賃金50(日本機電事件)

おはようございます。

さて、今日は、退職した営業社員からの退職慰労金および割増賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本機電事件(大阪地裁平成24年3月9日・労判1051号70頁)

【事案の概要】

Y社は、建設現場仮設資材の製造、販売、リースを主たる業務としている会社である。

Xは平成7年にY社に入社し、Y社グラフィック事業部に配属され、その後は、Y社を退職する20年までの間、営業に従事してきた。

Xは、退職後、Y社に対して、退職慰労金、時間外労働割増賃金および付加金の請求をした。

【裁判所の判断】

退職慰労金規定の廃止は無効

退職慰労金の支払いを命じた

未払残業代約680万円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 本件退職慰労金規定4条には、「支給しない場合もある」旨規定されているところ、本件退職慰労金が、賃金の後払い的性質を有していることにかんがみると、当該従業員に懲戒解雇事由若しくはそれと同等の背信行為が存在したというような特段の事情が認められない限り、Y社が恣意的な理由に基づいて退職慰労金を支給しないということは許されないと解するのが相当である。他方、当該従業員としても、懲戒解雇事由若しくはそれと同等の背信行為をしたにもかかわらず、退職慰労金を請求することは信義則に反することになると解するのが相当である。

2 ・・・確かに、XがY社の競業他社に就職していることは、上記就業規則に反するものではある。しかし、(1)同条項は、1年間という制限はあるものの、一般的抽象的にY社の競業・競合会社(同概念も抽象的一般的であると評価できる。)への入社を禁止しており、Y社を退職した従業員に対して過大な制約を強いるものであるといわざるを得ないこと、(2)Y社においては、同制約に見合う代替措置(退職慰労金の支払等)が設けられていたとは認められないこと(ただし、Y社は、退職年金制度を廃止するに当たって、解約返戻金を支払っているが、同支払をもって、1年間の制約を正当化できるとは言い難い。)、(3)Y社がXの同競業行為によって個別具体的にいかなる損害(損害額等)を被ったか明確であるとはいえないこと、(4)取引先との信頼関係等種々の理由があったとはいえ(Y社代表者)、結果的に、Y社は、Xの同競業行為について、これを禁止する法的な手段(仮処分申立手続)を執らなかったこと、以上の点が認められ、これらの点からすると、Xの上記行為は、形式的には競業行為に該当し、就業規則49条に反するものとはいうものの、同行為をもって、退職慰労金を不支給とするに相応しい背信行為に該当するのは相当とはいえない

3 本件においては、タイムカード等Xの労働時間を直接証する資料が作成されておらず、Xの正確な退勤時刻を認定することは困難であるが、上記したXの業務内容、XのY社における売上実績、上記した時間外労働に関するY社の指導内容等にかんがみれば、Xは、少なくとも、営業活動後の残務整理等のために、午後8時までは業務に従事していたと推認するのが相当である

4 Y社は、Xを労基法上の管理監督者に該当するとして、他の従業員に比して高額な賃金(役職手当20万円を含む60万円)を支給していたこと、Y社は、Xに対し、幹部会議への出席などを要請し、Xは、同会議に出席するなど、形式的には幹部社員として待遇されていたこと、労基法上の管理監督者に該当するか否かは種々の事情を考慮した法的判断を要求されるものであること等諸般の事情を総合的に勘案すると、本件に関しては、Y社がXに対して時間外割増賃金を支払わなかったことをもって、付加金の支払義務を負わせることは相当とはいえない

いろいろと考えさせられる裁判例です。

やはり、どの裁判例を見ても、残業代の不支給を管理監督者該当性を根拠とするのは、もはや無理があると言わざるを得ません。

裁判所の基準では、まず管理監督者には該当しないということを、そろそろ会社は自覚すべきです。

本件では、付加金こそ課せられてはいませんが、管理監督者に該当するとして、月額60万円もの高額な賃金を支給していたため、算出される未払残業代がえらいことになってしまいます。

もう1つ。

退職金の不支給については、多くの裁判例が出ていますが、今回も金額こそ多額ではありませんが、競業行為を理由とする退職金の不支給は認められませんでした。

退職後の競業避止義務については、職業選択の自由との関係からも制限的に解釈されますので、ご注意ください。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。