり、部下であるXに対する注意指導、指示として合理的理由に基づくもので、その態様も一般的に妥当な方法と程度にとどまるものであるといわざるを得ない。
・・・以上によれば、本件において、Y社の「責めに帰すべき事由」(民法536条2項)、又は「責に帰すべき事由」(労働基準法26条)によりXが出社できなくなったということはできない。

2 なお、Xは、労働基準法26条の「責に帰すべき事由」は、民法536条2項の場合よりも広く解される旨判示した最高裁判所昭和62年7月17日判決(ノースウェスト航空事件)を指摘するも、本件は、同最判とは事案を大きく異にする上、そもそも本件においては、上記のとおり、B所長によるハラスメント行為自体の疎明を欠くといわざるを得ない以上、同最判の判示について特別の検討が必要であるとはいえない

パワハラと指導との区別については、評価の問題ですので、いつまでたっても争いはなくなりません。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。