不当労働行為55(財団法人新国立劇場運営財団事件)

おはようございます。

さて、今日は、合唱団員の不合格措置と不当労働行為に関する裁判例を見てみましょう。

財団法人新国立劇場運営財団事件(東京高裁平成24年6月28日・労経速2152号3頁)

【事案の概要】

新国立劇場を運営しているY財団は、その開催するオペラ公演に出演する合唱団員として、Xとの間で、実演により歌唱技能を審査して選抜するための手続(試聴会)を経て、契約メンバーとしての出演基本契約を締結していた。

Y財団は、平成15年8月から平成16年7月までのシーズンの契約に関し、試聴会の審査により契約メンバーとしては不合格である旨をXに告知した。

これを受けて、Xが加入している音楽家等の個人加盟による職能別労働組合であるユニオンは、Xの上記シーズンの契約についての団体交渉の申入れをした。

しかし、Y財団がこれに応じなかった。

【裁判所の判断】

合唱団員の不合格措置は不当労働行為にはあたらない

団員の処遇に関する事項について財団には団交応諾義務がある

【判例のポイント】

1 ユニオンは、試聴会においては、審査の公平及び適正が担保されておらず、評価方法及び採点方法も恣意的であると主張する。
ところで、本件合唱団の契約メンバーとしての水準に達する歌唱力を有しているか、オペラ公演への出演に適するか否かを判断することは、専門的・技術的な性質を有する事柄であるばかりでなく、芸術的評価を伴うものであり、しかも、既に相当の技量を備える者の間で行われる評価であるから、第三者に客観的に認識し得る明確な基準を定立することは困難であるというほかない。そして、合否の最終的な判断は、審査員の芸術感や感性によっても影響を受けるのであるから、おのずと審査員の裁量に委ねられることにならざるを得ない。この点は、判断基準ばかりでなく、判断のための技能評価の方法についても同様であり、複数の審査員が関与する場合に、統一的な評価方法を用いるかどうかも、これに当たる専門家の判断によらざるを得ないのであって、評価方法や採点方法が決まっていないことのみをもって、試聴会の審査結果が不合理であるとするのは相当でない

2 Y財団は、本件不合格措置を撤回又は変更する義務はなく、ユニオンが専ら本件不合格措置の撤回や変更を求めて団体交渉を求めるのであれば、Y財団においてこれを拒否することに正当な理由があるが、ユニオンとY財団との間では、従前から、試聴会の在り方を含む契約メンバーの選抜について継続して話し合いが持たれているところ、契約メンバーは労働者であり、毎年試聴会を経て契約を締結してきているという実態がある以上、上記の問題は、労働者の処遇に関する事項に含まれるというべきであって、本件団交申入れは本件不合格措置を契機として行われたものであり、その対象がXの次期シーズンにおける契約とされているけれども、その契約締結の前提として選抜方法が問題となる以上、従前と同様に、協議内容が試聴会の在り方、審査の方法や判定方法等の本件合唱団員の処遇に及ぶことは両者にとって推測できるところであって、その結果が、次期シーズンに向けての出演基本契約の手続として本件合唱団の処遇に影響することになるから、この問題は、Y社にとっても義務的団交事項となるというべきであるので、Y社には団体交渉応諾義務があり、上記団体交渉事項が具体的でないとしてこれを拒否することには正当な理由はない

この事件は、一審は、労組法上の労働者に該当しないと、団交について不当労働行為性を肯定した部分を取り消し、不合格措置の不当労働行為性を否定した部分を正当としました。

二審も、一審判決を維持しました。

ところが、最高裁は、契約メンバーは、Y財団との関係において労働契約法上の労働者に当たると解するのが相当であるとし、これを前提として不当労働行為性の審査を尽くすべきとして、原審に差し戻しました。

本件裁判例は、この差戻審の判決です。

義務的団交事項か否かについての問題を事前に正確に判断するのはとても難しいことです。

微妙な場合には、団交に応じるべきであるというのが私の考えです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。