おはようございます。
さて、今日は、社員に対する機密情報持出等を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。
ヒューマントラスト(懲戒解雇)事件(東京地裁平成24年3月13日・労判1050号48頁)
【事案の概要】
Y社は、労働者派遣事業等を目的とする会社である。
Xは、Y社のグループ会社の取締役兼従業員を務めていた。
C社は、労働者派遣事業等を目的とする会社である。
Y社は、Xを、派遣管理システムのC社への販売、C社のシステム構築への従事およびネットワーク関連機器の手配、会社機密情報の大量持ち出し、出社命令違反、Y社からC社への集団移籍を容易にし、Y社に重大な存在を与えたことなどを理由に懲戒解雇した。
【裁判所の判断】
懲戒解雇は有効
【判例のポイント】
1 Xは、本件事情聴取では懲戒解雇のための手続を行っている旨の教示をされていないのであるから、弁明の機会の付与と見るべきではないなどと主張するが、Xは本件造反に関する事情聴取であること、C社との関わり如何によっては懲戒解雇になる可能性もあることを度々伝えられているのであるから、本件懲戒解雇事由の(1)、(2)及び(5)については実質的な弁明の機会が与えられていたとみるべきであり、Xが弁明を行わなかった事実については、X自らが弁明の機会を放棄したのであるから、これを手続上の瑕疵として主張することは許されないというべきである。
2 懲戒解雇は、企業秩序維持違反行為に対する制裁として労働者を企業外に排除する処分であるから、懲戒当時使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情がない限り、当該懲戒の理由とされたものではないことが明らかというべきであり、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできない(山口観光事件・最高裁平成8年9月26日判決)。そして、使用者側が懲戒当時に存在を認識しながら懲戒理由として表示しなかった非違行為についても、それが、懲戒理由とされた他の非違行為と密接に関連した同種の非違行為であるなどの特段の事情がない限り、使用者側があえて懲戒理由から外したこと(当該懲戒の理由とされたものではないこと)が明らかであるから、使用者側が後にこれを懲戒事由として主張することはできないというべきである。
3 ・・・しかし、前記の一連の経緯にかんがみれば、Xは、C社がY社のSS業務を派遣スタッフごと引き抜く計画であることを承知しており、これを容易にするため積極的に援助していたことが強く推認される。本件造反がY社に与えた損害の大きさやその重大性にかんがみれば、本件システムの販売(利用許諾)への関与及び本件造反への加担が強く疑われる行為については、当然、懲戒解雇の相当性を判断するにあたって考慮される情状となる。
そして、前記認定事実のとおり、Xは、Y社に無断で、半年間にわたって、継続的に競業他社であるC社のシステム構築を支援していたのであり、Xが本件懲戒解雇の直前までグループ会社の取締役であったことも合わせ考えれば、その背信性は著しいといわねばならない。加えて、本件システムの導入及びシステム構築の支援により、Y社に多大な損害を与えた本件造反を容易にしたこと、Y社による調査になかなか協力しようとせず、警察に複数回通報して妨害していること等にかんがみれば、Xが転籍間もなく、他に懲戒歴などもないこと等の事情を斟酌しても、懲戒の手段として解雇を選択することもやむを得ないというべきである。
懲戒解雇が有効とされたケースです。
懲戒解雇に関する弁明の機会については、上記判例のポイント1が参考になります。
解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。