不当労働行為61(東洋エージェント事件)

おはようございます。 

さて、今日は、誠実交渉義務に関する命令を見てみましょう。

東洋エージェント事件(中労委平成24年9月5日・労判1057号173頁)

【事案の概要】

Y社は、従業員約300名をもって、道路交通法に基づく放置車両の確認および標章の取り付けに関する事務等を行っている会社である。

平成22年3月、組合はY社に対して、組合事務所の貸与、組合掲示板の設置、基本日給の引き上げ等8項目を要求して団交を申し入れた。

これに対して、Y社は、十分な対応をしなかったため、組合は、救済申立てを行った。

初審は、Y社に対して、誠意をもって団交に応じることと、文書手交を命じた。

Y社はこれを不服として、中労委に再審査を申し立てた。

【労働委員会の判断】

Y社が団交において誠実に対応しなかったことは不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 Y社は、組合事務所の貸与及び組合掲示板の設置に応じられない理由として、組合事務所の貸与及び組合掲示板の設置が労組法7条3号に抵触するものであって、利益供与に当たるという考えに固執し、一貫して組合事務所の貸与及び組合掲示板の設置を検討する姿勢をみせなかったものといえる。
しかしながら、最小限の広さの組合事務所の貸与が、労組法7条3号で規定する利益供与に当たらないことは同号ただし書から明らかである。また、会社の監視事業部長名の文書において同条3号を示していることからすれば、Y社は同号ただし書についても了知していたものと認められる
・・・以上のとおりであるから、組合の要求事項のうち、組合事務所の貸与及び組合掲示板の設置については、Y社は、これを設置・貸与することで生じる支障等を具体的に説明していないのであり、組合の要求に応じられないとする理由を十分に説明したとはいえず、かかるY社の対応は不誠実団交に当たる。

2 Y社が、賃金引上げができない根拠として、経費や収支の問題があることを示唆したことは認められるものの、経費や収支に関して、組合に対して一切説明していない
団交において使用者は、自らの主張の根拠を具体的に説明し、開示し得る客観的な資料を提示するなど、組合の理解を得るべく誠実に団交に応じる必要があるというべきであるところ、Y社が主張するような組合が求める資料開示による企業秘密の漏えいの懸念が、客観的にみて根拠を伴ったものであると認めるに足る証拠はない仮に当該懸念があり、確認事務の性質から経費の内訳が開示できないというのであれば、そのことについて組合の理解を得るべく、具体的に説明を行うべきであるのにもかかわらず、Y社は、経費にかかわるすべての情報が確認事務に関する守秘義務の範囲に入ることの根拠を十分に説明していない。
以上のことからすると、基本日給の引上げを議論するに当たり、Y社は、賃金体系について十分説明していない上に、正当な理由なく就業規則の提示を拒否しているのであるから、このようなY社の対応は不誠実団交に当たる。

最小限の広さの組合事務所の貸与については、不当労働行為(利益供与)にあたらないことは条文上明らかです。

使用者側がどこまでの説明をしなければならないのかは悩ましいところですが、上記命令のポイント2は、参考になるのではないでしょうか。

使用者側としてはなかなか理解しづらいかもしれませんが、法的な判断はこのような感じになります。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。