解雇95(コアズ事件)

おはようございます。

さて、今日は、営業開発部長の降給・降格処分と解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

コアズ事件(東京地裁平成24年7月17日・労判1057号38頁)

【事案の概要】

Y社は、警備業務等を業とする会社である。

Xは、平成20年2月頃、Y社に採用された後、営業開発部長として就労してきたが、降給処分を受け、営業開発部長から降格された後、解雇された。

Xは、上記降給、降格の各処分および解雇がいずれも無効であると主張して、Y社を相手として提訴した。

なお、Xは、本件訴訟係属中に、破産手続開始の申立をしたため、途中から破産管財人が訴訟手続を受継した。

【裁判所の判断】

給与の減額は無効

第一営業部長から「独任官」と称する地位への降格は無効

解雇は無効

【判例のポイント】

1 賃金が、労働者にとって最も重要な権利ないし労働条件の1つであることからすれば、上記給与規程の定めが存するとはいえ、その変更を、使用者の自由裁量で行うことが許容されていると解することはできず、そのような賃金の減額が許容されるのは、労働者側に生じる不利益を正当化するだけの合理的な事情が必要であり、そのような事情が認められない以上、同賃金減額は無効になると解するのが相当である。そして、そのような賃金減額の合理性の判断に当たっては、減額によって労働者が被る不利益の程度、労働者の勤務状況等その帰責性の有無及び程度、人事評価が適切になされているかという点など、その他両当事者の折衝の事情を総合考慮して判断されるべきであると解される。

2 ・・・以上を総合するに、まず、本件給与減額1については、その減額幅は30万円を超えるもので著しく大きく、これによりXの受ける不利益には甚大なものがあるといわざるを得ない。他方、Xの帰責性という点に関し、Y社主張にかかる10名の営業部長の採用という業務については、それが実現されなかった場合に給与減額等につながることが合意されていたとはいえない上、実質的にも、Y社において、給与減額の理由とすることは明らかに不合理である。また、Xの勤務状況、勤務態度等についてみても、Y社主張の客観性が担保されているとはいえない状況であるのみならず、恣意的な人事が行われている状況も窺われることからすれば、いずれも、かような多額の給与減額の根拠とはなり得ないものである。
なお、Y社は、Xが本件給与減額1の後、約1年以上も明確な異議を申し立てていないことを挙げて、同Xが同給与減額に同意していた旨主張する。仮に、かようなXの態度をもって同意と評価することができるにしても、同給与減額が大幅な減額である以上、それなりの合理的な事情に基づくのでなければ、真意に基づく同意があるとは推認し難いところ、前記のとおり、そのような合理的な事情は認められないのであるから、これを真意に基づく同意であると認めることはできない
これらの事情によれば、本件給与減額1は無効と認めるのが相当である。

3 職位の引下げとしての降格については、使用者は、人事権の行使として、広範な裁量権を有するが、その人事権行使も、裁量権の逸脱、濫用に当たる場合には無効になると解される。
これを本件についてみるに、Xは、平成22年4月に、D本部長が「独任官」と称する部下のいない地位に降格されているが、Y社が特命事項と称する10名の営業部長の採用を実現できなかったことが降格の理由となり得ないことは明らかであるし、Xの勤務状況は、Y社が主張するほどに劣悪であったとは認められず、降格に値するような確たる非違行為があったわけでもないこと、Y社において恣意的な人事が行われている実態が窺われることなどに照らすと、Xに対する本件降格処分については裁量権の濫用があるというべきであって、これを無効と認めるのが相当である

4 以上にみたとおり、Xの本件特命事項の不履行、同Xの勤務成績、勤務状況の低劣さといった主張により、降給処分及び降格処分の有効性を基礎付けることはできないことからすれば、いわんやそれよりも重い処分である解雇の有効性を基礎付けることはできないのは明らかである。したがって、本件解雇は無効である。

給与減額については、それを使用者の裁量で行うことができる規定があったとしても、相当な合理性がなければ認められません。

また、この裁判例は、Y社において恣意的な人事が行われている実態が窺われることを間接事実として評価しています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。